ID:OQao1ntoO氏:ブラインド・ヒロイン

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※「ナカサキさん」「此と彼の狭間」の続きです 未読の方は先にそちらをご覧になることをお勧めします 唐突だけど、私は階段から落ちた。そして気付くとこのベッドに寝ていた。 長い夢の中で、ダイレクトに生死に繋がる出来事があったのだけど、それは前に語ったとおり。 今はまだ、病室のベッドの上。窓の外は夕焼けで、病室は紅で満ちている。 まつり姉さんは私に、どうやって帰ってきたのか、と訊いた。 なんだかその尋ね方は興味があるからではなく、ただの確認だと断ってから訊くようなさっぱりしたものだったから、私は少しむすっとして、「後ろから呼んでくれたから」と答えた。 それに対する返答でさえ「そう。」という簡潔極まりないもので、私が更に苛立ってしまったのも無理はないはずだ。 おいおい、妹が生きるか死ぬかという目に会ったんだからもう少し言い方ってもんがあるんじゃない? 姉さんは一度外を見やり、そのまま静かに言った。 「私はたぶん、誰がいつ死んでも悲しまないよ」 私に振り返った表情は逆光のおかげで判然としなかったが、それでも何かを憐れむような目をしていたのは忘れられない。 「…ごめん、姉さん。なんだって?」 少々オーバーリアクションのような気もするが、私は耳を疑った。この人をいい姉だと思ったことは少ない、だけどこんな非情人間宣言を聞いてしまうとは思いもしなかった。 「私は…大切なことを知ってるから」 姉さんはフルシカトを敢行するつもりでいるらしい。無言で先を促してやる。 「かがみ。人はね?…いつか必ず死ぬの」 …そりゃ、わかってるけど。 「いい機会だから話してあげる。私が高校生の頃の話よ」 数年前。姉さんが高校に入って、初めて迎える秋。 語り部 かがみ→まつり 私には、親友がいた。 高校に入って初めてできた、親友と呼べるその子は、なんの取り柄も無い、どこにでもいる女の子だった。 ただひとつ、他の友達と違ったところがある。オカルト好き、というその点に置いて、私とおもしろいように波長が合った。 他にも何人かそういう趣味の子はいたけど、自分は好きというより、実際に見えてしまう。大抵の人間が話す「オカルト」だとか「心霊現象」は、自分の見えているものと完全に矛盾しているものだった。 だから私は、そういう輩は鼻で笑っていた時期もあった。…のだけれど。 その子の話にはその矛盾を見出だすことができなかった。いつも的確に、私と同じものを見て、私と同じ意見を持った。 私は確信したものだ。ああ、この子も本物だ、と。 親友と一緒に様々なことに足を突っ込んだ。心霊スポット巡りはもちろん、怪しげながらも可能性のありそうな黒魔術や降霊術まで。 ほとんどの場合、それらに効果は無く、ただの骨折り損になることばかりだったのだけれど。 そんな彼女が、「『コックリさん』をしよう」と誘ってきたときも、私は迷うことなく快諾していた。 かがみです。 コックリさん…というものを知らない人はいるだろうか? 紙に鳥居、五十音、数字とはい・いいえ…等を書いて、十円玉などを置いて、 『狐狗狸さん』を呼んで、質問に答えてもらう。 地域や年代によってその方法や呼び方に違いは見られるけど、オーソドックスな方法としてはこんな感じ。 「…先に言っとくけど、『コックリさん』は一種の集団催眠なの」 ひとりでは信じられないものでも、数人集まると他の皆が信じてる、だから『なにか』がいるんだ…と思ってしまう。 十円玉を動かしているのは自分だけど、『なにか』を信じているから自分で動かしていることに気付けない。 誰かが十円玉を動かしていると、『なにか』が動かしているのだと、信じてしまう。 「だけどそのときの私はそれを知らなかった。だから私も参加した。」 姉さんは淡々と語る。まるで他人事のように。 「あのとき、もし私がそれを知っていて、バカバカしいからやめろ、と言っていたなら。あの子は─」 姉さんの話に戻ろう。 親友には、彼氏がいた。 私も親友も、オカルトというあまり健全ではない趣味を持ってはいたが、だからといって他人との交流が無かった訳ではなく、人並みに友人もいたし、恋人もいた。 ある日の放課後。私と親友、その彼氏、それからふたりのクラスメイトの五人で「コックリさん」をすることとなった。 徐々に紅に染まりつつある教室、そこで紙に五十音をつらつらと書いている間も、なにも感じることはなく、「これは何も起きないかもしれない」と思っていた。 やがて舞台は整い、紙の鳥居の部分に乗せた十円玉に五人が指を当てる。 『コックリさん、コックリさん…』と呼び掛けながら、私は親友の顔を盗み見た。 その顔は無表情そのもので、なにか不気味なものを感じたその時。 十円玉が、つー…っと紙の上を滑った。 きゃあ、と盛り上がる面々。その中で親友が一言、静かに 「コックリさんですか?」と尋ねた。 十円玉がまっすぐ移動し、『はい』の上で停止する。 ざわつく面子の中で、私は周囲の気配を探っていた。 何も感じない。「これ」がなにかの仕業なら、その「なにか」はどこかにいるのに。 私は「なにか」に尋ねてみる。 「お尋ねします。○原×子の好きな人は誰ですか?」 それはこのコックリさんに参加しているクラスメイトの名前だった。左から、もうやめてよ、と恥ずかしがるような声が飛んでくる。 十円玉は五十音の上を、ある人物の名前を示すように移動する。左からきゃあ、などと聞こえてくる。 恥ずかしがることはないのに。動かしているのは本人なんだから。 それを皮切りに、「コックリさん」は儀式ではなく遊びとなった。想い人から試験範囲まで、様々な質問が飛び交ったが、依然として「何か」の気配を察知することはできなかった。 だが、唐突に。 「それ」は姿を現した。 先刻まで何も感じることはできなかったのに、今は「何か」が確かな存在感を持って、この紙を見下ろしている。 どこだ、と辺りを見渡すと、すぐに見つけることができた。 「それ」は親友の背中に手を添えて、じっと十円玉を見下ろしていた。 親友は気付いていないのだろうか、何か物思いに耽るような表情で、同じように、十円玉を見下ろしている。 「もうやめよう!」 自覚は無かったけど、かなり張り詰めた声になってしまっていたようだ。騒がしかった教室が、水を打ったように静まり反る。 「ねえ、気付かないの?ヤバいよ、そいつ」 親友は私の言葉に顔を上げる。その顔は…まだおもしろくなってないのに、とでも言いたそうな… 「そいつ」が動いた。のそのそと、まるで巨大な影が重い体を引き摺るように、歩く。 「コックリさん、ありがとうございました。もうお帰りください」 十円玉はさっきまでの動きとは違い、ジャッ、と音を立てて動いた。『いいえ』の上まで、一気に。 悲鳴が上がる。 …紙との摩擦で、指が熱い。だが五人とも、十円玉から指を放すことができない。 それがコックリさんのルール。しかし、今は「放してはいけない」ではなく、「放すことができない」。 皆が一斉に、口々にコックリさんに帰るよう呼び掛ける。が、十円玉は『いいえ』の上から動こうとしない。 「そいつ」はまだ歩いている。五人の周りを、ゆっくりと。 …「そいつ」が後ろを通り過ぎたとき、悍ましい寒気が背中から脳髄へ突き上げた。 やばい、こいつは相当ヤバい! 黙っていた親友が、囁くように、呼び掛ける。 「どうすれば、帰っていただけますか」 十円玉は、五十音の上を走り始めた。ジャッ、ジャッと音を立てながら。 『だ』『れ』『か』『ひ』『と』『り』『い』『け』『に』『え』『に』 …誰かひとり、生贄に。 …一瞬の静寂。そして、耳をつんざくような悲鳴。 ダメだ、皆パニックになってしまってる。私ももう、どうしたらいいのかわからない。 …そいつが五人の周りを歩きながら、十円玉を移動させる。 『だ』『れ』『に』 …私は、こいつを知っている。 ただし、もっと小さいヤツだ。 『し』『よ』『う』 「思念」の中で、最もタチの悪いヤツ。…「殺意」。 『か』『な』 ただし、こんなでかくて強いのは、今まで見たことがない。 死に逝く人間が、ここまで強い「殺意」を残して行くなんて話、聞いたこともない。 『き』『め』『た』 ここまでの「殺意」をカタチにできるのは、そう… 生きている人間。 「…!!!」 十円玉が『決めた』と示したとき、…親友の彼氏の首を掴もうとしている「そいつ」を、視界の端で捉えた。 「逃げてっ!!」 と叫び、その彼氏に向き直った瞬間、 「殺意」は、跡形も無く消えていた。 そして、皆が十円玉から開放され、床にバタバタ、と尻餅をつく。 皆が一様に言葉を失っている中、私はそいつの姿を探したが、…見つけることはできなかった。 姉さんはそこまで一気に語り、一息ついた後、 「その後、なんとか皆を落ち着かせてね。もういない、大丈夫だ…って、帰らせたんだけど」 はあ、と溜め息をひとつ吐き、心底気分が悪い、とでもいうように、 「親友の彼氏が、踏切事故で死んだ」と言った。 …。 「親友も、ショックで寝込んで、塞ぎ込んじゃってね。…ちなみにその子、コックリさんの一件、ほとんどなにも覚えて無かったんだけど」 …まさか。 「もしかして、かがみにもわかるんじゃないかな。親友の彼氏を殺した犯人」 さっきの、子供故の純粋な殺意、というフレーズが脳内を駆け巡る。 「姉さんの…『親友』」 「…ご名答」 でも、…そんな…。 「あの子に明確な殺意があった訳じゃないの。あの子は彼氏の死を望んだんじゃない。…あの子が望んだのは…」 おもしろさ。 半ば遊びと化してしまったコックリさんに嫌気がさした。でも、『もしも』誰か死ねばおもしろい。『もしも』自分の彼氏が死んだなら、自分は悲劇のヒロインだ。 なんて、そんなことを思っていたら…。 「トビキリのヤツを、自分で生み出してしまった」 …。 「それが、私が一生で一度だけ目にした、殺人劇」 ……。 「ね、かがみ。わかる?」 …姉さんの顔は、逆光で─ 「人間なんてね、他人の思考ひとつで、死ぬの」 …幽霊なんかより、生きている人間のほうがよっぽど恐ろしい。 …そんな考えが、私の身を震わせる。 「…どうしてかな?かがみ」 …? 「人間はいつか死ぬんだって、みんなわかってるはずなのに、  自分が、親が、兄弟が─」 一旦、息を吐く。 「─自分の大好きな人が、自分の大切な人が、  数時間後、数秒後に死ぬ訳がない─なんて…」 「どうして無条件に信じられるんだろう?」 …それは、…何故だろう。 姉さんの言ったことは、たぶん正しい。 人間なんて、いつ死ぬかわからない。 …それなら、正解は… 「もし明日死んでもいいように、今日を楽しく生きてりゃそれでいーの」 姉さんがいつか言っていた。そのときはただ、なにかと怠け癖のついている姉さんの言い訳くらいにしか思ってなかったけど。 姉さんが窓の外を見て、呟く。 「ほら、今もどこかで…誰かが死んでる」 おしまい

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