「雨粒」 ID: > Vi30al5O氏

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「あめーあめーふれふれーもぉっとふれー」 「どうしたのよこなた、やけに機嫌いいじゃない」 「今日はドームじゃない球場でナイターがあるからね。このまま雨が降れば中止になって深夜アニメの録画が狂わないで済むんダヨ」 「あんたはそういう事でしか雨を見ていないのね……」 「あたしは雨はきらいだなー。濡れると寒いし」 「ですが、雨があるからこそわたし達の生活に書かせない生活用水の貯えになるので、そういったことでは感謝すべきものですよね」 「そうなんだけど、やっぱりあたしも雨は苦手ねー。朝から降られると学校に行く気失せちゃうし」 「雨を嫌うものは雨に泣くことになるよみなみな様」 「こなちゃんは雨好きなの?」 「あたしは大が付くほど好きダヨ」 「どうせ野球の延長が無くなるからでしょ?」 「いやいや、そんな単純な事じゃないよ」 「じゃあどうしてよ?」 「死んじゃったお母さんがね、雨好きだったんだー」  そう、あたしの数少ない記憶の中で、僅かに残るお母さんには、いつも雨がつきまとってた。  だからあたしは梅雨のこの時期になると、少ない記憶の中のお母さんを思い出すんだ。  あのお母さんの優しい微笑みを。 ……」 「お父さん、今日はお外にお出かけしにいくんでしょ?」 「残念だったなーこなた。今日はほら、このように雨が降ってるんだ」  そう言ってお父さんに抱き上げてもらって窓の外を見た。結構な量の雨が降っていて外に出るのには向いてないぐらいだったのは覚えている。  でもその頃のあたしはまだ物心つき始めて間もなかったから、やっぱり外でて遊ぶということ邪魔をする雨が大嫌いだった。 「ヤダよ! お外行くんだ!」 「それでもこの雨じゃなぁー」 「イヤだ! 行くの!」 「お父さんと一緒にゲームでもしよう、な? ゲームは楽しいぞ?」 「ヤダ! お外行く!」 「こりゃかなわん。かなたからもなにか言ってくれよ」  台所で朝ご飯の片付けをしていたお母さんがゆっくりこちらに向かって来て、あたしの頭を撫でながら微笑んで言った。 「こなたは雨が嫌いなのね?」 「大嫌いだよ! せっかくのお外にお出かけなのに邪魔して!」 「あたしは好きだけどなー雨」 「なんで? こんなの無くてもへいきじゃん?」 「そんなこと無いのよ? 雨はみんなの命を育ててるの」 「みんなの命?」 「そうよ? 雨は外のお花や草や木に水を与えて命をあげるの。これが無くなったりしたらみんな  この時のお母さんの顔は忘れられないぐらいまぶしい笑顔だった。  だけど、一瞬見えたお父さんの顔はなぜか少し歪んでいて、あたしの視線に気づいたらすぐに無理した笑顔を作ったのをはっきりと覚えている。 「いい、こなた? 雨はよく思われない事が多いけど、実は凄く大切なものなの。こなたが生きてく中でも雨はたくさん降るけど、それを全部受け止めて大切に扱わなくちゃダメ。 それに、ほら。見てみると案外キレイでしょ?」  お母さんに抱えられて見た雨はとてもじゃないけどキレイとは思えなかった。雲は灰色に染まって、量の多い水の塊が地面に向かって進んでっていずれぶつかる。  たまに窓を叩く水滴はガラスを伝って下へ向かって、途中他の水滴と合わさって下に落ちる。これのどこがキレイなのだろうかと幼い頭ながらも考えたのは記憶にある。 「こなたはもっともっと生きるの。ずっと生きるんだから雨もいっぱい必要なの」 「うん! ということはお母さんにももっと雨が必要なんだね」 「……そうね」 「ん? どうしたのお母さん?」 「なんでも無いわよ。さぁー、こなた。お母さんは洗濯しなくちゃならないからお父さんと遊んでいらっしゃい?」 「ほらこなた。今日はど  その後、梅雨明けがそろそろに迫った頃、お母さんの容態が急変した。その日も雨が降っていた。  あたしはなんのことか分からなくて、ゆい姉さんと一緒に来ていたゆたかと一緒に病院の待合室で遊んでいた。  遊んでいたらお医者さんがテレビとかでよく見るような手術の着衣を着てお父さんと話していた。  それが終わるとお父さんは真面目そうな、どこか悲しそうな顔であたしとゆたかにどこかに一緒に行くように促した。  その時、なにか幼いながらに怖いなにかを感じて、一歩も動かないように足を踏ん張らせた。  結局お父さんに引っ張られる感じで連れてこられた部屋にはお母さんがベッドに寝ていた。 「お母さん?」  呼びかけても反応無し。耳に入るのは機械の電子音。長めの間隔で一定のリズムで音を発していた。 「お父さん、お母さんどうしちゃったの?」 「こなた、お母さんは先にちょっと遠くに行くんだ」 「どこ? お外? 楽しい所?」 「楽しいかどうかは、その人がどういう風に生きたかによるんだよ」 「なにそれ! 意味わかんない!」 「まだわかんなくていいんだよ。世の中には順序があるんだ。お母さんは少し早いけど、その次はお父さん、そうしてお父さんの次はもっと時間が経ってこなたが来るんだ」 「お母さんと一緒に行くのはダメなの?」 「それはいけないんだ。でもお母さんはいつもこなたを見ているから、寂しくなんかないよ」 「ふーん……お母さん、お土産持ってきてくれるかな?」 「……たぶんな」 「おかーさん、おみやげおねがいねー!」  お母さんの耳もとで叫んだその時、お母さんはゆっくりと目を覚ました。お父さんもゆい姉さんもみんな驚いていた。 「お母さん、どこか行くんでしょ?」  ついていたお医者さんが呼吸器を外す。お母さんが優しく微笑んだ。その顔を見てあたしもうれしくなった。 「こなた……あたしは遠くに行くけど、雨が降るときあたしはあなたに会いに行くから」 「おみやげ持ってきてくれる?」 「えぇ……約束よ」 「うん! 楽しみにしてるよ!」 「お父さん……こなたをお願い……しますね」 「……長いこと一人だが、いつかかならず迎えに行くから」 「縁起でもないこと……言わないで……ください」 「お母さんまたすぐに会いに来てね!」 「もちろんよ……こなたは……甘えん坊だもんね……」 「むぅ、そんなことないもん! ちゃんと一人で生きていけるもん!」 「そう……辛くなったら……雨……見る……のよ……」 「かなた!」 「みんな……元気……でね……そうじろう……さん……こな……た……」 「行ってらっしゃいお母さん!」 「う……ん……いっ……て……き……ま……」  周期的に鳴っていた電子音が不愉快な一定の音程の音に変わって鳴り続けた。お父さんやみんなの嗚咽の 「そうだったの……」 「お母さん、雨は命の源だーとかって言っててね、笑って撫でてくれてねー」 「あーもうやめなさい」 「あれ? かがみんや? もしかして泣いてるのかい? かわゆいのー」 「ちょ、ち、違うわよ!」 「よいではないかよいではないか。お母さんにもきっと報われるヨ」 「でも、こなちゃんも泣いてる……」 「ん? うぉっ! こりゃまたなんで!」 「泉さん……たまにはいいんじゃないでしょうか?」 「たまには……って?」 「今まで寂しい思いをしてきたんですから、今日ぐらい、たまには、ってことです」 「みゆきさん……じゃあちょっと胸借りるね」 「はい、あたしの胸でよければ」  あたしはすがるように泣いた。息を殺さず、今でる限界の声で。教室の真ん中、生徒も沢山いたのに、大声で。  今思えば恥ずかしいのにその時は何も考えずに泣くことができた。  きっとこの涙はお母さんがくれた雨なんだ。この雨にはお母さんの温もり、優しさ、微笑み、全部入っている、大切で必要な雨なんだ。  雨はたまに降るからちょうどいいんだ。雨が降りすぎると草木は逆に枯れてしまう。だから、たまにこの雨を、この涙を流すんだ。  お母さん、あたしは今日も雨に育てられて生きています。 Fin…… 「でもさ」 「どうしました?」 「この胸のデカさはなんか腹立つね」 「ちょ、おま、せっかくのいい雰囲気をぶち壊し!」 「こうしてやるー」 「あっ、ちょ、ちょっと泉さん!」  やっぱりあたしには、こういう姿がお似合いだ。 終わり。

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