ID:0ml > YBN10氏:家族の近景(ページ2)

「ID:0ml/YBN10氏:家族の近景(ページ2)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ID:0ml/YBN10氏:家族の近景(ページ2)」(2011/02/20 (日) 23:56:42) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<p> </p> <p> 二時間後。</p> <p>「あぁーーー、すっきりしたぁ!」</p> <p>「ええ、本当に楽しかったですね」</p> <p>「みゆきがねえ……ふふ、いきなり『地上の星』なんて、お母さんびっくりしちゃった」</p> <p>「ええと、それは……みんな友達のアイディアで……ほら、見てください。手がまだこんなに震えてるんですよ」</p> <p>  『カラオケの鉄人』から出てきた彼女たちの表情は晴れそのものだった。紅潮した頬はほころび、目からは憂鬱の影が消え失せていた。二人はまるで仲良しの友達同士のように嬌声を上げながら、来た道を辿って家路に着きはじめた。</p> <p> </p> <p>「みゆき、ホントにごめんね」</p> <p> 明るい街から離れ熱も次第に治まった頃、二人の会話は少しだけトーンを落としたものになる。</p> <p>「お母さんみゆきにたくさん心配させちゃった……いけないってわかってたんだけど……私、もっとお母さんらしくしなきゃね」</p> <p> ゆかりが目を伏せて話すと、みゆきは殊更に顔を上げて、夜空に向かって話しかけているように応えた。</p> <p>「いえ、お母さんはそのままでいてください……そんなお母さんだから、私……がんばれるんです」</p> <p> 肩を並べた母娘の視線が、重なる。</p> <p>「それじゃあ私、もっとみゆきちゃんに甘えちゃおっかな?」</p> <p>「もう、そうじゃなくって……」</p> <p> 爽やかな笑い声が、夏の夜に広がっていった。</p> <p> </p> <p>「みゆき、明日はどうするの?」</p> <p>「明日は……夕方から家庭教師ですけど、どうかしましたか?」</p> <p>  それを聞いてゆかりは少女のような、悪戯な笑顔を浮かべた。いつもなら、みゆきはその表情に対して少しだけ身構えるのだが、今夜に限ってはそんな気持ちはまるで起きなかった。</p> <p>「それじゃあ帰ったら私がおいしいごはん作るから、楽しみにしててね。それに、今日がなんの記念日かも教えてあげる」</p> <p>「……いいんですか?」</p> <p>「いいって、ごはんのこと?記念日のこと?」</p> <p>「ええと、記念日のほうです」</p> <p> </p> <p> みゆきは戸惑う。きっと知ることはないと思っていた両親の記念日の秘密を、こんなにあっさりと聞かせてもらえるなんて、考えてもみなかったことだ。<br />  ゆかりはくすくすと微笑んで歩みを止める。そして、釣られて立ち止まったみゆきの頬を両掌で包み込み、あらためてみゆきの目を、瞳の奥を見つめた。</p> <p>「だって、みゆきったらもう大人になっちゃったんだもの」</p> <p>  みゆきの顔にさあっと喜びの色が広がり、彼女は反射的にそれを隠すようにうつむいた。ゆかりは柔和な笑顔のままみゆきの頭をなでて、再び歩き始める。彼女はもう頭の中では、今日のために用意した豪華な食材の調理に考えを向けていた。みゆきは四、五歩下がってゆかりについて歩く。彼女も既に頭の中では、ゆかりとキッチンに並んでいる画を描いていた。<br />  そのうちに二人はもう一度肩を並べ、今晩の献立についてあれやこれやと話し始めたのだった。</p> <p>  繁華街は既に遠ざかり、二人は再び夜の住宅街を歩く影となっていた。しかしその足取りは軽く、華やいだ声が途切れることはない。点々と立つ街の灯に照らされる母娘の姿は、幸福を切り取った印画紙のようだった。</p> <p> 二人は知らない。</p> <p> 誰も居ないはずの家に明りが点っていることを。<br /> 彼が不安も露に二人を待ち続けていることを。<br /> そして皆が笑顔になり、幸せに包まれることを。</p> <p> 二人はまだ、知らない。<br /><br />  </p>
<p>このページは間違えです</p> <p> </p>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。