ID:4snWmxt80氏:雪と太陽

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二人で電車を待っていると、空から白いものが舞い降りてきた。 柔らかで、とても壊れやすい物が私達の頭上で踊っている。 「みなみちゃん。雪だよ、雪!」 「うん。そうだね」 返事と一緒に出た吐息は、無色の空気を一瞬にして白く染め上げ、すぐに透明に戻った。 冬の象徴ともいえる雪には、あまり良い思い出はない。 中学時代にも、学校で雪が降り始めたことは何度かあった。 誰かがそれを見つけて、歓声がクラス中に広がる。 私も同じように窓の外をじっと見て、綺麗だと思う。 それでも私は独りだった。 無邪気に窓から手を出すような性格ではなかったし、その場で誰かと話をするのも苦手。 だから私にとって、雪とは一人で見るものだった。 それが今では二人。隣にゆたかがいる。 「やっぱり溶けちゃうか~。手は冷たいほうだし、大丈夫かもって思ったんだけど……」 気がつくと、ゆたかはいつの間にか手袋を外して、直接雪に触っていた。 慌てて何か温める道具が無いかと探したが、カイロどころか手袋さえない。 「そうだ」 「えっ、みなみちゃん?」 私はコ-トのポケットに入れ続けていた手を出すと、ゆたかの手を握った。 「前に、私の手は温かいと言っていたから」 しかし、咄嗟の思いつきで行動をしてみたものの、やはり素手では熱を保てるはずがなかった。 ポケットに入れていたといっても、ずっとというわけではなく、定期券を出す時などには外気に触れる。 彼女が手袋を着けなおす事を妨害するだけだったのでは、と不安に思っていると、ゆたかは笑った。 「うん。やっぱり、みなみちゃんの手は温かいね」 「ゆたか。気を使わなくても……」 そう言いながら手を離そうとすると、ゆたかの手に力がこもり、引き離せなかった。 「本当だよ。身体は温まらなくてもね、心があったかくなるの」 「ゆたか……」 彼女は私よりもずっと小さな身体なのに、私よりもずっと大きな存在だと感じた。 私が雪ならば、ゆたかは太陽だろう。 優しくされると溶けてしまう 冷たい拒絶は平気でも 温もりには耐えられない 記憶も今の関係も ただ凍らせていたいのに ゆたかがそれを溶かしていく ゆたかと友達になって、田村さんという友達も増えて、学校生活はどんどん楽しくなる。 そして、私はどんどん欲張りになって、弱くなる。 自分が雪だった時には誤解を受けても耐えられたのに、今では少しだけ苦しい。 あの頃はそれが日常で、今ではそれは悪夢の世界。 彼女がいなくなったとしたら、溶けかけの私は、再び雪へと戻る以外にない。 だけど、もうすこしだけ。 もうすこしだけ彼女の隣にいたら、私は溶けて完全に変われるような気がする。 日陰で死を待つ雪ではなく、もっと自由な存在へと。

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