ID:pvTDdxk0氏:命の輪の誇り

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 家からずっと離れた場所の公園。わたしはブランコを軽くこぎながら、空を見上げた。携帯を家に忘れたから今何時かはわからないけど、日が落ちてしまってるのでだいぶ遅い時間なんだろうな。 「だいっ嫌い…」  わたしはさっきお母さんに言った言葉を小さな声で呟いた。  後悔とか罪悪感とかは無い。わるいのはお母さんだ。わたしの事なんか全然わかってないくせに。 「…だいっ嫌い」  もう一度呟いた。  どうしてわたしはあんな人の娘なんだろ。最近、ずっとそんなことを思ってる。  娘のわたしですらとらえどころの無いお母さん。ちっとも好きになれないお母さん。中学生になってからは、口喧嘩が多くなった。喧嘩とはいっても、一方的にわたしが色々言ってるだけで、お母さんはいつも困った顔をしてるだけだった。その態度がまた癇に障ったりする。 「あ、ホントに居た」  急に声がして、わたしは驚いてブランコから落ちそうになった。 「…か、かがみさん…?」  ブランコを止めて声のした方を見ると、そこにはお母さんの友達のかがみさんがいた。  かがみさんは微笑みながら手を振ると、持っていた鞄の中から携帯を取り出してどこかに電話をした。 「あ、こなた?…ええ、いたわよ…ホントにいいのね?…うん、わかった」  わたしの事をお母さんに報告したみたい。連れて帰られるんだろうな。 「…さて、と」  かがみさんは少し伸びをしてから、わたしの隣のブランコに腰掛けた。 「まだ、帰りたくないでしょ?少し話しでもしましょうか」  そして、そんなことを言った。 ― 命の輪の誇り ―  キコキコとブランコの軋む音だけが聞こえる。かがみさんは話をしようと言ったけど、正直わたしには話すことなんて思いつかない。 「仕事ね…辞めることにしたわ」 「…え?」  かがみさんが突然そう言い、わたしは思わずそっちを見た。 「子供のこと考えると、ね。事務所のほうは、もうわたしが手伝わなくても大丈夫そうだし」  かがみさんは、自分の仕事に誇りを持ってたんじゃなかったっけ。それをそんなあっさり…それに、何でそんなことをわたしに? 「こなたの…お母さんの事は嫌い?」  いきなりそんなことを聞かれて、わたしはドキッとした。急に話を変えるなんてお母さんみたいなことをする。 「…嫌い」  わたしはさっきの独り言と同じように呟いた。かがみさんの手前、大はとっておいたけど。 「お父さんは?」 「…嫌い。お母さんの言いなりだもん」  続けて聞いてきたかがみさんにそう答えると、かがみさんはそっぽを向いてうつむいた。笑いをこらえているのか、肩が震えている。 「ア、アレそう見えるんだ…」  そうとう可笑しかったらしく、こっちを向いたかがみさんは目の端にたまった涙を拭っていた。 「まあ、なんていうかアレね。絵に描いたような反抗期ね」  かがみさんの言葉にわたしは不快感を覚えた。反抗期だなんて、そんな簡単な言葉で片付けて欲しくない。 「…違うよ。わたしそんなんじゃない」  不快感を隠さずに、わたしはかがみさんにそう言った。かがみさんは、お母さんがするみたいに困った顔をした。 「小さい頃はあんなに懐いてたのに…ママー、ママーって言って」 「わたし、もう子供じゃないもん」 「そんなこと言ってるうちは、まだ子供よ」  そう言いながら、かがみさんは小さく伸びをした。言うことがだんだんお母さんに似てきてる。 「…こなたは、あなたのこと愛してるわよ」  それは…よく知ってる。不必要なまでにベタベタしてくるから。 「聞いてるでしょ?あなたが産まれたときになにがあったかって…」  かがみさんの言葉にわたしは首をかしげた。 「…わたしが産まれたときになにかあったの?」  わたしがそう聞くと、かがみさんはキョトンとした表情を浮かべた。 「え?…いや…もしかして、聞いてないの?」  とりあえず何のことかわからなかったので、わたしはうなずいておいた。するとかがみさんは思い切り大きなため息をついて、ブランコから降りた。 「…ちょっと待ってて」  そういい残してブランコから少し離れ、ポケットから携帯を取り出してどこかに電話をかけた。 「おい、こら、こなた」  相手はまたお母さんらしい。一言一言怒気をこめて話すかがみさんは、正直怖い。 「どうなってるのよ。この子、あのこと知らないって言ってるわよ?あんた時期みて話すって言ってたじゃない…はあ?話し損ねた?あんたって…あーもー…」  延々とかがみさんの説教が続く。ほんとにもう、なんていうか…情けない。 「…じゃあ、わたしから話すわよ、いいわね?…まったく…ごめん、待たせたわね」  たたんだ携帯をポケットにしまい込みながら、かがみさんは再びブランコに座った。そして、ため息を一つついてわたしの方を見た。真剣なんだけど優さを感じる表情。初めて見るかがみさんに、わたしはドキッとしてしまった。 「こなたはね、あなたを産むときに死にかけたのよ」 「…え…」  わたしは口を開いたけど、そこから言葉が出せなかった。 「妊娠がわかったときにね、医者に言われたのよ。出産の時に身体がもたないかも知れないって」 「…お母さんが小さかったから?」 「それもあるだろうけど、あの頃のこなたは小説家としてデビュー直前でね、色々と無理してて身体壊してたのよね」  わたしは、一体どう反応すればいいんだろう。かがみさんはどうしてそんな優しい顔でこんな話が出来るんだろう。 「…止めなかったの…?」  わたしがそう言うと、かがみさんは少し困ったような顔をした。 「止められなかったわ。こなたはそのこと、産む直前まで隠してたからね」 「…隠してた?」 「そ。周りのみんな、誰の一人にもその事を話さなかったわ。旦那にも、父親にも…わたし達友達にも、ね」  わたしはうつむき、地面を見つめた。そんな大事なことを、どうして誰にも話さなかったんだろう。わたしはお母さんのことがますますわからなくなった。 「…どうして…」  わたしは思わずそう呟いていた。 「あなたを産みたかったからよ…ただ、それだけ」  わたしの呟きにかがみさんが答える。 「こなたは自分のやりたいことに素直だからね。何に変えても…自分の命すらも厭わないで、あなたを産みたかったのよ」  わたしはもう顔を上げるもできずに、ただ地面を見つめていた。聞かなきゃよかった。そんな事を思った。 「…さっき、仕事辞めるって言ったわよね?子供のためにって…あれはね、こなたの影響なのよ」  そう言うかがみさんの言葉にも、わたしはどう答えていいか分からなかった。 「こなたはもし自分が外で働いていたとしても、子供産んだら辞めるって言ったわ。こなたにとって、母親になるってこと、子供を愛することってのはそれくらい大事なことなのよ…あの子には母親がいなかったから」  わたしは家にあった遺影…わたしのお婆ちゃんになるはずだった、お母さんにそっくりな人を思い出していた。 「自分に母親がいないってこと、気にしてないっていつも言ってたけどね。自分が母親に近づいて、何か思うことあったんでしょうね。あなたには母親を感じさせてあげたいって、そう言ってたわ…こんなこと言うと驚くだろうけど。もし、あの時こなたが死んでたら、わたしがあなたの母親になってたのよ」  かがみさんの言うとおり、わたしは驚いて顔を上げ、かがみさんの顔を見た。かがみさんは変わらず優しい顔をしていた。 「こなたとね、約束したのよ。もしものことがあったら、あなたの母親になるって。その時は、こなたの身勝手を怒ったりしたけど…ほんとにそうなってたら、わたしは約束を守ったんじゃないかって、今は思ってる」  わたしは、一体今どういう顔をしてるのだろう。どんな顔をすればいいんだろう。お母さんやかがみさん…もしかしたらお父さんやお爺ちゃん。もっと色んな人がわたしのために何かをしてくれていたんだろうか。  泣きたくなった。自分の馬鹿さ加減に、心底泣きたくなった。 「…わたし、どうすれば…」  口からはそんな泣き言しか出なかった。 「…誇りなさい」  そんなわたしでも、かがみさんは変わらず優しい顔でそう言った。 「泉こなたの娘であることを、誇りなさい…母親になるために。あなたのために誰よりも頑張った、あの子の強さを誇りなさい」  一言一言が滲みてくる。わたしは、もう我慢できずに泣き出していた。子供みたいに泣きじゃくっていた。かがみさんの言うとおり、わたしはまだまだ子供だったんだ。 「…帰りましょう。こなたが待ってるわ」  かがみさんの言葉に、わたしは素直にうなずいた。 「…お母さんのこと、好きなの?」  家に向かう車の中。運転しているかがみさんに、わたしはそんなことを聞いた。 「好きよ。あの子とあった高校の頃から、ずっと変わらずにね」  かがみさんは微笑みながら、そう答えた。  家の前。車から降りたわたしの前にお母さんが居た。 「かがみ、ありがとね」  お母さんは、車の中のかがみさんに手を振りながらそう言った。かがみさんは軽く手を上げてそれに答え、車を発進させた。 「おかえりなさい」  まるで学校から帰ったときのように、普通にそういうお母さん。 「…怒らないの?」  そんなお母さんの態度に、わたしは思わずそんな事を聞いていた。 「怒らないわよ。怒るところないもの」  まったくいつもと変わらないお母さん。もしかしたら、お母さんはもう全部わかっているんだろうか。 「…わたし、なんにも知らなかった…ごめんなさい。大嫌いって言ったの、取り消す」  わたしがそう言うと、お母さんはニコリと微笑んだ。 「ほんと、聡い子ね。手がかからなくて、お母さん助かるよ」  そう言いながら、お母さんはわたしを抱きしめた。昨日までは鬱陶しかった抱きつきが、今はなんだか気持ちいい。 「…お母さん、お腹すいた」  急に空腹を覚え、わたしはお母さんにそう言った。  お母さんは、嬉しそうに笑ってくれた。 ― 終わり ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - かがみの車なんですか? -- 名無しさん (2013-04-22 00:19:53) - 命の輪新作アップロード乙ですwww &br()このシリーズは本当に1つ1つが素晴らしいwww &br()ちょっとこの才能分けてください(爆) -- 名無しさん (2010-07-22 21:24:59)
 家からずっと離れた場所の公園。わたしはブランコを軽くこぎながら、空を見上げた。携帯を家に忘れたから今何時かはわからないけど、日が落ちてしまってるのでだいぶ遅い時間なんだろうな。 「だいっ嫌い…」  わたしはさっきお母さんに言った言葉を小さな声で呟いた。  後悔とか罪悪感とかは無い。わるいのはお母さんだ。わたしの事なんか全然わかってないくせに。 「…だいっ嫌い」  もう一度呟いた。  どうしてわたしはあんな人の娘なんだろ。最近、ずっとそんなことを思ってる。  娘のわたしですらとらえどころの無いお母さん。ちっとも好きになれないお母さん。中学生になってからは、口喧嘩が多くなった。喧嘩とはいっても、一方的にわたしが色々言ってるだけで、お母さんはいつも困った顔をしてるだけだった。その態度がまた癇に障ったりする。 「あ、ホントに居た」  急に声がして、わたしは驚いてブランコから落ちそうになった。 「…か、かがみさん…?」  ブランコを止めて声のした方を見ると、そこにはお母さんの友達のかがみさんがいた。  かがみさんは微笑みながら手を振ると、持っていた鞄の中から携帯を取り出してどこかに電話をした。 「あ、こなた?…ええ、いたわよ…ホントにいいのね?…うん、わかった」  わたしの事をお母さんに報告したみたい。連れて帰られるんだろうな。 「…さて、と」  かがみさんは少し伸びをしてから、わたしの隣のブランコに腰掛けた。 「まだ、帰りたくないでしょ?少し話しでもしましょうか」  そして、そんなことを言った。 ― 命の輪の誇り ―  キコキコとブランコの軋む音だけが聞こえる。かがみさんは話をしようと言ったけど、正直わたしには話すことなんて思いつかない。 「仕事ね…辞めることにしたわ」 「…え?」  かがみさんが突然そう言い、わたしは思わずそっちを見た。 「子供のこと考えると、ね。事務所のほうは、もうわたしが手伝わなくても大丈夫そうだし」  かがみさんは、自分の仕事に誇りを持ってたんじゃなかったっけ。それをそんなあっさり…それに、何でそんなことをわたしに? 「こなたの…お母さんの事は嫌い?」  いきなりそんなことを聞かれて、わたしはドキッとした。急に話を変えるなんてお母さんみたいなことをする。 「…嫌い」  わたしはさっきの独り言と同じように呟いた。かがみさんの手前、大はとっておいたけど。 「お父さんは?」 「…嫌い。お母さんの言いなりだもん」  続けて聞いてきたかがみさんにそう答えると、かがみさんはそっぽを向いてうつむいた。笑いをこらえているのか、肩が震えている。 「ア、アレそう見えるんだ…」  そうとう可笑しかったらしく、こっちを向いたかがみさんは目の端にたまった涙を拭っていた。 「まあ、なんていうかアレね。絵に描いたような反抗期ね」  かがみさんの言葉にわたしは不快感を覚えた。反抗期だなんて、そんな簡単な言葉で片付けて欲しくない。 「…違うよ。わたしそんなんじゃない」  不快感を隠さずに、わたしはかがみさんにそう言った。かがみさんは、お母さんがするみたいに困った顔をした。 「小さい頃はあんなに懐いてたのに…ママー、ママーって言って」 「わたし、もう子供じゃないもん」 「そんなこと言ってるうちは、まだ子供よ」  そう言いながら、かがみさんは小さく伸びをした。言うことがだんだんお母さんに似てきてる。 「…こなたは、あなたのこと愛してるわよ」  それは…よく知ってる。不必要なまでにベタベタしてくるから。 「聞いてるでしょ?あなたが産まれたときになにがあったかって…」  かがみさんの言葉にわたしは首をかしげた。 「…わたしが産まれたときになにかあったの?」  わたしがそう聞くと、かがみさんはキョトンとした表情を浮かべた。 「え?…いや…もしかして、聞いてないの?」  とりあえず何のことかわからなかったので、わたしはうなずいておいた。するとかがみさんは思い切り大きなため息をついて、ブランコから降りた。 「…ちょっと待ってて」  そういい残してブランコから少し離れ、ポケットから携帯を取り出してどこかに電話をかけた。 「おい、こら、こなた」  相手はまたお母さんらしい。一言一言怒気をこめて話すかがみさんは、正直怖い。 「どうなってるのよ。この子、あのこと知らないって言ってるわよ?あんた時期みて話すって言ってたじゃない…はあ?話し損ねた?あんたって…あーもー…」  延々とかがみさんの説教が続く。ほんとにもう、なんていうか…情けない。 「…じゃあ、わたしから話すわよ、いいわね?…まったく…ごめん、待たせたわね」  たたんだ携帯をポケットにしまい込みながら、かがみさんは再びブランコに座った。そして、ため息を一つついてわたしの方を見た。真剣なんだけど優さを感じる表情。初めて見るかがみさんに、わたしはドキッとしてしまった。 「こなたはね、あなたを産むときに死にかけたのよ」 「…え…」  わたしは口を開いたけど、そこから言葉が出せなかった。 「妊娠がわかったときにね、医者に言われたのよ。出産の時に身体がもたないかも知れないって」 「…お母さんが小さかったから?」 「それもあるだろうけど、あの頃のこなたは小説家としてデビュー直前でね、色々と無理してて身体壊してたのよね」  わたしは、一体どう反応すればいいんだろう。かがみさんはどうしてそんな優しい顔でこんな話が出来るんだろう。 「…止めなかったの…?」  わたしがそう言うと、かがみさんは少し困ったような顔をした。 「止められなかったわ。こなたはそのこと、産む直前まで隠してたからね」 「…隠してた?」 「そ。周りのみんな、誰の一人にもその事を話さなかったわ。旦那にも、父親にも…わたし達友達にも、ね」  わたしはうつむき、地面を見つめた。そんな大事なことを、どうして誰にも話さなかったんだろう。わたしはお母さんのことがますますわからなくなった。 「…どうして…」  わたしは思わずそう呟いていた。 「あなたを産みたかったからよ…ただ、それだけ」  わたしの呟きにかがみさんが答える。 「こなたは自分のやりたいことに素直だからね。何に変えても…自分の命すらも厭わないで、あなたを産みたかったのよ」  わたしはもう顔を上げるもできずに、ただ地面を見つめていた。聞かなきゃよかった。そんな事を思った。 「…さっき、仕事辞めるって言ったわよね?子供のためにって…あれはね、こなたの影響なのよ」  そう言うかがみさんの言葉にも、わたしはどう答えていいか分からなかった。 「こなたはもし自分が外で働いていたとしても、子供産んだら辞めるって言ったわ。こなたにとって、母親になるってこと、子供を愛することってのはそれくらい大事なことなのよ…あの子には母親がいなかったから」  わたしは家にあった遺影…わたしのお婆ちゃんになるはずだった、お母さんにそっくりな人を思い出していた。 「自分に母親がいないってこと、気にしてないっていつも言ってたけどね。自分が母親に近づいて、何か思うことあったんでしょうね。あなたには母親を感じさせてあげたいって、そう言ってたわ…こんなこと言うと驚くだろうけど。もし、あの時こなたが死んでたら、わたしがあなたの母親になってたのよ」  かがみさんの言うとおり、わたしは驚いて顔を上げ、かがみさんの顔を見た。かがみさんは変わらず優しい顔をしていた。 「こなたとね、約束したのよ。もしものことがあったら、あなたの母親になるって。その時は、こなたの身勝手を怒ったりしたけど…ほんとにそうなってたら、わたしは約束を守ったんじゃないかって、今は思ってる」  わたしは、一体今どういう顔をしてるのだろう。どんな顔をすればいいんだろう。お母さんやかがみさん…もしかしたらお父さんやお爺ちゃん。もっと色んな人がわたしのために何かをしてくれていたんだろうか。  泣きたくなった。自分の馬鹿さ加減に、心底泣きたくなった。 「…わたし、どうすれば…」  口からはそんな泣き言しか出なかった。 「…誇りなさい」  そんなわたしでも、かがみさんは変わらず優しい顔でそう言った。 「泉こなたの娘であることを、誇りなさい…母親になるために。あなたのために誰よりも頑張った、あの子の強さを誇りなさい」  一言一言が滲みてくる。わたしは、もう我慢できずに泣き出していた。子供みたいに泣きじゃくっていた。かがみさんの言うとおり、わたしはまだまだ子供だったんだ。 「…帰りましょう。こなたが待ってるわ」  かがみさんの言葉に、わたしは素直にうなずいた。 「…お母さんのこと、好きなの?」  家に向かう車の中。運転しているかがみさんに、わたしはそんなことを聞いた。 「好きよ。あの子とあった高校の頃から、ずっと変わらずにね」  かがみさんは微笑みながら、そう答えた。  家の前。車から降りたわたしの前にお母さんが居た。 「かがみ、ありがとね」  お母さんは、車の中のかがみさんに手を振りながらそう言った。かがみさんは軽く手を上げてそれに答え、車を発進させた。 「おかえりなさい」  まるで学校から帰ったときのように、普通にそういうお母さん。 「…怒らないの?」  そんなお母さんの態度に、わたしは思わずそんな事を聞いていた。 「怒らないわよ。怒るところないもの」  まったくいつもと変わらないお母さん。もしかしたら、お母さんはもう全部わかっているんだろうか。 「…わたし、なんにも知らなかった…ごめんなさい。大嫌いって言ったの、取り消す」  わたしがそう言うと、お母さんはニコリと微笑んだ。 「ほんと、聡い子ね。手がかからなくて、お母さん助かるよ」  そう言いながら、お母さんはわたしを抱きしめた。昨日までは鬱陶しかった抱きつきが、今はなんだか気持ちいい。 「…お母さん、お腹すいた」  急に空腹を覚え、わたしはお母さんにそう言った。  お母さんは、嬉しそうに笑ってくれた。 ― 終わり ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - こなたの娘やっぱかわいいww -- 名無しさん (2014-03-01 21:41:21) - かがみの車なんですか? -- 名無しさん (2013-04-22 00:19:53) - 命の輪新作アップロード乙ですwww &br()このシリーズは本当に1つ1つが素晴らしいwww &br()ちょっとこの才能分けてください(爆) -- 名無しさん (2010-07-22 21:24:59)

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