ID:+ksuBndAO氏:蕎麦の謎解き

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お姉ちゃんの家に遊びに行った時、柊つかさ先輩から突然批評を依頼されてしまった。 「…どういう意味ですか?批評って何を批評するんです?」 「うん、お蕎麦なんだ。ゆきちゃんに聞いたんだけど、みなみちゃんお蕎麦好きなんでしょ?」 確かにお蕎麦は好きだけど、通という訳じゃない。 批評なんてできるほどの舌を持ってないし、人によっては『下品』なカケの類も平気な人間だ。 「実はね、専門学校でお蕎麦作ったんだけど」 「…料理の専門学校って、お蕎麦も作るんですか?」 「正確には課題は『麺類』だったんだけど…グループでやる課題だから、同じグループの子が『目立つように』ってお蕎麦にしちゃって」 しかもわざわざ手打ち蕎麦にしたとか。さすがにつなぎを使った二八蕎麦らしいが、講師は食べる前に 「作り直し」 と宣告した。 食べもしないで、とグループの人達は抗議の声を上げたらしいが、逆に講師は溜め息をついたとかなんとか。そして 「…違う麺類にして作る事。それと、なんでこれが駄目なのかの理由をレポートで提出しなさい。コレが駄目な理由がわからないようなら、問題ありだからね」 と言ったらしい。 …問題ありとは随分な話だなぁと思う。 「…それで私に?」 「うん、ゆきちゃんにも訊いたんだけど」 「料理については私よりつかささんや泉さんの方が詳しいですから、つかささんがわからない事に気づける自信がないんです。それでみなみちゃんがお蕎麦が好きだと伝えたんです。好きな人なら何かわかるのではないかと」 「お蕎麦は好きだけど、わかるかどうかはちょっと」 「なんでも良いの。お願い、手伝ってくれないかな」 …そこまで言われたら仕方がない。協力するしかないかな。 「わかりました。…その、お蕎麦って今ありますか?」 「ありがとう!ゆきちゃんに試食してもらうために持ってきてあるから、今から作るね。お台所借りていい?」 「どうぞ。勝手はわかりますか?」 「大丈夫だよ」 …でも見ただけでわかる食べない理由、何だろう? 掛け蕎麦で『下品』と思ったから?…いや、さすがに料理学校の講師がそれはないと思う。たぶんだけど。 手打ち蕎麦がボロボロだったとか…はない。二八と言ってたし、そもそもそれならつかささん達にもわかる。 となると、やっぱりアレかな。   『蕎麦の香りが死んでいた』 蕎麦を選んで食べる理由の一つは、蕎麦の香りを楽しむためだ。 その香りがしないものを出されて、しかも理由がわからないと言われたのなら、講師の溜め息も納得がいく。 …でも食べないでわかるだろうか………いや、わかる。見るだけで香りが死んでいるとわかる方法がある。 好きなだけの私が知っているのだから、講師なら尚更だ。 あれ、でも手打ち蕎麦って言っていたけど…うん…あり得るけど…。 「出来たよ、これがその時の盛り蕎麦と花巻蕎麦だよ」 ………うわぁ………予想した通りだった。これは講師さんの反応も納得だ。 「みなみさん?もしかしてわかったんですか?」 「…うん。つかさ先輩、確認したいのですが、お蕎麦の色はあの時もこの色だったんですね?」 「う、うん。こういう色だったけど…え、色のせいだったの?」 「違います。色でわかったんです、このお蕎麦は香りが死んでいると」 「ちょっと一口もらいます。…確かに、お蕎麦の香りがしませんね」 「ホントだ。私てっきりダシ汁に問題があるのかと思ってたのに」 「味見しなかったんですか?」 「おつゆしかしてなかったんだ、手打ちって言ってたから…」 「手打ちなのは本当だと思います。けど…出来立てじゃなくて、何日か経っている、もしくはそば粉が古いんです」 だから変色していた。下手に『手打ち』を売りにしているまずいお蕎麦屋にありがちな色になっている。 どんなに保存に気を使っていようと、劣化は避けられない。 蕎麦も『鮮度が命』なんだ。 それがわからずに抗議されては、講師の人も呆れただろう。 『手打ちだから』無条件に美味しいわけじゃない。こんな蕎麦なんかより、機械打ちを出された方がまだ評価するだろう。 「そういえば、市河米庵という蕎麦通の江戸時代の書家が言ってましたね。蕎麦のうまさは鮮度にある、と」 「そうなの?」 「その人の事は知りませんが…こういう色のお蕎麦を何度か食べたことがあるんです。それがどうにも気になって、別の美味しいお店の人に訊いたんです。ああいう色の蕎麦はどうして不味いのでしょう?って」 「お店の人が教えて下さったんですか?」 「うぅん。近くで聞いていた他のお客さんが教えてくれた」 親切な人だった。お礼にその人のお金は払うと申し出たのだが、さすがに年下の女性に奢ってもらうわけにはいかないと断られた。   「親切な方もいるんですね」 「うん…」 「ならその内容をレポートに書いて提出するよ。ありがとう二人とも、お礼に今度何か作って持ってくるね。何がいい?」 …何か、か。 …ならやっぱりここは。 「…お蕎麦でお願いします」 END 「…ところでこのお蕎麦はどうします?」 「…えーと、一応食べない?」 「でもなんで花巻蕎麦なんです?」 「えっと、海苔が好きな子がいるから」 今度こそEND
お姉ちゃんの家に遊びに行った時、柊つかさ先輩から突然批評を依頼されてしまった。 「…どういう意味ですか?批評って何を批評するんです?」 「うん、お蕎麦なんだ。ゆきちゃんに聞いたんだけど、みなみちゃんお蕎麦好きなんでしょ?」 確かにお蕎麦は好きだけど、通という訳じゃない。 批評なんてできるほどの舌を持ってないし、人によっては『下品』なカケの類も平気な人間だ。 「実はね、専門学校でお蕎麦作ったんだけど」 「…料理の専門学校って、お蕎麦も作るんですか?」 「正確には課題は『麺類』だったんだけど…グループでやる課題だから、同じグループの子が『目立つように』ってお蕎麦にしちゃって」 しかもわざわざ手打ち蕎麦にしたとか。さすがにつなぎを使った二八蕎麦らしいが、講師は食べる前に 「作り直し」 と宣告した。 食べもしないで、とグループの人達は抗議の声を上げたらしいが、逆に講師は溜め息をついたとかなんとか。そして 「…違う麺類にして作る事。それと、なんでこれが駄目なのかの理由をレポートで提出しなさい。コレが駄目な理由がわからないようなら、問題ありだからね」 と言ったらしい。 …問題ありとは随分な話だなぁと思う。 「…それで私に?」 「うん、ゆきちゃんにも訊いたんだけど」 「料理については私よりつかささんや泉さんの方が詳しいですから、つかささんがわからない事に気づける自信がないんです。それでみなみちゃんがお蕎麦が好きだと伝えたんです。好きな人なら何かわかるのではないかと」 「お蕎麦は好きだけど、わかるかどうかはちょっと」 「なんでも良いの。お願い、手伝ってくれないかな」 …そこまで言われたら仕方がない。協力するしかないかな。 「わかりました。…その、お蕎麦って今ありますか?」 「ありがとう!ゆきちゃんに試食してもらうために持ってきてあるから、今から作るね。お台所借りていい?」 「どうぞ。勝手はわかりますか?」 「大丈夫だよ」 …でも見ただけでわかる食べない理由、何だろう? 掛け蕎麦で『下品』と思ったから?…いや、さすがに料理学校の講師がそれはないと思う。たぶんだけど。 手打ち蕎麦がボロボロだったとか…はない。二八と言ってたし、そもそもそれならつかささん達にもわかる。 となると、やっぱりアレかな。   『蕎麦の香りが死んでいた』 蕎麦を選んで食べる理由の一つは、蕎麦の香りを楽しむためだ。 その香りがしないものを出されて、しかも理由がわからないと言われたのなら、講師の溜め息も納得がいく。 …でも食べないでわかるだろうか………いや、わかる。見るだけで香りが死んでいるとわかる方法がある。 好きなだけの私が知っているのだから、講師なら尚更だ。 あれ、でも手打ち蕎麦って言っていたけど…うん…あり得るけど…。 「出来たよ、これがその時の盛り蕎麦と花巻蕎麦だよ」 ………うわぁ………予想した通りだった。これは講師さんの反応も納得だ。 「みなみさん?もしかしてわかったんですか?」 「…うん。つかさ先輩、確認したいのですが、お蕎麦の色はあの時もこの色だったんですね?」 「う、うん。こういう色だったけど…え、色のせいだったの?」 「違います。色でわかったんです、このお蕎麦は香りが死んでいると」 「ちょっと一口もらいます。…確かに、お蕎麦の香りがしませんね」 「ホントだ。私てっきりダシ汁に問題があるのかと思ってたのに」 「味見しなかったんですか?」 「おつゆしかしてなかったんだ、手打ちって言ってたから…」 「手打ちなのは本当だと思います。けど…出来立てじゃなくて、何日か経っている、もしくはそば粉が古いんです」 だから変色していた。下手に『手打ち』を売りにしているまずいお蕎麦屋にありがちな色になっている。 どんなに保存に気を使っていようと、劣化は避けられない。 蕎麦も『鮮度が命』なんだ。 それがわからずに抗議されては、講師の人も呆れただろう。 『手打ちだから』無条件に美味しいわけじゃない。こんな蕎麦なんかより、機械打ちを出された方がまだ評価するだろう。 「そういえば、市河米庵という蕎麦通の江戸時代の書家が言ってましたね。蕎麦のうまさは鮮度にある、と」 「そうなの?」 「その人の事は知りませんが…こういう色のお蕎麦を何度か食べたことがあるんです。それがどうにも気になって、別の美味しいお店の人に訊いたんです。ああいう色の蕎麦はどうして不味いのでしょう?って」 「お店の人が教えて下さったんですか?」 「うぅん。近くで聞いていた他のお客さんが教えてくれた」 親切な人だった。お礼にその人のお金は払うと申し出たのだが、さすがに年下の女性に奢ってもらうわけにはいかないと断られた。   「親切な方もいるんですね」 「うん…」 「ならその内容をレポートに書いて提出するよ。ありがとう二人とも、お礼に今度何か作って持ってくるね。何がいい?」 …何か、か。 …ならやっぱりここは。 「…お蕎麦でお願いします」 END 「…ところでこのお蕎麦はどうします?」 「…えーと、一応食べない?」 「でもなんで花巻蕎麦なんです?」 「えっと、海苔が好きな子がいるから」 今度こそEND **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)

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