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駅でのワンシーン×6+1
電車の扉が開き、彼女はホームに降り立った。
両手には、アキバで買い込んだブツが詰まった紙袋がいくつも握られていた。
初回限定版、各店の購入特典付きということで、いつもどおり、アキバの三店舗を制覇し、閲覧用・保存用・布教用を確保したというわけだ。
両手がふさがった状態でも器用に改札を通る。
彼女のトレードマークでもあるアホ毛も、意気揚々とゆれていた。
今日は三店舗ともわりかしスムーズにいった。幸先がいい。
今日が締め切りの原稿も調子よく書けそうな予感がした。
慣れた動きでスムーズに改札を通り駅を出た彼女は、スーツに身を包み、長い髪を後ろで一本に束ねていた。釣り目の美人な顔立ちは、すれ違う人々の目を引くには充分すぎた。
さながらやり手の美人弁護士といったところだが、実際、彼女は弁護士だ。
これから、依頼人ともめているある会社の顧問弁護士とサシで交渉だった。
相手の弁護士は、この分野ではかなりのやり手。気合を入れていかねばならない。
交渉は妥協の道を探る手順であるが、安易な妥協は依頼人の利益を損ねることになる。そのあたりを見極める眼力は、結局のところ経験をつむことによってしか得られない。
場数をこなしてきた自負はある。
もちろん、この仕事に対するプライドも。
がらんとした車内に、次の停車駅を告げるアナウンスが流れた。
驚いたように目を覚ました彼女は、慌ててあたりをキョロキョロと見回した。
次は、降りなきゃならない駅だ。危うく乗り過ごすところだった。
ホームに降り立った彼女は、たくさんの買い物袋を手にしていた。中には数々の食材が詰まっている。
ちょっとした日常の料理の材料なら近所で間に合うが、本格的な食材を手に入れようとすれば、どうしても遠出しなければならない。
今日は双子の娘の誕生会だ。夫も早く帰ってくる予定。
彼女は、料理専門学校で鍛え上げた腕前を存分に振るうつもりだった。
だがその前に、両手の買い物袋がつっかえて、改札を通るのに四苦八苦していた。
早朝、始発の電車が来る前の駅は暗く閑散としていた。
夜勤明けの彼女は、帰宅すべく駅のホームで電車を待っていた。
小さくあくびが出た。
今日は珍しく急患も少なく、仮眠もそれなりにとれたが、それでもやはり眠い。
帰ったら朝食の準備をしなければならないだろう。最近いろいろなことを自分でできるようになった一人娘が用意してるかもしれないけれども。
母は最近どうにも寝起きが悪かった。物忘れも多くなっているような気がする。もとより少々ボケたところがある人だから、医師の目をもってしても、それが認知症の進行なのかどうかは見極めが難しかった。本格的な検査を受けるようにすすめた方がいいのかどうか。
電車がホームにすべりこんできた。
停車し、扉が開く。
彼女は、ゆっくりと電車に乗り込んだ。
新幹線の発車を告げるアナウンスがホームに響き渡った。
乗車口で一組の夫婦が短く言葉をかわし、そして軽く口付けをかわした。
扉が閉まり、二人の間を分かつ。
ゆっくりと動き出した車両が見えなくなるまで、彼女はずっと見送っていた。
夫が単身赴任先に戻っていった。またしばらくは会えない。
家には近頃はすっかり手がかからなくなった娘がいるのだが、それでも夫に会えないのは寂しい。
そんなことをいうと、義妹でもある親友にからかわれちゃうんだけど。
駅前、ジャージに身を包みスポーツバッグを手に持った高校生の集団があった。
その集団の引率らしき彼女は、今日行なわれた陸上大会での成果について適当にほめたあと、気をつけて帰るように言って、解散を宣言した。
高校生たちは、わらわらと駅に向かい、各自の家に向かうべき切符を買って、それぞれの電車に乗り込んでいった。結構いろんなところから生徒が集まっている高校なため、帰る方向はみんなバラバラだ。
彼女は、それをすべて見届けてから、自分も切符を買い、電車に乗り込んだ。
母校の体育教師になって、古巣の陸上部の顧問をやってる。
そんなもんだから、生徒たちを見てるとついつい自分の高校時代のことを思い出してしまう。
そういえば、あいつらともここしばらく会ってない。学校が夏休みの間に休暇をとって、みんなでどっかに遊びに行きたい。
行き先は、みんなにまかせれば適当に決まるだろう。
とある駅前。
「あっ、ゆきちゃん。こっちこっち」
みゆきが足早にみんなのところにやって来た。
「すみません、みなさん。遅れてしまいまして」
「約束の時間の一分前だから、全然気にすることないわよ、みゆき」
「高良ちゃん。もしかして夜勤明け?」
「ええ、今日はちょっとやっかいな急患がありまして。結局残業になってしまいまして」
「ゆきちゃん。お仕事、大変なんだね」
かがみが腕時計を確認してから、携帯電話を手にとった。慣れた手つきで電話帳から番号を呼び出す。
「ちょっと、あんた。今どこいるの!? こっち向かってる? 二十分後ね。言い訳はあとで聞くから、さっさと来なさい!」
「こなちゃん、どこいるの?」
「こっちに向かってる途中だって。みゆきが来るときぐらい、時間どおりに来いっつーの。みさおだってちゃんと来てるのに」
「柊ぃ~、それどういう意味だよぉ~」
みさおがむくれ顔をする。
「まあまあ、みさちゃん」
そして、待つことしばし。
「やふー、みなの衆」
「それが遅れてきたやつの態度か!」
「ツッコミの切れ味は鈍ってないね、かがみん」
「なんで遅れてきたのよ?」
「いやぁ、ネトゲでレアアイテムが手に入ってさ。テンションあがっちゃって、貫徹しちゃったよ。で、ちょっと寝てたら、寝過ごしちゃってね」
「ちびっ子は変わんねぇなぁ」
「ったくもう。一時間余裕見て正解だったわね」
「で、かがみん。今日はどこに行くのだね?」
「この前、メールしただろが」
女三人寄ればかしましいのだから、六人いればその倍だ。
みんなでわいわいがやがやと、駅に向かっていった。
これから始まる旅行は、その六人にとって楽しいものになるに違いない。
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駅でのワンシーン×6+1
電車の扉が開き、彼女はホームに降り立った。
両手には、アキバで買い込んだブツが詰まった紙袋がいくつも握られていた。
初回限定版、各店の購入特典付きということで、いつもどおり、アキバの三店舗を制覇し、閲覧用・保存用・布教用を確保したというわけだ。
両手がふさがった状態でも器用に改札を通る。
彼女のトレードマークでもあるアホ毛も、意気揚々とゆれていた。
今日は三店舗ともわりかしスムーズにいった。幸先がいい。
今日が締め切りの原稿も調子よく書けそうな予感がした。
慣れた動きでスムーズに改札を通り駅を出た彼女は、スーツに身を包み、長い髪を後ろで一本に束ねていた。釣り目の美人な顔立ちは、すれ違う人々の目を引くには充分すぎた。
さながらやり手の美人弁護士といったところだが、実際、彼女は弁護士だ。
これから、依頼人ともめているある会社の顧問弁護士とサシで交渉だった。
相手の弁護士は、この分野ではかなりのやり手。気合を入れていかねばならない。
交渉は妥協の道を探る手順であるが、安易な妥協は依頼人の利益を損ねることになる。そのあたりを見極める眼力は、結局のところ経験をつむことによってしか得られない。
場数をこなしてきた自負はある。
もちろん、この仕事に対するプライドも。
がらんとした車内に、次の停車駅を告げるアナウンスが流れた。
驚いたように目を覚ました彼女は、慌ててあたりをキョロキョロと見回した。
次は、降りなきゃならない駅だ。危うく乗り過ごすところだった。
ホームに降り立った彼女は、たくさんの買い物袋を手にしていた。中には数々の食材が詰まっている。
ちょっとした日常の料理の材料なら近所で間に合うが、本格的な食材を手に入れようとすれば、どうしても遠出しなければならない。
今日は双子の娘の誕生会だ。夫も早く帰ってくる予定。
彼女は、料理専門学校で鍛え上げた腕前を存分に振るうつもりだった。
だがその前に、両手の買い物袋がつっかえて、改札を通るのに四苦八苦していた。
早朝、始発の電車が来る前の駅は暗く閑散としていた。
夜勤明けの彼女は、帰宅すべく駅のホームで電車を待っていた。
小さくあくびが出た。
今日は珍しく急患も少なく、仮眠もそれなりにとれたが、それでもやはり眠い。
帰ったら朝食の準備をしなければならないだろう。最近いろいろなことを自分でできるようになった一人娘が用意してるかもしれないけれども。
母は最近どうにも寝起きが悪かった。物忘れも多くなっているような気がする。もとより少々ボケたところがある人だから、医師の目をもってしても、それが認知症の進行なのかどうかは見極めが難しかった。本格的な検査を受けるようにすすめた方がいいのかどうか。
電車がホームにすべりこんできた。
停車し、扉が開く。
彼女は、ゆっくりと電車に乗り込んだ。
新幹線の発車を告げるアナウンスがホームに響き渡った。
乗車口で一組の夫婦が短く言葉をかわし、そして軽く口付けをかわした。
扉が閉まり、二人の間を分かつ。
ゆっくりと動き出した車両が見えなくなるまで、彼女はずっと見送っていた。
夫が単身赴任先に戻っていった。またしばらくは会えない。
家には近頃はすっかり手がかからなくなった娘がいるのだが、それでも夫に会えないのは寂しい。
そんなことをいうと、義妹でもある親友にからかわれちゃうんだけど。
駅前、ジャージに身を包みスポーツバッグを手に持った高校生の集団があった。
その集団の引率らしき彼女は、今日行なわれた陸上大会での成果について適当にほめたあと、気をつけて帰るように言って、解散を宣言した。
高校生たちは、わらわらと駅に向かい、各自の家に向かうべき切符を買って、それぞれの電車に乗り込んでいった。結構いろんなところから生徒が集まっている高校なため、帰る方向はみんなバラバラだ。
彼女は、それをすべて見届けてから、自分も切符を買い、電車に乗り込んだ。
母校の体育教師になって、古巣の陸上部の顧問をやってる。
そんなもんだから、生徒たちを見てるとついつい自分の高校時代のことを思い出してしまう。
そういえば、あいつらともここしばらく会ってない。学校が夏休みの間に休暇をとって、みんなでどっかに遊びに行きたい。
行き先は、みんなにまかせれば適当に決まるだろう。
とある駅前。
「あっ、ゆきちゃん。こっちこっち」
みゆきが足早にみんなのところにやって来た。
「すみません、みなさん。遅れてしまいまして」
「約束の時間の一分前だから、全然気にすることないわよ、みゆき」
「高良ちゃん。もしかして夜勤明け?」
「ええ、今日はちょっとやっかいな急患がありまして。結局残業になってしまいまして」
「ゆきちゃん。お仕事、大変なんだね」
かがみが腕時計を確認してから、携帯電話を手にとった。慣れた手つきで電話帳から番号を呼び出す。
「ちょっと、あんた。今どこいるの!? こっち向かってる? 二十分後ね。言い訳はあとで聞くから、さっさと来なさい!」
「こなちゃん、どこいるの?」
「こっちに向かってる途中だって。みゆきが来るときぐらい、時間どおりに来いっつーの。みさおだってちゃんと来てるのに」
「柊ぃ~、それどういう意味だよぉ~」
みさおがむくれ顔をする。
「まあまあ、みさちゃん」
そして、待つことしばし。
「やふー、みなの衆」
「それが遅れてきたやつの態度か!」
「ツッコミの切れ味は鈍ってないね、かがみん」
「なんで遅れてきたのよ?」
「いやぁ、ネトゲでレアアイテムが手に入ってさ。テンションあがっちゃって、貫徹しちゃったよ。で、ちょっと寝てたら、寝過ごしちゃってね」
「ちびっ子は変わんねぇなぁ」
「ったくもう。一時間余裕見て正解だったわね」
「で、かがみん。今日はどこに行くのだね?」
「この前、メールしただろが」
女三人寄ればかしましいのだから、六人いればその倍だ。
みんなでわいわいがやがやと、駅に向かっていった。
これから始まる旅行は、その六人にとって楽しいものになるに違いない。
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- 短い文章でそれぞれの将来をうまくあらわしていてわかりやすく面白かった!!! -- CHESS D7 (2012-01-19 22:31:37)