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「答えはきっと心の中に」(2008/04/28 (月) 00:40:15) の最新版変更点
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<p>なんかここ最近、柊の様子が変なんだよな~。<br />
なんつーか、話しかけても上の空ってゆーか……<br />
カラオケとか連れてっても全然歌わねぇし、いろいろイタズラしてやっても何もしてこねぇし。</p>
<p>「柊、最近向こうに行かねぇな」<br />
「ええ……」<br />
「誰かと喧嘩したの? だったら早く仲直りしなきゃ」<br />
「ええ……」<br />
「……おい、柊?」<br />
「ごめん、トイレ行ってくるね」</p>
<p>弁当をそのままにして教室を出てく柊。<br />
一緒に弁当食えるのは嬉しいんだけど……全っ然楽しくねーや。</p>
<p>「柊ちゃん、本当にどうしたのかしらね?」<br />
「さぁ……アタシは知らないよ。あむっ」</p>
<p>弁当からミートボールを摘んで口の中に放り込む。<br />
大好物なはずなのに、美味しく感じない。もったいね~。</p>
<p>「むぐ……早く元気になってくれなきゃ、アタシまで気が滅入っちまうんだよな~」<br />
「みさちゃん、柊ちゃんのこと好きだもんね」<br />
「んぐ!?」<br />
「み、みさちゃん!」</p>
<p>げほっげほっ……ミートボールが変なとこに入っちまった……</p>
<p>「い、いきなりなんて事言うんだよっ!」<br />
「あら、違うの? でもそういうのって、好きな人に抱く感情じゃないの?」</p>
<p>好きな人に抱く感情……?<br />
そんなこと言われても……アタシにはわからねぇよ……</p>
<p>「みさちゃん、もしかして誰かを好きになった経験ってないの?」<br />
「ねぇよ……」</p>
<p>強いて言うならあやのだけど……あやのの言ってる『好き』ってそういう意味じゃねぇだろうし……</p>
<p>「柊ちゃんが好きかどうか、それはみさちゃんが一番わかってるはずよ」</p>
<p>アタシは……柊が好き……?<br />
確かに、柊がいないとすっげぇ寂しいし、こないだビンタされた時は柊に嫌われたかと思って怖かったけど……<br />
……あれ……否定する部分ねぇや……</p>
<p>「好き……なんだろうな」<br />
「うふふ、やっぱり♪」<br />
「変じゃねぇかな? 初恋の相手が同性なんて……」</p>
<p>確かにアタシは男勝りだけどさ、性別はちゃんと女だぜ? 普通は異性を好きになるもんだろ。<br />
アタシ、変なのかな……</p>
<p>「ううん、変じゃないと思うよ。人を好きになるのがどうして変なの?」<br />
「あやの……」<br />
「『異性を好きになるのが本能の愛なら、同性を好きになるのは理性の愛だ』みたいなことをどこかで聞いたことがあるわ。つまり、どっちも愛じゃない」<br />
「……そっか……そうだよな」</p>
<p>アタシは柊に、人間的な魅力を感じてたから好きになった。そういうことなんだろうな。<br />
なんだか、答えが出てきたからか頭がすっきりしたぜ。今なら美味しく食べれそうだゼ!</p>
<p>「あ~~んむっ。むぐむぐ……ごっくん。まずは柊に元気になってもらわねぇとな」<br />
「そうね。そのためには原因を知らないと」<br />
「原因か……。あ、アイツがいるじゃん」</p>
<p> </p>
<p>〈答えはきっと心の中に〉</p>
<p> </p>
<p>「お~っす、チビッ子」<br />
「あ、みさきち」</p>
<p>あの時――三日くらい前だったっけか――チビッ子は泣きながら廊下を走っていってた。<br />
柊がおかしくなったのもあの時からだったから……柊と大喧嘩したに違いない。</p>
<p>っと、見かけないやつがいるな。<br />
チビッ子と手を繋いでて、チビッ子よりも小さいってことは……妹か従妹ってとこだな。</p>
<p>「そういやみさきちは初めてだよね。私の従妹の小早川ゆたか、通称ゆーちゃんだよ」<br />
「は、はじめまして。こなたお姉ちゃんがお世話になってます」<br />
「アタシの名前は日下部みさお。よろしくなー」</p>
<p>ビンゴ。やっぱ従妹だったか。<br />
つーかチビッ子よりも更にチビッ子って、こいつの家系はどうなってんだ……?</p>
<p>「で、みさきち。私に何の用?」<br />
「おお、そうだ。忘れるとこだったぜ」</p>
<p>ふう、危ねぇ危ねぇ。肝心なこと聞かなきゃな。</p>
<p>「最近、柊の様子が変なんだよ。チビッ子、何か知らねぇか?」<br />
「「!!」」</p>
<p>……なんでそこで固まるよ?<br />
小早川はオロオロしてるし、チビッ子にしては震えてるし……<br />
もしかしてアタシ、地雷踏んだ?</p>
<p>「……ご、ごめん! 私、ちょっと用事を思い出した!!」<br />
「あ、ちょ、おい!!」</p>
<p>そう言ってチビッ子は走って行っちまった。<br />
たく、なんなんだよドイツもコイツも……</p>
<p>「あ、あの、今のお姉ちゃんに、かがみ先輩の話はしないでください。相当、傷付いてますから……」</p>
<p>……ほぉ~……?</p>
<p>「小早川。お前、何か知ってる口だな? ちょっと顔貸せや」<br />
「えっ、えっ、ええぇ!?」</p>
<p>小早川の首根っこ掴んで、二人きりになれる場所まで移動した。</p>
<p><br />
・・・</p>
<p><br />
「さて……」</p>
<p>放課後、地平線に沈みゆく陽を見つめながら屋上で柊を待っていた。<br />
小早川を使って、昼休みのうちに柊を呼び出しておいた。多分、もうすぐ……<br />
なんて思ってると、ドアを開ける音と足音が聞こえてきた。</p>
<p><br />
「……ゆたかちゃんまで使って、何の用?」</p>
<p>柊の声。振り返ると、ジト目でこっちを睨み付けてた。柊のこの目、ちょっとイライラしてる時のだよな……</p>
<p>「悪いな、柊。ここに呼んだのは、二人きりで話がしたかったからなんだ」<br />
「……さっさと言いなさいよ。私、ちょっとイライラしてるんだから……」</p>
<p>なんでイライラしてるか……多分、アタシが『アイツ』と同じことを言うと思ってるんだろーな。</p>
<p>「どーせアレだろ? 『どうして自分は女にしかモテないのか』だろ?」<br />
「!!」</p>
<p>そんだけ驚きゃ、間違いなく図星だな。</p>
<p>「小早川から聞いたよ。チビッ子の告白を蹴ったらしいな」<br />
「……」</p>
<p>うつむいたまま、何も言ってこない柊。<br />
向こうからは何も言ってこないだろうから、少しずつ聞いてくしかねぇか。</p>
<p>「なんで振ったんだよ? 柊はチビッ子のことが嫌いなのか?」<br />
「そっ、そんなわけないじゃない!! でも……」<br />
「でも?」</p>
<p>沈黙が続いて、それから柊がゆっくりと話し始めた。</p>
<p>「ど、同性との恋愛なんて……周りが認めてくれるわけないじゃない……周りに猛反発されて、駆け落ちとかになるのが関の山でしょ……?」</p>
<p>……なるほどな……</p>
<p>「つまり柊は周りの意見があるから断ったと」<br />
「ち、違うわよ! だけど、受け入れてそれで二人が幸せになれるわけ……」<br />
「断ってもなれなかったじゃねぇか」<br />
「う……」</p>
<p>珍しくアタシに言い負かされてる柊。いつものキレがねぇな。</p>
<p>「で、他には?」<br />
「他にって……そんなにあるわけないじゃない……」</p>
<p>なるほど、柊が言いたいことはよ~くわかった。</p>
<p><br />
「つまり柊は、『チビッ子が男だったら受け入れてた』んだな」<br />
「……え……?」<br />
「だってそうだろ? 柊がチビッ子の告白を蹴った理由はそれしかないじゃねぇか」<br />
「あ……」</p>
<p>まったく……気づいてなかったのかよ。<br />
柊は頭がいいんだか悪いんだか、よくわからねぇや。</p>
<p>「チビッ子がどれだけ柊が好きかわかってんのか? 周りから猛反発を受けても、柊と一緒にいたいって思ったから告白したんだろーが」<br />
「……」</p>
<p>胸の前で、祈るようにして手を組む柊。<br />
そんな柊を見て……アタシは柊すらわかってないだろうことを言った。</p>
<p>「そしてもう一つ。柊は……いや、柊もチビッ子のことが好きだ」<br />
「……は……?」</p>
<p>さすがにこれは予想外だったみたいだな。ポカンてしてる。<br />
まあ、アタシもそうだったからな。柊が考えてることが手に取るようにわかるゼ。</p>
<p>「チビッ子を振ってから、柊はずっとチビッ子のことばっか考えてたんだろ? 『チビッ子が心配だ』『振らなけりゃよかった』ってな具合にな」<br />
「あ……」<br />
「『チビッ子がいない』……それだけで物凄く寂しい思いをしてたんだろ? つまり、柊もチビッ子が好きだったんだ」<br />
「……私……私……!!」</p>
<p>やっと自分の気持ちに気付いて、ポロポロと涙を流してその場にうずくまる柊。<br />
そんな柊に近づいて、まっすぐに目を見つめて言った。</p>
<p>「ひどいことをしたって思ってんなら……行ってこい。それが、柊の答えならな」<br />
「……ええ。ありがとう、日下部!!」</p>
<p>涙を拭いて、柊は屋上を駆け出して行った。<br />
校庭を駆けてく柊を見届けてから、ここにいるだろう『もう二人』の名前を呼んだ。</p>
<p><br />
「……小早川、あやの。いるんだろ?」<br />
「……やっぱり気付いてたんですね」</p>
<p>階段の陰からゆっくりと歩いて、私の隣に並んだ小早川とあやの。</p>
<p>「峰岸先輩から聞きました。日下部先輩も……柊先輩が好きだったんですね」<br />
「びっくりしたわ。柊ちゃんに告白すると思ってたから隠れて待ってたのに」<br />
「ああ……アタシもびっくりだよ」</p>
<p>小早川から話を聞いたら……なんだかアタシが思ってる以上の事態が起きてたからなー。</p>
<p>「でもなんで泉ちゃんに柊ちゃんを譲っちゃったの? あのまま告白して自分のモノにすることもできたのに」</p>
<p>……黒いなー、あやの……</p>
<p>「まあ……確かにできたことはできたんだろうけどさ。柊の一番は……チビッ子だったからさ、アタシが入る隙間なんてなかったんだ」</p>
<p>それに……柊には、チビッ子の方がお似合いだからな。</p>
<p>「……なあ、これでよかったのかな……」</p>
<p>本当は、アタシも柊が欲しかったはずなのにな……チビッ子を推した理由がわからねぇや。</p>
<p>「その答えは……きっと私達に聞いても出てこないと思います。答えはきっと、日下部先輩の心の中にあると思いますよ」<br />
「そうね。みさちゃんの左の胸にしまわれてるんじゃないかしら」</p>
<p>アタシの左の胸……か……</p>
<p>「……うん。これでよかったんだよな。これで……」</p>
<p>ちょっと低いフェンスにもたれかかって、茜色に染まる空を見つめた。<br />
あの空は少しだけ……滲んでいるように見えた。</p>
<p> </p>
<p> </p>