「一年ぶりの交差点」ID:6u86fEAO氏

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「みゆき、久しぶり!」 交差点で待っていたかがみは、大きく手を振りながら声を上げた。 横断歩道を渡るみゆきは上品に、肩の高さで手を振りかえす。 「お久しぶりです、かがみさん。つかささんもお元気そうですね」 「えへへー、元気だよ。ゆきちゃん変わってないね」 つかさはのんびりとした口調でみゆきを迎えた。 「いえ、つかささんもかがみさんも、お変わりないようですね」 「それってほめ言葉なのかしら?でも、一年もたつからね。みゆきが変わってないのを見るとホッとするわよ」 「ふふふ。一年はとても短く感じました」 交差点は歩道と横断歩道がある十字路だった。 その一角に三人は集まった。 「今日でちょうど一年なんだね」 そう言ってつかさはふと、周りを見渡した。 広い幹線道路と、狭い住宅街の路地とが交差する、とても見通しの悪い交差点だった。 幹線道路には歩道があり、ちょうどそこに三人が集まっている。 信号機は無く、横断歩道だけが幹線道路をまたいでいる。 しかし人も車も少なく、それほど気を使う事もない。 「そうですね……。あの頃は私もよく、つかささんとかがみさんのお宅にお邪魔になりました」 住宅街の路地を真っ直ぐ進むと、つかさとかがみの神社があった。 歩いてほんの数分もたたない。 逆に幹線道路の向こう側にはコンビニがあり、お菓子を買うときなどはよく利用していた。 かがみはみゆきの言葉にうなずきながら、苦笑した。 「四人でよく勉強会をやったわよね。ほとんど、つかさとこなたに教えるばっかりだったけど」 「ええー~~、そんな事ないよお。そう言えばこなちゃん、私たちの家でよくゲームやってたよね」 懐かしむように、つかさは空を見る。 それからゆっくりとうつむくと、すぐ足下に目をやった。 それに合わせて、二人も無言で同じ場所を見つめる。 「……」 しばらく無言のまま、三人は固まった。 「こなたさんはゲームがお好きでしたからね。学校にも良く、携帯ゲームを持ち込んで遊んでいらっしゃいました」 「受験生だって言うのに、授業中もやってたらしいじゃない?まったく、本当にあいつらしいわよ……。 でも、あの頃は、楽しかったわよね」 半分に切られた2Lペットボトルが、ガードレールの根本に縛り付けられていた。 その中には黄色や青色の、様々な花束が生けてある。 三人は視線を、そこから離そうとしない。 花はもうしおれていて、花が挿されてから数日はたっているらしい。 「夏休みにさ、こなちゃんとゆたかちゃんのお姉さんと黒井先生とさ、海に行ったでしょ? あの時、友達と一緒にいることが、一番楽しいんだなって感じたよ」 「ええ……、私も、そう感じていました。 でも、それがいつのことだったのかは、覚えていませんが……」 「こたな……。今頃どうしてるかしら……」 かがみは顔を上げて、二人を見つめた。 「きっと……、幸せに過ごしているはずですよ」 「……。うん、きっとそうよね」 「……っ、どうして……、どうしてこうなっちゃったんだろうね……」 つかさの声は震えていた。 一年前、事故は夜に発生した。 勉強会の最中で、コンビニに夜食の買い物へ行く途中の事だった。 暗く見通しの悪い交差点の横断中に、たまたま無謀運転をする車が通ったのだ。 つかさはその頃の記憶が混乱している。 ただ、救急車のサイレンの音が印象に残っていた。 「つかささん……。たまたま運が悪かったんですよ……!事故だったんです……!」 もう一年がたっていても、涙は枯れない。 まだ昼時で日が高い。 こんな時に涙は似合わない、と思ったかがみは、上を向いた。 ふう、と一息深呼吸をして、まぶしい太陽を見た。 そして視線を幹線道路の先にやると、見慣れたシルエットを見つけた。 長い髪を揺らし、頭のてっぺんから癖毛を立てている。 背が低く歩幅が短いために、足の動きがとても小刻みだ。 かがみは、その姿を見間違えたりはしない。 「ウソ……、こなた……!?」 かがみの尋常でない驚き方に、つかさとみゆきも顔を上げた。 「……えっ、本当だ……!こなちゃんだ!こなちゃんだよ!」 「こなたさん……?本当にこなたさんですか……?」 メガネをしていても、人影は確認し辛いくらいに遠く、みゆきは一生懸命目を凝らした。 こなたは交差点まで、ゆっくりと歩いて来た 目には何かに怯えるような、緊張感を漂わせている。 手には花束が抱えられていて、一歩ずつ歩く度にそれが揺れる。 「一年ぶりだね。ごめん、なかなか決意が出来なくて……、こんなに遅くなっちゃった」 三人は微笑み、黙ったまま次の言葉を待った。 「だって、私だけが……」 「違うよ。こなちゃんは悪くないよ……!少し運が悪かっただけなんだよ……」 つかさはそっとささやいた。 しかしきっとその声は、こなたには届かない。 こなたは意に介さずに続けた。 「それで、時間ばっかり過ぎていく間に、どうしても寂しくなっちゃって…… みんなと一緒にいたかった。でもそうはならなかった……」 たまらず、かがみは口を挟んだ。 「こなた、ごめん……。さみしい思いをさせて……。確かに運が悪かった。 でも……、私ももっとこなたと一緒に過ごしたかったのよ。 でもねこなた、私たちと一緒に来ちゃダメ。それは絶対に……!」 一年前の夜、こなたは買い物の途中で、財布をかがみ達の家に忘れたことに気が付いた。 三人には先に行ってもらい、こなたは財布を取りに戻り、再び夜の道に立った時の事だった。 夜の静けさを貫くブレーキ音と、誰ともつかない悲鳴が響くのをこなたは聞いた。 すぐに駆けつけたこなたは、三人の姿を交差点から50メートルも向こうで見つけた。 近くに停まる自動車のボンネットは変形し、フロントガラスは砕けている。 ちらほらと野次馬が集まるなか、こなたはただ立ち尽くすしかなかった。 「私、心の整理がやっと付いたんだよ。 私だけ生き残った事は、今まで不幸だって感じてた。 みんなを裏切ったんだと思ってたんだよ……。 でも最近やっと、私だけでも生き残れたんだって、考えられるように成長たんだ。 みんなの分もこれから私が生きなくっちゃって、思えるようになったんだよ」 こなたは、ペットボトルに生けられた、しおれた花束に向かって語りかける。 「だからさ、みんなの生きる分も、私がこれから受け継ぐよ」 ペットボトルからしおれた花を抜き、ヒモをほどいて中の水を捨てる。 代わりに500mlに入れた来た新しい水に入れ替えて、元気な花束をそこに挿した。 その様子を背後から、三人が囲むようにして眺めていた。 「ありがとうございます、こなたさん。でも無理をしないでくださいね。 こなたさんがこなたさんらしく生きることが、私たちの願いなんです」 こなたは手を合わせて一礼した。 つかさとかがみの神社へと向かうつもりだ。 こたなは歩道から細い路地へ進んだ。 ちょうどそれと同時に、中型トラックが幹線道路から交差点で右折してきた。 こなたの小さい体に気づかないトラックは、ほとんど減速することなく路地に侵入し、歩くこなたに迫った。 こなたがトラックに気づいた時、すでにトラックは目の前までやってきていた。 その時の体勢では、避ける事は無理だった。 大きなエンジン音が、こなたを脅迫し、氷つかせる。ただこなたは、立ち尽くすしかない。 もう、みんなへの誓いを破ってしまうのかと、こなたは絶望した。 その時、突風が、こなたの軽い体を強く押した。 よろめき、つまづきそうになるこなたのすぐ目の前を、トラックが猛スピードで通過していく。 こなたは腰を抜かし、しばらく立つことが出来なかった。 「あは、ははは……、危なかった……!」 まだ立てないが、こなたは興奮を隠せなかった。 今頃になって気づいたように、心臓が暴れ出す。 「ねえ、もしかして、みんなが助けてくれたの?」 返事は聞こえない。 そっと、こなたは立ち上がった。 こなたは感じていた。 忘れていない、あの懐かしい感覚を。 こなたは交差点を去っていく。 それを見送る三人もまた、ここを去らなくてはならなかった。 しかしずっと遠い未来で、またこなたに再会する事になるのだろう。 その時に聞いてみようと思うのだ。 「友達がそろうと、たのしいよね?」
「みゆき、久しぶり!」 交差点で待っていたかがみは、大きく手を振りながら声を上げた。 横断歩道を渡るみゆきは上品に、肩の高さで手を振りかえす。 「お久しぶりです、かがみさん。つかささんもお元気そうですね」 「えへへー、元気だよ。ゆきちゃん変わってないね」 つかさはのんびりとした口調でみゆきを迎えた。 「いえ、つかささんもかがみさんも、お変わりないようですね」 「それってほめ言葉なのかしら?でも、一年もたつからね。みゆきが変わってないのを見るとホッとするわよ」 「ふふふ。一年はとても短く感じました」 交差点は歩道と横断歩道がある十字路だった。 その一角に三人は集まった。 「今日でちょうど一年なんだね」 そう言ってつかさはふと、周りを見渡した。 広い幹線道路と、狭い住宅街の路地とが交差する、とても見通しの悪い交差点だった。 幹線道路には歩道があり、ちょうどそこに三人が集まっている。 信号機は無く、横断歩道だけが幹線道路をまたいでいる。 しかし人も車も少なく、それほど気を使う事もない。 「そうですね……。あの頃は私もよく、つかささんとかがみさんのお宅にお邪魔になりました」 住宅街の路地を真っ直ぐ進むと、つかさとかがみの神社があった。 歩いてほんの数分もたたない。 逆に幹線道路の向こう側にはコンビニがあり、お菓子を買うときなどはよく利用していた。 かがみはみゆきの言葉にうなずきながら、苦笑した。 「四人でよく勉強会をやったわよね。ほとんど、つかさとこなたに教えるばっかりだったけど」 「ええー~~、そんな事ないよお。そう言えばこなちゃん、私たちの家でよくゲームやってたよね」 懐かしむように、つかさは空を見る。 それからゆっくりとうつむくと、すぐ足下に目をやった。 それに合わせて、二人も無言で同じ場所を見つめる。 「……」 しばらく無言のまま、三人は固まった。 「泉さんはゲームがお好きでしたからね。学校にも良く、携帯ゲームを持ち込んで遊んでいらっしゃいました」 「受験生だって言うのに、授業中もやってたらしいじゃない?まったく、本当にあいつらしいわよ……。 でも、あの頃は、楽しかったわよね」 半分に切られた2Lペットボトルが、ガードレールの根本に縛り付けられていた。 その中には黄色や青色の、様々な花束が生けてある。 三人は視線を、そこから離そうとしない。 花はもうしおれていて、花が挿されてから数日はたっているらしい。 「夏休みにさ、こなちゃんとゆたかちゃんのお姉さんと黒井先生とさ、海に行ったでしょ? あの時、友達と一緒にいることが、一番楽しいんだなって感じたよ」 「ええ……、私も、そう感じていました。 でも、それがいつのことだったのかは、覚えていませんが……」 「こなた……。今頃どうしてるかしら……」 かがみは顔を上げて、二人を見つめた。 「きっと……、幸せに過ごしているはずですよ」 「……。うん、きっとそうよね」 「……っ、どうして……、どうしてこうなっちゃったんだろうね……」 つかさの声は震えていた。 一年前、事故は夜に発生した。 勉強会の最中で、コンビニに夜食の買い物へ行く途中の事だった。 暗く見通しの悪い交差点の横断中に、たまたま無謀運転をする車が通ったのだ。 つかさはその頃の記憶が混乱している。 ただ、救急車のサイレンの音が印象に残っていた。 「つかささん……。たまたま運が悪かったんですよ……!事故だったんです……!」 もう一年がたっていても、涙は枯れない。 まだ昼時で日が高い。 こんな時に涙は似合わない、と思ったかがみは、上を向いた。 ふう、と一息深呼吸をして、まぶしい太陽を見た。 そして視線を幹線道路の先にやると、見慣れたシルエットを見つけた。 長い髪を揺らし、頭のてっぺんから癖毛を立てている。 背が低く歩幅が短いために、足の動きがとても小刻みだ。 かがみは、その姿を見間違えたりはしない。 「ウソ……、こなた……!?」 かがみの尋常でない驚き方に、つかさとみゆきも顔を上げた。 「……えっ、本当だ……!こなちゃんだ!こなちゃんだよ!」 「泉さん……?本当に泉さんですか……?」 メガネをしていても、人影は確認し辛いくらいに遠く、みゆきは一生懸命目を凝らした。 こなたは交差点まで、ゆっくりと歩いて来た 目には何かに怯えるような、緊張感を漂わせている。 手には花束が抱えられていて、一歩ずつ歩く度にそれが揺れる。 「一年ぶりだね。ごめん、なかなか決意が出来なくて……、こんなに遅くなっちゃった」 三人は微笑み、黙ったまま次の言葉を待った。 「だって、私だけが……」 「違うよ。こなちゃんは悪くないよ……!少し運が悪かっただけなんだよ……」 つかさはそっとささやいた。 しかしきっとその声は、こなたには届かない。 こなたは意に介さずに続けた。 「それで、時間ばっかり過ぎていく間に、どうしても寂しくなっちゃって…… みんなと一緒にいたかった。でもそうはならなかった……」 たまらず、かがみは口を挟んだ。 「こなた、ごめん……。さみしい思いをさせて……。確かに運が悪かった。 でも……、私ももっとこなたと一緒に過ごしたかったのよ。 でもねこなた、私たちと一緒に来ちゃダメ。それは絶対に……!」 一年前の夜、こなたは買い物の途中で、財布をかがみ達の家に忘れたことに気が付いた。 三人には先に行ってもらい、こなたは財布を取りに戻り、再び夜の道に立った時の事だった。 夜の静けさを貫くブレーキ音と、誰ともつかない悲鳴が響くのをこなたは聞いた。 すぐに駆けつけたこなたは、三人の姿を交差点から50メートルも向こうで見つけた。 近くに停まる自動車のボンネットは変形し、フロントガラスは砕けている。 ちらほらと野次馬が集まるなか、こなたはただ立ち尽くすしかなかった。 「私、心の整理がやっと付いたんだよ。 私だけ生き残った事は、今まで不幸だって感じてた。 みんなを裏切ったんだと思ってたんだよ……。 でも最近やっと、私だけでも生き残れたんだって、考えられるように成長たんだ。 みんなの分もこれから私が生きなくっちゃって、思えるようになったんだよ」 こなたは、ペットボトルに生けられた、しおれた花束に向かって語りかける。 「だからさ、みんなの生きる分も、私がこれから受け継ぐよ」 ペットボトルからしおれた花を抜き、ヒモをほどいて中の水を捨てる。 代わりに500mlペットボトルに入れた来た新しい水に入れ替えて、元気な花束をそこに挿した。 その様子を背後から、三人が囲むようにして眺めていた。 「ありがとうございます、泉さん。でも無理をしないでくださいね。 泉さんが泉さんらしく生きることが、私たちの願いなんです」 こなたは手を合わせて一礼した。 つかさとかがみの神社へと向かうつもりだ。 こなたは歩道から細い路地へ進んだ。 ちょうどそれと同時に、中型トラックが幹線道路から交差点で右折してきた。 こなたの小さい体に気づかないトラックは、ほとんど減速することなく路地に侵入し、歩くこなたに迫った。 こなたがトラックに気づいた時、すでにトラックは目の前までやってきていた。 その時の体勢では、避ける事は無理だった。 大きなエンジン音が、こなたを脅迫し、氷つかせる。ただこなたは、立ち尽くすしかない。 もう、みんなへの誓いを破ってしまうのかと、こなたは絶望した。 その時、突風が、こなたの軽い体を強く押した。 よろめき、つまづきそうになるこなたのすぐ目の前を、トラックが猛スピードで通過していく。 こなたは腰を抜かし、しばらく立つことが出来なかった。 「あは、ははは……、危なかった……!」 まだ立てないが、こなたは興奮を隠せなかった。 今頃になって気づいたように、心臓が暴れ出す。 「ねえ、もしかして、みんなが助けてくれたの?」 返事は聞こえない。 そっと、こなたは立ち上がった。 こなたは感じていた。 忘れていない、あの懐かしい感覚を。 こなたは交差点を去っていく。 それを見送る三人もまた、ここを去らなくてはならなかった。 しかしずっと遠い未来で、またこなたに再会する事になるのだろう。 その時に聞いてみようと思うのだ。 「友達がそろうと、たのしいよね?」

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