ID:a9GzCgAO氏:道草会

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<p>昼下がりの公園。雲から顔を出した太陽が、鬱憤を晴らすかのように辺りを照らしている。<br /> 普段は近所の子どもたちの溜り場となっているこの場所も、点々と地面で輝きを放っている水溜りのせいか、ベンチで目を瞑っている少女以外に人の気配は無い。<br /> 太陽が、雲の陰に隠れた。それに反応して、彼女は目を開ける。何度か目を瞬いて、首を振る。長い桃色の髪が、かすかに揺れた。<br /> 「つい公園に立ち寄ってしまいましたが…どうしましょう」<br /> そう呟いた彼女の表情には、心なしか翳りが見える。晴れた空には似つかわしくないその表情だが、端整な顔にはよく似合う。<br /> 「今すぐ動く気も起きませんし、本を読んで落ち着くことにしましょうか……」<br /> そう言って、隣に置いてある鞄から、分厚い本を取り出す。そして膝の上に置き、中程に挟んであったしおりを抜いた。<br /> そのページを指で押さえることなく。<br /> 「……!」<br /> 慌てた様子で、本のページをめくっていく。傍から見れば、なんともおかしな光景だ。一分ほどで、しおりが挟まれていたページは見つかった。<br /> 「また、やってしまいました……」<br /> どうやら、このようなミスは初めてではないらしい。ため息をつきながら、文章に目を走らせていく。<br /> 遠くの方では、子どもたちの声が響いていた。<br /> 「重い……。流石に買いすぎたかな。でも、買えるうちに買っとかないと後悔するしねー」<br /> せっかくの休日ということで、今私は東京にいる。いつもなら休日はかがみたちと遊んでるんだけど、今日は都合が合わなくってね。<br /> アキバでいろいろとお宝をゲットした帰り道。朝から出てきたおかげで、四時くらいには家に着けそう。まあ、丁度欲しいものもあったし、これはこれで結果オーライかな。<br /> そんなことを考えながらゆるゆると歩いていると、前方に公園を発見。ちょっと休んでいこう、と思って入ってみると、そこにはみゆきさんが。<br /> 「やふーっ、みゆきさんじゃまいか」<br /> すぐに声をかけたけど、 へんじがない ただのしかばねのようだ いや、まあそんなことは無いんだけど、本に集中してるみたいで私には気付かない。これは……チャンス。<br /> 荷物を置いて、一応慎重に、こっそりと近付く。そして、みゆきさんと本の間に、顔を突っ込んだ。<br /> 「ひゃあぁっ!?」<br /> 期待通りのリアクション。そこまでは良かった。けど、驚いたみゆきさんが跳ね上げた手が、私の後頭部を直撃した。<br /> 「おぉぉ……」<br /> 黒井先生の鉄拳以上の破壊力に、声にならない声が漏れる。<br /> 「あ……い、泉さん!? 大丈夫ですか?」<br /> 頭を押さえてうずくまっている私にみゆきさんが声をかけた。みゆきさんの手にも相当なダメージがあったはずなんだけど、真っ先にこっちの心配をするあたり、流石はみゆきさん。<br /> 「うん、大丈夫。いきなりごめんね。みゆきさんこそ、手大丈夫?」<br /> 少し息を整えてから、答える。<br /> 「ええ、大丈夫です。少し、びっくりしましたが」<br /> 「やー、声をかけても気付いてないみたいだったから、つい」<br /> 喋りながら、ベンチに座る。<br /> 「泉さんらしいですね。ところで、なぜこんなところにいらっしゃるんですか?」<br /> 「ちょっと買い物にね。いろいろと手に入ったよ」<br /> 置かれた荷物を見て、みゆきさんはちょっと驚いた顔をしてる。まあこれだけの量じゃあ無理もないか。<br /> 「わざわざ東京まで……それにしても、これだけのものを持って帰るのは大変そうですね」<br /> 「欲しいものを手に入れるためならどこまでも行くよ。ま、大変とは言っても、電車に乗っちゃえばあとはすぐだから。」<br /> 「そうなんですか」<br /> 「うん。いやー、それにしてもあれだね、公園で読書なんて、みゆきさんらしいね」<br /> 「本当は、読書などしている場合ではないんですけれどね……」<br /> 「ありゃ? 何か用事?」<br /> 「え、ええ。用事というほどではないのですが、少し」<br /> 「そっか、それじゃ行くね。じゃーにー」<br /> 小さく手を振るみゆきさんに向かって手をあげて、私は駅に向かって歩き出した。<br /> 遠ざかっていく小さな背中を見ながら、考える。少し、羨ましい、と。<br /> 風のように身軽で、自由で、自分では、逆立ちしてもあのようにはなれないだろうと、はっきり分かる。<br /> それでも、少しくらい、真似をすることなら出来る。今みたいに考えこんでばかりいないで、まずは行動すること。<br /> 手始めに、今日やらなければならないことは、今日しっかりと済ませてしまいましょう。<br /> どこまで読んだのか分からなくなった本はそのまましまって、まずは立ち上がる。そして、歩き出す。</p> <p>道草を食うことも無く、目的地に辿り着いた。自動ドアを通り抜け、窓口に検診カードを渡す。<br /> 「高良みゆきさん……すみません、少々お待ちください」<br /> ――<br /> 「すみません、高良みゆきさんの診察のご予約は、明日となっておりますが」<br /> 「はぅっ!?」</p> <p>完</p>

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