第7夜

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第7夜 逃げるつかさ、追う雪女。つかさはいつもとは違うすばやい身のこなしで雪女の放つ吹雪を次々とかわしていた。 「うわぁ~ん、このままじゃやられちゃうよ!?どうしよ~?」 泣き言をもらしつつビルの壁を巧みに使いながら雪女を煙に巻いていく。小さな吹雪の渦は次々に司に襲い掛かる。 セーラー服を着た可愛らしい女の子の立て看板を見て、急につかさは立ち止まった。 「いけない!これ以上離れたらこなちゃんの結界が消えちゃう!」 つかさは振り向き、雪女に対峙すると両手を胸の前で重ね詠唱を始めた。彼女を包んだ結界のおかげか、凍てつく風はすんでの所で逸れて行く。 「マダマダコドモ、ジャナイカ?クッタラ、ウマイダロウネ?」 3メートル、2メートル、1メートル!眼前に迫る雪女、目を閉じ詠唱を続けるつかさ。 「えいっ!お土様ぁーーーーっ!!!!」 詠唱の完成とともに巨大な土の壁がつかさの眼前に現れる。勢い良くつかさに向かってきた雪女は、止まることも出来ず、壁に激突し氷塊のように粉々に崩れ果てた。 ふぅー、と溜息をつき、額の汗をぬぐう。 「こなちゃん、大丈夫かな?」 わざわざフルオーダーメイドで頼んだ自慢の”団長服”はところどころ破れ、肌色の皮膚を垣間見せていた。 つかさにもらった乳白色の結界はその光を弱め、今にも消えそうになっている。 次々に襲い来る凍てつく風を、召喚した狐火でなんとかしのぐ。が、雪女の攻撃はそれだけにとどまらなかった。 雪女は手のひらを開き、天に向かってかざす。白い霧のようなものが吸い込まれるように集まり、やがてそれは円錐の形状となった。左右、両の手のひらから作られるそのつららは意思を持つがごとくこなたに向かってきた。 「つっ!」 彼女の体捌きは軽い。右に左に飛び回り、数ミリのところでつららをかわす。しかし、それは故意にしているわけではなく、ぎりぎりでしか避けられないのであった。少しでも油断すると衣服は裂かれ、その下にある皮膚を何の遠慮も無くそぎ落とされてしまう! 「しつこいなぁ、もう!そうゆうの、ウザイって言うんだよ!?」 強がって見せるこなたの表情に言葉通りの余裕は無い。 「だいぶ思い出したよ。礼を言わなきゃね。小さき退魔師よ」 時が経つにつれて雪女の言葉は流暢になっていく。 「私たち雪女はね、虐げられた女の怨念なのさ。生前、尽くし、慕い、思いを寄せていた男たちに、捨てられ、放置された女のね! 分かるだろう?同じ女同士、浅ましい男の欲望にうんざりするだろう?」 「あは。残念ながら私はまだ少女なのだよ。怖いねぇ~、年増女のひがみは」 ひときわ大きなつららがこなたを襲う! 父から預かった独鈷杵を水平に構え炎を纏わせる。迫り来る巨大なつらら、迎え撃つ焔の剣。 「うわぁーーーーーーーーーーーっ!」 防ぎきれない!衝撃がこなたの両腕を伝い、全身に響く。次の瞬間、身体は大きく後ろに吹き飛んだ!背中をビルの壁に激しく強打しほんの一瞬術が途切れる。 こなたの身体は重力を思い出し、引き寄せられるように地面に落ちていく。 「あーはっはっははー!いい様だね!私の場合はね、昔から人間そのものが嫌いなのさ!今すぐにでも止めを刺してやるよ!」 無表情かにおもえた雪女の顔が今は気味悪いほどににやけ、哄笑している。 「き、きたないね。ふふ、わ、技とかじゃないよ?心の中身も、その、にやけた顔も!」 満身創痍のこなたから振り絞るように紡ぎだされた言葉。顔は苦痛にゆがみ、口元からは血が滴っている。 少女の目の前で、先ほどのつららよりも更に大きなつららを作っていた雪女の身体が固まる! 「おまえ!?」 つららは逆再生するように霧に戻っていった。こなたの言葉になぜか動揺を見せる雪女。しかし、それもほんの数秒のことだった。 「ふふふ、ふはははは!面白いこともあるもんだねぇ~。まさかね、こんなことがあるなんてね!」 雪女はゆっくりと地上に降り立ちこなたに向かって歩み寄る。小さなつららを作り、こなたに向かって次々に繰り出す。からかう様にわざととはずしつつ。 ビルに衝突した時の痛みが未だ背中に残っていた。こなたの動きは緩慢でいつやられてもおかしくはない。 少しずつ彼女の衣服を切り裂き、少しずつ皮膚を抉る。そのたびに少女の口から悲鳴とも呻きとも取れぬ声が漏れ出ていた。 「お前には”力”がある。そうだね?」 雪女の力であればいつでも致命傷を与えられる、それが確実に可能なまでの距離へと近づき、おぞましき凍てつく獣は問いかけた。 「それも強大な”力”だ。違うかい?まだ、目覚めてはいないが、それは強大な、大いなる”力”だ」 「・・・・」 「なぜ知ってるのか?って顔だねぇ。冥土の土産に教えてやるよ、私の名前をね」 「・・・へっ!あんたの名前を聞いたところで、何か特典でもついてくるのかな?それなら聞いてあげるけどね」 「ふん!その強がりもあの女にそっくりだよ!」 雪女の周りに猛烈な吹雪が巻き上がった! 「雪女はね、人の生命を終え、この姿に転生する時に怨念以外の全ての記憶を失うのさ。だから本来名前など持たない。 けれどね、この姿になってから名前を持つこともあるのさ!私のように人間を食らった雪女は名前を持つこともある! ”力”を持つ人間を食らえば、その”力”を取り入れることも出来る。 その”力”をくれた者への感謝の気持ちさ!私の中に取り込んだ”力”の主に敬意を表して、その名をもらう! ふはは、私のね・・・」 全身に鳥肌が立つ。寒さではなく悪寒、吐き気を催すような悪寒! うつむき、歯軋りをするこなた!うっすらとではあるがその瞳には涙を湛えている。 「そう、私の名前は・・・・・・カナタ!」 こなたの表情が一変し、怒りに打ち震え赤く燃え上がる! 容赦なく再開する攻撃!凍てつく風が左右から迫り、少女に牙をむく。 「うわぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁっ!!!!!!」 大きく構えた独鈷杵を強くなぎ払い、雪女に飛び込む!風は立ち消え、こなたの周りを炎が包み込む! 「えぇい!まだそんな力が!くらえ!」 こなたの頭上から無数の白い塊が降り注ぐ!とてつもない高速で近づく幾千の雹! 炎の鎧により雹は消えていった。しかし、防ぎきれないいくつかがこなたの身体に食い込む! 「うああああぁぁぁっっっ!」 「こいつ・・・」 怒りに我を忘れ無我夢中で独鈷杵を振り回すこなた。 さすがの雪女も何箇所かは皮膚を切り裂かれたが致命傷には至らない。 いつの間にか頭上には倍以上の雹!そして無数のつらら!雪女が右腕を払う。雹とつららは一斉に降りそそいできた!!! 「こなちゃぁーんっ!」 こなたの周りを石の壁が取り囲み、降り注ぐ雹をけ散らす。 「つかさ!」 「おぉぉぉ!すばらしい!!!すばらしいねぇ!!!女王の復活だ!生け贄は多いほどいいって物さ!!!」 「こなちゃん!」 「つかさ!」 駆け寄るつかさが飛びつき、抱きしめる。身体を預けるこなた。その小さな身体に残された力はどれほどなのか? 「少しだけど、楽になると思うよ」 つかさは袖から玉櫛を取り出しこなたの傷口を撫でる。 「あいつ・・・、あいつ・・・!」 こなたは怒りで冷静さを欠いていた。息は乱れ、歯噛みする口元からは多くの血が流れ出る。その表情にいつものゆるさは微塵もない。 「こなちゃん、落ち着いて!少しだけど話は聞こえたよ。でも、今は落ち着かないと!」 パシッ! つかさがこなたの頬をうつ。こなたは驚き、つかさの顔を覗き込んだ。 「・・・あ、ありがとう」 こなたの瞳に生気がやどり、荒々しかった呼吸も元に戻り始めた。 「つらいだろうね?でも、怒りに任せていたら、お母さんの仇さえ取れないよ」 「う、うん・・・。うん!そだね」 「うん!」 「さぁ、仕切りなおしだ!お母さんはきっと守ってくれる。それに、今は生きているかがみを救うことを考えなくちゃ!」 二人を包む石の壁にいくつもの衝撃音が響く。雪女の攻撃であろう。結界も長くはもたない。 「いつまでそこに隠れてるんだい?ジタバタせずに私のものになりな!生贄は無傷のほうがいいんだよ!!!」 天井に入った亀裂が徐々に大きくなっている。 「こなた!行きます!」 「うん!」 「あは、やっぱりツッコミいないとね。がかがみがいないとね!」 「およよ?」 石の壁は透き通り消えてなくなる。降りそそぐ氷礫の雨! 少女たちは左右に散開し体勢を整える。独鈷杵を下段に、居合いの構えを取り集中するこなた。目を閉じ呪文を唱える。 迫りくる風、絶え間なく降りそそぐ氷礫。それらをつかさの呼び出した結界壁がすべて打ち落としていく。 「つかさ、気付いたことがあるんだ。あいつね、お母さんの仇じゃない」 「え?」 「さっきは気が動転しててごめんね。だけどね」 言いながら右手で印を結び光の球を生み出す。それを独鈷杵に当てると剣はまばゆく煌いた。 「私のお母さんはもっと強いんだよ。あいつ、その場にはいたかもしれないけど、お母さんを殺した本人じゃないよ」 にやりと微笑む。つかさは何も言わずうなずいた。 「なにをぶつぶつ言ってんだい!?」 激昂する雪女。助走をつけ猛スピードでこなたに突っ込んでくる!彼女自身が巨大なつららとなり、こなたにめがけて一直線に!! 「召喚します!天岩戸(あまのいわと)!」 突如空中に現れる輝く巨石!つかさは持てる力を余すことなく使い、巨大な防御壁を雪女にぶつける! 正面から向かってくる巨石をよけようともせずに雪女は加速する。周囲を無数の雹とつららが取り囲み、ここら一帯に凍てつく吹雪が吹き付ける! 「ほりゃ~!」 少々間の抜けた掛け声はこなた。利き足に力を込め跳躍。 岩戸を粉砕し突き抜ける雪女。が、岩戸は砕かれたのではなく、自ら砕けたのだ。元に戻りつつも雪女を取り囲み拘束する。 「なにぃ!?」 岩戸の影響を受けなかったつららの数本がこなたの体表を削り滑った。しかし、彼女は表情一つ変えず剣に力を込める。 混乱し悶える雪女!目の前には蒼髪の天女! 「バイバイ!」 横に薙いだ独鈷杵が雪の獣の腹を裂く! 「ぐあぁーーーーーーーーっ!」 絶叫にも似た悲鳴を轟かせる雪女にさらに止めの一撃!!! こなたの左手が神々しく光り輝き、雪女の顔を掴むように気を放つ! 「ネトゲにおいで!いつでも相手してあげるから」 放たれた光の波動が雪女の分かたれた全身を包み込み、次第にその形状は霧へと姿を変えていった! 「おおおぉぉっ!油断した!これほどまでの力とは!しかし、お前たちのことは私の仲間にすでに伝えた!次はこんなに上手くいくとは思うな! そして・・・、そして、女王は間もなく復活する!見よ!あの空をーーーーーーっ!」 最後の力を振り絞り雪女が叫ぶ。おそらく手であっただろう霧の一部が指のような形を作り西の空を指し、そして、消滅した。 「こなちゃん!あれ!」 つかさは雪女が指差した方向じっと見つめ叫ぶ。 その先には暗闇よりも黒い大量の雲がある一部にだけ山のように固まって浮いていた。雲は増殖を続け、太鼓の乱撃のような轟音を響かせ稲光を落としていた。 「つかさ!行こう!」 こなたは独鈷杵を紫の包みに戻し駆け出す、つかさの手を引いて。

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