「ID:mzShm/rI0氏:井戸端会議は続く。 ~School Days Lucky☆Star ver.」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
少女は、ただひたすらに困惑していた。
自分が今からすべきことなんて決まっている。己の正義に従って、それを行えばいいだけ。
なのに身体が動かない。緊張を孕んだ汗が頬を伝い、地面へと落ちていった。
理想と現実の差。それを己の中で克服しなければ、行動に移すことなど不可能なのだから。
認識せずに飛び込んでいくだけの行為は、ただの蛮勇でしかないのだから。
ふと、見つめる先。
動きがあった。男がか弱い少女ににじり寄っている。
このまま腕を掴まれたら、どこへ連れて行かれるのだろうか。
この体格差だ。一度掴まれたら引き剥がすことは難しい。あまつさえ人質に取られたりなんかしてしまったら。
迷っている時間は無かった。
相手の死角。背後へと姿を隠し、出来るだけ足音を立てないようにして助走をつける。
狙うは相手の後頭部。失敗は許されない。あの男ならば少女二人を組み伏せるくらい容易いだろう。そうなってしまえばもう抗う術は無い。
格闘技など、身体を動かせなければ剣を持たない剣士と同じことなのだから。
それでも少女は、見知らぬ女の子を救うことに躊躇いを持たなかった。
寄せてくるさざなみの如く、微細な足音がどんどんと近づいてくる。男は不審に思って振り向いたがもう遅い。
少女の渾身の両足跳び蹴りが、顔の30センチ前まで近づいていた。
いける。仕掛けた少女は思った。
だがそれも一瞬。男は体格に似合わぬ、常人を遥かに超越した反射神経で首を引っ込めた。飛んでくる『何か』が髪と鼻先をかすめ、だが余りに正確に狙いを定められたキックをよけるには十分だった。
信じられない。
そう思いながらも、ずざざっ、と地を鳴らして女の子を守る体勢をとった。
まだ終わってはいない。たとえ絶望的ではあっても、立ち向かわない者に勝利は絶対におとずれない。道場で修業していた時に教わったことだった。
どんなに苦難の道であっても、常に前を向いていろと。意識せずとも、身体に叩き込まれたその教えだけが彼女を前へ向かわせていた。
ふと、自分の持っていた鞄が目に入る。
こんな捨て身の特攻を仕掛ける時にでも律儀に持っていたなんて、やはり正常な思考状態ではなかったんだな、と苦笑い。
だが少女はひらめいた。ちょうど、帰り道に新しく買ってきた包丁があったじゃないか、と。
法律には引っかかるが、こんな体格の違う人攫いに法も何もないだろう。
迷わず鞄を開けると、乱雑に袋から取り出して左手に握った。
相手がこれに恐怖を抱いてくれたら。それが一番手っ取り早い解決方法だろう、と。
しかし相手は構えを取った。それは戦う意志に他ならない。
包丁を握り締める彼女は、剣士ではなかった。刃物の使い方も全く心得ていない。
が、自分が今習得している体技に応用する形で使っていくしかないだろう。
もはや、賽は投げられたのだから。
自分の持てる最大出力をもって相手の懐へと飛び込んだ。
刃物の類といえど、刃渡りは長い方ではない。斬る行為は逆に無駄な隙を作るだけだ。
それならば。
先ほどと同じ要領だった。狙いは一点。中らざれば死の覚悟で。
銀の煌きが、鮮血に染まった。
小さくうめく声と、地に伏す大きな音。
そこから発せられるワインレッドの水溜りは、何故だかとっても滑稽に思えた。
かーなーしーみの~向こうーへと~♪
「こなちゃん、ケータイ鳴ってるよ」
「またえらく暗い雰囲気の歌だな」
「いやいや、たまにはケータイも空気を読んだんじゃない?で、まぁとりあえずその後は震えて動かないつかさの手を取って、その場を逃げてったんだ。それがつかさと私の出会いってワケ。
大丈夫、証拠品はちゃんと撤去してったから」
「ハッキリ言わせてもらうけど、それは正当防衛でも何でもない、明らかな過剰防衛だからな。そりゃつかさも3日間飲まず食わずで寝込んじゃうわけだ。
それがもしつかさの言うとおり、道を尋ねてただけの人とかなら満場一致で犯罪者確定よ」
「あ、あうぅ‥‥思い出させないでよ、お姉ちゃん‥‥」
「まぁそういうことだよ。さぁ~かがみんもご一緒に、nice boat.」
「意味が分からないし笑えない。割とマジで」
井戸端会議は続く。