ID:oj2Sk48LO氏:『なまあたたかいゆたか』

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秋葉原って広いな……こなたお姉ちゃんのバイト先に行こうと思ったら…… 迷子になっちゃった…… お姉ちゃんの地図全然わからないよ……もっとしっかり描いてほしいな。 ダメダメ!私がしっかりしなくちゃ!一人で行かなきゃ!子供じゃないんだからね。 秋葉原の町並みはすごい。あちこちにこなたお姉ちゃんの読むようなマンガのキャラが描いてある。中にはちょっと恥ずかしいのも混じってるけど…… いろんな意味で目移りする町を歩いてもう一時間。さっぱりバイト先はわからない……電話はバイト中のこなたお姉ちゃんに迷惑だし、自力で探さなきゃ。 ……道を聞くのは自力の内に入るよね? 「あの……すいません……」 近くにいたちょっと太ったおじさんに声をかけてみた。 これがいけなかった。 声をかけた中年のおじさんの目が、私を見た途端に変わった。 分厚い眼鏡のレンズの奥の双眼が見開かれた。半開きの口は口角をつり上げ不敵ににやついている。 「あ……ごめんなさい……」 逃げろ。私の中の本能がビシビシ告げてくる。 危険だ。 一歩足を引いたその時だった。 私の右手首を男の油ぎった手が掴んだ。 伝える対応が、近づく顔から発する吐息が野獣のような目が、すべてが気持ち悪い。 「離してっ!」 鞄を振り回して必死に抵抗しても私と男の力の差は埋まらない。 !、男に鞄が当たった。男が怯んで力が緩まった。 袖を引かれてジャケットの袖が肩からもげた。でも逃げられた…… 私の心臓は酷使されて悲鳴を上げている。わき腹や肺も限界に近い。 でも、逃げきれた。 なんとかたどり着いた駅のトイレでおもいっきり吐く。もうあんな経験はしたくない。 トイレの個室の鍵を閉めてガタガタ震えることしか出来ない…… 私は弱い。足が震えて立ち上がれない。子供じゃない?これじゃ子供と一緒じゃない。 震える手で携帯を握り、電話帳を開いて最初に表示された番号に電話をかけた。 ただ、不安でしょうがなかったから。情けない自分を叱って欲しかったから。 みなみちゃんにかけるはずだった電話は田村さんの番号につながってしまった。 みなみちゃんに心配かけたくないからって田村さんにかけるなんてひどいな……私。 『どうしたの-?』 電話から田村さんの明るいけど落ち着いた声が聞こえた。 「ねえ、田村さんってなんで私達に近づくの?マンガのネタになるから?」 最低だ。やつあたりでしかない。しかも友達への言葉の暴力。最低だ。 でも、私の口は止まらない。 「私達をマンガのネタとしてしか見てないの?」 言ってしまった。 最も言ってはいけない単語を。 田村さんは応えない。 沈黙が個室に広がる。携帯からは田村さんの声はなく、ゲームのBGMが遠く聞こえるだけだった。 『………なんかヤなことあったの?』 悲嘆の台詞でもなく、弁明でもなく、ただ私を気づかう言葉だった。 「……ひっぐ……」 私の目からは涙が溢れていた。こらえることもできずに頬を伝ってスカートの上にぽつぽつと落ちる。 『ヤなことがあった時は信頼できる人に相談しようよ?私で良かったらいつでも相手になるからね』 ありきたりな台詞が深く染み渡る。ありきたりだからこそ、心に染み込む。 一人じゃないことを思い出せた。 ありがとう。田村さん。 明日から、いや今からはひよりちゃんと呼ぼう。いつまでも名字で呼ぶのはおかしいよね。 『おはよう、ひよりちゃん!』 おしまい

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