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ID:JD84J+LaO氏による小ネタ
つかさは、柊家に嫌気がさして家出したようです
つかさ「眼鏡割ってあげるからしばらく泊めて」
みゆき「帰れ」
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闇。
暗くどこまでも続きそうな漆黒の中で、さらに黒を上塗りするようなやり取りが続いていた。
月に照らされる二人の人物は共にパジャマであり、それだけを見れば少女達の微笑ましい逢瀬にも思える。
しかし、シチュエーションというのは時に期待を裏切ることがある。
見る人が見れば、その綺麗に飾られた玄関が戦場の一角に見えたはず。少女達は目をそらさない。
「そう‥‥」
殺気。
その言葉が、この場の全て。一部の人を印象付ける一片の言の葉。
ひらり、とショートヘアの女の子がバックステップした。
片足で着地。そして着地した衝撃をバネにして再び目の前の人物へと目標を定めると、
「なら、全身の骨ぇ音がしなくなるまで割ってやるよっ!!」
突進。さらに左の拳が前へと突き出された。
静まり返った街中にその拳の命中音は聞こえない。見ると、指2本分くらいの差で避けている。
間一髪。しかしそれは同時に無駄の一つも見当たらない回避行動だ。
相手が自分の左をすり抜ける。そのスキを逃さず、取り出されたのは一筋の鈍い煌き。
鉄。警棒のような、相手を打撃で倒すためのシンプルな武器。
「甘いですよ、つかささん」
あくまで淡々と。
まるで子供に童話を語りかけるような抑揚のついた口調で、その凶器を相手の後頭部に向かって振り下ろした。
刹那、金属音が響く。それは繰り出した一切の無駄の無い攻撃が受け止められた証拠だ。
「そんなもので私に勝てると思ってるの?」
「ふふっ‥‥あまりに早く決着がついてしまっては面白くないではありませんか」
「上等っ!」
片方は鉄棒、そしてつかさの手にあるのは・・・杖のような、木の棒。
だが鋼の一撃に耐えているところを見るとかなりの硬度なのは間違いない。みゆきの手にある鉄棒と何ら遜色ないだろう。
こうなるとお互いの持ち物については五分と五分。
しかし、一対一(サシ)の対決においては大きな差となるこの状況。
体勢。
つかさは突っ込んだ時に力を込めるため、姿勢を低くして相手へと向かっていった。
そこに武器が振り下ろされて。当然、その反動を受け止めなければならない。
しかし未だ低い体勢のつかさが足で踏ん張ることは不可能。防衛手段として、とっさに片ひざをついてしまった。
一方で、攻撃を受け止められたとはいえ、あと数センチで命中していたという状態のために上から全体重をかけることの出来るみゆき。
ぎりぎりぎり、と鉄と木が奏でる擦り潰すような音。
「ふっふ、いつまで持ちますかね‥‥?」
「・・・っ!ちょっとこれは見くびってたかも、ね・・・」
でも、と呟いた彼女は少し深く息を吸い込んで、
「‥‥其は地を這いし大蛇。憑き絡み喰らう者とする。我が手に携えしは虚空の煌き。目覚めよ、白き光華!」
「‥‥っ??!」
とっさに後退。先ほどのつかさのように玄関から外へとバックステップをしたその瞬間。
鼓膜を貫くような音が走った。
「ライジングラウンド!!」
ばきん。
紡がれた言の葉が威として弾けた。
威力は丁度つかさのもっているステッキを点とした時の半径一メートルほど。しかしその射程内にあった家具やドアは全て一つの色へと変わっていた。
黒。焼き尽くされた後に残る黒。それは狭い範囲とはいえ当たってしまえば絶命は避けられないと相手に悟らせるには十分すぎるものだ。
「危なかった‥‥」
炎に属した呪文かと思ったが、目に写ったのは閃光。
全てを焼ききるほどの雷撃だった。
「これは‥‥私も手加減などとは言ってられないみたいですね‥‥!」
持っていた鉄棒を目の前へと投げ捨てた。
己の背へと手をやる。
再び腕を伸ばした時、その手には先ほどとはまた違う煌きを放つ武器が月光を浴びていた。
甘かった。武器に杖を持ち出したのは、攻撃のためではなく術の力を強めるためか。
しかし今のやりあいで相手の主な攻撃手段は術だと判明した。加えて相手の武器の素材。
「行きますよ」
そう言って更に距離を離すと、一息ついてから構えた。
刀。斬り、付き、二通りある攻撃方法のどれもが相手に致命傷をもたらしかねない一撃必殺の日本刀。
相手の攻撃手段が詠唱不可欠な術だと分かった以上、こちらが接近戦に持ち込み詠唱するヒマを与えなければいい。
更に相手の武器は木で出来ている。幾ら硬度の高い木であれ、鉄と比べれば次元が違うはず。
杖で応対してきたのなら、その杖ごと斬り伏せればいい。
「地鍔爪斬(ちがくそうざん)!」
刀を地面に這わせ、つかさに走りよる。
この技は通常の剣の間合いよりも1メートルほど離れた場所でも発動可能だ。切り上げと同時に地のエネルギーを自分と相手の間に壁を成すようにして吹き上げ、攻防一体の攻撃となる。
つかさは迎え撃とうとしているのか、少し構えを取っただけでそれ以上の動きは見せない。
致命傷とはならなくとも、敵の第一波は確実に防げる上に後々の攻撃に繋がる非常に有利な形で終わらせることが出来る。
隙が出来れば、相手をこの凶器で切り刻むだけだ。
あと三歩、あと二歩、あと一歩。
射程距離に近づいていく刹那、敵の声を聞いた。
「何勘違いしてるのゆきちゃん、まだ私の攻撃は続いてるよ?」
瞬間、足元に何かが絡みつく感触。
痛み。
「っあ!!」
足元を見る、そこには先ほど捨てた鉄棒が電気を帯びてパチパチと光を放っていた。
動けない。体が痺れる。
「どう?あの呪文は雷撃のほかにも周りの鉄や水を帯電させることが出来るんだ。すごいよね~」
無邪気な笑みを浮かべたのも一瞬。終わりの呪文(ことば)が聞こえてくる。
「狂気の集約、地の慟哭。紅蓮の焔より賜りし法は揺らぐこと無き絶対の絆。連鎖の理、普遍への回帰。我ここに断罪となりし戒めを示さん。汝の楽園は苦と熱波と死の先にあると知れ‥‥ボルケーノドライブ!!」
唸るようにして地から炎が吹き上げたかと思うと、みゆきへと襲い掛かる。
しかしその目に絶望は無く、未だ闘志がぎらぎらとまるで視野できるかのようだった。
「‥‥鉄。刀だって、鉄なんですよ」
全身に力という力を込めてようやく立ち上がると、地面に刺したままの剣を振り上げた。
剣にまとわりつく、眩いばかりの光。
「まさか、私の地電流のエネルギーを全部刀に集約して‥‥」
「いきますっ!!」
光り輝く刀を、その何十倍もの体積を持つ炎へと振り下ろした。
ずずん、という地鳴り。
つかさが事態を把握した頃には、既にエネルギー同士が衝突していた。
力はまさに五分と五分。散っていた力を集約した刀と、強大なエネルギーの奔流。
「くく・・・っ」
汗が滴り、ぽたぽたと落ちていく。
エネルギーを纏っているとはいえ、相手の術をこらえるための刀を握っているのは自分以外の何者でもない。
となると当然握っているみゆきに負担が生まれる。
ふと。
背後に殺気を感じた。目の前の炎に勝るとも劣らない、強烈な殺気。
「なっ、つかさ‥‥さん‥‥」
術を唱え終わったつかさが背後にいた。勿論、杖を構えて。
一方で術を必死で抑えているみゆきには成す術が無い。
しかし杖という殺傷能力の低い武器なら。
術者が元いた場所を離れたということは、もうこれ以上術の威力が強くなることはない。弱まる一方だ。
つかさがみゆきの身体を行動不能にするまで殴打するのが先か、それともみゆきが弱まっていく炎を押し切って未だ纏ったままの雷の剣でつかさを貫くのが先か。
しかしその半分同士の確率論は、次の瞬間意味のないものへと化した。
つかさが杖を抜く。
正しくは、鞘から引き抜いていく。
そう、つかさが持っている杖というのは術の威力を強化するという術者に特化したタイプの武器。
その実態は、中に刀が用意されている仕込みの杖。
「じゃあね、ゆきちゃん」
細い杖に用意されていただけあって普通の刀よりも細身になっているそれは、やすやすとみゆきの身体を貫いて。
同時に、先ほどまでみゆきが必死に支えていた術が正しく命中し───
物凄い地鳴りと爆発音と共に爆ぜた。
「・・・ふぅ」
もはや廃墟と化したみゆきの家。
あたりを見渡す。住居という原型はもはやとどめていない。
「これじゃあ泊まれないよね‥‥ぁ、そうだ!」
困り果てたつかさだったが、もう一つの選択肢が現れた。
この家のすぐ近く、2つ離れた後輩の家へと───。
‥‥つ づ き ま せ ん。