ID:WZvZBIkK0氏:初恋~みさおの場合

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「待ってるよ?」 あやのはそう言って教室の後ろで立ってた。 「あぁー、先に行っていいってヴぁ。すぐいくからさー」 「うん・・・。じゃあ、先に行ってるね?7:30の予約だから、それまでには来るんだよ?」 うんって言えばよかったんだ。ほんの30分で終わった課題だし。 変なところで気を使う。何やってんだろ、私・・・。 「じゃなー、日下部~」 「お!ひぃらぎまだいたのか?」 「うん。委員会が遅くなってね」 「へぇ~」 「それよりさ、今日、峰岸の誕生日じゃなかった?」 「そなんだよ~。それなのに、補習が入っちったんだぜ!」 「あはは。私、そんなにけちじゃないから、宿題くらい見にきなよ?」 「あんがと!今度からそうするかなー」 ひぃらぎに手を振り、教室を後にする。 この時期すっかり日が落ちるのが早くなるんで、すでに夕焼けを通り越し暗闇が迫ってる。 集合場所までは電車で30分。今行けば7:00前には集合場所に着けるはず。 私は急いで校門を飛び出し駅に向かう。 ちなみに殆どスカートの下にはスパッツを履いているので風に揺れても平気だぜ。 私はガードレールを飛び越え駅構内に突っ込んだ。 今日はあやのの誕生日。私とあやのと兄貴の3人で食事会。 去年から始まった3人だけのイベント。 それまでは家族が一緒だったけど、私たちが高校に入学した年から3人だけのイベントになった。 なんでって?だって、みんなそうだろ?高校に入ると大人になった気分がしねぇか? だから、3人のイベントになった。ちなみにイベント日を決めたのは私。 誕生日とクリスマスとバレンタインは3人で食事会。 うん、これ宇宙の真理ね! 気がついたら、電車は目的地。私は飛び降りて改札まで一気に走っていく! ごめんねそこのお兄さん!階段の下からがんばっても私のパンツは見えないんだぜ! んーと、この先を曲がって、この路地に入って・・・。 しばらく行くと視界が開け、噴水のある公園に出る。その噴水のそばのベンチに二人はいるはず。 ほらね、あそこにいるじゃん。 生まれた時から知ってる兄貴と物心ついたときには隣にいたあやの。 「おーっす?・・・」 でも、違う。私の目に入ったのは見たことの無い兄貴と見覚えの無いあやの・・・。 何してるんだよ!? あやのの肩に腕を回して抱き寄せる兄貴。 されるがまま身を預けるあやの。 キス・・・!?初めて見た・・・。 気がつくと私は来た道をそのまま駆け戻ってた。 頭の中が真っ白で、良くわかんないけど、走ってきた。 なんかだんだん疲れてきちゃって、ゆっくりと、そして歩き始め、立ち止まった。 うつむいて、考える。頭の中は真っ白なまま。あれ、力が入らない。 しりもちついちゃった。さすがの私も恥ずかしいな・・・。 なんか、濡れてる。雨?いや、昨日も今日も晴れてたよ?あぁ、そか、涙なんだ、これ。 いやだ、止まらない!涙が止まらない!どんどん、どんどん次から次に溢れてくる。 らしくない!こんな私嫌だ! 二人は恋人同士だ。それくらいしていても不思議じゃないし、むしろ当然のことだ。 だけど、認めたくなかった。そう思ったら急に逃げ出したくなった。 私はこの日初めて気がついたんだ、そのことに。本当に気づかなかったといえば嘘になるかな。 意識はしてたんだ。自分の本心を出さないように。だから、毎年毎回一緒にすごすように決めた。 そうしないと本当に取られちゃう気がして・・・。 私は兄貴が好き!好きなんだ! とぼとぼと線路沿いを歩く。ここから家まではそう遠くは無い。このペースで歩いていっても1時間もかからず帰れるだろう。 携帯がさっきから音もなくブルブルと震えている。私は携帯を放り投げたい気持ちを押し殺して歩き続ける。 「あれ?珍しい、何してんのよ!?こんなところで」 ひぃ・・・らぎ? 「おぉ、かがみんのクラスの人だ」 青いちっちゃい奴がいる。泉だったかな? 「どうしたのよ?え!?目が腫れてる!!どうしたのよ!日下部っ!!!」 「・・・な、何でも、ないって・・・ヴぁ・・・」 言いながら涙が出てくる。悔しいなぁ、ひぃらぎにこんな所みられるなんて。 違う、ひぃらぎだから、涙が出せるんだ・・・。 彼女は優しい。何も言わずとも肩に触れ、慰めてくれる。 隣のちっちゃいのもいい奴だな。なんか萌えとか属性とかわけの分からないこと喋ってるけど、一応、笑わせてくれようと必死みたいだ。 「峰岸・・・いないね・・・」 「うん・・・」 「今日、約束してたんでしょ?」 「うん・・・」 「喧嘩したのかな?」 私は首を横に振る。 「そう・・・。そーかー」 ひぃらぎが空を見上げてる。私も釣られて上を向いた。 「いつからだっけなぁ・・・。日下部さ、ある日から突然お兄ちゃんの話しなくなったよね?」 「え・・・!?」 「なんとなくだけどね、その時思ったんだ。うん、なんとなく・・・」 ちっちゃいのがいつの間にかいなくなってた。私は上を向くひぃらぎの顔を見つめる。 「上手くいえないけどね、私も妹が好き!つかさのことが大好き!はっきり言って頭良くないし、ドジでさ! 笑っちゃうくらい天然で、同じ双子かよ!って突っ込みたくなるときもしょっちゅう!」 そう言うと彼女は釣り目を少しやわらげて笑い声を上げる。 「でも、あの子がもしも、他の男子と一緒になったりしたら、私も泣く、かな? だぁってぇ!!私が男だったら絶対つかさと結婚したいと思うもん!あんなにかわいくて優しい子、他に絶対いないし!」 ちょっとだけ笑えた。普段のひぃらぎが言いそうにないことを目の前のこの子は平気で喋ってる。 「あれ?変なこと言ったかな?でも、本当のことだしさ・・・。だけどね、日下部・・・」 ひぃらぎの目が私を見つめる。 「あの子と家族でいられることに私はもっともっと価値があると思うの。 だから言ってやるの!つかさを連れてく男子が現れたら、こう言ってやるわ! 『あんたと一緒になるかもしれないけど、私とつかさは血で繋がってるんだからね!』って! そう思うと、全然悔しくないの!むしろ誇らしいわ!勝った!って気がするの!」 目の前を覆っていた霧が一気に晴れていく気がした! 「ひぃらぎ・・・」 「ははは、ただの独り言よ?ほら、日下部らしい笑顔になってきた」 「おぉーいっ!これ持ってよー!熱いよー!」 ちっちゃいのが走ってきた。手には缶入りのコーンスープが3本。 「さんきゅ!ちびっ子!」 「うおぉ!泉こなただよー!ちびっ子って言うなー!」 「ふぅー」 玄関にあやのと兄貴の靴。いつの間にか追い越された。 「み、みさちゃん!」 「みさお!どうしたんだよ!?」 血相を変えて走ってくる二人。少し笑えた。 「いや~、ごめんよぉー。携帯がこわれちってさ~」 涙の跡は見せない。 「直接来ればよかったのにぃ」 あやのが少し心配そうに私の顔を覗き込む。 「あはは、私だってそろそろKY卒業だってヴぁ!」 「K・・・Y・・・?」 「そ!ちゃんと空気を読んで、二人きりにしてあげたんだよ!」 笑える。ちゃんと心の底から笑える。 大丈夫。ありがと、ひぃらぎ、それからちびっ子も。もう大丈夫だよ! 「はい、あやの!誕生日プレゼント!兄貴と仲良くな!」 「え!?あ、うん。ありがと、みさちゃん!」 あやのがプレゼントを受け取ったのを確認すると私は靴を脱ぎ捨て、兄貴に飛びついた! 「うわっ!」 「み、みさちゃん!?」 「あやの泣かすなよ!兄貴!」 バイバイ、私の・・・。そしてこれからもずっとよろしく!私の兄貴! おわり

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