「ID:qWXePX.0氏:つかさのだいえっと」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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とある日の柊家。つかさとかがみは、ポッキーをかじりながらテレビを見ていた。
「なに、かがみ。ダイエット成功したと思ったら、もうお菓子?また太るわよ」
そこに入ってきたまつりが、からかい口調でかがみにそう言った。
「大丈夫よ。今度は考えて食べてるから」
むっと口を尖らせてかがみがそう言うと、まつりは呆れたように溜息をついた。
「それ、前も言ってたけど、結局今回のダイエットになったじゃない」
「…今度は大丈夫よ」
かがみは強気に答えたものの、不安になったのかポッキーを食べる速度が少し遅くなった。
「それにしても、かがみに付き合ってよくお菓子食べてるわりには、つかさがダイエットしてるところ見たこと無いわね」
まつりは今度はつかさに声をかけた。
「…え?…あ、わ、わたしはそういうのあまり気にしないから…」
テレビに集中してたのか、少し間をおいてからつかさは答えた。
「ふーん…自分が作った料理の試食とかもしてるし、実はお腹周りエライことになってるんじゃないのー?」
言いながらまつりは、つかさの服に手を差し込んできた。
「ひゃっ!?な、なにするのまつりお姉ちゃんっ!くすぐったいよー!」
抗議するつかさを無視して、まつりはお腹の肉をつまみ…動きを止めた。
「…まつり姉さん?どうかした?」
まつりの様子がおかしいことに気がついたかがみがそう聞くと、まつりはゆっくりとつかさから身を離した。
「つかさ…ごめん…ホントにごめん…」
「え、な、なに…?どうしたの…?」
真剣な表情でうつむくまつりに、つかさは戸惑った。
「…あんたのお腹…シャレになってないわ…」
― つかさのだいえっと ―
お昼休み。いつもの四人が集まり、いつも通りのお昼ご飯。
「………ん?」
そのはずだったのだが、どうにもいつも通りではない違和感に、こなたは首をかしげた。
「つかさ、ご飯は?」
自分にかがみ、みゆきの前にはお昼ご飯があるというのに、つかさの前には飲み物が入ってるであろう水筒があるだけだった。
「…えーっと…ちょっと食欲がなくて…」
「わたしじゃあるまいし、素直にダイエットって言いなさいよ」
誤魔化そうとするつかさの横から、かがみがあっさりと真相をばらした。それを聞いたこなたとみゆきは、どちらとも無く顔を見合わせた。
「…ダイエット?」
「…かがみさんでなく、つかささんが?」
そして二人とも信じられないといった表情で、つかさとかがみを見比べた。
「わたしなわけないでしょう。ダイエット成功したばっかなんだし」
かがみの言葉に、こなたは風呂上りっぽい時間に電話でダイエット成功譚を披露されたのを思い出した。
「そう言えば、お電話でそのようなことを…」
そうポツリと呟くみゆきの方に、こなたは顔を向けた。
「あ、みゆきさんもかがみから電話きたんだ」
「はい」
みゆきも答えながらこなたのほうを向く。
「…ちなみに何時間?」
「…二時間ほどです」
「…わたしは三時間」
そして、二人同時にかがみのほうを向いた。
「な、なによ。いいじゃない、嬉しかったんだから…少しくらい自慢話してもいいでしょ?」
「…いや、少しならいいんだけどね」
こなたは困った顔で頬をかきながらつかさの方を向いた。
「でも、つかさってダイエットしたこと無いんじゃない?急にそんなの始めて大丈夫なのかな」
「大丈夫よ。経験者のわたしがついてるんだから」
こなたの問いにかがみがそう答えると、こなたは再びみゆきと顔を見合わせた。
「みゆきさん…これが失敗フラグというものだよ」
「そうですか…勉強になります」
「…あんたらなー」
「いや、だってねえみゆきさん…」
「ええ、なんといいますか…」
こなたとみゆきは同時にいつもの倍はあろうかというかがみの弁当を見た。
「い、いいでしょ別に。今回は理想体重よりだいぶ落ちたんだからさ…っていうかこれつかさの分も入ってるのよ。残したら勿体ないでしょ?」
二人の視線に気がついたかがみが慌ててそう言うと、こなたはお手上げのジェスチャーをし、みゆきは困ったような顔で溜息をついた。
「な、なによー、いいじゃない…」
二人の態度に文句らしきものを呟きながら、かがみはやや早いペースで弁当のおかずを口に放り込んだ。
そして、三人がそんな話をしてる中、つかさはコップに入れた飲み物を黙ってチビチビと飲んでいた。
「あれは、まずいんじゃないかな」
その日の放課後。こなたは一緒に帰り道を歩いているみゆきにそう言った。かがみとつかさは寄るところがあると、つい先ほど別れたばかりだ。
「あれとは…つかささんのことですか?」
「うん。いきなり絶食とかは良くないと思うんだけど」
こなたの言葉に、みゆきは顎に人差し指を当てて考える仕草をした。
「でも、つかささんは食べ物や栄養といったものにはお詳しいですから、ちゃんと考えているのではないでしょうか。たとえば、家ではきちんと食べていて、お昼のみを抜いているとか…」
「ああ、なるほどね」
こなたは納得したようにうなずいたが、すぐに眉間にしわを寄せた。
「けど…アドバイザーにかがみがついてるんだよね。かがみが強く勧めたら、つかさは断りきれないんじゃないかな」
「それは…そう…かもしれませんね…」
歯切れ悪く肯定するみゆきに、こなたは苦笑して見せた。
「今ここにかがみいないんだし、そんな気使わなくていいよ、みゆきさん」
軽い口調でこなたにそう言われ、みゆきは少し顔を赤らめて俯いた。そして、ふと何かを思いついたように顔を上げ、こなたのほうを見た。
「そう言えば以前かがみさんにも仰ってましたよね?」
「え、なにを?」
「絶食だけはするなって…泉さん。何かあったのでずか?」
「んー…いや、単に身体壊すからだってことなんだけど…ネットとかで話聞いてたら、絶食交えたダイエットで酷い目にあってる人、結構いるみたいだからさ」
「そうでしたか…」
みゆきはまたもう少し考えると、今度はこなたの顔を覗き込んで微笑んだ。
「な、なに?みゆきさん…」
「なんだかんだ言っても、やっぱり泉さんは友達思いの方ですね。ネットで情報を仕入れたのは、かがみさんのためですか?」
「へ?い、いやそんなんじゃ…休まれたりしたら学校がちょっとつまんなくなるって感じで…」
「ツンデレですか?」
「は?ち、違うよそんなんじゃ…」
「ツンデレですね」
「違うってば…もー、みゆきさんなんか意地悪だよ。ってか新しく覚えた言葉使いたがる子供みたいだよ」
むくれ顔でそう言うこなたを見て、みゆきはクスクスと笑い出した。
「すいません、なんだかかがみさんやつかささんが羨ましくて…」
「羨ましい?どうして?」
「こうやって、泉さんに心配していただけるのですから」
「いや、そんなの羨ましがられても…てか、みゆきさん心配するところないし」
「そうですか…なんだか残念です」
「本気で残念がられても困るけど…いや、みゆきさん、話ずれてきてるよ。つかさのダイエットのこと…って、あれ、かがみ?」
こなたが驚いた声を上げながら前のほうを指差した。みゆきがそちらの方を見ると、かがみが一人で歩いているのが見えた。
「お一人でしょうか?」
「みたいだね…おーい、かがみー!」
こなたの呼び声に気がついたかがみは、なにやら複雑な表情で近づいてきた。
「二人とも、まだこんなところに居たんだ」
「それはこっちの台詞だよ、かがみ。つかさはどうしたの?一緒じゃないの?」
こなたがそう聞くと、かがみは頬をかいて横を向いた。
「いや、それが…歩いて帰るんだって…」
「…は?」
「…歩いて…ですか?」
かがみの言葉に、こなたとみゆきは目を丸くした。
「い、家まで?…いや、いくらなんでもそんなことないよね。一駅だけ歩くとかそんなだよね」
「そ、そうですね。ウォーキングは健康にもいいですし…」
こなたとみゆきの言葉にも複雑な表情を崩さないかがみに、こなたはなんとなく不安を覚えた。
「かがみ、どうかしたの?」
「…今日のお昼ご飯ね。抜くって言ったの、つかさなのよ」
「え、つかささんが…ですか?」
こなたとみゆきは思わず顔を見合わせた。それを見たかがみがため息をつく。
「わたしはね、最初から無理なことしないほうがいいって言ったのよ。献立見直すとか、ほんの少し減らすとかそれくらいからやろうって…でも、もうお昼無しでいいってつかさが…」
顔を見合わせながらかがみの言葉を聞いていた二人は、うなずきあうとかがみに向かって深々と頭を下げた。
「な、なに?」
「ごめん、かがみ」
「かがみさんのこと、誤解していたようです」
かがみは首をかしげながら少し考え、昼の会話を思い出した。
「…そういや、失敗フラグとか言ってたわね。わたしが口出したせいで、つかさが無理してるとか思ってるわけね」
かがみが睨みつけるような顔つきでそう言うと、二人はゆっくりと顔を逸らした。
「そうよねー。わたしのダイエットなんて失敗の方が多いものねー。この前のもたまたまかも知れないものねー。ふーんだ、どうせわたしはそういうキャラですよー」
「か、かがみさん、すねないでください…」
ふてくされながら道端の小石を蹴り始めたかがみを、みゆきが懸命になだめようとする。こなたはそんな二人を見ながら、複雑な表情で頬をかいた。
「かがみ、いい感じに壊れてるなー。ダイエット成功したのがそんなに嬉しかったのかな…ていうか」
こなたは、つかさが歩いて行ったであろう家のあるほうを向いた。
「なんか、嫌な予感がするんだよね」
そして、ポツリとそう呟いた。
その日の晩、こなたが部屋でベッドに寝転び漫画を読んでいると、傍らにおいた携帯が着信音を鳴らした。
「…かがみ?なんだろう…ほーい、なにー?」
こなたが電話に出ると、ボソボソとかがみらしき呟き声が聞こえてきた。
「え?なに?かがみ、よく聞こえないんだけど…」
「…つかさが…ついさっき帰ってきたわ…」
「…え?」
こなたはベッドから跳ね起きて部屋の時計を見た。部活をやっていたとしても、こんなに遅くはならないだろうと言うくらいの時間だ。
「え、ええええっ!?じゃあ、つかさマジで!?」
「…うん、家まで歩いて帰ってきたみたいなのよ…」
思わず大声を出すこなたと、対象に疲れたような小声のかがみ。こなたは深くため息をついて呼吸を整えた。
「…で、つかさは?」
「寝てるわ…帰ってきてすぐにね。明日が休日でよかったわ。あの分だと確実に朝起きられないわね」
「親御さん、怒ってるんじゃ…」
「呆れてるって言うか…何言っていいかわからないって感じね」
「そ、そう…」
正直なところこなたもどう言っていいのかわからなかったが、友人としてなにか言わなければと、懸命に言葉を捜した。
「と、とりあえずその…なんとか頑張って」
だが、結局言えたのはそれくらいだった。そして、少ししてから携帯の向こう方コツンという音がして、電話は切れてしまった。
「…もしかしてうなずいたの?…大丈夫かな」
友人の奇行に、こなたは小さくため息をついた。
「こなたー!つかさがいじめるのー!」
「…ナニゴトデスカ…」
翌日のお昼過ぎ。いきなり家に来て泣きいてきたかがみに、こなたはどうしていいかわからずに、抱きつかれ揺さぶられるがままになっていた。
「いや、かがみ本気で落ち着こう…一体なにがあったの?」
「うぅ…お昼前につかさが起きてきたから、無理しないようにって言おうとしたら…」
『大丈夫だよ、わたし一人で出来るから』
『そう言ってもね…昨日もかなり無理してたでしょ?そう言うことならわたしが教えてあげるから…』
『…お姉ちゃんのダイエット、成功率低いからいいよ』
「ってつかさがーっ!」
「いや、いじめられてないっていうか、ホントのことじゃないかな…」
「こなたまでーっ!」
「…いやいや」
こなたはどうしていいかわからず、天を仰いでため息をついた。
「泉さん、そういうことはあまりはっきりとは言わない方が…」
「いや、みゆきさん。そうは言ってもこういう場合…ってみゆきさん!?」
自分の後ろから聞こえてきた声に驚きこなたが振り向くと、いつの間にかみゆきがちょこんと正座で座り込んでいた。
「お邪魔してます、泉さん」
「あ、うん。いらっしゃい、みゆきさん」
丁寧に礼をしながら挨拶をするみゆきに、こなたも挨拶を返した。そしてこなたは、顔を上げて眉間にしわを寄せた。
「いや、っていうかなんでここにいるの?」
「実は、昨日のことが気になりましてつかささんを訪ねたのですが、かがみさんがこちらにと聞きまして…」
行動を読まれているのか、律儀に行き先を言って出てきたのか、どちらにしてもかがみらしい間の抜け方だなとこなたは思い、そしてみゆきの言葉に疑問を感じた。
「いや、みゆきさん。それじゃ話が繋がんないよ」
「え、あ…そうですね。えっと、お家を訪ねたさいに、つかささんからかがみさんの伝言を預かりしまして、こちらに来ました」
「それを先に言おうよ…」
半ば呆れながらそう言って、こなたはみゆきが来ている事にすら気がついていないのか、未だにうつむいてメソメソしているかがみの方に向き直った。
「かがみ、かがみ。みゆきさんがつかさからの伝言持ってきたって」
「…ふえ?」
かがみはこなたの言葉に顔を上げ、そしてこなたの後ろにいるみゆきに気がついた。
「つかさの伝言?」
かがみがそう呟くと、みゆきは微笑みながらうなずいた。
「もう帰ってくるなって?」
「いやいやいや」
続いて出たかがみの呟きに、こなたは顔の前で左手を振った。
「いくらなんでもネガティブすぎでしょ」
「かがみさん、つかささんと喧嘩をされているわけではないのですから…」
「…うぅ、だって…」
「つかささんは、なんだかよく分からないから一度家に帰ってきて欲しいと仰ってましたよ」
「ホントに…?」
「はい」
うなずきながら微笑むみゆき。かがみは少し考えるようにうつむいた。
「…うん、じゃあ…」
そして聞こえてきたかがみのつぶやきに、こなたは安堵のため息をついた。
「こなた行って来てよ」
「なんでやねん」
続けて聞こえてきたかがみの声に、こなたは思わず関西弁で突っ込んでいた。
「どー考えてもそれおかしいでしょ?筋とおんないでしょ?」
「だってー…なんか怖いし」
詰め寄るこなたに、かがみが子供のように駄々をこねる。
「では、わたしと泉さんで行ってきますので、かがみさんはここで待っていてください」
そして、それを見ていたみゆきがそう言った。
「え、みゆきさん?」
「それじゃ、参りましょうか」
驚くこなたの手を取り、みゆきは半ば強引に部屋から連れ出した。後に残されたかがみが唖然とした表情でそれを見送った。
「…なんでこんなことに…っていうか、わたし部屋着のままだし」
着ているパンダのワンポイントが入った服を引っ張りながら、こなたは隣を歩くみゆきを見た。
「ねえ、みゆきさん。こう言うのって、かがみ行かせないと意味無いんじゃないの?」
そのこなたの訝しげな視線を、みゆきは笑顔で受け止めた。
「かがみさん、少しパニックになっておられたようでしたから、落ち着くための時間が必要かと思いまして」
「パニックねえ…つかさに信用されなかったのがそんなにショックだったのかな」
「だと、思います…かがみさんは、つかささんがまず最初に自分を頼るという事を、当たり前だと思っていたのではないでしょうか」
みゆきの言葉に、こなたは納得がいかないかのように腕を組んで考え込み始めた。
「それが違ったからか…かがみってもしかして…」
それを見たみゆきが苦笑する。
「あくまでわたしの憶測ですから、違うと言う可能性もありますよ。とりあえず、つかささんからもちゃんと話を聞いておきましょう…それと、泉さん」
「ん、なに?」
「その服、可愛いですから、外着として使っても大丈夫だと思いますよ」
「え、そ、そう…?」
こなたは少し照れながら自分の服を見た。そしてしばらく歩いてから、いつの間にか自分の少し前を歩いているみゆきの方を見た。
「…別に、フォローしてくれなくてもいいところなんだけどな」
そして、そうポツリと呟いた。
「…えーっと…なんでこなちゃんが?…ゆきちゃんもまた来てるし…」
玄関先に立っているこなたとみゆきを見て、つかさは戸惑いながらそう言った。
「うん、まあなんて言うか…」
こなたは自分の家にかがみが来てからの事を、つかさに簡単に説明した。
「…お姉ちゃん、もしかして怒ってるのかな…」
それを聞いたつかさが不安そうに呟く。
「いや、あれは怒ってるんじゃないと思うけど…」
こなたはそう言いながらみゆきの方をチラッと見た。それを受けたみゆきが一つうなずいてつかさの前に出る。
「かがみさんは、つかささんの仰られた事がショックだったようでして…どうしてあのようなことを?」
みゆきがそう聞くと、つかさは困ったような表情をしてうつむいた。
「どうしてって言われても…ああ言わないと、お姉ちゃんが引いてくれないかなって思ったんだけど…」
つかさは胸の前で指を絡ませながら、こなたとみゆきの顔色を伺うようにチラチラと視線を向けた。
「…えーっと…やっぱりわたしが悪い…のかな?」
それを見たこなたとみゆきは、顔を見合わせて苦笑した。
「いやー、つかさは特に間違ったことは言ってないかと…」
「なんと言いましょうか…少しすれ違いがあったというだけかと…」
なんとなく歯切れの悪い二人に、つかさは首をかしげた。
「えっとね…お姉ちゃんはね、ダイエットのときいつも一人で頑張ってたんだ」
そして、唐突にそう言った。
「だから、わたしも一人で頑張らないとダメかなって思ったんだ…こういうことでお姉ちゃんに迷惑かけるのも良くないと思うし」
こなたとみゆきはもう一度顔を見合わせた。今度は苦笑ではなく驚きの表情で。
「あ…でも、もう迷惑かけちゃってるのかな…こなちゃん、ゴメンだけどお姉ちゃんにコレ渡して欲しいんだ」
つかさはそう言いながら、こなたに携帯電話を差し出した。
「これ、かがみの?」
「うん、置いてっちゃってたから…顔合わせづらいんだったら電話でって」
こなたは携帯を受け取りながらうなずいた。
「つかさ…かがみはね、なんだかんだ言ってもつかさに頼られたいんだよ」
そして、つかさの目をしっかりと見ながらそう言った。
「…うん、知ってる」
つかさの返してきた言葉に、こなたは表情を緩めた。
「ならば良し」
そして、満足そうにうなずいた。
「あの二人はね…内骨格と外骨格だと思うんだ」
泉家へ戻る道に途中で、こなたは唐突にそう呟いた。
「骨格…ですか?」
その意図を測りかねたみゆきが首を傾げる。
「そ、骨格。つかさは外側フニャフニャしてるように見えるけど、芯がしっかりしてるところがあるし…かがみは逆で外側カッチリしてるけど、内面が脆いところがあるなって」
「…なるほど、そうですね。泉さんはちゃんとお二人を見ているのですね」
みゆきが感心したようにそう言うと、こなたは照れくさそうに頬をかいた。
「ま、まあ全身フニャついてるわたしが言ってもね…説得力ないけどね」
「そんなことありませんよ」
こなたの言葉を即座に否定するみゆき。続く言葉がなんとなく予想でき、こなたはみゆきから顔を逸らした。
「その柔らかさは、短所ではなくむしろ長所だと思いますよ。泉さんの優しさの現われなのですから」
「…みゆきさん、褒めすぎ」
気恥ずかしさに耐え切れなくなったこなたがそう呟くと、みゆきは不思議そうに首をかしげた。
「そうですか?思ったことをそのまま言っただけなのですが…」
「…みゆきさん、結構いじわるだよね」
そう言いながら足を速めるこなた。それをみゆきは、少し嬉しそうに微笑みながら追いかけた。
「…あれ、かがみは?」
家に戻ってきたこなた達が部屋に入ると、そこにいるはずのかがみがいなくなっていた。
「出かけられたのでしょうか?」
みゆきはそう言いながら部屋の中を見回し、そして天井の方を向いた。
「上から声が聞こえますね」
「二階?リビングにでもいるのかな?なにしてるんだろ…」
こなたは首をかしげながら部屋を出て、二階へと向かった。
「え?嘘?そんなとこ抜けれるの?」
「ああ、気づかなかっただろ?ここ知ってるとだいぶ違うんだよね」
リビングに入ったこなた達が見たのは、そうじろうと一緒にシューティングゲームに興じているかがみだった。
「………」
こなたは無言でリビングのコンセントに向かうと、ゲーム機とテレビの電源プラグを同時に引き抜いた。
「…え」
「…お」
突如消えた画面にかがみとそうじろうが声を上げ、そして電源プラグを持っているこなたに気がついた。
「何するんだ、こなた」
「何するんだって…何しとるんだってこっちが聞きたいよ」
不機嫌そうに答えるこなたに、そうじろうは眉をひそめた。
「いや、かがみちゃんが一人で暇そうにしてたからちょっとな…俺、なんか悪いことしたか?」
「した。だからとっとと部屋に戻りんさい」
こなたは問答無用とばかりにそうじろうをリビングから追い出し、かがみのほうを向いた。
「…かがみも何してんだよ。人に使いっぱしりさせといて」
「…ごめんなさい」
自分のやっていることを自覚したのか、素直に謝るかがみ。
「ほら、これ」
そのかがみに、こなたは携帯を投げ渡した。
「え?あ、あれ?わたしの携帯?」
それを受け取った後、かがみは自分の服のポケットを探った。
「置いてきてたんだ…」
「気づいてなかったんかい…んで、それでつかさに電話しなよ」
「…え?」
かがみは驚いて手に持った携帯を見て、少し怯えた表情をした。
「え、えーっと…」
「…するの」
「は、はい…ごめんなさい。電話します」
何か言おうとしたものの、こなたに睨みつけられたかがみは、とぼとぼと部屋の隅に移動して携帯を操作し始めた。
「まったく…なんかもうグダグダだー」
呆れたようにため息をつきながら、そう呟くこなた。そのこなたを見ながら、みゆきが微笑む。
「みゆきさん…なんでそんな楽しそうなの」
それに気がついたこなたが、不満そうに呟いた。
「あ、いえ…お気に触ったのならすいません」
「そう言うわけじゃないけど…んー、まあいいや」
頭をかきながら、こなたは視線をみゆきからかがみに移した。
「…うん…えっと…わたしも、その…ごめん…うん、わかってる…」
漏れてくるかがみの言葉から、こなたはとりあえずうまく収まりそうだと感じていた。
「一段落、でしょうか」
「だねえ」
同じ事を感じていたらしいみゆきにうなずき、こなたは安堵のため息を漏らした。
お昼休み。いつもの四人が集まって、いつも通りのお昼ご飯。
「つかさ、ダイエットはどうなったの?」
つかさの前に置かれているいつも通りのお弁当箱を見ながら、こなたがそう聞いた。
「うん、続けてるよ」
「無理してない?」
「大丈夫だよ、こなちゃん。少しずつやってるから…このお弁当もね、味付け薄めたりしてカロリーを抑えてるんだ。あとウォーキングもね、帰りに一駅前で降りてそこから歩くようにしてるんだ」
「そっか。それくらいならつかさでも大丈夫かな」
「…こなちゃん、なんか酷いこといってる気がする」
そのやり取りを見ていたみゆきが、食べるのを中断して微笑んだ。
「やっぱり泉さんはやさし」
「はい、みゆきさんストップ。こんなところで恥ずかしいこと言わないで」
みゆきが何を言おうとしたのか察したこなたが、その言葉を途中で遮った。
「…恥ずかしいことじゃないですのに」
みゆきは、少し不満そうに呟きながら食事を再開した。
「まあ、その分だと続けられそうだね」
こなたがそう言うと、つかさは嬉しそうにうなずいた。
「うん、大丈夫。今度はお姉ちゃんも一緒にやってるから」
「ばっ!ちょ、つかさ!」
それまで黙って食事をしていたかがみが、慌ててつかさを止めようとした。
「かがみさんも?」
「一緒にやってる?」
こなたとみゆきは顔を見合わせ、そして同時にかがみのほうを向いた。
「かがみさん、もしかして…」
「また太った?」
「は、はっきり言わないでよ!」
こなたとみゆきはもう一度顔を見合わせ、どちらともなくうなずいた。
「な、なによその反応…」
「いや、なんとなく予想できてたから」
「うぅ…」
「大事なことなのでもう一度言うけど、このオチは予想できた」
「念押ししなくていいわよ!…つかさも!余計なこと言わないでよ!」
かがみはこなたに文句を言った後、そのままつかさの方を向いて文句を言った。
「ご、ごめんさい…」
首をすくめるつかさに、かがみがあれこれと言い始める。
「…やれやれ、すっかりかがみも本調子だね」
矛先が完全につかさに移ったと感じたこなたは、牛乳を一口飲んでため息をついた。
「そうですね…こちらのほうが、やはりかがみさんらしいでしょうか」
「だねえ…」
こなたはみゆきに同意しながら、もしかしたらかがみのダイエットは成功しない方が良いんじゃないか…そんな事を思っていた。
― おわり ―
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- かがみんヘタレ過ぎwwwwww -- 名無しさん (2010-12-31 11:46:09)
- 久しぶりにSS読んで笑ったwヘタレかがみんと照れこなたん可愛いww -- 名無しさん (2010-12-30 18:13:18)
とある日の柊家。つかさとかがみは、ポッキーをかじりながらテレビを見ていた。
「なに、かがみ。ダイエット成功したと思ったら、もうお菓子?また太るわよ」
そこに入ってきたまつりが、からかい口調でかがみにそう言った。
「大丈夫よ。今度は考えて食べてるから」
むっと口を尖らせてかがみがそう言うと、まつりは呆れたように溜息をついた。
「それ、前も言ってたけど、結局今回のダイエットになったじゃない」
「…今度は大丈夫よ」
かがみは強気に答えたものの、不安になったのかポッキーを食べる速度が少し遅くなった。
「それにしても、かがみに付き合ってよくお菓子食べてるわりには、つかさがダイエットしてるところ見たこと無いわね」
まつりは今度はつかさに声をかけた。
「…え?…あ、わ、わたしはそういうのあまり気にしないから…」
テレビに集中してたのか、少し間をおいてからつかさは答えた。
「ふーん…自分が作った料理の試食とかもしてるし、実はお腹周りエライことになってるんじゃないのー?」
言いながらまつりは、つかさの服に手を差し込んできた。
「ひゃっ!?な、なにするのまつりお姉ちゃんっ!くすぐったいよー!」
抗議するつかさを無視して、まつりはお腹の肉をつまみ…動きを止めた。
「…まつり姉さん?どうかした?」
まつりの様子がおかしいことに気がついたかがみがそう聞くと、まつりはゆっくりとつかさから身を離した。
「つかさ…ごめん…ホントにごめん…」
「え、な、なに…?どうしたの…?」
真剣な表情でうつむくまつりに、つかさは戸惑った。
「…あんたのお腹…シャレになってないわ…」
― つかさのだいえっと ―
お昼休み。いつもの四人が集まり、いつも通りのお昼ご飯。
「………ん?」
そのはずだったのだが、どうにもいつも通りではない違和感に、こなたは首をかしげた。
「つかさ、ご飯は?」
自分にかがみ、みゆきの前にはお昼ご飯があるというのに、つかさの前には飲み物が入ってるであろう水筒があるだけだった。
「…えーっと…ちょっと食欲がなくて…」
「わたしじゃあるまいし、素直にダイエットって言いなさいよ」
誤魔化そうとするつかさの横から、かがみがあっさりと真相をばらした。それを聞いたこなたとみゆきは、どちらとも無く顔を見合わせた。
「…ダイエット?」
「…かがみさんでなく、つかささんが?」
そして二人とも信じられないといった表情で、つかさとかがみを見比べた。
「わたしなわけないでしょう。ダイエット成功したばっかなんだし」
かがみの言葉に、こなたは風呂上りっぽい時間に電話でダイエット成功譚を披露されたのを思い出した。
「そう言えば、お電話でそのようなことを…」
そうポツリと呟くみゆきの方に、こなたは顔を向けた。
「あ、みゆきさんもかがみから電話きたんだ」
「はい」
みゆきも答えながらこなたのほうを向く。
「…ちなみに何時間?」
「…二時間ほどです」
「…わたしは三時間」
そして、二人同時にかがみのほうを向いた。
「な、なによ。いいじゃない、嬉しかったんだから…少しくらい自慢話してもいいでしょ?」
「…いや、少しならいいんだけどね」
こなたは困った顔で頬をかきながらつかさの方を向いた。
「でも、つかさってダイエットしたこと無いんじゃない?急にそんなの始めて大丈夫なのかな」
「大丈夫よ。経験者のわたしがついてるんだから」
こなたの問いにかがみがそう答えると、こなたは再びみゆきと顔を見合わせた。
「みゆきさん…これが失敗フラグというものだよ」
「そうですか…勉強になります」
「…あんたらなー」
「いや、だってねえみゆきさん…」
「ええ、なんといいますか…」
こなたとみゆきは同時にいつもの倍はあろうかというかがみの弁当を見た。
「い、いいでしょ別に。今回は理想体重よりだいぶ落ちたんだからさ…っていうかこれつかさの分も入ってるのよ。残したら勿体ないでしょ?」
二人の視線に気がついたかがみが慌ててそう言うと、こなたはお手上げのジェスチャーをし、みゆきは困ったような顔で溜息をついた。
「な、なによー、いいじゃない…」
二人の態度に文句らしきものを呟きながら、かがみはやや早いペースで弁当のおかずを口に放り込んだ。
そして、三人がそんな話をしてる中、つかさはコップに入れた飲み物を黙ってチビチビと飲んでいた。
「あれは、まずいんじゃないかな」
その日の放課後。こなたは一緒に帰り道を歩いているみゆきにそう言った。かがみとつかさは寄るところがあると、つい先ほど別れたばかりだ。
「あれとは…つかささんのことですか?」
「うん。いきなり絶食とかは良くないと思うんだけど」
こなたの言葉に、みゆきは顎に人差し指を当てて考える仕草をした。
「でも、つかささんは食べ物や栄養といったものにはお詳しいですから、ちゃんと考えているのではないでしょうか。たとえば、家ではきちんと食べていて、お昼のみを抜いているとか…」
「ああ、なるほどね」
こなたは納得したようにうなずいたが、すぐに眉間にしわを寄せた。
「けど…アドバイザーにかがみがついてるんだよね。かがみが強く勧めたら、つかさは断りきれないんじゃないかな」
「それは…そう…かもしれませんね…」
歯切れ悪く肯定するみゆきに、こなたは苦笑して見せた。
「今ここにかがみいないんだし、そんな気使わなくていいよ、みゆきさん」
軽い口調でこなたにそう言われ、みゆきは少し顔を赤らめて俯いた。そして、ふと何かを思いついたように顔を上げ、こなたのほうを見た。
「そう言えば以前かがみさんにも仰ってましたよね?」
「え、なにを?」
「絶食だけはするなって…泉さん。何かあったのでずか?」
「んー…いや、単に身体壊すからだってことなんだけど…ネットとかで話聞いてたら、絶食交えたダイエットで酷い目にあってる人、結構いるみたいだからさ」
「そうでしたか…」
みゆきはまたもう少し考えると、今度はこなたの顔を覗き込んで微笑んだ。
「な、なに?みゆきさん…」
「なんだかんだ言っても、やっぱり泉さんは友達思いの方ですね。ネットで情報を仕入れたのは、かがみさんのためですか?」
「へ?い、いやそんなんじゃ…休まれたりしたら学校がちょっとつまんなくなるって感じで…」
「ツンデレですか?」
「は?ち、違うよそんなんじゃ…」
「ツンデレですね」
「違うってば…もー、みゆきさんなんか意地悪だよ。ってか新しく覚えた言葉使いたがる子供みたいだよ」
むくれ顔でそう言うこなたを見て、みゆきはクスクスと笑い出した。
「すいません、なんだかかがみさんやつかささんが羨ましくて…」
「羨ましい?どうして?」
「こうやって、泉さんに心配していただけるのですから」
「いや、そんなの羨ましがられても…てか、みゆきさん心配するところないし」
「そうですか…なんだか残念です」
「本気で残念がられても困るけど…いや、みゆきさん、話ずれてきてるよ。つかさのダイエットのこと…って、あれ、かがみ?」
こなたが驚いた声を上げながら前のほうを指差した。みゆきがそちらの方を見ると、かがみが一人で歩いているのが見えた。
「お一人でしょうか?」
「みたいだね…おーい、かがみー!」
こなたの呼び声に気がついたかがみは、なにやら複雑な表情で近づいてきた。
「二人とも、まだこんなところに居たんだ」
「それはこっちの台詞だよ、かがみ。つかさはどうしたの?一緒じゃないの?」
こなたがそう聞くと、かがみは頬をかいて横を向いた。
「いや、それが…歩いて帰るんだって…」
「…は?」
「…歩いて…ですか?」
かがみの言葉に、こなたとみゆきは目を丸くした。
「い、家まで?…いや、いくらなんでもそんなことないよね。一駅だけ歩くとかそんなだよね」
「そ、そうですね。ウォーキングは健康にもいいですし…」
こなたとみゆきの言葉にも複雑な表情を崩さないかがみに、こなたはなんとなく不安を覚えた。
「かがみ、どうかしたの?」
「…今日のお昼ご飯ね。抜くって言ったの、つかさなのよ」
「え、つかささんが…ですか?」
こなたとみゆきは思わず顔を見合わせた。それを見たかがみがため息をつく。
「わたしはね、最初から無理なことしないほうがいいって言ったのよ。献立見直すとか、ほんの少し減らすとかそれくらいからやろうって…でも、もうお昼無しでいいってつかさが…」
顔を見合わせながらかがみの言葉を聞いていた二人は、うなずきあうとかがみに向かって深々と頭を下げた。
「な、なに?」
「ごめん、かがみ」
「かがみさんのこと、誤解していたようです」
かがみは首をかしげながら少し考え、昼の会話を思い出した。
「…そういや、失敗フラグとか言ってたわね。わたしが口出したせいで、つかさが無理してるとか思ってるわけね」
かがみが睨みつけるような顔つきでそう言うと、二人はゆっくりと顔を逸らした。
「そうよねー。わたしのダイエットなんて失敗の方が多いものねー。この前のもたまたまかも知れないものねー。ふーんだ、どうせわたしはそういうキャラですよー」
「か、かがみさん、すねないでください…」
ふてくされながら道端の小石を蹴り始めたかがみを、みゆきが懸命になだめようとする。こなたはそんな二人を見ながら、複雑な表情で頬をかいた。
「かがみ、いい感じに壊れてるなー。ダイエット成功したのがそんなに嬉しかったのかな…ていうか」
こなたは、つかさが歩いて行ったであろう家のあるほうを向いた。
「なんか、嫌な予感がするんだよね」
そして、ポツリとそう呟いた。
その日の晩、こなたが部屋でベッドに寝転び漫画を読んでいると、傍らにおいた携帯が着信音を鳴らした。
「…かがみ?なんだろう…ほーい、なにー?」
こなたが電話に出ると、ボソボソとかがみらしき呟き声が聞こえてきた。
「え?なに?かがみ、よく聞こえないんだけど…」
「…つかさが…ついさっき帰ってきたわ…」
「…え?」
こなたはベッドから跳ね起きて部屋の時計を見た。部活をやっていたとしても、こんなに遅くはならないだろうと言うくらいの時間だ。
「え、ええええっ!?じゃあ、つかさマジで!?」
「…うん、家まで歩いて帰ってきたみたいなのよ…」
思わず大声を出すこなたと、対象に疲れたような小声のかがみ。こなたは深くため息をついて呼吸を整えた。
「…で、つかさは?」
「寝てるわ…帰ってきてすぐにね。明日が休日でよかったわ。あの分だと確実に朝起きられないわね」
「親御さん、怒ってるんじゃ…」
「呆れてるって言うか…何言っていいかわからないって感じね」
「そ、そう…」
正直なところこなたもどう言っていいのかわからなかったが、友人としてなにか言わなければと、懸命に言葉を捜した。
「と、とりあえずその…なんとか頑張って」
だが、結局言えたのはそれくらいだった。そして、少ししてから携帯の向こう方コツンという音がして、電話は切れてしまった。
「…もしかしてうなずいたの?…大丈夫かな」
友人の奇行に、こなたは小さくため息をついた。
「こなたー!つかさがいじめるのー!」
「…ナニゴトデスカ…」
翌日のお昼過ぎ。いきなり家に来て泣きいてきたかがみに、こなたはどうしていいかわからずに、抱きつかれ揺さぶられるがままになっていた。
「いや、かがみ本気で落ち着こう…一体なにがあったの?」
「うぅ…お昼前につかさが起きてきたから、無理しないようにって言おうとしたら…」
『大丈夫だよ、わたし一人で出来るから』
『そう言ってもね…昨日もかなり無理してたでしょ?そう言うことならわたしが教えてあげるから…』
『…お姉ちゃんのダイエット、成功率低いからいいよ』
「ってつかさがーっ!」
「いや、いじめられてないっていうか、ホントのことじゃないかな…」
「こなたまでーっ!」
「…いやいや」
こなたはどうしていいかわからず、天を仰いでため息をついた。
「泉さん、そういうことはあまりはっきりとは言わない方が…」
「いや、みゆきさん。そうは言ってもこういう場合…ってみゆきさん!?」
自分の後ろから聞こえてきた声に驚きこなたが振り向くと、いつの間にかみゆきがちょこんと正座で座り込んでいた。
「お邪魔してます、泉さん」
「あ、うん。いらっしゃい、みゆきさん」
丁寧に礼をしながら挨拶をするみゆきに、こなたも挨拶を返した。そしてこなたは、顔を上げて眉間にしわを寄せた。
「いや、っていうかなんでここにいるの?」
「実は、昨日のことが気になりましてつかささんを訪ねたのですが、かがみさんがこちらにと聞きまして…」
行動を読まれているのか、律儀に行き先を言って出てきたのか、どちらにしてもかがみらしい間の抜け方だなとこなたは思い、そしてみゆきの言葉に疑問を感じた。
「いや、みゆきさん。それじゃ話が繋がんないよ」
「え、あ…そうですね。えっと、お家を訪ねたさいに、つかささんからかがみさんの伝言を預かりしまして、こちらに来ました」
「それを先に言おうよ…」
半ば呆れながらそう言って、こなたはみゆきが来ている事にすら気がついていないのか、未だにうつむいてメソメソしているかがみの方に向き直った。
「かがみ、かがみ。みゆきさんがつかさからの伝言持ってきたって」
「…ふえ?」
かがみはこなたの言葉に顔を上げ、そしてこなたの後ろにいるみゆきに気がついた。
「つかさの伝言?」
かがみがそう呟くと、みゆきは微笑みながらうなずいた。
「もう帰ってくるなって?」
「いやいやいや」
続いて出たかがみの呟きに、こなたは顔の前で左手を振った。
「いくらなんでもネガティブすぎでしょ」
「かがみさん、つかささんと喧嘩をされているわけではないのですから…」
「…うぅ、だって…」
「つかささんは、なんだかよく分からないから一度家に帰ってきて欲しいと仰ってましたよ」
「ホントに…?」
「はい」
うなずきながら微笑むみゆき。かがみは少し考えるようにうつむいた。
「…うん、じゃあ…」
そして聞こえてきたかがみのつぶやきに、こなたは安堵のため息をついた。
「こなた行って来てよ」
「なんでやねん」
続けて聞こえてきたかがみの声に、こなたは思わず関西弁で突っ込んでいた。
「どー考えてもそれおかしいでしょ?筋とおんないでしょ?」
「だってー…なんか怖いし」
詰め寄るこなたに、かがみが子供のように駄々をこねる。
「では、わたしと泉さんで行ってきますので、かがみさんはここで待っていてください」
そして、それを見ていたみゆきがそう言った。
「え、みゆきさん?」
「それじゃ、参りましょうか」
驚くこなたの手を取り、みゆきは半ば強引に部屋から連れ出した。後に残されたかがみが唖然とした表情でそれを見送った。
「…なんでこんなことに…っていうか、わたし部屋着のままだし」
着ているパンダのワンポイントが入った服を引っ張りながら、こなたは隣を歩くみゆきを見た。
「ねえ、みゆきさん。こう言うのって、かがみ行かせないと意味無いんじゃないの?」
そのこなたの訝しげな視線を、みゆきは笑顔で受け止めた。
「かがみさん、少しパニックになっておられたようでしたから、落ち着くための時間が必要かと思いまして」
「パニックねえ…つかさに信用されなかったのがそんなにショックだったのかな」
「だと、思います…かがみさんは、つかささんがまず最初に自分を頼るという事を、当たり前だと思っていたのではないでしょうか」
みゆきの言葉に、こなたは納得がいかないかのように腕を組んで考え込み始めた。
「それが違ったからか…かがみってもしかして…」
それを見たみゆきが苦笑する。
「あくまでわたしの憶測ですから、違うと言う可能性もありますよ。とりあえず、つかささんからもちゃんと話を聞いておきましょう…それと、泉さん」
「ん、なに?」
「その服、可愛いですから、外着として使っても大丈夫だと思いますよ」
「え、そ、そう…?」
こなたは少し照れながら自分の服を見た。そしてしばらく歩いてから、いつの間にか自分の少し前を歩いているみゆきの方を見た。
「…別に、フォローしてくれなくてもいいところなんだけどな」
そして、そうポツリと呟いた。
「…えーっと…なんでこなちゃんが?…ゆきちゃんもまた来てるし…」
玄関先に立っているこなたとみゆきを見て、つかさは戸惑いながらそう言った。
「うん、まあなんて言うか…」
こなたは自分の家にかがみが来てからの事を、つかさに簡単に説明した。
「…お姉ちゃん、もしかして怒ってるのかな…」
それを聞いたつかさが不安そうに呟く。
「いや、あれは怒ってるんじゃないと思うけど…」
こなたはそう言いながらみゆきの方をチラッと見た。それを受けたみゆきが一つうなずいてつかさの前に出る。
「かがみさんは、つかささんの仰られた事がショックだったようでして…どうしてあのようなことを?」
みゆきがそう聞くと、つかさは困ったような表情をしてうつむいた。
「どうしてって言われても…ああ言わないと、お姉ちゃんが引いてくれないかなって思ったんだけど…」
つかさは胸の前で指を絡ませながら、こなたとみゆきの顔色を伺うようにチラチラと視線を向けた。
「…えーっと…やっぱりわたしが悪い…のかな?」
それを見たこなたとみゆきは、顔を見合わせて苦笑した。
「いやー、つかさは特に間違ったことは言ってないかと…」
「なんと言いましょうか…少しすれ違いがあったというだけかと…」
なんとなく歯切れの悪い二人に、つかさは首をかしげた。
「えっとね…お姉ちゃんはね、ダイエットのときいつも一人で頑張ってたんだ」
そして、唐突にそう言った。
「だから、わたしも一人で頑張らないとダメかなって思ったんだ…こういうことでお姉ちゃんに迷惑かけるのも良くないと思うし」
こなたとみゆきはもう一度顔を見合わせた。今度は苦笑ではなく驚きの表情で。
「あ…でも、もう迷惑かけちゃってるのかな…こなちゃん、ゴメンだけどお姉ちゃんにコレ渡して欲しいんだ」
つかさはそう言いながら、こなたに携帯電話を差し出した。
「これ、かがみの?」
「うん、置いてっちゃってたから…顔合わせづらいんだったら電話でって」
こなたは携帯を受け取りながらうなずいた。
「つかさ…かがみはね、なんだかんだ言ってもつかさに頼られたいんだよ」
そして、つかさの目をしっかりと見ながらそう言った。
「…うん、知ってる」
つかさの返してきた言葉に、こなたは表情を緩めた。
「ならば良し」
そして、満足そうにうなずいた。
「あの二人はね…内骨格と外骨格だと思うんだ」
泉家へ戻る道に途中で、こなたは唐突にそう呟いた。
「骨格…ですか?」
その意図を測りかねたみゆきが首を傾げる。
「そ、骨格。つかさは外側フニャフニャしてるように見えるけど、芯がしっかりしてるところがあるし…かがみは逆で外側カッチリしてるけど、内面が脆いところがあるなって」
「…なるほど、そうですね。泉さんはちゃんとお二人を見ているのですね」
みゆきが感心したようにそう言うと、こなたは照れくさそうに頬をかいた。
「ま、まあ全身フニャついてるわたしが言ってもね…説得力ないけどね」
「そんなことありませんよ」
こなたの言葉を即座に否定するみゆき。続く言葉がなんとなく予想でき、こなたはみゆきから顔を逸らした。
「その柔らかさは、短所ではなくむしろ長所だと思いますよ。泉さんの優しさの現われなのですから」
「…みゆきさん、褒めすぎ」
気恥ずかしさに耐え切れなくなったこなたがそう呟くと、みゆきは不思議そうに首をかしげた。
「そうですか?思ったことをそのまま言っただけなのですが…」
「…みゆきさん、結構いじわるだよね」
そう言いながら足を速めるこなた。それをみゆきは、少し嬉しそうに微笑みながら追いかけた。
「…あれ、かがみは?」
家に戻ってきたこなた達が部屋に入ると、そこにいるはずのかがみがいなくなっていた。
「出かけられたのでしょうか?」
みゆきはそう言いながら部屋の中を見回し、そして天井の方を向いた。
「上から声が聞こえますね」
「二階?リビングにでもいるのかな?なにしてるんだろ…」
こなたは首をかしげながら部屋を出て、二階へと向かった。
「え?嘘?そんなとこ抜けれるの?」
「ああ、気づかなかっただろ?ここ知ってるとだいぶ違うんだよね」
リビングに入ったこなた達が見たのは、そうじろうと一緒にシューティングゲームに興じているかがみだった。
「………」
こなたは無言でリビングのコンセントに向かうと、ゲーム機とテレビの電源プラグを同時に引き抜いた。
「…え」
「…お」
突如消えた画面にかがみとそうじろうが声を上げ、そして電源プラグを持っているこなたに気がついた。
「何するんだ、こなた」
「何するんだって…何しとるんだってこっちが聞きたいよ」
不機嫌そうに答えるこなたに、そうじろうは眉をひそめた。
「いや、かがみちゃんが一人で暇そうにしてたからちょっとな…俺、なんか悪いことしたか?」
「した。だからとっとと部屋に戻りんさい」
こなたは問答無用とばかりにそうじろうをリビングから追い出し、かがみのほうを向いた。
「…かがみも何してんだよ。人に使いっぱしりさせといて」
「…ごめんなさい」
自分のやっていることを自覚したのか、素直に謝るかがみ。
「ほら、これ」
そのかがみに、こなたは携帯を投げ渡した。
「え?あ、あれ?わたしの携帯?」
それを受け取った後、かがみは自分の服のポケットを探った。
「置いてきてたんだ…」
「気づいてなかったんかい…んで、それでつかさに電話しなよ」
「…え?」
かがみは驚いて手に持った携帯を見て、少し怯えた表情をした。
「え、えーっと…」
「…するの」
「は、はい…ごめんなさい。電話します」
何か言おうとしたものの、こなたに睨みつけられたかがみは、とぼとぼと部屋の隅に移動して携帯を操作し始めた。
「まったく…なんかもうグダグダだー」
呆れたようにため息をつきながら、そう呟くこなた。そのこなたを見ながら、みゆきが微笑む。
「みゆきさん…なんでそんな楽しそうなの」
それに気がついたこなたが、不満そうに呟いた。
「あ、いえ…お気に触ったのならすいません」
「そう言うわけじゃないけど…んー、まあいいや」
頭をかきながら、こなたは視線をみゆきからかがみに移した。
「…うん…えっと…わたしも、その…ごめん…うん、わかってる…」
漏れてくるかがみの言葉から、こなたはとりあえずうまく収まりそうだと感じていた。
「一段落、でしょうか」
「だねえ」
同じ事を感じていたらしいみゆきにうなずき、こなたは安堵のため息を漏らした。
お昼休み。いつもの四人が集まって、いつも通りのお昼ご飯。
「つかさ、ダイエットはどうなったの?」
つかさの前に置かれているいつも通りのお弁当箱を見ながら、こなたがそう聞いた。
「うん、続けてるよ」
「無理してない?」
「大丈夫だよ、こなちゃん。少しずつやってるから…このお弁当もね、味付け薄めたりしてカロリーを抑えてるんだ。あとウォーキングもね、帰りに一駅前で降りてそこから歩くようにしてるんだ」
「そっか。それくらいならつかさでも大丈夫かな」
「…こなちゃん、なんか酷いこといってる気がする」
そのやり取りを見ていたみゆきが、食べるのを中断して微笑んだ。
「やっぱり泉さんはやさし」
「はい、みゆきさんストップ。こんなところで恥ずかしいこと言わないで」
みゆきが何を言おうとしたのか察したこなたが、その言葉を途中で遮った。
「…恥ずかしいことじゃないですのに」
みゆきは、少し不満そうに呟きながら食事を再開した。
「まあ、その分だと続けられそうだね」
こなたがそう言うと、つかさは嬉しそうにうなずいた。
「うん、大丈夫。今度はお姉ちゃんも一緒にやってるから」
「ばっ!ちょ、つかさ!」
それまで黙って食事をしていたかがみが、慌ててつかさを止めようとした。
「かがみさんも?」
「一緒にやってる?」
こなたとみゆきは顔を見合わせ、そして同時にかがみのほうを向いた。
「かがみさん、もしかして…」
「また太った?」
「は、はっきり言わないでよ!」
こなたとみゆきはもう一度顔を見合わせ、どちらともなくうなずいた。
「な、なによその反応…」
「いや、なんとなく予想できてたから」
「うぅ…」
「大事なことなのでもう一度言うけど、このオチは予想できた」
「念押ししなくていいわよ!…つかさも!余計なこと言わないでよ!」
かがみはこなたに文句を言った後、そのままつかさの方を向いて文句を言った。
「ご、ごめんさい…」
首をすくめるつかさに、かがみがあれこれと言い始める。
「…やれやれ、すっかりかがみも本調子だね」
矛先が完全につかさに移ったと感じたこなたは、牛乳を一口飲んでため息をついた。
「そうですね…こちらのほうが、やはりかがみさんらしいでしょうか」
「だねえ…」
こなたはみゆきに同意しながら、もしかしたらかがみのダイエットは成功しない方が良いんじゃないか…そんな事を思っていた。
― おわり ―
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