11月17日、旅の始まる日:ID:bXFdHfQT0氏

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~一部 こなた~ 11月17日 今日はかがみが学校を欠席した。 昨日からメールをいくら送っても返事がない。ちょっと心配だと思う。 それで私はかがみのお見舞いに行くことにしたわけだよ。 かがみが私の家でよく読んでいた漫画。その新刊が昨日発売されていた。 せっかくなのでこれをかがみのお見舞いの品にしようと思う。 文句無いよね。 もう暦の上では冬なわけで、すっかり暗くなっちゃったよ。 私はいつもかがみと<二人>で帰ってた。 学校でのお昼ごはんには、私はいつも<C組に行っては、みさきちや峰岸さん>それからかがみと一緒にお弁当を食べている。 かがみとはそんな仲なんだよ。 神社の鳥居が見えてくる。ここがかがみんの住む家。 かがみは<三人姉妹の末っ子>だった。 そしてお母さんはとても若い……。ムフフ。 玄関の引き戸を開けて、こんにちはと大きな声で挨拶をする。 すると、案の定とても若いお母さんが駆けつけてくれた。 「あら、こなたちゃんいらっしゃい。ごめんね、かがみ風邪引いちゃったみたいで……。」 「ああ、いえいえ。ちょっとお見舞いに来たんですけど、かがみ大丈夫ですか?」 「あら、わるいわね。かがみー!こなたちゃんがお見舞いに来てくれたわよ!寝てるのかしら?」 「ああ、おばさん。そんな起こさなくてもいいですよっ。」 「ごめんね。部屋に上がってね。」 「あ、はい。お邪魔しまーす……。」 私は二階のかがみの部屋に入ったんだけど、中には誰もいなかった。 照明だけがこうこうと部屋を照らしている。 おかしいな。 ひょっとしてトイレかも知れない。ちょっとここで待ってみようかな? ベッドの下に隠れて五分たった……。かがみはまだ来ない。あれぇ?遅いなぁ。 まったく、どうしたんだろう。 不安になりながらベッドから這い出ると、なんとなく窓から外を覗いてみた。 そこからはちょうど本堂の正面が見える位置だった。 本堂へと上る石段の二段目、何かキラリと光るものが見えた。 かがみはそこに座っていた。 「かがみっ!」 私はそこへ速攻で駆け出した。 かがみも私に気付いたみたいだ。 「こ、こなた?どうしてこんなところに!?」 「どうしてってひどいなぁ。今日はちょっと宿題が多くて……。」 「今すぐ、帰れ!」 「まぁまぁ。風邪なんだって?こんな寒いところにいて大丈夫なの?」 「……心配してくれてありがとう。」 かがみは無表情にそう言うと、視線を手に持つ物に落とした。 暗くてよく見えなかったけど、次第に目が暗さに慣れてくると、それが何なのかが見えてきた。 かがみが持っているものは、かがみの部屋から見えた光の正体。円形の鏡。 しかも額縁も取っ手もない、本当に鏡の部分のみだ。 多分これはご神体なんじゃないかな? それをかがみに聞いてみようとするより早く、かがみが喋りだした。 「私にはね、つかさって言う双子の妹がいたの。」 私の全く知らない名前。妹? かがみは末っ子だって思ってた。別の高校にでも通ってるんだろうか? 「え?つかさ?」 「そう。双子って言っても二卵性双生児でね、そんなに私には似てないわ。」 「へぇ、双子がいたなんて知らなかったよ、会ってみたいな!。」 「ごめん。それは無理なの。ガンになっちゃってね、今日がつかさの命日なの。」 「あ……。私こそ、ごめん……。」 「いいの。つかさの事を話したのは今日が始めてだし。」 ずっと鏡を見つめていたかがみが、やっと私を見て微笑んでくれた。 でも、なんとなく寂しそうな目。これがかがみにとって重要な告白であることは、痛いほどによくわかった。 「つかさはね、ここの世界には存在しなかったから。」 ~二部 かがみ~ こなたがかわいらしく、ぽかんと口を開けている。 これから、こなたがどんな反応をするのかわからないけれど、私の話せる限りの全て話してしまおう。 そしてこれで全てをおしまいにしようと思う。 「ねぇかがみ。どういうことなの?」 「なにから話せばいいんだろう……。」 ――私にとって、つかさは掛け替えのない、とても大事な妹だった。 私と違ってね、つかさはとっても素直なの。だからかな?私がつかさを守っていかないと、つかさ、ドジばっかりしちゃうのよ。 だから、私が守るの。 それでね、つかさが言うの「ありがとう、お姉ちゃん」って。 そんなことを続けていると、私にとってもつかさが必要になってきていた。 あの、晴れやかなつかさの笑顔を、私は今でも心から望んでいる。 ……それなのに、あの笑顔を二度と見ることができなくなってしまった。守れなかった。 つかさがガンだとわかったのが、今年の春だった―― 「ちょっと待って、かがみ。つかさちゃんは今年まで生きてたの?じゃあ命日って……。」 「ちゃんは付けなくていいの。つかさって呼んであげて?あんたはいつもそう呼んでいたから。」 「え?う、うん。もう訳がわかんないよ……。」 「ちゃんと話すわ。今日がつかさの命日。そう、今日この日、つかさが死んじゃったのよ。」 「え?そんな、でも……。かがみのお母さんにとって家族が、その、つかさが今日死んじゃったって言うのに、おばさんケロっとしてたよ?」 「そうよ。お母さんはつかさの事を知らないの。……続きを話してもいい?きっと分かってもらえるから。」 「わかったよかがみ。だまって聞くことにするよ。」 「ありがとう、こなた。」  ――ガンは肺で見つかった。激しくせきをするつかさを、私が医者につれて行ったのだ。 その時すでにガンは全身に転移していた。もう、手遅れだった。 余命は、半年。 私はほとんど毎日、つかさに会いに行っていた。 毎日、毎日つかさの姿を見ていると、毎日、毎日抗ガン剤の影響で痩せていくのがわかる。 こんな様子をうかがっていた私もまた、徐々に痩せていった。 家にいても落ち着く事はない。 私は何もできない。それが無性に悔しかった。 だから、私は神様に祈った。 何という偶然か、私の家は神社なのだ。 本堂に祭られているこの鏡に、私は手を叩き続けた。 そして。 11月17日。 今日。 つかさは死んでしまった……。 つかさの入院する病院から私は走り去った。いや、逃げた。 私は街頭が照らす夜道を逃げていた。 そしていつの間やら私は本堂の前で立っていた。 私がにらんだのは、奉られているこの鏡。 本堂は夜で暗くなっていて、その中で鏡は不気味に光を反射してキラリと輝いた。 「どうしてつかさを救わなかったのよ!あれだけ祈ったのにっ!あんなに心を込めたのに!」 私は鏡を無造作に持ち上げた。 「神様なんて嫌いよ!」 そして床に叩き付けた。 砕けていく鏡が、ゆっくりと散っていく……。 ここから、私の旅が始まる。 ~三部 かがみ~ 鏡は木っ端微塵に砕け散り、そして、世界が歪んだような気がした……。 18年前の7月7日、私が誕生する。 そして幼稚園、小学校、中学校へと時間と共に成長してゆく。 様々な経験をして、様々な人たちに出会った。 高校三年生の11月17日。 この日、私は全てを思い出したのだった。 なんと、私は人生をまた一からやり直していた。それをこの日、気が付いた。 なんと、私は二度も成長をしていた。それをこの日、気が付いた。 混乱する頭を押さえ込み、よれよれとその日も学校へ向かった。 こなたがいる。日下部がいる。ゆたかちゃんがいる。 しかし……。 みゆきがいない。峰岸がいない。みなみちゃんがいない。 そして、つかさがいなかった。 昨日まで、私はそのことを全く気にしていなかった。 いや、今いない人たちの存在を忘れていた。いや、それとも知らなかった? 今日も<いつも通り日下部とこなたと一緒>に昼食をとる。 今の私は料理が得意だ。 お母さんの手伝いをしていたから。 多分、つかさがいないから……。 だから自前の弁当とは思えないほどおいしいこの弁当を食べる。 この弁当を食べるのはいつものことだが、今日に限っては不思議な味がした。 「ねえ、こなた。高良みゆきって知ってる?」 「高良みゆきさん?むぅ、知らないな……。」 「そう……。ねえ、日下部。峰岸って知ってる?」 「峰岸?ああ、うちの近所にそんな苗字の人がいたなあ。」 「本当!?」 「ああ、今、高校二年の坊主がいるぜ。それがどうかしたのか?」 「ん……、なんでもないの。」 「変なやつだな。なあ、それよりちびっ子さあ……」 やっぱり誰も知らない……。きっと存在していないから。 私だって昨日までつかさの存在を忘れていたのだから。 そして、家に帰ると、再び本堂へと向かう。 鏡を持ち上げると、叩き割った。 世界が歪んだ気がした……。 また私は何もかもを忘れて、成長してゆき11月17日になると、また全てを思い出す。 みゆきがいる。こなたがいる。日下部も、峰岸もいる。 でもゆたかちゃんも、みなみちゃんもいない。 そしてまたも、つかさがいなかった。 いつものようにこなたと合流して<二人で>登校する。 こなたはおじさんと喧嘩していた。 「あんた、まだ仲直りしてなかったの?」 「仲直りなんて、お父さんの方からしてこない限り、絶対しないつもりだから!」 「こなた……。おじさん、絶対に悲しんでると思うわよ?」 「む。だったらお父さんの方から謝ればいいんだよ。」 「はあ、全く……。」 学校で私はみゆきに質問してみた。 前回はいなかったがここにはいる。 「ねえみゆき。タイムスリップって知ってる?ちょっと小説を読んでて思ったんだけど……。」 「タイムスリップですか?そうですね。いろいろと説があるようですけど……。ちょっと、一言では説明できませんね。」 「そうねぇ。例えば、全く同じスタートの仕方をした二つの世界があっても、時間がたつと二つの世界は違う結果に変わっちゃうのかな?」 「と、言いますと……。」 少し説明が悪かったかもしれない。 言い方を変えてもう一度質問をしてみた。 「小説の中ではね?ある少女がある日突然、生まれた時からもう一度人生をやり直すの。だけどそのことを本人は何も知らないの。 それで一度目の人生と、二度目の人生。その二つは似てるんだけど、少しだけ違う。どうして違うのかな?」 みゆきはしばらく考えた後、こう答えた。 「量子論の概念の中に、不確定性原理というものがあります。」 「え?量子論?」 「不確定性原理というのは、誰かが観測しない限り、あらゆる可能性の重ね合わせの状態にある、というものです。」 話が大きくなってきた……。 「ちょっと怖い話なんですけれど、シュレーディンガーの猫というものがあります。 例えば箱の中に猫がいます。一緒に箱の中には毒薬と、毒薬を散布する機械が入っています。 その機械がいつ動いて、毒薬を散布するかは誰にもわかりません。 ですから、箱を開けて猫を確認しなければ、猫が生きているのか死んでいるのかを確認することができないんです。 さて、一時間後に箱を開いた時、猫は生きているでしょうか?死んでしまっているでしょうか?」 「そんなのわかる訳ないじゃない……。」 「そうですね。観測するまではわかりません。 箱を開けた瞬間に、どちらかの可能性は消えてしまい、どちらかの可能性が実在化する……。 考え方を変えると、箱を開かない限り、猫は生きている可能性と死んでいる可能性の二つを持っている。 そして箱を開いた瞬間に、どちらかの可能性だけを観測者が観測する。 量子論では、観測をしない限り可能性しかわからず、観測した瞬間ひとつの可能性だけが実在化し、他の全ての可能性は消えてしまう。 かがみさんの言う少女の場合、少女が生まれたというだけで、自分を生んだお母さんがいるという観測結果になります。 何故ならお母さんがいない限り少女は生まれませんから。 それと同様に、少女が生まれるという事実は、お父さんもまた存在するという観測結果です。 きっと少女が生まれるより前の世界は、二つの人生とも同じはずです。」 確かにそうだ。お母さんもお父さんも、お姉ちゃんたちも今のところ確実に存在する。 そして私よりも誕生日の早いこなたも、みゆきの言うように確実に存在している。 日下部は私が生まれる直後に誕生する。 みゆきの言うように、私の生まれるより前の世界が確定しているのならば、そのままの勢いで日下部も生まれてもおかしくはなさそうだ。 みゆきは更に話を続けた。 「しかし、少女が生まれた後の世界は不確定で、あらゆる可能性は観測しない限り確定しません。 ですから、少女の生まれた後の世界は予測不可能なんです。 たとえ、少女が過去に同じ世界に生まれてきて、その世界の時代の流れを観測してきたとしても、 それと同じ時代の流れが別の世界で繰り返されるとは限りません。」 そうか、だから私の生まれるより後に生まれてくるはずの、みゆき、峰岸、ゆたかちゃん、みなみちゃん。 そしてつかさたちが存在するかどうかは、観測するまで確定していないらしい。 そして私はみんなが存在しない可能性を観測したのだ。 今夜もまた、鏡を叩き付けた。 今度はつかさが存在する世界を観測できる事を願って……。 しかし、つかさにはいつまでたっても会えなかった……。 その度に私はこの鏡を叩き割る。それを幾度となく繰り返した。 そして11月17日になる度に、つかさの事を、旅の始まりのあの夜の事を思い出すのだ。 私はたくさんの世界の可能性を観測した。 こなたが稜桜学園に入学しないという場合もあったし、ゆたかちゃんが病弱ではないという場合もあった。 その全ての世界では、人々はそれぞれの人生を歩んでいた。 私もまた、そういった人生を歩む人間の一人だった。 ある時は、スポーツに明け暮れる毎日を送ったり、ある時はこなたと一緒にネトゲーを楽しむ毎日を送った。 新しい友達を作り、今までに経験したことのないような人生を歩むこともある。 時々は苦しい時もあったけど、確かにそれぞれの人生を、私はしっかりと楽しんでいた。 それでも11月17日に鏡を割った。 人生は鏡のように砕けた。 それを何度繰り返したのだろう……? タイムスリップできることはチャンスだと思っていた。 でもひょっとするとこれは、鏡を割ったことの祟りなのかもしれない。 つかさには未だに会うことが出来ない。 双子の妹が存在できる可能性は、実は非常に少ないのかも知れない……。 気がつくと、私の人生は11月17日の一日間に限って、何百年の年月をあゆんでいた。 すでに私の記憶に残るつかさのイメージは、本当のつかさとは食い違っているのかもしれない。 最早、つかさのかわいい顔や、やさしいあの声を、ほとんど思い出すことがすでに出来ないのだ。 それなのにこの旅を続けなくてはいけないのは、何故なのだろう? 今まで築いてきた人生を、ゼロに戻してまでも、この旅をしなくてはいけないのだろうか―― そして今に至る。 ~四部 こなた~ みゆき、みなみ、そしてつかさ……。私の知らない名前ばかりだ。 正直、かがみのは話は信じられなかった。 まさか、漫画やアニメみたいな出来事が、私の目の前で起こっているなんて……。 んー、でも、かがみの目を見る限り、嘘をついてるようには思えん。 ここにいるかがみは、確かに今までのかがみとは少し違う気がする。 本人の言っていた様に、たくさんの時間を経験したかのような、落ち着きというか貫禄があった。 こなた、びっくりだ! でも、かがみも18歳以上を経験したことがない。 やっぱり、大人とは少し違う、独特な雰囲気。これが、かがみらしさなのかも知れないね。 「それでかがみは、今度もこの鏡を割るの?」 「わからない……。」 「もし、この鏡を割らなかったら、かがみはどうなるの?」 「それもわからない……。でもきっと11月17日を越えれば、全部忘れるんじゃないかと思うの。」 「もし、この鏡を割ると、私から見たかがみはどうなるの?」 「それも……、わからない……。きっと、あんたから見れば、私は元に戻るんじゃないかな?」 「そっか……。」 「どちらにしても、あんたから見て私は変わらないのかもしれないわね。」 かがみがどっちの行動をとっても、私にとっては関係ない……。 関係ないなんて事はないはずだ。 つかさの亡霊を選ぶか、私と過ごしたこの世界を選ぶか……。 もし、この世界を選ばなかったとしたならば、私は裏切られたと言うことになってしまう! いや違う、この考えは自分よがりな考え方だよ。 本当にかがみの事を考えるなら、どっちがいいんだろう? そう考え事をしていると、かがみが口を開いた。 「私、やっぱりこの鏡は割らない!」 「え、本当!?」 しまった。笑顔で答えちゃったよ。 これじゃあ、かがみは後ろめたくて鏡を割れない。 かがみが私の顔を見て笑った。しまった、私の反応の様子を確かめたのか? 「こなたの顔を見てたら、割る気なんてなくなったわ。」 「いや、そんなかがみ。もっとよく考えた方がいいんじゃない?」 「いいのよ。私はをう決めたの。たとえここじゃなくても、いつか別の世界で決めてただろうから。」 「……わかったよ、かがみ様っ。……なんていうか、この世界を選んでくれてうれしいよ。」 「こなた……。」 それから日付が変わるまで、私はかがみの思い出話を聞いていた。 この思い出話の内容は、もうすぐかがみの記憶から永遠に消えてしまう。 だから、私はかがみの話の一字一句の全てを、忘れないようにずっと覚えておこうと思った。 ただ、こんな話をしていても陰気になっていってしまう。 それで時々冗談を言ったり、かがみをからかったり、突っ込みを入れられたりしながら、楽しい時間をすごした。 そして、午前0時が近づいくる。 「こなた、絶対に忘れないでよ!」 「はいはい、わかったからかがみん。ちゃんと覚えておくってば……。」 「頼むわよ。……。」 「もうすぐだね。」 「こなた。最後に言いたい事があるの。」 「おお、いい感じにフラグが立ったみたいだ!」 「ちょっと、まじめに聞きなさいよ。……。私、こなたの事、好きだった。どんな世界でもこなたとならうまくやれた。」 「うん、私も好きだよ。」 午前0時が過ぎ、携帯の電子音がそれを伝えた。 同時にかがみがきょろきょろとしだす。 「あら?こなた?あ、あれ?なんで私がここにいるんだっけ?」 「なんでもないよ。」 「え?あれ?この鏡ってご神体じゃいの。」 暴れるかがみをなんとか家に帰し、持ってきた新刊を渡すと、私も家に帰ることにした。 帰る途中、星が出ているのが見えた。 オリオンの足元のあたりに青白く輝くシリウス。そこまでは光の速さで8.6年かかる。 私は8.6年前の星を観測している。 今、シリウスがどのような状態になっているのか、それは観測するまでは不確定だ。 8.6年後にシリウスを見た時、私はどのようなシリウスの姿を見ることが出来るだろう。 人生は無限に広がる可能性の中にあり、観測するまで確立でしか予測はできない。 まるで人生は旅だ。 「かがみ、つかさの事は忘れないよ。」 私は夜道を帰っていった。 ~五部 つかさ~ 11月17日 いつもの様な朝を迎えると思っていた。 「つかさ?つかさ?ねえつかさなの?」 「ふぇ?お姉ちゃん?おはよ~~。」 「ああ、つかさ。会えた。やっと会えた。うあ~~ん……」 「あれ?お姉ちゃんどうしたの?泣かないで……」 突然泣いてしまったお姉ちゃん。 何も答えないまま私に抱きついてきて。 「お姉ちゃん、苦しいよ。変なお姉ちゃん。これじゃあ、私の立場とあべこべだよぉ。」 「う、う……。会いたかったよ……。祟りが解けたの?もう、なんでもいいや、う、ぐすん。」 私はそっと、お姉ちゃんをなでてあげた。 なんだか私まで泣けてきちゃう。どうしてだろう?すごく懐かしい感じがする。 涙が止まらないよ……。 ~六部 みゆき~ 私はこなたさんと一緒に、つかささんのお見舞いに来ていました。 つかささんは<三人姉妹の末っ子>で、いつもこなたさんと一緒に<三人で食事をする>仲です。 つかささんは、つかささんの家の神社の本堂の前に座っています。 なぜでしょう?つかささんは鏡を抱くように持っています。 つかささんはゆっくりと話し出しました。 「私にはね、かがみっていう双子のお姉ちゃんがいたの……。」 TO
~一部 こなた~ 11月17日 今日はかがみが学校を欠席した。 昨日からメールをいくら送っても返事がない。ちょっと心配だと思う。 それで私はかがみのお見舞いに行くことにしたわけだよ。 かがみが私の家でよく読んでいた漫画。その新刊が昨日発売されていた。 せっかくなのでこれをかがみのお見舞いの品にしようと思う。 文句無いよね。 もう暦の上では冬なわけで、すっかり暗くなっちゃったよ。 私はいつもかがみと<二人>で帰ってた。 学校でのお昼ごはんには、私はいつも<C組に行っては、みさきちや峰岸さん>それからかがみと一緒にお弁当を食べている。 かがみとはそんな仲なんだよ。 神社の鳥居が見えてくる。ここがかがみんの住む家。 かがみは<三人姉妹の末っ子>だった。 そしてお母さんはとても若い……。ムフフ。 玄関の引き戸を開けて、こんにちはと大きな声で挨拶をする。 すると、案の定とても若いお母さんが駆けつけてくれた。 「あら、こなたちゃんいらっしゃい。ごめんね、かがみ風邪引いちゃったみたいで……。」 「ああ、いえいえ。ちょっとお見舞いに来たんですけど、かがみ大丈夫ですか?」 「あら、わるいわね。かがみー!こなたちゃんがお見舞いに来てくれたわよ!寝てるのかしら?」 「ああ、おばさん。そんな起こさなくてもいいですよっ。」 「ごめんね。部屋に上がってね。」 「あ、はい。お邪魔しまーす……。」 私は二階のかがみの部屋に入ったんだけど、中には誰もいなかった。 照明だけがこうこうと部屋を照らしている。 おかしいな。 ひょっとしてトイレかも知れない。ちょっとここで待ってみようかな? ベッドの下に隠れて五分たった……。かがみはまだ来ない。あれぇ?遅いなぁ。 まったく、どうしたんだろう。 不安になりながらベッドから這い出ると、なんとなく窓から外を覗いてみた。 そこからはちょうど本堂の正面が見える位置だった。 本堂へと上る石段の二段目、何かキラリと光るものが見えた。 かがみはそこに座っていた。 「かがみっ!」 私はそこへ速攻で駆け出した。 かがみも私に気付いたみたいだ。 「こ、こなた?どうしてこんなところに!?」 「どうしてってひどいなぁ。今日はちょっと宿題が多くて……。」 「今すぐ、帰れ!」 「まぁまぁ。風邪なんだって?こんな寒いところにいて大丈夫なの?」 「……心配してくれてありがとう。」 かがみは無表情にそう言うと、視線を手に持つ物に落とした。 暗くてよく見えなかったけど、次第に目が暗さに慣れてくると、それが何なのかが見えてきた。 かがみが持っているものは、かがみの部屋から見えた光の正体。円形の鏡。 しかも額縁も取っ手もない、本当に鏡の部分のみだ。 多分これはご神体なんじゃないかな? それをかがみに聞いてみようとするより早く、かがみが喋りだした。 「私にはね、つかさって言う双子の妹がいたの。」 私の全く知らない名前。妹? かがみは末っ子だって思ってた。別の高校にでも通ってるんだろうか? 「え?つかさ?」 「そう。双子って言っても二卵性双生児でね、そんなに私には似てないわ。」 「へぇ、双子がいたなんて知らなかったよ、会ってみたいな!。」 「ごめん。それは無理なの。ガンになっちゃってね、今日がつかさの命日なの。」 「あ……。私こそ、ごめん……。」 「いいの。つかさの事を話したのは今日が始めてだし。」 ずっと鏡を見つめていたかがみが、やっと私を見て微笑んでくれた。 でも、なんとなく寂しそうな目。これがかがみにとって重要な告白であることは、痛いほどによくわかった。 「つかさはね、ここの世界には存在しなかったから。」 ~二部 かがみ~ こなたがかわいらしく、ぽかんと口を開けている。 これから、こなたがどんな反応をするのかわからないけれど、私の話せる限りの全て話してしまおう。 そしてこれで全てをおしまいにしようと思う。 「ねぇかがみ。どういうことなの?」 「なにから話せばいいんだろう……。」 ――私にとって、つかさは掛け替えのない、とても大事な妹だった。 私と違ってね、つかさはとっても素直なの。だからかな?私がつかさを守っていかないと、つかさ、ドジばっかりしちゃうのよ。 だから、私が守るの。 それでね、つかさが言うの「ありがとう、お姉ちゃん」って。 そんなことを続けていると、私にとってもつかさが必要になってきていた。 あの、晴れやかなつかさの笑顔を、私は今でも心から望んでいる。 ……それなのに、あの笑顔を二度と見ることができなくなってしまった。守れなかった。 つかさがガンだとわかったのが、今年の春だった―― 「ちょっと待って、かがみ。つかさちゃんは今年まで生きてたの?じゃあ命日って……。」 「ちゃんは付けなくていいの。つかさって呼んであげて?あんたはいつもそう呼んでいたから。」 「え?う、うん。もう訳がわかんないよ……。」 「ちゃんと話すわ。今日がつかさの命日。そう、今日この日、つかさが死んじゃったのよ。」 「え?そんな、でも……。かがみのお母さんにとって家族が、その、つかさが今日死んじゃったって言うのに、おばさんケロっとしてたよ?」 「そうよ。お母さんはつかさの事を知らないの。……続きを話してもいい?きっと分かってもらえるから。」 「わかったよかがみ。だまって聞くことにするよ。」 「ありがとう、こなた。」  ――ガンは肺で見つかった。激しくせきをするつかさを、私が医者につれて行ったのだ。 その時すでにガンは全身に転移していた。もう、手遅れだった。 余命は、半年。 私はほとんど毎日、つかさに会いに行っていた。 毎日、毎日つかさの姿を見ていると、毎日、毎日抗ガン剤の影響で痩せていくのがわかる。 こんな様子をうかがっていた私もまた、徐々に痩せていった。 家にいても落ち着く事はない。 私は何もできない。それが無性に悔しかった。 だから、私は神様に祈った。 何という偶然か、私の家は神社なのだ。 本堂に祭られているこの鏡に、私は手を叩き続けた。 そして。 11月17日。 今日。 つかさは死んでしまった……。 つかさの入院する病院から私は走り去った。いや、逃げた。 私は街頭が照らす夜道を逃げていた。 そしていつの間やら私は本堂の前で立っていた。 私がにらんだのは、奉られているこの鏡。 本堂は夜で暗くなっていて、その中で鏡は不気味に光を反射してキラリと輝いた。 「どうしてつかさを救わなかったのよ!あれだけ祈ったのにっ!あんなに心を込めたのに!」 私は鏡を無造作に持ち上げた。 「神様なんて嫌いよ!」 そして床に叩き付けた。 砕けていく鏡が、ゆっくりと散っていく……。 ここから、私の旅が始まる。 ~三部 かがみ~ 鏡は木っ端微塵に砕け散り、そして、世界が歪んだような気がした……。 18年前の7月7日、私が誕生する。 そして幼稚園、小学校、中学校へと時間と共に成長してゆく。 様々な経験をして、様々な人たちに出会った。 高校三年生の11月17日。 この日、私は全てを思い出したのだった。 なんと、私は人生をまた一からやり直していた。それをこの日、気が付いた。 なんと、私は二度も成長をしていた。それをこの日、気が付いた。 混乱する頭を押さえ込み、よれよれとその日も学校へ向かった。 こなたがいる。日下部がいる。ゆたかちゃんがいる。 しかし……。 みゆきがいない。峰岸がいない。みなみちゃんがいない。 そして、つかさがいなかった。 昨日まで、私はそのことを全く気にしていなかった。 いや、今いない人たちの存在を忘れていた。いや、それとも知らなかった? 今日も<いつも通り日下部とこなたと一緒>に昼食をとる。 今の私は料理が得意だ。 お母さんの手伝いをしていたから。 多分、つかさがいないから……。 だから自前の弁当とは思えないほどおいしいこの弁当を食べる。 この弁当を食べるのはいつものことだが、今日に限っては不思議な味がした。 「ねえ、こなた。高良みゆきって知ってる?」 「高良みゆきさん?むぅ、知らないな……。」 「そう……。ねえ、日下部。峰岸って知ってる?」 「峰岸?ああ、うちの近所にそんな苗字の人がいたなあ。」 「本当!?」 「ああ、今、高校二年の坊主がいるぜ。それがどうかしたのか?」 「ん……、なんでもないの。」 「変なやつだな。なあ、それよりちびっ子さあ……」 やっぱり誰も知らない……。きっと存在していないから。 私だって昨日までつかさの存在を忘れていたのだから。 そして、家に帰ると、再び本堂へと向かう。 鏡を持ち上げると、叩き割った。 世界が歪んだ気がした……。 また私は何もかもを忘れて、成長してゆき11月17日になると、また全てを思い出す。 みゆきがいる。こなたがいる。日下部も、峰岸もいる。 でもゆたかちゃんも、みなみちゃんもいない。 そしてまたも、つかさがいなかった。 いつものようにこなたと合流して<二人で>登校する。 こなたはおじさんと喧嘩していた。 「あんた、まだ仲直りしてなかったの?」 「仲直りなんて、お父さんの方からしてこない限り、絶対しないつもりだから!」 「こなた……。おじさん、絶対に悲しんでると思うわよ?」 「む。だったらお父さんの方から謝ればいいんだよ。」 「はあ、全く……。」 学校で私はみゆきに質問してみた。 前回はいなかったがここにはいる。 「ねえみゆき。タイムスリップって知ってる?ちょっと小説を読んでて思ったんだけど……。」 「タイムスリップですか?そうですね。いろいろと説があるようですけど……。ちょっと、一言では説明できませんね。」 「そうねぇ。例えば、全く同じスタートの仕方をした二つの世界があっても、時間がたつと二つの世界は違う結果に変わっちゃうのかな?」 「と、言いますと……。」 少し説明が悪かったかもしれない。 言い方を変えてもう一度質問をしてみた。 「小説の中ではね?ある少女がある日突然、生まれた時からもう一度人生をやり直すの。だけどそのことを本人は何も知らないの。 それで一度目の人生と、二度目の人生。その二つは似てるんだけど、少しだけ違う。どうして違うのかな?」 みゆきはしばらく考えた後、こう答えた。 「量子論の概念の中に、不確定性原理というものがあります。」 「え?量子論?」 「不確定性原理というのは、誰かが観測しない限り、あらゆる可能性の重ね合わせの状態にある、というものです。」 話が大きくなってきた……。 「ちょっと怖い話なんですけれど、シュレーディンガーの猫というものがあります。 例えば箱の中に猫がいます。一緒に箱の中には毒薬と、毒薬を散布する機械が入っています。 その機械がいつ動いて、毒薬を散布するかは誰にもわかりません。 ですから、箱を開けて猫を確認しなければ、猫が生きているのか死んでいるのかを確認することができないんです。 さて、一時間後に箱を開いた時、猫は生きているでしょうか?死んでしまっているでしょうか?」 「そんなのわかる訳ないじゃない……。」 「そうですね。観測するまではわかりません。 箱を開けた瞬間に、どちらかの可能性は消えてしまい、どちらかの可能性が実在化する……。 考え方を変えると、箱を開かない限り、猫は生きている可能性と死んでいる可能性の二つを持っている。 そして箱を開いた瞬間に、どちらかの可能性だけを観測者が観測する。 量子論では、観測をしない限り可能性しかわからず、観測した瞬間ひとつの可能性だけが実在化し、他の全ての可能性は消えてしまう。 かがみさんの言う少女の場合、少女が生まれたというだけで、自分を生んだお母さんがいるという観測結果になります。 何故ならお母さんがいない限り少女は生まれませんから。 それと同様に、少女が生まれるという事実は、お父さんもまた存在するという観測結果です。 きっと少女が生まれるより前の世界は、二つの人生とも同じはずです。」 確かにそうだ。お母さんもお父さんも、お姉ちゃんたちも今のところ確実に存在する。 そして私よりも誕生日の早いこなたも、みゆきの言うように確実に存在している。 日下部は私が生まれる直後に誕生する。 みゆきの言うように、私の生まれるより前の世界が確定しているのならば、そのままの勢いで日下部も生まれてもおかしくはなさそうだ。 みゆきは更に話を続けた。 「しかし、少女が生まれた後の世界は不確定で、あらゆる可能性は観測しない限り確定しません。 ですから、少女の生まれた後の世界は予測不可能なんです。 たとえ、少女が過去に同じ世界に生まれてきて、その世界の時代の流れを観測してきたとしても、 それと同じ時代の流れが別の世界で繰り返されるとは限りません。」 そうか、だから私の生まれるより後に生まれてくるはずの、みゆき、峰岸、ゆたかちゃん、みなみちゃん。 そしてつかさたちが存在するかどうかは、観測するまで確定していないらしい。 そして私はみんなが存在しない可能性を観測したのだ。 今夜もまた、鏡を叩き付けた。 今度はつかさが存在する世界を観測できる事を願って……。 しかし、つかさにはいつまでたっても会えなかった……。 その度に私はこの鏡を叩き割る。それを幾度となく繰り返した。 そして11月17日になる度に、つかさの事を、旅の始まりのあの夜の事を思い出すのだ。 私はたくさんの世界の可能性を観測した。 こなたが稜桜学園に入学しないという場合もあったし、ゆたかちゃんが病弱ではないという場合もあった。 その全ての世界では、人々はそれぞれの人生を歩んでいた。 私もまた、そういった人生を歩む人間の一人だった。 ある時は、スポーツに明け暮れる毎日を送ったり、ある時はこなたと一緒にネトゲーを楽しむ毎日を送った。 新しい友達を作り、今までに経験したことのないような人生を歩むこともある。 時々は苦しい時もあったけど、確かにそれぞれの人生を、私はしっかりと楽しんでいた。 それでも11月17日に鏡を割った。 人生は鏡のように砕けた。 それを何度繰り返したのだろう……? タイムスリップできることはチャンスだと思っていた。 でもひょっとするとこれは、鏡を割ったことの祟りなのかもしれない。 つかさには未だに会うことが出来ない。 双子の妹が存在できる可能性は、実は非常に少ないのかも知れない……。 気がつくと、私の人生は11月17日の一日間に限って、何百年の年月をあゆんでいた。 すでに私の記憶に残るつかさのイメージは、本当のつかさとは食い違っているのかもしれない。 最早、つかさのかわいい顔や、やさしいあの声を、ほとんど思い出すことがすでに出来ないのだ。 それなのにこの旅を続けなくてはいけないのは、何故なのだろう? 今まで築いてきた人生を、ゼロに戻してまでも、この旅をしなくてはいけないのだろうか―― そして今に至る。 ~四部 こなた~ みゆき、みなみ、そしてつかさ……。私の知らない名前ばかりだ。 正直、かがみのは話は信じられなかった。 まさか、漫画やアニメみたいな出来事が、私の目の前で起こっているなんて……。 んー、でも、かがみの目を見る限り、嘘をついてるようには思えん。 ここにいるかがみは、確かに今までのかがみとは少し違う気がする。 本人の言っていた様に、たくさんの時間を経験したかのような、落ち着きというか貫禄があった。 こなた、びっくりだ! でも、かがみも18歳以上を経験したことがない。 やっぱり、大人とは少し違う、独特な雰囲気。これが、かがみらしさなのかも知れないね。 「それでかがみは、今度もこの鏡を割るの?」 「わからない……。」 「もし、この鏡を割らなかったら、かがみはどうなるの?」 「それもわからない……。でもきっと11月17日を越えれば、全部忘れるんじゃないかと思うの。」 「もし、この鏡を割ると、私から見たかがみはどうなるの?」 「それも……、わからない……。きっと、あんたから見れば、私は元に戻るんじゃないかな?」 「そっか……。」 「どちらにしても、あんたから見て私は変わらないのかもしれないわね。」 かがみがどっちの行動をとっても、私にとっては関係ない……。 関係ないなんて事はないはずだ。 つかさの亡霊を選ぶか、私と過ごしたこの世界を選ぶか……。 もし、この世界を選ばなかったとしたならば、私は裏切られたと言うことになってしまう! いや違う、この考えは自分よがりな考え方だよ。 本当にかがみの事を考えるなら、どっちがいいんだろう? そう考え事をしていると、かがみが口を開いた。 「私、やっぱりこの鏡は割らない!」 「え、本当!?」 しまった。笑顔で答えちゃったよ。 これじゃあ、かがみは後ろめたくて鏡を割れない。 かがみが私の顔を見て笑った。しまった、私の反応の様子を確かめたのか? 「こなたの顔を見てたら、割る気なんてなくなったわ。」 「いや、そんなかがみ。もっとよく考えた方がいいんじゃない?」 「いいのよ。私はをう決めたの。たとえここじゃなくても、いつか別の世界で決めてただろうから。」 「……わかったよ、かがみ様っ。……なんていうか、この世界を選んでくれてうれしいよ。」 「こなた……。」 それから日付が変わるまで、私はかがみの思い出話を聞いていた。 この思い出話の内容は、もうすぐかがみの記憶から永遠に消えてしまう。 だから、私はかがみの話の一字一句の全てを、忘れないようにずっと覚えておこうと思った。 ただ、こんな話をしていても陰気になっていってしまう。 それで時々冗談を言ったり、かがみをからかったり、突っ込みを入れられたりしながら、楽しい時間をすごした。 そして、午前0時が近づいくる。 「こなた、絶対に忘れないでよ!」 「はいはい、わかったからかがみん。ちゃんと覚えておくってば……。」 「頼むわよ。……。」 「もうすぐだね。」 「こなた。最後に言いたい事があるの。」 「おお、いい感じにフラグが立ったみたいだ!」 「ちょっと、まじめに聞きなさいよ。……。私、こなたの事、好きだった。どんな世界でもこなたとならうまくやれた。」 「うん、私も好きだよ。」 午前0時が過ぎ、携帯の電子音がそれを伝えた。 同時にかがみがきょろきょろとしだす。 「あら?こなた?あ、あれ?なんで私がここにいるんだっけ?」 「なんでもないよ。」 「え?あれ?この鏡ってご神体じゃいの。」 暴れるかがみをなんとか家に帰し、持ってきた新刊を渡すと、私も家に帰ることにした。 帰る途中、星が出ているのが見えた。 オリオンの足元のあたりに青白く輝くシリウス。そこまでは光の速さで8.6年かかる。 私は8.6年前の星を観測している。 今、シリウスがどのような状態になっているのか、それは観測するまでは不確定だ。 8.6年後にシリウスを見た時、私はどのようなシリウスの姿を見ることが出来るだろう。 人生は無限に広がる可能性の中にあり、観測するまで確立でしか予測はできない。 まるで人生は旅だ。 「かがみ、つかさの事は忘れないよ。」 私は夜道を帰っていった。 ~五部 つかさ~ 11月17日 いつもの様な朝を迎えると思っていた。 「つかさ?つかさ?ねえつかさなの?」 「ふぇ?お姉ちゃん?おはよ~~。」 「ああ、つかさ。会えた。やっと会えた。うあ~~ん……」 「あれ?お姉ちゃんどうしたの?泣かないで……」 突然泣いてしまったお姉ちゃん。 何も答えないまま私に抱きついてきて。 「お姉ちゃん、苦しいよ。変なお姉ちゃん。これじゃあ、私の立場とあべこべだよぉ。」 「う、う……。会いたかったよ……。祟りが解けたの?もう、なんでもいいや、う、ぐすん。」 私はそっと、お姉ちゃんをなでてあげた。 なんだか私まで泣けてきちゃう。どうしてだろう?すごく懐かしい感じがする。 涙が止まらないよ……。 ~六部 みゆき~ 私はこなたさんと一緒に、つかささんのお見舞いに来ていました。 つかささんは<三人姉妹の末っ子>で、いつもこなたさんと一緒に<三人で食事をする>仲です。 つかささんは、つかささんの家の神社の本堂の前に座っています。 なぜでしょう?つかささんは鏡を抱くように持っています。 つかささんはゆっくりと話し出しました。 「私にはね、かがみっていう双子のお姉ちゃんがいたの……。」 ・・・

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