ID:sSqYstI0氏:約束(ページ2)

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 こなたはああ言ったけど、私はどうしても諦めきれない。このままだとつかさは実刑、退学処分は免れない。つかさはそんな事よりさつきちゃんの死に目に 会えない方が辛いだろう。もう一度つかさに似た子と会って真相を聞きたい。私は時間があると彼女を見つけた駅周辺を探し回った。  一週間が過ぎた。今日は一人で帰る事になったのでまた駅周辺を探し回った。人を探すというのがこんなに難しいとは思わなかった。 確かにつかさに似ている以外、住んでいる場所も名前も知らない。そんな人を探すなんて。一本道が違うだけで会うことはできない。 諦めかけた時だった。公園を通りかかると、公園の中央に一人の女性を見つけた。化粧をしている。髪型も違う。でも私には分る。つかさ……。 この公園は煙草を吸っていた時の公園だ。最初からこの公園をマークするべきだった。彼女は以前と違い一人で公園のベンチに座っていた。 何をする訳でもなく空を見上げていた。私が公園に入っても気が付いていない。彼女はおもむろに煙草を取り出し火を点けようとした。 私はその煙草を取り上げた。その時初めて彼女は私の方を向いた。その時の彼女の顔は漫画を取り上げた時のつかさそのものだった。 かがみ「あんた、未成年じゃないの?、煙草なんか吸うもんじゃないわよ」 なんの抵抗もなく言えた。初対面の人で何の係わり合いも無い人にこんな事が言えるとは思えなかった。彼女は私を無視し、煙草のケースを取り出し 煙草を取り出そうとした。私はケースごと取り上げた。 かがみ「話、聞こえなかったかしら、返事くらいしたらどうなの?」 彼女は私を睨みつけてきた。しかしつかさの顔でそんな事をされても怖くは無い。私もつかさを叱るつもりで睨み返した。そういえば高校になってから つかさに怒ったことも、叱ったこともなくなった。それだけつかさが成長したからなのだろうか。 「未成年で吸っちゃ悪いのかよ……」 驚いてしまった。声までつかさと同じだった。彼女は目を逸らしてそう言った。 かがみ「当たり前でしょ、いままで注意されたこと無かったの?」 「そんな事する奴はあんたが始めてだよ……なんだよ、さっきから私のことジロジロと」 化粧で分らないがきっと顔を赤らめている。こんな所もつかさに似ている。 かがみ「先週あんたに付いてきた取り巻きの高校生は?、一緒じゃないみたいね、リーダでもしてたのかしら」 「なんでそんな事知ってんだよ!、誰だよあんた……私に何の用があるんだよ!」 すごい権幕だ。でも私は動じない。 かがみ「なんか他人の気がしなくてね、私は柊かがみ、陸桜の二年生、あんたは?」 「同じ歳かよ……上級生ぶりやっがって」 歳まで同じとは思わなかった。私を上級生と思っていたのか。それならもうつかさと同じように接してやる。 かがみ「名前は?」 私はもう一度問い質した。 「辻……さつき」 さつき……これも偶然というのか、まさかつかさが見舞いに行っていた女の子と同じ名前なんて。 かがみ「隣り、座っていいかしら?」 さつき「勝手にすれば……」 私は辻さんの隣に座った。 かがみ「どこに住んでるの?」 さつき「近く」 かがみ「いつから?」 さつき「忘れた……」 かがみ「高校は?」 さつき「○○学園高校……なんだよさっきから、尋問かよ」 その高校は知っている。かなりのエリート校だ、私も受けようとしたけど止めたくらい。みゆきクラスの生徒が沢山いる高校だ。 かがみ「ごめん、それじゃ私の事も話すわよ」 さつき「興味ない……」 かがみ「可愛くないわね」 さつき「同じ年齢の人に言われたくない」 こんな会話がしばらく続いた。つかみ所のない子だったけど基本的には悪い子じゃなさそうだ。仕草や表情に時折つかさを思わせるような癖も伺える。 似ているのは姿、顔、声だけじゃなかった。つかさと話しているのではと思ってしまうほどだった。 さつき「さっきから赤の他人にそんなに話しかけて来るんだよ、気持ち悪いな」 かがみ「……妹と似てるからかな」 さつき「それだけで?」  それだけだったかもしれない。彼女の姿が少しでもつかさと違っていたら話さなかったかもしれない。 かがみ「そう言う辻さんだって私と会話を付き合ってくれて、なぜ?」 さつき「うざいんだよ、早くここから立ち去りたい」 かがみ「そう?、別に鎖でつないでいるわけじゃないわ、いつでも立ち去れるわよ、でも立ち去らなかったわね」 辻さんは立ち上がった。 さつき「こんな奴初めてだ、もう帰るよ」 かがみ「……付き合ってくれてありがとう」 辻さんはそのまま立ち去ろうとした。 かがみ「忘れ物よ」 取り上げた煙草を差し出した。 さつき「未成年は吸っちゃだめなんでしょ、適当に処分しておいて」 かがみ「もし良かったら明日も会わない?、同じ時間、同じ場所で、待ってるわよ、約束よ」 さつき「私、明日来ると思う?」 私は頷いた。 かがみ「一つ言わせて、化粧は二十歳からするものよ、それと髪型も整えたほうが良いわね、そう、一週間前のようにね」 さつき「明日は来ないよ、待ってても無駄だだから」 そのまま彼女は走り去った。  辻さんが真犯人なのだろうか。疑問に思った。第一印象とこれほど違うとは。つかさに近い性格だった。家庭か学校に何か問題を抱えているのだろうか。 何か無理をして反発しているような気がした。たった一回会っただけで人は理解できなか。西日が急に差し込んできた。もうそんな時間か。私は帰路についた。 かがみ「ただいま」 いのり「おかえり……随分ご機嫌ね、何か良いことでもあったの?」 かがみ「……つかさに会ってきた」 いのり「嘘、まだ面会は認められていないわよ……つかさはいったいどうしたって言うのよ、あれからずっと黙秘らしい」 つかさはあれが試練だと思っているのか。ばかだよ。否認をすればいいだけの事なのに。 かがみ「取調べ、長引きそうね……でもつかさは無実だわ、それだけは言える」 いのり「そうね……それだけは私だって分る」 帰ってから家での会話でこれで終わってしまった。  次の日、私は約束の時間通り公園に着いた。辺りを見ましても辻さんが来た様子はない。約束か、私が一方的にそう言っただけだった。 せっかく来た事だし待つだけ待つか。昨日と同じベンチに腰を下ろして待った。 さつき「遅れたけど来たよ」 10分くらい待っただろうか。来た。私は後ろを振り向いた。化粧を落として髪を整えていた。そしてリボンを頭につけている。 かがみ「つかさ……つかさ」 私は思わず彼女を抱きしめて泣いてしまった。 さつき「うわ、いきなり何するんだよ」 そうだった。つかさが来るはずはなかった。我に返った。 かがみ「……ごめん、あまりにつかさに似ていたから」 さつき「つかさって妹の名前?、そんなに似ているんだ、私」 かがみ「似てるってレベルじゃない、つかさそのものよ……よく来てくれたわね、ありがとう」 辻さんはそのまま黙って顔を赤らめた。さて、来たらやってもらいたことがあった。 かがみ「辻さん、悪いわね、これに着替えてくれない、そこにトイレがあるから」 私はつかさの着ていた制服を辻さんに渡した。 さつき「……妹って柊さんと同じ高校だったの?、今何年生?」 かがみ「私と同じ学年、双子だから」 辻さんは私をじっと見た。 さつき「双子ね、私と似ていないけど……」 かがみ「二卵性だからね、さ、着替えなさい」 さつき「ちっ、私はお前の妹の代わりかよ、そんなコスプレみたいのはしたくない」 かがみ「確かにつかさの代わりだけど私の為じゃない」 さつき「だったら何の為なのさ」 かがみ「説明するより来てもらった方が早い」 さつき「そんな説明があるか」 と、言いながら渋々とトイレへと向かった。 さつき「この制服まるで測ったようにピッタリだ」 そこに立っているのは柊つかさそのものだった。 かがみ「それじゃ行くわよ、つかさ」 さつき「つかさって、私はさつき……何処に?」 かがみ「○○病院よ」 さつき「病院……柊さん、病気なんですか?」 私はそのまま駅の方に向かった。少し遅れて辻さんが付いて来る。  病院に着いた。受付に向かったが少女のフルネームを聞いていなかった。 かがみ「すみません、お見舞いに来たのですが、さつきちゃん……分りますか?」 受付「ちょっと待ってください」 受付係りが名簿を調べ始めた。 さつき「さつきちゃん……同じ名前」 かがみ「そうね、同じ名前……つかさがよく見舞いに行って元気つけてあげてたらしいわよ」 さつき「そのつかさって妹さん、どうして来れないの?、何故私が代わりにならなきゃならないの?」 私はあえて答えなかった。理屈より感じて欲しかった。 受付「小児病棟の辻さつきさんの部屋ですね、303号室になります、すみませんがこちらにお名前を記入お願いします」 私達は顔を見合わせた。まさか苗字まで同じとは思わなかった。 さつき「同姓同名……」 かがみ「不思議なこともあるものね、とりあえず行くわよ、辻さんは柊つかさとして接してあげて」 さつき「そんなこと言ったってそのつかさって人一回も会ってないし、子供って言ったって初対面じゃ分らない」 かがみ「辻さつき、そのままでいいのよ、思うように、思ったことを、思うがまま、その子に語ってあげればいいの、簡単でしょ」 辻さんは黙ってしまった。途中で買った花束を辻さんに渡した。 303号室。個室の部屋だった。名前、辻さつきと書かれている。私はドアをノックし扉を開けた。そして辻さんの背中を押して先に部屋に入れた。 「あっ!、柊お姉ちゃんが来たー」 辻さんは黙っていた。 「お花、きれいだね」 辻さんは黙って少女に花束を渡した。 「ありがとう」 受け取ると喜び病室中を駆け回った。とても死期が近い子供とは思えない。少女は花瓶に水を入れて花を飾った。 「ねぇ、泉のお姉ちゃんは?」 「……今日は私だけだよ……」 少女は少し悲しい顔をした。 「ねぇ、絵本の続き、読んで……やくそく」 少女は絵本を辻さんに渡した。 「……何処からだっけ?、お姉ちゃん忘れちゃった」 少女は絵本を開き辻さんにここだと示す。辻さんは開いた絵本を受け取ると椅子に座った。少女はベットに座り絵本を覗き込むように見る。そして辻さんは 絵本を読み始めた。少女は彼女をつかさだと思い込んでいる。優しく絵本を読む辻さんも完全につかさを演じている。一度も会ったこともないはずなのに。 私はそのまま病室を離れ病院の出口まで出てしまった。やはり私はこうゆう場面は直視できない。改めてつかさとこなたの優しさと勇気が分った。 私はこんな死を目前にした少女と一緒には居られない。私は卑怯だった。本来私がやるべき事を辻さんに押し付けてしまった。  私は辻さんが真犯人だと思っている。そして辻さんの代わりにつかさが無実の罪で裁かれようとしている。つかさが何を思い無実の罪を受けようとしているのか 辻さんに分ってもらおうと思いついた計画だった。辻さんの良心に訴えようと。その為に私は少女、さつきちゃんを利用してしまった。さつきちゃんが大きくなって この事を知ったらきっと私を恨むだろう。しかし少女は大きくなる事もない……最低だな……私。  一時間を超えた位で辻さんは病院を出てきた。もう私服に着替えていた。つかさの制服を私に渡した。 かがみ「さつきちゃんが来ちゃったらばれちゃうじゃない、着替えるの早すぎだわ」 さつき「もうすっかり寝ちゃってるから大丈夫」 さてこれからが本番だ。彼女に話す。少女の運命と私の本当の目的を。もう後戻りは出来ない。 かがみ「本当はつかさが花束を渡すはずだった、絵本を読んであげるはずだった、でもそれは今できない、つかさは強盗の罪で取調べを受けているわ」 辻さんは黙って私を見ている。 かがみ「つかさは自分が無実だとは言わない、それは、あの少女、さつきちゃんのためよ……つかさはねさつきちゃんの為に祈っているのよ、      その為なら自分がどうなってもいいと思っている、あの子はも数ヶ月の命……辻さん、もう分るでしょ、私の言おうとしている事が」 さつき「私はつかささんと同じ容姿……なるほどね……」 私は辻さんの答えを待った。 さつき「私は……ごめんな…い」 辻さんは泣き出した。この涙は私から逃れるためのものか。それともつかさとさつきちゃんの話を聞いたから泣いたのか。まだ分らない。 かがみ「私に謝ってもしょうがないわよ、これからどうするかは……分るわよね?」 辻さんは俯きながら話し出した。 さつき「私は今まで何をしていいのか分からなかった、忘れていた、だから……だから、反発した、捻くれた、答えはでなかった、でも、思い出した」 かがみ「それで人を傷つけて良い訳けないわ、被害者は幸い軽傷で済んだみたいよ、今ならまだ罪は償えるわよ」 さつき「私の試練だったみたい……間に合うかな?」 私は頷いた。すっかり力を落として動こうとしなかった。 かがみ「一人で行けないのなら、私も一緒に行くわよ」 さつき「私が逃げると思ってるの?」 そうは思わなかった。しかしもう少し様子をみたかった。私は黙って彼女を見ていた。すると辻さんは頭につけていたリボンを外し私に差し出した。 かがみ「これは?」 さつき「これを……さつきちゃんに渡して下さい」 私はさつきちゃんに会うことはできない。辻さんを改心させる為とはいえ利用してしまった。合わせる顔がない。 かがみ「まだ時間は在るわよ、直接渡しなさい、たぶん会えるのはそれで最後よ」 さつき「いいえ、かがみさんから渡して欲しい、私はあの子をもう見られない」 辻さんも私と同じ心境なのか。思わずリボンを受け取ってしまった。 さつき「かがみさん、十年後、また会いましょう、約束しませんか」 かがみ「……辻さん、いくら強盗が重罪でも十年は長いわよ、そこまでは……それに面会もできるわよ」 さつき「うんん、もう会えない、その時まで、だから……」 辻さんの覚悟は分った。私は彼女を信じる。 かがみ「分ったわ、約束しましょう」 さつき「ありがとう」 辻さんは二、三歩私から離れると深々とお辞儀をした。そして駅の方に走っていった。これで良かったのだろうか。 自問自答しながら私も駅の方に向かった。  帰り道、駅を降り、しばらく歩くとこなたとみゆきを見かけた。二人は私に気が付かず素通りし、繁華街に向かっていった。二人は鳩のように首を振り 何かを探しているようだった。私はゆっくり後ろから二人に近づき声をかけた。 かがみ「こなた、みゆき、何やってるのよ」 二人は飛び上がって驚いた。 こなた「か、かがみ、いや、つかさに似た人をさがし……もごもご」 慌ててみゆきはこなたの口を手で塞いだ。 みゆき「いえ、宿題で繁華街における客の動員数の動向と趣向を……」 何を言ってるのか分らない。でも何をしていたのかは分かる。私に内緒で。泣けるじゃない。私はこらえた。 かがみ「……さっき私の前を通り過ぎたわよ、気が付かなかったのか、そんな節穴の目で何を調べるんだよ……別にごまかす事なんかないわよ、      つかさの為に……ありがとう、でも、もういいわ、もう終わったから」 二人は顔を見合わせた。 こなた「終わったって?、何が終わったの?」 みゆき「どうしたのですか?、何があったのですか?」 かがみ「いろいろよ……そう、いろいろとね、もう遅いわよ、帰りましょ」 こなた「でも、つかさ……」 かがみ「つかさは帰ってくる、もうすぐ……私は信じる」 かがみ「オース、お昼食べに来たわよ……みゆきは?」 こなた「いらっしゃい、待ってたよ、みゆきさんは職員室に届け物だよ」 つかさ「お姉ちゃん、最近こっちばかり来てるけど平気なの?」 かがみ「平気よ、お昼くらいこっち来たくらいで、気にすることないわ」 みゆき「お待たせしました」 教室にみゆきが入ってきた。  四人でいつものように楽しい昼食。辻さんと別れて三日も経たないうちにつかさは釈放された。真犯人は自首をした。しかしそれは辻さんではなかった。 未成年なので名前は公表されていない。みゆきの話ではつかさ達のクラスの男子生徒らしい。席が空いている所に居た生徒。思い出した。わざわざ違う高校 の制服を着るなんて。最初辻さんを見つけたときに付いてきてた男子。煙草を差し出した人だ。つかさに罪をなすり付けようとしたようだが、罪に耐えられなくなり 自首したとの事。 辻さんは彼を説得したのだろうか。あの時の会話は自分が犯人と言っているように受け取った。何故あの時、自分は犯人ではないと言ってくれなかったのか。 私は真意を確かめようと彼女を探した。公園にも居なかった。街中を探したがいなかった。辻さんの通っていた高校も調べた。しかし辻さつきと言う生徒は 在学していないことが分った。さすが名門高校、スペインにも分校があったがそこにも彼女の名前はなかった。そして辻の名で街中を探したが 『さつき』と言う名前はあの少女しか居なかった。彼女は消えた。痕跡を残さずに。それとも彼女は私に嘘を言ったのか。 こなた「しかし真犯人が自首してきてよかったね、つかさ、本当に最後まで罪を被るつもりだったの?」 つかさ「分らない……でもさつきちゃんが元気になって良かった」 みゆき「まさか新薬の臨床試験に辻さんが選ばれるとは、それで、その薬が効いた、奇跡としかいいようがありません」 つかさ「こなちゃんの教えてくれたおまじないのおかげだよ、すごいよね」  自分が捕まって酷い目にあったというのに、さつきちゃんが助かったことを喜んでいる。おまじないの効果で片付けてしまっている。私はそんなつかさが好きだ。 私には到底出来ない事。こなたやみゆきも最近はつかさと出歩くことが多くなった。私はもしかしたら姉失格かもしれない。 つかさが釈放されて二ヶ月後、みゆきが言うように突然新薬の臨床試験を行うことになった。さつきちゃんで試す事に。 もちろん効く可能性はゼロに近かったらしい。でもその薬は効いた。さつきちゃんの病気は完治した。 こなた「一週間後、退院することになったね……かがみも退院するまでに一回はお見舞いに行こうよ、みゆきさんも来てくれているんだしさ」 みゆき「どうして来れないのですか、以前、私達がつかささん達を尾行した事をまだ気になされているのですか?」 私は沈黙をした。みゆきの言った事も少しはあるがそれが理由ではない。私はさつきちゃんを利用してしまった罪悪感がどうしても取れなかった。 つかさ「そんなの理由にならないよ、今日行こうよ、お姉ちゃん、委員会の会議無いんでしょ?」 かがみ「ごめん、今日も用事があって……」 つかさは悲しい顔をした。  放課後私は公園に居た。つかさが釈放されてから二ヶ月。暇を見つけてはこの公園のベンチに座っている。彼女と話したベンチ。しかし彼女は来ない。 もう一度会って話したかった。嘘を付いたことなんかもうどうでも良かった。もう聞くつもりもなかった。ただ会いたいだけだった。彼女と会えば一緒に さつきちゃんの所に行けるような気がしたから。  西日がベンチに射しこむ。彼女は来なかった。今日、来なければもうこの公園に来るのを止めようと思っていた……来なかった。帰ろう。  家に帰るとすでにつかさは帰っていた。夕食の手伝いをしていた。私はそのまま自分の部屋に入り宿題を片付けた。  夕食が終わりしばらくすると久しぶりにつかさが私の部屋に入ってきた。 つかさ「お姉ちゃん、遊びに来たよ」 つかさを見ると漫画の本を持っていた。 かがみ「また漫画かよ、たまには小説とか読んだからどうなんだ」 つかさ「えへへ、これ、こなちゃんから借りたんた、明日、返さなきゃいけないから」 つかさが私のベットに腰掛けようと時だった。 つかさ「あ、リボン、お姉ちゃん、リボン変えたんだ?」 かがみ「いや、変えてないけど、どうして?」 つかさは私の机に置いてあったリボンを取った。 つかさ「このリボンだよ、お姉ちゃんが使うには長いかなって思って……あれ?、このリボン、さつきちゃんにあげたリボンだ、どうしてお姉ちゃんが持ってるの?」 このリボンは辻さんと別れる時に付け取ったリボン。どう言うことなんだ?。私が聞きたい。 かがみ「リボンなんか何処でも同じもの売ってるわよ、私がそんなの持ってるわけないでしょ」 つかさ「さつきちゃんにあげる時、刺繍したんだよ……ほら、ここに私の字で『さつき』って書いてあるでしょ……あれ、これ凄く古くなっちゃってるよ、      十年くらい経ってるみたいに色が褪せちゃってるよ……お姉ちゃん洗っていないよね?」 かがみ「リボンなんか洗わないわよ……」 おかしい。病室にいたさつきちゃんはリボンをしていなかった。さつきちゃんが辻さんに渡したのか?。いや。それなら辻さんが付けていたリボンはどうしたんだ。 つかさ「、なんでお姉ちゃんが持ってるんだろ?、不思議だね……」 古くなって色褪せたリボン。確かに随分時間が経ってるようにも見える。 つかさ「不思議と言えばね、さつきちゃん変なこと言うんだよ、絵本の続きを読んであげようとしたらもう私が読んだって……何時って聞いたら私が      捕まっていた時なんだよね……それに楽しい絵本なのに急に私が泣き出したんだって……それで『思い出した』って言ったって?、      病気で幻覚でも見てたのかな?……そういえばお姉ちゃんも私に似た人見かけたんだよね、関係あのかな?」  『思い出した』確かに辻さんはそう言った。『試練』とも言っていた。そして十年も経っていそうな古いリボン。まさか…… かがみ「つかさ、こなたから教えてもらったおまじない、さつきちゃんに教えた?」 つかさ「うん、教えたよ、でもこのおまじないは辛いことが起こるから大きくなるまで使っちゃダメだよって言ったよ」  辻さんがさつきちゃんの病室に入ってから急に態度が変わった。会ったこともないつかさを演じていた。それは行き当たりばったりの適当な演技じゃない。 つかさを知っていないとできない演技だった。現にさつきちゃんは彼女をつかさだと思っていた。彼女は以前につかさに会っている。  私は仮定をした。さつきちゃんが十七歳になった時、つかさが以前にさつきちゃんを救うためにおまじないをした事を知った。 そこで彼女はつかさと同じおまじないをして祈った。つかさを助けたいと……彼女はこの時代に飛ばされた。その時、おまじないの試練によって彼女の 記憶が奪われた。そして目的を失い、彼女は苦しみ、反抗的になった。私は彼女にさつきちゃんを見せた。つまり昔の自分を見せたことにより記憶が蘇った…… 未来のさつきちゃんなら真犯人が誰か知っていても不思議はない。つかさとさつきちゃんの祈りが時を超えて、お互いを助けた…… かがみ「ふ、ふふ、はは、傑作だ、そんなばかな話があるわけないわ、はははは」 つかさ「お姉ちゃん?」 私は笑った。都合のいい想像に、バカさ加減に。笑うしかなかった。 つかさ「そんなに面白い?、お姉ちゃんはまだあのおまじない信じていなんだね……」 かがみ「信じるもなにも、たかがおまじないよ……」 つかさ「そうだね、たかがおまじない……さつきちゃんね、退院したらお父さんの仕事でスペインに行っちゃうんだって……十年くらい会えなくなるみたいだよ……      もう一度あのおまじないしようかな……でも、もうあんな辛い目に遭うのも嫌だな……」  笑いが止まった。仮定じゃなかった……辻さんの言った十年後って、会うのは辻さんじゃない、十年後のさつきちゃん……辻さつき……。 つかさ「このリボン、返してね、さつきちゃんに渡さなきゃ……」 つかさはリボンを持って自分の部屋に向かおうとした。 かがみ「待って、そのリボン、私がさつきちゃんに渡すわ」 つかさは立ち止まり満面の笑みを私に見せた。 つかさ「お姉ちゃん、やっと、やっと会う気になってくれたんだね」 かがみ「そうよ、約束だから……つかさ、スペインから帰ってきたさつきちゃんを見たら驚くわよ」 つかさ「約束?、驚く?、どうゆうことなの?」 かがみ「その時が来れば分るわよ」 つかさからリボンを受け取った。 ……はっとした。私のした事、さつきちゃんは許してくれたのか。 だからリボンを私に渡した……そして十年後会う約束をした。急に涙が出てきた。涙は止められそうにない。 つかさ「お姉ちゃん、笑ったり、泣いたり……どうしたの?」 かがみ「何でもない……何でもない、つかさ、あのおまじないは本物だよ……それが分った」 つかさ「そうでしょ、でもよかった、さつきちゃんが亡くなる前におまじないをして、亡くなった後だと効果ないんだって、こなちゃんが言ってたよ」 こなたはお母さんに試したんだな。つかさ、そのくらい気付けよ。と言いたかったが止めた。そんな詮索をしないからつかさの願いが叶った。そんな気がした。 私はあのおまじないで願いを叶えることは出来なさそうだ。私が出来ることは……。涙を拭った。 かがみ「つかさ、漫画読んでるけど数学の宿題はもう終わったの?、確か先生同じでしょ?、宿題出ているはずよね」 つかさの動きが止まった。 つかさ「まだだったりして……」 私は漫画を取り上げた。 かがみ「それじゃここに宿題持ってきなさい、分らないところは教えてあげるから」 つかさ「でも、こなちゃんに明日返すって約束が……」 私はため息をついた。 かがみ「どうせこなたも宿題やってないでしょ、私が電話で言ってあげるから、宿題終わるまでこの漫画預かっておくわよ」 つかさ「お姉ちゃん、黒井先生みたいだよ……」 渋々と自分の部屋に教材を取りに行った。その時間を利用し、こなたに電話をかける。案の定、こなたも宿題をしていなかった。 今度みゆきも誘って勉強会をするか。 私は私。それ以上でもそれ以下でもない。 思うように、思ったまま、思った事をそのままに。 さつきちゃんに教えたつもりが教えられた。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 奥が深く素晴らしいssでした!   作者GJ -- 名無しさん (2010-08-17 18:00:25) - 素晴らしかったですwwwGJwwww -- 名無しさん (2010-06-22 17:34:52)
 こなたはああ言ったけど、私はどうしても諦めきれない。このままだとつかさは実刑、退学処分は免れない。つかさはそんな事よりさつきちゃんの死に目に 会えない方が辛いだろう。もう一度つかさに似た子と会って真相を聞きたい。私は時間があると彼女を見つけた駅周辺を探し回った。  一週間が過ぎた。今日は一人で帰る事になったのでまた駅周辺を探し回った。人を探すというのがこんなに難しいとは思わなかった。 確かにつかさに似ている以外、住んでいる場所も名前も知らない。そんな人を探すなんて。一本道が違うだけで会うことはできない。 諦めかけた時だった。公園を通りかかると、公園の中央に一人の女性を見つけた。化粧をしている。髪型も違う。でも私には分る。つかさ……。 この公園は煙草を吸っていた時の公園だ。最初からこの公園をマークするべきだった。彼女は以前と違い一人で公園のベンチに座っていた。 何をする訳でもなく空を見上げていた。私が公園に入っても気が付いていない。彼女はおもむろに煙草を取り出し火を点けようとした。 私はその煙草を取り上げた。その時初めて彼女は私の方を向いた。その時の彼女の顔は漫画を取り上げた時のつかさそのものだった。 かがみ「あんた、未成年じゃないの?、煙草なんか吸うもんじゃないわよ」 なんの抵抗もなく言えた。初対面の人で何の係わり合いも無い人にこんな事が言えるとは思えなかった。彼女は私を無視し、煙草のケースを取り出し 煙草を取り出そうとした。私はケースごと取り上げた。 かがみ「話、聞こえなかったかしら、返事くらいしたらどうなの?」 彼女は私を睨みつけてきた。しかしつかさの顔でそんな事をされても怖くは無い。私もつかさを叱るつもりで睨み返した。そういえば高校になってから つかさに怒ったことも、叱ったこともなくなった。それだけつかさが成長したからなのだろうか。 「未成年で吸っちゃ悪いのかよ……」 驚いてしまった。声までつかさと同じだった。彼女は目を逸らしてそう言った。 かがみ「当たり前でしょ、いままで注意されたこと無かったの?」 「そんな事する奴はあんたが始めてだよ……なんだよ、さっきから私のことジロジロと」 化粧で分らないがきっと顔を赤らめている。こんな所もつかさに似ている。 かがみ「先週あんたに付いてきた取り巻きの高校生は?、一緒じゃないみたいね、リーダでもしてたのかしら」 「なんでそんな事知ってんだよ!、誰だよあんた……私に何の用があるんだよ!」 すごい権幕だ。でも私は動じない。 かがみ「なんか他人の気がしなくてね、私は柊かがみ、陸桜の二年生、あんたは?」 「同じ歳かよ……上級生ぶりやっがって」 歳まで同じとは思わなかった。私を上級生と思っていたのか。それならもうつかさと同じように接してやる。 かがみ「名前は?」 私はもう一度問い質した。 「辻……さつき」 さつき……これも偶然というのか、まさかつかさが見舞いに行っていた女の子と同じ名前なんて。 かがみ「隣り、座っていいかしら?」 さつき「勝手にすれば……」 私は辻さんの隣に座った。 かがみ「どこに住んでるの?」 さつき「近く」 かがみ「いつから?」 さつき「忘れた……」 かがみ「高校は?」 さつき「○○学園高校……なんだよさっきから、尋問かよ」 その高校は知っている。かなりのエリート校だ、私も受けようとしたけど止めたくらい。みゆきクラスの生徒が沢山いる高校だ。 かがみ「ごめん、それじゃ私の事も話すわよ」 さつき「興味ない……」 かがみ「可愛くないわね」 さつき「同じ年齢の人に言われたくない」 こんな会話がしばらく続いた。つかみ所のない子だったけど基本的には悪い子じゃなさそうだ。仕草や表情に時折つかさを思わせるような癖も伺える。 似ているのは姿、顔、声だけじゃなかった。つかさと話しているのではと思ってしまうほどだった。 さつき「さっきから赤の他人にそんなに話しかけて来るんだよ、気持ち悪いな」 かがみ「……妹と似てるからかな」 さつき「それだけで?」  それだけだったかもしれない。彼女の姿が少しでもつかさと違っていたら話さなかったかもしれない。 かがみ「そう言う辻さんだって私と会話を付き合ってくれて、なぜ?」 さつき「うざいんだよ、早くここから立ち去りたい」 かがみ「そう?、別に鎖でつないでいるわけじゃないわ、いつでも立ち去れるわよ、でも立ち去らなかったわね」 辻さんは立ち上がった。 さつき「こんな奴初めてだ、もう帰るよ」 かがみ「……付き合ってくれてありがとう」 辻さんはそのまま立ち去ろうとした。 かがみ「忘れ物よ」 取り上げた煙草を差し出した。 さつき「未成年は吸っちゃだめなんでしょ、適当に処分しておいて」 かがみ「もし良かったら明日も会わない?、同じ時間、同じ場所で、待ってるわよ、約束よ」 さつき「私、明日来ると思う?」 私は頷いた。 かがみ「一つ言わせて、化粧は二十歳からするものよ、それと髪型も整えたほうが良いわね、そう、一週間前のようにね」 さつき「明日は来ないよ、待ってても無駄だだから」 そのまま彼女は走り去った。  辻さんが真犯人なのだろうか。疑問に思った。第一印象とこれほど違うとは。つかさに近い性格だった。家庭か学校に何か問題を抱えているのだろうか。 何か無理をして反発しているような気がした。たった一回会っただけで人は理解できなか。西日が急に差し込んできた。もうそんな時間か。私は帰路についた。 かがみ「ただいま」 いのり「おかえり……随分ご機嫌ね、何か良いことでもあったの?」 かがみ「……つかさに会ってきた」 いのり「嘘、まだ面会は認められていないわよ……つかさはいったいどうしたって言うのよ、あれからずっと黙秘らしい」 つかさはあれが試練だと思っているのか。ばかだよ。否認をすればいいだけの事なのに。 かがみ「取調べ、長引きそうね……でもつかさは無実だわ、それだけは言える」 いのり「そうね……それだけは私だって分る」 帰ってから家での会話でこれで終わってしまった。  次の日、私は約束の時間通り公園に着いた。辺りを見ましても辻さんが来た様子はない。約束か、私が一方的にそう言っただけだった。 せっかく来た事だし待つだけ待つか。昨日と同じベンチに腰を下ろして待った。 さつき「遅れたけど来たよ」 10分くらい待っただろうか。来た。私は後ろを振り向いた。化粧を落として髪を整えていた。そしてリボンを頭につけている。 かがみ「つかさ……つかさ」 私は思わず彼女を抱きしめて泣いてしまった。 さつき「うわ、いきなり何するんだよ」 そうだった。つかさが来るはずはなかった。我に返った。 かがみ「……ごめん、あまりにつかさに似ていたから」 さつき「つかさって妹の名前?、そんなに似ているんだ、私」 かがみ「似てるってレベルじゃない、つかさそのものよ……よく来てくれたわね、ありがとう」 辻さんはそのまま黙って顔を赤らめた。さて、来たらやってもらいたことがあった。 かがみ「辻さん、悪いわね、これに着替えてくれない、そこにトイレがあるから」 私はつかさの着ていた制服を辻さんに渡した。 さつき「……妹って柊さんと同じ高校だったの?、今何年生?」 かがみ「私と同じ学年、双子だから」 辻さんは私をじっと見た。 さつき「双子ね、私と似ていないけど……」 かがみ「二卵性だからね、さ、着替えなさい」 さつき「ちっ、私はお前の妹の代わりかよ、そんなコスプレみたいのはしたくない」 かがみ「確かにつかさの代わりだけど私の為じゃない」 さつき「だったら何の為なのさ」 かがみ「説明するより来てもらった方が早い」 さつき「そんな説明があるか」 と、言いながら渋々とトイレへと向かった。 さつき「この制服まるで測ったようにピッタリだ」 そこに立っているのは柊つかさそのものだった。 かがみ「それじゃ行くわよ、つかさ」 さつき「つかさって、私はさつき……何処に?」 かがみ「○○病院よ」 さつき「病院……柊さん、病気なんですか?」 私はそのまま駅の方に向かった。少し遅れて辻さんが付いて来る。  病院に着いた。受付に向かったが少女のフルネームを聞いていなかった。 かがみ「すみません、お見舞いに来たのですが、さつきちゃん……分りますか?」 受付「ちょっと待ってください」 受付係りが名簿を調べ始めた。 さつき「さつきちゃん……同じ名前」 かがみ「そうね、同じ名前……つかさがよく見舞いに行って元気つけてあげてたらしいわよ」 さつき「そのつかさって妹さん、どうして来れないの?、何故私が代わりにならなきゃならないの?」 私はあえて答えなかった。理屈より感じて欲しかった。 受付「小児病棟の辻さつきさんの部屋ですね、303号室になります、すみませんがこちらにお名前を記入お願いします」 私達は顔を見合わせた。まさか苗字まで同じとは思わなかった。 さつき「同姓同名……」 かがみ「不思議なこともあるものね、とりあえず行くわよ、辻さんは柊つかさとして接してあげて」 さつき「そんなこと言ったってそのつかさって人一回も会ってないし、子供って言ったって初対面じゃ分らない」 かがみ「辻さつき、そのままでいいのよ、思うように、思ったことを、思うがまま、その子に語ってあげればいいの、簡単でしょ」 辻さんは黙ってしまった。途中で買った花束を辻さんに渡した。 303号室。個室の部屋だった。名前、辻さつきと書かれている。私はドアをノックし扉を開けた。そして辻さんの背中を押して先に部屋に入れた。 「あっ!、柊お姉ちゃんが来たー」 辻さんは黙っていた。 「お花、きれいだね」 辻さんは黙って少女に花束を渡した。 「ありがとう」 受け取ると喜び病室中を駆け回った。とても死期が近い子供とは思えない。少女は花瓶に水を入れて花を飾った。 「ねぇ、泉のお姉ちゃんは?」 「……今日は私だけだよ……」 少女は少し悲しい顔をした。 「ねぇ、絵本の続き、読んで……やくそく」 少女は絵本を辻さんに渡した。 「……何処からだっけ?、お姉ちゃん忘れちゃった」 少女は絵本を開き辻さんにここだと示す。辻さんは開いた絵本を受け取ると椅子に座った。少女はベットに座り絵本を覗き込むように見る。そして辻さんは 絵本を読み始めた。少女は彼女をつかさだと思い込んでいる。優しく絵本を読む辻さんも完全につかさを演じている。一度も会ったこともないはずなのに。 私はそのまま病室を離れ病院の出口まで出てしまった。やはり私はこうゆう場面は直視できない。改めてつかさとこなたの優しさと勇気が分った。 私はこんな死を目前にした少女と一緒には居られない。私は卑怯だった。本来私がやるべき事を辻さんに押し付けてしまった。  私は辻さんが真犯人だと思っている。そして辻さんの代わりにつかさが無実の罪で裁かれようとしている。つかさが何を思い無実の罪を受けようとしているのか 辻さんに分ってもらおうと思いついた計画だった。辻さんの良心に訴えようと。その為に私は少女、さつきちゃんを利用してしまった。さつきちゃんが大きくなって この事を知ったらきっと私を恨むだろう。しかし少女は大きくなる事もない……最低だな……私。  一時間を超えた位で辻さんは病院を出てきた。もう私服に着替えていた。つかさの制服を私に渡した。 かがみ「さつきちゃんが来ちゃったらばれちゃうじゃない、着替えるの早すぎだわ」 さつき「もうすっかり寝ちゃってるから大丈夫」 さてこれからが本番だ。彼女に話す。少女の運命と私の本当の目的を。もう後戻りは出来ない。 かがみ「本当はつかさが花束を渡すはずだった、絵本を読んであげるはずだった、でもそれは今できない、つかさは強盗の罪で取調べを受けているわ」 辻さんは黙って私を見ている。 かがみ「つかさは自分が無実だとは言わない、それは、あの少女、さつきちゃんのためよ……つかさはねさつきちゃんの為に祈っているのよ、      その為なら自分がどうなってもいいと思っている、あの子はも数ヶ月の命……辻さん、もう分るでしょ、私の言おうとしている事が」 さつき「私はつかささんと同じ容姿……なるほどね……」 私は辻さんの答えを待った。 さつき「私は……ごめんな…い」 辻さんは泣き出した。この涙は私から逃れるためのものか。それともつかさとさつきちゃんの話を聞いたから泣いたのか。まだ分らない。 かがみ「私に謝ってもしょうがないわよ、これからどうするかは……分るわよね?」 辻さんは俯きながら話し出した。 さつき「私は今まで何をしていいのか分からなかった、忘れていた、だから……だから、反発した、捻くれた、答えはでなかった、でも、思い出した」 かがみ「それで人を傷つけて良い訳けないわ、被害者は幸い軽傷で済んだみたいよ、今ならまだ罪は償えるわよ」 さつき「私の試練だったみたい……間に合うかな?」 私は頷いた。すっかり力を落として動こうとしなかった。 かがみ「一人で行けないのなら、私も一緒に行くわよ」 さつき「私が逃げると思ってるの?」 そうは思わなかった。しかしもう少し様子をみたかった。私は黙って彼女を見ていた。すると辻さんは頭につけていたリボンを外し私に差し出した。 かがみ「これは?」 さつき「これを……さつきちゃんに渡して下さい」 私はさつきちゃんに会うことはできない。辻さんを改心させる為とはいえ利用してしまった。合わせる顔がない。 かがみ「まだ時間は在るわよ、直接渡しなさい、たぶん会えるのはそれで最後よ」 さつき「いいえ、かがみさんから渡して欲しい、私はあの子をもう見られない」 辻さんも私と同じ心境なのか。思わずリボンを受け取ってしまった。 さつき「かがみさん、十年後、また会いましょう、約束しませんか」 かがみ「……辻さん、いくら強盗が重罪でも十年は長いわよ、そこまでは……それに面会もできるわよ」 さつき「うんん、もう会えない、その時まで、だから……」 辻さんの覚悟は分った。私は彼女を信じる。 かがみ「分ったわ、約束しましょう」 さつき「ありがとう」 辻さんは二、三歩私から離れると深々とお辞儀をした。そして駅の方に走っていった。これで良かったのだろうか。 自問自答しながら私も駅の方に向かった。  帰り道、駅を降り、しばらく歩くとこなたとみゆきを見かけた。二人は私に気が付かず素通りし、繁華街に向かっていった。二人は鳩のように首を振り 何かを探しているようだった。私はゆっくり後ろから二人に近づき声をかけた。 かがみ「こなた、みゆき、何やってるのよ」 二人は飛び上がって驚いた。 こなた「か、かがみ、いや、つかさに似た人をさがし……もごもご」 慌ててみゆきはこなたの口を手で塞いだ。 みゆき「いえ、宿題で繁華街における客の動員数の動向と趣向を……」 何を言ってるのか分らない。でも何をしていたのかは分かる。私に内緒で。泣けるじゃない。私はこらえた。 かがみ「……さっき私の前を通り過ぎたわよ、気が付かなかったのか、そんな節穴の目で何を調べるんだよ……別にごまかす事なんかないわよ、      つかさの為に……ありがとう、でも、もういいわ、もう終わったから」 二人は顔を見合わせた。 こなた「終わったって?、何が終わったの?」 みゆき「どうしたのですか?、何があったのですか?」 かがみ「いろいろよ……そう、いろいろとね、もう遅いわよ、帰りましょ」 こなた「でも、つかさ……」 かがみ「つかさは帰ってくる、もうすぐ……私は信じる」 かがみ「オース、お昼食べに来たわよ……みゆきは?」 こなた「いらっしゃい、待ってたよ、みゆきさんは職員室に届け物だよ」 つかさ「お姉ちゃん、最近こっちばかり来てるけど平気なの?」 かがみ「平気よ、お昼くらいこっち来たくらいで、気にすることないわ」 みゆき「お待たせしました」 教室にみゆきが入ってきた。  四人でいつものように楽しい昼食。辻さんと別れて三日も経たないうちにつかさは釈放された。真犯人は自首をした。しかしそれは辻さんではなかった。 未成年なので名前は公表されていない。みゆきの話ではつかさ達のクラスの男子生徒らしい。席が空いている所に居た生徒。思い出した。わざわざ違う高校 の制服を着るなんて。最初辻さんを見つけたときに付いてきてた男子。煙草を差し出した人だ。つかさに罪をなすり付けようとしたようだが、罪に耐えられなくなり 自首したとの事。 辻さんは彼を説得したのだろうか。あの時の会話は自分が犯人と言っているように受け取った。何故あの時、自分は犯人ではないと言ってくれなかったのか。 私は真意を確かめようと彼女を探した。公園にも居なかった。街中を探したがいなかった。辻さんの通っていた高校も調べた。しかし辻さつきと言う生徒は 在学していないことが分った。さすが名門高校、スペインにも分校があったがそこにも彼女の名前はなかった。そして辻の名で街中を探したが 『さつき』と言う名前はあの少女しか居なかった。彼女は消えた。痕跡を残さずに。それとも彼女は私に嘘を言ったのか。 こなた「しかし真犯人が自首してきてよかったね、つかさ、本当に最後まで罪を被るつもりだったの?」 つかさ「分らない……でもさつきちゃんが元気になって良かった」 みゆき「まさか新薬の臨床試験に辻さんが選ばれるとは、それで、その薬が効いた、奇跡としかいいようがありません」 つかさ「こなちゃんの教えてくれたおまじないのおかげだよ、すごいよね」  自分が捕まって酷い目にあったというのに、さつきちゃんが助かったことを喜んでいる。おまじないの効果で片付けてしまっている。私はそんなつかさが好きだ。 私には到底出来ない事。こなたやみゆきも最近はつかさと出歩くことが多くなった。私はもしかしたら姉失格かもしれない。 つかさが釈放されて二ヶ月後、みゆきが言うように突然新薬の臨床試験を行うことになった。さつきちゃんで試す事に。 もちろん効く可能性はゼロに近かったらしい。でもその薬は効いた。さつきちゃんの病気は完治した。 こなた「一週間後、退院することになったね……かがみも退院するまでに一回はお見舞いに行こうよ、みゆきさんも来てくれているんだしさ」 みゆき「どうして来れないのですか、以前、私達がつかささん達を尾行した事をまだ気になされているのですか?」 私は沈黙をした。みゆきの言った事も少しはあるがそれが理由ではない。私はさつきちゃんを利用してしまった罪悪感がどうしても取れなかった。 つかさ「そんなの理由にならないよ、今日行こうよ、お姉ちゃん、委員会の会議無いんでしょ?」 かがみ「ごめん、今日も用事があって……」 つかさは悲しい顔をした。  放課後私は公園に居た。つかさが釈放されてから二ヶ月。暇を見つけてはこの公園のベンチに座っている。彼女と話したベンチ。しかし彼女は来ない。 もう一度会って話したかった。嘘を付いたことなんかもうどうでも良かった。もう聞くつもりもなかった。ただ会いたいだけだった。彼女と会えば一緒に さつきちゃんの所に行けるような気がしたから。  西日がベンチに射しこむ。彼女は来なかった。今日、来なければもうこの公園に来るのを止めようと思っていた……来なかった。帰ろう。  家に帰るとすでにつかさは帰っていた。夕食の手伝いをしていた。私はそのまま自分の部屋に入り宿題を片付けた。  夕食が終わりしばらくすると久しぶりにつかさが私の部屋に入ってきた。 つかさ「お姉ちゃん、遊びに来たよ」 つかさを見ると漫画の本を持っていた。 かがみ「また漫画かよ、たまには小説とか読んだからどうなんだ」 つかさ「えへへ、これ、こなちゃんから借りたんた、明日、返さなきゃいけないから」 つかさが私のベットに腰掛けようと時だった。 つかさ「あ、リボン、お姉ちゃん、リボン変えたんだ?」 かがみ「いや、変えてないけど、どうして?」 つかさは私の机に置いてあったリボンを取った。 つかさ「このリボンだよ、お姉ちゃんが使うには長いかなって思って……あれ?、このリボン、さつきちゃんにあげたリボンだ、どうしてお姉ちゃんが持ってるの?」 このリボンは辻さんと別れる時に付け取ったリボン。どう言うことなんだ?。私が聞きたい。 かがみ「リボンなんか何処でも同じもの売ってるわよ、私がそんなの持ってるわけないでしょ」 つかさ「さつきちゃんにあげる時、刺繍したんだよ……ほら、ここに私の字で『さつき』って書いてあるでしょ……あれ、これ凄く古くなっちゃってるよ、      十年くらい経ってるみたいに色が褪せちゃってるよ……お姉ちゃん洗っていないよね?」 かがみ「リボンなんか洗わないわよ……」 おかしい。病室にいたさつきちゃんはリボンをしていなかった。さつきちゃんが辻さんに渡したのか?。いや。それなら辻さんが付けていたリボンはどうしたんだ。 つかさ「、なんでお姉ちゃんが持ってるんだろ?、不思議だね……」 古くなって色褪せたリボン。確かに随分時間が経ってるようにも見える。 つかさ「不思議と言えばね、さつきちゃん変なこと言うんだよ、絵本の続きを読んであげようとしたらもう私が読んだって……何時って聞いたら私が      捕まっていた時なんだよね……それに楽しい絵本なのに急に私が泣き出したんだって……それで『思い出した』って言ったって?、      病気で幻覚でも見てたのかな?……そういえばお姉ちゃんも私に似た人見かけたんだよね、関係あのかな?」  『思い出した』確かに辻さんはそう言った。『試練』とも言っていた。そして十年も経っていそうな古いリボン。まさか…… かがみ「つかさ、こなたから教えてもらったおまじない、さつきちゃんに教えた?」 つかさ「うん、教えたよ、でもこのおまじないは辛いことが起こるから大きくなるまで使っちゃダメだよって言ったよ」  辻さんがさつきちゃんの病室に入ってから急に態度が変わった。会ったこともないつかさを演じていた。それは行き当たりばったりの適当な演技じゃない。 つかさを知っていないとできない演技だった。現にさつきちゃんは彼女をつかさだと思っていた。彼女は以前につかさに会っている。  私は仮定をした。さつきちゃんが十七歳になった時、つかさが以前にさつきちゃんを救うためにおまじないをした事を知った。 そこで彼女はつかさと同じおまじないをして祈った。つかさを助けたいと……彼女はこの時代に飛ばされた。その時、おまじないの試練によって彼女の 記憶が奪われた。そして目的を失い、彼女は苦しみ、反抗的になった。私は彼女にさつきちゃんを見せた。つまり昔の自分を見せたことにより記憶が蘇った…… 未来のさつきちゃんなら真犯人が誰か知っていても不思議はない。つかさとさつきちゃんの祈りが時を超えて、お互いを助けた…… かがみ「ふ、ふふ、はは、傑作だ、そんなばかな話があるわけないわ、はははは」 つかさ「お姉ちゃん?」 私は笑った。都合のいい想像に、バカさ加減に。笑うしかなかった。 つかさ「そんなに面白い?、お姉ちゃんはまだあのおまじない信じていなんだね……」 かがみ「信じるもなにも、たかがおまじないよ……」 つかさ「そうだね、たかがおまじない……さつきちゃんね、退院したらお父さんの仕事でスペインに行っちゃうんだって……十年くらい会えなくなるみたいだよ……      もう一度あのおまじないしようかな……でも、もうあんな辛い目に遭うのも嫌だな……」  笑いが止まった。仮定じゃなかった……辻さんの言った十年後って、会うのは辻さんじゃない、十年後のさつきちゃん……辻さつき……。 つかさ「このリボン、返してね、さつきちゃんに渡さなきゃ……」 つかさはリボンを持って自分の部屋に向かおうとした。 かがみ「待って、そのリボン、私がさつきちゃんに渡すわ」 つかさは立ち止まり満面の笑みを私に見せた。 つかさ「お姉ちゃん、やっと、やっと会う気になってくれたんだね」 かがみ「そうよ、約束だから……つかさ、スペインから帰ってきたさつきちゃんを見たら驚くわよ」 つかさ「約束?、驚く?、どうゆうことなの?」 かがみ「その時が来れば分るわよ」 つかさからリボンを受け取った。 ……はっとした。私のした事、さつきちゃんは許してくれたのか。 だからリボンを私に渡した……そして十年後会う約束をした。急に涙が出てきた。涙は止められそうにない。 つかさ「お姉ちゃん、笑ったり、泣いたり……どうしたの?」 かがみ「何でもない……何でもない、つかさ、あのおまじないは本物だよ……それが分った」 つかさ「そうでしょ、でもよかった、さつきちゃんが亡くなる前におまじないをして、亡くなった後だと効果ないんだって、こなちゃんが言ってたよ」 こなたはお母さんに試したんだな。つかさ、そのくらい気付けよ。と言いたかったが止めた。そんな詮索をしないからつかさの願いが叶った。そんな気がした。 私はあのおまじないで願いを叶えることは出来なさそうだ。私が出来ることは……。涙を拭った。 かがみ「つかさ、漫画読んでるけど数学の宿題はもう終わったの?、確か先生同じでしょ?、宿題出ているはずよね」 つかさの動きが止まった。 つかさ「まだだったりして……」 私は漫画を取り上げた。 かがみ「それじゃここに宿題持ってきなさい、分らないところは教えてあげるから」 つかさ「でも、こなちゃんに明日返すって約束が……」 私はため息をついた。 かがみ「どうせこなたも宿題やってないでしょ、私が電話で言ってあげるから、宿題終わるまでこの漫画預かっておくわよ」 つかさ「お姉ちゃん、黒井先生みたいだよ……」 渋々と自分の部屋に教材を取りに行った。その時間を利用し、こなたに電話をかける。案の定、こなたも宿題をしていなかった。 今度みゆきも誘って勉強会をするか。 私は私。それ以上でもそれ以下でもない。 思うように、思ったまま、思った事をそのままに。 さつきちゃんに教えたつもりが教えられた。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 深い!そして面白い!なんかドラマ化しても &br()おかしくない完成度の高い作品。 -- チャムチロ (2014-03-09 22:52:53) - 奥が深く素晴らしいssでした!   作者GJ -- 名無しさん (2010-08-17 18:00:25) - 素晴らしかったですwwwGJwwww -- 名無しさん (2010-06-22 17:34:52)

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