ID:bzxCjw150氏:時の悪戯(ページ2)

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かがみ「おはようつかさ」 顔を洗っていると後ろからお姉ちゃんの声。タオルで顔を拭いて振り向いた。 つかさ「おはよう」 かがみ「珍しいわね、休日にこんなに早く起きるなんて」 お姉ちゃんを見た。高校時代と同じようにツインテール、そして着ている服を見て驚いた。夢で見たお姉ちゃんの着ている服と同じだった。 つかさ「お姉ちゃん、その服って……」 お姉ちゃんは得意げにポーズをとって見せた。 かがみ「どう、気に入った、高校時代買ったけど一度も着なかった服よ、着る機会がなくってね、今日はこれで行くつもり」 それで昔の髪型に戻したんだ。お姉ちゃんは何を着ても似合うからいいけど、その服で出かけて欲しくない。 つかさ「その服だと子供っぽいような気がするけど」 かがみ「やっぱりつかさもそう思うのか、それだけが気になっていたのよね」 ガッカリするお姉ちゃん。一度も着ていない服もなんだか可愛そうな気がしてきた。 つかさ「それなら髪型を変えれば、ポニーテールにするとか」 かがみ「それもいいか、サンキュー」 お姉ちゃんは自分の部屋に戻っていった。ああ、着替えて欲しかったのにこれじゃ逆効果だった。こうなったら見た夢の話をしてみようかな。 ダメダメ、夢の話をしたって。それにもうお姉ちゃんに頼るのは止めにするって。自分で考えなきゃ。とりあえずお姉ちゃんがチケットを忘れなければいいはず。 お姉ちゃんの部屋に向かった。 つかさ「お姉ちゃん入るよ」 部屋に入るとお姉ちゃんはリボンを取って髪を梳かしていた。 かがみ「ん、何か用なの」 つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんからチケット預からなかった?」 かがみ「預かったと言うより私が管理した方がいいと思ってね、それがどうかしたの」 やっぱり夢と同じだ。ここで私が釘を刺しておけば忘れないよね。 つかさ「チケット忘れないようにしてね、お姉ちゃん肝心な時に失敗するから」 お姉ちゃんは笑いながら立ち上がり机の上のカバンを開けた。 かがみ「それは抜かりないわ、もう出かけ用の鞄に入れてある、これで忘れたならこなたに言い訳できないわよ」 それを見て安心した。これで忘れない。 つかさ「そうだよね、お姉ちゃんがそんなので失敗しないよね」 そのまま部屋を出ようとした。 かがみ「つかさ待って、今回は本当に済まないと思っている、でもこうするしか無かったのよ、今度皆で穴埋めするから」 私も他にどうすれば良いか分からない。 つかさ「お姉ちゃん、私どうしたら良いのか分からない、もし未来が一つしかないなら私達がどんなに頑張ったって交通事故に遭うんだよね、ゆきちゃんが言うにはりょうし     何とかの不覚でいけない原理だと未来は決まっていないって、でも私見ちゃった、こなちゃんが交通事故に遭う夢を、決まっていなくても事故は起きるかも」 言わないはずなのに言ってしまった。そして夢を思い出して涙が出ていた。そんな私を見てお姉ちゃんは笑った。 かがみ「ふふ、みゆきの言っているのは量子力学の不確定性原理のことでしょ、詳しい理論はみゆきの方が詳しいわよ、そうね、パラレルワールドが本当にあるなら未来は 決まっていないかもね、でも考えてみて、来が幾つもあっても私達はその中の一つしか経験できない、結局未来は一つしかないのと同じよ、それにつかさの見た夢の内容をこれ以上聞く気は無いけど、夢の通りになりたくなければ夢とは逆の事をすればいいじゃない」 つかさ「もう、やってるよ、できれば今着ている服を着替えて」 かがみ「さすがつかさ、私は何も言う事はないわ、着替えて欲しいなら何度でも着替える」 お姉ちゃんはタンスを開けて服を選び始めた。 つかさ「やっぱり着替えなくていいよ、着替えたって同じかもしれない、それにその服着たかったでしょ」 かがみ「このままで良いのなら嬉しい、ありがとう」 お姉ちゃんはそのまま鞄を持った。 つかさ「え、もう出かけるの、まだ早いよ」 かがみ「だから行くのよ、普段どおり行ったら同じ結果になる、これは私なりの対策、つかさ程ではないけど私もそれなりに考えているのよ、買い物でもして時間を潰すわ」 初めてだった。占いも信じないお姉ちゃんが自分から行動するなんて。 かがみ「つかさのそうやって何時でも一所懸命な所、凄いと思う、私はちょっと手伝いをするだけ」 私を初めて褒めてくれた。優しかったけど私を褒めるなんて一回もなかった。お姉ちゃんはそのまま部屋を出て玄関に向かった。 かがみ「行ってきます」 つかさ「行ってらっしゃい、お姉ちゃん私の分まで楽しんでね」 お姉ちゃんは何も言わず手を上げ微笑んだ。そして玄関を出て行った。 夢と同じだった。お姉ちゃんの出かける姿が夢と重なった。  今日は運命の日、未来のこなちゃんの言うようになるのか、私の夢の通りになるのか。私はどっちも望まない。とりあえず私の夢では何処でどんな事故があるのか分かっている。 あの交差点に行かなければ事故は避けられる。でもこなちゃんは私が事故に遭うって言っていた。夢と同じようにあの交差点だったら避けられる。 暫くすると家族の皆は次々に出かけて行った。夢の通り私は一人でお留守番をする。やっぱり普通にして居られない。こんな時は料理をするのが一番。いやな事とか忘れられる。 台所に入った私はテーブルに封筒が置いてあるのを見つけた。見覚えのある封筒。まさかとは思いつつも封筒の中身を確認した。チケットが四枚入っていた。 頭の中が真っ白になった。あれほど注意したのにお姉ちゃんはチケットを忘れた。私が夢の話をしたからかもしれない。それとも変えられない運命なのかな。 携帯電話を取り出しお姉ちゃんに電話をしようとした。手が止まった。これじゃ夢と全く同じ、でも他に何をしたら良いのか分からない。このまま放っておくかな。 だめだよ。お姉ちゃんは後から来るこなちゃんにチケットを取りに頼むに違いない。それともお姉ちゃんが取りに来るかも。あの交差点は普通家に帰るなら通るから お姉ちゃんも危ない。気ばっかり焦ってなにも思いつかない。そうだ。ゆきちゃんに電話しよう。ゆきちゃんなら方角が違うから、まず私の家に来るなんてないよ。 携帯に電話をしようとすると私の携帯電話が鳴った。ゆきちゃんからだった。 つかさ「も、もしもし」 みゆき「こんにちは、つかささん、今、かがみさんと一緒です」 え、早い、どうして。そうか、ゆきちゃんとお姉ちゃんはから早く出かける約束をしていたんだ。 みゆき『ところで、そちらにコンサートのチケットは在りませんでしたか』 つかさ「あるよ、今、家にあるよ」 みゆき『そうですか、私もそう思ったのですがかがみさんは忘れていないと言っていましたので、周辺を探したのですが見つかりませんでした』 ゆきちゃんの話し声が遠くなった。近くにお姉ちゃんが居るみたいだ。何かを話している。ゆきちゃんがマイクを押さえているのか声が聞き取れなかった。 みゆき『かがみさんは反省しているらしくつかささんに申し訳ないと言っています、ここからそちらに戻るとコンサートの時間に間に合わないので泉さんにそちらに行ってもらう     事になりましたので、よろしくお願いします』 ダメ、それは一番しちゃいけない。 つかさ「ダメだよ、こなちゃんは家に来ちゃだめ」 みゆき『と、言いましても既に泉さんと連絡をしていまして……今頃はもうそちらへ向かっています』 私がモタモタしていたからだ。私ってなんでこんなにノロマなんだろう。このままだとこなちゃんが家に来ちゃう。 つかさ「分かった、ありがとう」 みゆき『すみません、よろしくお願いします』 携帯電話を切った。もう考えてなんて居られない。私が駅まで行けばこなちゃんはあの交差点を渡らなくて済む。こなちゃんと行き違えにならないように携帯電話で連絡を 取ろうとした。でも電車に乗っているから出てくれない。メールで『駅で待っててね』と打って送った。こなちゃんはメールをあまり見ない、だけど何もしないよりまし。 急いで身支度をしてチケットの入った封筒を胸のポケットにしまって家を出た。  私は未来のこなちゃんの忠告を無視した。もしかしたら駅に向かう途中で私は事故に遭うかもしれない。それよりこなちゃんが事故に遭うのが嫌だった。 玄関を一歩出た所で立ち止まった。急に怖くなった。足が震えている。周りを見回した。子供の頃から馴染みの風景、何も変わっていない。でも怖い。 車のエンジン音が聞こえる度に身がすくむ。もう外に出ちゃったから今更戻れない。私は覚悟を決めた。 あの交差点を通るのは止めた方がいいかもしれない。橋を渡らないで遠回りしよう。時間がかかるけどこっちの方が安全。ゆっくりと壁に身を寄せながら駅に向かった。  駅の前に着いた。普段の三倍位の時間が掛かってしまった。駅前を探したけどこなちゃんの姿は見当たらない。携帯電話を確認したけど着信もメールもなかった。 まだ電車の中なのかな。改札口の前で暫く待った。 五分くらい待った位だった。携帯電話が鳴った。慌てて確認をする。こなちゃんからだ つかさ「こなちゃん、今何処なの」 こなた『つかさこそ何処なんだよ、ダメじゃないか家から出たらいけなかったんじゃないの?』 つかさ「そうだけど、こなちゃんが危ないから」 こなた『へ、何言ってるの』 そうだった、こなちゃんは私の見た夢は知らないのを忘れていた。 つかさ「私のメール見た?」 こなた『え、メールなんかしたの』 わぁ、こなちゃんやっぱり見てない。こなちゃんは何も話してこなかった。メールを確認しているのかな。こなちゃんの返事を待った。 こなた『駅で待ってて書いてあるね、つかさ今駅にいるのか、私はつかさの家の前だよ』 つかさ「今家は留守だから誰もでないよ、今駅に居るよ」 こなた『なん~だ、行き違えか、それじゃ今からそっちに戻るよ、チケットはちゃんと持ってるよね?』 つかさ「うん、持ってる」 こなちゃんはあの交差点を渡っちゃったんだ。良かった、何も起きなかった。でも何度も通るのは止めた方がいいよね。 つかさ「こなちゃん、帰りは橋を渡らないで来て」 こなた『何で、遠回りじゃん、そんなの疲れて嫌だよ』 そうだ、ちゃんと訳を話せば分かってくれる。 つかさ「家の近くの交差点を通ると危ないから、今朝夢でこなちゃんが交通事故に遭う夢をみた」 こなた『ふふ、はははは、つかさだって忠告を破って外に出ているのに説得力ないよ、とにかく急がないとコンサートに遅れちゃうし、そこで待ってて』 つかさ「ちょっとこなちゃん、冗談じゃないってば、聞いて……」 こなちゃんは電話を切ってしまった。私は何でここに居るんだろう。もう何も出来ない。走って行ってもこなちゃんの方が先に交差点を渡っちゃう。 でも……何もしないよりいい。家に向かって私は走った。 やっぱり私は一人じゃ何も出来ない。忠告を守らないで外に出て行って、これで何かあったら私は、私は、お姉ちゃん達に何て言えば良いの。 「わー!!!」 後ろから突然の声だった。振り向くとこなちゃんだ。急に止まれない。足がもつれてそのまま倒れてしまった。 つかさ「いててて……」 ちょっと手を擦りむいちゃった。起き上がってこなちゃんの居た方を向いた。私から五、六メートル位離れた所にこなちゃんは居た。 片手に携帯電話を持っていた。こなちゃんは私に携帯電話を見せながら話した。 こなた「お急ぎで何処までいくのかな、つ・か・さ」 つかさ「だって、え、どうゆうこと、私の家に行ったんじゃないの」 こなた「改札口につかさがいやにオロオロしてたから、ちょっとね……なかなかいい反応だったよ」 こなちゃんは駅から私に携帯電話をかけた。こなちゃんの悪戯だった。 こなた「ちょっとフザケすぎたかな、大丈夫?」 こなちゃんは家に行っていなかった。良かった。私は胸を撫で下ろした。 こなちゃんに一歩近づいた時だった。後ろから押し出されるような風が吹いた。 それは音もなく私のすぐ後ろを通り過ぎた。こなちゃんは固まったように私を見ていた。そして数秒後。 『ガシャーン』 鉄の塊が叩き付けられるような大きな音がした。音のした方を見ると大きなトラックが壁に激突していた。そのトラックを追いかけるように男の人が走ってくる。 後ろから来た風はトラックが私をかすめた時のものだった。 この事故は運転士さんが坂道でサイドブレーキをかけずにエンジンを止めて降りてしまった。ギアはニュートラル、だから無音でトラックは坂道を走って下って行く。 そして近づいても気が付かない。私はこなちゃんに呼ばれなかったらあのトラックに轢かれていた。 こなちゃんは私の側に駆け寄った。 こなた「危なかった、一歩前に出ていなかったら当たっていたよ」 これが未来のこなちゃんが言っていた事故みたい。おかしいな。安心したのかな。怖かったのかな。涙が出てきた。 こなた「つかさ……」 こなちゃんはどんな反応していいのか分からないみたい。私もどうして良いかわからない。遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。こなちゃんは壁に当たったトラックを見た。 こなた「怪我人は出なかったみたいだね、パトカーだけだよ」 つかさ「うん、」 私が出来るのはチケットを渡すことだけ。こなちゃんにチケットの入った封筒を渡した。こなちゃんは封筒を受け取って中身を確認した。 こなた「さてと、つかさ行こうか」 つかさ「行こうって、何処に?」 こなた「コンサート」 つかさ「で、でも、私は……」 こなた「事故はもう避けたよね、もう大丈夫だよ、行こう、一席だけ別席だけど、じゃんけんで決めよう」 つかさ「それじゃお姉ちゃんに連絡しないと」 私が携帯電話を出そうとするとこなちゃんは私の腕を掴んで止めた。 こなた「連絡はしなくていいよ、かがみ達を驚かそう、その方が面白いよ」 つかさ「でも、お姉ちゃんきっと怒る」 こなた「もうここにつかさが居る時点で怒られるよ、気にしない、気にしない、それにここに来たのは私を助ける為だったんでしょ、私が事故に遭う夢を見たって言ったよね、     つかさが来なかったら私が事故に遭ってたかも、ありがとう」 にっこり微笑みかけるこなちゃん。確かに事故は避けられた。でももしこの事故が未来のこなちゃん言っている事故じゃなかったら。もうそんな風に考えるのはよそう。 こなちゃんの笑顔で不安が全て吹き飛んだ。 つかさ「うん、行こう、コンサート」 かがみ「つ、つかさ、なんであんた来てるのよ!!!」 会場に着いて私をみるなり捲くし立てて怒るお姉ちゃんだった。こなちゃんの言う通りだった。 かがみ「一体どうして来たの、説明しなさい」 その時私は夢の出来事、ゆきちゃんと携帯電話のやりとり、駅までの道のり、色々な出来事が頭の中で一度に浮かんできてしまった。何から言って良いのか分からない。 つかさ「えっと、えっと」 口が付いていかない。 かがみ「早く帰りなさい、今からでも遅くない」 何も言えないまま帰されそうになった。 こなた「かがみ、ここまで来て帰すなんて鬼だよ、折角きたんだし、ほらほら、もうコンサート始まっちゃうよ」 かがみ「こなた、さてはあんたがそそのかしたのか!!」 こんどはこなちゃんに向かって怒り出した。 こなた「とにかく会場に入ろう、コンサートが終わったら話すから、一席別になっちゃうからジャンケンで決めよう……ジャンケンポン」 こなちゃんは一方的に話を進めた。私とゆきちゃんとこなちゃんはこなちゃんの掛け声に合わせてジャンケンをした。お姉ちゃんも手を出した。 私がグーを出して他の皆はパーを出していた。 こなた「あちゃー、つかさ悪いね、別の席だけどごめんね」 こなちゃんは封筒からチケットを一枚取り出して私に渡した。 つかさ「うんん、途中から来る事になっちゃったから、これで良かったよ」 お姉ちゃんはまだ納得いかない様子だった。だけどこなちゃんは私を先に会場に入れて席に向かわせた。  元々このコンサートはこなちゃんが行きたがっていたコンサート。私はどっちかって言うと皆と一緒に居たかっただけだったかもしれない。 周りは誰も知らない人ばかり。これで楽しめるかな。 コンサートが始まると周りの人達がノリノリだった。そうだよね。もうここに来たら楽しまなくちゃね。私は今までの事を忘れて周りの人達と一緒に楽しんだ。 コンサートが終わり待ち合わせのレストランで皆と合流した。皆の表情が明るい。コンサートが始まればみんな同じなのだなと思った。 お店でこなちゃんは私の見た夢の話をお姉ちゃんとゆきちゃんに話した。コンサートに向かうとき電車の中でこなちゃんに話した夢の内容をこなちゃん独特のユーモアたっぷりで 話した。お姉ちゃんはこなちゃんの話にのめり込むように聞き入っていた。こなちゃんとお姉ちゃんはお話に夢中になってしまった。ゆきちゃんは二人から少し距離を置いていた。 今ならゆきちゃんに話せるかな。 つかさ「ゆきちゃん、ちょっといいかな?」 ゆきちゃんは私の方を向いた。 みゆき「大変な目に遭いましたね、お怪我は大丈夫でしたか」 つかさ「ちょっと手を擦りむいただけ」 擦り剥いた手をゆきちゃんに見せた。ゆきちゃんは何も言わず私の手を見ていた。 つかさ「ねぇ、結局未来のこなちゃんの話はどうなっちゃったのかな、それに未来のこなちゃんはどうやって来たのかな」 ゆきちゃんは目を上に向けて少し考えていた。そして、話に夢中になっているこなちゃんを見た。 みゆき「泉さんの顔を見てください、楽しげにかがみさんと話しています、よほど嬉しかったのでしょうね、すこし誇らしげにも見えます」 つかさ「え、こなちゃんが嬉しかったって、皆でコンサートに行けたって事?」 みゆき「いいえ、泉さんがつかささんを助けたからです、よほど嬉しかったのでしょうね、思えば人を助けるなんてそう簡単に出来るわけではありません」 つかさ「それは分かるような気はするけど……」 やっぱりゆきちゃんでも分からないのかな。 みゆき「逆につかささんが亡くなられたらどうでしょう、その悲しみはきっとご家族と同じ位になると想像できませんか?」 それは何となく分かる。私は頷いた。 みゆき「未来の泉さんの世界ではつかささんは亡くなられた、その悲しみが、想いが、時間と空間を越えた、そして、この世界のつかささんを救った」 つかさ「それって量子力学なの?」 ゆきちゃんは笑った。 みゆき「ふふ、学問とは全く別の話です、私の想像です、聞き流して下さい」 どちらにしても私はこなちゃんに助けられたのは確か。 つかさ「私の夢も説明できる?」 みゆき「不思議な夢ですね、しかし説明はできます、かがみさんの着ていた服は高校時代の休日、皆で買い物に行った時に購入された服ですね、私は覚えていますよ、     記憶の奥底にあった服のイメージが出てきたのかもしれませんね」 こなた「ちょっとつかさ、みゆきさんにも話してるんだから邪魔しないでよ」 つかさ「ご、ごめん」 ゆきちゃんはこなちゃんの話に参加した。そして、こなちゃんの独擅場が続いた。 食事が終わり解散となった。私とお姉ちゃんは帰りの電車に乗っていた。コンサート後のこなちゃんの話をしていた。 つかさ「最後は何も喋れなかったよ」 かがみ「あいつの独り舞台だったな、アニメとゲームの話意外であいつがあれほど興奮して話すのははじめて見たわ」 つかさ「そうだね」 その後お姉ちゃんは一言も話さなくなった。お姉ちゃんの様子が何となくさっきまでとは違った感じだった。私も声をかけ辛かった。電車を降りても話し合う事は無かった。 駅を降りて改札を出て暫く歩いた時だった。 かがみ「つかさ、待ちなさい」 二人は立ち止まった。お姉ちゃんは真剣な顔で私をみていた。そういえばもう少し先に行くと私がトラックに当たりそうになった所を通る。 つかさ「どうしたの、事故の話ならこなちゃんが全部しちゃったよ」 かがみ「事故ね、そうそう、つかさは助かった、そうだった、家でじっとしている必要はかった、そうよね……」 ソワソワして、悲しい顔になった。どうしてだろう。明らかにこなちゃん達と会っていた時と違う。 つかさ「もしかして、私が家を飛び出したの怒っているの?」 かがみ「怒る、何故私が怒る、つかさ、私に言いたい事があるならはっきり言いなさいよ、みゆきから聞いたんでしょ」 お姉ちゃんは何を聞きたいのか分からない。 つかさ「ゆきちゃん、ゆきちゃんがどうしたの、私はゆきちゃんと夢の話をしてただけだよ」 かがみ「話さなかったのか、みゆきらしいわね」 お姉ちゃんは肩を落とした。 つかさ「もう時間も遅いし帰ろう、何か話があるなら帰ってからでもいいよ」 駅の近くなのにもう殆ど人は居ない。お姉ちゃんの表情からするときっと話は長くなる。 かがみ「未来のこなたはつかさに外に出るなと言った、今更それが幻想だったとか夢だったとか言うつもりはない、あの事故を考えれば答えは一つしかない、     私がチケットを忘れなければこんな騒ぎにはならなかった、そもそも私がこなたからチケットを預からなければ良かったのよ、あのコンサートは元々     こなたの提案だった、一番行きたい人がチケットを持つべきだった、そんなのは直ぐに分かるはず、未来のこなたは何故そう言わなかった、それで全て解決しただろう」 お姉ちゃんの言っている意味が分かった。お姉ちゃんは自分を責めている。 かがみ「つかさ、何故あの時私でなくゆきがつかさの携帯電話に連絡したと思う?」 そういえばそうだった。何故なんだろう。 かがみ「出かける前つかさは私に言ったわよね、チケットを忘れるなって」 つかさ「言った、それは夢で……」 かがみ「私はつかさの夢の内容もろくに聞かないで出かけた、つかさが何故注意したのか、その真意を確かめなかった、私はチケットを持っている気になっていただけ、     昨日準備した時確かに入れた……入れていなかった、台所で鞄にチケットを入れるときお母さんと話している間に入れ忘れた、つかさに何て言えばいい、言えないわよ、     みゆきには駅で落としたと言って、駅でこなたに電話しようとしたけど出来なかった、私はこのまま中止になってもいいと思った」 つかさ「ゆきちゃんは私に電話した時、チケットが在るかって聞いてきたけど、それにこなちゃんにこなちゃんにチケットを取りに行くよう連絡したって」 かがみ「私が駅から戻ってきたらみゆきが電話をしていた、だから私は電話を切るように言ったのよ、みゆきは全く違う内容をつかさに話した、こなたに連絡したのはみゆきよ」 私やこなちゃんにバレるのが嫌だった。それでお姉ちゃんは私と話したくなかったのか。私がお姉ちゃんを怒らないようにゆきちゃんは嘘をついた。 つかさ「お姉ちゃん、黙っていたら夢と同じになっていたかも」 かがみ「そうよ、その通り、私はこなたとつかさの命を危険に曝した、少しばかりの見栄の為に……みんな私が悪い、許して……」 見たことのないお姉ちゃんだった。見栄っ張りの所があるのは知っていたけど、それがこんな形で出てくるなんて。目が潤んで今にも泣き出しそうなお姉ちゃん。 でもなぜかお姉ちゃんを責める気にはなれなかった。 つかさ「もういいよ、お姉ちゃん、終わった事だし、帰ろう」 かがみ「何故よつかさ、こなたもみゆきもそう、何故怒らない、何故よ」 逆切れ気味に怒鳴った。そういえばゆきちゃんも怒っていない。こなちゃんは私とゆきちゃんの携帯電話の会話は知らない。だけど知っていても怒らなかったと思う。 つかさ「それはね、私もこなちゃんも事故に遭っていないから、こなちゃんが事故に遭っていたら怒るよ、きっと未来のこなちゃんの世界ではそうだったかもね」 お姉ちゃんは黙って聞いている。さらに続けた。 つかさ「お姉ちゃんがチケットを忘れたのならどうやっても忘れていたと思うよ、私が注意しても忘れたくらいだから、私やこなちゃんは忘れん坊だから話にならないよね、     ゆきちゃんもああ見えて高校時代は結構忘れ物とかしてたんだよ、四人で一番しっかりしてるのがお姉ちゃん、だからこなちゃんはチケットを預けた、     未来のこなちゃんもお姉ちゃんに注意しなかった、それにお姉ちゃんは言ったでしょこなちゃんはバカじゃないって、違うかな?」 かがみ「今となっては違うかどうかも確かめられないわ、未来のこなたに聞かないかぎりね」 四年後になったら私の会った四年後のこなちゃんとは違うこなちゃん。もう永遠に聞けない。だけど分かるよ。 つかさ「ほら、見てお姉ちゃん」 俯いたお姉ちゃんを呼んだ。お姉ちゃんは私を見た。 かがみ「見るって、何を見るんだ?」 つかさ「私だよ、私は事故に遭ってないしまだ生きているよ、もう歴史は変わったよね」 私をみてお姉ちゃんは笑った。 かがみ「ふふ、気楽なもんだな、その性格少し分けて欲しい」 『わっー!!!!』 つかさ・かがみ「ひぃー」 突然後ろから声がした。私は仰け反って驚いた。私とお姉ちゃんは後ろを向いた。そこにまつりお姉ちゃんが居た。 まつり「こんな所で二人とも何してるの?」 ニヤニヤしながら私達を見ていた。 かがみ「ちょっと、驚かさないでよ」 いのり「まつり、かがみ……つかさまで居るのね、何しているの?」 いのりお姉ちゃんの声、私達が声のする方を向くと、いのりお姉ちゃんとお父さん、お母さんが立っていた。 まつり「うゎー、駅で家族全員と鉢合わせなんて、偶然もいいところだね」 みき「こんな遅くまで、まったく、夜遊びもほどほどにしないと……」 まつり「夜遊びじゃない、こっちは仕事で遅くなったの、それより、かがみとつかさの方が危ない」 いきなり私達に振られてしまった。 かがみ「ちょ、何も知らないのに言い掛かりはやめてよ」 まつり「声をかけたら驚いたじゃない、それがなによりの証拠」 かがみ「後ろから大声でこられたら誰だって驚くわよ」 お姉ちゃんとまつりお姉ちゃんがいつもの言い合いの喧嘩を始めた。 みき「いい加減になさい、こんな道端で喧嘩なんかしない」 お母さんが間に入って事態は収まった。 ただお「なんの約束もしていないのにこうやって自然に集まるのも不思議なものだ」 私が事故に遭って死んでいたらどうなっていただろう。それはあの時、四年後の未来から来たこなちゃんを思い出せば分かるよ。 悲しげだった。少なくとも皆はこうしていられないのは分かる。 いのり「皆で帰りましょう」 いのりお姉ちゃんの一言で皆は家の方向に歩き出した。そうだ、あの交差点を通る。私は腕時計を確認した。午後十一時五十分。まだ今日は終わっていない。 つかさ「ねぇ、折角皆集まったから、こっちの道から帰ろうよ」 まつり「えー、その道って橋を渡らない遠回りの道じゃない、もう私は疲れてクタクタ、早く帰りたい」 いのり「私はどっちでもいい」 かがみ「こっちの道に行くと美味しいお菓子屋さんがあるわ、皆に教えてあげる」 私に目で合図をした。お姉ちゃんは私の意図が分かったのかもしれない。 みき「かがみがたまに買ってくるあのお菓子ね、ついでだから教えてもらおうかしら」 ただお「懐かしいな、子供の頃はわざわざ遠回りして帰ったものだ、たまには遠回りでもいいじゃないか、まつり」 お父さんの言葉にまつりお姉ちゃんは渋々頷いた。  駅から家までの十数分、家に着けば未来のこなちゃんが言う事故は無かった事になる。歴史は変わる。そして私はこれからも生きていける。 ゆきちゃんは帰りがけに言った。パラレルワールドは考えられる全ての可能性の数だけの世界があるって。だから私の見た夢の通りになった世界もあるに違いない。 こなちゃんが事故で死んだ世界。私が死んだ世界。お姉ちゃんが……。もういいや。そんな考えをしていたら鬱になっちゃうよね。私は転んで擦り剥けた手を見た。 これからはもう未来のこなちゃんの世界とは違う世界が待っている。未来はどうなってしまうのか分からない。もっと悲しい事がおきるかも。もっと楽しい事が起きるかも。 それはほんの数秒の違いで変わっちゃう。私にはそんな数秒の判断なんかできないよ。でもこうしている間にも何かが変わっているのかもしれない。皆の歩きが遅くなった。 みんな楽しそうだな。お姉ちゃんがまつりお姉ちゃんにお菓子のお店を教えていた。あのお菓子のお店は私もよく買いに行っている。今度こなちゃん達にも教えよう。 これからも皆と一緒に居られますように。心の中で祈った。  家に入ると丁度日が変わっていた。私は携帯電話を取り出してこなちゃんとゆきちゃんにメールを打った。 『無事に家に着いたよ』 すぐに返事が来た。 『よかった』『よかったですね』 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 最後の最後までハラハラしたけど何も無くて良かった -- 名無しさん (2011-08-05 15:42:13) - 最後の最後までつかさが死ぬんじゃないかって不安だった -- 名無しさん (2011-05-10 18:57:13)
かがみ「おはようつかさ」 顔を洗っていると後ろからお姉ちゃんの声。タオルで顔を拭いて振り向いた。 つかさ「おはよう」 かがみ「珍しいわね、休日にこんなに早く起きるなんて」 お姉ちゃんを見た。高校時代と同じようにツインテール、そして着ている服を見て驚いた。夢で見たお姉ちゃんの着ている服と同じだった。 つかさ「お姉ちゃん、その服って……」 お姉ちゃんは得意げにポーズをとって見せた。 かがみ「どう、気に入った、高校時代買ったけど一度も着なかった服よ、着る機会がなくってね、今日はこれで行くつもり」 それで昔の髪型に戻したんだ。お姉ちゃんは何を着ても似合うからいいけど、その服で出かけて欲しくない。 つかさ「その服だと子供っぽいような気がするけど」 かがみ「やっぱりつかさもそう思うのか、それだけが気になっていたのよね」 ガッカリするお姉ちゃん。一度も着ていない服もなんだか可愛そうな気がしてきた。 つかさ「それなら髪型を変えれば、ポニーテールにするとか」 かがみ「それもいいか、サンキュー」 お姉ちゃんは自分の部屋に戻っていった。ああ、着替えて欲しかったのにこれじゃ逆効果だった。こうなったら見た夢の話をしてみようかな。 ダメダメ、夢の話をしたって。それにもうお姉ちゃんに頼るのは止めにするって。自分で考えなきゃ。とりあえずお姉ちゃんがチケットを忘れなければいいはず。 お姉ちゃんの部屋に向かった。 つかさ「お姉ちゃん入るよ」 部屋に入るとお姉ちゃんはリボンを取って髪を梳かしていた。 かがみ「ん、何か用なの」 つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんからチケット預からなかった?」 かがみ「預かったと言うより私が管理した方がいいと思ってね、それがどうかしたの」 やっぱり夢と同じだ。ここで私が釘を刺しておけば忘れないよね。 つかさ「チケット忘れないようにしてね、お姉ちゃん肝心な時に失敗するから」 お姉ちゃんは笑いながら立ち上がり机の上のカバンを開けた。 かがみ「それは抜かりないわ、もう出かけ用の鞄に入れてある、これで忘れたならこなたに言い訳できないわよ」 それを見て安心した。これで忘れない。 つかさ「そうだよね、お姉ちゃんがそんなので失敗しないよね」 そのまま部屋を出ようとした。 かがみ「つかさ待って、今回は本当に済まないと思っている、でもこうするしか無かったのよ、今度皆で穴埋めするから」 私も他にどうすれば良いか分からない。 つかさ「お姉ちゃん、私どうしたら良いのか分からない、もし未来が一つしかないなら私達がどんなに頑張ったって交通事故に遭うんだよね、ゆきちゃんが言うにはりょうし     何とかの不覚でいけない原理だと未来は決まっていないって、でも私見ちゃった、こなちゃんが交通事故に遭う夢を、決まっていなくても事故は起きるかも」 言わないはずなのに言ってしまった。そして夢を思い出して涙が出ていた。そんな私を見てお姉ちゃんは笑った。 かがみ「ふふ、みゆきの言っているのは量子力学の不確定性原理のことでしょ、詳しい理論はみゆきの方が詳しいわよ、そうね、パラレルワールドが本当にあるなら未来は 決まっていないかもね、でも考えてみて、来が幾つもあっても私達はその中の一つしか経験できない、結局未来は一つしかないのと同じよ、それにつかさの見た夢の内容をこれ以上聞く気は無いけど、夢の通りになりたくなければ夢とは逆の事をすればいいじゃない」 つかさ「もう、やってるよ、できれば今着ている服を着替えて」 かがみ「さすがつかさ、私は何も言う事はないわ、着替えて欲しいなら何度でも着替える」 お姉ちゃんはタンスを開けて服を選び始めた。 つかさ「やっぱり着替えなくていいよ、着替えたって同じかもしれない、それにその服着たかったでしょ」 かがみ「このままで良いのなら嬉しい、ありがとう」 お姉ちゃんはそのまま鞄を持った。 つかさ「え、もう出かけるの、まだ早いよ」 かがみ「だから行くのよ、普段どおり行ったら同じ結果になる、これは私なりの対策、つかさ程ではないけど私もそれなりに考えているのよ、買い物でもして時間を潰すわ」 初めてだった。占いも信じないお姉ちゃんが自分から行動するなんて。 かがみ「つかさのそうやって何時でも一所懸命な所、凄いと思う、私はちょっと手伝いをするだけ」 私を初めて褒めてくれた。優しかったけど私を褒めるなんて一回もなかった。お姉ちゃんはそのまま部屋を出て玄関に向かった。 かがみ「行ってきます」 つかさ「行ってらっしゃい、お姉ちゃん私の分まで楽しんでね」 お姉ちゃんは何も言わず手を上げ微笑んだ。そして玄関を出て行った。 夢と同じだった。お姉ちゃんの出かける姿が夢と重なった。  今日は運命の日、未来のこなちゃんの言うようになるのか、私の夢の通りになるのか。私はどっちも望まない。とりあえず私の夢では何処でどんな事故があるのか分かっている。 あの交差点に行かなければ事故は避けられる。でもこなちゃんは私が事故に遭うって言っていた。夢と同じようにあの交差点だったら避けられる。 暫くすると家族の皆は次々に出かけて行った。夢の通り私は一人でお留守番をする。やっぱり普通にして居られない。こんな時は料理をするのが一番。いやな事とか忘れられる。 台所に入った私はテーブルに封筒が置いてあるのを見つけた。見覚えのある封筒。まさかとは思いつつも封筒の中身を確認した。チケットが四枚入っていた。 頭の中が真っ白になった。あれほど注意したのにお姉ちゃんはチケットを忘れた。私が夢の話をしたからかもしれない。それとも変えられない運命なのかな。 携帯電話を取り出しお姉ちゃんに電話をしようとした。手が止まった。これじゃ夢と全く同じ、でも他に何をしたら良いのか分からない。このまま放っておくかな。 だめだよ。お姉ちゃんは後から来るこなちゃんにチケットを取りに頼むに違いない。それともお姉ちゃんが取りに来るかも。あの交差点は普通家に帰るなら通るから お姉ちゃんも危ない。気ばっかり焦ってなにも思いつかない。そうだ。ゆきちゃんに電話しよう。ゆきちゃんなら方角が違うから、まず私の家に来るなんてないよ。 携帯に電話をしようとすると私の携帯電話が鳴った。ゆきちゃんからだった。 つかさ「も、もしもし」 みゆき「こんにちは、つかささん、今、かがみさんと一緒です」 え、早い、どうして。そうか、ゆきちゃんとお姉ちゃんはから早く出かける約束をしていたんだ。 みゆき『ところで、そちらにコンサートのチケットは在りませんでしたか』 つかさ「あるよ、今、家にあるよ」 みゆき『そうですか、私もそう思ったのですがかがみさんは忘れていないと言っていましたので、周辺を探したのですが見つかりませんでした』 ゆきちゃんの話し声が遠くなった。近くにお姉ちゃんが居るみたいだ。何かを話している。ゆきちゃんがマイクを押さえているのか声が聞き取れなかった。 みゆき『かがみさんは反省しているらしくつかささんに申し訳ないと言っています、ここからそちらに戻るとコンサートの時間に間に合わないので泉さんにそちらに行ってもらう     事になりましたので、よろしくお願いします』 ダメ、それは一番しちゃいけない。 つかさ「ダメだよ、こなちゃんは家に来ちゃだめ」 みゆき『と、言いましても既に泉さんと連絡をしていまして……今頃はもうそちらへ向かっています』 私がモタモタしていたからだ。私ってなんでこんなにノロマなんだろう。このままだとこなちゃんが家に来ちゃう。 つかさ「分かった、ありがとう」 みゆき『すみません、よろしくお願いします』 携帯電話を切った。もう考えてなんて居られない。私が駅まで行けばこなちゃんはあの交差点を渡らなくて済む。こなちゃんと行き違えにならないように携帯電話で連絡を 取ろうとした。でも電車に乗っているから出てくれない。メールで『駅で待っててね』と打って送った。こなちゃんはメールをあまり見ない、だけど何もしないよりまし。 急いで身支度をしてチケットの入った封筒を胸のポケットにしまって家を出た。  私は未来のこなちゃんの忠告を無視した。もしかしたら駅に向かう途中で私は事故に遭うかもしれない。それよりこなちゃんが事故に遭うのが嫌だった。 玄関を一歩出た所で立ち止まった。急に怖くなった。足が震えている。周りを見回した。子供の頃から馴染みの風景、何も変わっていない。でも怖い。 車のエンジン音が聞こえる度に身がすくむ。もう外に出ちゃったから今更戻れない。私は覚悟を決めた。 あの交差点を通るのは止めた方がいいかもしれない。橋を渡らないで遠回りしよう。時間がかかるけどこっちの方が安全。ゆっくりと壁に身を寄せながら駅に向かった。  駅の前に着いた。普段の三倍位の時間が掛かってしまった。駅前を探したけどこなちゃんの姿は見当たらない。携帯電話を確認したけど着信もメールもなかった。 まだ電車の中なのかな。改札口の前で暫く待った。 五分くらい待った位だった。携帯電話が鳴った。慌てて確認をする。こなちゃんからだ つかさ「こなちゃん、今何処なの」 こなた『つかさこそ何処なんだよ、ダメじゃないか家から出たらいけなかったんじゃないの?』 つかさ「そうだけど、こなちゃんが危ないから」 こなた『へ、何言ってるの』 そうだった、こなちゃんは私の見た夢は知らないのを忘れていた。 つかさ「私のメール見た?」 こなた『え、メールなんかしたの』 わぁ、こなちゃんやっぱり見てない。こなちゃんは何も話してこなかった。メールを確認しているのかな。こなちゃんの返事を待った。 こなた『駅で待ってて書いてあるね、つかさ今駅にいるのか、私はつかさの家の前だよ』 つかさ「今家は留守だから誰もでないよ、今駅に居るよ」 こなた『なん~だ、行き違えか、それじゃ今からそっちに戻るよ、チケットはちゃんと持ってるよね?』 つかさ「うん、持ってる」 こなちゃんはあの交差点を渡っちゃったんだ。良かった、何も起きなかった。でも何度も通るのは止めた方がいいよね。 つかさ「こなちゃん、帰りは橋を渡らないで来て」 こなた『何で、遠回りじゃん、そんなの疲れて嫌だよ』 そうだ、ちゃんと訳を話せば分かってくれる。 つかさ「家の近くの交差点を通ると危ないから、今朝夢でこなちゃんが交通事故に遭う夢をみた」 こなた『ふふ、はははは、つかさだって忠告を破って外に出ているのに説得力ないよ、とにかく急がないとコンサートに遅れちゃうし、そこで待ってて』 つかさ「ちょっとこなちゃん、冗談じゃないってば、聞いて……」 こなちゃんは電話を切ってしまった。私は何でここに居るんだろう。もう何も出来ない。走って行ってもこなちゃんの方が先に交差点を渡っちゃう。 でも……何もしないよりいい。家に向かって私は走った。 やっぱり私は一人じゃ何も出来ない。忠告を守らないで外に出て行って、これで何かあったら私は、私は、お姉ちゃん達に何て言えば良いの。 「わー!!!」 後ろから突然の声だった。振り向くとこなちゃんだ。急に止まれない。足がもつれてそのまま倒れてしまった。 つかさ「いててて……」 ちょっと手を擦りむいちゃった。起き上がってこなちゃんの居た方を向いた。私から五、六メートル位離れた所にこなちゃんは居た。 片手に携帯電話を持っていた。こなちゃんは私に携帯電話を見せながら話した。 こなた「お急ぎで何処までいくのかな、つ・か・さ」 つかさ「だって、え、どうゆうこと、私の家に行ったんじゃないの」 こなた「改札口につかさがいやにオロオロしてたから、ちょっとね……なかなかいい反応だったよ」 こなちゃんは駅から私に携帯電話をかけた。こなちゃんの悪戯だった。 こなた「ちょっとフザケすぎたかな、大丈夫?」 こなちゃんは家に行っていなかった。良かった。私は胸を撫で下ろした。 こなちゃんに一歩近づいた時だった。後ろから押し出されるような風が吹いた。 それは音もなく私のすぐ後ろを通り過ぎた。こなちゃんは固まったように私を見ていた。そして数秒後。 『ガシャーン』 鉄の塊が叩き付けられるような大きな音がした。音のした方を見ると大きなトラックが壁に激突していた。そのトラックを追いかけるように男の人が走ってくる。 後ろから来た風はトラックが私をかすめた時のものだった。 この事故は運転士さんが坂道でサイドブレーキをかけずにエンジンを止めて降りてしまった。ギアはニュートラル、だから無音でトラックは坂道を走って下って行く。 そして近づいても気が付かない。私はこなちゃんに呼ばれなかったらあのトラックに轢かれていた。 こなちゃんは私の側に駆け寄った。 こなた「危なかった、一歩前に出ていなかったら当たっていたよ」 これが未来のこなちゃんが言っていた事故みたい。おかしいな。安心したのかな。怖かったのかな。涙が出てきた。 こなた「つかさ……」 こなちゃんはどんな反応していいのか分からないみたい。私もどうして良いかわからない。遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。こなちゃんは壁に当たったトラックを見た。 こなた「怪我人は出なかったみたいだね、パトカーだけだよ」 つかさ「うん、」 私が出来るのはチケットを渡すことだけ。こなちゃんにチケットの入った封筒を渡した。こなちゃんは封筒を受け取って中身を確認した。 こなた「さてと、つかさ行こうか」 つかさ「行こうって、何処に?」 こなた「コンサート」 つかさ「で、でも、私は……」 こなた「事故はもう避けたよね、もう大丈夫だよ、行こう、一席だけ別席だけど、じゃんけんで決めよう」 つかさ「それじゃお姉ちゃんに連絡しないと」 私が携帯電話を出そうとするとこなちゃんは私の腕を掴んで止めた。 こなた「連絡はしなくていいよ、かがみ達を驚かそう、その方が面白いよ」 つかさ「でも、お姉ちゃんきっと怒る」 こなた「もうここにつかさが居る時点で怒られるよ、気にしない、気にしない、それにここに来たのは私を助ける為だったんでしょ、私が事故に遭う夢を見たって言ったよね、     つかさが来なかったら私が事故に遭ってたかも、ありがとう」 にっこり微笑みかけるこなちゃん。確かに事故は避けられた。でももしこの事故が未来のこなちゃん言っている事故じゃなかったら。もうそんな風に考えるのはよそう。 こなちゃんの笑顔で不安が全て吹き飛んだ。 つかさ「うん、行こう、コンサート」 かがみ「つ、つかさ、なんであんた来てるのよ!!!」 会場に着いて私をみるなり捲くし立てて怒るお姉ちゃんだった。こなちゃんの言う通りだった。 かがみ「一体どうして来たの、説明しなさい」 その時私は夢の出来事、ゆきちゃんと携帯電話のやりとり、駅までの道のり、色々な出来事が頭の中で一度に浮かんできてしまった。何から言って良いのか分からない。 つかさ「えっと、えっと」 口が付いていかない。 かがみ「早く帰りなさい、今からでも遅くない」 何も言えないまま帰されそうになった。 こなた「かがみ、ここまで来て帰すなんて鬼だよ、折角きたんだし、ほらほら、もうコンサート始まっちゃうよ」 かがみ「こなた、さてはあんたがそそのかしたのか!!」 こんどはこなちゃんに向かって怒り出した。 こなた「とにかく会場に入ろう、コンサートが終わったら話すから、一席別になっちゃうからジャンケンで決めよう……ジャンケンポン」 こなちゃんは一方的に話を進めた。私とゆきちゃんとこなちゃんはこなちゃんの掛け声に合わせてジャンケンをした。お姉ちゃんも手を出した。 私がグーを出して他の皆はパーを出していた。 こなた「あちゃー、つかさ悪いね、別の席だけどごめんね」 こなちゃんは封筒からチケットを一枚取り出して私に渡した。 つかさ「うんん、途中から来る事になっちゃったから、これで良かったよ」 お姉ちゃんはまだ納得いかない様子だった。だけどこなちゃんは私を先に会場に入れて席に向かわせた。  元々このコンサートはこなちゃんが行きたがっていたコンサート。私はどっちかって言うと皆と一緒に居たかっただけだったかもしれない。 周りは誰も知らない人ばかり。これで楽しめるかな。 コンサートが始まると周りの人達がノリノリだった。そうだよね。もうここに来たら楽しまなくちゃね。私は今までの事を忘れて周りの人達と一緒に楽しんだ。 コンサートが終わり待ち合わせのレストランで皆と合流した。皆の表情が明るい。コンサートが始まればみんな同じなのだなと思った。 お店でこなちゃんは私の見た夢の話をお姉ちゃんとゆきちゃんに話した。コンサートに向かうとき電車の中でこなちゃんに話した夢の内容をこなちゃん独特のユーモアたっぷりで 話した。お姉ちゃんはこなちゃんの話にのめり込むように聞き入っていた。こなちゃんとお姉ちゃんはお話に夢中になってしまった。ゆきちゃんは二人から少し距離を置いていた。 今ならゆきちゃんに話せるかな。 つかさ「ゆきちゃん、ちょっといいかな?」 ゆきちゃんは私の方を向いた。 みゆき「大変な目に遭いましたね、お怪我は大丈夫でしたか」 つかさ「ちょっと手を擦りむいただけ」 擦り剥いた手をゆきちゃんに見せた。ゆきちゃんは何も言わず私の手を見ていた。 つかさ「ねぇ、結局未来のこなちゃんの話はどうなっちゃったのかな、それに未来のこなちゃんはどうやって来たのかな」 ゆきちゃんは目を上に向けて少し考えていた。そして、話に夢中になっているこなちゃんを見た。 みゆき「泉さんの顔を見てください、楽しげにかがみさんと話しています、よほど嬉しかったのでしょうね、すこし誇らしげにも見えます」 つかさ「え、こなちゃんが嬉しかったって、皆でコンサートに行けたって事?」 みゆき「いいえ、泉さんがつかささんを助けたからです、よほど嬉しかったのでしょうね、思えば人を助けるなんてそう簡単に出来るわけではありません」 つかさ「それは分かるような気はするけど……」 やっぱりゆきちゃんでも分からないのかな。 みゆき「逆につかささんが亡くなられたらどうでしょう、その悲しみはきっとご家族と同じ位になると想像できませんか?」 それは何となく分かる。私は頷いた。 みゆき「未来の泉さんの世界ではつかささんは亡くなられた、その悲しみが、想いが、時間と空間を越えた、そして、この世界のつかささんを救った」 つかさ「それって量子力学なの?」 ゆきちゃんは笑った。 みゆき「ふふ、学問とは全く別の話です、私の想像です、聞き流して下さい」 どちらにしても私はこなちゃんに助けられたのは確か。 つかさ「私の夢も説明できる?」 みゆき「不思議な夢ですね、しかし説明はできます、かがみさんの着ていた服は高校時代の休日、皆で買い物に行った時に購入された服ですね、私は覚えていますよ、     記憶の奥底にあった服のイメージが出てきたのかもしれませんね」 こなた「ちょっとつかさ、みゆきさんにも話してるんだから邪魔しないでよ」 つかさ「ご、ごめん」 ゆきちゃんはこなちゃんの話に参加した。そして、こなちゃんの独擅場が続いた。 食事が終わり解散となった。私とお姉ちゃんは帰りの電車に乗っていた。コンサート後のこなちゃんの話をしていた。 つかさ「最後は何も喋れなかったよ」 かがみ「あいつの独り舞台だったな、アニメとゲームの話意外であいつがあれほど興奮して話すのははじめて見たわ」 つかさ「そうだね」 その後お姉ちゃんは一言も話さなくなった。お姉ちゃんの様子が何となくさっきまでとは違った感じだった。私も声をかけ辛かった。電車を降りても話し合う事は無かった。 駅を降りて改札を出て暫く歩いた時だった。 かがみ「つかさ、待ちなさい」 二人は立ち止まった。お姉ちゃんは真剣な顔で私をみていた。そういえばもう少し先に行くと私がトラックに当たりそうになった所を通る。 つかさ「どうしたの、事故の話ならこなちゃんが全部しちゃったよ」 かがみ「事故ね、そうそう、つかさは助かった、そうだった、家でじっとしている必要はかった、そうよね……」 ソワソワして、悲しい顔になった。どうしてだろう。明らかにこなちゃん達と会っていた時と違う。 つかさ「もしかして、私が家を飛び出したの怒っているの?」 かがみ「怒る、何故私が怒る、つかさ、私に言いたい事があるならはっきり言いなさいよ、みゆきから聞いたんでしょ」 お姉ちゃんは何を聞きたいのか分からない。 つかさ「ゆきちゃん、ゆきちゃんがどうしたの、私はゆきちゃんと夢の話をしてただけだよ」 かがみ「話さなかったのか、みゆきらしいわね」 お姉ちゃんは肩を落とした。 つかさ「もう時間も遅いし帰ろう、何か話があるなら帰ってからでもいいよ」 駅の近くなのにもう殆ど人は居ない。お姉ちゃんの表情からするときっと話は長くなる。 かがみ「未来のこなたはつかさに外に出るなと言った、今更それが幻想だったとか夢だったとか言うつもりはない、あの事故を考えれば答えは一つしかない、     私がチケットを忘れなければこんな騒ぎにはならなかった、そもそも私がこなたからチケットを預からなければ良かったのよ、あのコンサートは元々     こなたの提案だった、一番行きたい人がチケットを持つべきだった、そんなのは直ぐに分かるはず、未来のこなたは何故そう言わなかった、それで全て解決しただろう」 お姉ちゃんの言っている意味が分かった。お姉ちゃんは自分を責めている。 かがみ「つかさ、何故あの時私でなくゆきがつかさの携帯電話に連絡したと思う?」 そういえばそうだった。何故なんだろう。 かがみ「出かける前つかさは私に言ったわよね、チケットを忘れるなって」 つかさ「言った、それは夢で……」 かがみ「私はつかさの夢の内容もろくに聞かないで出かけた、つかさが何故注意したのか、その真意を確かめなかった、私はチケットを持っている気になっていただけ、     昨日準備した時確かに入れた……入れていなかった、台所で鞄にチケットを入れるときお母さんと話している間に入れ忘れた、つかさに何て言えばいい、言えないわよ、     みゆきには駅で落としたと言って、駅でこなたに電話しようとしたけど出来なかった、私はこのまま中止になってもいいと思った」 つかさ「ゆきちゃんは私に電話した時、チケットが在るかって聞いてきたけど、それにこなちゃんにこなちゃんにチケットを取りに行くよう連絡したって」 かがみ「私が駅から戻ってきたらみゆきが電話をしていた、だから私は電話を切るように言ったのよ、みゆきは全く違う内容をつかさに話した、こなたに連絡したのはみゆきよ」 私やこなちゃんにバレるのが嫌だった。それでお姉ちゃんは私と話したくなかったのか。私がお姉ちゃんを怒らないようにゆきちゃんは嘘をついた。 つかさ「お姉ちゃん、黙っていたら夢と同じになっていたかも」 かがみ「そうよ、その通り、私はこなたとつかさの命を危険に曝した、少しばかりの見栄の為に……みんな私が悪い、許して……」 見たことのないお姉ちゃんだった。見栄っ張りの所があるのは知っていたけど、それがこんな形で出てくるなんて。目が潤んで今にも泣き出しそうなお姉ちゃん。 でもなぜかお姉ちゃんを責める気にはなれなかった。 つかさ「もういいよ、お姉ちゃん、終わった事だし、帰ろう」 かがみ「何故よつかさ、こなたもみゆきもそう、何故怒らない、何故よ」 逆切れ気味に怒鳴った。そういえばゆきちゃんも怒っていない。こなちゃんは私とゆきちゃんの携帯電話の会話は知らない。だけど知っていても怒らなかったと思う。 つかさ「それはね、私もこなちゃんも事故に遭っていないから、こなちゃんが事故に遭っていたら怒るよ、きっと未来のこなちゃんの世界ではそうだったかもね」 お姉ちゃんは黙って聞いている。さらに続けた。 つかさ「お姉ちゃんがチケットを忘れたのならどうやっても忘れていたと思うよ、私が注意しても忘れたくらいだから、私やこなちゃんは忘れん坊だから話にならないよね、     ゆきちゃんもああ見えて高校時代は結構忘れ物とかしてたんだよ、四人で一番しっかりしてるのがお姉ちゃん、だからこなちゃんはチケットを預けた、     未来のこなちゃんもお姉ちゃんに注意しなかった、それにお姉ちゃんは言ったでしょこなちゃんはバカじゃないって、違うかな?」 かがみ「今となっては違うかどうかも確かめられないわ、未来のこなたに聞かないかぎりね」 四年後になったら私の会った四年後のこなちゃんとは違うこなちゃん。もう永遠に聞けない。だけど分かるよ。 つかさ「ほら、見てお姉ちゃん」 俯いたお姉ちゃんを呼んだ。お姉ちゃんは私を見た。 かがみ「見るって、何を見るんだ?」 つかさ「私だよ、私は事故に遭ってないしまだ生きているよ、もう歴史は変わったよね」 私をみてお姉ちゃんは笑った。 かがみ「ふふ、気楽なもんだな、その性格少し分けて欲しい」 『わっー!!!!』 つかさ・かがみ「ひぃー」 突然後ろから声がした。私は仰け反って驚いた。私とお姉ちゃんは後ろを向いた。そこにまつりお姉ちゃんが居た。 まつり「こんな所で二人とも何してるの?」 ニヤニヤしながら私達を見ていた。 かがみ「ちょっと、驚かさないでよ」 いのり「まつり、かがみ……つかさまで居るのね、何しているの?」 いのりお姉ちゃんの声、私達が声のする方を向くと、いのりお姉ちゃんとお父さん、お母さんが立っていた。 まつり「うゎー、駅で家族全員と鉢合わせなんて、偶然もいいところだね」 みき「こんな遅くまで、まったく、夜遊びもほどほどにしないと……」 まつり「夜遊びじゃない、こっちは仕事で遅くなったの、それより、かがみとつかさの方が危ない」 いきなり私達に振られてしまった。 かがみ「ちょ、何も知らないのに言い掛かりはやめてよ」 まつり「声をかけたら驚いたじゃない、それがなによりの証拠」 かがみ「後ろから大声でこられたら誰だって驚くわよ」 お姉ちゃんとまつりお姉ちゃんがいつもの言い合いの喧嘩を始めた。 みき「いい加減になさい、こんな道端で喧嘩なんかしない」 お母さんが間に入って事態は収まった。 ただお「なんの約束もしていないのにこうやって自然に集まるのも不思議なものだ」 私が事故に遭って死んでいたらどうなっていただろう。それはあの時、四年後の未来から来たこなちゃんを思い出せば分かるよ。 悲しげだった。少なくとも皆はこうしていられないのは分かる。 いのり「皆で帰りましょう」 いのりお姉ちゃんの一言で皆は家の方向に歩き出した。そうだ、あの交差点を通る。私は腕時計を確認した。午後十一時五十分。まだ今日は終わっていない。 つかさ「ねぇ、折角皆集まったから、こっちの道から帰ろうよ」 まつり「えー、その道って橋を渡らない遠回りの道じゃない、もう私は疲れてクタクタ、早く帰りたい」 いのり「私はどっちでもいい」 かがみ「こっちの道に行くと美味しいお菓子屋さんがあるわ、皆に教えてあげる」 私に目で合図をした。お姉ちゃんは私の意図が分かったのかもしれない。 みき「かがみがたまに買ってくるあのお菓子ね、ついでだから教えてもらおうかしら」 ただお「懐かしいな、子供の頃はわざわざ遠回りして帰ったものだ、たまには遠回りでもいいじゃないか、まつり」 お父さんの言葉にまつりお姉ちゃんは渋々頷いた。  駅から家までの十数分、家に着けば未来のこなちゃんが言う事故は無かった事になる。歴史は変わる。そして私はこれからも生きていける。 ゆきちゃんは帰りがけに言った。パラレルワールドは考えられる全ての可能性の数だけの世界があるって。だから私の見た夢の通りになった世界もあるに違いない。 こなちゃんが事故で死んだ世界。私が死んだ世界。お姉ちゃんが……。もういいや。そんな考えをしていたら鬱になっちゃうよね。私は転んで擦り剥けた手を見た。 これからはもう未来のこなちゃんの世界とは違う世界が待っている。未来はどうなってしまうのか分からない。もっと悲しい事がおきるかも。もっと楽しい事が起きるかも。 それはほんの数秒の違いで変わっちゃう。私にはそんな数秒の判断なんかできないよ。でもこうしている間にも何かが変わっているのかもしれない。皆の歩きが遅くなった。 みんな楽しそうだな。お姉ちゃんがまつりお姉ちゃんにお菓子のお店を教えていた。あのお菓子のお店は私もよく買いに行っている。今度こなちゃん達にも教えよう。 これからも皆と一緒に居られますように。心の中で祈った。  家に入ると丁度日が変わっていた。私は携帯電話を取り出してこなちゃんとゆきちゃんにメールを打った。 『無事に家に着いたよ』 すぐに返事が来た。 『よかった』『よかったですね』 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 相変わらずこの手の作品はハラハラさせられるなぁ &br()所で、未来人こなたは結局何者だったんだ? -- 名無しさん (2017-04-24 22:55:06) - 最後の最後までハラハラしたけど何も無くて良かった -- 名無しさん (2011-08-05 15:42:13) - 最後の最後までつかさが死ぬんじゃないかって不安だった -- 名無しさん (2011-05-10 18:57:13)

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