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休みの昼
「ずずずっ…ん、メール…きよたかさんだ!よし!今日帰ってくる!」
久方ぶりの旦那の帰宅、待ちに待った日の到来。ゆいは浮かれていた。
颯爽とお昼ご飯を終え、愛する夫を待ちわびる。膨らむ期待に、ゆいの頬は紅潮していた。
「帰りは夜か~♪ん~、夕飯どうしよ~♪」
お気に入りのぬいぐるみを抱き、布団に悶えるゆいであった。
この前帰ってきたのはいつだっただろう。とても昔の様な気もするし、数日前の様にも思えてしまう。
「早く帰ってきてくれないと…忘れちゃうよ…」
棚に置かれたスナッフを見つめ、ゆいは呟いた。
「そだ、掃除しなきゃ。後、夕飯のお買い物」
ぴょんと飛び起き、腕を捲って鼻息一つ。
もとより整理の行き届いた部屋だったが、やはりこれは欠かせない。
よっ、と掃除機を取り出した時、不意に携帯の着信音が鳴った。
そのメロディは、なるべくなら、特に今日だけは鳴らないでほしいと願いに願った曲であった。
黙殺を決め込みたい。しらばっくれてれば勝手に止んで、結局何もありませんでした。ですむはず。
淡い期待を心に描くも、ゆいの指は通話ボタンを押していた。
事件発生、イレギュラーと言うより半レギュラーな自体。
「帰って来るまでに…戻れるかな…」
職務柄、状況の破棄は許されなかった。ささいな事でも呼び出される。哀しい宿命。
しょうがないと割りきっていても、この日だけは譲りたくなかった。そんな本音を胸にしまい、ゆいは現場へ向かった。
事件は自分が出る必要があったのかと思う程、あっけなくケリがついてしまっていた。
見るからに下手な人員配備、良くある事ながら、ゆいは苛立ちと焦りを感じていた。
ゆいの仕事が終わったのは既に月が天に昇ってから。携帯にはいくつかの着信履歴とメールが残されていた。
「ごめんね、きよたかさん…」
状況終了。帰りの車内、ゆいも何度か電話とメールを送ったが、その返事がくる事は遂になかった。
「ただいま~、きよたかさ~ん」
明るい室内、返事はなかった。代わりに一枚の紙切れがテーブルに置かれていた。
『ゆい、お仕事ご苦労様。ご飯作って置いたよ。
また明日戻らなきゃならなくなってね、今日はもう寝させてもらうよ。
でも、帰って来たら起こしてほしいな』
「きよたかさん…ごめん。ごめんね」
色々話したいし、労いたい、でも彼が多忙であると知っているから、ゆいはただ休ませてあげる事しかできないでいた。
台所から匂うのは多分シチュー、旦那との食事を念頭に入れていたから夕飯は食べていなかった。
「お腹、ぺこぺこだな…」
さすが単身赴任の男料理、繊細とは言い難い肉や野菜の切り方、良く言えばダイナミック。悪く言えば何だろう?
「うん♪美味しい、きよたかさん♪」
予定では自分が作った料理を二人で向かいあって食べている。
この日の為にとって置いていたちょっと高めのワインを飲みながら。
でも今は一人、飲むとしたらビールか酎ハイがいいとこ。
「…きよたかさん…」
ゆいは呟いた。
「おかえり、ゆい」
寝室のドアが開き、そこにはパジャマ姿の愛しき君が立っていた。
「台所の方から音が聞こえたんでね、もしかしたらと思ったんだ」
ゆいの目は輝いた。
「おかえりなさい、きよたかさん!!」
「うん♪ただいま。せっかくだから、呑もうか」
それから二人は、高めのワインで乾杯をした。
窓から見える月は、まるで二人だけの照明であるかの様に煌めいていた。
~終り~