ID:NFDcmIV00氏:片道チケット

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授業をサボろうと保健室へ向かっていた俺は、階段で思わず足を止めてしまった。 階段の踊り場で、小さな少女が一人が蹲っていたのである。 「おい、大丈夫か!?」 はっと気が付いて、急いで階段を駆け下りる。 そして蹲っていた少女の肩を揺らした。 しきりに声をかけると、僅かな反応がある。首を縦に振っていた。 しかし息も荒いうえに顔色も悪く、大丈夫と言える状態で無いのは明らかだった。 だから俺は少女を肩に抱え、保健室へと進んだ。 保健室に辿り着くと、天原先生が対応してくれて、手際よくベッドへ寝かしつけた。 その間やることも無く、先生と少女のやり取りを眺めていると、先生が俺へ手招きをしながら 「やることが無いならこの子に付いていてあげてください。先生はちょっと用事があるので」 「え? ちょ、ま……」 そう言うと先生は急ぎ足で去ってしまった。 107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/20(火) 00:21:40.77 ID:NFDcmIV00 グルっと周囲を見渡す。すると少女と俺以外この部屋に誰も居ないことに気づいてしまった。 体が熱くなって行くのを感じる。駄目だ。自重しろ。俺。 なぜこんなにも緊張するのだろう。ベッドと外を遮断するカーテンががまるで鋼鉄の扉のように思える。 服を調え、頬を二回叩く。 こんなの小さなことだ。たったそれだけのことじゃないか。なぜ躊躇う。 俺は湧き上がる何かを必死で押さえ、カーテンを開けた。 「どうも~……」 少女は十数分前に比べて、随分と顔色がよくなっていた。 そんな少女は、入ってきた俺に対しても笑顔で応対してくれた。 「……ありがとうございました」 「あぁ、どうも。……もう体の方は大丈夫?」 「大丈夫です、でも…この分だとお昼過ぎまでは教室に戻れないと思います」 「あんまり無理しない方がいいよ、体調悪いんだろ…?」 「えっと……私、あまり体が丈夫じゃなくて……いつもこんなで……」 「あっ! その、ごめん……」 「気にしなくていいですよ、それより……えーと…名前を……あっ、私は一年生の小早川ゆたかです」 「あぁ、俺は三年の―――」 ここで自分の名前を名乗る。その後もしばらく小早川さんとの会話が続いた。 「確かお姉ちゃんのクラスに居た人ですよね…?」 「お姉ちゃん?」 確か俺のクラスには、小早川さんと同じ苗字の人は居なかったはず。 「あっ! すいません。従兄弟のお姉ちゃんです。泉こなたって言うんですけど」 俺の頭の中に、いつも不適な笑みを浮かべているクラスメートの姿が浮かんでくる。 「あぁ、うん、そうだよ、それがどうかしたの?」 「いえ、別に……えっと、そういえば授業は受けなくていいんですか?」 ……入学して一ヶ月も経ってない後輩に、サボったなんて言ったら面子丸つぶれだな。適当に誤魔化そう。 「だ、大丈夫だよ。それよりもクラスの保健委員は付いて来てくれなかったの?」 さっきからずっと気になっていた。まだ委員などは決まっていなかったのだろうか? 「今日はいつも付いて来てくれる保健委員の友達が休みで……それで一人で来たんです」 「そうだったんだ。大変だったね」 「さっきは結構辛かったので、本当に助かりました」 「そ、そうか。嬉しいよ」 思わず笑みが零れてしまう。感謝されて純粋に嬉しかった。 その後もしばらく会話を続ける俺と小早川さん。 しばらくして授業終了を示すチャイムが鳴ると共に、先生が戻ってきて 保健室を去ることとなってしまった。 ―――翌日 机に顔を突っ伏していた時、突然名前を呼ばれたので振り返ると、そこには泉こなたの姿があった。 「や~、昨日はゆーちゃんを助けてくれてありがとね~」 「た、助けたって大袈裟な」 頭を掻きながら、体を起こす。 「……それよりさ、ゆーちゃんって萌えるでしょ?」 「は?」 「だからゆーちゃんに萌えたかって聞いてるんだけど」 思わず噴出してしまった。 「へ、変な事聞くなよ!」 「まぁまぁ……で、どうなの?」 どうなの? なんて聞かれたって答えれるわけが無い。 何も出来ずに顔を手で覆い隠すと、泉の口から漏れる笑い声が耳に入ってきた。 「そんなの答えれるわけ無いだろ!」 「意外と初だね~」 「うるさいな、大体――」 「答えないってことは萌えたんだ」 「…………」 なんでこいつは、ここまで言いたいことをズバズバ言うんだろう。 ……そんなの答えられるわけがない。 「で、本題なんだけど。私はゆーちゃんから伝言を預かってきたんだよね」 泉がふっと真面目な表情に戻る。伝言? 一体なんだろう。 「『昨日はありがとうございました。お礼と言うわけでは無いのですけれど  今度の日曜日に映画でも一緒に見に行きませんか? 9時に学園前で待ってます』だって」 え? それってまさか――デート? 「それじゃあ~ね~。プクク」 俺が口を開く前に去っていく泉。 その顔は、再び緩い表情へと戻っていた。 ―――日曜日 緊張のせいか、俺は7時には既に目が覚めていた。 俺は出されていた朝食を腹に収め、普段はあまり着ない服を引っ張り出す。 そんなことをしてるうちに8時になり、俺は駅へ向かって走り出した。 学園前に到着した。心臓の鼓動が一段と早くなるのを感じる。 走ってきたからだろうが、でも多分……緊張してるのかな。 まだ時間には余裕があるだろう。待ち時間から30分以上は…… 甘かった。自分なりに早く来たつもりだったが、それよりも早く小早川さんは来ていた。 その姿を見ていて自分が情けなくなり、一目散に駆け出した。 小早川さんの所に辿り着く俺。息が上がりきっている。 「ごめん……待った?」 声に反応して、ビクッと体を揺らし、俺を見上げる。 「私もさっき来たばかりですよ、先輩」 これ以上に無いというほどの笑顔を俺に向けてくる小早川さん。 思わず見蕩れてしまった。 「何の映画見に行くの? お金なら俺が出すよ」 「いえ、私から誘っておいたので……それにお姉ちゃんからチケットを二枚貰っています」 そう言うと、小早川さんは二枚のチケットを取り出した。 これは……名探偵コ○ンの前売り券じゃないか。アニメ好きなのか? いや待てよ。お姉ちゃん、つまり泉から貰ってきたってことだよな? あ~。そういうことか。前売り特典が欲しいから購入して、余ったのを二枚渡したんだな。 「ハハハ……じゃあ行こう。上映時間は分かる?」 「はい、あと九時三十分からです」 「まだ結構時間があるんだな、どこかで時間を潰す?」 そう尋ねると、小早川さんは俯きながらボソっと呟く。 「………したいです」 よく聞こえなかったから、もう一度問う。すると…… 「前みたいに先輩とお話がしたいです!」 はっきりと、そう聞こえた。顔が真っ赤に染まっている。 そんな小早川さんを見て、こっちまで思わず顔が赤くなってしまった。 「わ、分かった、じゃあ早く映画館に入って良い席を取っておこう!」 「はい!」 小早川さんは返事をすると同時に、映画館へと駆けていった。 「このチケット小人用なんですが……」 係員にそう指摘され、慌てながらチケットを確認する小早川さん。 そして『小人』の文字を見て、落胆した様子を見せる。 しまった。特典目当てなら自分の分一枚を買って、後は小人用で済ませることが出来る。 それを度忘れして渡したんだな…… 「そちらの方ならこのチケット入れますが、お兄さんの方は向こうでチケットを……」 「えっ、私―――」 「すいません、この子も高校生です」 「し、失礼しました」 「仕方ないな……チケット買おう」 受付を離れ券売機の方へ行く。 「えーと……高校生二枚と……」 「私の体なら小人チケットで入れたんじゃないですか?」 小早川さんが背後から服を掴む。 「いや……騙して入るのはまずいだろうし、それに子ども扱いされるの嫌じゃない?」 「え…?」 俺がそう言うと、小早川さんは一瞬体を揺らし、下に俯いてしまった。 なんかまずいこと言ってしまったのか? 嫌われちゃったのかな 「お、お金は俺が出すよ。俺が悪いんだし……」 「べ、別にいいですよ! 自分の分は自分で出します」 「そんな遠慮しなくていいよ、俺が……」 「私に出させてください!」 その体からただならぬ気迫を感じる。何があっても自分で払う。言葉でも態度でもそう示していた。 俺は「分かった」と言って、券売機から下がる。 小早川さんはゆっくり微笑むと、用意していたお札を入れて高校生二枚のボタンを押した。 券売機から音を立てて二枚のチケットが出てくる。 それを取ると、小早川さんは俺に一枚差し出した。 俺がチケットを受け取ると、小早川さんは俺の手首を掴み再び受付へと向かった。 『じっちゃんの名にかけて!』『謎は全て解けた!』『犯人はあんただ!』 ……映画が終わる。犯人がまさかあいつだったとは意外だった。 隣の席に目をやると、興奮がまだ冷めてないのか額に汗を掻いている小早川さんが居る。 「凄かったですね……」 「ここまで緊張したのは久しぶりだよ、次はどうするの?」 「もうお昼ですね……近くのファミレスでも行きませんか?」 近くの時計に目をやると、既にお昼時になっていた。 「そうだね、映画を見た人たちが流れ込むかもしれないから、早く行こう」 席を立ち上がり、映画館を出た。 昼食を食べた後、デパートへ行ったりなんだりで、あっという間に夕方になってしまった。 「そろそろ家に帰らなきゃな……家の近くまで送ろうか?」 ちょっと早いような気もしたが、あまり連れ回したらまずいよな。 家の前まで送るのは躊躇うかもしれないけど、近くまでなら…… 「さ、最後に行きたいところがあるんですけれど、いいですか?」 「えっ、でも……」 「いいから来て下さい!」 そう言うと小早川さんは俺の手を握って、走り出す。 ……握られたその手は柔らかい上に温かく、思わずドキッとしてしまった。 「ここは……」 小早川さんの最後に行きたいと言った場所。 それは二年近く行き慣れた陵桜学園だった。 呆然と立ち尽くす俺を尻目に、小早川さんは走り出す。 それに気づき俺も校舎内へと進む。 部活動をやっていたのか、入り口の鍵は開いていた。 「……忘れ物でもしたのかな?」 誰に話しかけるわけでもなく、そう呟く。 しかし小早川さんは、教室とは別の方向へと向かう。 そのまましばらく付いていくと、唐突に小早川さんは歩くのを止めた。 ―――そこは、前に小早川さんが蹲っていた階段の踊り場。 「あの……どうかしたの?」 小早川さんに視線を移すと、顔を真っ赤に染め上げ、こちらを見つめていた。 さらに拳を握り締め、小刻みに震えているのが分かった。 「……どうかしたの?」 「―――好きです」 「え?」 「先輩のこと……大好きです」 ―――数秒間、意識が飛ぶ。 今、俺の耳が故障してなければ、す、好きって…… 「前に助けてもらった時から……ずっと……ずっと……」 小早川さんは俺の目を見つめている。その顔は覚悟に満ちていた。 対する俺は声を出そうと思っても出ない。震えてしまって出てこない。 力を振り絞り、なんとか声を押し出す。 「いいいいいいいいいいくらなんでも……は、早すぎじゃ……」 「だって……先輩は初めて私を子ども扱いせずに見てくれたじゃないですか  『子ども扱いされるの嫌じゃない?』って」 そう指摘され、映画館での出来事を思い出す。 必死に脳内をかき回し、気の効いた言葉を探すが、出てこない。 「……私じゃ、駄目ですか?」 「…………」 小早川さんが接近してくる。 ……俺は無言でそれを抱き寄せた。 小早川さんが、怯えるようにこちらを見上げる。 何も考えなくて良い、この一言を、この一言を捻りあげれば――― 「俺も……好きだよ」 ―――言えた。捻り出せた。 小早川さんの目から涙が零れ、俺の服を濡らす。 これでいい。これが自分の本心だからだ。 小早川さんが再びギュっと俺を抱きしめてくる。 そんな彼女に応えるかのように、俺は再び彼女を抱きしめた。 ―――半年後 電車のドアが開き、たくさんの人が降りていく。 俺もその流れに身を任せつつ、急ぎ足で電車を降りた。 階段を急いで降り、駅の入り口へと向かう。 そこには俺の彼女である少女、小早川ゆたかが居た。 「もう~遅いよ~!」 「ごめん、ゆたか。寝坊しちゃって……」 ゆたかは顔を膨らませ、俺の顔を凝視する。 そんなゆたかに対して、必死で頭を下げる俺。 これ以上醜態を晒さないように、必死で話題を考える。 「そういえば文化祭でチアダンス踊るんだって? 泉が言ってたぞ」 そう言った途端、ゆたかの顔が紅潮する。 「…………」 「恥ずかしがってちゃ、本番踊れないぞww」 「意地悪しないでよぉ……」 ゆたかが俯きながらそう呟く。心なしか声が潤んでいるように聞こえる。 「ごめん、ごめん。でも応援してるよ」 「あ、ありがとう、今日は―――」 ―――あの日から半年近く経ったんだな。 泉の失敗が結果的に俺たちを繋いだのか。なんか感慨深いな。 あの後、泉にからかわれたり、友人たちにロリコンだのなんだの言われたりした。 でも、後悔はしていない。なぜならそこに最高の笑顔があるからだ。 「じゃあ早く行こう、時間無くなっちゃうよ!」 ゆたかが満面の笑顔で振り返り、俺の手を握り締めた。

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