第10夜

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第10夜 頭上から吹き降ろしてくる強烈な吹雪!こなたはそれをもろに喰らって地面にたたきつけられる。 格闘家の面目躍如。華麗な身のこなしで受身を取り、衝撃を和らげる。気がつくと独鈷杵が手元に転がっている。 それを手に取り、再びかがみへの突撃! 待ち構える雪の女王!吹雪と共に襲い掛かる氷の刃! 何度と無く繰り返される斬撃をかわし、受け流し、こらえる。 「こざかしぃ!」 自らの正面に垂直に振り下ろされた刃から放たれる巨大な衝撃波。 「く!・・・・・・・金剛障壁」 独鈷杵を水平に構え術を唱えるも、衝撃波の威力は想像以上に強く全身を打ちつけられるこなた。 愛すべき友を殺され、愛すべき友に裏切られた彼女の混乱と怒りは痛みすらも感じさせない。 両腕に剣を握り力を込める。これが最後の突撃だ!こなたは死を賭してかがみとの相打ちを心に決めた。 こなたの決死の跳躍!が、その瞬間、彼女の耳に神のささやきが届いた! 「こな、ちゃん・・・」 「!」 ただおが咄嗟に娘を抱き起こす!目は閉じ動かない。だが、微かに心音が聞こえた!生きてる!つかさはまだ生きている!! そしてその事実はこなたの心の闇をかき消すのに十分だった!つかさは生きている! わずかに残っていた結界とただおの必死の介抱のおかげで一命を取り留めたのだろう!あとはかがみだ!かがみを取り戻す! 「ねぇ、聞いて!」 かがみに向かい問いかける。 「私たちいつも一緒だったよね?いつもお昼たべたよね?くだらない雑談も星の数ほどしたよね?覚えてないの?ねえ! 海に行ったことも!花火行ったことも!ゲマズ行ったことも!チョコをくれたことも!全部、忘れちゃったの!?」 左拳に力を溜め込むこなた。やがて全身の炎は左手に集まり、大きな炎の玉を作り出す。こなたはそれをかがみに向かって力の限り放出した! 高速でかがみを襲う炎の玉が氷の刃の死角に入ったかと思うと、次の瞬間、彼女のわき腹をかすめた。バランスを崩した雪の女王はたまらず落下していく! 「だまれっ!お前の言葉を聞くと頭が痛い!うおー、なんだこれは!?」 苦悶の表情で喘ぐ、殺人者。こなたは攻撃の手を休めない。いくつもの炎の玉を両手から繰り出す。 「友達だよね!親友だよね!ラノベ読むからさ!勉強もするからさ!」 気がつくとこなたの瞳からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。 「だから、元に戻ってよかがみーっ!」 間合いを詰め、強烈な左の一撃を氷の刃に当てる!つかさを襲った凶器は音を立てて崩れ落ちた。 「しゃべるな・・・だまれ・・・頭がズキズキする!・・・えぇい!」 かがみは飛びすさり、片手で頭を抱え、再び刃を生み出すと、囚われたままのみゆきの背後にまわった。 「え!」 「周りから・・・殺してやる!そう・・・すれば、お・・・前も・・・・喋る気・・・力を失うだろう!」 かがみは苦痛に顔をゆがめながらも凍るように冷徹な笑みを浮かべた。 「かがみさんっ!?」 「やめてぇ!かがみ!私の、私の大好きなかがみんにもどって!ねぇ!かがみ!かがみーっ!!!!!」 ――― 誰かが叫んでる・・・。 誰?誰なの?私は誰?私は・・・。 生まれた時から半人半妖の・・・。 誰かに封印はしてもらったものの、私の力はその人の手に収まるようなものではなかったらしい。 いつの日か、その日が訪れ、妖怪の自分に取って代られる日が来るのだと言う。 私は思った。あまり人と馴れ合わないでおこう、人と関わらないでおこう、と。 だけど、出来なかった。冷たくあしらっても、無関心を装っても、私の中の孤独感が人を呼び寄せる。 さびしいのは嫌だ。一人になるのは嫌だ。私はとっくに一人きりなんだ。 生まれた時から、周りに同じ人間はいない。 私は生まれたときから一人なんだ! ―――ダカラコロスンダロウ? え? ―――オマエハ人間ジャナイ。人間ガキライナンダロ!ラクニナレ!ワレラト歩ユムノダ! 違う・・・。違う!そうじゃない!私は・・・私は皆と一緒にいたい! ・・・に一度も勝った事ないし!・・・のそばにいてあげなくちゃ!第一、・・・と離れたくない! 誰?私は誰の名前を呼んだ?頭が・・・頭が痛い・・・ ――― こなたは炎の鎧を解き、両足に気を集中しかがみへと突っ込む! 痛みに悶えるかがみはみゆきの背中をポンッとたたき間合いを取る。軽くジャンプし勢いをつけると氷の大剣を逆手に持ち替え、振り上げる! 間に合わない!更に加速する青髪の天使! グサッ! 氷の凶刃は再び的をはずした。いや、もとより、こちらが狙いだったのかもしれない。 「ただいま・・・こなた。あんたの気持ち、ちゃんと届いたよ」 「そんな・・・」 「心配・・・しないで。こんなだけど、あんま痛くないんだ。嫌だなぁ・・・。人間だったら良かったのになぁ・・・」 みゆきの横をすり抜けた刃は、そのままかがみ自身の身体に深々と突き刺さった。 「ごめんね、こなた。隠し事をしていたのは、私の方なんだ。 数週間前に夜空を見てたら身体に異変を感じた。それが、前兆。 その日からお父さんは必死に封印のお祈りを続けてくれた。 こなたの事もつかさの事も知ってたよ。感じちゃうんだ、天敵?だからかな」 かがみは苦笑いしている。不意に力が無くなったのかガクンと身体が落ちる。 こなたは傷ついた友人を抱きかかえ、すべるように地上に降りた。 「この時期を通り越せば、月の魔力が弱まり、また封印の力も復活するはずだった。 だけど、18年生きたこの身体の中で”本当の私”も力を蓄えていたんだ・・・」 「かがみ・・・」 両手を自らの身体に刺さった刃に当てると、それは音も無く消失した。 「ほらね、血も流れない。もう・・・殆ど人じゃなくなってるんだ・・・。 今の戦いで少し疲れただけ、また・・・”元の姿”に戻る・・・」 力強く、骨が軋むのではないかと思えるほど強く親友の身体を抱きしめるこなた。 涙がかがみの頬に落ちる。一瞬で凍りつき、ころころと転がっていく。 「殺して、こなた。あんたになら殺されてもいい・・・」 「ばか!ばかがみん!何言ってんのさ!そんなことできるはずが無いじゃん!」 つかさは目を閉じたままだった。みゆきもゆたかもただおもその場から動くこともできず、遠巻きに二人を見守る。 頭上で輝いていた不気味な月は消え、本物の月が顔をのぞかせていた。漆黒の雲もいつのまにか消え、あたり一面見慣れた町並みに戻っている。 「だけど、また、あんたやつかさ達の命を奪おうとするかもしれない。私はそれが嫌なの!!!」 こなたがその声に反応して首を強く横に振る。長い蒼髪が月明かりに照らされて煌いて見えた。 「私がさせない!つかさも・・・。かがみに人殺しなんか絶対にさせないから!」 「こな、た・・・」 二人は涙を流し互いを抱きしめあった。 その瞬間、月の光が強くなって、かがみを包み込んだ気がした。こなたが空を見上げる。 (何者かが持ち込んだ私の思念が、私を引き寄せた・・・。久しぶりね・・・こなた・・・) 「えっ!?」 (こんな形でしか逢えないのはとても悲しいけれど・・・) 先ほどまで雪女と格闘を演じていた辺りにぼーっと透き通る白い影が浮かび上がる。 「お、お母さん!!!!」 やがて実体化する白い影。そこにはこなたと同じ蒼髪をたなびかせ、こなたと同じ顔をした女性が浮かんでいた。 「あなたはとてもいい人生を歩んでいるみたいね。私、とても嬉しいわ」 視線を吸い寄せられるように全員が空を見上げた。 「これは何もしてあげられなかった私からのプレゼント。受け取って・・・」 かがみを包んだ光がいっそう明るさを増すと、青白い着物は見慣れたセーラー服に変わっていた。 そして、その変化と共に泉かなたもまた、消えていった。 「え?また・・・また会えるよねっ!?」 こなたは何も見えなくなった空に向かって叫ぶ。声もすでに聞こえないけれど、風が少しだけ微笑んだ気がした。 「これ・・・」 こなたはポケットから何かを取り出し、かがみに手渡した。 「さっきまで冷え冷えだったし、ちょっと寒いでしょ?みゆきさんに貰ったの」 「・・・うん」 「行こ?」 こなたがかがみの手を引いて立ち上がらせる。 「おかえり、おねえちゃんっ!」 ただおの背中に抱えられたつかさが叫ぶ。 「つかさ!」 「かがみ、おかえり」 「かがみさん、おかえりなさい。泉さん、お疲れ様です」 「おかえりなさい。こなたおねーちゃん!」 ゆたかは相当疲れていたのか立てずに座り込んだままだった。 「あ、あの・・・私も、おんぶ、してもらってもいいかな?」 それを見て皆が笑い出す。少しふくれっ面のゆたか。 二人は駆け出す。いつもの表情を取り戻し、顔を見合わせて微笑んだ。

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