ID:s70pHTmT0氏:事故

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「きゃあ!?」 いつもと変わらないはずだった放課後。 結構なスピードで私の横を通り過ぎる自転車。 とっさにかわしたものの、体はバランスを失い、歩道からはみ出ていた。 「かがみ、危ない!」 エンジン音が近くで聞こえたと思ったら私は何かに突き飛ばされて つかさの悲鳴が聞こえて、私は地面に倒れてて。 それで……それで? そうだ。私は助かったんだ。 自転車にぶつかられそうになって、とっさに避けた私は歩道からはみ出していて 車に撥ねられるところだったんだ。 その瞬間、何かに突き飛ばされた感じがして、目の前に見慣れた青い髪が舞っていたんだ。そう。 そっか、こなたが撥ねられたんだ。 撥ねられそうになった私の───身代わりになったんだ。 「こなちゃん…ひっく…」 それで、何があったかわからないうちにこなたは病院に運ばれて 私も何かあるかもしれないからって病院に連れてかれていた。 気づけば治療が終わって、つかさに促されるがままに手術室の前に向かったんだ。そうそう。 そして手術室の前のソファーでつかさと、こなたのお父さんと、こなたの従姉妹の成実さんとで座ってて。 手術は、数時間後に終わった。日なんてとっくに暮れていた。 医者が手術室から汗だくになって出てきた。 みゆきも加わっていたので、五人がその医者を一斉に見る。 「手術は無事終わりました。ですが」 私は何か嫌な予感がしてた。 もうその先は言わないで。お願い。知りたくもない。 一命を取り留めたものの、こなたの意識が戻るかどうかはわからない。 植物状態ではないが、いつ目が覚めるかもわからない。 目が覚めたとしても、何かしらの後遺症が残る可能性が高い。 現実を叩きつけられた私は、口を押さえ病院のトイレへと走った。 きっと青ざめた顔をしてたんだと思う。いや、絶対。 翌日、学校になんか行く気分じゃなかった。 自分のせいでこなたが撥ねられ、意識がない。 そう思っただけでも吐き気がした。 だけど、「お姉ちゃんが元気出さないと、こなちゃんだって…」 そう言って涙目になるつかさの想いを無下にすることもできず 私は制服を身につけ、体が拒否する朝食を体に流し込み、学校へ向かった。 朝のホームルームで、名前は出されなかったものの、こなたの事故のことが皆に伝えられた。 騒然となる教室。それでも時間は流れて授業が始まる。 ───私はその日、初めて授業中に居眠りをした。 放課後、いつもよりすごく静かな二人と、こなたが眠る病院へと向かった。 こなたの眠る顔を見るのが辛かった。 こなたの父さんに会うのはもっと辛かった。 それでも、病院へ行かなきゃいけない気がした。 こなたの病室には、こなたの父さんがいた。涙の跡が伺えた。 大切な人が一瞬にして傷つけられ、目を覚まさないかもしれない一大事に陥った。 それなのに、この人は私たちが扉をノックすると明るい声で返事をし、 明るく振舞い、常に笑顔を浮かべていた。強い人だと、心から思った。 「ごめんなさい」 開口一番、私は頭を深々と下げ、目に涙を浮かべ、こなたの父さんに謝っていた。 「私のせいでこなたさんが…本当に…すいません…ごめんなさい…」 最後のほうは何を言っているのか、誰にも分からなかったと思う。 みゆきやつかさの前でこんなに涙を流すのは恥ずかしかったし 何より許されないかもしれないと、それが怖かった。 私の頭に添えられる手。 「いいんだよ。君が悪いとは全然思ってない」 優しい声と共に頭を撫でられた。 私は声を上げて泣いた。 ───許されてごめんなさい、こなた─── 一ヶ月の時が流れた。 私とつかさは二、三回警察の人たちに呼び出されたりもしたけど こなたの父さんが上手くやってくれたらしく、特別何かやらなければいけないことなどはなかった。 心から感謝した。と同時に、心から自分が嫌な奴だと思った。 自分がのうのうと生きてて、面倒ごとに巻き込まれなかったから感謝してしまった。 本当は違うだろうに。違わないといけないのに。私は感謝してしまった。醜い。 それから数日後、日課になっていたこなたの見舞いに行った。 言ってなかったけど、もう夏休みも後半に入り、去年ならこなたが宿題云々と 私に甘えてきてた頃だ。でも、今年は……いや、もしくはもうそんなこと、ないのかもしれない。 病室の扉をノックすると、返事がない。どうやら、こなたの父さんは今日は来ていないようだ。 静かに扉を開けると、少しだけ開けられた扉から風が入っているのがわかった。 その風に、思わず目を細めたから。 そして、それからゆっくりと窓の横のベッドで眠るこなたに視線を移した。 長い前髪が風に揺られ、そよそよとなびいている。表情は…どこか寂しげだったのをよく覚えている。 私とつかさは、ベッドの横に病室供え着けの椅子を並べて座った。 こなたの顔をじっと見つめていた。 幼児体型のこなたの顔が少し痩せて見えた。実際、結構痩せたんだと思う。 そんな顔に、気づけばそっと手を添えていた。 ───…温かい。 がらがら、と扉の開く音がした。 二人して、同じように振り向くとこなたの父さんがいた。 「お、今日は先客がいるのか」 にっこり笑うこなたの父さん。その笑顔が、私の心に突き刺さる。 「……こいつ、結構綺麗な顔してるだろ。……あ、いや別に親ばかって訳じゃないんだけど」 私とつかさは、こなたの父さんから目を離さなかった。離せなかった。 「実はな、こいつの母親は、こいつが生まれてすぐに死んでな」 ベッドの側まで歩み寄りながら、こなたの父さんが続ける。 「……こいつの今の顔が、あいつのときとそっくりなんだ…綺麗でさ…」 こなたの父さんは、そこで言葉を止めた。その声は震えていた。 ゆっくりと体を扉のほうへ向け、扉に手をかけた。 「ごめんね、二人とも…大したもてなしもできなくて…ちょっとトイレに行ってくるよ…」 「こなた…ごめん…」 私の口から無意識のうちに言葉が漏れていた。 「ごめん…ごめんね…」 止まらない言葉に、つかさが驚いたのか私を見つめている。 「…私…あんたがいない学校、本当につまらなかったよ…」 さっきみたいに、そっと手を添える。 「本当に…つまらなかった…お願い…目を覚まして…そして……  いつもみたいに私を馬鹿にしてよ…宿題見せて、って…甘えてよ…!」 次第に声が大きくなっていくのが自分でもわかった。でも抑えるつもりもなかった。 「もう……ひどいこと言わない……宿題だって…喜んで見せる…だから…」 「目を覚ましてよ…!」 ピクリと、動いたこなたの右手。 私はそれを見逃さず、こなたの右手を両手でがっちりと握り締めた。 「こなた…!聞こえる?私よ…かがみよ!」 握り締める私の手を、こなたの手が握るのを感じる。 「こなた……こなた!」 ゆっくりとこなたの瞼が上がる。 「……」 私もつかさも、目を見開いて、口をぽかんと開けたままだった。 こなたが目覚めて、何か言うべきなのに、私たちはただ無言だった。 そして、こなたは私に向かってこう言った。 「かがみ、無事だった?」 こなたの笑顔は、まるで咲き誇る向日葵のようだった。 名前:事故 余談 ◆H42nGfJq.s [sage] 投稿日:2007/06/10(日) 03:13:17.15 ID:s70pHTmT0 これ、俺の実体験を元にして書きました。 かばってくれた友人は不幸なことに帰らぬ人になってしまいました。 今年の八月で3回忌。 みなさんも自転車に乗る時は気をつけましょう。 お願いします。

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