ID:7fyVvAGy0氏:花見

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 大学最後の春休み、つかさはもう社会人、みゆきは大学院に進学すると言っていた。こなたと私は来年卒業だ。まさかこなたが留年しないでここまでくるとは思わなかった。 日下部と同じ大学だったのが幸いしたのか。否、いまだにジャンケンでレポートの書く順番をやっているみたいだし、全く変わっていない。 今日は高校時代の友人とお花見をする……とは言っても集まったのはいつもの四人だけ。いつも集まりはいいはずなのだが何故か今日に限っては用事が重なったようだ。 『花見』 こなた「ここなんかいいね」 こなたはシートを広げ始めた。 かがみ「まてまて、なんでいつもそうなのよ、まだ誰もそこが良いって言ってないでしょ」 いつもこなたは勝手に物事を進めてしまう。よく考えもしないで。昔からいつもそう。もっと良い場所があるに違いない。もう少し探してからでも遅くはない。 つかさ「でも、ここが一番いいかも」 みゆき「そうですね」 つかさとみゆきが賛同した。 かがみ「まだ良い場所がきっとあるわ」 私は少し向きになった。そんな私を尻目につかさは私の後ろを指差した。振り返ると太い幹が私の目に飛び込んだ。視界を塞ぐような太さ。見上げると空を覆い隠すように 枝を広げその枝に淡い桃色の花が咲き乱れている。ソメイヨシノ。今まで見たことのないスケールだった。八分咲きと言った所か、その迫力と美しさに私は言葉を失った。 この公園は何度も来ているのにこんな木があったなんて。私はそのままこなたの敷いたシートに腰を下ろした。つかさは早速作ってきた料理を並べ始めた。 もちろん私も手伝った。そこにみゆきが手作りのクッキーを添えた。 こなた「やっほー、さすがつかさだね、とっても美味しそうだ、みゆきさんも手作り感が出てていいね、この変なのはかがみの?」 かがみ「変なので悪かったな、こなたは何を持ってきた」 こなた「花見と言ったらこれしかないでしょ」 こなたはかばんを開けてビンを取り出した。焼酎、日本酒、ビール……お酒。 こなた「かがみ、よその目は、もう私たちは二十歳過ぎてるからダメとは言わせないよ」 私が何を言うのか先読みしたようだ。お酒を持ってきたのを怒っているとでも思ったのか。私の言いたいのはそんな事じゃない。 かがみ「あんたそんなに持ってきて全部飲むつもりなのか、このメンバーに酒豪がどこにいる」 こなた「まあまあ、余ったら持って帰ればいいんだし、つかさ、みゆきさん飲む?」 つかさ「折角だからもらっちゃおうかな~」 みゆき「料理もあることですし……いただきます」 つかさは紙コップを人数分並べた。こなたはそこに景気よく日本酒を注ぎ始めた。こなたの態度がなぜかムカついた。 こなた「皆で乾杯しよう~」 三人は紙コップを手に持った。 こなた「かがみ、コップを持って、乾杯の音頭とってよ」 皆の視線が私に集まる。 かがみ「私は飲まないからこなたがしなさいよ」 こなた「ちぇ、かがみは付き合い悪いね、私たちだけで飲もう」 こなた・つかさ・みゆき「かんぱい~」  こなた達はコップのお酒を飲み始めた。つかさの作った料理が次々と配られる。私は少し離れて桜の木を眺めていた。 お酒は別に飲めない訳ではない。飲む気分になれないだけ。心配なのはつかさだ。つかさがお酒を飲んでいる所を見たのは一回もない。飲み方を知っているのか。 もっともつかさはもう社会人だ。そのくらいの嗜みは心得ているだろう。そうは言ってもほんの数年前まで高校生だった私達、もうお酒を飲み交わす歳になったのか。 咲き乱れている桜、小学校、中学校、高校、そして大学。幾度となくこの花を見ている。毎年毎年。私は幼少の頃の自分を思い出して物思いに耽っていた。  どのくらい経ったか。おそらく一時間は経っていないだろう。楽しげに会話が弾んでいるこなた達。笑い声が私の耳に入ってきた。 一人で物思いの耽るのも飽きた頃。私はこなた達の方に目線を向けた。ふとつかさの顔を見た。酒で酔っているのか顔が、特に頬がほんのりと赤くなっている。 唇もこの公園に来るときよりも赤く見える。口紅を塗っているみたいだった。目も少し潤んでいるように見える。ドッキっとした。艶やかだ。 女の私から見ても嫉妬するくらい色っぽく見える。あれがつかさなのか。違う。そこに居たのは大人の女性、つかさだった。 それに引き換え私は、こなたが私の言うことを聞かないだけでふて腐れて……子供の様だ。自分が情けなくなってきた。 みゆき「かがみさん」 声のする方を向いた。どうやらこなたとつかさの会話に付いていけなくなったみたいだ。みゆきの持っているコップには殆どお酒が残っていない。 私はお酒の入ったビンを持ってみゆきに差し出した。みゆきも持っていたコップを私に差し出す。 みゆき「かがみさんの姿があまりに悲しげでした、大丈夫ですか」 妹を見て嫉妬していたなんていえる筈もない。 かがみ「桜を見ていたらなんか昔を思い出しちゃってね」 みゆき「そうですか」 みゆきも酔っている。でもつかさほど変わっては見えない。みゆきは私の注いだお酒を飲むと桜の木を見つめた。 みゆき「このソメイヨシノ、かなりの樹齢のようですが、本来ソメイヨシノはそんなに寿命は他の木に比べると長くはないのです、人間と同じくらいの寿命で枯れてしまう     ものもあるそうですよ、この桜は人の手を加えられて大事にされているみたいですね」 かがみ「どうして寿命が短いのよ、葉よりも先に花を咲かすから負担がかかるのか?」 みゆき「それなら桃等も同じです、おそらくソメイヨシノは品種的に弱いのかもしれません、しかしこの桜は別物のようです」 かがみ「命を削ってまで毎年花を咲かすなんて、私たちの為に毎年」 みゆき「どうでしょうか、桜は別に私達人間の為に花を咲かせている訳ではありませんよ、植物が花を咲かすのは、私たちが呼吸するように、食事をするように、     自然の営みにすぎません、私達人間が勝手に綺麗だと思っているに過ぎません」 酔っていてもみゆきはみゆきか、しかしみゆきはこんな皮肉じみた話し方はしない。 かがみ「どうしたのよ、みゆきらしくないわよ」 突然みゆきの目から涙が出てきた。 みゆき「来年になれば学生は私一人になってしまいます、またこのように皆さんが集まってくれるでしょうか、現に日下部さんやみなみは……     私達は学生のように自由でいられなくなります、何時の間にか疎遠になって忘れ去れるのではないかと」 日下部達が来られない理由はみゆきだって知っているはず。今更そんな事で泣くなんて。みゆきの涙の量は増えるばかり。まさかみゆきは泣き上戸なのか。 かがみ「だからこうして集まってるんでしょ、折角のお花見が台無しになっちゃうじゃない、私も飲ませてもらうわ、一緒に飲もう」 私は既にお酒が注がれたコップを手に取った。みゆきの潤んだ目が私を見ている。コップを口に近づけようとした時だった。突然後ろから誰かに抱きつかれた。 こなた「かがみ~助けて!!」 手に持っていたコップを溢しそうになった。コップを置いてこなたの方を向いた。こなたの顔は真っ赤だ。飲みすぎなのは一目瞭然。 かがみ「絡むなら後にしてくれ、今はみゆきと話しているところだ」 こなた「だって、つかさが、つかさが……」 必死に助けを求めている。私はつかさを見た。つかさは酒の瓶を持っていた。中身は八割くらい無くなっている。まさかつかさとこなたであれだけの量を飲んだのか。 あれほど艶やかだったつかさの表情は一変しこなたと同じように顔は真っ赤だ。これではただの酔っ払いじゃないか。 つかさ「私のお酒が飲めないって言うの、こなちゃん、早くコップ出して」 こなた「だ、だからもう飲めないって……許して~」 どうしてそうなった。経過を見ていないがつかさは酒癖が悪いのが今分かった。 つかさ「だーめ、許さない」 つかさは強引にコップに酒を注ごうとしているが目標が定まらず酒がシートに零れた。私はつかさから瓶を奪い取った。つかさは私を睨み付けた。 つかさ「お姉ちゃん邪魔しないで、私はこなちゃんと飲んでいるの、こなちゃんがいっぱい飲ませるから今度はこなちゃんの番だよ」 かがみ「こなた、あんた無理やり飲ませたのか」 こなた「知らない、知らないよ~」 もはや二人とも話をするような常態じゃない。私は二人の間に割って止めた。みゆきは更に泣き出した。私は三人の酔っ払いの世話をする羽目になった。  三人は静かに眠りについている。暴れるつかさ、泣きじゃくるみゆき、つかさから逃げようとするこなた、一人、一人言い聞かせて落ち着かせた。 こういった宴会で貧乏くじを引くのは決まって素面の人と相場は決まっている。私もさっさと飲んでいればよかった。今更後悔しても遅いか。 ふと周りを見回した。そこには私達と同じような光景があった。叫んでいる人、踊っている人、寝ている人もいる。男性だけの集団、女性だけの集団、 家族連れもいるみたいだ。よく見ると桜の木は他にあるのにこの大木を囲うように集っている。 私はもう一度桜の巨木を見上げた。見事という他はない。今まで見てきたどの桜よりも立派で美しい。しかし良く見てみると所々の枝に花が付いていない箇所があった。 かなりの樹齢のせいなのか。この桜はあと何回こうやって花を咲かせてくれるのだろうか。また見たい。いや。まだ見ていたい。来年も、少なくとも私が生きている間は 生きていて欲しい。そんな気分にしてくれる不思議な桜の木。込み上げてくる感情があった。みゆき……。みゆきも私と同じ気持ちだったのか。 またここで私達とこの桜を見たい。そう思ったのか。泣き上戸じゃなかった。泣かせてくれるじゃない。 暫く私は時間を忘れて老いた桜の木を見ていた。 こなた「つかさ~」 寝言を言っているのか。こなたを見た。その寝顔は穏やかそのものだ。つかさに絡まれていたとは思えない。こなたは何故無理に酒をすすめたんだ。 先につかさが潰れると思ったのか。今になって思えばつかさは社会に出て酒を飲む機会はいくらでもあったはず。こなた、つかさに勝負を挑んだのは失敗だったわね。 それとも私と同じようにつかさに嫉妬したのか。それに酒は競って飲むものではない。私は自分に注がれた酒の入ったコップを手に取った。私にとってはこの位の量で丁度いい。 まったく、飲みたい時に私の友達は先に酔いつぶれちゃって。私はため息をついた。 コップの酒を飲もうとした。コップの中に一枚の桜の花びらが浮いていた。 桜の木はこなた達の代わりに私に付き合ってくれるとでも……。普段の私ならそんな考えなんかしない。でも今の私はそんな自分を否定しない。 コップに酒を注ぎ桜の木の根元にそっと置いた。  来年、きっとここに来る。つかさ達も来る。そして来られなかった友人も連れてくる。約束します。だから貴方もまた綺麗な花を咲かせて。 「乾杯」 桜の老木に向かって乾杯をした。 つかさ達が目覚めたらお花見のやり直しをするか。お酒の無い本当のお花見をね。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
 大学最後の春休み、つかさはもう社会人、みゆきは大学院に進学すると言っていた。こなたと私は来年卒業だ。まさかこなたが留年しないでここまでくるとは思わなかった。 日下部と同じ大学だったのが幸いしたのか。否、いまだにジャンケンでレポートの書く順番をやっているみたいだし、全く変わっていない。 今日は高校時代の友人とお花見をする……とは言っても集まったのはいつもの四人だけ。いつも集まりはいいはずなのだが何故か今日に限っては用事が重なったようだ。 『花見』 こなた「ここなんかいいね」 こなたはシートを広げ始めた。 かがみ「まてまて、なんでいつもそうなのよ、まだ誰もそこが良いって言ってないでしょ」 いつもこなたは勝手に物事を進めてしまう。よく考えもしないで。昔からいつもそう。もっと良い場所があるに違いない。もう少し探してからでも遅くはない。 つかさ「でも、ここが一番いいかも」 みゆき「そうですね」 つかさとみゆきが賛同した。 かがみ「まだ良い場所がきっとあるわ」 私は少し向きになった。そんな私を尻目につかさは私の後ろを指差した。振り返ると太い幹が私の目に飛び込んだ。視界を塞ぐような太さ。見上げると空を覆い隠すように 枝を広げその枝に淡い桃色の花が咲き乱れている。ソメイヨシノ。今まで見たことのないスケールだった。八分咲きと言った所か、その迫力と美しさに私は言葉を失った。 この公園は何度も来ているのにこんな木があったなんて。私はそのままこなたの敷いたシートに腰を下ろした。つかさは早速作ってきた料理を並べ始めた。 もちろん私も手伝った。そこにみゆきが手作りのクッキーを添えた。 こなた「やっほー、さすがつかさだね、とっても美味しそうだ、みゆきさんも手作り感が出てていいね、この変なのはかがみの?」 かがみ「変なので悪かったな、こなたは何を持ってきた」 こなた「花見と言ったらこれしかないでしょ」 こなたはかばんを開けてビンを取り出した。焼酎、日本酒、ビール……お酒。 こなた「かがみ、よその目は、もう私たちは二十歳過ぎてるからダメとは言わせないよ」 私が何を言うのか先読みしたようだ。お酒を持ってきたのを怒っているとでも思ったのか。私の言いたいのはそんな事じゃない。 かがみ「あんたそんなに持ってきて全部飲むつもりなのか、このメンバーに酒豪がどこにいる」 こなた「まあまあ、余ったら持って帰ればいいんだし、つかさ、みゆきさん飲む?」 つかさ「折角だからもらっちゃおうかな~」 みゆき「料理もあることですし……いただきます」 つかさは紙コップを人数分並べた。こなたはそこに景気よく日本酒を注ぎ始めた。こなたの態度がなぜかムカついた。 こなた「皆で乾杯しよう~」 三人は紙コップを手に持った。 こなた「かがみ、コップを持って、乾杯の音頭とってよ」 皆の視線が私に集まる。 かがみ「私は飲まないからこなたがしなさいよ」 こなた「ちぇ、かがみは付き合い悪いね、私たちだけで飲もう」 こなた・つかさ・みゆき「かんぱい~」  こなた達はコップのお酒を飲み始めた。つかさの作った料理が次々と配られる。私は少し離れて桜の木を眺めていた。 お酒は別に飲めない訳ではない。飲む気分になれないだけ。心配なのはつかさだ。つかさがお酒を飲んでいる所を見たのは一回もない。飲み方を知っているのか。 もっともつかさはもう社会人だ。そのくらいの嗜みは心得ているだろう。そうは言ってもほんの数年前まで高校生だった私達、もうお酒を飲み交わす歳になったのか。 咲き乱れている桜、小学校、中学校、高校、そして大学。幾度となくこの花を見ている。毎年毎年。私は幼少の頃の自分を思い出して物思いに耽っていた。  どのくらい経ったか。おそらく一時間は経っていないだろう。楽しげに会話が弾んでいるこなた達。笑い声が私の耳に入ってきた。 一人で物思いの耽るのも飽きた頃。私はこなた達の方に目線を向けた。ふとつかさの顔を見た。酒で酔っているのか顔が、特に頬がほんのりと赤くなっている。 唇もこの公園に来るときよりも赤く見える。口紅を塗っているみたいだった。目も少し潤んでいるように見える。ドッキっとした。艶やかだ。 女の私から見ても嫉妬するくらい色っぽく見える。あれがつかさなのか。違う。そこに居たのは大人の女性、つかさだった。 それに引き換え私は、こなたが私の言うことを聞かないだけでふて腐れて……子供の様だ。自分が情けなくなってきた。 みゆき「かがみさん」 声のする方を向いた。どうやらこなたとつかさの会話に付いていけなくなったみたいだ。みゆきの持っているコップには殆どお酒が残っていない。 私はお酒の入ったビンを持ってみゆきに差し出した。みゆきも持っていたコップを私に差し出す。 みゆき「かがみさんの姿があまりに悲しげでした、大丈夫ですか」 妹を見て嫉妬していたなんていえる筈もない。 かがみ「桜を見ていたらなんか昔を思い出しちゃってね」 みゆき「そうですか」 みゆきも酔っている。でもつかさほど変わっては見えない。みゆきは私の注いだお酒を飲むと桜の木を見つめた。 みゆき「このソメイヨシノ、かなりの樹齢のようですが、本来ソメイヨシノはそんなに寿命は他の木に比べると長くはないのです、人間と同じくらいの寿命で枯れてしまう     ものもあるそうですよ、この桜は人の手を加えられて大事にされているみたいですね」 かがみ「どうして寿命が短いのよ、葉よりも先に花を咲かすから負担がかかるのか?」 みゆき「それなら桃等も同じです、おそらくソメイヨシノは品種的に弱いのかもしれません、しかしこの桜は別物のようです」 かがみ「命を削ってまで毎年花を咲かすなんて、私たちの為に毎年」 みゆき「どうでしょうか、桜は別に私達人間の為に花を咲かせている訳ではありませんよ、植物が花を咲かすのは、私たちが呼吸するように、食事をするように、     自然の営みにすぎません、私達人間が勝手に綺麗だと思っているに過ぎません」 酔っていてもみゆきはみゆきか、しかしみゆきはこんな皮肉じみた話し方はしない。 かがみ「どうしたのよ、みゆきらしくないわよ」 突然みゆきの目から涙が出てきた。 みゆき「来年になれば学生は私一人になってしまいます、またこのように皆さんが集まってくれるでしょうか、現に日下部さんやみなみは……     私達は学生のように自由でいられなくなります、何時の間にか疎遠になって忘れ去れるのではないかと」 日下部達が来られない理由はみゆきだって知っているはず。今更そんな事で泣くなんて。みゆきの涙の量は増えるばかり。まさかみゆきは泣き上戸なのか。 かがみ「だからこうして集まってるんでしょ、折角のお花見が台無しになっちゃうじゃない、私も飲ませてもらうわ、一緒に飲もう」 私は既にお酒が注がれたコップを手に取った。みゆきの潤んだ目が私を見ている。コップを口に近づけようとした時だった。突然後ろから誰かに抱きつかれた。 こなた「かがみ~助けて!!」 手に持っていたコップを溢しそうになった。コップを置いてこなたの方を向いた。こなたの顔は真っ赤だ。飲みすぎなのは一目瞭然。 かがみ「絡むなら後にしてくれ、今はみゆきと話しているところだ」 こなた「だって、つかさが、つかさが……」 必死に助けを求めている。私はつかさを見た。つかさは酒の瓶を持っていた。中身は八割くらい無くなっている。まさかつかさとこなたであれだけの量を飲んだのか。 あれほど艶やかだったつかさの表情は一変しこなたと同じように顔は真っ赤だ。これではただの酔っ払いじゃないか。 つかさ「私のお酒が飲めないって言うの、こなちゃん、早くコップ出して」 こなた「だ、だからもう飲めないって……許して~」 どうしてそうなった。経過を見ていないがつかさは酒癖が悪いのが今分かった。 つかさ「だーめ、許さない」 つかさは強引にコップに酒を注ごうとしているが目標が定まらず酒がシートに零れた。私はつかさから瓶を奪い取った。つかさは私を睨み付けた。 つかさ「お姉ちゃん邪魔しないで、私はこなちゃんと飲んでいるの、こなちゃんがいっぱい飲ませるから今度はこなちゃんの番だよ」 かがみ「こなた、あんた無理やり飲ませたのか」 こなた「知らない、知らないよ~」 もはや二人とも話をするような常態じゃない。私は二人の間に割って止めた。みゆきは更に泣き出した。私は三人の酔っ払いの世話をする羽目になった。  三人は静かに眠りについている。暴れるつかさ、泣きじゃくるみゆき、つかさから逃げようとするこなた、一人、一人言い聞かせて落ち着かせた。 こういった宴会で貧乏くじを引くのは決まって素面の人と相場は決まっている。私もさっさと飲んでいればよかった。今更後悔しても遅いか。 ふと周りを見回した。そこには私達と同じような光景があった。叫んでいる人、踊っている人、寝ている人もいる。男性だけの集団、女性だけの集団、 家族連れもいるみたいだ。よく見ると桜の木は他にあるのにこの大木を囲うように集っている。 私はもう一度桜の巨木を見上げた。見事という他はない。今まで見てきたどの桜よりも立派で美しい。しかし良く見てみると所々の枝に花が付いていない箇所があった。 かなりの樹齢のせいなのか。この桜はあと何回こうやって花を咲かせてくれるのだろうか。また見たい。いや。まだ見ていたい。来年も、少なくとも私が生きている間は 生きていて欲しい。そんな気分にしてくれる不思議な桜の木。込み上げてくる感情があった。みゆき……。みゆきも私と同じ気持ちだったのか。 またここで私達とこの桜を見たい。そう思ったのか。泣き上戸じゃなかった。泣かせてくれるじゃない。 暫く私は時間を忘れて老いた桜の木を見ていた。 こなた「つかさ~」 寝言を言っているのか。こなたを見た。その寝顔は穏やかそのものだ。つかさに絡まれていたとは思えない。こなたは何故無理に酒をすすめたんだ。 先につかさが潰れると思ったのか。今になって思えばつかさは社会に出て酒を飲む機会はいくらでもあったはず。こなた、つかさに勝負を挑んだのは失敗だったわね。 それとも私と同じようにつかさに嫉妬したのか。それに酒は競って飲むものではない。私は自分に注がれた酒の入ったコップを手に取った。私にとってはこの位の量で丁度いい。 まったく、飲みたい時に私の友達は先に酔いつぶれちゃって。私はため息をついた。 コップの酒を飲もうとした。コップの中に一枚の桜の花びらが浮いていた。 桜の木はこなた達の代わりに私に付き合ってくれるとでも……。普段の私ならそんな考えなんかしない。でも今の私はそんな自分を否定しない。 コップに酒を注ぎ桜の木の根元にそっと置いた。  来年、きっとここに来る。つかさ達も来る。そして来られなかった友人も連れてくる。約束します。だから貴方もまた綺麗な花を咲かせて。 「乾杯」 桜の老木に向かって乾杯をした。 つかさ達が目覚めたらお花見のやり直しをするか。お酒の無い本当のお花見をね。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - これ、すごくイイね。 -- 名無し (2011-04-12 15:24:18)

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