ID:8QSbtsmCO氏:幸せな嘘

「ID:8QSbtsmCO氏:幸せな嘘」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ID:8QSbtsmCO氏:幸せな嘘」(2007/10/24 (水) 22:18:27) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

おかしい。おかしい。ここは何処なんだ。 私は英語の授業中にうとうとしていたはず。 なのに目の前に広がるのは黄金色の稲穂が揺れている田園風景。 田舎の土臭さが鼻にくる。 「…臭いよねー……」 一人呟いても辺りには誰もいない。あぜ道に私は立ち尽くしている。 携帯電話は圏外。どうしたもんかな…… 田んぼは遥か遠くまで広がっている。 ぽつりぽつりと古臭い民家が並んでいる程度で、人の気配はさっぱり。 埼玉ではないのかもしれない。 …遠くのおそらく幹線道路とおぼしい道を女生徒が歩いている。 スカートはひざ下丈、髪型は三つ編み…今時こんな真面目な子がいるとは。 いや、一人じゃない。二人、三人…どころじゃない。 ぞろぞろと沢山歩いている。 みんなひざ下丈のスカートだ。 男子生徒も派手にワックスで立てた髪型の人はいない。 そして何より、携帯をいじっている人がいない。 ふと、足元を見て落ちていた新聞の欠片に驚いた。 『昭和』 日付の部分しか読めそうになかったが、確かにそう書いてあった。 私は今昭和にいる!? 突然私の格好が不自然に思えてきた。 スカートをひざ下丈に調整して、髪をゴムでしばって…… ……! 後ろから誰か走ってくる。足音が迫る。 「かなたぁ!見つけたぞ~!」 学ランを着た……お父さんだった。 若い。若いよお父さん。 「かなた、なんでこんなとこに突っ立ってるんだ?学校終わったら商店街行くはずだったろ?」 「え…?お父さん?何言ってんの?」 「お父さんって…かなたこそ何言ってんだ?俺もおまえもまだ高校生だぞ?」 タイム…スリップしたの?私は……? 「あれ、かなたその黒子はなんだ?わざわざ俺と同じ位置に描いたりして」 「いや、これはその…」 「よし、俺が拭いてやるよ。ほら、顔貸して」 懐からハンカチを取り出したお父さん。 こんなにお母さんと仲良かったんだ… 「うわーん!力強いよお父さん!」 ごつい手でごしごし拭いてくる。痛いよ痛い。 「だからお父さんじゃないっての。あれ?落ちないな…」 「……そうくん、その子…誰?」 お母さん。 「……!?かなたが二人!?ちょっ、どっちが本物だ!?」 お母さん。お母さんが生きてる。動いてる。しゃべってる。 のび太君がタイムマシンでおばあちゃんに会いに行った時の気持ち、今ならわかるよ。 「かなたは私よ…?その子は……私のいとこ」 …え? 「な、なんだ!そうだったのか!あはは、ごめんごめん、あまりにそっくりだったんでつい…」 「しっかり謝りなさい。勘違いしたのはそうくんだよ」 「ごめんなさい」 しっかりと頭を下げたお父さん。はあ…やっぱりお父さんはお父さんだな… 「そうくん、鞄、忘れてるよ?」 「うわっ、そういやそうだ!学校まで取りに行ってくる!」 「私達はそこのバス停で待ってるわ」 駆け足で走っていく若いお父さん。田んぼのあぜ道には私とお母さん。 身長も同じくらい。お母さんに憧れて伸ばした髪も長さは同じくらい。 でもお母さんは肌が白くて…優しい目をしている。 微笑む形のいい唇、おしとやかな立ち方、女の私から見ても素晴らしく魅力的な女性だった。 「あそこのバス停で休みましょう?私ちょっと疲れちゃった」 促されるままに近くにあったバス停ベンチに腰を下ろした。 バスは一時間に一本しか止まらないらしい。 「ところで…、あなたの名前は?」 本名を言うべきか迷った。ここは嘘が必要かもしれない。 「柊 かがみ です」 ごめんねかがみん、ちょっと名前借りるよ。 「そう、柊さんね。いい名前ね」 よかったねかがみん、名前褒められたよ。 「そうくんはそそっかしくてね…… この前なんか映画のチケットの日にち読み間違えて……」 お母さんとお父さんの話をはどれもが初めての話だった。 話を聞くだけで幸せになれる… お母さんの優しい声に紡がれる幾つものストーリーはとても印象深かった。 「……柊さん。あなた…私のことも、そうくんのことも知ってるんでしょ……?」 お父さんの言葉を思い出した。 『かなたは勘が鋭かったからなー』 本当に鋭いね。お母さん。 「なんで…わかったの?」 「赤の他人なら、カップルののろけ話に本気で耳を傾けたりしないわ。それに…… あなたは私にもそうくんにもそっくりだもの」 かなわないな…… お母さん。今なら言える。 お母さんは誰もかなわない…私にとって最高のお母さんだよ…… 遠くからバスのエンジン音が聞こえてきた。 これ以上ここにいてはいけない気がする。 このままではバレてしまいそうだ。 私達の前に止まったバスは扉を開く。 「かなたさん、ありがとうございました。…絶対忘れません」 ステップに足を乗せた時、お母さんが尋ねた。 「私達は…幸せになってますよね?そうくんと…一緒に幸せになれていますよね?」 「うん。お母さんとお父さんは…幸せな夫婦になったよ!」 涙に歪む視界の中で、バスの扉が閉まった。 バスは揺れながら田園風景の中を走る。 流れる景色は稲穂色。 幸せな嘘は必要だよね。 真実を告げるのが全てじゃないってのは…多分、本当だ。 心地よい秋の日差しをガラス窓ごしに浴びて……私は…… 「こなちゃん!こなちゃん!授業中だよ?」 寝ぼけまなこをこすって見えたのはいろいろ書かれた黒板、 真面目に授業を受けてるクラスメート。 夢だったんだろうか。 セーラー服の袖の臭いを嗅いでみた。 ……田舎の土臭い臭いがした。 おしまい
おかしい。おかしい。ここは何処なんだ。 私は英語の授業中にうとうとしていたはず。 なのに目の前に広がるのは黄金色の稲穂が揺れている田園風景。 田舎の土臭さが鼻にくる。 「…臭いよねー……」 一人呟いても辺りには誰もいない。あぜ道に私は立ち尽くしている。 携帯電話は圏外。どうしたもんかな…… 田んぼは遥か遠くまで広がっている。 ぽつりぽつりと古臭い民家が並んでいる程度で、人の気配はさっぱり。 埼玉ではないのかもしれない。 …遠くのおそらく幹線道路とおぼしい道を女生徒が歩いている。 スカートはひざ下丈、髪型は三つ編み…今時こんな真面目な子がいるとは。 いや、一人じゃない。二人、三人…どころじゃない。 ぞろぞろと沢山歩いている。 みんなひざ下丈のスカートだ。 男子生徒も派手にワックスで立てた髪型の人はいない。 そして何より、携帯をいじっている人がいない。 ふと、足元を見て落ちていた新聞の欠片に驚いた。 『昭和』 日付の部分しか読めそうになかったが、確かにそう書いてあった。 私は今昭和にいる!? 突然私の格好が不自然に思えてきた。 スカートをひざ下丈に調整して、髪をゴムでしばって…… ……! 後ろから誰か走ってくる。足音が迫る。 「かなたぁ!見つけたぞ~!」 学ランを着た……お父さんだった。 若い。若いよお父さん。 「かなた、なんでこんなとこに突っ立ってるんだ?学校終わったら商店街行くはずだったろ?」 「え…?お父さん?何言ってんの?」 「お父さんって…かなたこそ何言ってんだ?俺もおまえもまだ高校生だぞ?」 タイム…スリップしたの?私は……? 「あれ、かなたその黒子はなんだ?わざわざ俺と同じ位置に描いたりして」 「いや、これはその…」 「よし、俺が拭いてやるよ。ほら、顔貸して」 懐からハンカチを取り出したお父さん。 こんなにお母さんと仲良かったんだ… 「うわーん!力強いよお父さん!」 ごつい手でごしごし拭いてくる。痛いよ痛い。 「だからお父さんじゃないっての。あれ?落ちないな…」 「……そうくん、その子…誰?」 お母さん。 「……!?かなたが二人!?ちょっ、どっちが本物だ!?」 お母さん。お母さんが生きてる。動いてる。しゃべってる。 のび太君がタイムマシンでおばあちゃんに会いに行った時の気持ち、今ならわかるよ。 「かなたは私よ…?その子は……私のいとこ」 …え? 「な、なんだ!そうだったのか!あはは、ごめんごめん、あまりにそっくりだったんでつい…」 「しっかり謝りなさい。勘違いしたのはそうくんだよ」 「ごめんなさい」 しっかりと頭を下げたお父さん。はあ…やっぱりお父さんはお父さんだな… 「そうくん、鞄、忘れてるよ?」 「うわっ、そういやそうだ!学校まで取りに行ってくる!」 「私達はそこのバス停で待ってるわ」 駆け足で走っていく若いお父さん。田んぼのあぜ道には私とお母さん。 身長も同じくらい。お母さんに憧れて伸ばした髪も長さは同じくらい。 でもお母さんは肌が白くて…優しい目をしている。 微笑む形のいい唇、おしとやかな立ち方、女の私から見ても素晴らしく魅力的な女性だった。 「あそこのバス停で休みましょう?私ちょっと疲れちゃった」 促されるままに近くにあったバス停ベンチに腰を下ろした。 バスは一時間に一本しか止まらないらしい。 「ところで…、あなたの名前は?」 本名を言うべきか迷った。ここは嘘が必要かもしれない。 「柊 かがみ です」 ごめんねかがみん、ちょっと名前借りるよ。 「そう、柊さんね。いい名前ね」 よかったねかがみん、名前褒められたよ。 「そうくんはそそっかしくてね…… この前なんか映画のチケットの日にち読み間違えて……」 お母さんとお父さんの話をはどれもが初めての話だった。 話を聞くだけで幸せになれる… お母さんの優しい声に紡がれる幾つものストーリーはとても印象深かった。 「……柊さん。あなた…私のことも、そうくんのことも知ってるんでしょ……?」 お父さんの言葉を思い出した。 『かなたは勘が鋭かったからなー』 本当に鋭いね。お母さん。 「なんで…わかったの?」 「赤の他人なら、カップルののろけ話に本気で耳を傾けたりしないわ。それに…… あなたは私にもそうくんにもそっくりだもの」 かなわないな…… お母さん。今なら言える。 お母さんは誰もかなわない…私にとって最高のお母さんだよ…… 遠くからバスのエンジン音が聞こえてきた。 これ以上ここにいてはいけない気がする。 このままではバレてしまいそうだ。 私達の前に止まったバスは扉を開く。 「かなたさん、ありがとうございました。…絶対忘れません」 ステップに足を乗せた時、お母さんが尋ねた。 「私達は…幸せになってますよね?そうくんと…一緒に幸せになれていますよね?」 「うん。お母さんとお父さんは…幸せな夫婦になったよ!」 涙に歪む視界の中で、バスの扉が閉まった。 バスは揺れながら田園風景の中を走る。 流れる景色は稲穂色。 幸せな嘘は必要だよね。 真実を告げるのが全てじゃないってのは…多分、本当だ。 心地よい秋の日差しをガラス窓ごしに浴びて……私は…… 「こなちゃん!こなちゃん!授業中だよ?」 寝ぼけまなこをこすって見えたのはいろいろ書かれた黒板、 真面目に授業を受けてるクラスメート。 夢だったんだろうか。 セーラー服の袖の臭いを嗅いでみた。 ……田舎の土臭い匂いがした。 おしまい

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。