ID:O1mi2Otc0氏：つかさの旅の終わり（ページ１）

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<p>この物語は「<a href="http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1765.html">ID:ilryqbMC0氏：つかさの旅</a>」の続編です。</p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あれから二年が過ぎた。この町に来ていろいろあったけど、ゆっくり考えている暇はなかった。レストランはどんどん有名になっていき来客もうなぎ登り、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
テレビや雑誌からの取材申し入れが幾度となく来るほどだった。でも、かえでさんはその度に断っていた。只でさえ忙しいのに雑誌とかで紹介されたら</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店に入れないお客さんも出てくるし、ちゃんとした料理を出せなくなってしまう。直接かえでさんに聞いた訳じゃないけど、多分そうじゃないかなって思っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　お姉ちゃん、ゆきちゃんは大学院で猛勉強をしているみたい、あまり来てくれないし、こっちからも来て欲しいなんて言えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして……もう一人、進路が全く決まっていなかったこなちゃん。冗談半分でうちの店で働いてみないなんて誘ったら、本当に来てくれた。正直驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もう一人、あやちゃんも誘ったのだけど断られてしまった。家庭をもつとやっぱりダメなんだよね……もっと早く誘えばよかったかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　こなちゃんは店にくるとホール担当になった。コスプレ喫茶で働いているだけであって直ぐに店の決まりごとやかえでさんの厳しい注文に対応した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そしてあっと言う間にこなちゃんはホール長になってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この頃になるとスタッフも増えて役割分担がはっきりとした。休日も定期的取れるようになった。私は相変わらずのスィーツの担当。かえでさんは店長兼、メイン料理……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私だって負けていられない。賄い料理を出しては新しいメニューを提案した。もう何品かは採用されている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだかんだで、充実した生活を送っているのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「明日は久々に二人とも休みだけど、どこか行く？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
朝食の準備をしながらこなちゃんが言った。そう、私達は同じ部屋に住んでいる。いわゆる共同生活って言うのかな。ここなら家賃は安いからこなちゃん一人でも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
借りられた。私の借りた部屋が少し大きすぎたのもあった。急にこなちゃんが来る事になった。最初はそんな理由だった。職場が同じだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なにより一人暮らしの寂しさから共同生活は続いた。もっとも休みが重なるのは月に１、２日くらいなのと、個室があったので、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それぞれのプライベートな時間は保たれていたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「別に予定はないけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それじゃお昼、松本さんが教えてくれたパスタ屋さんに連れて行ってよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……別に良いけど、まだ朝ごはんも食べていないのにお昼の話なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……お腹が減った時についでに話しただけ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『つかさの旅の終わり』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
お昼の時間、私の運転する車は店に着いた。結局こなちゃんとパスタのお店に行く事になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃん、どうしてこの町に来てくれたの、おじさんとか、ゆたかちゃん、寂しがらなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
オーダを頼むと私はこなちゃんに質問をした。まだちゃんと話を聞いていなかった。こなちゃんは今更なんでこんな話をするみたいな顔をしいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ゆーちゃんは喜んで送ってくれた、お父さんは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの話が途切れてしまった。おじさんと別れるのが辛かったのかもしれない。思い出させてしまったかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、ごめんなさい、話したくなければいいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……いや、誘ってくれて嬉しかった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">沈んだ顔が急に明るくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「誘ったって、店で働くこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「あのままだったら完全にニートだった、お父さんもあまり厳しく言わなかったし……良い機会だったのかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、この町は不便じゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「いいや、ネットが繋げれば問題ないよ、コンビニもあるし……ゲームも出来るし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この町もやっとインターネットが出来るようになった。こなちゃんが来る条件でもあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、お店に直接行けないのが寂しい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうそう、陳列されているのを見て、選ぶ楽しみって言うのが……あ、つかさ、誘導したでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふふ、そう思った？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お待たせしました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
話の区切りが着いて二人で笑って居ると、飲み物を持った店員が来た。そして飲み物をテーブルに置くと厨房に戻って行った。するとこなちゃんは胸のポケットから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">手帳を出して書き出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうしたの、何を書いているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「さっきの店員、私達がお喋りをして一段落したのを待っていた、これはうちの店でも採用できると思って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……私、全く気付かなかった……流石ホール長だね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いやいや、褒めるな、褒めるな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは飲み物を少し飲んだ。少し顔を赤くして照れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は全く気付かなかった。確かに店員は自然に、会話を中断せずに飲み物を置いて行った。それを見逃さなかったこなちゃん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私には無いものをこなちゃんは持っている。そんな気がした。それは高校時代では分らなかったもの。私が知らなかっただけなのか。卒業してからのものなのか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「飲み物ならいいけど、温かい料理だと、熱いうちに出したいよね、その辺りの駆け引きが難しそうだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
駆け引き……こなちゃんはゲーム感覚なんだ。こなちゃんは楽しんで仕事している。私も料理は好きだけど。店と家で作っているのは別物だと思っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">別にする必要なんかなかった。もっと楽しく……そうだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今日はこなちゃんと食事をして良かったよ、何か教わった気がした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「なに、私、何もしていないよ……変なつかさ……あ、料理が来たみたいだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">食事の後は、待ちに出てお買い物をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして、楽しい休日はあっと言う間に終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ちょっと、何回言ったら分るの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">休日が終わって直ぐだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情的に怒るかえでさん。仕事でこんなに感情的になるのは珍しい。開店前、新人スタッフに怒鳴っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……店長どうしたのかな、意味もなく怒る人じゃないのに……あの日かな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の耳元で囁くこなちゃん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……分らない、分らないけど何かありそう、そういえば一週間くらい前から落ち着きが無くて、セカセカしていたよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私もこなちゃんの耳元で囁いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「皆、何ボヤっとしているの、もうそろそろ開店よ、しっかりして！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
更に声を張り上げるかえでさんだった。それは私達に言うよりは自分自身に言っているような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの不機嫌とも思える行動は閉店まで続いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お疲れ様」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店の片付けが終わり、皆が帰っていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今日は私が鍵当番、最後の戸締りをする仕事が残っていた。チェック表を見ながら電気の消し忘れをチェック、ガスの元栓の閉め忘れを確認しないとね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「全部チェックヨシ！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
チェック表に全て記入して更衣室に入った。今日はこなちゃんが先に帰って夕食を作っているはず。早く帰ろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
着替えていると床に何かが落ちているのに気が付いた。何だろう。着替え終わってから落ちているものに近づいた。それは名刺だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
拾い上げると『ワールドホテル』と会社名が書いてあった。ホテル……ワールドドホテルって言ったら全世界に店舗をもっている高級ホテル……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『バン！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
突然ドアが開いた。私はビックリしてドアの方を向いた。そこには息を切らせたかえでさんが立っていた。ノックをするのも忘れているくらい慌てているみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ど、どうしたのですか……びっくりした……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは私が居るのさえ気が付かない。床にコンタクトレンズを落としたみたいに何かを必死に探していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなり飛び上がって驚くかえでさん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「うぁ！！　　つ、つかさじゃない、黙って入るなんて、居るなら居るって言いなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「さっきからここに居ましたけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そ、そうだったの……それより、こんな遅い時間に何をしていたのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今日は鍵当番だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……そ、そうだったわね、お疲れ様……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">また床を探し始めた。おかしい、話が微妙に噛みあわない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、あの、探し物ってこれですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
持っていた名刺をかえでさんに見せた。かえでさんは名刺を見ると、まるでひったくるようにして私から名刺を取り上げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「あった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは溜め息をつくとそのまま部屋を出ようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「待って下さい……ワールドホテルって何ですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……つかさには関係ない事よ……忘れなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言われると余計関係あるように思えてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「今日は朝から変だった、あんな怒り方したら新人さん辞めちゃうかもしれない、何か悩み事でもあるのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「……そうね、朝の態度は悪かったわ……明日、謝っておくわよ……私が帰らないと鍵が閉められないわね、帰るわよ……おやすみなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おやすみなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはそのまま店を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何も話してくれなかった。何だろう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おかえりか……確かに一人暮らしだとこんな返事はないよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「鍵当番だけどちょっと遅かったね……なんかあったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
テーブルには既に料理が並べられていた。少し冷めている感じだった。私はかえでさんの事を話した。こなちゃんは腕組みをして考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「やっぱり、店長……松本さんは何か隠しているね……かがみに似ている所があるからなんとなく分るよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんに、似ている？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよ、この前、初めてここに来た時、かがみと言い合いの喧嘩をしたでしょ、それで分ったよ、二人は似たもの同士のツンデレだって、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　だからかがみと同じように接するとうまくいく、実証済みだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
得意そうに話すこなちゃん。こなちゃんはかえでさんをお姉ちゃんに置き換えていた……私も今までホームシックにならなかったのもこなちゃんと同じように</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんをお姉ちゃんに見立てていたからかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「とにかく、夕ご飯食べよう、話はそれからだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだね、私もお腹減った……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は食事をしながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　食事も半ばくらいした頃だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「一ヶ月くらい前の休日なんだけど、買い物の帰りに偶然松本さんを見かけてね、挨拶しようとしたんだけど……隠れて後を付けちゃった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　そうしたら、例の神社に入っていくのを見たんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は食事をするのを止めた。かえでさんが神社に行った……こなちゃんは更に話を続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「私はそれ以上後を付けなかったけど……つかさ、似ていると思わない、呪われた時のかがみに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まさか、そんな筈はない。お稲荷さんは皆この町を去った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「呪いなんて考えられないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんも食べるのを止めて私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「だったらなんで神社なんかに行くのさ……そういえばつかさは私がここに来てから神社に行くのを一回も見ていないし、ひろしって奴も一度も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　見かけていない……何があったの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お稲荷さんの話は二年前に帰ってお姉ちゃんと話してから誰とも話していない。懐かしさが少し込み上げた。でもまだ懐かしいなんて言うほど時間は経っていないのも確か。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……今は言えないけど……呪いは考えられない、だけど、かえでさんが神社に行く理由なら心当たりあるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……心当たり、教えて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはまたご飯を食べだした。顔が少し曇っている。お稲荷さんの話をしないから納得いかないみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「辻さんはあの神社で自殺したから、多分お祈りに行ったと思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「辻……辻浩子さんだね、松本さんが以前一緒にレストランを開店しようとした人だったね、何で今頃になって、辻さんってどんな人なの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私もそのくらいしか教えてもらっていないよ、かえでさんから彼女をする事なんてないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まさか、かえでさんはまだ辻さんが自殺をしたのを自分のせいにしているのかな。でもそれは本人に聞かないと分らない。私も残りのご飯を食べ始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そういえば……帰りに更衣室で名刺を見つけた、そうしたらいきなりかえでさんが入ってきて、慌てて名刺を取り上げたよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお茶碗のご飯を全て食べてから話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「名刺……誰の名刺なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「名前まで見られなかったけど……ワールドホテルって書いてあったかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ワールドホテル……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは食器を片付け始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさ、もしかして松本さんはワールドホテルからスカウトされたんじゃないの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうゆうことなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんの言っている意味が分らなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「うちのレストランの評判はつかさだって分っているよね、ネットの中じゃ人気トップクラスだよ、テレビや雑誌で紹介されないのは松本さんの方針、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　それは私も賛成する、でもね、有名ホテルならこういったレストランの有能者をヘッドハンティングしちゃえばレベルを上げるのが手っ取り早いからね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ヘッドハンティング……そんなかえでさんは他のレストランに行っちゃうってことだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんが居なくなったら……このレストランはどうなっちゃうの、ここまで来るのに皆苦労したのに、これからなのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の食べ終えた空の食器も片付け始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよね、つかさは私がここに来る前からかえでさんと一緒に頑張ってきたから……つかさと松本さんの絆が試される時だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「絆……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは急に笑い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ふふ、つかさはいつも真に受けるんだね、松本さんの態度と名刺から私が勝手に想像した事だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……で、でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さらにこなちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「何があったか知らないけど、呪いの方は解決したみたいだね、私にはそっちの方で安心したよ、つかさもかがみも解放されたんだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あれで本当に解決したのかな。まだあの時の唇の感触が……何も解決していないような気がする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「どうしたの、急にボーとしちゃって？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はハッと我に返った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、なんでもない、なんでもないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは不思議そうに私を見ていた。そして気付くと、食器をいつのまにか全部洗い終わっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「これから私の部屋でゲームしない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、でも、私じゃ相手にならないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この後、こなちゃんの部屋でゲームをしたけどコテンパンに負けたのは言うまでもなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの言うことが本当なら、かえでさんはどう思っているのかな。かえでさんは元々この町で生まれ育った。わざわざ生まれ故郷でこのレストランを始めたのだから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どんなにお金を積まれたって店を手放すはずなんかない。そう思いたいし、そう信じたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　次の日私とこなちゃんは一緒に出勤した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「この車は……松本さんのだ、凄いな、今度こそ一番だと思ったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何かあると必ずかえでさんは早く出勤するよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店の駐車場に車を止めた。かえでさんの車が既に止めてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「成るほどね……名刺の事、聞けるじゃん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・こなた「おはようございます！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">声を張り上げて挨拶。客席に座っていたかえでさんは飛び跳ねて驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「うぁ、つかさ、こなたじゃない……朝から驚かさないでよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私とこなちゃんはお互いに目を合わせて相槌をついた。そして私はかえでさんの目の前に立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ちょ、ちょっと何なのよ、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達の気迫にかえでさんは立ち上がってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「一昨日の名刺の事を聞きたい、あれはいったいなんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……名詞の事ね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんはバックから財布を取り出し中から名刺を取り出した。そしてそれを私に見せた。一昨日見た名刺と同じもの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ワールドホテル」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そうよ、ワールドホテルの会長の名刺よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そこには「柊<span style="color:#ff0000;">けいこ」と書いてあった。</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「会長さん……女性なんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「名刺を持ってきたのは秘書の方だったわ……是非話がしたい……そう言ってこの名刺を置いていった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「話ってどんな話なのかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そこまでは言わなかった、ただね、相手は世界的大企業の会長よ、世間話するためにわざわざ呼ぶようなことなんか考えられない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ヘッドハンティングじゃないのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは笑い始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ふふふ、レストランごときに会長が出るわけ無いでしょ、それが本当だとしても私はお断りするわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「本当ですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「決まっているでしょ、どんな条件出されても、この店を手放すもんですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・こなた「良かった！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は両手を繋いで喜んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それで、会長と会うのは五日後、つかさも同行してもらいたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「わ、私も？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの顔が真面目になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「はっきり言って、つかさが居なければここまでのレストランにならなかった、私の支えにもなってくれた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、私は……かえでさんに助けてもらってばかりで……この前の、ひろしさんの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ゴホン、ゴホン」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ん、ひろし……なんかあったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、なんでもないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんの咳払いで話が止まった。危なかった。こなちゃんに分ってしまうところだった。私がひろしさんの話を秘密にしているのをかえでさんは知っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうゆう事だからよろしく、一応スーツを用意しておきなさい、当日は出勤扱いで良いわ、場所は東京だから帰りに実家に寄っていくわよね、次の日は休みだから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、分りました……そのつもりです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは事務室に入って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「よかったね、かがみ達にも会えるじゃん、それに「日下部あやの」さんにも会ってきなよ、結婚式出られなかったんでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みんな元気かな、あやちゃんにも会いたいな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんも逢いたいんじゃ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「まぁね、でも、つかさに比べればましだよ、私は先月帰ったし、大丈夫だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それより、つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私をじっと見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なあに？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いや、ホテルの会長の名前……柊」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私も少し驚いたけど、柊なんて姓は珍しくないし、もし近縁だったら知っているはずだよね、少なくとも私達、家族の親戚じゃないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよね、そうだよ……それにしても会うまで目的を言わないなんて……怪しいな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「詮索しても何も分らないよ、着替えに行こうよ、その時になれば分ることだし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は更衣室に向かった。今日の仕事の始まり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　慣れないスーツを着て一番電車に乗っていた。今日はワールドホテルの会長に会う日。隣に同じくスーツを着たかえでさんが私の隣の席に座っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんも落ち着きがなく、あちらこちらをキョロキョロとしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「なんか息苦しいわ、つかさは少し大きすぎじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うーん、引越しする時に買ったスーツなんだけど……少し痩せたのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは窓の景色を見始めた。まだ目的の駅までは暫くかかる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「東京か……専門学校時代と数年働いてから直ぐに帰郷したのよね……久しぶりだわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私も、専門学校の時、こなちゃんと秋葉原行ったのが最後かな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そういえば泉さんは高校時代からの親友だったわね……彼女は面白い、思いもしなかった事をやらかす、良い意味でも、悪い意味でも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、こなちゃんはどっちかと言うと、お姉ちゃんと一緒にいた時の方が楽しそうに見える……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは窓の外を見るのを止めて私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうかしら、それなら何故彼女はつかさの誘いに乗って私達の店に来た、就職先が無かったから……それだけの理由じゃない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　現に彼女は短期間でホール長になった、つかさに誘われて嬉しかったのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う～ん、分らない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは微笑みながらまた窓の外を眺めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんの親友、辻浩子さん……彼女はかえでさんと志を共にしていたって言っていた。だけどそれしか聞いていない。もう亡くなってしまった人の話をするのは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">辛いのかもしれない。だけど、私は聞いてみたい。私は思い切って聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……かえでさん、辻さん……辻浩子さんってどんな人だったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……彼女は自殺した……ばかな奴よ、思い出したくもない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">相変わらず外の景色を見たままだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「思い出したくない……そんなかえでさんが何故辻さんの亡くなった神社に行ったりするの、一番、彼女を感じる場所じゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……知っていたんだ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんが見かけたって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの目から涙が流れたような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「つかさがあの神社に行かなくなって、今度は私が行くようになった……好きな人が……狐と言った方がいいかしら……そんな人が二人も居たあの神社に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　つかさは何の未練も感じないの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まなちゃんとひろしさん……未練が無いと言ったら嘘になる。でも、あの神社に行っても会えるわけじゃないから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ひろしさんはまだ生きているから、もしかしたらまた会えるかもしれない、まなちゃんは……もう居ないけど、財布の中に生きているから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私を見ながら話し出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「葉っぱの事を言っているのか……浩子は私の幼馴染よ、一人っ子の私には姉妹のような、妹みたいな存在だった、喧嘩もよくしたけど、それ以上によく遊んだわ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　小学校、高校、そして専門学校まで同じ学校に通った」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……すごい、お姉ちゃんとは高校まで一緒だったけど、そこまで一緒だったなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「一緒にパテシエなろうなんて約束した……それが夢だった……彼女の料理の腕は私をはるかに超えていた、特にお菓子に関してはね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったのですか、私も会ってみたかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさはその彼女の腕を更に超えているわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は耳を疑った。私はそんな腕なんかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんな……お客様に褒められた事はそんなにないし……作るのに時間もかかっちゃうし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「つかさが居なければ今のレストランはなかった……旅館だけだったあの頃は料理より温泉が有名だった、私は料理長だった、それが何を意味しているのか分るでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんらしくない。卑下するなんて。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「旅館の時、出していた料理と今の料理じゃ種類が違うよ、洋風と和風だし、かえでさんの得意は洋風だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「……あんたは優しい、優しすぎるのよ、たまには人を傷つけるような事をしてみなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは少し興奮気味だった。やっぱりこれから行こうとしている所には何かがある。かえでさんを見ていると、そんな気がしてならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは会長さんがどんな用事があるのか知らないって言っているけど。概略くらいは伝えているのが普通だよ。でもこんな状態じゃ聞いても答えてくれそうにない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに時期にそれも本人から聞ける。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　私達は思わず見上げた。ワールドホテル本社ビル。周りの建物と比べると豪華さと気品で圧倒していた。入り口には沢山の人々が行き交っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なんか凄すぎて入り難いね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「…噂には聞いていたけど……そこいらのリゾートホテルとは違うわね、各国の要人も泊まるのが頷けるわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんはホテルのホールへと入ってく。私もその後に付いて行った。するとホテルのテナントレストラン街を通った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「三ツ星級のレストランが軒を連ねているわよ……私に対する当て付けにしか感じないわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">更に奥に進むと受付の前にかえでさんは止まった。そして例の名刺を受付に見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「「レストランかえで」の店長、松本かえでですが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">受付「……お待ちしておりました、そちらのエレベータで３５階へどうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
エレベータを降りると目の前が会長室だった。かえでさんは扉をノックした。扉が開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">優しく気品のある声だった。私達はその声に導かれるように向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「よく来てくれました……どうぞ、お座り下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長……この人が会長。その人は椅子に座っていた。髪は短く全て白髪……銀髪に見える。かなり歳をとっているように見えるけど背は真っ直ぐに伸びているから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">歳を感じさせない。服も若い人が着ているようなピッタリとしたスーツを着ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんの顔を見ると微笑んだ。私達は椅子に座った。すると奥の方から秘書らしい女性が飲み物を持ってきた。テーブルに飲み物を置くと軽く会釈をして奥に戻って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは私に気付いた。私の方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そちらは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……副店長の柊つかさです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
え、今何て言ったの。副店長って……そんなの初めて聞いた。何時からそんなのになったのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「はじめまして、私は柊けいこ……このホテルの会長を勤めさせていただいているわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私の脇腹を肘で軽く突いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、わ、私は柊つかさです、よ、よろしくお願いします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは微笑んだ。何だろうこの人前に会った事があるような……素敵な笑顔……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんはかえでさんの方を向くと表情が厳しくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「早速でもうしわけないですが、ご返事を聞きたいわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事……会長さんはいきなり回答を求めてきた。やっぱりかえでさんは呼ばれた理由を知っていたんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……お断り致します、とても承服できる内容ではありません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんは微笑むとゆっくりと立ち上がった。そしてテーブルに置いてあった飲み物を取った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……そうですか、悪い条件とは思いませんが、それに……断ったのはあの町で貴女だけになりました、それでも？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……条件とか町ってどう言う意味だろう。かえでさんをスカウトしているにしてはちょっと意味が分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それでもです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……最初から同意できるとは思っていません、今後も会いたいのですが、どうです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「会うのは構わない……でも、結果は同じと思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いったい何を話しているのだろう。やっぱりかえでさんをスカウトしているのかな。話に入れない。そんな私と会長さんの眼が合った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『パチン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんの指が鳴った。奥からさっきの女性が出てきた。テーブルの上の飲み物を片付けると会長さんに紙を渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「柊さん、貴女は松本さんから話を聞いていないようですね……松本さん、それでも店長なのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「むぅ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
とてもソフトな口調だけど言っている事は厳しい。かえでさんが反論できない。それにしてもさっきの指の鳴らし方……気になる。何だろう思い出せない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんはさっき渡された紙をテーブルいっぱいに広げた。それは地図だった。その地図は私達が住んでいる町の地図だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「この地図は見て分るように、貴女達の住んでいる町……この辺り一帯を再開発するプロジェクトがあります、もちろんあなた達のレストラン、旅館もそのエリアに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　入っています、是非あなた達の店を売ってもらいたいのです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
地図を良く見ると色が塗られている。これが開発する地区なのかな、町の殆どが対象みたい。だけど私達のレストランだけが色が塗られていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「もちろんお金を渡されただけでは仕事は出来ないでしょう、数百ある私の世界中のホテル、施設、何処でも良いわ、五年間無償でテナントを貸しましょう、その後、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　留まるのも、他に移るのも自由、移ると決まった場合でも無利子で資金を提供いたしましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なんて至れり尽くせりの待遇……悪くない。もっと良い調理器具とか欲しいし、広い厨房、間取りも変えてみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「どうですか、柊さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私の店は三ツ星が付く様な洒落た料理は出せませんし、出す気もありません、貴女のご希望に添えるとは思いませんが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が言うより早くかえでさんが話した。かえでさんはあの条件でも不服なのか……住み慣れた町を離れるのだから、その気持ちは分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私のテナントの店は最初から三ツ星だった訳ではないわ、テナントに来てからそうなったのよ、もちろんそうならない店もあるわ、それでも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　彼らは誇りをもって仕事をしているわ、それに私はテナントの経営には一切口出しはせません、それは約束します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんの言う事が本当なら凄く魅力的に感じる。私だったら直ぐにでも会長さんに店を売ってしまうかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「話はそれだけですか、他に用がなければ帰らせて頂きます……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「道中、さぞ疲れでしょう、食事でもご一緒できれば……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「結構です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……そうですか、残念です、今度、来週の日曜日、時間はとれますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは、しばらく考えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「来るだけは来ます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……この笑顔。思い出した。この人会った事がある。こなちゃんが来る少し前、店に来たお客様……あの時はまだ持ち回りでホールをやっていたから……会計の時</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
料理を褒めてくれたから覚えている。この人……ただ土地が欲しいだけじゃない。私はこの会長さんに魅かれているのを感じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさ、行くわよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「は、はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「お待ち下さい……柊つかささん、少しお話があります、よろしいですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、私に……話ですか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">思わずかえでさんを見た。かえでさんは少し不機嫌そうな顔になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「好きになさい、つかさはこれから実家に帰るのでしょ、丁度いいわ、ここで解散」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　広い会長室に私と会長さんだけになった。どうして私を呼び止めたのだろう。かえでさんはなんか怒ってしまったみたいだし……休みが明けに会うのが嫌だな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もうこうなったら、会長さんの事をもっと調べておこう。かえでさんに話して参考にしてもらおう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、あの、会長さんは以前、私達のレストランに来られましたよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「けいこで良いわ……そうです、覚えていてくれたのですね、光栄ですわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「い、いえ、料理を褒めてくれるお客様なら覚えますよ……光栄なのはこっちの方です……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「美味しいから、美味しいと言っただけ……あれは松本店長の料理でした、料理と同じようにやはり妥協はしませんでしたね……ますます彼女を気に入りました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あんな断り方をしたのに、けいこさんはかえでさんをよっぽど気にいったに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっと、ご用件はなんでしょうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を静かに閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……一人、二人……三人」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなり数えだして何を……私は首を傾げてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「最初は憎しみから始まった、そして……それは愛情に変わって行く……懐かしい……仲間の香りがする」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんが目を開けた瞬間私は、無意識に目線をけいこさんから外した。この感じは紛れもなく……お稲荷さん……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんはクスクスと笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……金縛りの回避ですね、それは教えられたものではない、自分の体験で覚えたもの、試してすみませんでした、最初からそんな技をする気などありません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほっとして目線をけいこさんに戻した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「これほど強く感じるほど貴女は仲間に関わっていたのですね……そんな人間は近代になってからは殆どいません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かに関わっていた。最後には好きになったりもした。もう関わらないと思っていた。でも運命の悪戯なのか。今、目の前にお稲荷さんが立っている。この人、うんん、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このお稲荷さん……今まで会ってきたお稲荷さんとは感じが随分違う。人間として生活している。と言うより企業の会長にまでなるなんて……え、どうゆう事なの？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ど、どうして今までバレなかったの、人間になっていられる時間って決まっているのでしょ、狐に戻った時どうしていたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「驚いた……そんな極秘にしている事も知っているなんて、貴女はよっぽど信頼されていたみだいですね……それを話す前に、手を貸していただけますか、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　恐らく話したくない事もお在りでしょう、貴女の記憶に直接語りかけます、よろしいですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何だろう、この人には全てを話しても良いような気がしてきた。けいこさんに両手を差し出した。けいこさんは私の片手を両手で握った。そして目を閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も目を閉じて、まなちゃんの出会いからひろしさんの別れまでを思い出していった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……ありがとう、すまないと思いました、貴女の生い立ちも見させてもらったわ……四姉妹の末っ子……神社の娘、優しい家族、双子の姉を一番慕っているわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">数分後、けいこさんは両手を離した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「まさか真奈美が亡くなってしまったなんて……しかも私達の過ちで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「まなちゃんを知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「真奈美、ひろし、たかし……そして五郎、みんな知っているわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「五郎……さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「貴女の記憶の中では「大きなきつねさん」と言っていたわね、先代のお頭よ、あの未熟者も引退する時が来たようね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ここまで具体的に私の記憶を覗いていたなんて……私を見ただけでまなちゃん達と出会ったのを見抜いた、ひろしさんでさえ私をまなちゃんと間違えたのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに先代のお頭さんを未熟者呼ばわりするなんて……このお稲荷さんはいったい……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お稲荷さんは人と付かず離れず……そうやって暮らしてきたって聞いていました、でも、けいこさんは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「お稲荷さん、そう呼ばれるのは数百年ぶり……そうね、私は仲間から離れた……私は人間の社会の中で生きていく道を選びました、そこで恋をし、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　生涯を共に生きようと誓った人ができました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは自分の席に向かって歩き始めた。そして机に置いてあった写真を手に取った。男性の写真……老人の写真。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「三年前に亡くなった、私は彼の意志を継いで会長になった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは人を好きになった。人間と一緒に……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「結婚したの、そんな事が出来るの、カゲロウみたいな寿命の人間と一緒にいて幸せになれるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは写真を見ながら答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「なれないわね、お稲荷さんで居る限りは……五十年前、私は人間になった、長寿と引き換えにね、元の狐の姿に戻ることはもうないわ、それでも彼の方が先に亡くなった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
好きな人の為に長寿を捨てたなんて……ひろしさんは……比べちゃいけないけど……出来る訳ないよね、そんな事……それにそんな事なんてさせたくない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「わ、私達は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは写真を元の机に置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「愛と言うのはね、はっきり形が決まっているものではないわ、私はそうしただけ……お互いが納得できればそれで良い、私はそう思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私の聞こうとしていた質問を話すまえに、答えを先に言われてしまった。でも……私は納得したのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「十年、五年……もっと短いかもしれない、私に残された時間は短い、私の出来る事は彼の夢を実現させる事、その為なら私の持てる能力、知識を全て使うつもりよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それが町の再開発なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。けいこさんの決意の固さこれで納得した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
テーブルの上に置いてある地図を改めて見た。「レストランかえで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このレストランがあの町に居なければならない理由は私には思い浮かばない。どこに移ったっていいと思う……ん？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは……どう言う事なの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「けいこさん、これは、どうして再開発するの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は色の塗ってある区域に指を指した。それは、町唯一の神社……お稲荷さんのすみかだったはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「あの小山は景観を損ねます、山を削り更地にして公園にするつもりです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">分った、かえでさんが何故、けいこさんの話しに乗らない理由が。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの神社がどんな所か、けいこさんなら分るはず」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私は古巣には興味ありません、つかささん、貴女もあの神社には執着していない筈です、それに私の調べた限りではあの神社を信仰する人間は居ません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんなんじゃなくて、辻さんが眠っているから……かえでさんの親友の辻浩子さんが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「辻……浩子……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……それは調べました、自殺した人のようですね、ご遺体はもう既に荼毘に付されて彼女の墓地に埋葬されたと、なんの問題もありません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさんが反対の理由、私の記憶を見たのなら分るはずです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「あぁ、そうだったのですか、彼女の私に対する態度の理由が分りました、時間が掛かりそうですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「時間がかかる……計画を変更する気はないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「ありません、もう計画は動いています……しかし満場一致が私の信念、松本さんが賛成してくれるまでは止めるつもりです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんの意志は固い。でもかえでさんも考えを変える気はなさそう。いったいどうすれば……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女はさきほど初めて副店長といわれましたね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女は私の計画に賛成と感じましたが相違ないですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん……でも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「咄嗟であれ、貴女を副店長といったのならばそれなりに貴女は信頼されています、どうです……説得してもらえますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「やってはみるけど……それにはけいこさんがお稲荷さんだったって言わないといけないかも……かえでさん、あまりお稲荷さんは好きじゃないみたいだし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私の正体は話しても構いません、それが解決の糸口となるならば……松本さんにとっても、あのままではいい仕事は出来ないと思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今日はありがとうございました、久しぶりにお稲荷さんに会えたし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はお辞儀をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「いいえ、貴女が来てくれて良かった、懐かしいさが込み上げてきました、来週の日曜日、是非松本さんとご一緒に来てください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">握手をして私は会長室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
うわ～、出来そうもない約束してしまった。かえでさん、私が残ろうとした時怒っていたし……まともに話を聞いてくれるかどうか。でもこの問題は</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私やかえでさんだけで決められる事じゃない。レストランで働いている人皆に関わる問題。まずは皆に話さないと、考えるのはそれからだよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それより、けいこさんが人間なった経緯をもっと聞きたかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さて、今くよくよ考えたってしょうがない、実家に帰ろう。皆どういているかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
ホテルの飲食店街を通りかかった。けいこさんはテナント経営に口を出さないって言っていた。ホテルの店に急に興味を持った。帰るにはまだ少し早い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店の様子でも見てみようかな。辺りを見回し適当な軽食店に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いらっしゃいま……ひいちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、あやちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
全くの偶然だった。目に入った最初のお店、そこに彼女は居た。私達は両手を握り合って再会を喜んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「どうしたの、こんな所に来て……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いろいろあってね……それより、結婚おめでとう、私達の中で一番乗りだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやちゃんは高校時代から付き合っていた日下部さんのお兄さんと結婚をした。こなちゃんが店に来る少し前だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「ありがとう……いろいろ話したいけど、仕事中だから……取り敢えず席へどうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやちゃんに案内された席に座った。私は辺りを見回した。旅館の食堂を改装した私の働くお店とは違う。装飾、電灯、テーブル、椅子……全てが……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
奥の厨房は広くて動き易そうだった。そこで働いている従業員はみんな活き活きとしている。あやちゃんがメニューと水もって来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「店長に許可をとったから少し話せるよ、スーツなんか着込んじゃってどうしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「う、うん……ここのホテルの会長さんに呼ばれて……私達の店を移転して欲しいって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは喜んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「凄い、チャンスだよ、このホテルに入れるだけでも大変なの、テナントに空きが出ると何件ものお店が候補する、でもね、最後は会長が決める……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　会長に認められただけでも相当な宣伝になるよ……そうか～つかさの店がホテルの店舗にはいるのか、ここはとってもいい所、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
お店同士はライバルになるけど、一緒に頑張ろうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ちょっと興奮気味に話すあやちゃん、その話しぶりから環境がいいのは直ぐに分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっと気が早いよ、まだ決まったわけじゃないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「そうなの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんの顔が曇った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それより、結婚してどうなの、旦那さんとは……日下部さんとはうまく言ってるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「もちろん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">またあやちゃんの顔が明るくなった。私にはそれだけで彼女が幸せなのは充分分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">５分位かな、彼女とお話をした。彼女は嬉しそうに旦那さんのお話をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「日下部さんちょっと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ホール長らしい人があやちゃんを呼んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「あ、もう時間だね、今度またゆっくりお話しましょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは仕事に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あやちゃんのお店で私はコーヒーを頼んだ。そのコーヒーを飲んで驚いた。香りがうちの店とはぜんぜん違っていた。きっとコーヒーを淹れる専門の人がいるに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
軽食店だと思って侮っていたらとんでもなかった。このホテルのテナントに入ればこんな店と張り合わないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけど楽しそうに働くあやちゃん見て思った。こんな店で働いてみたい。コーヒーを飲み終わりお会計をしにレジに向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「ありがとうございました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いつからここで働いているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「半年くらい前かな……泉ちゃんがひいちゃんの所に行った後だから、知らないかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もし、もしも、もっと早く誘っていたら来てくれた？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは暫く考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「結婚……こうなる事は分っていたから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">答えはなんとなく分っていたけど……聞くんじゃなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ、ごちそうさま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「移転……決まると良いね、待ってるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は店を後にした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　<span style="color:#ff0000;">　空はすっかり夕方になっている。私は実家に向かっていた。家に連絡はしていなかった。皆を驚かせる為。長期休暇を取らないで帰るのは初めてかもしれない。</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見慣れた町並み……もう直ぐ家に着く……柊家が見えてきた。みんなどんな顔するかな……ちょっとドキドキしてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
玄関が見える所に差し掛かると、ドアが開いた。お姉ちゃんが出てきた。私は歩くのを止めて電信柱に隠れた。お姉ちゃんの後からもう一人出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
男性……見たことも会った事もない人だった。お姉ちゃんと同じくらいの歳に見える。二人は楽しげに会話をして……急に男性がお姉ちゃんに近づいて……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あ……キスを……お姉ちゃんは拒むことなく受け入れていた。初めてのキスじゃない。もう何度も……そんな感じに見えた。男性が離れるとお姉ちゃんの顔が少し赤くなって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見えた。男性が玄関を出るとお姉ちゃんは手を振って見送った。男性は私の隠れている電信柱を過ぎて駅の方に向かって行った。男性が見えなくなると</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは家の中に戻って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　お姉ちゃんに恋人が……私が居ない間に……こなちゃんも何も言っていかった。どしよう。何て言って家に入ろう。知らない振りも出来そうにない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分の家なのに玄関の前に立って何も出来ない。でも……恋人ができるのは良い事だよ。別に私が恥かしがる事じゃないよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピンポーン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">合鍵を持っているのに何故か呼び鈴を押していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ドアが開くとお姉ちゃんが驚いた顔で出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つ、つかさ、なんで……く、来るなら連絡くらいしなさいよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は笑った。笑ったけどなんか自然に笑えなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「へへ、皆を驚かそうと思って……ただいま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「お、おかえりなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「疲れた……少し部屋で休みたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は家の中に入ろうとした。別に疲れてはいなかったけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょ、ちょっと待って、５分……１０分待って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急にお姉ちゃんは慌てだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なんで？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">入れたくない理由は何となく分る。でも聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「急につかさが来るから……片付けしないと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お母さん達は」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">居ないのは知っている。そうでなければ男の人を家に入れたりはしない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……今日は皆出かけて私しか居ないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「分った、１０分したら戻ってくる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は駅の方に戻った。５分くらい経った頃、私の携帯電話が鳴った。お姉ちゃんからだった。もう片付いたと連絡が来たので私は家に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　家に入るとほんのりと香水のような香りがしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ビックリしたわ、突然来るから……どうしたの、スーツなんか着て、何か大事な会議でもあったの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……そんな所かな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんは黙っているつもりなのかな。私もひろしさんの事は黙っていたから人の事は言えないのかもしれない。だけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「居間で休んでいて、お茶を淹れてくるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは台所に行こうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「さっき家を出て行った男の人……誰なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「わっ、わっ、見みたの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……キス……してたよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは振り返った。顔が真っ赤になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「突然だったから、不可抗力なのよ……だから彼は……なんて言うのか……私はっ…えっと、えっと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何を言っているのか分らない。両手をバタバタさせて今まで見たこと無い慌てっぷりだった。お姉ちゃんらしくなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ぷっ……ふふふ、はははは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何とも言えない。滑稽だった。思わず吹いてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「恋人なんてしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その声にお姉ちゃんは一回深呼吸して冷静さを取り戻した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そ、そうよ……笑ったわね、そんなに似合わないのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、そんな事ないよ、誰も居ない家、二人で愛し合っていたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ば、ばかな事いわない！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは台所へ小走りに行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
居間で休んでいるとお姉ちゃんがお茶を持って来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「久しぶりね、帰ってこないから私達の事なんか忘れちゃったと思ったわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の前にお茶を置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「やっとお店も一段落したから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……そう、それならいいわ……お帰り……まだ言っていなかったわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま……私もまだ言っていなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私に微笑みかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……さっきの人は大学院のＯＢで先輩……大学院になって直ぐに知り合った」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あんなに恥かしがっていたのに。今度は普通に話している。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ、もう一年以上のお付き合いだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……そうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうして急に話したの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんはお茶を一口飲んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「さっきは気が動転しちゃって、やっぱりこうゆうのは話さないといけない、将来つかさの兄になるかもしれない人だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そこまで……考えていたんだ、本気なんだね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「私は本気……彼は、まだ聞いていない、法律事務所を一緒に経営しようなんて、冗談で話した程度よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だめだよ、ちゃんと聞かないと！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は思わず身を乗り出して叫んだ。お姉ちゃんは驚いて身を引いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさ、ど、どうしたのよ、急に、お茶が零れちゃうわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私に話してくれた、それならば私も話さないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私ね、ひろしさんに告白した……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ひろし……えっ、告白したの、別れたって言ったじゃない、彼が一方的に別れたと思っていた、つかさが好きと言ったなら別れる理由なんかなかったでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、別れちゃった……ひろしさんはお姉ちゃんには言ったんだよね、私が好きだって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……夢の中の話よ、思えば私に信頼してもらいたかったからそんな事まで言ったのね、でも、それがどうしたのよ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「告白していなかったら……別れた後、お姉ちゃんのその話を聞いて私はきっと後悔したと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「後悔……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうだよ、あの時言っておけば良かったって……好き合っていても……別れる場合だってあるから、お姉ちゃんにはそんな思いさせたくない、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私を見て呆然としていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……凄いわね……経験者が言うと説得力があるわね、身につまされるわ……でもね、私はつかさほど強くない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私に告白させたのはお姉ちゃんだよ、駅で別れた時に言った言葉……電車が出る直前に言ったでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……自分の信じるように……ふふ、確かに言ったわね、人には言えても、自分の事になると意気消沈するのよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">元気がなくなってしまった。無理に押し付けても逆効果なのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……私、お姉ちゃん達がうまくいくように祈ってあげる……ずっと一緒になれると良いね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">懐かしい声が玄関の方から聞こえてきた。まつりおねえちゃんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「その声は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつりお姉ちゃんは居間に来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「つかさ、つかさじゃない、今まで帰らないで、もう私達の事なんか忘れたと思ったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">駆け寄って私の肩を叩いた。お姉ちゃんと同じ台詞を言うなんて……私は微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「田舎暮らしがよっぽど気に入ったのかと思った……ん……何、この香り……香水？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつりお姉ちゃんは辺りを見回し始めた。お姉ちゃんは俯いて小さくなっている。お姉ちゃんは恋人が家に入ったのを隠そうとしていた。そんな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「気が付いた、新しいのを付けて来た……今日は大事な会議があったから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「会議……だからスーツを着ていたのか……何の香水使ってるいの、今度教えてよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、後でね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「もうすぐお父さん達も帰ってくる、つかさ、着替えちゃいなさいよ、着替え持ってきたんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暫くするとお父さん、お母さん、いのりお姉ちゃんが帰ってきた。久しぶりに一家団欒で楽しい会話が弾んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　夕食を食べ、お風呂に入り、また家族と団欒……そして私は自分の部屋で寝ようとしていた。自分の部屋で寝るのは久しぶりだった。お母さんがいつでも帰ってきても</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
大丈夫なようにしていてくれた。今までの私なら直ぐに眠ってしまう。だけど何故か眠れなかった。けいこさんのお話し、かえでさんの事、お姉ちゃんの事、あやちゃんの事、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みんな頭から離れない。これからどうなるのかな……期待と不安が行ったり来たりする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『コンコン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ドアがノックされた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「開いてるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ドアがゆっくりと開いた。お姉ちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「起きているの……少し良い？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">部屋に入るとドアを閉め、私のベッドに腰を下ろした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「まつり姉さんが帰って来て香水の香りに気付いた時、つかさが使った事にしてくれてありがとう……姉さんに言われたらこの香水を渡すといいわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは香水の瓶を私に渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、彼の事、まだ知られたくないと思って……でも、いつまでも隠せないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そうね……彼の本心を聞いてから、それから話そうと思っている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「告白する気になったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは少し顔を赤くした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……つかさが、あんなに力説するから……でも、もし彼が、ただの遊びだったら……そう思うと恐くなってしまって……眠れない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でもお姉ちゃんは本気だから、それで良いよ、彼がもしそんな気持ちだったとしても、それはそれで、すっきり出来るよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そんな簡単に割り切れるのか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「割り切るしかないよ、これは自分の力じゃどうしようもない事だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは目を閉じて考え込んでしまった。そうだよ、割り切るしかないよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、よくこなちゃんにバレなかったね……大学院になって直ぐに出会ったのなら、こなちゃんもまだ居たのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは目を開けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「高校時代のように毎日会っている訳じゃないからな……それよりこなたは上手くやっているのか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、この前、ホール長になったよ、少し驚いちゃった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ふふ、やっぱり……あいつはやる時はやるからな……皆凄いな……私からどんどん離れて行く様な気がするわ、置いてけぼりにされそう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
嬉しそうに微笑んでいる。それに、やっぱり……お姉ちゃんはそういった。もしかしたら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんを誘ったのは私だけど、後押ししてくれたのはお姉ちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「こなたが相談してきた、私に相談してきてどうするのよ、まったく……妹の誘いなら迷うことなんかないって言ってやった、それだけよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
以前、お姉ちゃんはこなちゃんの事を親友じゃないなんて言っていたけど、やっぱりお姉ちゃんはこなちゃんの親友だよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時は呪われていたから素直になれなかっただけなのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは両手を上げて背伸びしながらあくびをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ふぁ～　つかさと久しぶりに話して落ち着いた、今夜はよく眠れそう……それに勇気も湧いてきた、後悔なんかしたくない……つかさ、私、やってみる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、その調子」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「おやすみ、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おやすみなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私の部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんならきっとうまくいくよ。私と違って相手は人間だし、もう既に愛し合っている。それに、あんなキスを見せ付けられたら……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">見ているこっちが熱くなっちゃうよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あっ……相手の名前を聞いていないや。うんん、慌てない、お姉ちゃん達の愛が本物なら何れ分る。私のお兄ちゃんになるかもしれない人……か。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ふぁ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あくびが出た。私も眠くなった。寝よう……良い夢が見られそう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
明くる日、実家を後にして帰宅した。お姉ちゃんに店の移転の相談をしたかったけど止めた。お姉ちゃんに頼ってばかりはいられない。私だけで……違う、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんやこなちゃんだって居る。店の皆も……やっぱり店の問題は店の関係者で解決しないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事がない。おかしいな。玄関にこなちゃんの靴が置いてあった。こなちゃんは居るはずだけど……部屋の奥に入っていった。居間にこなちゃんはいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">テーブルにノートパソコンを広げて夢中になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきよりも少し大きな声を出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはパソコンの画面を見たまま返事をした。またゲームをしているのかな。こんな時のこなちゃんは何を言っても上の空。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんがよろしく言っていたよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「柊けいこ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">突然会長さんの名前を言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ワールドホテルの会長にして、幾多の企業を経営している……倒産寸前の会社を買い取りことごとく復活させて利益をあげている、しかも、経営が軌道にのると</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　すぐに独立させて経営には二度と口を出さない……カリスマ的経営者……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ノートパソコンを閉じると私の方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ちょっと調べてみたんだ……凄い経歴の人だよ……得に外食産業に関してはこの人の右に出る人は居ないようだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな人だったとは……でも確かに今までに無い魅力を感じる人だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「でもね……ちょっと怪しい所もあるんだ……五十年前、前会長の柊竜太って人と結婚しているんだけど……結婚以前の経歴が全く無い……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　これだけの人なのに、何処で生まれて育ったのさえ全く分らない……おかしいよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
五十年前……けいこさんが人間になったって言った時期と一致する。お稲荷さんだったけいこさんの履歴なんて分るはずもない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「前会長、竜太ならネットでも簡単に調べられたよ、この町で生まれ育ったらしいね、この町の有力者の息子だったってさ、父親村長で猟友会の会長だったって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっ！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の声にこなちゃんは驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ど、どうしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「な、なんでもない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どうゆう事なの、猟友会の会長の子供の竜太さんとけいこさんは結婚した……信じられない、まなちゃん、ひろしさん、たかしさん、私の会ったお稲荷さんは狩りをする人間を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">憎んでいた……けいこさんと竜太さんに何があったと言うの……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「大学を卒業した竜太はワールドホテルに入社した、そこで出世街道まっしぐら、ホテルはみるみる大きくなり、世界的なホテルとなった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　でも、経営的な決定権はけいこが握っていたみたいだね……何者なんだろう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なんでけいこさんを調べているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「昨日、松本店長が店を休んだよ、連絡がつかない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「休んだ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんが店を休むのは珍しい事じゃない。でも、無断で休む事なんか一回もなかった</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよ、昨日はかえでさんしか作れない料理は品切れって事で開店した、料理に欠かせないスープも無くなりそうになってね、かえでさんが明日も休めば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　開店できないよ、つかさ、あの会長は松本さんに何を言ったの、何をしようとしているの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が言っていいのだろうか、本当は店長であるかえでさんから話す方がいいに決まっている。こなちゃんだってホール長、話を聞く権利はある。うんん、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お店の皆が聞かないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんは、この町を再開発するつもり、エリアの中にいる人達はほぼけいこさんに賛成しているみたい、残るは私達のお店だけ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「何だって、そんな話し聞いていない、開発ならもっと大々的に宣伝するでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私も昨日初めて聞いた。どんな開発なのか。けいこさんは何をしようとしているのか、詳細は聞いていない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「移転するにあたって、けいこさんはホテルのテナントを無償で五年間貸すって言っていた、それだけじゃない、いろいろ良い条件を出してくれている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「良い条件って、つかさ、もしかして、会長の計画に賛成なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に近づき詰め寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ホテルのテナントのお店に入った、最新の設備、インテリア、調理器具……凄いよ、あそこならもっと美味しい料理ができそう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なるほどね、つかさが賛成で、松本さんは反対なのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんはどうなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">逆に私がこなちゃんに詰め寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「私は、まだここに来て半年を過ぎたばかり、やっとこの町にも慣れてきた、でも、この町に何か特別な想いはない、皆が賛成すれば良いよ、調べた限りでは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　悪い所はなさそうだしね……怪しい所はあるけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
怪しい所、もし、もしも移転がきまればけいこさんと会う機会は増える、こなちゃんやかえでさんだって増える。けいこさんの正体を言うべきなのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ん、なんかあるの、私をじっと見て？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「え、うんん、なんでもないよ、それより、かえでさんが心配……けいこさんに説得するように頼まれたのだけど、なんか自信ないな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり言えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ん、つかさ、もう会長とそんなに親しくなっての、なんか凄いな、つかさって社交性がそんなにあるとは思わなかったよ、そういえばお稲荷さんとすぐ仲良く</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　なるよね……しかも相手は憎しみたっぷりだったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その会長さんもお稲荷さんだったりする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんな事ないよ、私なんて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「なんだかんだ言ってレストランの皆と一番うまくやっていると思うよ、喧嘩もしないし、それはある意味能力だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんだってすぐにホール長になったし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「アルバイトの経験がうまく活かせただけよ……そういえば、覚えているかな、初めて会った時の事、高校二年だったよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは昔の話をしだした。覚えている。確か外人さんに尋ねられて……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「その時さ、思ったんだけど、つかさは助けてあげたくなるような素質があるんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それって素質って言うの、助けてもらう素質って頼りなさそうだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あ、そうかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「まぁ、松本さんの説得は私も協力させてもらうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　次の日、私は遅番だったけどこなちゃんと一緒に一番に出勤した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店に着くと案の定、かえでさんは出勤していなかった。皆は厨房で立ち尽くしていた。料理の基本、スープが底を突いていた。このままでは一品も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">料理を作ることができない。開店も侭ならなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうしよう、このままじゃ休業だ、今日の予約、キャンセルしてもらうしかない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スッタッフの一人が呟いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「スープなんて肉と野菜を入れて煮込むだけでしょ……なんとかなるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「簡単だから難しいの、人によって味が変わっちゃうから、かえでさんが作らないと店の味が出ない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさなら作れるんじゃないの、松本さんと一番付き合い長いし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの言葉を皮切りに皆の目線が一斉に私に集まった。かえでさんがスープを仕込んでいる所は何度も見たことあるし、手伝ったりもした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど肝心な所は全てかえでさんがしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ごめんなさい、私もできな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その時だった。急に頭の中に閃いたものを感じた。冷凍庫、そう、あそこに確かかえでさんが作り置きしていたいろいろな食材を冷凍してあったのを思い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は冷凍庫を開けた。中を隈なく探した。ラップに包んだ氷の塊……私はそれを取り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なにそれ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「寸胴鍋にお湯を沸かして」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんが鍋を用意した。スタッフもその後から動いた。お湯が沸くとラップを剥がして凍った塊を鍋の中に入れた。塊は溶け出して鍋いっぱいに広がってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
鍋からスープの香りが立ち込めてきた。塊が全て溶けたら、火を弱火にした。料理担当のスタッフが小さじで掬い取って口の中に入れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……店長の味だ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">皆の歓声が広がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「すごい、どんな魔法を使ったの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「魔法じゃないよ、スープを煮詰めて濃縮したのを凍らせただけだよ、かえでさんが昔、スープを作るのを失敗した事があって……この方法をしてスープを作ったのを</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　思い出した、余ったスープを煮詰めたのを貯めて置いて凍らすの、そうするとこういった緊急の時の即席スープができる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは感心したように頷いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「皆、予定通りの時間で開店だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">皆は一斉に持ち場に戻って行った。私もデザートの準備をしようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「さすがつかさ、うんん、つかさ副店長！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんじゃないのに副店長だなんて。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんな……私はかえでさんの真似をしただけで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「私も含めてその真似が出来ないんだよ、兎に角危機を脱したのは確かだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「スープの元も後数日分しかないよ、かえでさんに作ってもらわないと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「でも、連絡がつかないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それなら、今日、帰りにかえでさんの家に行ってみる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「それがいいよ、つかさの言う事なら何故か聞くからね、そうゆう所がかがみに似ているよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言うと掃除道具を持って店の外に出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　私は早めに店を出た。そしてかえでさんの家に……向かっていなかった。もう一箇所、かえでさんが行きそうな場所に向かっていた。それは……神社だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんと別れてから一回も行っていない。忘れられた神社。その神社に今度はかえでさんが頻繁に行っている。不思議なものを感じてならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まなちゃんと初めて会った場所、別れた場所でもあった。短い間だったけど私にも一生忘れられない思い出があそこにはある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして、お稲荷さんが住んでいたあの場所を、お稲荷さん自身が壊そうとしている。それについてはちょっと違和感があった。今度の日曜日に真意を聞いてみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">神社の入り口、私は階段を登った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんが階段から降りてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさん……やっぱりここだったんだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">頂上と神社入り口の丁度中間くらいで彼女と会った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達はゆっくり降りながら話をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「お店をほったらかしにして、さぞみんな怒っているでしょうね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お店はなんとかしています、スープが無くなったから……冷凍してあったのを使いました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「あれを使ったのか……失敗した時の為に取って置いたものよ、でもね、煮詰めてあるから普通に作ったのよりコクが出るの、よく分ったわね、冷凍庫の奥だったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お店を休みにはできないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうね……つかさはもう一人でも立派にやっていけるわね、それに引き換え私なんて……情にながされて皆に迷惑をかけた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんな、私だって何度お店を休んでここに来たか、その度にかえでさんに励まされて、教えられて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは黙ってしまった。話がそれたかな、こうなったら直接聞くしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「けいこさんの話しの答えを考えて、それで此処に来ていたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「答えは出ている……多分つかさと同じ答えよ、飲食業を営む者にとってあのホテルで店を出す……それが目標みたいなもの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうなの、でも、あの時けいこさんに取った態度って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「この話し、店の皆には話したの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃんにだけ話した、皆にはかえでさんから話すのが良いかなと思って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それで、泉さんは何て言ったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「賛成してくれたよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そうよ、そうなのよ、頭では私だってそう思ってる！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私に向かって叫ぶような声だった。私は驚いて階段を一段降りた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「思っているけど、素直になれない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度はか細く弱弱しい声になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その原因はこの神社の開発なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはまたゆっくりと階段を降り始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「この神社の話しは知っているのか、一昨日、私と別れてから会長さんと何を話した……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
やっぱり聞いてきた。こなちゃんには話せなかった。だけど、かえでさんはひろしさんと私の関係を知っている。けいこさんも話して良いと言っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんは……お稲荷さんだよ、うんん、お稲荷さんだった、五十年前、人を愛して、長寿を捨てて人間になった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「な、なんだって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはまた立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「あんたはよっぽど狐に縁があるみたいね、良くも悪くもね、別れては出会って……ふふ、ははは、お稲荷さんかよ、よりによって、今度は何を企む……何の復讐だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度は笑い始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「開発の理由は詳しく聞かなかったけど、復讐とか恨みとかじゃないみたい、ただ、亡くなった旦那さんの夢だったって……そう言っていた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「夢……何が夢よ、金にものを言わせて立ち退かせるだけじゃない、それに、この神社は彼等の住処じゃなかったのか、それを「夢」の一言で壊せるのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの表情を見て分った。かえでさんはまだ辻さんの事を……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんはまだ辻さんが自殺した責任を負うとしているの、もうとっくに解決したと思った、私が初めて稲荷ずしをこの神社に持って行った時に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は階段を降りる速度を上げた。かえでさんは私の後から速度を上げて離れないように付いてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私がこの神社にこだわるのは、浩子が亡くなったからじゃない……浩子が生きていても、私はこの神社を壊すのは反対する、おそらく浩子も反対すると思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうゆうこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは急に微笑みながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私達は幼少からこの神社でよく遊んだ、ふふ、狐とは一回も遇わなかったけどね、階段を登ったり、降りたり、当時はそれだけで楽しかった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　一人っ子の私からみたら、同じ歳の彼女は妹のように見えた……頂上から見える景色は……特に夕日は……今でも忘れられない、景観が悪いだって、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　とんでもない、あそこは私にとっては唯一無二の絶景なの……分るかしら、つかさにここの素晴らしさが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思い出した。初めてこの神社に来た時の事を。小さな森、木漏れ日……とても幻想的だった。あの時、時間を忘れてぼんやり眺めていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「夕日じゃないけど、木漏れ日に凄く魅かれる物を感じた……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それなら、私の気持ちも分るでしょ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もうそろそろ階段が終わろうとしていた。入り口の鳥居が見えてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「神社の件は話せばきっと分ってくれる、けいこさんは皆が賛成しないと実行しないって言っていたから……だからかえでさんは移転の事だけ考えて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「移転ね……あのホテルに立ち並ぶ歴々のレストラン、どう考えてもあのホテルの店と張り合える訳がない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんは一度店に来てる、あの時かえでさんは厨房にいたから知らないと思うけど、会計の時、美味しかったって……あの時の笑顔で思い出した、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　かえでさんには一応報告したけど……けいこさん、店の実力を知った上でテナントを貸してくれるって言ったと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「もし、移転が決まれば、今のようにゆったり構えたりなんか出来ない、覚悟は出来てるでしょうね、廻りの店と争うのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私は出来る事しか出来ない、でも、料理は優劣だけじゃ決まらないから……分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「優劣だけじゃない……つかさらしからぬ意味深長ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは興味ありげに私に近づいてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「以前、家族で外食した時なんだけど、まつりお姉ちゃんは美味しくないって、いのりお姉ちゃんは美味しいって言って言い合いになった事があって、同じ料理でも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　これだけ評価が違って不思議に思った、食材の好き嫌いも料理では大きいよね、味付けも、酸っぱいもの、辛いものも好き嫌いははっきりするよね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　見た目も関係するかも……結局答えはでなかったけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「万人に好まれる料理なんかないわ……感覚……味覚を満足させるのが料理なら、聴覚なら音楽、視覚なら絵画……芸術に近いものがあるかもね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　芸術は人によって千差万別、好みも人それぞれ、キリがないわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今まで通りでいいよ、変に構えるときっとつまずくと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「今まで通りか……今までの私達がどこまで行けるか、それも良いかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「明日は臨時休業、皆を集めてどうするか決めましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの顔が明るくなった。こうでなくちゃダメだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　次の日、「レストランかえで」のスタッフ全員が集まり、けいこさんの計画の話をかえでさんがした。みんな活発な意見が交換された。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして……夕方頃に皆の意見が一致した。一つの答えが出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　日曜日、その日が来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私とかえでさんは会長室に居る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「どうですか、答えは決まりましたか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その言葉に一拍置いて答えようとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「答えは決まっています、しかし、私は貴女に聞かなければならない事があります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんが話し始めた。事前の打ち合わせではお稲荷さんと何度も話していて、慣れている私が先に話す事になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「何でしょうか、疑問点はこの際、ここで全て明らかにしましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはどうするつもりか分らない。私はただ黙って様子を見るしかなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「町の神社……なぜあの神社を壊さなければならない、あそこはわたしの幼少から思い出のある場所、それに少なからずとも森林が生い茂り、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　緑豊か、四季折々の綺麗な花々を咲かせてくれる、公園にする必要性が私には理解できない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この内容は私が話すはずだった。でも話を聞いてみると、感情がこもっている。本人が言った方が説得力あるよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……貴女は幼少からあの神社で遊んでいたのですか……幼馴染の辻浩子さんの面影を消したくないのではありませんか、そうつかささんから伺いましたが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「浩子は確かにあの神社で自殺した、それはもう私の中では解決した……それより柊さん、貴女は解決したのか、狐の頃の思い出は、住処に未練はないと言うのか、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　そこまでして、あの神社を壊す理由は何だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは一瞬目を閉じた。そして私の方を見た。私がけいこさんの正体を言って怒った……違う、彼女の顔は怒ってはいなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「良い目をしている、何かを守ろうとしている良い目です、この前に会った時とは比べ物になりませんね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「私の質問に答えて！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは声を張り上げた。けいこさんはかえでさんが落ち着くのを待ってから話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……つかささんから聞いたのですね、私は、貴女達がしっている狐と同じ一族でした……人間になったとは言え、その事実は変わりありません……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　私達の思考は人間のそれと大差ありません、笑い、怒り、悲しむ……いいえ、感情の起伏は人間よりも激しいかもしれません、つかささんなら分りますよね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　何の関係もない人を恨むことさえある……そんな私達ですが住処について私達は執着などありません……しかし、松本さん、貴女の目を見て分りました、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　あの神社は、あの山は貴女にとって信仰の対象であると……いいでしょう、神社はそのままに致しましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あっさりだった、かえでさんが少し感情的になっただけなのに、こうも簡単に開発を撤回してしまうなんて。それにけいこさんは他のお稲荷さんと違って</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情を表に出してこない。と言うよりまったく動じていなかった。かえでさんは何も言わずけいこさんをただ見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～神社を壊して公園にして、私達の住んでいた町をどうするつもりなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『パチン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは指を鳴らした。この前の時と同じ様に女性が飲み物を持ってきて私達の前に置いた。この指の音……そうだ、あの時と同じ、瀕死のたかしさんを見たひろしさんが</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
仲間を呼ぶ時に鳴らした音とそっくり。私は飲み物を持ってきた女性を見た。多分この人もお稲荷さんなのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは飲み物を取り一口飲むと、私とかえでさんをゆっくりと見ながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女達なら話しても良いでしょう、私の悲願……いいえ、私と竜太の夢……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・かえで「夢……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私達の一族と人間の共存……それが私達の夢、あの神社に仲間を呼び戻し、町の一部に住んでもらうつもりです……そして近いうちに私達の存在を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　公表し、人と同等の権利を主張する……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ば、ばかな……おとぎ話のような狐を人間が受け入れると本気でおもっているのか……百年前ならいざ知らず、このご時勢に……病院送りにされるのが落ちだわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは半分呆れ顔だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……私も只では受け入れてもらえるとは思っていません、見返りに私達の知識を全て公開します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ふふ、どんな知識か知らないけど、有史以前の知識なんてたかが知れている、私達の人間の暮らしぶりを見て分らないかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私はホテル以外にも製造業も経営しています、そこで得た特許数は軽く千を超えています……それはその知識のほんの一部です、石器時代の人々に私達の知識を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　教えても魔法としか思わないでしょうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「で、でも、ひろしさんが言ってた、知識を教えると争ってしまうって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですね、何度もそんな事がありました……私達の知識は人が生きている限り、遅かれ早かれ人も研究して見つけるでしょう、教えた知識を使い滅びるようなら、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">人間はそれまでの種族です、同じ事です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
スケールが大きすぎてイメージできない。私はレストランが移動するだけの簡単な事だと思っていた。でも、人間とお稲荷さんが仲良くなれるならそれも良いかも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「松本さん、つかささん、私の夢の計画に協力してくれませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私は貴女の計画に興味ありません、ただ悪いことではないのは分ります、あの神社を壊さないのであれば私の店のメンバーで反対する人は一人もいません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店の皆は移転に全員賛成した。かえでさんだけが反対だった。今はもうかえでさんが反対する理由は一つも無くなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ありがとう……感謝します、まずは移転先を決めてもらいます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">また奥から女性が地図を持って来た。飲み物を片付けるとテーブルにその地図を広げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「私のホテルから選んで下さい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それは少し時間をくれませんか、場所についてはまだ意見が分かれています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「いけない、私としたことが……先走りすぎました、それでは同意書にサインを……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性は地図を片付け奥の部屋に入っていった。けいこさんは逸る気持ちが抑えられないみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「けいこさんはどうして人間になったの、旦那さんの為？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……それもあります、でも人間になったのはそれだけではなかった、私達に無くて人間にあるもの……私達がいくら知識を積んでも得られなかった……芸術……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　古今東西、私が見聞きした物……絵画、彫刻、音楽……そして貴方達の専門である料理……それが理由です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
でも……人間にならなくても……寿命が短くなったら芸術もあまり鑑賞できない気がする……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
奥の部屋から女性が書類を持ってきてかえでさんの前に置いた。かえでさんは書類を手に取り黙読しはじめた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは私の方を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささん、私の仲間を説得するのを手伝ってくれませんか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">突然だった。急に言われて最初はなんだか分らなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんの仲間……お稲荷さん……ひろしさんにまた逢えるかも知れない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「わ、私は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「生贄にされて、姉が呪われた、それでも貴女は生きている、少なくとも貴女は仲間の心の中から人間に対する憎しみを取ったのは確かです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はチラっとかえでさんを見た。かえでさんは書類に目を通したまま動かなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「百年近く会っていない私よりも貴女の方が適役かもしれません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何だろう、この胸の高鳴りは。「はい」と言いたい。だけど「いいえ」とも言わないといけないような。分らない。どうしよう。頭がグルグル回ってどうしていいか分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「これでいいですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは書類にサインをした。けいこさんは書類を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ありがとう、どうです、契約成立を祝ってこれから食事でもいかがですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「いいえ、まだ完全に決まっていません、これから移転場所をきめなければならないので、そのご好意はそれからで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑んだ。かえでさんは会長室を出て行った。私も立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささん、先ほどの話し、考えておいて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は軽く会釈だけしてかえでさんの後を追った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　かえでさんはエレベータを乗ってから一言も話していない。やっぱりけいこさんの誘いが影響しているのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさん……えっと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「お腹が空いたわね……この店、良さそうね……はいりましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私と話すのを避けるように店の中に入っていった……その店はあやちゃんの働く店だった。私はかえでさんの後を追った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店に入るとかえでさんは既に席に座りメニューを見ていた。私もかえでさんと同じテーブルの席に着いた。私はかえでさんをじっと見ていた。なんとなく話し難い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはメニューを置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「この店のインテリア……センス良いわね、移転先のインテリアもこんな感じがいいかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そ、そうですね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お決まりですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">聞き覚えのある声、あやちゃんが私達の目の前に立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「トーストとコーヒー」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは私の方を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、えっと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「メロンソーダですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、は、はい、それで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは私に微笑みかけると厨房の方に向かって行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「さっきの子……つかさの知り合いなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは透かさず厨房の方を見ながら聞いてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい……高校時代の友人です、日下部あやのさんと言って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「こんな所にもつかさの知り合い……凄いわね、まるでつかさが中心に世界が動いているよう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の話しに急に割り込んできた。私は話すのを止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「柊けいこさんの言う事が真実なら、これから私達の暮らし……うんん、世界観が一変するわよ、なにしろ私達が数百……数千年経たないと得られない</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
知識が手に入るのだから、そんな仕事が出来たなら、人類史に残る偉業かもしれないわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は何て言って良いのだろう。かえでさんはそんな私を笑いながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そんなのはどうでも良いわね……つかさ……ひろしさんに逢いたいんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……別れたのは運命だと思ってた、でも、逢えるなら……逢いたい、でも……私は」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">目頭が熱くなってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ば、ばか、こんな所で泣くやつがあるか、少しは場所を気にしなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは辺りを慌てて辺りを気にしだした。でも涙は急に止まりそうになかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「無理も無いわね、好き合った者同士が分れ離れなんて……よく今まで笑顔でやってこられたわね、それだけでも立派よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　涙が止まった頃、あやちゃんは私達が注文をした品を持って来た。かえでさんはコーヒーを口に含んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「今時珍しい機械を使わないで淹れているわね……こんな香りはうちの店ではだせないわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……ごめんなさい、泣いたりしちゃって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「気にしなくていいわよ、私も少し取り乱したわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はメロンジュースを飲んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「けいこさんの誘いの返事しはなかったわね、それは私が居たから出来なかったのかしら、会長室で何度も私を見ていたわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それは……私は副店長になったし、そんな簡単に別の仕事なんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この前の臨時会合の時、かえでさんの提案で副店長を選ぶ選挙も行われた、こなちゃんとかえでさんが私を推薦した。それで皆が賛成して私は正式に副店長になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「これから私はつかさスープの作り方、私の持てる技術の全てを教えるつもりでいた、でもね、副店長はつかさの人生まで縛るもじゃないわ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　つかさが本当にしたい事なら、私も皆も喜んで送るわ……お稲荷さんと人間の橋渡しはつかさが適任ね、友人や恋人まで作るのだから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……はっきり言うと、ひろしさんに逢いたい、ただそれだけ、だから知識が云々とかそうゆう難しいことなんか全く分らない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　きっと足手まといになるだけ……それより、かえでさんは私が本当に店を離れていいと思ってるの……そうだよね、失敗もいっぱいしてるし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「い、いや、離れて欲しくない、だから副店長にまでになったじゃない……あの会長のしようとしている事はスケールが大きすぎる、つかさはもうその</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　計画の中に足を突っ込んでいる、つかさがそれを望むと望まないは関係ない……それにね、会長の計画を手伝えるのは、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　人間ではつかさしか居ない……ふふ、会長のけいこさんは最初からつかさが目当てだったのかもしれないわね、そんな気がしたわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">本当は店でずっと働いてって言って欲しかった。そうすれば私は悩まなくて済んだのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……ひろしさんやお姉ちゃんの言うほど強くない……どっちか選べって言われても……そんなの決められないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうね……難しい選択ね、会長さんの計画は全て聞いた訳じゃないけど、きっと一年、二年で出来るようなものじゃないと思う、考える時間はまだあるわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは財布からお金を出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「これで払っておいて、今日は私の奢りよ、今日も帰りは実家に戻るのでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……ごちそうさま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「さてと、私は帰って仕込みがあるから、先に帰るわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは店を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暫くするとあやちゃんが心配そうな顔でこっちに来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「かなり深刻そうな話をしていたみたいだけど……あの方は誰なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私の上司、松本かえでさん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは思い出したようにビックリした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「もしかして「レストランかえで」の店長さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「……松本かえでって言ったら最近雑誌とかで話題になっている……取材拒否する頑固者でも有名……そんな人と……大丈夫、厳しくないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">更に心配そうな顔をしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「厳しいと言えば厳しいけど……優しい所もあるし、お姉ちゃんみたいだと思ってる……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">笑顔で話すとあやちゃんはホッとして笑顔に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「最近このホテルの何処かに新しいレストランが移転するって噂があったけど、まさかひいちゃんのレストランだとは思わなかった……どんな仕事してるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「デザート担当……この前副店長になっちゃった、こなちゃんもホール長になった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「わぁ～すごい、すごい、二人とも大出世じゃない、今度お祝いしなきゃ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分の事の様に喜んでくれている。だけど、今はそんなに嬉しくなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう……お会計……ここで済ませちゃっていいかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「はい、かしこまりました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はあやちゃんにお金を渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あやちゃんのお店を出た私は実家に向かった。今度は私が家に帰るのは皆知っている。と言うより、お姉ちゃんの方から来るように言われた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
きっとお姉ちゃんの恋人についての話があるに違いない。わざわざ家に呼ぶのだから、もしかしたら結婚まで考えているのかも。そこまでじゃなくても、家族に紹介くらいは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
するよね。お姉ちゃんが結婚するならあやちゃんの次になる。そういえばまつりお姉ちゃんも恋人が出来たって言っていた……どうなったのかな。いのりお姉ちゃんは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな話は全く聞かない。もうそろそろ考えないといけないよね……なんて人の事考えてもしょうがない。私の恋人は……今度会ったら、もう別れるなんて言わない。言わせない。ダメダメ！……もう考えないって決めたのに……どうして……けいこさんのせいで……わぁ、私ったら、思い出したのを人のせいにしちゃってる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうしたらこの気持ちを抑えられるのか分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　悶々を堂々巡りの想い……気が付くと実家の玄関前に立っていた。ドアを開けると居間から笑い声が聞こえてきた。みんな居るみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
さらに笑い声が強まってきた。話しに夢中で私に気が付かないみたいだった。私はそのまま居間に向かった。居間のドアを開けると笑い声が止まり皆私を注目した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「おかえり、遅かったわね……先に始めちゃったわよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんの隣に男の人が座っていた。この前見た男の人……お姉ちゃんの恋人。目が合った。私は会釈すると彼も会釈した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「紹介するわ、彼女が私の妹、つかさ……彼は、私の先輩で、<span style="color:#ff0000;">小林ひとしさん」</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「まったくいつの間にこんな人を見つけるなんて、つかさ、小林さんは司法試験合格したって、かがみは何時になるのやら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
小林さんって言うのか……さっきの笑いは小林さんと話していた時の笑い声だった。もう家族と打ち解けているみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はじめまして、つかさです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ひとし「はじめまして……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「つかさ、突っ立っていないでこっちに来て座りなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はまつりお姉ちゃんの隣に座った。すると皆はお姉ちゃんと小林さんに顔を向けた。私もそれに釣られるように二人を見た。急に二人の顔が赤くなっていくのが分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり「どうしたの、さっきの様に言いなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのりお姉ちゃんはにやけながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
二人はチラチラと目線を合わせながら、タイミングをうかがっているみたいだった。お父さんとお母さんは笑いをこらえている。そして……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「わ、私達……け、結婚することにした……から……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
呂律が回っていない。こんなお姉ちゃんを見るのは初めてだった。でも言っている意味は、はっきりと分った。今までもやもやしていた心に光が射してきた様な感じになった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おめでとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんはそのまま感極まったのか、涙をこぼして泣き始めた。私がひろしさんから告白を受けた時を思い出した。あの時の私と同じ心境なのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「どうしたの、さっきはそんなにならなかったじゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「だ、だって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
更に泣き方が激しくなった。小林さんがお姉ちゃんの肩を抱き寄せて慰めた……同じだ……あの時と……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり「それで、式はいつにするの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは話せそうにない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ひとし「かがみさんが卒業してからと考えています。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しっかりとした口調ではっきりとそういった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただお「それが良いかもしれない……」　</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
小林さんは優しくてユーモアがあって知的で……お姉ちゃんにぴったりの人かもしれない。もう皆も家族の一員みたいに話している。私も兄として見る事ができそう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
短い時間だったけどお姉ちゃんの恋人……婚約者の人柄が分った。小林さんは法律事務所に入り何れは独立すると言っていた。お姉ちゃんも卒業すれば同じ事務所で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
働く事になる。私とかえでさんみたいに上司と部下の関係、私とかえでさんは友達として、お姉ちゃん達は夫婦として……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小林さんと私達家族の会合は和やかのうちに、あっと言う間に終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
夕方、小林さんを送ると、お姉ちゃんは私も送ってくれた。小林さんは先発の電車で帰って行った。ホームで私達は電車を待っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「泊まっていけばよかったのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「明日も仕事あるし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「残念ね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
短い会話で途切れてしまった。私は時刻表を見て次に来る電車の時刻を確認した。まだ電車がくるには時間はある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「さっきはごめん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぼそっとした声だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ごめんって、何か謝る様な事したっけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「泣いてしまったでしょ、私ったら、どうしようもないわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「自然に出てきたのでしょ、分るよその気持ち……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「分るって……分るのか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し驚いた感じで聞き返してきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさんが告白した時の私と同じように見えたから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「お互いに愛し合っているのに別れるのは悲劇以外なにものでもないわ、私なら一緒になる方法を探すわよ、つかさはこのままでいいの、彼だってあと何十年、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　いや、何千年先、後悔をするかもしれない、私は例え狐でも、お稲荷さんでもお互いが愛し合っていれば一緒になるのは構わないと思っているわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その方法、あるかもしれない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「あるかもしれないなら試しなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">即答だった。お姉ちゃんは真剣な眼差しで私を見ていた。私は何も言えなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「話を聞きたいわ、駅を降りて少し散歩でもどう、次の電車でも間に合うわよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
恋愛の話しは全くしなかったのに。今までのお姉ちゃんとは違う。恋をすると、愛するとこんなに変わっちゃうのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　駅を降りるとお姉ちゃんは神社の方に向かって歩き出した。私はその後を付いて行った。そこでお姉ちゃんは隠している事はないのかと問い質してきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その熱意に負けて私は話した。店の移転の事、柊けいこさんの事……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「柊けいこ……知っているわよ、私の大学のスポンサー、何度か大学に来て特別講義を受けたことがあるわ……あの人が、お稲荷さんだって……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　確かにそう言われてみれば、講義の時、なんとも言えない、引き込まれるような魅力があった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。お姉ちゃんは空を仰いだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「つかさは本当にお稲荷さんに縁があるわね……そもそも神社の娘に生まれてきたのも何かの運命かもしれないわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんも似たような事言ってた、そう言うお姉ちゃんだって、関係しているかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「私は呪われただけよ、私達家族も一つ間違えればお父さんやお母さん、姉さん達だって危なかった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは天を仰いだまま暫くゆっくり歩いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさは松本さんに義理を感じている、違う？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
義理、私はかえでさんに誘われてあの町に移り住んだ。そこでいろいろ教わった。誘われる前で働いていた所では得られない物がたくさんある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんには教えてもらってばかりで、ドジばっかりして……これからかえでさんに恩返ししないといけない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「それが義理って言うのよ……松本さんも内心は柊けいこの手伝いにつかさを行かせたくないはずよ、副店長ですって、凄いわよ、そこまでの人を簡単に手放したくない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
神社に行く途中にある公園を横切ろうとしていた。お姉ちゃんは公園の中に入りベンチに腰を下ろした。私も隣に座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「でもね、私がつかさなら……柊けいこさんの方に行っていたかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ほ、本当に？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は身を乗り出して聞き返した。お姉ちゃんは驚いて腰を引き私から離れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「いや、つかさの今の仕事が下って言っている訳じゃないぞ、少なくとも美味しい料理を作るなんて私にはできないのだから……現に料理でつかさは何人も幸せにしている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いいから、理由を聞かせて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は更に詰め寄った。聞いてみたかった。お姉ちゃんの考えを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「二つの仕事なんか比べちゃダメよ、私なら好きな人に逢いたいと思うだけ、目的が果たせたら元に戻ればいいでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「元に戻れるかな……一度出ちゃったら、かえでさん怒っちゃって戻れないかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「それはつかさと松本さんの問題ね、私はどうすることも出来ないわ……ゴメン、何の助言にもなっていなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、やっぱり最後は私が決めなきゃいけない事だし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「私もね、つかさが家を出る時、笑って見送ったけど、時間が経つに連れて松本さんに恨みを持つようになった、それが呪われる隙を作ったのかもしれない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　人の心って変わっちゃうもの、松本さんが柊けいこさんの誘いに賛成したとしても、それはその時の考えに過ぎないわ、時間が経つと柊けいこさんを恨んでしまうかも、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　もしかしたら、つかさ自身も恨まれるかもしれない、特に、つかさが大活躍なんかしたらね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それって、焼餅を焼くって意味？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「そうね、嫉妬かもしれない……こうしてみると、私達もお稲荷さんとさほど変わらないわね……ふぅ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは深く溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「とりあえず「ガンバレ」としか言えないわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も立ち上がった。そろそろ駅に戻らないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「お礼を言うのは私の方よ……相手に自分の意志を伝える……こんなに重要だとは思わなかった、彼と婚約できたのはつかさのおかげ……ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「告白……したんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは頷いた。そして、顔が赤くなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そして……新たに生まれる命の為に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんはお片手をお腹に当てた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……もしかして、赤ちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……そう、これは私とひとしとお母さんしか知らない……さすがにお母さんにはバレたわ……隠すつもりはなかったけど、やっぱり話すのは恥かしいわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの泣いた本当の意味が今、分ったような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「予定日はいつなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……卒業してからになるわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃここで別れようよ、体に障るよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「大丈夫よ、駅まで送るわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それと……こなちゃんにはどこまで話していい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんは駅に向かって歩き始めた。私も並んで歩いた。お姉ちゃんは少し考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「全て話して良いわよ、中途半端に話しても面倒なだけだわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんの驚く顔が目に浮かんじゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ふふ……その他は私から話すわ、明日は日下部と会うし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どっちの日下部さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……あ、そうだった、みさおの方よ……まったく、紛らわしいったらありゃしないわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　駅に着くと丁度電車が来た、そして電車のドアが閉まる直前にお姉ちゃんに言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おめでとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
妊娠はまだ祝っていなかったから。お姉ちゃんはにっこりと微笑んで手を振った。ドアが閉まる。そして電車は駅を離れた。お姉ちゃんは直ぐに見えなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この電車だと町に着くのは最終電車の深夜になる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　目的の駅に着くまで私は考えていた。このままの仕事を続けるか、けいこさんの仕事を手伝うのか……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんのよくやるシュミレーションゲームみたいなものかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このままだと私はかえでさんから料理の技術を教えてもらって……いつになるかは分らないけど……かえでさんと同じ料理を作ることができるようになる。そうなれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店長になれるかもしれない……でも、今の仕事でいっぱい、いっぱい、とても他の仕事まで手が回らない、大きなミスをしてしまうかも……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんの仕事……人間とお稲荷さんと共に暮らすためのお手伝い……何をすれば良いのだろう……全く想像すら出来ない。料理ならなんとか今まで働けたけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんと二年も会っていない。もしかしたら私の事なんか好きじゃなくなっているかもしれない。今更会って……一緒に暮らそうなんて言ったってダメだよね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな事が出来るならあの時出来ているよね……やっぱりどう考えてもこのままかえでさんと仕事をした方が良いに決まっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の中では結論が出てしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事がない。もう寝ちゃったかな。でも居間の方から明りが漏れている。私は居間に入った。するとこなちゃんが椅子に座っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「まだ起きていたの、寝ちゃって良かったのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはテレビの電源を消した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「遅くなるのは知っていた、でもそれは契約のためじゃないでしょ、私が店を出るとき松本さんが店に来たからね、つかさ、家に寄っていたでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは人差し指を立てながら話した。私が驚く顔をすると透かさず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみが婚約したとか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は更に驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、ど、どうしてそれを知っているの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">既にこなちゃんはお姉ちゃんと話していたのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「図星だったみたいだね、そんな感じはしていたんだ、大学を卒業した辺りからかがみの様子が少し違っていたのに気が付いていたからね……かがみも結婚しちゃうのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
少し悲しい顔をしたような気がした。確かに結婚すれば今まで通りの付き合いは出来ないかもしれない。でもそれは私も同じ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんなに悲しい顔をしないで、おめでたい事なんだから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだね、ところでみゆきさんは知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「分らない、だけどお姉ちゃんから直接話すと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それが良いかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは台所に向かうとやかんに水を入れてお湯を沸かし始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはお姉ちゃんの婚約を薄々感じていた。やっぱりけいこさんの正体を隠し切れないかも。このままだと私、うっかり話しちゃうかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それなら今のうちに打ち明けた方が良いのかもしらない。だけどこなちゃんはお稲荷さんをあまり良く思っていないみたいだし、話したら、店の移転に反対しちゃうかも……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私って……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かも、かも、でも、かも……私って悪い方、悪い方、に考えちゃう。私はこなちゃんにまなちゃんやひろしさんの話をした。けいこさんの事だけ内緒にしたって意味はないよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
反対されてもそれはそれ、移転しから分ったらそれこそ「なんで黙っていたの」って怒られる。それなら今話してすっきりした方がスッキリするよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピー』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が決断をした時、丁度やかんのお湯が沸いた。こなちゃんはお湯をポットに入れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、私……お店の移転でまだ話していない事があるの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは紅茶を淹れながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なに、改まっちゃって？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっと、会長さん、柊けいこさんの事なんだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……柊けいこ、会長さん、実はお稲荷さんって言うんじゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は固まった。何もその先から話せなくなった。こなちゃんは紅茶の入ったカップを私の目の前に置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「やっぱり、この前の休日ね、みゆきさんと会ってもっと詳しく調べさせてもらったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはノートパソコンを取り出し開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「凄すぎるんだよ、会社を幾つも経営していて、特許取得が千以上、しかも前会長が亡くなってからだよ、とても人間技じゃないよ、その特許と言うのが</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　どれもオリジナルらしいんだ、なんかピンと来たよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはパソコンを見ながら話した。私は深呼吸をして落ち着いてから話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんは、お稲荷さんが嫌いだと思ったから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはノートパソコンを閉じて私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみとつかさを殺そうとした連中だよ、嫌いにもなるよ……でもね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でもね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は聞き返した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「この会長は別かな、収益を慈善団体に寄付していて、美術館、学校、病院、にも寄付している、かがみとみゆきさんの大学にもね、特に芸術関係には熱心みたいだね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　少なくとも私達、人間には敵対していない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「敵対なんかしていないよ、けいこさんは、人間になったから、だから人間と結婚をして……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ど、どういう事なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは身を乗り出した。私は知っている事全てをこなちゃんに話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「長寿と引き換えに人間に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふ～ん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは感心したようにうなずいていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それで、つかさは会長さんの企画に参加するの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その答えをまだ決めていなかった。私は何も言えずにいた。こなちゃんはお茶を一口含んでから話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お稲荷さんの知識が云々なんか抜きにして、つかさはひろしってお稲荷さんが好きなんでしょ、そしてそのひろしって人もつかさが好き……片思いなら諦めもつくけど、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　悩むことなんかないじゃん、私がつかさなら即断だね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の話しに割り込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「でもって何、何を悩むの、今の仕事を辞めるのが惜しいの、つかさの今やってる事はいつでも出来るよ、でもね、会長さんのやろうとしている事は今しかできない</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　つかさだって会いたいでしょ、それだけで充分だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今しか……出来ない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお茶を飲み終わるとノートパソコンを持って立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「私、明日は早番だから、もう寝るね、つかさは遅番だからゆっくりして」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は飲みかけのお茶を一口飲んだ。もうすっかり冷えてしまっていた。こなちゃんは居間を出ようとすると立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさは凄いよ、一度でもつかさを憎んでいた人を好きになれるなんて、だから相手も好きになれたんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、それはまなちゃんが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……そうだね、真奈美さんがつかさを殺していたら今はなかったよね、その真奈美さんの為にも会長さんと一緒に行動した方がいいと思うよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは大あくびをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよ、つかさは高校時代とは比較にならないくらいに成長したよ、こんな話をつかさとするなんて……おやすみ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おやすみ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「あ、そうそう、店の移転先の候補が幾つか上がっているよ、つかさの部屋に置いておいたから目を通しておいて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは居間を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　お稲荷さんと人間がもっと仲良くできれば私とひろしさんが別れている理由はなくなる。そうなればまた会えたり、デートしたり、食事をしたり……結婚だって……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな事、出来るのかな。じゃなくてしたい。うんん、しなきゃダメだよ。こなちゃんの言うようにまなちゃんの為にも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かに今じゃないと出来ない事かもしれない。料理はこれからいくらでも……かえでさんも私がけいこさんの手伝いをしても良いって言ってくれたし。お姉ちゃんも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんか方向性が見えてきたかも……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
時計を見ると日が変わっていた。いくら遅番といっても、もう休んだ方が良いね。自分の部屋に着替えに行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　机の上に紙が置いてあった。こなちゃんの言っていた店の移転先候補かな。紙を取って見た。そこにはいくつかの候補地が書いてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みんなここから遠くの場所ばかり……東京の本店は候補になっていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
都会のゴミゴミしている所よりもこの町みたいな所の方が働き易いのかな……それも良いね。あやちゃんには悪いけど本店は私も候補地から外すね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大きな欠伸が出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さて……お風呂入って寝よう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　二週間後、私は一人で電車に乗っていた。けいこさんの計画の返事をしに行くのと、候補地が決まったのでそれもついでに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは旅館の女将さんと移転について話すので出席しない。もともと旅館は温泉が出るから始めたって女将さんが言っていた。旅館は移転には参加しないみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして旅館は日帰り温泉になる。そして女将さんは温泉の番頭さんに。ちょっと寂しくなるかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
多分かえでさんは女将さんに一緒に来てもらうように説得するために残った。そんな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さて、私もけいこさんとの交渉……頑張らなくちゃ！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　これで会長室に入るのは三度目になる。いつものようにノックをして会長室に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ドアを開けると突然ピアノの音が耳に飛び込んできた。音のする方を見るとピアノにけいこさんが座り、静かにピアノを弾いていた。音がしないようにゆっくりとドアをしめた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そしてゆっくりとピアノの前に移動した。けいこさんは目を閉じて弾いている。とても声を掛けられるような状態じゃない。それより……弾いている曲を聴こう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
曲名は分らない。ゆったりとしたリズム、静かに弾いている……何だろう、とても悲しい感じがする。悲しい……だけどとても優しくも感じる……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
幻想的な曲だった。最初のフレーズが繰り返されると、終盤はちょっと激しく鍵盤を叩きつけて……まるで何かを断ち切ろうとしているみたいだった。</div>
<p> </p>
<p> </p>
<p>次のページへ</p>

<p>この物語は「<a href="http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1765.html">ID:ilryqbMC0氏：つかさの旅</a>」の続編です。</p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あれから二年が過ぎた。この町に来ていろいろあったけど、ゆっくり考えている暇はなかった。レストランはどんどん有名になっていき来客もうなぎ登り、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
テレビや雑誌からの取材申し入れが幾度となく来るほどだった。でも、かえでさんはその度に断っていた。只でさえ忙しいのに雑誌とかで紹介されたら</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店に入れないお客さんも出てくるし、ちゃんとした料理を出せなくなってしまう。直接かえでさんに聞いた訳じゃないけど、多分そうじゃないかなって思っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　お姉ちゃん、ゆきちゃんは大学院で猛勉強をしているみたい、あまり来てくれないし、こっちからも来て欲しいなんて言えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして……もう一人、進路が全く決まっていなかったこなちゃん。冗談半分でうちの店で働いてみないなんて誘ったら、本当に来てくれた。正直驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もう一人、あやちゃんも誘ったのだけど断られてしまった。家庭をもつとやっぱりダメなんだよね……もっと早く誘えばよかったかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　こなちゃんは店にくるとホール担当になった。コスプレ喫茶で働いているだけであって直ぐに店の決まりごとやかえでさんの厳しい注文に対応した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そしてあっと言う間にこなちゃんはホール長になってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この頃になるとスタッフも増えて役割分担がはっきりとした。休日も定期的取れるようになった。私は相変わらずのスィーツの担当。かえでさんは店長兼、メイン料理……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私だって負けていられない。賄い料理を出しては新しいメニューを提案した。もう何品かは採用されている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだかんだで、充実した生活を送っているのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「明日は久々に二人とも休みだけど、どこか行く？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
朝食の準備をしながらこなちゃんが言った。そう、私達は同じ部屋に住んでいる。いわゆる共同生活って言うのかな。ここなら家賃は安いからこなちゃん一人でも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
借りられた。私の借りた部屋が少し大きすぎたのもあった。急にこなちゃんが来る事になった。最初はそんな理由だった。職場が同じだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なにより一人暮らしの寂しさから共同生活は続いた。もっとも休みが重なるのは月に１、２日くらいなのと、個室があったので、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それぞれのプライベートな時間は保たれていたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「別に予定はないけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それじゃお昼、松本さんが教えてくれたパスタ屋さんに連れて行ってよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……別に良いけど、まだ朝ごはんも食べていないのにお昼の話なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……お腹が減った時についでに話しただけ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『つかさの旅の終わり』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
お昼の時間、私の運転する車は店に着いた。結局こなちゃんとパスタのお店に行く事になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃん、どうしてこの町に来てくれたの、おじさんとか、ゆたかちゃん、寂しがらなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
オーダを頼むと私はこなちゃんに質問をした。まだちゃんと話を聞いていなかった。こなちゃんは今更なんでこんな話をするみたいな顔をしいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ゆーちゃんは喜んで送ってくれた、お父さんは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの話が途切れてしまった。おじさんと別れるのが辛かったのかもしれない。思い出させてしまったかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、ごめんなさい、話したくなければいいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……いや、誘ってくれて嬉しかった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">沈んだ顔が急に明るくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「誘ったって、店で働くこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「あのままだったら完全にニートだった、お父さんもあまり厳しく言わなかったし……良い機会だったのかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、この町は不便じゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「いいや、ネットが繋げれば問題ないよ、コンビニもあるし……ゲームも出来るし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この町もやっとインターネットが出来るようになった。こなちゃんが来る条件でもあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、お店に直接行けないのが寂しい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうそう、陳列されているのを見て、選ぶ楽しみって言うのが……あ、つかさ、誘導したでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふふ、そう思った？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お待たせしました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
話の区切りが着いて二人で笑って居ると、飲み物を持った店員が来た。そして飲み物をテーブルに置くと厨房に戻って行った。するとこなちゃんは胸のポケットから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">手帳を出して書き出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうしたの、何を書いているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「さっきの店員、私達がお喋りをして一段落したのを待っていた、これはうちの店でも採用できると思って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……私、全く気付かなかった……流石ホール長だね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いやいや、褒めるな、褒めるな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは飲み物を少し飲んだ。少し顔を赤くして照れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は全く気付かなかった。確かに店員は自然に、会話を中断せずに飲み物を置いて行った。それを見逃さなかったこなちゃん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私には無いものをこなちゃんは持っている。そんな気がした。それは高校時代では分らなかったもの。私が知らなかっただけなのか。卒業してからのものなのか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「飲み物ならいいけど、温かい料理だと、熱いうちに出したいよね、その辺りの駆け引きが難しそうだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
駆け引き……こなちゃんはゲーム感覚なんだ。こなちゃんは楽しんで仕事している。私も料理は好きだけど。店と家で作っているのは別物だと思っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">別にする必要なんかなかった。もっと楽しく……そうだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今日はこなちゃんと食事をして良かったよ、何か教わった気がした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「なに、私、何もしていないよ……変なつかさ……あ、料理が来たみたいだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">食事の後は、待ちに出てお買い物をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして、楽しい休日はあっと言う間に終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ちょっと、何回言ったら分るの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">休日が終わって直ぐだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情的に怒るかえでさん。仕事でこんなに感情的になるのは珍しい。開店前、新人スタッフに怒鳴っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……店長どうしたのかな、意味もなく怒る人じゃないのに……あの日かな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の耳元で囁くこなちゃん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……分らない、分らないけど何かありそう、そういえば一週間くらい前から落ち着きが無くて、セカセカしていたよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私もこなちゃんの耳元で囁いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「皆、何ボヤっとしているの、もうそろそろ開店よ、しっかりして！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
更に声を張り上げるかえでさんだった。それは私達に言うよりは自分自身に言っているような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの不機嫌とも思える行動は閉店まで続いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お疲れ様」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店の片付けが終わり、皆が帰っていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今日は私が鍵当番、最後の戸締りをする仕事が残っていた。チェック表を見ながら電気の消し忘れをチェック、ガスの元栓の閉め忘れを確認しないとね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「全部チェックヨシ！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
チェック表に全て記入して更衣室に入った。今日はこなちゃんが先に帰って夕食を作っているはず。早く帰ろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
着替えていると床に何かが落ちているのに気が付いた。何だろう。着替え終わってから落ちているものに近づいた。それは名刺だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
拾い上げると『ワールドホテル』と会社名が書いてあった。ホテル……ワールドドホテルって言ったら全世界に店舗をもっている高級ホテル……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『バン！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
突然ドアが開いた。私はビックリしてドアの方を向いた。そこには息を切らせたかえでさんが立っていた。ノックをするのも忘れているくらい慌てているみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ど、どうしたのですか……びっくりした……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは私が居るのさえ気が付かない。床にコンタクトレンズを落としたみたいに何かを必死に探していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなり飛び上がって驚くかえでさん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「うぁ！！　　つ、つかさじゃない、黙って入るなんて、居るなら居るって言いなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「さっきからここに居ましたけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そ、そうだったの……それより、こんな遅い時間に何をしていたのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今日は鍵当番だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……そ、そうだったわね、お疲れ様……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">また床を探し始めた。おかしい、話が微妙に噛みあわない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、あの、探し物ってこれですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
持っていた名刺をかえでさんに見せた。かえでさんは名刺を見ると、まるでひったくるようにして私から名刺を取り上げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「あった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは溜め息をつくとそのまま部屋を出ようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「待って下さい……ワールドホテルって何ですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……つかさには関係ない事よ……忘れなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言われると余計関係あるように思えてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「今日は朝から変だった、あんな怒り方したら新人さん辞めちゃうかもしれない、何か悩み事でもあるのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「……そうね、朝の態度は悪かったわ……明日、謝っておくわよ……私が帰らないと鍵が閉められないわね、帰るわよ……おやすみなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おやすみなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはそのまま店を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何も話してくれなかった。何だろう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おかえりか……確かに一人暮らしだとこんな返事はないよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「鍵当番だけどちょっと遅かったね……なんかあったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
テーブルには既に料理が並べられていた。少し冷めている感じだった。私はかえでさんの事を話した。こなちゃんは腕組みをして考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「やっぱり、店長……松本さんは何か隠しているね……かがみに似ている所があるからなんとなく分るよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんに、似ている？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよ、この前、初めてここに来た時、かがみと言い合いの喧嘩をしたでしょ、それで分ったよ、二人は似たもの同士のツンデレだって、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　だからかがみと同じように接するとうまくいく、実証済みだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
得意そうに話すこなちゃん。こなちゃんはかえでさんをお姉ちゃんに置き換えていた……私も今までホームシックにならなかったのもこなちゃんと同じように</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんをお姉ちゃんに見立てていたからかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「とにかく、夕ご飯食べよう、話はそれからだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだね、私もお腹減った……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は食事をしながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　食事も半ばくらいした頃だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「一ヶ月くらい前の休日なんだけど、買い物の帰りに偶然松本さんを見かけてね、挨拶しようとしたんだけど……隠れて後を付けちゃった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　そうしたら、例の神社に入っていくのを見たんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は食事をするのを止めた。かえでさんが神社に行った……こなちゃんは更に話を続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「私はそれ以上後を付けなかったけど……つかさ、似ていると思わない、呪われた時のかがみに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まさか、そんな筈はない。お稲荷さんは皆この町を去った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「呪いなんて考えられないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんも食べるのを止めて私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「だったらなんで神社なんかに行くのさ……そういえばつかさは私がここに来てから神社に行くのを一回も見ていないし、ひろしって奴も一度も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　見かけていない……何があったの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お稲荷さんの話は二年前に帰ってお姉ちゃんと話してから誰とも話していない。懐かしさが少し込み上げた。でもまだ懐かしいなんて言うほど時間は経っていないのも確か。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……今は言えないけど……呪いは考えられない、だけど、かえでさんが神社に行く理由なら心当たりあるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……心当たり、教えて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはまたご飯を食べだした。顔が少し曇っている。お稲荷さんの話をしないから納得いかないみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「辻さんはあの神社で自殺したから、多分お祈りに行ったと思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「辻……辻浩子さんだね、松本さんが以前一緒にレストランを開店しようとした人だったね、何で今頃になって、辻さんってどんな人なの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私もそのくらいしか教えてもらっていないよ、かえでさんから彼女をする事なんてないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まさか、かえでさんはまだ辻さんが自殺をしたのを自分のせいにしているのかな。でもそれは本人に聞かないと分らない。私も残りのご飯を食べ始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そういえば……帰りに更衣室で名刺を見つけた、そうしたらいきなりかえでさんが入ってきて、慌てて名刺を取り上げたよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお茶碗のご飯を全て食べてから話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「名刺……誰の名刺なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「名前まで見られなかったけど……ワールドホテルって書いてあったかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ワールドホテル……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは食器を片付け始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさ、もしかして松本さんはワールドホテルからスカウトされたんじゃないの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうゆうことなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんの言っている意味が分らなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「うちのレストランの評判はつかさだって分っているよね、ネットの中じゃ人気トップクラスだよ、テレビや雑誌で紹介されないのは松本さんの方針、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　それは私も賛成する、でもね、有名ホテルならこういったレストランの有能者をヘッドハンティングしちゃえばレベルを上げるのが手っ取り早いからね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ヘッドハンティング……そんなかえでさんは他のレストランに行っちゃうってことだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんが居なくなったら……このレストランはどうなっちゃうの、ここまで来るのに皆苦労したのに、これからなのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の食べ終えた空の食器も片付け始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよね、つかさは私がここに来る前からかえでさんと一緒に頑張ってきたから……つかさと松本さんの絆が試される時だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「絆……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは急に笑い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ふふ、つかさはいつも真に受けるんだね、松本さんの態度と名刺から私が勝手に想像した事だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……で、でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さらにこなちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「何があったか知らないけど、呪いの方は解決したみたいだね、私にはそっちの方で安心したよ、つかさもかがみも解放されたんだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あれで本当に解決したのかな。まだあの時の唇の感触が……何も解決していないような気がする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「どうしたの、急にボーとしちゃって？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はハッと我に返った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、なんでもない、なんでもないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは不思議そうに私を見ていた。そして気付くと、食器をいつのまにか全部洗い終わっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「これから私の部屋でゲームしない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、でも、私じゃ相手にならないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この後、こなちゃんの部屋でゲームをしたけどコテンパンに負けたのは言うまでもなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの言うことが本当なら、かえでさんはどう思っているのかな。かえでさんは元々この町で生まれ育った。わざわざ生まれ故郷でこのレストランを始めたのだから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どんなにお金を積まれたって店を手放すはずなんかない。そう思いたいし、そう信じたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　次の日私とこなちゃんは一緒に出勤した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「この車は……松本さんのだ、凄いな、今度こそ一番だと思ったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何かあると必ずかえでさんは早く出勤するよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店の駐車場に車を止めた。かえでさんの車が既に止めてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「成るほどね……名刺の事、聞けるじゃん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・こなた「おはようございます！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">声を張り上げて挨拶。客席に座っていたかえでさんは飛び跳ねて驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「うぁ、つかさ、こなたじゃない……朝から驚かさないでよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私とこなちゃんはお互いに目を合わせて相槌をついた。そして私はかえでさんの目の前に立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ちょ、ちょっと何なのよ、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達の気迫にかえでさんは立ち上がってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「一昨日の名刺の事を聞きたい、あれはいったいなんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……名詞の事ね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんはバックから財布を取り出し中から名刺を取り出した。そしてそれを私に見せた。一昨日見た名刺と同じもの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ワールドホテル」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そうよ、ワールドホテルの会長の名刺よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そこには「柊けいこ」と書いてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「会長さん……女性なんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「名刺を持ってきたのは秘書の方だったわ……是非話がしたい……そう言ってこの名刺を置いていった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「話ってどんな話なのかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そこまでは言わなかった、ただね、相手は世界的大企業の会長よ、世間話するためにわざわざ呼ぶようなことなんか考えられない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ヘッドハンティングじゃないのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは笑い始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ふふふ、レストランごときに会長が出るわけ無いでしょ、それが本当だとしても私はお断りするわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「本当ですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「決まっているでしょ、どんな条件出されても、この店を手放すもんですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・こなた「良かった！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は両手を繋いで喜んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それで、会長と会うのは五日後、つかさも同行してもらいたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「わ、私も？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの顔が真面目になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「はっきり言って、つかさが居なければここまでのレストランにならなかった、私の支えにもなってくれた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、私は……かえでさんに助けてもらってばかりで……この前の、ひろしさんの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ゴホン、ゴホン」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ん、ひろし……なんかあったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、なんでもないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんの咳払いで話が止まった。危なかった。こなちゃんに分ってしまうところだった。私がひろしさんの話を秘密にしているのをかえでさんは知っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうゆう事だからよろしく、一応スーツを用意しておきなさい、当日は出勤扱いで良いわ、場所は東京だから帰りに実家に寄っていくわよね、次の日は休みだから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、分りました……そのつもりです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは事務室に入って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「よかったね、かがみ達にも会えるじゃん、それに「日下部あやの」さんにも会ってきなよ、結婚式出られなかったんでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みんな元気かな、あやちゃんにも会いたいな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんも逢いたいんじゃ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「まぁね、でも、つかさに比べればましだよ、私は先月帰ったし、大丈夫だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それより、つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私をじっと見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なあに？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いや、ホテルの会長の名前……柊」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私も少し驚いたけど、柊なんて姓は珍しくないし、もし近縁だったら知っているはずだよね、少なくとも私達、家族の親戚じゃないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよね、そうだよ……それにしても会うまで目的を言わないなんて……怪しいな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「詮索しても何も分らないよ、着替えに行こうよ、その時になれば分ることだし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は更衣室に向かった。今日の仕事の始まり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　慣れないスーツを着て一番電車に乗っていた。今日はワールドホテルの会長に会う日。隣に同じくスーツを着たかえでさんが私の隣の席に座っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんも落ち着きがなく、あちらこちらをキョロキョロとしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「なんか息苦しいわ、つかさは少し大きすぎじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うーん、引越しする時に買ったスーツなんだけど……少し痩せたのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは窓の景色を見始めた。まだ目的の駅までは暫くかかる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「東京か……専門学校時代と数年働いてから直ぐに帰郷したのよね……久しぶりだわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私も、専門学校の時、こなちゃんと秋葉原行ったのが最後かな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そういえば泉さんは高校時代からの親友だったわね……彼女は面白い、思いもしなかった事をやらかす、良い意味でも、悪い意味でも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、こなちゃんはどっちかと言うと、お姉ちゃんと一緒にいた時の方が楽しそうに見える……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは窓の外を見るのを止めて私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうかしら、それなら何故彼女はつかさの誘いに乗って私達の店に来た、就職先が無かったから……それだけの理由じゃない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　現に彼女は短期間でホール長になった、つかさに誘われて嬉しかったのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う～ん、分らない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは微笑みながらまた窓の外を眺めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんの親友、辻浩子さん……彼女はかえでさんと志を共にしていたって言っていた。だけどそれしか聞いていない。もう亡くなってしまった人の話をするのは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">辛いのかもしれない。だけど、私は聞いてみたい。私は思い切って聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……かえでさん、辻さん……辻浩子さんってどんな人だったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……彼女は自殺した……ばかな奴よ、思い出したくもない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">相変わらず外の景色を見たままだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「思い出したくない……そんなかえでさんが何故辻さんの亡くなった神社に行ったりするの、一番、彼女を感じる場所じゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……知っていたんだ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんが見かけたって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの目から涙が流れたような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「つかさがあの神社に行かなくなって、今度は私が行くようになった……好きな人が……狐と言った方がいいかしら……そんな人が二人も居たあの神社に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　つかさは何の未練も感じないの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まなちゃんとひろしさん……未練が無いと言ったら嘘になる。でも、あの神社に行っても会えるわけじゃないから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ひろしさんはまだ生きているから、もしかしたらまた会えるかもしれない、まなちゃんは……もう居ないけど、財布の中に生きているから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私を見ながら話し出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「葉っぱの事を言っているのか……浩子は私の幼馴染よ、一人っ子の私には姉妹のような、妹みたいな存在だった、喧嘩もよくしたけど、それ以上によく遊んだわ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　小学校、高校、そして専門学校まで同じ学校に通った」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……すごい、お姉ちゃんとは高校まで一緒だったけど、そこまで一緒だったなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「一緒にパテシエなろうなんて約束した……それが夢だった……彼女の料理の腕は私をはるかに超えていた、特にお菓子に関してはね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったのですか、私も会ってみたかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさはその彼女の腕を更に超えているわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は耳を疑った。私はそんな腕なんかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんな……お客様に褒められた事はそんなにないし……作るのに時間もかかっちゃうし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「つかさが居なければ今のレストランはなかった……旅館だけだったあの頃は料理より温泉が有名だった、私は料理長だった、それが何を意味しているのか分るでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんらしくない。卑下するなんて。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「旅館の時、出していた料理と今の料理じゃ種類が違うよ、洋風と和風だし、かえでさんの得意は洋風だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「……あんたは優しい、優しすぎるのよ、たまには人を傷つけるような事をしてみなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは少し興奮気味だった。やっぱりこれから行こうとしている所には何かがある。かえでさんを見ていると、そんな気がしてならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは会長さんがどんな用事があるのか知らないって言っているけど。概略くらいは伝えているのが普通だよ。でもこんな状態じゃ聞いても答えてくれそうにない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに時期にそれも本人から聞ける。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　私達は思わず見上げた。ワールドホテル本社ビル。周りの建物と比べると豪華さと気品で圧倒していた。入り口には沢山の人々が行き交っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なんか凄すぎて入り難いね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「…噂には聞いていたけど……そこいらのリゾートホテルとは違うわね、各国の要人も泊まるのが頷けるわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんはホテルのホールへと入ってく。私もその後に付いて行った。するとホテルのテナントレストラン街を通った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「三ツ星級のレストランが軒を連ねているわよ……私に対する当て付けにしか感じないわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">更に奥に進むと受付の前にかえでさんは止まった。そして例の名刺を受付に見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「「レストランかえで」の店長、松本かえでですが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">受付「……お待ちしておりました、そちらのエレベータで３５階へどうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
エレベータを降りると目の前が会長室だった。かえでさんは扉をノックした。扉が開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">優しく気品のある声だった。私達はその声に導かれるように向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「よく来てくれました……どうぞ、お座り下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長……この人が会長。その人は椅子に座っていた。髪は短く全て白髪……銀髪に見える。かなり歳をとっているように見えるけど背は真っ直ぐに伸びているから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">歳を感じさせない。服も若い人が着ているようなピッタリとしたスーツを着ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんの顔を見ると微笑んだ。私達は椅子に座った。すると奥の方から秘書らしい女性が飲み物を持ってきた。テーブルに飲み物を置くと軽く会釈をして奥に戻って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは私に気付いた。私の方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そちらは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……副店長の柊つかさです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
え、今何て言ったの。副店長って……そんなの初めて聞いた。何時からそんなのになったのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「はじめまして、私は柊けいこ……このホテルの会長を勤めさせていただいているわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私の脇腹を肘で軽く突いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、わ、私は柊つかさです、よ、よろしくお願いします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは微笑んだ。何だろうこの人前に会った事があるような……素敵な笑顔……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんはかえでさんの方を向くと表情が厳しくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「早速でもうしわけないですが、ご返事を聞きたいわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事……会長さんはいきなり回答を求めてきた。やっぱりかえでさんは呼ばれた理由を知っていたんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……お断り致します、とても承服できる内容ではありません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんは微笑むとゆっくりと立ち上がった。そしてテーブルに置いてあった飲み物を取った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……そうですか、悪い条件とは思いませんが、それに……断ったのはあの町で貴女だけになりました、それでも？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……条件とか町ってどう言う意味だろう。かえでさんをスカウトしているにしてはちょっと意味が分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それでもです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……最初から同意できるとは思っていません、今後も会いたいのですが、どうです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「会うのは構わない……でも、結果は同じと思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いったい何を話しているのだろう。やっぱりかえでさんをスカウトしているのかな。話に入れない。そんな私と会長さんの眼が合った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『パチン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんの指が鳴った。奥からさっきの女性が出てきた。テーブルの上の飲み物を片付けると会長さんに紙を渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「柊さん、貴女は松本さんから話を聞いていないようですね……松本さん、それでも店長なのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「むぅ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
とてもソフトな口調だけど言っている事は厳しい。かえでさんが反論できない。それにしてもさっきの指の鳴らし方……気になる。何だろう思い出せない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんはさっき渡された紙をテーブルいっぱいに広げた。それは地図だった。その地図は私達が住んでいる町の地図だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「この地図は見て分るように、貴女達の住んでいる町……この辺り一帯を再開発するプロジェクトがあります、もちろんあなた達のレストラン、旅館もそのエリアに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　入っています、是非あなた達の店を売ってもらいたいのです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
地図を良く見ると色が塗られている。これが開発する地区なのかな、町の殆どが対象みたい。だけど私達のレストランだけが色が塗られていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「もちろんお金を渡されただけでは仕事は出来ないでしょう、数百ある私の世界中のホテル、施設、何処でも良いわ、五年間無償でテナントを貸しましょう、その後、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　留まるのも、他に移るのも自由、移ると決まった場合でも無利子で資金を提供いたしましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なんて至れり尽くせりの待遇……悪くない。もっと良い調理器具とか欲しいし、広い厨房、間取りも変えてみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「どうですか、柊さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私の店は三ツ星が付く様な洒落た料理は出せませんし、出す気もありません、貴女のご希望に添えるとは思いませんが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が言うより早くかえでさんが話した。かえでさんはあの条件でも不服なのか……住み慣れた町を離れるのだから、その気持ちは分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私のテナントの店は最初から三ツ星だった訳ではないわ、テナントに来てからそうなったのよ、もちろんそうならない店もあるわ、それでも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　彼らは誇りをもって仕事をしているわ、それに私はテナントの経営には一切口出しはせません、それは約束します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長さんの言う事が本当なら凄く魅力的に感じる。私だったら直ぐにでも会長さんに店を売ってしまうかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「話はそれだけですか、他に用がなければ帰らせて頂きます……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「道中、さぞ疲れでしょう、食事でもご一緒できれば……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「結構です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……そうですか、残念です、今度、来週の日曜日、時間はとれますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは、しばらく考えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「来るだけは来ます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……この笑顔。思い出した。この人会った事がある。こなちゃんが来る少し前、店に来たお客様……あの時はまだ持ち回りでホールをやっていたから……会計の時</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
料理を褒めてくれたから覚えている。この人……ただ土地が欲しいだけじゃない。私はこの会長さんに魅かれているのを感じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさ、行くわよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「は、はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「お待ち下さい……柊つかささん、少しお話があります、よろしいですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、私に……話ですか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">思わずかえでさんを見た。かえでさんは少し不機嫌そうな顔になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「好きになさい、つかさはこれから実家に帰るのでしょ、丁度いいわ、ここで解散」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　広い会長室に私と会長さんだけになった。どうして私を呼び止めたのだろう。かえでさんはなんか怒ってしまったみたいだし……休みが明けに会うのが嫌だな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もうこうなったら、会長さんの事をもっと調べておこう。かえでさんに話して参考にしてもらおう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、あの、会長さんは以前、私達のレストランに来られましたよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長さんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「けいこで良いわ……そうです、覚えていてくれたのですね、光栄ですわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「い、いえ、料理を褒めてくれるお客様なら覚えますよ……光栄なのはこっちの方です……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「美味しいから、美味しいと言っただけ……あれは松本店長の料理でした、料理と同じようにやはり妥協はしませんでしたね……ますます彼女を気に入りました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あんな断り方をしたのに、けいこさんはかえでさんをよっぽど気にいったに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっと、ご用件はなんでしょうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を静かに閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……一人、二人……三人」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなり数えだして何を……私は首を傾げてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「最初は憎しみから始まった、そして……それは愛情に変わって行く……懐かしい……仲間の香りがする」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんが目を開けた瞬間私は、無意識に目線をけいこさんから外した。この感じは紛れもなく……お稲荷さん……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんはクスクスと笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……金縛りの回避ですね、それは教えられたものではない、自分の体験で覚えたもの、試してすみませんでした、最初からそんな技をする気などありません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほっとして目線をけいこさんに戻した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「これほど強く感じるほど貴女は仲間に関わっていたのですね……そんな人間は近代になってからは殆どいません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かに関わっていた。最後には好きになったりもした。もう関わらないと思っていた。でも運命の悪戯なのか。今、目の前にお稲荷さんが立っている。この人、うんん、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このお稲荷さん……今まで会ってきたお稲荷さんとは感じが随分違う。人間として生活している。と言うより企業の会長にまでなるなんて……え、どうゆう事なの？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ど、どうして今までバレなかったの、人間になっていられる時間って決まっているのでしょ、狐に戻った時どうしていたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「驚いた……そんな極秘にしている事も知っているなんて、貴女はよっぽど信頼されていたみだいですね……それを話す前に、手を貸していただけますか、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　恐らく話したくない事もお在りでしょう、貴女の記憶に直接語りかけます、よろしいですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何だろう、この人には全てを話しても良いような気がしてきた。けいこさんに両手を差し出した。けいこさんは私の片手を両手で握った。そして目を閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も目を閉じて、まなちゃんの出会いからひろしさんの別れまでを思い出していった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……ありがとう、すまないと思いました、貴女の生い立ちも見させてもらったわ……四姉妹の末っ子……神社の娘、優しい家族、双子の姉を一番慕っているわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">数分後、けいこさんは両手を離した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「まさか真奈美が亡くなってしまったなんて……しかも私達の過ちで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「まなちゃんを知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「真奈美、ひろし、たかし……そして五郎、みんな知っているわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「五郎……さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「貴女の記憶の中では「大きなきつねさん」と言っていたわね、先代のお頭よ、あの未熟者も引退する時が来たようね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ここまで具体的に私の記憶を覗いていたなんて……私を見ただけでまなちゃん達と出会ったのを見抜いた、ひろしさんでさえ私をまなちゃんと間違えたのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに先代のお頭さんを未熟者呼ばわりするなんて……このお稲荷さんはいったい……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お稲荷さんは人と付かず離れず……そうやって暮らしてきたって聞いていました、でも、けいこさんは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「お稲荷さん、そう呼ばれるのは数百年ぶり……そうね、私は仲間から離れた……私は人間の社会の中で生きていく道を選びました、そこで恋をし、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　生涯を共に生きようと誓った人ができました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは自分の席に向かって歩き始めた。そして机に置いてあった写真を手に取った。男性の写真……老人の写真。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「三年前に亡くなった、私は彼の意志を継いで会長になった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは人を好きになった。人間と一緒に……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「結婚したの、そんな事が出来るの、カゲロウみたいな寿命の人間と一緒にいて幸せになれるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは写真を見ながら答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「なれないわね、お稲荷さんで居る限りは……五十年前、私は人間になった、長寿と引き換えにね、元の狐の姿に戻ることはもうないわ、それでも彼の方が先に亡くなった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
好きな人の為に長寿を捨てたなんて……ひろしさんは……比べちゃいけないけど……出来る訳ないよね、そんな事……それにそんな事なんてさせたくない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「わ、私達は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは写真を元の机に置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「愛と言うのはね、はっきり形が決まっているものではないわ、私はそうしただけ……お互いが納得できればそれで良い、私はそう思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私の聞こうとしていた質問を話すまえに、答えを先に言われてしまった。でも……私は納得したのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「十年、五年……もっと短いかもしれない、私に残された時間は短い、私の出来る事は彼の夢を実現させる事、その為なら私の持てる能力、知識を全て使うつもりよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それが町の再開発なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。けいこさんの決意の固さこれで納得した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
テーブルの上に置いてある地図を改めて見た。「レストランかえで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このレストランがあの町に居なければならない理由は私には思い浮かばない。どこに移ったっていいと思う……ん？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは……どう言う事なの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「けいこさん、これは、どうして再開発するの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は色の塗ってある区域に指を指した。それは、町唯一の神社……お稲荷さんのすみかだったはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「あの小山は景観を損ねます、山を削り更地にして公園にするつもりです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">分った、かえでさんが何故、けいこさんの話しに乗らない理由が。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの神社がどんな所か、けいこさんなら分るはず」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私は古巣には興味ありません、つかささん、貴女もあの神社には執着していない筈です、それに私の調べた限りではあの神社を信仰する人間は居ません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんなんじゃなくて、辻さんが眠っているから……かえでさんの親友の辻浩子さんが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「辻……浩子……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……それは調べました、自殺した人のようですね、ご遺体はもう既に荼毘に付されて彼女の墓地に埋葬されたと、なんの問題もありません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさんが反対の理由、私の記憶を見たのなら分るはずです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「あぁ、そうだったのですか、彼女の私に対する態度の理由が分りました、時間が掛かりそうですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「時間がかかる……計画を変更する気はないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「ありません、もう計画は動いています……しかし満場一致が私の信念、松本さんが賛成してくれるまでは止めるつもりです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんの意志は固い。でもかえでさんも考えを変える気はなさそう。いったいどうすれば……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女はさきほど初めて副店長といわれましたね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女は私の計画に賛成と感じましたが相違ないですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん……でも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「咄嗟であれ、貴女を副店長といったのならばそれなりに貴女は信頼されています、どうです……説得してもらえますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「やってはみるけど……それにはけいこさんがお稲荷さんだったって言わないといけないかも……かえでさん、あまりお稲荷さんは好きじゃないみたいだし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私の正体は話しても構いません、それが解決の糸口となるならば……松本さんにとっても、あのままではいい仕事は出来ないと思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今日はありがとうございました、久しぶりにお稲荷さんに会えたし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はお辞儀をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「いいえ、貴女が来てくれて良かった、懐かしいさが込み上げてきました、来週の日曜日、是非松本さんとご一緒に来てください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">握手をして私は会長室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
うわ～、出来そうもない約束してしまった。かえでさん、私が残ろうとした時怒っていたし……まともに話を聞いてくれるかどうか。でもこの問題は</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私やかえでさんだけで決められる事じゃない。レストランで働いている人皆に関わる問題。まずは皆に話さないと、考えるのはそれからだよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それより、けいこさんが人間なった経緯をもっと聞きたかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さて、今くよくよ考えたってしょうがない、実家に帰ろう。皆どういているかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
ホテルの飲食店街を通りかかった。けいこさんはテナント経営に口を出さないって言っていた。ホテルの店に急に興味を持った。帰るにはまだ少し早い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店の様子でも見てみようかな。辺りを見回し適当な軽食店に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いらっしゃいま……ひいちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、あやちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
全くの偶然だった。目に入った最初のお店、そこに彼女は居た。私達は両手を握り合って再会を喜んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「どうしたの、こんな所に来て……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いろいろあってね……それより、結婚おめでとう、私達の中で一番乗りだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやちゃんは高校時代から付き合っていた日下部さんのお兄さんと結婚をした。こなちゃんが店に来る少し前だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「ありがとう……いろいろ話したいけど、仕事中だから……取り敢えず席へどうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやちゃんに案内された席に座った。私は辺りを見回した。旅館の食堂を改装した私の働くお店とは違う。装飾、電灯、テーブル、椅子……全てが……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
奥の厨房は広くて動き易そうだった。そこで働いている従業員はみんな活き活きとしている。あやちゃんがメニューと水もって来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「店長に許可をとったから少し話せるよ、スーツなんか着込んじゃってどうしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「う、うん……ここのホテルの会長さんに呼ばれて……私達の店を移転して欲しいって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは喜んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「凄い、チャンスだよ、このホテルに入れるだけでも大変なの、テナントに空きが出ると何件ものお店が候補する、でもね、最後は会長が決める……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　会長に認められただけでも相当な宣伝になるよ……そうか～つかさの店がホテルの店舗にはいるのか、ここはとってもいい所、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
お店同士はライバルになるけど、一緒に頑張ろうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ちょっと興奮気味に話すあやちゃん、その話しぶりから環境がいいのは直ぐに分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっと気が早いよ、まだ決まったわけじゃないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「そうなの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんの顔が曇った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それより、結婚してどうなの、旦那さんとは……日下部さんとはうまく言ってるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「もちろん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">またあやちゃんの顔が明るくなった。私にはそれだけで彼女が幸せなのは充分分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">５分位かな、彼女とお話をした。彼女は嬉しそうに旦那さんのお話をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「日下部さんちょっと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ホール長らしい人があやちゃんを呼んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「あ、もう時間だね、今度またゆっくりお話しましょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは仕事に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あやちゃんのお店で私はコーヒーを頼んだ。そのコーヒーを飲んで驚いた。香りがうちの店とはぜんぜん違っていた。きっとコーヒーを淹れる専門の人がいるに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
軽食店だと思って侮っていたらとんでもなかった。このホテルのテナントに入ればこんな店と張り合わないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけど楽しそうに働くあやちゃん見て思った。こんな店で働いてみたい。コーヒーを飲み終わりお会計をしにレジに向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「ありがとうございました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いつからここで働いているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「半年くらい前かな……泉ちゃんがひいちゃんの所に行った後だから、知らないかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もし、もしも、もっと早く誘っていたら来てくれた？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは暫く考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「結婚……こうなる事は分っていたから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">答えはなんとなく分っていたけど……聞くんじゃなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ、ごちそうさま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「移転……決まると良いね、待ってるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は店を後にした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　空はすっかり夕方になっている。私は実家に向かっていた。家に連絡はしていなかった。皆を驚かせる為。長期休暇を取らないで帰るのは初めてかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見慣れた町並み……もう直ぐ家に着く……柊家が見えてきた。みんなどんな顔するかな……ちょっとドキドキしてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
玄関が見える所に差し掛かると、ドアが開いた。お姉ちゃんが出てきた。私は歩くのを止めて電信柱に隠れた。お姉ちゃんの後からもう一人出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
男性……見たことも会った事もない人だった。お姉ちゃんと同じくらいの歳に見える。二人は楽しげに会話をして……急に男性がお姉ちゃんに近づいて……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あ……キスを……お姉ちゃんは拒むことなく受け入れていた。初めてのキスじゃない。もう何度も……そんな感じに見えた。男性が離れるとお姉ちゃんの顔が少し赤くなって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見えた。男性が玄関を出るとお姉ちゃんは手を振って見送った。男性は私の隠れている電信柱を過ぎて駅の方に向かって行った。男性が見えなくなると</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは家の中に戻って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　お姉ちゃんに恋人が……私が居ない間に……こなちゃんも何も言っていかった。どしよう。何て言って家に入ろう。知らない振りも出来そうにない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分の家なのに玄関の前に立って何も出来ない。でも……恋人ができるのは良い事だよ。別に私が恥かしがる事じゃないよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピンポーン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">合鍵を持っているのに何故か呼び鈴を押していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ドアが開くとお姉ちゃんが驚いた顔で出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つ、つかさ、なんで……く、来るなら連絡くらいしなさいよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は笑った。笑ったけどなんか自然に笑えなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「へへ、皆を驚かそうと思って……ただいま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「お、おかえりなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「疲れた……少し部屋で休みたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は家の中に入ろうとした。別に疲れてはいなかったけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょ、ちょっと待って、５分……１０分待って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急にお姉ちゃんは慌てだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なんで？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">入れたくない理由は何となく分る。でも聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「急につかさが来るから……片付けしないと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お母さん達は」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">居ないのは知っている。そうでなければ男の人を家に入れたりはしない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……今日は皆出かけて私しか居ないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「分った、１０分したら戻ってくる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は駅の方に戻った。５分くらい経った頃、私の携帯電話が鳴った。お姉ちゃんからだった。もう片付いたと連絡が来たので私は家に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　家に入るとほんのりと香水のような香りがしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ビックリしたわ、突然来るから……どうしたの、スーツなんか着て、何か大事な会議でもあったの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……そんな所かな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんは黙っているつもりなのかな。私もひろしさんの事は黙っていたから人の事は言えないのかもしれない。だけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「居間で休んでいて、お茶を淹れてくるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは台所に行こうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「さっき家を出て行った男の人……誰なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「わっ、わっ、見みたの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……キス……してたよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは振り返った。顔が真っ赤になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「突然だったから、不可抗力なのよ……だから彼は……なんて言うのか……私はっ…えっと、えっと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何を言っているのか分らない。両手をバタバタさせて今まで見たこと無い慌てっぷりだった。お姉ちゃんらしくなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ぷっ……ふふふ、はははは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何とも言えない。滑稽だった。思わず吹いてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「恋人なんてしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その声にお姉ちゃんは一回深呼吸して冷静さを取り戻した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そ、そうよ……笑ったわね、そんなに似合わないのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、そんな事ないよ、誰も居ない家、二人で愛し合っていたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ば、ばかな事いわない！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは台所へ小走りに行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
居間で休んでいるとお姉ちゃんがお茶を持って来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「久しぶりね、帰ってこないから私達の事なんか忘れちゃったと思ったわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の前にお茶を置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「やっとお店も一段落したから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……そう、それならいいわ……お帰り……まだ言っていなかったわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま……私もまだ言っていなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私に微笑みかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……さっきの人は大学院のＯＢで先輩……大学院になって直ぐに知り合った」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あんなに恥かしがっていたのに。今度は普通に話している。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ、もう一年以上のお付き合いだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……そうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうして急に話したの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんはお茶を一口飲んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「さっきは気が動転しちゃって、やっぱりこうゆうのは話さないといけない、将来つかさの兄になるかもしれない人だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そこまで……考えていたんだ、本気なんだね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「私は本気……彼は、まだ聞いていない、法律事務所を一緒に経営しようなんて、冗談で話した程度よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だめだよ、ちゃんと聞かないと！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は思わず身を乗り出して叫んだ。お姉ちゃんは驚いて身を引いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさ、ど、どうしたのよ、急に、お茶が零れちゃうわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私に話してくれた、それならば私も話さないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私ね、ひろしさんに告白した……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ひろし……えっ、告白したの、別れたって言ったじゃない、彼が一方的に別れたと思っていた、つかさが好きと言ったなら別れる理由なんかなかったでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、別れちゃった……ひろしさんはお姉ちゃんには言ったんだよね、私が好きだって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……夢の中の話よ、思えば私に信頼してもらいたかったからそんな事まで言ったのね、でも、それがどうしたのよ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「告白していなかったら……別れた後、お姉ちゃんのその話を聞いて私はきっと後悔したと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「後悔……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうだよ、あの時言っておけば良かったって……好き合っていても……別れる場合だってあるから、お姉ちゃんにはそんな思いさせたくない、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私を見て呆然としていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……凄いわね……経験者が言うと説得力があるわね、身につまされるわ……でもね、私はつかさほど強くない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私に告白させたのはお姉ちゃんだよ、駅で別れた時に言った言葉……電車が出る直前に言ったでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……自分の信じるように……ふふ、確かに言ったわね、人には言えても、自分の事になると意気消沈するのよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">元気がなくなってしまった。無理に押し付けても逆効果なのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……私、お姉ちゃん達がうまくいくように祈ってあげる……ずっと一緒になれると良いね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">懐かしい声が玄関の方から聞こえてきた。まつりおねえちゃんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「その声は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつりお姉ちゃんは居間に来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「つかさ、つかさじゃない、今まで帰らないで、もう私達の事なんか忘れたと思ったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">駆け寄って私の肩を叩いた。お姉ちゃんと同じ台詞を言うなんて……私は微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「田舎暮らしがよっぽど気に入ったのかと思った……ん……何、この香り……香水？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつりお姉ちゃんは辺りを見回し始めた。お姉ちゃんは俯いて小さくなっている。お姉ちゃんは恋人が家に入ったのを隠そうとしていた。そんな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「気が付いた、新しいのを付けて来た……今日は大事な会議があったから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「会議……だからスーツを着ていたのか……何の香水使ってるいの、今度教えてよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、後でね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「もうすぐお父さん達も帰ってくる、つかさ、着替えちゃいなさいよ、着替え持ってきたんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暫くするとお父さん、お母さん、いのりお姉ちゃんが帰ってきた。久しぶりに一家団欒で楽しい会話が弾んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　夕食を食べ、お風呂に入り、また家族と団欒……そして私は自分の部屋で寝ようとしていた。自分の部屋で寝るのは久しぶりだった。お母さんがいつでも帰ってきても</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
大丈夫なようにしていてくれた。今までの私なら直ぐに眠ってしまう。だけど何故か眠れなかった。けいこさんのお話し、かえでさんの事、お姉ちゃんの事、あやちゃんの事、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みんな頭から離れない。これからどうなるのかな……期待と不安が行ったり来たりする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『コンコン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ドアがノックされた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「開いてるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ドアがゆっくりと開いた。お姉ちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「起きているの……少し良い？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">部屋に入るとドアを閉め、私のベッドに腰を下ろした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「まつり姉さんが帰って来て香水の香りに気付いた時、つかさが使った事にしてくれてありがとう……姉さんに言われたらこの香水を渡すといいわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは香水の瓶を私に渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、彼の事、まだ知られたくないと思って……でも、いつまでも隠せないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そうね……彼の本心を聞いてから、それから話そうと思っている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「告白する気になったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは少し顔を赤くした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……つかさが、あんなに力説するから……でも、もし彼が、ただの遊びだったら……そう思うと恐くなってしまって……眠れない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でもお姉ちゃんは本気だから、それで良いよ、彼がもしそんな気持ちだったとしても、それはそれで、すっきり出来るよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そんな簡単に割り切れるのか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「割り切るしかないよ、これは自分の力じゃどうしようもない事だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは目を閉じて考え込んでしまった。そうだよ、割り切るしかないよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、よくこなちゃんにバレなかったね……大学院になって直ぐに出会ったのなら、こなちゃんもまだ居たのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは目を開けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「高校時代のように毎日会っている訳じゃないからな……それよりこなたは上手くやっているのか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、この前、ホール長になったよ、少し驚いちゃった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ふふ、やっぱり……あいつはやる時はやるからな……皆凄いな……私からどんどん離れて行く様な気がするわ、置いてけぼりにされそう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
嬉しそうに微笑んでいる。それに、やっぱり……お姉ちゃんはそういった。もしかしたら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんを誘ったのは私だけど、後押ししてくれたのはお姉ちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「こなたが相談してきた、私に相談してきてどうするのよ、まったく……妹の誘いなら迷うことなんかないって言ってやった、それだけよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
以前、お姉ちゃんはこなちゃんの事を親友じゃないなんて言っていたけど、やっぱりお姉ちゃんはこなちゃんの親友だよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時は呪われていたから素直になれなかっただけなのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは両手を上げて背伸びしながらあくびをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ふぁ～　つかさと久しぶりに話して落ち着いた、今夜はよく眠れそう……それに勇気も湧いてきた、後悔なんかしたくない……つかさ、私、やってみる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、その調子」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「おやすみ、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おやすみなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは私の部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんならきっとうまくいくよ。私と違って相手は人間だし、もう既に愛し合っている。それに、あんなキスを見せ付けられたら……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">見ているこっちが熱くなっちゃうよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あっ……相手の名前を聞いていないや。うんん、慌てない、お姉ちゃん達の愛が本物なら何れ分る。私のお兄ちゃんになるかもしれない人……か。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ふぁ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あくびが出た。私も眠くなった。寝よう……良い夢が見られそう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
明くる日、実家を後にして帰宅した。お姉ちゃんに店の移転の相談をしたかったけど止めた。お姉ちゃんに頼ってばかりはいられない。私だけで……違う、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんやこなちゃんだって居る。店の皆も……やっぱり店の問題は店の関係者で解決しないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事がない。おかしいな。玄関にこなちゃんの靴が置いてあった。こなちゃんは居るはずだけど……部屋の奥に入っていった。居間にこなちゃんはいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">テーブルにノートパソコンを広げて夢中になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきよりも少し大きな声を出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはパソコンの画面を見たまま返事をした。またゲームをしているのかな。こんな時のこなちゃんは何を言っても上の空。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんがよろしく言っていたよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「柊けいこ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">突然会長さんの名前を言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ワールドホテルの会長にして、幾多の企業を経営している……倒産寸前の会社を買い取りことごとく復活させて利益をあげている、しかも、経営が軌道にのると</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　すぐに独立させて経営には二度と口を出さない……カリスマ的経営者……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ノートパソコンを閉じると私の方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ちょっと調べてみたんだ……凄い経歴の人だよ……得に外食産業に関してはこの人の右に出る人は居ないようだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな人だったとは……でも確かに今までに無い魅力を感じる人だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「でもね……ちょっと怪しい所もあるんだ……五十年前、前会長の柊竜太って人と結婚しているんだけど……結婚以前の経歴が全く無い……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　これだけの人なのに、何処で生まれて育ったのさえ全く分らない……おかしいよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
五十年前……けいこさんが人間になったって言った時期と一致する。お稲荷さんだったけいこさんの履歴なんて分るはずもない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「前会長、竜太ならネットでも簡単に調べられたよ、この町で生まれ育ったらしいね、この町の有力者の息子だったってさ、父親村長で猟友会の会長だったって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっ！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の声にこなちゃんは驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ど、どうしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「な、なんでもない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どうゆう事なの、猟友会の会長の子供の竜太さんとけいこさんは結婚した……信じられない、まなちゃん、ひろしさん、たかしさん、私の会ったお稲荷さんは狩りをする人間を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">憎んでいた……けいこさんと竜太さんに何があったと言うの……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「大学を卒業した竜太はワールドホテルに入社した、そこで出世街道まっしぐら、ホテルはみるみる大きくなり、世界的なホテルとなった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　でも、経営的な決定権はけいこが握っていたみたいだね……何者なんだろう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「なんでけいこさんを調べているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「昨日、松本店長が店を休んだよ、連絡がつかない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「休んだ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんが店を休むのは珍しい事じゃない。でも、無断で休む事なんか一回もなかった</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよ、昨日はかえでさんしか作れない料理は品切れって事で開店した、料理に欠かせないスープも無くなりそうになってね、かえでさんが明日も休めば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　開店できないよ、つかさ、あの会長は松本さんに何を言ったの、何をしようとしているの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が言っていいのだろうか、本当は店長であるかえでさんから話す方がいいに決まっている。こなちゃんだってホール長、話を聞く権利はある。うんん、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お店の皆が聞かないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんは、この町を再開発するつもり、エリアの中にいる人達はほぼけいこさんに賛成しているみたい、残るは私達のお店だけ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「何だって、そんな話し聞いていない、開発ならもっと大々的に宣伝するでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私も昨日初めて聞いた。どんな開発なのか。けいこさんは何をしようとしているのか、詳細は聞いていない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「移転するにあたって、けいこさんはホテルのテナントを無償で五年間貸すって言っていた、それだけじゃない、いろいろ良い条件を出してくれている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「良い条件って、つかさ、もしかして、会長の計画に賛成なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に近づき詰め寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ホテルのテナントのお店に入った、最新の設備、インテリア、調理器具……凄いよ、あそこならもっと美味しい料理ができそう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なるほどね、つかさが賛成で、松本さんは反対なのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんはどうなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">逆に私がこなちゃんに詰め寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「私は、まだここに来て半年を過ぎたばかり、やっとこの町にも慣れてきた、でも、この町に何か特別な想いはない、皆が賛成すれば良いよ、調べた限りでは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　悪い所はなさそうだしね……怪しい所はあるけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
怪しい所、もし、もしも移転がきまればけいこさんと会う機会は増える、こなちゃんやかえでさんだって増える。けいこさんの正体を言うべきなのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ん、なんかあるの、私をじっと見て？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「え、うんん、なんでもないよ、それより、かえでさんが心配……けいこさんに説得するように頼まれたのだけど、なんか自信ないな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり言えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ん、つかさ、もう会長とそんなに親しくなっての、なんか凄いな、つかさって社交性がそんなにあるとは思わなかったよ、そういえばお稲荷さんとすぐ仲良く</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　なるよね……しかも相手は憎しみたっぷりだったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その会長さんもお稲荷さんだったりする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんな事ないよ、私なんて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「なんだかんだ言ってレストランの皆と一番うまくやっていると思うよ、喧嘩もしないし、それはある意味能力だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんだってすぐにホール長になったし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「アルバイトの経験がうまく活かせただけよ……そういえば、覚えているかな、初めて会った時の事、高校二年だったよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは昔の話をしだした。覚えている。確か外人さんに尋ねられて……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「その時さ、思ったんだけど、つかさは助けてあげたくなるような素質があるんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それって素質って言うの、助けてもらう素質って頼りなさそうだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あ、そうかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「まぁ、松本さんの説得は私も協力させてもらうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　次の日、私は遅番だったけどこなちゃんと一緒に一番に出勤した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店に着くと案の定、かえでさんは出勤していなかった。皆は厨房で立ち尽くしていた。料理の基本、スープが底を突いていた。このままでは一品も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">料理を作ることができない。開店も侭ならなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうしよう、このままじゃ休業だ、今日の予約、キャンセルしてもらうしかない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スッタッフの一人が呟いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「スープなんて肉と野菜を入れて煮込むだけでしょ……なんとかなるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「簡単だから難しいの、人によって味が変わっちゃうから、かえでさんが作らないと店の味が出ない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさなら作れるんじゃないの、松本さんと一番付き合い長いし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの言葉を皮切りに皆の目線が一斉に私に集まった。かえでさんがスープを仕込んでいる所は何度も見たことあるし、手伝ったりもした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど肝心な所は全てかえでさんがしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ごめんなさい、私もできな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その時だった。急に頭の中に閃いたものを感じた。冷凍庫、そう、あそこに確かかえでさんが作り置きしていたいろいろな食材を冷凍してあったのを思い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は冷凍庫を開けた。中を隈なく探した。ラップに包んだ氷の塊……私はそれを取り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なにそれ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「寸胴鍋にお湯を沸かして」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんが鍋を用意した。スタッフもその後から動いた。お湯が沸くとラップを剥がして凍った塊を鍋の中に入れた。塊は溶け出して鍋いっぱいに広がってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
鍋からスープの香りが立ち込めてきた。塊が全て溶けたら、火を弱火にした。料理担当のスタッフが小さじで掬い取って口の中に入れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……店長の味だ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">皆の歓声が広がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「すごい、どんな魔法を使ったの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「魔法じゃないよ、スープを煮詰めて濃縮したのを凍らせただけだよ、かえでさんが昔、スープを作るのを失敗した事があって……この方法をしてスープを作ったのを</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　思い出した、余ったスープを煮詰めたのを貯めて置いて凍らすの、そうするとこういった緊急の時の即席スープができる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは感心したように頷いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「皆、予定通りの時間で開店だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">皆は一斉に持ち場に戻って行った。私もデザートの準備をしようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「さすがつかさ、うんん、つかさ副店長！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんじゃないのに副店長だなんて。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんな……私はかえでさんの真似をしただけで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「私も含めてその真似が出来ないんだよ、兎に角危機を脱したのは確かだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「スープの元も後数日分しかないよ、かえでさんに作ってもらわないと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「でも、連絡がつかないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それなら、今日、帰りにかえでさんの家に行ってみる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「それがいいよ、つかさの言う事なら何故か聞くからね、そうゆう所がかがみに似ているよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言うと掃除道具を持って店の外に出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　私は早めに店を出た。そしてかえでさんの家に……向かっていなかった。もう一箇所、かえでさんが行きそうな場所に向かっていた。それは……神社だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんと別れてから一回も行っていない。忘れられた神社。その神社に今度はかえでさんが頻繁に行っている。不思議なものを感じてならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まなちゃんと初めて会った場所、別れた場所でもあった。短い間だったけど私にも一生忘れられない思い出があそこにはある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして、お稲荷さんが住んでいたあの場所を、お稲荷さん自身が壊そうとしている。それについてはちょっと違和感があった。今度の日曜日に真意を聞いてみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">神社の入り口、私は階段を登った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんが階段から降りてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさん……やっぱりここだったんだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">頂上と神社入り口の丁度中間くらいで彼女と会った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達はゆっくり降りながら話をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「お店をほったらかしにして、さぞみんな怒っているでしょうね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お店はなんとかしています、スープが無くなったから……冷凍してあったのを使いました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「あれを使ったのか……失敗した時の為に取って置いたものよ、でもね、煮詰めてあるから普通に作ったのよりコクが出るの、よく分ったわね、冷凍庫の奥だったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お店を休みにはできないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうね……つかさはもう一人でも立派にやっていけるわね、それに引き換え私なんて……情にながされて皆に迷惑をかけた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんな、私だって何度お店を休んでここに来たか、その度にかえでさんに励まされて、教えられて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは黙ってしまった。話がそれたかな、こうなったら直接聞くしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「けいこさんの話しの答えを考えて、それで此処に来ていたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「答えは出ている……多分つかさと同じ答えよ、飲食業を営む者にとってあのホテルで店を出す……それが目標みたいなもの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうなの、でも、あの時けいこさんに取った態度って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「この話し、店の皆には話したの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃんにだけ話した、皆にはかえでさんから話すのが良いかなと思って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それで、泉さんは何て言ったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「賛成してくれたよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そうよ、そうなのよ、頭では私だってそう思ってる！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私に向かって叫ぶような声だった。私は驚いて階段を一段降りた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「思っているけど、素直になれない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度はか細く弱弱しい声になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その原因はこの神社の開発なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはまたゆっくりと階段を降り始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「この神社の話しは知っているのか、一昨日、私と別れてから会長さんと何を話した……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
やっぱり聞いてきた。こなちゃんには話せなかった。だけど、かえでさんはひろしさんと私の関係を知っている。けいこさんも話して良いと言っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんは……お稲荷さんだよ、うんん、お稲荷さんだった、五十年前、人を愛して、長寿を捨てて人間になった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「な、なんだって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはまた立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「あんたはよっぽど狐に縁があるみたいね、良くも悪くもね、別れては出会って……ふふ、ははは、お稲荷さんかよ、よりによって、今度は何を企む……何の復讐だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度は笑い始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「開発の理由は詳しく聞かなかったけど、復讐とか恨みとかじゃないみたい、ただ、亡くなった旦那さんの夢だったって……そう言っていた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「夢……何が夢よ、金にものを言わせて立ち退かせるだけじゃない、それに、この神社は彼等の住処じゃなかったのか、それを「夢」の一言で壊せるのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの表情を見て分った。かえでさんはまだ辻さんの事を……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんはまだ辻さんが自殺した責任を負うとしているの、もうとっくに解決したと思った、私が初めて稲荷ずしをこの神社に持って行った時に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は階段を降りる速度を上げた。かえでさんは私の後から速度を上げて離れないように付いてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私がこの神社にこだわるのは、浩子が亡くなったからじゃない……浩子が生きていても、私はこの神社を壊すのは反対する、おそらく浩子も反対すると思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうゆうこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは急に微笑みながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私達は幼少からこの神社でよく遊んだ、ふふ、狐とは一回も遇わなかったけどね、階段を登ったり、降りたり、当時はそれだけで楽しかった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　一人っ子の私からみたら、同じ歳の彼女は妹のように見えた……頂上から見える景色は……特に夕日は……今でも忘れられない、景観が悪いだって、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　とんでもない、あそこは私にとっては唯一無二の絶景なの……分るかしら、つかさにここの素晴らしさが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思い出した。初めてこの神社に来た時の事を。小さな森、木漏れ日……とても幻想的だった。あの時、時間を忘れてぼんやり眺めていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「夕日じゃないけど、木漏れ日に凄く魅かれる物を感じた……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それなら、私の気持ちも分るでしょ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もうそろそろ階段が終わろうとしていた。入り口の鳥居が見えてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「神社の件は話せばきっと分ってくれる、けいこさんは皆が賛成しないと実行しないって言っていたから……だからかえでさんは移転の事だけ考えて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「移転ね……あのホテルに立ち並ぶ歴々のレストラン、どう考えてもあのホテルの店と張り合える訳がない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんは一度店に来てる、あの時かえでさんは厨房にいたから知らないと思うけど、会計の時、美味しかったって……あの時の笑顔で思い出した、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　かえでさんには一応報告したけど……けいこさん、店の実力を知った上でテナントを貸してくれるって言ったと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「もし、移転が決まれば、今のようにゆったり構えたりなんか出来ない、覚悟は出来てるでしょうね、廻りの店と争うのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私は出来る事しか出来ない、でも、料理は優劣だけじゃ決まらないから……分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「優劣だけじゃない……つかさらしからぬ意味深長ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは興味ありげに私に近づいてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「以前、家族で外食した時なんだけど、まつりお姉ちゃんは美味しくないって、いのりお姉ちゃんは美味しいって言って言い合いになった事があって、同じ料理でも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　これだけ評価が違って不思議に思った、食材の好き嫌いも料理では大きいよね、味付けも、酸っぱいもの、辛いものも好き嫌いははっきりするよね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　見た目も関係するかも……結局答えはでなかったけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「万人に好まれる料理なんかないわ……感覚……味覚を満足させるのが料理なら、聴覚なら音楽、視覚なら絵画……芸術に近いものがあるかもね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　芸術は人によって千差万別、好みも人それぞれ、キリがないわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今まで通りでいいよ、変に構えるときっとつまずくと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「今まで通りか……今までの私達がどこまで行けるか、それも良いかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「明日は臨時休業、皆を集めてどうするか決めましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんの顔が明るくなった。こうでなくちゃダメだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　次の日、「レストランかえで」のスタッフ全員が集まり、けいこさんの計画の話をかえでさんがした。みんな活発な意見が交換された。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして……夕方頃に皆の意見が一致した。一つの答えが出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　日曜日、その日が来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私とかえでさんは会長室に居る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「どうですか、答えは決まりましたか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その言葉に一拍置いて答えようとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「答えは決まっています、しかし、私は貴女に聞かなければならない事があります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんが話し始めた。事前の打ち合わせではお稲荷さんと何度も話していて、慣れている私が先に話す事になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「何でしょうか、疑問点はこの際、ここで全て明らかにしましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはどうするつもりか分らない。私はただ黙って様子を見るしかなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「町の神社……なぜあの神社を壊さなければならない、あそこはわたしの幼少から思い出のある場所、それに少なからずとも森林が生い茂り、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　緑豊か、四季折々の綺麗な花々を咲かせてくれる、公園にする必要性が私には理解できない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この内容は私が話すはずだった。でも話を聞いてみると、感情がこもっている。本人が言った方が説得力あるよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……貴女は幼少からあの神社で遊んでいたのですか……幼馴染の辻浩子さんの面影を消したくないのではありませんか、そうつかささんから伺いましたが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「浩子は確かにあの神社で自殺した、それはもう私の中では解決した……それより柊さん、貴女は解決したのか、狐の頃の思い出は、住処に未練はないと言うのか、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　そこまでして、あの神社を壊す理由は何だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは一瞬目を閉じた。そして私の方を見た。私がけいこさんの正体を言って怒った……違う、彼女の顔は怒ってはいなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「良い目をしている、何かを守ろうとしている良い目です、この前に会った時とは比べ物になりませんね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「私の質問に答えて！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは声を張り上げた。けいこさんはかえでさんが落ち着くのを待ってから話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……つかささんから聞いたのですね、私は、貴女達がしっている狐と同じ一族でした……人間になったとは言え、その事実は変わりありません……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　私達の思考は人間のそれと大差ありません、笑い、怒り、悲しむ……いいえ、感情の起伏は人間よりも激しいかもしれません、つかささんなら分りますよね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　何の関係もない人を恨むことさえある……そんな私達ですが住処について私達は執着などありません……しかし、松本さん、貴女の目を見て分りました、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　あの神社は、あの山は貴女にとって信仰の対象であると……いいでしょう、神社はそのままに致しましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あっさりだった、かえでさんが少し感情的になっただけなのに、こうも簡単に開発を撤回してしまうなんて。それにけいこさんは他のお稲荷さんと違って</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情を表に出してこない。と言うよりまったく動じていなかった。かえでさんは何も言わずけいこさんをただ見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～神社を壊して公園にして、私達の住んでいた町をどうするつもりなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『パチン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは指を鳴らした。この前の時と同じ様に女性が飲み物を持ってきて私達の前に置いた。この指の音……そうだ、あの時と同じ、瀕死のたかしさんを見たひろしさんが</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
仲間を呼ぶ時に鳴らした音とそっくり。私は飲み物を持ってきた女性を見た。多分この人もお稲荷さんなのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは飲み物を取り一口飲むと、私とかえでさんをゆっくりと見ながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女達なら話しても良いでしょう、私の悲願……いいえ、私と竜太の夢……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・かえで「夢……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私達の一族と人間の共存……それが私達の夢、あの神社に仲間を呼び戻し、町の一部に住んでもらうつもりです……そして近いうちに私達の存在を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　公表し、人と同等の権利を主張する……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ば、ばかな……おとぎ話のような狐を人間が受け入れると本気でおもっているのか……百年前ならいざ知らず、このご時勢に……病院送りにされるのが落ちだわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは半分呆れ顔だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……私も只では受け入れてもらえるとは思っていません、見返りに私達の知識を全て公開します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ふふ、どんな知識か知らないけど、有史以前の知識なんてたかが知れている、私達の人間の暮らしぶりを見て分らないかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは目を閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私はホテル以外にも製造業も経営しています、そこで得た特許数は軽く千を超えています……それはその知識のほんの一部です、石器時代の人々に私達の知識を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　教えても魔法としか思わないでしょうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「で、でも、ひろしさんが言ってた、知識を教えると争ってしまうって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですね、何度もそんな事がありました……私達の知識は人が生きている限り、遅かれ早かれ人も研究して見つけるでしょう、教えた知識を使い滅びるようなら、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">人間はそれまでの種族です、同じ事です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
スケールが大きすぎてイメージできない。私はレストランが移動するだけの簡単な事だと思っていた。でも、人間とお稲荷さんが仲良くなれるならそれも良いかも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「松本さん、つかささん、私の夢の計画に協力してくれませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私は貴女の計画に興味ありません、ただ悪いことではないのは分ります、あの神社を壊さないのであれば私の店のメンバーで反対する人は一人もいません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店の皆は移転に全員賛成した。かえでさんだけが反対だった。今はもうかえでさんが反対する理由は一つも無くなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ありがとう……感謝します、まずは移転先を決めてもらいます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">また奥から女性が地図を持って来た。飲み物を片付けるとテーブルにその地図を広げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「私のホテルから選んで下さい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それは少し時間をくれませんか、場所についてはまだ意見が分かれています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「いけない、私としたことが……先走りすぎました、それでは同意書にサインを……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性は地図を片付け奥の部屋に入っていった。けいこさんは逸る気持ちが抑えられないみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「けいこさんはどうして人間になったの、旦那さんの為？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……それもあります、でも人間になったのはそれだけではなかった、私達に無くて人間にあるもの……私達がいくら知識を積んでも得られなかった……芸術……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　古今東西、私が見聞きした物……絵画、彫刻、音楽……そして貴方達の専門である料理……それが理由です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
でも……人間にならなくても……寿命が短くなったら芸術もあまり鑑賞できない気がする……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
奥の部屋から女性が書類を持ってきてかえでさんの前に置いた。かえでさんは書類を手に取り黙読しはじめた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは私の方を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささん、私の仲間を説得するのを手伝ってくれませんか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">突然だった。急に言われて最初はなんだか分らなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんの仲間……お稲荷さん……ひろしさんにまた逢えるかも知れない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「わ、私は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「生贄にされて、姉が呪われた、それでも貴女は生きている、少なくとも貴女は仲間の心の中から人間に対する憎しみを取ったのは確かです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はチラっとかえでさんを見た。かえでさんは書類に目を通したまま動かなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「百年近く会っていない私よりも貴女の方が適役かもしれません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何だろう、この胸の高鳴りは。「はい」と言いたい。だけど「いいえ」とも言わないといけないような。分らない。どうしよう。頭がグルグル回ってどうしていいか分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「これでいいですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは書類にサインをした。けいこさんは書類を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ありがとう、どうです、契約成立を祝ってこれから食事でもいかがですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「いいえ、まだ完全に決まっていません、これから移転場所をきめなければならないので、そのご好意はそれからで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑んだ。かえでさんは会長室を出て行った。私も立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささん、先ほどの話し、考えておいて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は軽く会釈だけしてかえでさんの後を追った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　かえでさんはエレベータを乗ってから一言も話していない。やっぱりけいこさんの誘いが影響しているのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「かえでさん……えっと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「お腹が空いたわね……この店、良さそうね……はいりましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私と話すのを避けるように店の中に入っていった……その店はあやちゃんの働く店だった。私はかえでさんの後を追った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店に入るとかえでさんは既に席に座りメニューを見ていた。私もかえでさんと同じテーブルの席に着いた。私はかえでさんをじっと見ていた。なんとなく話し難い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはメニューを置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「この店のインテリア……センス良いわね、移転先のインテリアもこんな感じがいいかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そ、そうですね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お決まりですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">聞き覚えのある声、あやちゃんが私達の目の前に立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「トーストとコーヒー」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは私の方を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、えっと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「メロンソーダですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、は、はい、それで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは私に微笑みかけると厨房の方に向かって行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「さっきの子……つかさの知り合いなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは透かさず厨房の方を見ながら聞いてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい……高校時代の友人です、日下部あやのさんと言って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「こんな所にもつかさの知り合い……凄いわね、まるでつかさが中心に世界が動いているよう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の話しに急に割り込んできた。私は話すのを止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「柊けいこさんの言う事が真実なら、これから私達の暮らし……うんん、世界観が一変するわよ、なにしろ私達が数百……数千年経たないと得られない</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
知識が手に入るのだから、そんな仕事が出来たなら、人類史に残る偉業かもしれないわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は何て言って良いのだろう。かえでさんはそんな私を笑いながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「そんなのはどうでも良いわね……つかさ……ひろしさんに逢いたいんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……別れたのは運命だと思ってた、でも、逢えるなら……逢いたい、でも……私は」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">目頭が熱くなってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「ば、ばか、こんな所で泣くやつがあるか、少しは場所を気にしなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは辺りを慌てて辺りを気にしだした。でも涙は急に止まりそうになかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「無理も無いわね、好き合った者同士が分れ離れなんて……よく今まで笑顔でやってこられたわね、それだけでも立派よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　涙が止まった頃、あやちゃんは私達が注文をした品を持って来た。かえでさんはコーヒーを口に含んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「今時珍しい機械を使わないで淹れているわね……こんな香りはうちの店ではだせないわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……ごめんなさい、泣いたりしちゃって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「気にしなくていいわよ、私も少し取り乱したわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はメロンジュースを飲んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「けいこさんの誘いの返事しはなかったわね、それは私が居たから出来なかったのかしら、会長室で何度も私を見ていたわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それは……私は副店長になったし、そんな簡単に別の仕事なんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この前の臨時会合の時、かえでさんの提案で副店長を選ぶ選挙も行われた、こなちゃんとかえでさんが私を推薦した。それで皆が賛成して私は正式に副店長になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「これから私はつかさスープの作り方、私の持てる技術の全てを教えるつもりでいた、でもね、副店長はつかさの人生まで縛るもじゃないわ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　つかさが本当にしたい事なら、私も皆も喜んで送るわ……お稲荷さんと人間の橋渡しはつかさが適任ね、友人や恋人まで作るのだから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……はっきり言うと、ひろしさんに逢いたい、ただそれだけ、だから知識が云々とかそうゆう難しいことなんか全く分らない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　きっと足手まといになるだけ……それより、かえでさんは私が本当に店を離れていいと思ってるの……そうだよね、失敗もいっぱいしてるし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「い、いや、離れて欲しくない、だから副店長にまでになったじゃない……あの会長のしようとしている事はスケールが大きすぎる、つかさはもうその</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　計画の中に足を突っ込んでいる、つかさがそれを望むと望まないは関係ない……それにね、会長の計画を手伝えるのは、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　人間ではつかさしか居ない……ふふ、会長のけいこさんは最初からつかさが目当てだったのかもしれないわね、そんな気がしたわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">本当は店でずっと働いてって言って欲しかった。そうすれば私は悩まなくて済んだのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……ひろしさんやお姉ちゃんの言うほど強くない……どっちか選べって言われても……そんなの決められないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうね……難しい選択ね、会長さんの計画は全て聞いた訳じゃないけど、きっと一年、二年で出来るようなものじゃないと思う、考える時間はまだあるわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは財布からお金を出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「これで払っておいて、今日は私の奢りよ、今日も帰りは実家に戻るのでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……ごちそうさま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「さてと、私は帰って仕込みがあるから、先に帰るわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは店を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暫くするとあやちゃんが心配そうな顔でこっちに来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「かなり深刻そうな話をしていたみたいだけど……あの方は誰なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私の上司、松本かえでさん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやちゃんは思い出したようにビックリした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「もしかして「レストランかえで」の店長さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「……松本かえでって言ったら最近雑誌とかで話題になっている……取材拒否する頑固者でも有名……そんな人と……大丈夫、厳しくないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">更に心配そうな顔をしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「厳しいと言えば厳しいけど……優しい所もあるし、お姉ちゃんみたいだと思ってる……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">笑顔で話すとあやちゃんはホッとして笑顔に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あやの「最近このホテルの何処かに新しいレストランが移転するって噂があったけど、まさかひいちゃんのレストランだとは思わなかった……どんな仕事してるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「デザート担当……この前副店長になっちゃった、こなちゃんもホール長になった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「わぁ～すごい、すごい、二人とも大出世じゃない、今度お祝いしなきゃ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分の事の様に喜んでくれている。だけど、今はそんなに嬉しくなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう……お会計……ここで済ませちゃっていいかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あやの「はい、かしこまりました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はあやちゃんにお金を渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あやちゃんのお店を出た私は実家に向かった。今度は私が家に帰るのは皆知っている。と言うより、お姉ちゃんの方から来るように言われた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
きっとお姉ちゃんの恋人についての話があるに違いない。わざわざ家に呼ぶのだから、もしかしたら結婚まで考えているのかも。そこまでじゃなくても、家族に紹介くらいは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
するよね。お姉ちゃんが結婚するならあやちゃんの次になる。そういえばまつりお姉ちゃんも恋人が出来たって言っていた……どうなったのかな。いのりお姉ちゃんは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな話は全く聞かない。もうそろそろ考えないといけないよね……なんて人の事考えてもしょうがない。私の恋人は……今度会ったら、もう別れるなんて言わない。言わせない。ダメダメ！……もう考えないって決めたのに……どうして……けいこさんのせいで……わぁ、私ったら、思い出したのを人のせいにしちゃってる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうしたらこの気持ちを抑えられるのか分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　悶々を堂々巡りの想い……気が付くと実家の玄関前に立っていた。ドアを開けると居間から笑い声が聞こえてきた。みんな居るみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
さらに笑い声が強まってきた。話しに夢中で私に気が付かないみたいだった。私はそのまま居間に向かった。居間のドアを開けると笑い声が止まり皆私を注目した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「おかえり、遅かったわね……先に始めちゃったわよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんの隣に男の人が座っていた。この前見た男の人……お姉ちゃんの恋人。目が合った。私は会釈すると彼も会釈した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「紹介するわ、彼女が私の妹、つかさ……彼は、私の先輩で、小林ひとしさん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつり「まったくいつの間にこんな人を見つけるなんて、つかさ、小林さんは司法試験合格したって、かがみは何時になるのやら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
小林さんって言うのか……さっきの笑いは小林さんと話していた時の笑い声だった。もう家族と打ち解けているみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はじめまして、つかさです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ひとし「はじめまして……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「つかさ、突っ立っていないでこっちに来て座りなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はまつりお姉ちゃんの隣に座った。すると皆はお姉ちゃんと小林さんに顔を向けた。私もそれに釣られるように二人を見た。急に二人の顔が赤くなっていくのが分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり「どうしたの、さっきの様に言いなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのりお姉ちゃんはにやけながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
二人はチラチラと目線を合わせながら、タイミングをうかがっているみたいだった。お父さんとお母さんは笑いをこらえている。そして……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「わ、私達……け、結婚することにした……から……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
呂律が回っていない。こんなお姉ちゃんを見るのは初めてだった。でも言っている意味は、はっきりと分った。今までもやもやしていた心に光が射してきた様な感じになった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おめでとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんはそのまま感極まったのか、涙をこぼして泣き始めた。私がひろしさんから告白を受けた時を思い出した。あの時の私と同じ心境なのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「どうしたの、さっきはそんなにならなかったじゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「だ、だって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
更に泣き方が激しくなった。小林さんがお姉ちゃんの肩を抱き寄せて慰めた……同じだ……あの時と……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり「それで、式はいつにするの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは話せそうにない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ひとし「かがみさんが卒業してからと考えています。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しっかりとした口調ではっきりとそういった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただお「それが良いかもしれない……」　</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
小林さんは優しくてユーモアがあって知的で……お姉ちゃんにぴったりの人かもしれない。もう皆も家族の一員みたいに話している。私も兄として見る事ができそう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
短い時間だったけどお姉ちゃんの恋人……婚約者の人柄が分った。小林さんは法律事務所に入り何れは独立すると言っていた。お姉ちゃんも卒業すれば同じ事務所で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
働く事になる。私とかえでさんみたいに上司と部下の関係、私とかえでさんは友達として、お姉ちゃん達は夫婦として……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小林さんと私達家族の会合は和やかのうちに、あっと言う間に終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
夕方、小林さんを送ると、お姉ちゃんは私も送ってくれた。小林さんは先発の電車で帰って行った。ホームで私達は電車を待っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「泊まっていけばよかったのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「明日も仕事あるし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「残念ね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
短い会話で途切れてしまった。私は時刻表を見て次に来る電車の時刻を確認した。まだ電車がくるには時間はある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「さっきはごめん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぼそっとした声だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ごめんって、何か謝る様な事したっけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「泣いてしまったでしょ、私ったら、どうしようもないわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「自然に出てきたのでしょ、分るよその気持ち……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「分るって……分るのか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し驚いた感じで聞き返してきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさんが告白した時の私と同じように見えたから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「お互いに愛し合っているのに別れるのは悲劇以外なにものでもないわ、私なら一緒になる方法を探すわよ、つかさはこのままでいいの、彼だってあと何十年、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　いや、何千年先、後悔をするかもしれない、私は例え狐でも、お稲荷さんでもお互いが愛し合っていれば一緒になるのは構わないと思っているわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その方法、あるかもしれない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「あるかもしれないなら試しなさいよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">即答だった。お姉ちゃんは真剣な眼差しで私を見ていた。私は何も言えなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「話を聞きたいわ、駅を降りて少し散歩でもどう、次の電車でも間に合うわよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
恋愛の話しは全くしなかったのに。今までのお姉ちゃんとは違う。恋をすると、愛するとこんなに変わっちゃうのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　駅を降りるとお姉ちゃんは神社の方に向かって歩き出した。私はその後を付いて行った。そこでお姉ちゃんは隠している事はないのかと問い質してきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その熱意に負けて私は話した。店の移転の事、柊けいこさんの事……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「柊けいこ……知っているわよ、私の大学のスポンサー、何度か大学に来て特別講義を受けたことがあるわ……あの人が、お稲荷さんだって……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　確かにそう言われてみれば、講義の時、なんとも言えない、引き込まれるような魅力があった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。お姉ちゃんは空を仰いだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「つかさは本当にお稲荷さんに縁があるわね……そもそも神社の娘に生まれてきたのも何かの運命かもしれないわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんも似たような事言ってた、そう言うお姉ちゃんだって、関係しているかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「私は呪われただけよ、私達家族も一つ間違えればお父さんやお母さん、姉さん達だって危なかった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは天を仰いだまま暫くゆっくり歩いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさは松本さんに義理を感じている、違う？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
義理、私はかえでさんに誘われてあの町に移り住んだ。そこでいろいろ教わった。誘われる前で働いていた所では得られない物がたくさんある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんには教えてもらってばかりで、ドジばっかりして……これからかえでさんに恩返ししないといけない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「それが義理って言うのよ……松本さんも内心は柊けいこの手伝いにつかさを行かせたくないはずよ、副店長ですって、凄いわよ、そこまでの人を簡単に手放したくない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
神社に行く途中にある公園を横切ろうとしていた。お姉ちゃんは公園の中に入りベンチに腰を下ろした。私も隣に座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「でもね、私がつかさなら……柊けいこさんの方に行っていたかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ほ、本当に？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は身を乗り出して聞き返した。お姉ちゃんは驚いて腰を引き私から離れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「いや、つかさの今の仕事が下って言っている訳じゃないぞ、少なくとも美味しい料理を作るなんて私にはできないのだから……現に料理でつかさは何人も幸せにしている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いいから、理由を聞かせて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は更に詰め寄った。聞いてみたかった。お姉ちゃんの考えを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「二つの仕事なんか比べちゃダメよ、私なら好きな人に逢いたいと思うだけ、目的が果たせたら元に戻ればいいでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「元に戻れるかな……一度出ちゃったら、かえでさん怒っちゃって戻れないかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「それはつかさと松本さんの問題ね、私はどうすることも出来ないわ……ゴメン、何の助言にもなっていなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、やっぱり最後は私が決めなきゃいけない事だし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「私もね、つかさが家を出る時、笑って見送ったけど、時間が経つに連れて松本さんに恨みを持つようになった、それが呪われる隙を作ったのかもしれない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　人の心って変わっちゃうもの、松本さんが柊けいこさんの誘いに賛成したとしても、それはその時の考えに過ぎないわ、時間が経つと柊けいこさんを恨んでしまうかも、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　　　　もしかしたら、つかさ自身も恨まれるかもしれない、特に、つかさが大活躍なんかしたらね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それって、焼餅を焼くって意味？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「そうね、嫉妬かもしれない……こうしてみると、私達もお稲荷さんとさほど変わらないわね……ふぅ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは深く溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「とりあえず「ガンバレ」としか言えないわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も立ち上がった。そろそろ駅に戻らないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「お礼を言うのは私の方よ……相手に自分の意志を伝える……こんなに重要だとは思わなかった、彼と婚約できたのはつかさのおかげ……ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「告白……したんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは頷いた。そして、顔が赤くなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そして……新たに生まれる命の為に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんはお片手をお腹に当てた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……もしかして、赤ちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……そう、これは私とひとしとお母さんしか知らない……さすがにお母さんにはバレたわ……隠すつもりはなかったけど、やっぱり話すのは恥かしいわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの泣いた本当の意味が今、分ったような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「予定日はいつなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……卒業してからになるわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃここで別れようよ、体に障るよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「大丈夫よ、駅まで送るわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それと……こなちゃんにはどこまで話していい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんは駅に向かって歩き始めた。私も並んで歩いた。お姉ちゃんは少し考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「全て話して良いわよ、中途半端に話しても面倒なだけだわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんの驚く顔が目に浮かんじゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ふふ……その他は私から話すわ、明日は日下部と会うし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どっちの日下部さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……あ、そうだった、みさおの方よ……まったく、紛らわしいったらありゃしないわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　駅に着くと丁度電車が来た、そして電車のドアが閉まる直前にお姉ちゃんに言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おめでとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
妊娠はまだ祝っていなかったから。お姉ちゃんはにっこりと微笑んで手を振った。ドアが閉まる。そして電車は駅を離れた。お姉ちゃんは直ぐに見えなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この電車だと町に着くのは最終電車の深夜になる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　目的の駅に着くまで私は考えていた。このままの仕事を続けるか、けいこさんの仕事を手伝うのか……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんのよくやるシュミレーションゲームみたいなものかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このままだと私はかえでさんから料理の技術を教えてもらって……いつになるかは分らないけど……かえでさんと同じ料理を作ることができるようになる。そうなれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店長になれるかもしれない……でも、今の仕事でいっぱい、いっぱい、とても他の仕事まで手が回らない、大きなミスをしてしまうかも……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんの仕事……人間とお稲荷さんと共に暮らすためのお手伝い……何をすれば良いのだろう……全く想像すら出来ない。料理ならなんとか今まで働けたけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんと二年も会っていない。もしかしたら私の事なんか好きじゃなくなっているかもしれない。今更会って……一緒に暮らそうなんて言ったってダメだよね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな事が出来るならあの時出来ているよね……やっぱりどう考えてもこのままかえでさんと仕事をした方が良いに決まっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の中では結論が出てしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事がない。もう寝ちゃったかな。でも居間の方から明りが漏れている。私は居間に入った。するとこなちゃんが椅子に座っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「まだ起きていたの、寝ちゃって良かったのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはテレビの電源を消した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「遅くなるのは知っていた、でもそれは契約のためじゃないでしょ、私が店を出るとき松本さんが店に来たからね、つかさ、家に寄っていたでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは人差し指を立てながら話した。私が驚く顔をすると透かさず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみが婚約したとか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は更に驚いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、ど、どうしてそれを知っているの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">既にこなちゃんはお姉ちゃんと話していたのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「図星だったみたいだね、そんな感じはしていたんだ、大学を卒業した辺りからかがみの様子が少し違っていたのに気が付いていたからね……かがみも結婚しちゃうのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
少し悲しい顔をしたような気がした。確かに結婚すれば今まで通りの付き合いは出来ないかもしれない。でもそれは私も同じ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんなに悲しい顔をしないで、おめでたい事なんだから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだね、ところでみゆきさんは知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「分らない、だけどお姉ちゃんから直接話すと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それが良いかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは台所に向かうとやかんに水を入れてお湯を沸かし始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはお姉ちゃんの婚約を薄々感じていた。やっぱりけいこさんの正体を隠し切れないかも。このままだと私、うっかり話しちゃうかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それなら今のうちに打ち明けた方が良いのかもしらない。だけどこなちゃんはお稲荷さんをあまり良く思っていないみたいだし、話したら、店の移転に反対しちゃうかも……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私って……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かも、かも、でも、かも……私って悪い方、悪い方、に考えちゃう。私はこなちゃんにまなちゃんやひろしさんの話をした。けいこさんの事だけ内緒にしたって意味はないよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
反対されてもそれはそれ、移転しから分ったらそれこそ「なんで黙っていたの」って怒られる。それなら今話してすっきりした方がスッキリするよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピー』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が決断をした時、丁度やかんのお湯が沸いた。こなちゃんはお湯をポットに入れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、私……お店の移転でまだ話していない事があるの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは紅茶を淹れながら話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なに、改まっちゃって？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっと、会長さん、柊けいこさんの事なんだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……柊けいこ、会長さん、実はお稲荷さんって言うんじゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は固まった。何もその先から話せなくなった。こなちゃんは紅茶の入ったカップを私の目の前に置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「やっぱり、この前の休日ね、みゆきさんと会ってもっと詳しく調べさせてもらったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはノートパソコンを取り出し開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「凄すぎるんだよ、会社を幾つも経営していて、特許取得が千以上、しかも前会長が亡くなってからだよ、とても人間技じゃないよ、その特許と言うのが</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　どれもオリジナルらしいんだ、なんかピンと来たよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはパソコンを見ながら話した。私は深呼吸をして落ち着いてから話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんは、お稲荷さんが嫌いだと思ったから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはノートパソコンを閉じて私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみとつかさを殺そうとした連中だよ、嫌いにもなるよ……でもね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でもね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は聞き返した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「この会長は別かな、収益を慈善団体に寄付していて、美術館、学校、病院、にも寄付している、かがみとみゆきさんの大学にもね、特に芸術関係には熱心みたいだね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　少なくとも私達、人間には敵対していない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「敵対なんかしていないよ、けいこさんは、人間になったから、だから人間と結婚をして……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ど、どういう事なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは身を乗り出した。私は知っている事全てをこなちゃんに話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「長寿と引き換えに人間に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふ～ん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは感心したようにうなずいていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それで、つかさは会長さんの企画に参加するの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その答えをまだ決めていなかった。私は何も言えずにいた。こなちゃんはお茶を一口含んでから話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お稲荷さんの知識が云々なんか抜きにして、つかさはひろしってお稲荷さんが好きなんでしょ、そしてそのひろしって人もつかさが好き……片思いなら諦めもつくけど、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　悩むことなんかないじゃん、私がつかさなら即断だね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の話しに割り込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「でもって何、何を悩むの、今の仕事を辞めるのが惜しいの、つかさの今やってる事はいつでも出来るよ、でもね、会長さんのやろうとしている事は今しかできない</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　　　　つかさだって会いたいでしょ、それだけで充分だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今しか……出来ない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお茶を飲み終わるとノートパソコンを持って立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「私、明日は早番だから、もう寝るね、つかさは遅番だからゆっくりして」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は飲みかけのお茶を一口飲んだ。もうすっかり冷えてしまっていた。こなちゃんは居間を出ようとすると立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさは凄いよ、一度でもつかさを憎んでいた人を好きになれるなんて、だから相手も好きになれたんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、それはまなちゃんが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……そうだね、真奈美さんがつかさを殺していたら今はなかったよね、その真奈美さんの為にも会長さんと一緒に行動した方がいいと思うよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは大あくびをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよ、つかさは高校時代とは比較にならないくらいに成長したよ、こんな話をつかさとするなんて……おやすみ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おやすみ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「あ、そうそう、店の移転先の候補が幾つか上がっているよ、つかさの部屋に置いておいたから目を通しておいて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは居間を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　お稲荷さんと人間がもっと仲良くできれば私とひろしさんが別れている理由はなくなる。そうなればまた会えたり、デートしたり、食事をしたり……結婚だって……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな事、出来るのかな。じゃなくてしたい。うんん、しなきゃダメだよ。こなちゃんの言うようにまなちゃんの為にも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かに今じゃないと出来ない事かもしれない。料理はこれからいくらでも……かえでさんも私がけいこさんの手伝いをしても良いって言ってくれたし。お姉ちゃんも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんか方向性が見えてきたかも……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
時計を見ると日が変わっていた。いくら遅番といっても、もう休んだ方が良いね。自分の部屋に着替えに行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　机の上に紙が置いてあった。こなちゃんの言っていた店の移転先候補かな。紙を取って見た。そこにはいくつかの候補地が書いてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みんなここから遠くの場所ばかり……東京の本店は候補になっていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
都会のゴミゴミしている所よりもこの町みたいな所の方が働き易いのかな……それも良いね。あやちゃんには悪いけど本店は私も候補地から外すね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大きな欠伸が出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さて……お風呂入って寝よう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　二週間後、私は一人で電車に乗っていた。けいこさんの計画の返事をしに行くのと、候補地が決まったのでそれもついでに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは旅館の女将さんと移転について話すので出席しない。もともと旅館は温泉が出るから始めたって女将さんが言っていた。旅館は移転には参加しないみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして旅館は日帰り温泉になる。そして女将さんは温泉の番頭さんに。ちょっと寂しくなるかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
多分かえでさんは女将さんに一緒に来てもらうように説得するために残った。そんな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さて、私もけいこさんとの交渉……頑張らなくちゃ！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　これで会長室に入るのは三度目になる。いつものようにノックをして会長室に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ドアを開けると突然ピアノの音が耳に飛び込んできた。音のする方を見るとピアノにけいこさんが座り、静かにピアノを弾いていた。音がしないようにゆっくりとドアをしめた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そしてゆっくりとピアノの前に移動した。けいこさんは目を閉じて弾いている。とても声を掛けられるような状態じゃない。それより……弾いている曲を聴こう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
曲名は分らない。ゆったりとしたリズム、静かに弾いている……何だろう、とても悲しい感じがする。悲しい……だけどとても優しくも感じる……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
幻想的な曲だった。最初のフレーズが繰り返されると、終盤はちょっと激しく鍵盤を叩きつけて……まるで何かを断ち切ろうとしているみたいだった。</div>
<p> </p>
<p> </p>
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