「最後の鬼ごっこ」ID:kOvlXUDO氏

「「最後の鬼ごっこ」ID:kOvlXUDO氏」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

「最後の鬼ごっこ」ID:kOvlXUDO氏」(2008/03/24 (月) 06:31:02) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

夏休みも中盤に差し掛かったころ、『夏だし恒例じゃん!』という泉こなたの提案で、四人は県内にある小学校の旧校舎にやってきた。 十数年も前に校舎は新しく建てられたのだが、予算が厳しいために取り壊しも行われていない。 湿気を伴った風が、彼女達の間を吹き抜けていく。暑苦しい大気が急に冷え込んだような気がした。 「……まるで爆撃のあとね……」 五階建ての校舎を見上げ、柊かがみが言った。 校舎の窓ガラスは全て割れている。壁の色が茶色がかっており、広島の原爆ドームを彷彿とさせる。 その時、青ざめた顔をした柊つかさが、高良みゆきの袖をくいくいと引いた。 「ね、ねぇ……帰ろうよぉ……! ここ、絶対に何かいるよ……!!」 目尻に涙を浮かべ懇願してくる姿を見て、みゆきは少し可哀想な気がしてきた。 つかさはこの話に乗ったわけではない。こなた達に無理矢理連れてこられたようなものだ。 帰りましょうか? と、そう言おうとしたその時、 「せっかくここまで来たんだから行こうよ。赤信号、みんなで渡れば怖くないっ!」 「ふぇぇ!?」 こなたがつかさの手を引っ張って校舎に入っていってしまった。 嫌がっているのだから、つかさだけでも帰した方がいいのではと思ったのだが。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、みゆき。幽霊なんか、いるわけないんだから」 そう言うと、かがみも校舎の中に入っていってしまった。 だが、みゆきは入るのをためらった。この旧校舎について、いくつか怖い噂を耳にしているからだ。 『自殺した女の子の霊が校内を彷徨っている』だの、『踏み込んだ男子数名がそのまま行方不明になっている』だの。 「みゆきー! 置いてくわよー!」 「あ、はい!!」 かがみの声で我に返り、みゆきは駆け出した。 ――何事も起こらなければよいのですが―― / 月光が差し込み、中は比較的明るめだったが、外よりも荒れ果てていた。壁のコンクリートが崩れていて、床もボロボロ。所々に穴が空いていた。 「怖いよぉ……」 「大丈夫よ。みんなが一緒にいるんだから」 「さ、行こっか!」 こなたが先頭を切って進む。その後ろをみゆき、そして柊姉妹と続く。 一階にある音楽室、理科室、各教室を廻っても、特に怪奇現象のようなことは起こらなかった。 四人は一階の探索を終え、階段を上って二階へとあがる。 そしてしばらく進んだところで、かがみが小さく呟いた。 「それにしても、荒れ果ててるわねぇ」 「あ~、こういうとこってさ」 こなたが振り返りもせず、人差し指を立てて言った。 「普通に歩いてるだけでもさ、『床が抜ける』っていうお約束――」 突然、こなたの身体がぐっと沈みこんだ。 「が?」 自分の足下が、崩れていた。 「おわあぁぁぁぁあ!!」 重力に逆らえるはずもなく。 ボロボロのトタンを踏み抜いて、こなたは建材や床板と共に下の階へと転落していった。 「こなた!!」 「こなちゃん!!」 「泉さん!!」 一階に残された三人は穴の縁から階下を覗き込む。 腰のあたりをさすりながらゆっくりと上半身を起こすこなたの姿が、そこにはあった。 「いたた……も~、なんなのさ~……」 自分で言ったことなのだが、まさか現実に起こるとは思ってもみなかったのだろう。 「こなた、無事!?」 「うん、大丈夫……ッ!」 かがみの問いかけに答え、立ち上がろうとしたのだが、そのまま座り込んで左足の足首を両手で押さえた。 「……足、挫いちゃったみたい……」 上を見上げるこなたの顔が、青ざめていた。 こなたもこの旧校舎の噂を聞いていた。それだけに、『何か起きたとしてもすぐに逃げられない』という恐怖が生まれたのだろう。 いつものお気楽な感じが鳴りをひそめていた。 「泉さん、待っていてください。今すぐそちらに向かいますから」 「たく、手間かけさせるわね」 かがみとみゆきは立ち上がり、元来た道へときびすを返す。 だが、つかさはその場に残っていた。『こなたを一人きりにさせる』ことが、逆に怖かったのだ。 「つかさ、早く!」 「う、うん……」 かがみに急かされ、つかさはやむを得ず二人の後を追った。 だが不安は拭えず、途中で何度も何度も後ろを振り向く。こなたが大丈夫か、気になって仕方がないのだ。 階段を目の前にして、ついにつかさは立ち止まった。 「つかさ。こなたなら、大丈夫よ。まごついてたら、逆に助けに行くのが遅くなるじゃない」 「……うん、そうだね」 もう結構な距離を歩いてきた。自分一人だけ戻ることもできない。 だからつかさは、二人の後を追った。それからは一度も振り返らず。 ――そうだ。こなちゃんなら、大丈夫だよね。だから、さっき聞こえたこなちゃんの叫び声は、気のせいなんだよね―― / 一階の廊下は、二階の床板やらが散乱していた。 最初に通った時には天井に穴は開いていなかった。だから、ここがこなたが落下したところなのだろう。 だが、廊下には、こなたの姿は見えなかった。 「こなた、どこ行ったのかしら?」 「近くにいるといいのですが……」 近くの教室を覗き込むが、人影はない。 これはこなたなりのイタズラなのか? そう思った時、気が付いた。 つかさが、先ほどの場所で身体をガタガタと震わせていることに。 「つ、つかさ……?」 「どうされました……?」 「お姉ちゃん……ゆきちゃん……こなちゃんが……こなちゃんが……!!」 つかさは、階段を降りる手前で聞いたこなたの叫び声のことを話した。 やはり二人には聞こえていなかったみたいで、その事実を知った時、霊の類をまったく信じないかがみですら息を呑んだ。 「早く泉さんを捜しましょう!」 「ええ!!」 三人は一階を駆け回った。音楽室、理科室、各教室と――だが、見つからない。 「二人とも、いました!」 みゆきがそう言ったのは、捜索から五分後のことだった。 ドアを開けて中に入ると、その教室には、確かにこなたがいた。 後ろ姿ではあるが、月明かりに照らされた青い髪、てっぺんから出たアホ毛で判断できる。 「こなちゃん……!」 名前を呼んで、つかさが駆け寄ろうとするが……様子が変だ。 『……ねえ、お姉ちゃん達……』 後ろ姿というより、若干斜めになっていると言うべきか。だから、その言葉がこなたの口から発せられたことはわかった。 だが……その声は、いつものこなたの声とは質感がまるで違った。 『鬼ごっこしようよ……。鬼は私で、お姉ちゃん達が逃げるの。捕まったら……』 『コロシテアゲルカラ……』 「――!!!」 振り向いたその姿は、もはや泉こなたのものではなかった。 抑揚のない言葉、蒼白く不気味な顔、虚無に沈み茫洋とした瞳、そして――右手に握り締められた鉄パイプ。 目の前にいる存在が『こなたであってこなたでない』。そう気付くまでに、数秒の時間を要した。 それほどまでに、彼女は変わり果てていたのだ。 「う……うわあぁぁあああぁぁぁああぁぁあ!!」 「つ、つかさ!」 衝撃波が発生しそうなスピードでつかさは教室を飛び出していき、その後をかがみが追う。 だがみゆきは腰を抜かして座り込み、恐怖でその場から動くことすらできなくなっていた。 「ひ……あ……!」 『まず……あなたから殺してあげるね……』 音もなくみゆきの前に忍び寄り、持っていた鉄パイプを掲げ、そして―― みゆきに向かって、勢いよく振り下ろした。 「が……!!」 相当な衝撃がみゆきを襲った。痛みは――あまりの痛みに痛覚が麻痺したのだろう――まったくと言っていいほどなかった。 顔を流れる液体を拭ってみると、掌は真っ赤に染まってしまった。 「い、泉さん……! や、やめてください……! やめ――」 みゆきが抵抗する間も、こなたは容赦なくみゆきを殴打する。 桃色の髪は赤く染まり、美しい顔が恐怖に歪む。 「い……ずみ………さ…………」 その声は届かなかった。反応すらせず、ただひたすらにみゆきを殴打する。 そして、みゆきは遂に動かなくなった。 この部屋に残っている『人』は、みゆきの返り血で全身を赤く染め上げた彼女一人だけ。 『うふふ……あは、あはは……あははははははははははははは!!』 彼女は不気味な笑い声を教室に響かせ、そして呟いた。 『あと二人……ドコニイルノカナ……?』 彼女が歩く後には、鉄パイプから流れ出た血が、ポタポタと音をたてながら床に落ちていった。 ――ねえ、鬼ごっこなんだよ? ――もっとみんな、楽しもうよ ――ほら、逃げる人はこう言わなきゃ   オニサンコチラ……   テノナルホウヘ…… / 「はぁっ……はぁっ……」 校内をひたすらに走り、つかさが辿り着いたのは五階の教室だった。 とにかく、こなたから――こなただった存在から逃げ出したかった。 「……こなちゃん、が……」 親友が、幽霊に取り憑かれた。彼女を恐怖で震え上がらせるには充分な出来事だ。 一刻も早くここを出ていきたかった。さっさと家に帰って、温かい飲み物でも飲みたかった。 だが、それはできない。ここから出ていくということは、かがみやみゆき、そしてこなたを置いていくということになる。 「どうしよう……どうしよう……!!」 帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れな…… 「そ、そうだ!」 その時、名案がつかさの頭に浮かんだ。 霊に取り憑かれているのなら、お祓いすればいいのだ。 つかさの家は神社、父がお祓いをやっているところを見たことが何回かある。 父を呼んで、こなたをお祓いしてもらおう。 そう思って立ち上がり、教室のドアを開け放つと―― 『み~つけた……』 「ひ!!」 目の前に、こなたがいた。 彼女の髪は、服は、顔は、血液で真っ赤に染まっている。これは、つかさでなくても恐怖を抱くだろう。 「ぁ……う……」 『次は……お姉ちゃんを殺してあげる……』 次は。 つまり、誰かがもうすでに……? 「うわあぁあああぁぁぁぁああああ!!」 その事実に気が付いた時、彼女は教室を走り去っていった。 親友が取り憑かれたという恐怖、誰かが殺されたという恐怖、自分が殺されるかもしれないという恐怖……。 彼女はもう、限界だった。 「ゼェ……ゼェ……! い、いや! 来ないで、来ないでぇ!!」 『あはは……あはは……』 必死に走るつかさを、こなたは邪悪に笑いながら追い掛ける。 そのスピードは、こなたの方が圧倒的に上だった。 それでも、まだ距離はある。教室とかを使って巧みにやり過ごせば、あるいは――! ……だが。 「ゼェ……うそ……行き止まり!?」 目の前にはガラスがあるだけ、教室も階段も何もない、完全な行き止まりだ。 後ろを振り向くと、こなたはもうすぐそばまで来ていた。 「もう……やだ……! 誰か……助けて……!!」 彼女の叫びは、誰にも届かない。 こなたは彼女のすぐそばににじり寄り、赤く染まった鉄パイプを振り上げ―― 『タスケテアゲル……』 「……え……?」 『ソノ……クルシミカラネ……!!』 ガラスごと、彼女を突き飛ばした。 「きゃあああぁああぁぁあああああぁああああ!!!」 叫びながら彼女は地面に落ちていく。 何かが潰れる音が響き――彼女の声は、聞こえなくなった。 『うふふ……あと一人……あと一人……!!』 つかさが落ちていった後を見下ろしながら、こなたは不気味に笑った。 ――どうしてそんなに怯えてるの? ――鬼ごっこしてるのに、楽しくないの? ――私と鬼ごっこするのが、怖いの?   ジャア、私ガラクニシテアゲル……   ラクニシテアゲル……   ラクニシテアゲルネ……!! / 「はぁ……はぁ……つ、つかさ……逃げ足だけは早すぎ……」 少し前、つかさの後を追っていたかがみは膝に手をついていた。 必死になってつかさを追ったのだが、追い付くどころか逆に見失ってしまったのだ。 「みゆきなら無事でしょうけど……つかさは怖がりだから……早く見つけてあげなくちゃ……」 そう自分を鼓舞し、かがみはまず階段を上って二階へと向かう。 教室やトイレをひとつひとつ入り、つかさが隠れていないか捜すが、見つからない。 二階にはいないと判断し、かがみは三階へとあがっていく。 ちなみにその三階にはすでにこなたがいたのだが、かがみが教室内に入っているうちに素通りしてくれたために鉢合わせすることはなかった。 「……いないわね……」 三階をくまなく捜したが、つかさはいなかった。 三階から四階へ、かがみは向かう。 突き当たりまで捜したが、四階にもつかさの姿はなかった。 隠れているのではなく、校内を走り回っているのではないか、そう思ってきびすを返した瞬間―― 「きゃあああぁああぁぁあああああぁああああ!!!」 「え……」 後ろから、つかさの叫び声が聞こえてきた。 後ろには窓しかないはずなのに……そう思って振り返ると―― つかさが恐怖で顔を歪ませながら、窓の向こうで落ちていくではないか。 「つか……!!」 駆け寄り、窓の下を除くと、グシャグシャに潰れたつかさの姿が―― 「……うそ……うそよ……そんなの……」 かがみは頭を抱えて力なく地面に崩れ、大粒の涙をポロポロと流した。 「いや……いやーーーーーーーー!!」 小さい頃から共に育ち、互いが互いを必要としあっていた、最愛の妹が逝ってしまった。 そんなの……受け入れられるはずがない。 「えぐ……ひぁ……つ……つかさぁ……」 嗚咽をあげながら、泣き続けるかがみ。 涙を拭こうともせず、ただただ床を見つめていた。 『もう……お姉ちゃんで最後だよ……』 突如、そう声がした。振り返るとそこには、血で真っ赤に染まったこなたが。 「もう……最後ですって……?」 ゆっくりと立ち上がり、呟く。 その声が震えているのは――悲しみのせいではない。 『そうだよ……後の二人は殺してあげた……あとはお姉ちゃんだけ……』 「あんた……つかさだけじゃなく……みゆきまで!!!」 彼女にはもう、怒りの心しかない。 血まみれのこなたに対する恐怖も、みゆきとつかさを失ったという悲しみも、すべてが目の前の存在に対する怒りへと変化していた。 『安心して……スグニアナタモコロシテアゲルカラ……』 かがみにゆっくりとにじみ寄り、鉄パイプを高くかかげる。 だが、邪悪に笑うその顔が、逆にかがみの神経を逆撫でする。 「……死ぬのは……」 振り下ろされた鉄パイプを驚異的なスピードで避け、かがみは鉄パイプを奪い取った。 『な……』 「アンタよ!!!」 奪い取った鉄パイプを、こなたの頭に振り下ろす。 『が……!!』 血しぶきが、かがみの髪を、服を、顔を、真っ赤に染め上げていく。 実体を持たない幽霊の状態なら、鉄パイプは空振りしていたであろう。 だが、今はこなたに取り憑いている。ダメージも直接幽霊に届いているようだ。 もっとも、今のかがみにそれを考えるだけの知能は存在していなかった。 「あはははは! どう!? これがみゆきが!! つかさが!! 味わった恐怖なのよ!! あはははははははははは!!」 かがみは憎しみから、ただひたすらに鉄パイプを振り下ろしていた。 みゆきとつかさを殺した幽霊、それが『泉こなたに取り憑いている』ことも忘れて…… 「殺してやる……殺してやる!!!」 血に染まったその顔は、それこそ『鬼』であるかの如く、怒りに満ちていた。 鉄パイプを両手で高く掲げ、これが最後だと言わんばかりに振り下ろそうとした時―― 「か、かが……み……」 「え……」 かがみは、鉄パイプを落とした。 「こ……こなた……? 正気を取り戻したの……?」 「みたい……だけど……かがみ……これ……やり過ぎ……だよ……」 そこでようやく気が付いた。自分が今、なにをしていたのか。 ただ一心不乱にこなたを殴打し続けていたのだが……こなた自身には、何の罪もないのだ。 何の罪もないのに、かがみは……こなたを殺そうとしていた。 「私……もう……ダメみたい……」 「こなた……ごめん……ごめんね……!!」 「ううん……かがみは……悪く、ないよ……悪い、のは……みんなを誘った、私……」 自分は、なんてことをしてしまったんだろう。かがみの流した涙が、こなたの頬にポタリと落ちる。 だが、今ごろ後悔しても、もう無駄なのだ。後悔しても、起きてしまった出来事は変わらない。 「最期に……かがみと、話せてよかったよ……これで……ちゃんと……サヨナラ、が、言える……」 「イヤぁ……サヨナラなんて……言わないでよぉ……」 こなたはフーっと息を吐くと、先ほどまでとは違う、優しい笑顔をかがみに向けた。 「かがみ……短い、間だったけど……この三、年間……楽し、かったよ……」 「うん……私も……楽しかったよ……」 「今まで……ありがとう……来世で、も……友達、で……いよう……ね……」 「……こなた……?」 その瞬間、こなたの瞳から、光が消えた。 「……イヤ……こなたぁ……」 かがみは、動かなくなったこなたの身体にしがみついて、ただひたすら、涙を流した。 それは、友を失った悲しみの涙なのか、それとも―― / それから数ヶ月後、かがみは自らが通う高校・陵桜学園の屋上にいた。 転落防止のフェンスを乗り越え、ギリギリに立ったところで、天(そら)を仰ぐ。 「みゆき……つかさ……こなた……私、みんながいない世界を生きていくなんて……できないや……」 天に向かって一人呟き、首を縦に振る。 「……わかってる。本当は、みんなの分まで生きなくちゃいけないんだよね。でもね……私、どんどん成績が落ちていってる。しかもこなた以下なのよ?」 グラウンドで、何人かの生徒がかがみを指差して騒いでいた。 それを気にせず、かがみは一人、天に向かって話し続ける。 「それに、私の罪は未だ償われてない。正当防衛が適用されたらしいけど、だからって、私の罪が消えたわけじゃない」 「おい、柊!! お前何やっとんねん!!」 隣の、こなた達のクラス担任・黒井ななこが屋上にやってきた。 だが、それすらも無視して、かがみはひたすらに話し続ける。 「自分勝手でごめんね。だけど、私もう……生きていくのに疲れちゃった。だから今……そっちに逝くね」 「!? お、おい柊! 柊!!」 かがみはトンっとジャンプし、空中に身を預けた。 ――私は……鬼ごっこの鬼なの…… ――死んでしまった友達を追い掛ける…… ――哀れで、寂しがり屋の鬼…… / ――ねえ、鬼ごっこしようよ…… ――鬼なら、私がやるから…… ――みんなは、鬼の私から逃げるの…… ――捕まったら…… 『コロシテアゲル……』
夏休みも中盤に差し掛かったころ、『夏だし恒例じゃん!』という泉こなたの提案で、四人は県内にある小学校の旧校舎にやってきた。 十数年も前に校舎は新しく建てられたのだが、予算が厳しいために取り壊しも行われていない。 湿気を伴った風が、彼女達の間を吹き抜けていく。暑苦しい大気が急に冷え込んだような気がした。 「……まるで爆撃のあとね……」 五階建ての校舎を見上げ、柊かがみが言った。 校舎の窓ガラスは全て割れている。壁の色が茶色がかっており、広島の原爆ドームを彷彿とさせる。 その時、青ざめた顔をした柊つかさが、高良みゆきの袖をくいくいと引いた。 「ね、ねぇ……帰ろうよぉ……! ここ、絶対に何かいるよ……!!」 目尻に涙を浮かべ懇願してくる姿を見て、みゆきは少し可哀想な気がしてきた。 つかさはこの話に乗ったわけではない。こなた達に無理矢理連れてこられたようなものだ。 帰りましょうか? と、そう言おうとしたその時、 「せっかくここまで来たんだから行こうよ。赤信号、みんなで渡れば怖くないっ!」 「ふぇぇ!?」 こなたがつかさの手を引っ張って校舎に入っていってしまった。 嫌がっているのだから、つかさだけでも帰した方がいいのではと思ったのだが。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、みゆき。幽霊なんか、いるわけないんだから」 そう言うと、かがみも校舎の中に入っていってしまった。 だが、みゆきは入るのをためらった。この旧校舎について、いくつか怖い噂を耳にしているからだ。 『自殺した女の子の霊が校内を彷徨っている』だの、『踏み込んだ男子数名がそのまま行方不明になっている』だの。 「みゆきー! 置いてくわよー!」 「あ、はい!!」 かがみの声で我に返り、みゆきは駆け出した。 ――何事も起こらなければよいのですが―― / 月光が差し込み、中は比較的明るめだったが、外よりも荒れ果てていた。壁のコンクリートが崩れていて、床もボロボロ。所々に穴が空いていた。 「怖いよぉ……」 「大丈夫よ。みんなが一緒にいるんだから」 「さ、行こっか!」 こなたが先頭を切って進む。その後ろをみゆき、そして柊姉妹と続く。 一階にある音楽室、理科室、各教室を廻っても、特に怪奇現象のようなことは起こらなかった。 四人は一階の探索を終え、階段を上って二階へとあがる。 そしてしばらく進んだところで、かがみが小さく呟いた。 「それにしても、荒れ果ててるわねぇ」 「あ~、こういうとこってさ」 こなたが振り返りもせず、人差し指を立てて言った。 「普通に歩いてるだけでもさ、『床が抜ける』っていうお約束――」 突然、こなたの身体がぐっと沈みこんだ。 「が?」 自分の足下が、崩れていた。 「おわあぁぁぁぁあ!!」 重力に逆らえるはずもなく。 ボロボロのトタンを踏み抜いて、こなたは建材や床板と共に下の階へと転落していった。 「こなた!!」 「こなちゃん!!」 「泉さん!!」 一階に残された三人は穴の縁から階下を覗き込む。 腰のあたりをさすりながらゆっくりと上半身を起こすこなたの姿が、そこにはあった。 「いたた……も~、なんなのさ~……」 自分で言ったことなのだが、まさか現実に起こるとは思ってもみなかったのだろう。 「こなた、無事!?」 「うん、大丈夫……ッ!」 かがみの問いかけに答え、立ち上がろうとしたのだが、そのまま座り込んで左足の足首を両手で押さえた。 「……足、挫いちゃったみたい……」 上を見上げるこなたの顔が、青ざめていた。 こなたもこの旧校舎の噂を聞いていた。それだけに、『何か起きたとしてもすぐに逃げられない』という恐怖が生まれたのだろう。 いつものお気楽な感じが鳴りをひそめていた。 「泉さん、待っていてください。今すぐそちらに向かいますから」 「たく、手間かけさせるわね」 かがみとみゆきは立ち上がり、元来た道へときびすを返す。 だが、つかさはその場に残っていた。『こなたを一人きりにさせる』ことが、逆に怖かったのだ。 「つかさ、早く!」 「う、うん……」 かがみに急かされ、つかさはやむを得ず二人の後を追った。 だが不安は拭えず、途中で何度も何度も後ろを振り向く。こなたが大丈夫か、気になって仕方がないのだ。 階段を目の前にして、ついにつかさは立ち止まった。 「つかさ。こなたなら、大丈夫よ。まごついてたら、逆に助けに行くのが遅くなるじゃない」 「……うん、そうだね」 もう結構な距離を歩いてきた。自分一人だけ戻ることもできない。 だからつかさは、二人の後を追った。それからは一度も振り返らず。 ――そうだ。こなちゃんなら、大丈夫だよね。だから、さっき聞こえたこなちゃんの叫び声は、気のせいなんだよね―― / 一階の廊下は、二階の床板やらが散乱していた。 最初に通った時には天井に穴は開いていなかった。だから、ここがこなたが落下したところなのだろう。 だが、廊下には、こなたの姿は見えなかった。 「こなた、どこ行ったのかしら?」 「近くにいるといいのですが……」 近くの教室を覗き込むが、人影はない。 これはこなたなりのイタズラなのか? そう思った時、気が付いた。 つかさが、先ほどの場所で身体をガタガタと震わせていることに。 「つ、つかさ……?」 「どうされました……?」 「お姉ちゃん……ゆきちゃん……こなちゃんが……こなちゃんが……!!」 つかさは、階段を降りる手前で聞いたこなたの叫び声のことを話した。 やはり二人には聞こえていなかったみたいで、その事実を知った時、霊の類をまったく信じないかがみですら息を呑んだ。 「早く泉さんを捜しましょう!」 「ええ!!」 三人は一階を駆け回った。音楽室、理科室、各教室と――だが、見つからない。 「二人とも、いました!」 みゆきがそう言ったのは、捜索から五分後のことだった。 ドアを開けて中に入ると、その教室には、確かにこなたがいた。 後ろ姿ではあるが、月明かりに照らされた青い髪、てっぺんから出たアホ毛で判断できる。 「こなちゃん……!」 名前を呼んで、つかさが駆け寄ろうとするが……様子が変だ。 『……ねえ、お姉ちゃん達……』 後ろ姿というより、若干斜めになっていると言うべきか。だから、その言葉がこなたの口から発せられたことはわかった。 だが……その声は、いつものこなたの声とは質感がまるで違った。 『鬼ごっこしようよ……。鬼は私で、お姉ちゃん達が逃げるの。捕まったら……』 『コロシテアゲルカラ……』 「――!!!」 振り向いたその姿は、もはや泉こなたのものではなかった。 抑揚のない言葉、蒼白く不気味な顔、虚無に沈み茫洋とした瞳、そして――右手に握り締められた鉄パイプ。 目の前にいる存在が『こなたであってこなたでない』。そう気付くまでに、数秒の時間を要した。 それほどまでに、彼女は変わり果てていたのだ。 「う……うわあぁぁあああぁぁぁああぁぁあ!!」 「つ、つかさ!」 衝撃波が発生しそうなスピードでつかさは教室を飛び出していき、その後をかがみが追う。 だがみゆきは腰を抜かして座り込み、恐怖でその場から動くことすらできなくなっていた。 「ひ……あ……!」 『まず……あなたから殺してあげるね……』 音もなくみゆきの前に忍び寄り、持っていた鉄パイプを掲げ、そして―― みゆきに向かって、勢いよく振り下ろした。 「が……!!」 相当な衝撃がみゆきを襲った。痛みは――あまりの痛みに痛覚が麻痺したのだろう――まったくと言っていいほどなかった。 顔を流れる液体を拭ってみると、掌は真っ赤に染まってしまった。 「い、泉さん……! や、やめてください……! やめ――」 みゆきが抵抗する間も、こなたは容赦なくみゆきを殴打する。 桃色の髪は赤く染まり、美しい顔が恐怖に歪む。 「い……ずみ………さ…………」 その声は届かなかった。反応すらせず、ただひたすらにみゆきを殴打する。 そして、みゆきは遂に動かなくなった。 この部屋に残っている『人』は、みゆきの返り血で全身を赤く染め上げた彼女一人だけ。 『うふふ……あは、あはは……あははははははははははははは!!』 彼女は不気味な笑い声を教室に響かせ、そして呟いた。 『あと二人……ドコニイルノカナ……?』 彼女が歩く後には、鉄パイプから流れ出た血が、ポタポタと音をたてながら床に落ちていった。 ――ねえ、鬼ごっこなんだよ? ――もっとみんな、楽しもうよ ――ほら、逃げる人はこう言わなきゃ   オニサンコチラ……   テノナルホウヘ…… / 「はぁっ……はぁっ……」 校内をひたすらに走り、つかさが辿り着いたのは五階の教室だった。 とにかく、こなたから――こなただった存在から逃げ出したかった。 「……こなちゃん、が……」 親友が、幽霊に取り憑かれた。彼女を恐怖で震え上がらせるには充分な出来事だ。 一刻も早くここを出ていきたかった。さっさと家に帰って、温かい飲み物でも飲みたかった。 だが、それはできない。ここから出ていくということは、かがみやみゆき、そしてこなたを置いていくということになる。 「どうしよう……どうしよう……!!」 帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れな…… 「そ、そうだ!」 その時、名案がつかさの頭に浮かんだ。 霊に取り憑かれているのなら、お祓いすればいいのだ。 つかさの家は神社、父がお祓いをやっているところを見たことが何回かある。 父を呼んで、こなたをお祓いしてもらおう。 そう思って立ち上がり、教室のドアを開け放つと―― 『み~つけた……』 「ひ!!」 目の前に、こなたがいた。 彼女の髪は、服は、顔は、血液で真っ赤に染まっている。これは、つかさでなくても恐怖を抱くだろう。 「ぁ……う……」 『次は……お姉ちゃんを殺してあげる……』 次は。 つまり、誰かがもうすでに……? 「うわあぁあああぁぁぁぁああああ!!」 その事実に気が付いた時、彼女は教室を走り去っていった。 親友が取り憑かれたという恐怖、誰かが殺されたという恐怖、自分が殺されるかもしれないという恐怖……。 彼女はもう、限界だった。 「ゼェ……ゼェ……! い、いや! 来ないで、来ないでぇ!!」 『あはは……あはは……』 必死に走るつかさを、こなたは邪悪に笑いながら追い掛ける。 そのスピードは、こなたの方が圧倒的に上だった。 それでも、まだ距離はある。教室とかを使って巧みにやり過ごせば、あるいは――! ……だが。 「ゼェ……うそ……行き止まり!?」 目の前にはガラスがあるだけ、教室も階段も何もない、完全な行き止まりだ。 後ろを振り向くと、こなたはもうすぐそばまで来ていた。 「もう……やだ……! 誰か……助けて……!!」 彼女の叫びは、誰にも届かない。 こなたは彼女のすぐそばににじり寄り、赤く染まった鉄パイプを振り上げ―― 『タスケテアゲル……』 「……え……?」 『ソノ……クルシミカラネ……!!』 ガラスごと、彼女を突き飛ばした。 「きゃあああぁああぁぁあああああぁああああ!!!」 叫びながら彼女は地面に落ちていく。 何かが潰れる音が響き――彼女の声は、聞こえなくなった。 『うふふ……あと一人……あと一人……!!』 つかさが落ちていった後を見下ろしながら、こなたは不気味に笑った。 ――どうしてそんなに怯えてるの? ――鬼ごっこしてるのに、楽しくないの? ――私と鬼ごっこするのが、怖いの?   ジャア、私ガラクニシテアゲル……   ラクニシテアゲル……   ラクニシテアゲルネ……!! / 「はぁ……はぁ……つ、つかさ……逃げ足だけは早すぎ……」 少し前、つかさの後を追っていたかがみは膝に手をついていた。 必死になってつかさを追ったのだが、追い付くどころか逆に見失ってしまったのだ。 「みゆきなら無事でしょうけど……つかさは怖がりだから……早く見つけてあげなくちゃ……」 そう自分を鼓舞し、かがみはまず階段を上って二階へと向かう。 教室やトイレをひとつひとつ入り、つかさが隠れていないか捜すが、見つからない。 二階にはいないと判断し、かがみは三階へとあがっていく。 ちなみにその三階にはすでにこなたがいたのだが、かがみが教室内に入っているうちに素通りしてくれたために鉢合わせすることはなかった。 「……いないわね……」 三階をくまなく捜したが、つかさはいなかった。 三階から四階へ、かがみは向かう。 突き当たりまで捜したが、四階にもつかさの姿はなかった。 隠れているのではなく、校内を走り回っているのではないか、そう思ってきびすを返した瞬間―― 「きゃあああぁああぁぁあああああぁああああ!!!」 「え……」 後ろから、つかさの叫び声が聞こえてきた。 後ろには窓しかないはずなのに……そう思って振り返ると―― つかさが恐怖で顔を歪ませながら、窓の向こうで落ちていくではないか。 「つか……!!」 駆け寄り、窓の下を除くと、グシャグシャに潰れたつかさの姿が―― 「……うそ……うそよ……そんなの……」 かがみは頭を抱えて力なく地面に崩れ、大粒の涙をポロポロと流した。 「いや……いやーーーーーーーー!!」 小さい頃から共に育ち、互いが互いを必要としあっていた、最愛の妹が逝ってしまった。 そんなの……受け入れられるはずがない。 「えぐ……ひぁ……つ……つかさぁ……」 嗚咽をあげながら、泣き続けるかがみ。 涙を拭こうともせず、ただただ床を見つめていた。 『もう……お姉ちゃんで最後だよ……』 突如、そう声がした。振り返るとそこには、血で真っ赤に染まったこなたが。 「もう……最後ですって……?」 ゆっくりと立ち上がり、呟く。 その声が震えているのは――悲しみのせいではない。 『そうだよ……後の二人は殺してあげた……あとはお姉ちゃんだけ……』 「あんた……つかさだけじゃなく……みゆきまで!!!」 彼女にはもう、怒りの心しかない。 血まみれのこなたに対する恐怖も、みゆきとつかさを失ったという悲しみも、すべてが目の前の存在に対する怒りへと変化していた。 『安心して……スグニアナタモコロシテアゲルカラ……』 かがみにゆっくりとにじみ寄り、鉄パイプを高くかかげる。 だが、邪悪に笑うその顔が、逆にかがみの神経を逆撫でする。 「……死ぬのは……」 振り下ろされた鉄パイプを驚異的なスピードで避け、かがみは鉄パイプを奪い取った。 『な……』 「アンタよ!!!」 奪い取った鉄パイプを、こなたの頭に振り下ろす。 『が……!!』 血しぶきが、かがみの髪を、服を、顔を、真っ赤に染め上げていく。 実体を持たない幽霊の状態なら、鉄パイプは空振りしていたであろう。 だが、今はこなたに取り憑いている。ダメージも直接幽霊に届いているようだ。 もっとも、今のかがみにそれを考えるだけの知能は存在していなかった。 「あはははは! どう!? これがみゆきが!! つかさが!! 味わった恐怖なのよ!! あはははははははははは!!」 かがみは憎しみから、ただひたすらに鉄パイプを振り下ろしていた。 みゆきとつかさを殺した幽霊、それが『泉こなたに取り憑いている』ことも忘れて…… 「殺してやる……殺してやる!!!」 血に染まったその顔は、それこそ『鬼』であるかの如く、怒りに満ちていた。 鉄パイプを両手で高く掲げ、これが最後だと言わんばかりに振り下ろそうとした時―― 「か、かが……み……」 「え……」 かがみは、鉄パイプを落とした。 「こ……こなた……? 正気を取り戻したの……?」 「みたい……だけど……かがみ……これ……やり過ぎ……だよ……」 そこでようやく気が付いた。自分が今、なにをしていたのか。 ただ一心不乱にこなたを殴打し続けていたのだが……こなた自身には、何の罪もないのだ。 何の罪もないのに、かがみは……こなたを殺そうとしていた。 「私……もう……ダメみたい……」 「こなた……ごめん……ごめんね……!!」 「ううん……かがみは……悪く、ないよ……悪い、のは……みんなを誘った、私……」 自分は、なんてことをしてしまったんだろう。かがみの流した涙が、こなたの頬にポタリと落ちる。 だが、今ごろ後悔しても、もう無駄なのだ。後悔しても、起きてしまった出来事は変わらない。 「最期に……かがみと、話せてよかったよ……これで……ちゃんと……サヨナラ、が、言える……」 「イヤぁ……サヨナラなんて……言わないでよぉ……」 こなたはフーっと息を吐くと、先ほどまでとは違う、優しい笑顔をかがみに向けた。 「かがみ……短い、間だったけど……この三、年間……楽し、かったよ……」 「うん……私も……楽しかったよ……」 「今まで……ありがとう……来世で、も……友達、で……いよう……ね……」 「……こなた……?」 その瞬間、こなたの瞳から、光が消えた。 「……イヤ……こなたぁ……」 かがみは、動かなくなったこなたの身体にしがみついて、ただひたすら、涙を流した。 それは、友を失った悲しみの涙なのか、それとも―― / それから数ヶ月後、かがみは自らが通う高校・陵桜学園の屋上にいた。 転落防止のフェンスを乗り越え、ギリギリに立ったところで、天(そら)を仰ぐ。 「みゆき……つかさ……こなた……私、みんながいない世界を生きていくなんて……できないや……」 天に向かって一人呟き、首を縦に振る。 「……わかってる。本当は、みんなの分まで生きなくちゃいけないんだよね。でもね……私、どんどん成績が落ちていってる。しかもこなた以下なのよ?」 グラウンドで、何人かの生徒がかがみを指差して騒いでいた。 それを気にせず、かがみは一人、天に向かって話し続ける。 「それに、私の罪は未だ償われてない。正当防衛が適用されたらしいけど、だからって、私の罪が消えたわけじゃない」 「おい、柊!! お前何やっとんねん!!」 隣の、こなた達のクラス担任・黒井ななこが屋上にやってきた。 だが、それすらも無視して、かがみはひたすらに話し続ける。 「自分勝手でごめんね。だけど、私もう……生きていくのに疲れちゃった。だから今……そっちに逝くね」 「!? お、おい柊! 柊!!」 かがみはトンっとジャンプし、空中に身を預けた。 ――私は……鬼ごっこの鬼なの…… ――死んでしまった友達を追い掛ける…… ――哀れで、寂しがり屋の鬼…… / ――ねえ、鬼ごっこしようよ…… ――鬼なら、私がやるから…… ――みんなは、鬼の私から逃げるの…… ――捕まったら…… 『コロシテアゲル……』

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。