ID:4Y.2N3.0氏:WALS-4

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「うーむ…」  こなたは、自分の格好を見ながらそう唸った。  白色で厚手のウェスタンシャツに袖なしのレザージャケット。下は革であちこちを補強してあるジーンズに、これまた革製のブーツ。頭にはティンガロンハットをかぶり、ロディにもらった赤いスカーフを首に巻いている。  仕立て屋で採寸してもらい、一日かかるからとかがみが寝泊りに使っている空き家で一泊し、服を受け取りに行ったのだが、こなたは服を受け取って着替えてからずっと不満気な表情を隠そうともしていなかった。 「よくわからないからって、かがみ任せにしたのが間違いだった…」 「…なんか不満そうね」 「カウガールとかなんの嫌味ですか、かがみさん…」 「嫌味?何が?…カウ…ああ…いや、そんな気は全然無かったんだけど。単にこなたにこの服着せたいなーって感じで選んだから」 「その理由もどうなのかと…」  これ以上文句を言ってもしょうがないし、なによりお金を払ってもらっているのだし…と、こなたはとりあえず言いたいことを置いといて、服の着心地を確かめた。 「革ってもっと重くてゴワゴワしてると思ってたんだけど、けっこう軽くて柔らかいね」  手を開いたり閉じたりして、引き金が引きやすいように人差し指と中指だけ露出させた皮製のグローブの感触を確かめながら、こなたは感心したようにそう言った、 「その革、特別らしいからね。バスカーってとこの特産品だって」 「…なんか高そう」 「ふふ、高かったわよー」  そう言いながらニヤニヤしているかがみから、こなたは目をそらした。 「…かんしゃしてますかがみさま」  そしてそう棒読みで言うこなたに、かがみはクスクスと笑った。 「こんなことで恩着せようなんて、思ってないわよ」  笑いながらかがみは、こなたの左の二の腕に何かを結びつけた。 「え、なに?」  こなたがそれに気づき自分の腕を見ると、そこにはピンク色のスカーフか結ばれていた。 「これって…制服の?」 「うん…まあ、お守りみたいなものよ」  自分の腕にも結んであるスカーフを指差しながら、かがみがそう言った。こなたは少しの間スカーフを眺めた後、かがみに向かって微笑みかけた。 「じゃ、いこっか」 「ええ」  そして、二人は村の酒場に向かって歩き始めた。 ― わいるど☆あーむずLS ― 第四話『誰のために』  扉を開けて入ってきたかがみとこなたを見て、カウンターでグラスを磨いていた男性は驚いた顔をした。 「…村を出るのかい?」  そして、二人が近づいてくると、男性が先にそう切り出した。 「…え?どうしてそれを?」  言いたいことを先に言われたかがみが、驚いてそう聞いた。 「小さい村だからね、色々聞こえてくるさ…まあ、仕事の直後だったし、今日一日くらいは友達とのんびり過ごすと思ってたけどな」  そう言いながら笑う男性に、かがみは苦笑を返した。 「出ると決めたら、早いほうがいいと思って…それに、出て行くついでにゴブのアジトを潰していこうと思ってますから」 「ホンキかい?」 「はい。問題を残したまま出て行くわけには行かないから…」  かがみの言葉に、男性がまた笑った。 「真面目兎らしい旅立ちだな」 「…それ、止めて下さいって」  男性はひとしきり笑うと、カウンターの奥から一冊の本を取り出してきて、カウンターの上に置いた。 「これは…絵本ですか?」 「そうだ。かがみちゃんの二つなの元ネタだよ」  そう言いながら男性は絵本を開き、とあるページを指差した。 「…こうして真面目兎のクニークルスは翼を手に入れ、鳥となって空を飛んでいきました…それから人々は兎を数える時に一羽、二羽というようになったのです…」  かがみがそこに書かれていることを読み上げると、男性は微笑みながらこなたの方を見た。 「かがみちゃんにとっての翼は君だったんだろうね」 「え、あ…はあ…」  急に振られたこなたは、曖昧な返事を返すだけだった。 「やはり、渡り鳥は空を飛んでこそだよ…行っておいで」 「…はい。行ってきます」  かがみは男性に一礼すると、こなたに目配せをしてから酒場の出入り口へと向かった。  かがみとこなたの二人が出て行った後、男性は店の奥の方を向いた。 「店の常連さんに、なにも言わなくて良かったのかい、アシュレー?」  少し間を置いてから、かがみ達からは死角になっていた場所から、アシュレーが出てきた。 「俺から言えることなんて何もないよ…」 「そうかい…まあ、お前がそう言うなら俺は何も言えんが…」  男性はそう言いながら、酒場の出入り口の方を見た。アシュレーがつられてそっちを見ると、一人の女性…アシュレーの妻であるマリナがそこに立っていた。 「マリナ…」  アシュレーの呟きに答えるようにマリナは微笑み、店の中へと歩いてきた。 「行きたいって、顔してる」  そう言いながらマリナは、右手を開いて握っていたものをアシュレーに見せた。 「頑張ってるかがみちゃんを見て、思い出したんでしょ?この村を出て行ったときのこと…」 「…行けないよ、俺は」  首輪を付けた犬のデザインのバッジ。マリナの手の中にあるそれから、アシュレーは目をそらした。 「私のため…なんて理由はやめて、アシュレー。私はあなたを縛り付けるためにここにいるんじゃないから。今、誰のために戦うのか…それだけ考えて」  アシュレーは視線をバッジに戻し、マリナの手の中のそれを掴んだ。 「…ごめん、マリナ」 「うん…でも、一つだけわがままを言わせて…もう、あんな辛い顔で帰ってこないで。ちゃんと笑顔で帰ってきて…」 「ああ、約束する」  そう言いながらアシュレーは力強く頷き、酒場の出入り口へと向かった。 「…今からなら、昼過ぎにはアジトにつけるわね」  村の出口で地図を見ながら、かがみが隣に立っているこなたにそう言った。 「なんでまた真っ昼間に?」 「あいつらが夜行性だからよ。昼は大半のゴブが動いてないはずよ」 「なるほどね」  こなたは頷きながら、村の方を見た。その視線が一人の少年を捉える。 「あれ、トニー君じゃない?」  こなた指差した方をかがみが見ると、木の陰に隠れるようにトニーがこっちを見ていた。 「トニー!そんなとこ隠れてないでこっち来なさいよ!」  かがみが声をかけると、トニーは少し迷ってから木の影から出てかがみ達のほうに歩いてきた。 「…ねーちゃん、行くんだな?」  かがみ達の前に立ったトニーは、うつむきながら力のない声でそう言った。 「…うん」 「…もう、この村に戻ってこないのか?」 「…たぶん…ね」  かがみはトニーの頭の上に手を置いた。 「そんな泣きそうな顔しないの。男の子でしょ?」  少し強めにトニーの頭を撫でるかがみ。トニーはより深くうつむいた後、勢いよく顔を上げた。 「ねーちゃん!俺、強くなるよ!ねーちゃんに負けないくらい強くなって、この村俺が守るんだ!…だから、ねーちゃんは何にも気にしないでいけよ…」  最後の方は涙声になりながらも、そう力強く言い切ったトニーに、かがみはゆっくりとうなずいて見せた。 「ありがとう、トニー…でも、目標がわたしなんて志が低いわよ。どうせなら、銀の腕くらい目指しなさい」  そしてかがみは、トニーの頭から手を離して背を向けた。 「おまたせ、こなた。行こっか」 「…うん」  二人が話してる間少し離れたところに居たこなたは、かがみに声をかけられ、その後を追うように歩き出した。  村の門を潜ったあたりでこなたが後ろを見ると、トニーはまだこちらを見ていた。 「ねえ、かがみ…トニー君ってもしかしてかがみのこと好きだったんじゃない?」  そのトニーの姿が見えなくなったあたりで、こなたはかがみにそう言った。 「そうかもね…」  かがみが少し寂しげにそう言うのを見て、こなたは少し迂闊なことを言ったと後悔した。 「そういや、さっきの会話で言ってた銀の腕ってなに?」  こなたは話題をそらそうと、今度はそう聞いた。 「銀の腕のロディ。あんたが遺跡で世話になったって人よ。ARMの扱いでは右に出るものはいない、トップクラスの渡り鳥って話よ」 「…そ、そんな凄い人だったんだ…」  こなたの呟きに、かがみが首をかしげた。 「一緒にいて気づかなかったの?…って、まあ知らなかったんだし、しょうがないか」  自分の問いに自分で結論を出すかがみの横で、こなたは複雑な表情を見せていた。 「…わたし、ホンキで足手まといだったんだなー…」  そして、かがみに聞こえないようにそう呟いていた。 斧と剣が打ち合わされる金属音が森の中に響く。かがみは力任せにナイトブレイザーを押し込み、ゴブの体制を崩してそのまま切り伏せた。そして、逆の手に持っていた鞘で自分の真後ろから来ていたゴブを突きひるませる。数歩後ろに下がったゴブは何かに撃ち貫かれて吹っ飛び、その場所に消えていたこなたが姿を現した。 「ナイスこなた」  かがみがそう褒めた直後、足元に二本の矢が突き立った。かがみは動きを止めないようにしながら、矢が飛んできた方を向いた。ちょっとした大木の枝に立って、ボウガンの装填をしている二匹のゴブが見えた。 「こなた、気をつけて!木の上にボウガンもった奴がいる!」 「わかった!…アクセラレイター!」  返事と共にこなたの姿が掻き消える。その直後に一匹のゴブが銃撃を受け、枝から砂に戻りながら落下してきた。そして、アクセラレイターの解けたこなたが空中に姿を現し、慌てて近くの枝にぶら下がった。 「ちょ、ちょっと!なんでもう解けるの!?」  どうやらトラブルらしいと判断したかがみは、ナイトブレイザーを鞘に戻してもう一匹のゴブに狙いを定める。 「飛燕!」  そして、鞘の引き金を引きゴブを衝撃波で切り落とした。 「…これで全部かしらね」  周りを見渡し安全を確認した後、かがみは構えを解いた。その横に木の幹を伝ってこなたが下りてきた。 「かがみー…こいつらホントに夜行性?なんか襲撃多くない?」  森に入ってから幾度と無く続くゴブとの戦闘に、こなたがそう愚痴をこぼした。 「うーん…おかしいわね。昼にこんなに出てくるはずないんだけど…」  かがみが心底わからないといった風に首をかしげるのを見て、こなたはため息をついた。 「それとポンコツ。なんでさっき途中でアクセラレイター解いたの?落ちそうになったじゃん」  そしてこなたは今度は手に持ったアガートラームに文句を言った。 『解いたんじゃない。解けたんだよ。アラクセラレイターは、無制限に使えるわけじゃないんだ。こなたが疲れてきたら制限時間も短くなってくるよ。ってか使いすぎだよ』 「…しょうがないじゃん。近づかないと当たらないんだから」 「じゃ、休憩しよっか?そろそろお昼だしね」  こなたとアガートラームのやり取りを苦笑しながら見ていたかがみが、そう提案しながら手近な木の根っこに腰掛けた。その隣にこなたも座り込む。 「はい、これ」 「ありがと」  こなたはかがみの差し出してきた干し肉を受け取って口に運んだ。 「…まず」  そして、味の無いビーフジャーキーといった感じのそれに、思わず眉間にしわがよる。 「保存食なんだからしょうがないでしょ。我慢しなさい」  そうこなたを諭すものの、かがみ自身も不味そうに眉間にしわをよせていた。 「そういや、かがみ。聞きたかったんだけど」 「ん、なに?」 「戦闘のとき使ってるあの技なに?」 「あーあれね…」  かがみは、食べ終わった携帯食料の包みを丸めて鞄にしまうと、コートの中からナイトブレザーを取り出した。 「早撃ちっていう剣技よ。村に立ち寄った渡り鳥の剣士さんから教えてもらったの…まあ、この剣の機能使ってアレンジしてるけどね」 「ふーん…技名言うのも?」 「…あれはわたしが勝手に…いや、なんかこう盛り上がるからさ…わたしの中で色々…ってかあんただってアクセラレイター使うとき叫んでるじゃない」 「そういやそうだった」  こなたは頬をかきながらそう言うと、自分も何か必殺技みたいなのを編み出そうなどと考え始めた。 「…あそこなんだけど」  木の影から顔だけ出しながら、かがみがそう言った。 「…大きな家だね」  逆側から顔を出しているこなたがそう返す。 「アーデルハイドのお金持ちの別荘だったらしいわ。破産したとかでほっとかれてたところに、ゴブが住み着いたみたい」 「ふーん…と、まあそれはともかく」  こなたは木の影引っ込むと、幹にもたれてため息をついた。 「なに?あの数…」  こなたの呟きに、かがみは冷や汗を一つ垂らした。ゴブアジトの門前には、十匹以上のゴブがうろうろしている。 「なんか滅茶苦茶警備が厳重なんだけど、どうするの?」 「どうするって…どうしよう?」  かがみは予想外のゴブの動きに、何か作戦が無いものかと考えたが良いもの少しも思いつかなかった。 「一旦退くしかないかな…」  もう一度木の影から顔を出しながら、こなたがそう呟いた。 「いや、あの数なら突破できると思うよ」 「そう?いっぺんにかかってこられたらまずいと思うんだけど…あれ?」  こなたは違和感を覚えて、かがみの方を見た。帰ってきた返事が男性の声に聞こえたからだ。かがみは、後ろを向いて唖然としていた。こなたもその方を向く。 「…え…アシュレーさん?」 「やあ」  かがみと同じく唖然とした表情になったまま呟くこなたに、アシュレーは片手を挙げて答えた。パン屋の制服であるエプロン姿ではなく、こなたの着ているのと似た感じのウェスタンシャツに赤いスカーフ。そして下はシンプルなジーンズ。背にはパン屋の壁に飾ってあった巨大な銃剣の付いたライフル…バイアネットを背負っていた。 「アシュレーさん…どうして…」  かがみがそう聞くと、アシュレーは照れた表情で頬をかいた。 「君たちを手伝いに来たんだ」 「いや、戦えないって…」 「その話は後でいいかな?とりあえず、ここを潰そう」  かがみの言葉を遮って、アシュレーは木の影からアジトに向かって歩き出した。 「え、ちょっと…」 「全部はしとめられないと思うから、残りを頼むよ」  止めようとするかがみに構わず、アシュレーはバイアネットを両手で構えた。 「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」  そして、雄たけびを上げながらゴブの群れに突進する。アシュレーに気がついたゴブたちが身構えるが、構わずアシュレーは群れの中に突っ込んだ。そのまま一匹のゴブを銃剣で串刺しにし、勢いを止めずに群れの中を突っ切る。  刺さっているゴブが砂と化する頃には、アシュレーは群れを抜けてアジトの門まで到達していた。アシュレーは門を背に群れの方に向き直ると、今度はバイアネットの銃口を斜め上に向けた。 「マルチブラスト!」  放たれた弾丸がゴブの群れの真上辺りで破裂し、無数の弾丸の雨となってゴブの群れに降り注いだ。鉄の雨に撃たれたゴブたちが次々と倒れ、残ったのは三匹だけとなった。 「こなた!行くわよ!」  かがみはこなたにそう言いながら、残りのゴブの一匹に向かって飛燕を放ち、その衝撃波を追うように走り出した。  衝撃波が一匹のゴブを吹き飛ばし、混乱しきっているもう一匹のゴブの前まで来たかがみは、身を大きく沈めて早撃ちの体制をとった。 「鷲爪!」  撃ち出された刃がゴブを縦に切り裂き、そのまま勢いを殺さずにもう一方の手に持った鞘でゴブの顎を打ち上げる。かがみはさらにもう半回転し、逆手に持ち替えた剣でゴブの腹部を刺し貫いた。 「もう一匹は…」  かがみが残りのゴブに目をやると、すでに倒れ伏し砂と化し始めていた。構えを解いたかがみの横に、アクセラレイターを解いたこなたが現れる。 「どう、かがみ?今の技は」  得意げにそう言うこなたに、かがみは申し訳なさそうに頬をかいた。 「いや、ごめん…見て無かったわ…」 「えー…アシュレーさんは?」  こなたが今度はアシュレーに振ると、アシュレーもまたかがみと同じように頬をかいた。 「いや、何かやってたのはわかったけど、全然見えなかった…」 「えー…ポンコツー。みんなに見えるようにもうちょい速度落とそうよ」 『いや、見えたらアクセラレイターの意味無いんじゃないかな…』 「とりあえず、中入りましょうか」  落ち込んでるこなたの肩を叩きながら、かがみがそう言った。 「…今、そのARMと会話してなかったか?」  そのかがみの後ろから、アシュレーがアガートラームを指差しながらそう聞いた。 「気のせいです」  ややこしくなることを回避するために、かがみはそう言い切って、こなたを引っ張りながらアジトの入り口へと歩いていった。  木の床を踏むギシギシという音だけが屋敷の中に響く。アジトの中に入った三人はしばらく中を探索したが、未だにゴブは一匹たりとも姿を見せてはいなかった。かがみとアシュレーはまだ警戒を解いてはいないが、こなたはもう完全に緩みきって、両手を頭の後ろで組んでブラブラ歩きながら辺りを眺めていた。 「外にいたので全部だったのかしら…」  まったく敵の見えない状況に、かがみも少し警戒を解いた。 「…こなた?」  そして、見える範囲にこなたがいない事に気がついた。 「アシュレーさん、こなたは?」  かがみがそう聞くと、アシュレーは近くにあった部屋の扉を指差した。 「そこに入っていったよ」 「え…もう、勝手に行動して」 「あの子も渡り鳥なんだろ?大丈夫じゃないか?」 「こなたはこっちの世界に来てまだ三日目なんですよ。戦闘経験とかあんまりないんです」 「そうだったのか…わかった、俺が見てくる」  アシュレーはかがみにそう言って部屋の中に入っていった。かがみは扉に背をつけて、辺りを警戒し始めた。 「…遅いわね」  しばらくそのままの姿勢でいたが、なかなか出てこない二人に不安になったかがみは、扉を開けて中を覗きこんだ。 「ほら、アシュレーさんこれなんか…」 「…凄いな」  部屋の中では、こなたとアシュレーが床に座り込んで一冊の本を二人で見ていた。かがみは二人に気づかれないよう足音を忍ばせて近づき、二人の後ろからそっと本を覗き込んだ。 「…っ!?」  そして慌てて目をそらす。一瞬見えた本の内容は、ほとんど裸に近い格好をした女性の写真だった。かがみは小さくため息をついて気持ちを落ち着かせると、ドンッと力強く床を踏み鳴らした。  本を見ていた二人はビクッと体を震わせると、恐る恐る後ろを振り向いた。そして冷ややかな目で見下ろすかがみの姿を確認すると、同時にお互いを指差し合った。 「アシュレーさんが…」 「こなたちゃんが…」 「………」  かがみは無言のまま、ナイトブレイザーの鞘で二人の頭を殴りつけた。 「まったく緊張感が無いったら…」  ブツブツと文句を言いながら肩をいからせて歩くかがみの後ろを、たんこぶの出来た頭を擦りながらこなたとアシュレーが付いていく。 「いやまあ、本を読みふけってたのは悪かったけど、収穫もあったからさ…」  こなたがそう言うと、かがみは足を止めてこなた達の方に振り返った。 「へー、なにがあったのかしら?」  まだ冷たいかがみの視線に気圧されながら、こなたはアシュレーのほうを見た。 「ほら、アシュレーさん、アレ」 「あ、ああ…これなんだけど…」  アシュレーがかがみに差し出したのは、一つのライブジェムだった。 「…これが、あの部屋に?」  かがみがそう聞くと、こなたとアシュレーは同時に頷いた。 「それで、部屋を良く見ると砂も落ちてたんだ。廊下も良く見るとあちこちに砂が落ちてるよ」  こなたに言われかがみが廊下をじっと見ると、確かに砂がうっすらと残ってるのが見えた。 「…なんか、砂獣を倒した後に掃除したって感じね。他の渡り鳥が先にここに乗り込んでた?」  かがみがそう呟くと、アシュレーが顎に手を当てて考える仕草をした。 「俺も最初はそう思ったけど、ライブジェムを持って行くのはともかく、砂を掃除していく理由が無いんだよな…」 「…で、もうちょっとなんかないかなって部屋探してたらあの本が見つかって、ちょっと見ようってアシュレーさんが…」 「…いや、それはこなたちゃんが先に…」 「擦り付け合いやめい」  かがみは、もう一度ナイトブレイザーの鞘で二人を殴ろうかと構えた…と、その時、床が震えるほどの咆哮がアジトの奥から響いてきた。 「…なに、今の?」  ナイトブレイザーを構えたままの格好で固まるかがみ。 「何かいるみたいだな…少なくともゴブや人間じゃない」  バイアネットを構えたアシュレーが咆哮の聞こえた方へと歩き出す。かがみとこなたも周囲を警戒しながら後に続いた。 「…あれか」 「砂獣…なのかしら?」 「さあ…」  廊下から部屋の中を上からアシュレー、かがみ、こなたの順で覗きこみながら口々にそう言う。かなりの広さを持つその部屋の中に居たのは、3m近い巨大な体躯を持つ赤い鎧だった。  鎧は部屋の中央にしゃがみ込み、床に顔をつけて何かを喰らっているように見えた。 「なに?…砂を食べてるの?」  それを見ていたかがみがそう呟いた。鎧の足元に大量の砂が落ちているのが見えたからだ。 「いや、たぶんライブジェムを食べているんだ」  かがみの頭の上でアシュレーがそう言う。 「…美味しいのかな」  今度はかがみの下でこなたがそう言った。 「…いや、食べれないから…ってーか外にいたゴブはあいつに追い出されたのね」 「中のは喰われたってことか…」  かがみの言葉に頷きながら、アシュレーは廊下に戻りバイアネットの点検を始めた。 「あんなのが村に行ったら大変だ。ここでしとめよう」  こなたとかがみのほうを見ながらそう言うアシュレーに、二人は迷わず頷いた。 「じゃ、わたしが突っ込んでアクセラレイターで牽制するから、二人で倒してよ」 「…大丈夫なの?」  心配そうに聞くかがみにこなたは微笑み返すと、アガートラームを構えて部屋の中に飛び込んだ。 「こいつっ!」  部屋に入ったこなたは走りながら鎧に向かって発砲するが、弾丸はすべてその強固な装甲に弾かれてしまった。 「…予想通り硬いね…アクセラレイター!」  鎧がこちらに気がついたのを確認して、こなたはアクセラレーターを発動させた。灰色の景色の中をこなたは、大きく弧を描いて鎧の後ろに回りこむ。そして、その足に向かって蹴りをはなった…が、鎧はまるで効いてないかのように足を上げた。 「うそっ!?」  そのまま鎧が足を自分に向かって下ろしてくるのが見えたこなたは、転がって鎧から距離をとった。アクセラレイターが解け、鎧の足が床を踏み鳴らした。 「…あいつ、アクセラレイターに反応したよね?」 『したね。驚いたよ…でも反応しただけだ、速度は付いてきてない』  こなたはアガートラームに頷き、もう一度アクセラレイターを使おうとアガートラームを構えた。 「てえいっ!」  しかし、こなたがアクセラレイターを使うより早く、鎧の背中からかがみの声と金属同士がぶつかったような音が聞こえた。 「こいつで、どうだ!」  さらに鎧の横に回りこんだアシュレーが銃撃をくわえる。しかし、鎧は二人の攻撃を意にも介さず背後のかがみに向かって腕を振るった。かがみはナイトブレイザーの剣と鞘を交差させて攻撃を受け止めたが、受けきれずに吹き飛ばされて背後の壁に叩きつけられた。 「…いったー…」 「かがみ、大丈夫?」  こなたがかがみの側に駆け寄ると、かがみは顔をしかめながらもこなたに向かって親指を立てて見せた。 「コレくらい平気よ…にしても、硬すぎでしょアイツ」  かがみの愚痴にこなたが頷く。 「でもま、何とかしないとね」  かがみが立ち上がり、ナイトブレイザーを鞘に収めて引き金を確かめた。 「何とかできるの?」 「多分ね。切り札ってのはこういう時に使うものよ…こなた、アシュレーさんと代わって」  こなたはかがみの言葉に頷き、鎧の牽制をしているアシュレーに向かって走った。そして、こなたと代わったアシュレーが肩で息をしながらかがみの方に歩いてきた。 「…ブランクがあるせいか、体力が落ちてる…」  汗を拭うアシュレーに、かがみは鞄の中から青色の小さな果実を出して渡した。 「これを」 「ヒールベリーか、助かる」  アシュレーはその果実を一口で食べると、バイアネットに弾丸を装填した。 「アシュレーさん。あいつの動きを止めれます?少しの間でいいんですが」 「…やってみよう」  かがみの言葉にアシュレーは頷くと、バイアネットを床に突き立てた。 「タイミングは?」 「そっちにあわせます」  そう言いながら、かがみが早撃ちの構えをとると、アシュレーは鎧の方を向いた。 「こなたちゃん、飛んでくれ!」  そしてこなたに向かってそう叫ぶ。その声に反応し、こなたが鎧の体を蹴って宙に舞ったのを見て、アシュレーはバイアネットの引き金を引いた。 「ショックスライダー!」  バイアネットの剣先から、振動波が床を伝って鎧の足元を襲う。足元を揺らされた鎧が膝をつくと、その真正面にかがみが飛び込んだ。 「…重ね撃ち…」  かがみはナイトブレイザーの引き金を引き、飛び出そうになる剣を力ずくで押さえ込んだ。そして、もう一回引き金を引き、さらに力を溜めこむ。 「鷹咬!」  三度目の引き金で力を解放し、鎧の胸部目がけて剣を叩き付けた。耳をつんざく金属音と共に鎧が仰向けに倒れ、かがみも反動で後ろに転がった。 「アクセラレイター!」  それを見たこなたが加速し、鎧に向かって飛び上がった。そして、かがみの渾身の斬撃でひびの入った鎧の胸部目がけて両足で蹴りこむ。さらに反動を使って飛び上がり、空中から銃撃を追加した。 「とどめだ!」  さらに、こなたの攻撃で完全に装甲が砕け、露出した鎧の中身にアシュレーがバイアネットをつきたてる。 「フルフラット!」  そして、そのまま銃に残ったありったけの弾丸を鎧に撃ち込んだ。アシュレーがバイアネットを引き抜き後ろに下がると、鎧はゆっくりと砂に戻っていった。 「一応、こいつも砂獣だったんだ…あれ?これって」  鎧だった砂の中から、かがみは手のひらに収まる小さな彫像を拾い上げた。今まで戦っていた鎧と同じような形をしている。 「なんだろう…ねえ、こなた」  かがみは、拾った彫像の事を聞こうとこなたの方に向いた。こなたは部屋の真ん中で腕を組んで考え込んでいた。 「…どうしたの?」  かがみがそう聞くと、こなたはなんとも情けない顔をした。 「いや、わたしだけ技名が無いの寂しいなって…かがみなんて超必みたいなのまであるのに」  返ってきた答えに、かがみはため息をついた。 「くだらないことで悩んでんじゃないわよ…」 「くだらなくないよー」 「俺の銃剣技や、かがみちゃんの早撃ちみたいな名前が欲しいって事か?」  口を尖らせるこなたの後ろからアシュレーがそう言うと、こなたは振り向いて頷いた。 「よく見えなかったけど、こなたちゃんのは体術だよな?」 「そうですね。アクセラレーター中に蹴ってます」 「そうだな…まあ、個々の技名は自分で考えた方がいいけど…総称はファイネストアーツってのはどうだ?」 「お、それいいね。いただきます」  こなたは手を叩いて感心したが、すぐに疑問を感じて首を捻った。 「そういや、技名ノリノリで叫んでたことといい、アシュレーさんってもしかしてこういうの好き?」 「え…あ、まあ…それなりには…」  頬をかきながら視線をそらすアシュレーと、ニヤニヤしているこなたを見ながら、かがみはため息をついた。 「それじゃ、気をつけて。旅の無事を祈ってるよ」 「はい、色々ありがとうございました…酒場のおじさんにもよろしく言っておいてください」  手を振りながら遠ざかっていくアシュレーを見送ると、かがみは隣で手を振っているこなたの方を向いた。 「じゃ、アーデルハイドに向かいましょうか」 「…疲れたし、ちょっと休まない?」  文句を言うこなたに、かがみはヒールベリーを手渡した。 「なにこれ?」 「食べると疲れが取れる果物よ。ちょっとした怪我も治るから、それ食べて頑張りなさい」 「…マジで…さすが異世界…」  こなたはヒールベリーを頬張ると、先に歩き出したかがみを追いかけた。 『そういや、あのアシュレーって人はなんで戦えなかったんだろうね』  アシュレーの手前、ほとんど喋らなかったアガートラームがポツリと呟いた。 「あー、それ聞いてなかったね。かがみも忘れてるっぽいし…ま、気にする事じゃなかったのかな。さっきの見てる限りじゃアシュレーさん強いみたいだし」 『まあ、そうだね』 「こなたー!遅れてるわよー!」  前から聞こえてきたかがみの声に、こなたは自分の歩く速度が落ちてることに気がつき、慌てて足を速めた。 森の中をアシュレーは、村に向かって走っていた。湧き上がってくる高揚感が、自然と走る速度を速める。 「…戦える…俺はまだ、戦えるんだ…」  少しでも早く村に帰り、マリナに今の気持ちを伝えた。アシュレーはその一心で走っていた。だが、どこからか聞こえてきた拍手の音に、その足がピタリと止まる。 「だ、誰だ…?」  アシュレーがそう聞くと、木の影から一人の女性が姿を現した。 「少し動きが鈍くなってたけど、まだまだ戦えそうね。安心したわ、アシュレー君」  優しい微笑を浮かべたその女性の顔を見たアシュレーは、驚きに目を見開いた。 「アナスタシア隊長…どうしてここに…」 「君を迎えに来たのよ、アシュレー君。騎兵隊を復活させたいの。ユグドラシルをもう一度作り上げるために」  アシュレーは、アナスタシアから距離をとるように後ずさった。 「正気ですか?…あれのために、俺は…俺たちは…」  アナスタシアから放たれる得体の知れない空気に、アシュレーは冷や汗を流していた。 「そうね、いい思い出じゃないわ。でも、今は必要なの」  アナスタシアは後ろ手に隠していた、柄と同じ長さの刃を持つ槍を振りかざした。その先端から放たれる禍々しい虹色の光が、アシュレーを打ち抜いた。 「がっ!?…な…どうして…」  アシュレーはその場に崩れ落ち、そのまま意識を失った。 「あなたが必要なのよアシュレー君。無理矢理にでも、ね」  アナスタシアはアシュレーの体を軽々と担ぎ上げると、森の奥へと消えていった。 ― 続く ― 次回予告 つかさです。 アーデルハイドに辿り着いたこなちゃんとお姉ちゃんは、町の闇とそこに巣食う特異な渡り鳥…賞金稼ぎの事を知ります。 次回わいるど☆あーむずLS第五話『魔女と悪漢娘』 ふー、やっとわたしの出番だよー…え、なに、お姉ちゃん?…一応そういうことは言うな?…ご、ごめんなさい。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
「うーむ…」  こなたは、自分の格好を見ながらそう唸った。  白色で厚手のウェスタンシャツに袖なしのレザージャケット。下は革であちこちを補強してあるジーンズに、これまた革製のブーツ。頭にはティンガロンハットをかぶり、ロディにもらった赤いスカーフを首に巻いている。  仕立て屋で採寸してもらい、一日かかるからとかがみが寝泊りに使っている空き家で一泊し、服を受け取りに行ったのだが、こなたは服を受け取って着替えてからずっと不満気な表情を隠そうともしていなかった。 「よくわからないからって、かがみ任せにしたのが間違いだった…」 「…なんか不満そうね」 「カウガールとかなんの嫌味ですか、かがみさん…」 「嫌味?何が?…カウ…ああ…いや、そんな気は全然無かったんだけど。単にこなたにこの服着せたいなーって感じで選んだから」 「その理由もどうなのかと…」  これ以上文句を言ってもしょうがないし、なによりお金を払ってもらっているのだし…と、こなたはとりあえず言いたいことを置いといて、服の着心地を確かめた。 「革ってもっと重くてゴワゴワしてると思ってたんだけど、けっこう軽くて柔らかいね」  手を開いたり閉じたりして、引き金が引きやすいように人差し指と中指だけ露出させた皮製のグローブの感触を確かめながら、こなたは感心したようにそう言った、 「その革、特別らしいからね。バスカーってとこの特産品だって」 「…なんか高そう」 「ふふ、高かったわよー」  そう言いながらニヤニヤしているかがみから、こなたは目をそらした。 「…かんしゃしてますかがみさま」  そしてそう棒読みで言うこなたに、かがみはクスクスと笑った。 「こんなことで恩着せようなんて、思ってないわよ」  笑いながらかがみは、こなたの左の二の腕に何かを結びつけた。 「え、なに?」  こなたがそれに気づき自分の腕を見ると、そこにはピンク色のスカーフか結ばれていた。 「これって…制服の?」 「うん…まあ、お守りみたいなものよ」  自分の腕にも結んであるスカーフを指差しながら、かがみがそう言った。こなたは少しの間スカーフを眺めた後、かがみに向かって微笑みかけた。 「じゃ、いこっか」 「ええ」  そして、二人は村の酒場に向かって歩き始めた。 ― わいるど☆あーむずLS ― 第四話『誰のために』  扉を開けて入ってきたかがみとこなたを見て、カウンターでグラスを磨いていた男性は驚いた顔をした。 「…村を出るのかい?」  そして、二人が近づいてくると、男性が先にそう切り出した。 「…え?どうしてそれを?」  言いたいことを先に言われたかがみが、驚いてそう聞いた。 「小さい村だからね、色々聞こえてくるさ…まあ、仕事の直後だったし、今日一日くらいは友達とのんびり過ごすと思ってたけどな」  そう言いながら笑う男性に、かがみは苦笑を返した。 「出ると決めたら、早いほうがいいと思って…それに、出て行くついでにゴブのアジトを潰していこうと思ってますから」 「ホンキかい?」 「はい。問題を残したまま出て行くわけには行かないから…」  かがみの言葉に、男性がまた笑った。 「真面目兎らしい旅立ちだな」 「…それ、止めて下さいって」  男性はひとしきり笑うと、カウンターの奥から一冊の本を取り出してきて、カウンターの上に置いた。 「これは…絵本ですか?」 「そうだ。かがみちゃんの二つなの元ネタだよ」  そう言いながら男性は絵本を開き、とあるページを指差した。 「…こうして真面目兎のクニークルスは翼を手に入れ、鳥となって空を飛んでいきました…それから人々は兎を数える時に一羽、二羽というようになったのです…」  かがみがそこに書かれていることを読み上げると、男性は微笑みながらこなたの方を見た。 「かがみちゃんにとっての翼は君だったんだろうね」 「え、あ…はあ…」  急に振られたこなたは、曖昧な返事を返すだけだった。 「やはり、渡り鳥は空を飛んでこそだよ…行っておいで」 「…はい。行ってきます」  かがみは男性に一礼すると、こなたに目配せをしてから酒場の出入り口へと向かった。  かがみとこなたの二人が出て行った後、男性は店の奥の方を向いた。 「店の常連さんに、なにも言わなくて良かったのかい、アシュレー?」  少し間を置いてから、かがみ達からは死角になっていた場所から、アシュレーが出てきた。 「俺から言えることなんて何もないよ…」 「そうかい…まあ、お前がそう言うなら俺は何も言えんが…」  男性はそう言いながら、酒場の出入り口の方を見た。アシュレーがつられてそっちを見ると、一人の女性…アシュレーの妻であるマリナがそこに立っていた。 「マリナ…」  アシュレーの呟きに答えるようにマリナは微笑み、店の中へと歩いてきた。 「行きたいって、顔してる」  そう言いながらマリナは、右手を開いて握っていたものをアシュレーに見せた。 「頑張ってるかがみちゃんを見て、思い出したんでしょ?この村を出て行ったときのこと…」 「…行けないよ、俺は」  首輪を付けた犬のデザインのバッジ。マリナの手の中にあるそれから、アシュレーは目をそらした。 「私のため…なんて理由はやめて、アシュレー。私はあなたを縛り付けるためにここにいるんじゃないから。今、誰のために戦うのか…それだけ考えて」  アシュレーは視線をバッジに戻し、マリナの手の中のそれを掴んだ。 「…ごめん、マリナ」 「うん…でも、一つだけわがままを言わせて…もう、あんな辛い顔で帰ってこないで。ちゃんと笑顔で帰ってきて…」 「ああ、約束する」  そう言いながらアシュレーは力強く頷き、酒場の出入り口へと向かった。 「…今からなら、昼過ぎにはアジトにつけるわね」  村の出口で地図を見ながら、かがみが隣に立っているこなたにそう言った。 「なんでまた真っ昼間に?」 「あいつらが夜行性だからよ。昼は大半のゴブが動いてないはずよ」 「なるほどね」  こなたは頷きながら、村の方を見た。その視線が一人の少年を捉える。 「あれ、トニー君じゃない?」  こなた指差した方をかがみが見ると、木の陰に隠れるようにトニーがこっちを見ていた。 「トニー!そんなとこ隠れてないでこっち来なさいよ!」  かがみが声をかけると、トニーは少し迷ってから木の影から出てかがみ達のほうに歩いてきた。 「…ねーちゃん、行くんだな?」  かがみ達の前に立ったトニーは、うつむきながら力のない声でそう言った。 「…うん」 「…もう、この村に戻ってこないのか?」 「…たぶん…ね」  かがみはトニーの頭の上に手を置いた。 「そんな泣きそうな顔しないの。男の子でしょ?」  少し強めにトニーの頭を撫でるかがみ。トニーはより深くうつむいた後、勢いよく顔を上げた。 「ねーちゃん!俺、強くなるよ!ねーちゃんに負けないくらい強くなって、この村俺が守るんだ!…だから、ねーちゃんは何にも気にしないでいけよ…」  最後の方は涙声になりながらも、そう力強く言い切ったトニーに、かがみはゆっくりとうなずいて見せた。 「ありがとう、トニー…でも、目標がわたしなんて志が低いわよ。どうせなら、銀の腕くらい目指しなさい」  そしてかがみは、トニーの頭から手を離して背を向けた。 「おまたせ、こなた。行こっか」 「…うん」  二人が話してる間少し離れたところに居たこなたは、かがみに声をかけられ、その後を追うように歩き出した。  村の門を潜ったあたりでこなたが後ろを見ると、トニーはまだこちらを見ていた。 「ねえ、かがみ…トニー君ってもしかしてかがみのこと好きだったんじゃない?」  そのトニーの姿が見えなくなったあたりで、こなたはかがみにそう言った。 「そうかもね…」  かがみが少し寂しげにそう言うのを見て、こなたは少し迂闊なことを言ったと後悔した。 「そういや、さっきの会話で言ってた銀の腕ってなに?」  こなたは話題をそらそうと、今度はそう聞いた。 「銀の腕のロディ。あんたが遺跡で世話になったって人よ。ARMの扱いでは右に出るものはいない、トップクラスの渡り鳥って話よ」 「…そ、そんな凄い人だったんだ…」  こなたの呟きに、かがみが首をかしげた。 「一緒にいて気づかなかったの?…って、まあ知らなかったんだし、しょうがないか」  自分の問いに自分で結論を出すかがみの横で、こなたは複雑な表情を見せていた。 「…わたし、ホンキで足手まといだったんだなー…」  そして、かがみに聞こえないようにそう呟いていた。 斧と剣が打ち合わされる金属音が森の中に響く。かがみは力任せにナイトブレイザーを押し込み、ゴブの体制を崩してそのまま切り伏せた。そして、逆の手に持っていた鞘で自分の真後ろから来ていたゴブを突きひるませる。数歩後ろに下がったゴブは何かに撃ち貫かれて吹っ飛び、その場所に消えていたこなたが姿を現した。 「ナイスこなた」  かがみがそう褒めた直後、足元に二本の矢が突き立った。かがみは動きを止めないようにしながら、矢が飛んできた方を向いた。ちょっとした大木の枝に立って、ボウガンの装填をしている二匹のゴブが見えた。 「こなた、気をつけて!木の上にボウガンもった奴がいる!」 「わかった!…アクセラレイター!」  返事と共にこなたの姿が掻き消える。その直後に一匹のゴブが銃撃を受け、枝から砂に戻りながら落下してきた。そして、アクセラレイターの解けたこなたが空中に姿を現し、慌てて近くの枝にぶら下がった。 「ちょ、ちょっと!なんでもう解けるの!?」  どうやらトラブルらしいと判断したかがみは、ナイトブレイザーを鞘に戻してもう一匹のゴブに狙いを定める。 「飛燕!」  そして、鞘の引き金を引きゴブを衝撃波で切り落とした。 「…これで全部かしらね」  周りを見渡し安全を確認した後、かがみは構えを解いた。その横に木の幹を伝ってこなたが下りてきた。 「かがみー…こいつらホントに夜行性?なんか襲撃多くない?」  森に入ってから幾度と無く続くゴブとの戦闘に、こなたがそう愚痴をこぼした。 「うーん…おかしいわね。昼にこんなに出てくるはずないんだけど…」  かがみが心底わからないといった風に首をかしげるのを見て、こなたはため息をついた。 「それとポンコツ。なんでさっき途中でアクセラレイター解いたの?落ちそうになったじゃん」  そしてこなたは今度は手に持ったアガートラームに文句を言った。 『解いたんじゃない。解けたんだよ。アラクセラレイターは、無制限に使えるわけじゃないんだ。こなたが疲れてきたら制限時間も短くなってくるよ。ってか使いすぎだよ』 「…しょうがないじゃん。近づかないと当たらないんだから」 「じゃ、休憩しよっか?そろそろお昼だしね」  こなたとアガートラームのやり取りを苦笑しながら見ていたかがみが、そう提案しながら手近な木の根っこに腰掛けた。その隣にこなたも座り込む。 「はい、これ」 「ありがと」  こなたはかがみの差し出してきた干し肉を受け取って口に運んだ。 「…まず」  そして、味の無いビーフジャーキーといった感じのそれに、思わず眉間にしわがよる。 「保存食なんだからしょうがないでしょ。我慢しなさい」  そうこなたを諭すものの、かがみ自身も不味そうに眉間にしわをよせていた。 「そういや、かがみ。聞きたかったんだけど」 「ん、なに?」 「戦闘のとき使ってるあの技なに?」 「あーあれね…」  かがみは、食べ終わった携帯食料の包みを丸めて鞄にしまうと、コートの中からナイトブレザーを取り出した。 「早撃ちっていう剣技よ。村に立ち寄った渡り鳥の剣士さんから教えてもらったの…まあ、この剣の機能使ってアレンジしてるけどね」 「ふーん…技名言うのも?」 「…あれはわたしが勝手に…いや、なんかこう盛り上がるからさ…わたしの中で色々…ってかあんただってアクセラレイター使うとき叫んでるじゃない」 「そういやそうだった」  こなたは頬をかきながらそう言うと、自分も何か必殺技みたいなのを編み出そうなどと考え始めた。 「…あそこなんだけど」  木の影から顔だけ出しながら、かがみがそう言った。 「…大きな家だね」  逆側から顔を出しているこなたがそう返す。 「アーデルハイドのお金持ちの別荘だったらしいわ。破産したとかでほっとかれてたところに、ゴブが住み着いたみたい」 「ふーん…と、まあそれはともかく」  こなたは木の影引っ込むと、幹にもたれてため息をついた。 「なに?あの数…」  こなたの呟きに、かがみは冷や汗を一つ垂らした。ゴブアジトの門前には、十匹以上のゴブがうろうろしている。 「なんか滅茶苦茶警備が厳重なんだけど、どうするの?」 「どうするって…どうしよう?」  かがみは予想外のゴブの動きに、何か作戦が無いものかと考えたが良いもの少しも思いつかなかった。 「一旦退くしかないかな…」  もう一度木の影から顔を出しながら、こなたがそう呟いた。 「いや、あの数なら突破できると思うよ」 「そう?いっぺんにかかってこられたらまずいと思うんだけど…あれ?」  こなたは違和感を覚えて、かがみの方を見た。帰ってきた返事が男性の声に聞こえたからだ。かがみは、後ろを向いて唖然としていた。こなたもその方を向く。 「…え…アシュレーさん?」 「やあ」  かがみと同じく唖然とした表情になったまま呟くこなたに、アシュレーは片手を挙げて答えた。パン屋の制服であるエプロン姿ではなく、こなたの着ているのと似た感じのウェスタンシャツに赤いスカーフ。そして下はシンプルなジーンズ。背にはパン屋の壁に飾ってあった巨大な銃剣の付いたライフル…バイアネットを背負っていた。 「アシュレーさん…どうして…」  かがみがそう聞くと、アシュレーは照れた表情で頬をかいた。 「君たちを手伝いに来たんだ」 「いや、戦えないって…」 「その話は後でいいかな?とりあえず、ここを潰そう」  かがみの言葉を遮って、アシュレーは木の影からアジトに向かって歩き出した。 「え、ちょっと…」 「全部はしとめられないと思うから、残りを頼むよ」  止めようとするかがみに構わず、アシュレーはバイアネットを両手で構えた。 「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」  そして、雄たけびを上げながらゴブの群れに突進する。アシュレーに気がついたゴブたちが身構えるが、構わずアシュレーは群れの中に突っ込んだ。そのまま一匹のゴブを銃剣で串刺しにし、勢いを止めずに群れの中を突っ切る。  刺さっているゴブが砂と化する頃には、アシュレーは群れを抜けてアジトの門まで到達していた。アシュレーは門を背に群れの方に向き直ると、今度はバイアネットの銃口を斜め上に向けた。 「マルチブラスト!」  放たれた弾丸がゴブの群れの真上辺りで破裂し、無数の弾丸の雨となってゴブの群れに降り注いだ。鉄の雨に撃たれたゴブたちが次々と倒れ、残ったのは三匹だけとなった。 「こなた!行くわよ!」  かがみはこなたにそう言いながら、残りのゴブの一匹に向かって飛燕を放ち、その衝撃波を追うように走り出した。  衝撃波が一匹のゴブを吹き飛ばし、混乱しきっているもう一匹のゴブの前まで来たかがみは、身を大きく沈めて早撃ちの体制をとった。 「鷲爪!」  撃ち出された刃がゴブを縦に切り裂き、そのまま勢いを殺さずにもう一方の手に持った鞘でゴブの顎を打ち上げる。かがみはさらにもう半回転し、逆手に持ち替えた剣でゴブの腹部を刺し貫いた。 「もう一匹は…」  かがみが残りのゴブに目をやると、すでに倒れ伏し砂と化し始めていた。構えを解いたかがみの横に、アクセラレイターを解いたこなたが現れる。 「どう、かがみ?今の技は」  得意げにそう言うこなたに、かがみは申し訳なさそうに頬をかいた。 「いや、ごめん…見て無かったわ…」 「えー…アシュレーさんは?」  こなたが今度はアシュレーに振ると、アシュレーもまたかがみと同じように頬をかいた。 「いや、何かやってたのはわかったけど、全然見えなかった…」 「えー…ポンコツー。みんなに見えるようにもうちょい速度落とそうよ」 『いや、見えたらアクセラレイターの意味無いんじゃないかな…』 「とりあえず、中入りましょうか」  落ち込んでるこなたの肩を叩きながら、かがみがそう言った。 「…今、そのARMと会話してなかったか?」  そのかがみの後ろから、アシュレーがアガートラームを指差しながらそう聞いた。 「気のせいです」  ややこしくなることを回避するために、かがみはそう言い切って、こなたを引っ張りながらアジトの入り口へと歩いていった。  木の床を踏むギシギシという音だけが屋敷の中に響く。アジトの中に入った三人はしばらく中を探索したが、未だにゴブは一匹たりとも姿を見せてはいなかった。かがみとアシュレーはまだ警戒を解いてはいないが、こなたはもう完全に緩みきって、両手を頭の後ろで組んでブラブラ歩きながら辺りを眺めていた。 「外にいたので全部だったのかしら…」  まったく敵の見えない状況に、かがみも少し警戒を解いた。 「…こなた?」  そして、見える範囲にこなたがいない事に気がついた。 「アシュレーさん、こなたは?」  かがみがそう聞くと、アシュレーは近くにあった部屋の扉を指差した。 「そこに入っていったよ」 「え…もう、勝手に行動して」 「あの子も渡り鳥なんだろ?大丈夫じゃないか?」 「こなたはこっちの世界に来てまだ三日目なんですよ。戦闘経験とかあんまりないんです」 「そうだったのか…わかった、俺が見てくる」  アシュレーはかがみにそう言って部屋の中に入っていった。かがみは扉に背をつけて、辺りを警戒し始めた。 「…遅いわね」  しばらくそのままの姿勢でいたが、なかなか出てこない二人に不安になったかがみは、扉を開けて中を覗きこんだ。 「ほら、アシュレーさんこれなんか…」 「…凄いな」  部屋の中では、こなたとアシュレーが床に座り込んで一冊の本を二人で見ていた。かがみは二人に気づかれないよう足音を忍ばせて近づき、二人の後ろからそっと本を覗き込んだ。 「…っ!?」  そして慌てて目をそらす。一瞬見えた本の内容は、ほとんど裸に近い格好をした女性の写真だった。かがみは小さくため息をついて気持ちを落ち着かせると、ドンッと力強く床を踏み鳴らした。  本を見ていた二人はビクッと体を震わせると、恐る恐る後ろを振り向いた。そして冷ややかな目で見下ろすかがみの姿を確認すると、同時にお互いを指差し合った。 「アシュレーさんが…」 「こなたちゃんが…」 「………」  かがみは無言のまま、ナイトブレイザーの鞘で二人の頭を殴りつけた。 「まったく緊張感が無いったら…」  ブツブツと文句を言いながら肩をいからせて歩くかがみの後ろを、たんこぶの出来た頭を擦りながらこなたとアシュレーが付いていく。 「いやまあ、本を読みふけってたのは悪かったけど、収穫もあったからさ…」  こなたがそう言うと、かがみは足を止めてこなた達の方に振り返った。 「へー、なにがあったのかしら?」  まだ冷たいかがみの視線に気圧されながら、こなたはアシュレーのほうを見た。 「ほら、アシュレーさん、アレ」 「あ、ああ…これなんだけど…」  アシュレーがかがみに差し出したのは、一つのライブジェムだった。 「…これが、あの部屋に?」  かがみがそう聞くと、こなたとアシュレーは同時に頷いた。 「それで、部屋を良く見ると砂も落ちてたんだ。廊下も良く見るとあちこちに砂が落ちてるよ」  こなたに言われかがみが廊下をじっと見ると、確かに砂がうっすらと残ってるのが見えた。 「…なんか、砂獣を倒した後に掃除したって感じね。他の渡り鳥が先にここに乗り込んでた?」  かがみがそう呟くと、アシュレーが顎に手を当てて考える仕草をした。 「俺も最初はそう思ったけど、ライブジェムを持って行くのはともかく、砂を掃除していく理由が無いんだよな…」 「…で、もうちょっとなんかないかなって部屋探してたらあの本が見つかって、ちょっと見ようってアシュレーさんが…」 「…いや、それはこなたちゃんが先に…」 「擦り付け合いやめい」  かがみは、もう一度ナイトブレイザーの鞘で二人を殴ろうかと構えた…と、その時、床が震えるほどの咆哮がアジトの奥から響いてきた。 「…なに、今の?」  ナイトブレイザーを構えたままの格好で固まるかがみ。 「何かいるみたいだな…少なくともゴブや人間じゃない」  バイアネットを構えたアシュレーが咆哮の聞こえた方へと歩き出す。かがみとこなたも周囲を警戒しながら後に続いた。 「…あれか」 「砂獣…なのかしら?」 「さあ…」  廊下から部屋の中を上からアシュレー、かがみ、こなたの順で覗きこみながら口々にそう言う。かなりの広さを持つその部屋の中に居たのは、3m近い巨大な体躯を持つ赤い鎧だった。  鎧は部屋の中央にしゃがみ込み、床に顔をつけて何かを喰らっているように見えた。 「なに?…砂を食べてるの?」  それを見ていたかがみがそう呟いた。鎧の足元に大量の砂が落ちているのが見えたからだ。 「いや、たぶんライブジェムを食べているんだ」  かがみの頭の上でアシュレーがそう言う。 「…美味しいのかな」  今度はかがみの下でこなたがそう言った。 「…いや、食べれないから…ってーか外にいたゴブはあいつに追い出されたのね」 「中のは喰われたってことか…」  かがみの言葉に頷きながら、アシュレーは廊下に戻りバイアネットの点検を始めた。 「あんなのが村に行ったら大変だ。ここでしとめよう」  こなたとかがみのほうを見ながらそう言うアシュレーに、二人は迷わず頷いた。 「じゃ、わたしが突っ込んでアクセラレイターで牽制するから、二人で倒してよ」 「…大丈夫なの?」  心配そうに聞くかがみにこなたは微笑み返すと、アガートラームを構えて部屋の中に飛び込んだ。 「こいつっ!」  部屋に入ったこなたは走りながら鎧に向かって発砲するが、弾丸はすべてその強固な装甲に弾かれてしまった。 「…予想通り硬いね…アクセラレイター!」  鎧がこちらに気がついたのを確認して、こなたはアクセラレーターを発動させた。灰色の景色の中をこなたは、大きく弧を描いて鎧の後ろに回りこむ。そして、その足に向かって蹴りをはなった…が、鎧はまるで効いてないかのように足を上げた。 「うそっ!?」  そのまま鎧が足を自分に向かって下ろしてくるのが見えたこなたは、転がって鎧から距離をとった。アクセラレイターが解け、鎧の足が床を踏み鳴らした。 「…あいつ、アクセラレイターに反応したよね?」 『したね。驚いたよ…でも反応しただけだ、速度は付いてきてない』  こなたはアガートラームに頷き、もう一度アクセラレイターを使おうとアガートラームを構えた。 「てえいっ!」  しかし、こなたがアクセラレイターを使うより早く、鎧の背中からかがみの声と金属同士がぶつかったような音が聞こえた。 「こいつで、どうだ!」  さらに鎧の横に回りこんだアシュレーが銃撃をくわえる。しかし、鎧は二人の攻撃を意にも介さず背後のかがみに向かって腕を振るった。かがみはナイトブレイザーの剣と鞘を交差させて攻撃を受け止めたが、受けきれずに吹き飛ばされて背後の壁に叩きつけられた。 「…いったー…」 「かがみ、大丈夫?」  こなたがかがみの側に駆け寄ると、かがみは顔をしかめながらもこなたに向かって親指を立てて見せた。 「コレくらい平気よ…にしても、硬すぎでしょアイツ」  かがみの愚痴にこなたが頷く。 「でもま、何とかしないとね」  かがみが立ち上がり、ナイトブレイザーを鞘に収めて引き金を確かめた。 「何とかできるの?」 「多分ね。切り札ってのはこういう時に使うものよ…こなた、アシュレーさんと代わって」  こなたはかがみの言葉に頷き、鎧の牽制をしているアシュレーに向かって走った。そして、こなたと代わったアシュレーが肩で息をしながらかがみの方に歩いてきた。 「…ブランクがあるせいか、体力が落ちてる…」  汗を拭うアシュレーに、かがみは鞄の中から青色の小さな果実を出して渡した。 「これを」 「ヒールベリーか、助かる」  アシュレーはその果実を一口で食べると、バイアネットに弾丸を装填した。 「アシュレーさん。あいつの動きを止めれます?少しの間でいいんですが」 「…やってみよう」  かがみの言葉にアシュレーは頷くと、バイアネットを床に突き立てた。 「タイミングは?」 「そっちにあわせます」  そう言いながら、かがみが早撃ちの構えをとると、アシュレーは鎧の方を向いた。 「こなたちゃん、飛んでくれ!」  そしてこなたに向かってそう叫ぶ。その声に反応し、こなたが鎧の体を蹴って宙に舞ったのを見て、アシュレーはバイアネットの引き金を引いた。 「ショックスライダー!」  バイアネットの剣先から、振動波が床を伝って鎧の足元を襲う。足元を揺らされた鎧が膝をつくと、その真正面にかがみが飛び込んだ。 「…重ね撃ち…」  かがみはナイトブレイザーの引き金を引き、飛び出そうになる剣を力ずくで押さえ込んだ。そして、もう一回引き金を引き、さらに力を溜めこむ。 「鷹咬!」  三度目の引き金で力を解放し、鎧の胸部目がけて剣を叩き付けた。耳をつんざく金属音と共に鎧が仰向けに倒れ、かがみも反動で後ろに転がった。 「アクセラレイター!」  それを見たこなたが加速し、鎧に向かって飛び上がった。そして、かがみの渾身の斬撃でひびの入った鎧の胸部目がけて両足で蹴りこむ。さらに反動を使って飛び上がり、空中から銃撃を追加した。 「とどめだ!」  さらに、こなたの攻撃で完全に装甲が砕け、露出した鎧の中身にアシュレーがバイアネットをつきたてる。 「フルフラット!」  そして、そのまま銃に残ったありったけの弾丸を鎧に撃ち込んだ。アシュレーがバイアネットを引き抜き後ろに下がると、鎧はゆっくりと砂に戻っていった。 「一応、こいつも砂獣だったんだ…あれ?これって」  鎧だった砂の中から、かがみは手のひらに収まる小さな彫像を拾い上げた。今まで戦っていた鎧と同じような形をしている。 「なんだろう…ねえ、こなた」  かがみは、拾った彫像の事を聞こうとこなたの方に向いた。こなたは部屋の真ん中で腕を組んで考え込んでいた。 「…どうしたの?」  かがみがそう聞くと、こなたはなんとも情けない顔をした。 「いや、わたしだけ技名が無いの寂しいなって…かがみなんて超必みたいなのまであるのに」  返ってきた答えに、かがみはため息をついた。 「くだらないことで悩んでんじゃないわよ…」 「くだらなくないよー」 「俺の銃剣技や、かがみちゃんの早撃ちみたいな名前が欲しいって事か?」  口を尖らせるこなたの後ろからアシュレーがそう言うと、こなたは振り向いて頷いた。 「よく見えなかったけど、こなたちゃんのは体術だよな?」 「そうですね。アクセラレーター中に蹴ってます」 「そうだな…まあ、個々の技名は自分で考えた方がいいけど…総称はファイネストアーツってのはどうだ?」 「お、それいいね。いただきます」  こなたは手を叩いて感心したが、すぐに疑問を感じて首を捻った。 「そういや、技名ノリノリで叫んでたことといい、アシュレーさんってもしかしてこういうの好き?」 「え…あ、まあ…それなりには…」  頬をかきながら視線をそらすアシュレーと、ニヤニヤしているこなたを見ながら、かがみはため息をついた。 「それじゃ、気をつけて。旅の無事を祈ってるよ」 「はい、色々ありがとうございました…酒場のおじさんにもよろしく言っておいてください」  手を振りながら遠ざかっていくアシュレーを見送ると、かがみは隣で手を振っているこなたの方を向いた。 「じゃ、アーデルハイドに向かいましょうか」 「…疲れたし、ちょっと休まない?」  文句を言うこなたに、かがみはヒールベリーを手渡した。 「なにこれ?」 「食べると疲れが取れる果物よ。ちょっとした怪我も治るから、それ食べて頑張りなさい」 「…マジで…さすが異世界…」  こなたはヒールベリーを頬張ると、先に歩き出したかがみを追いかけた。 『そういや、あのアシュレーって人はなんで戦えなかったんだろうね』  アシュレーの手前、ほとんど喋らなかったアガートラームがポツリと呟いた。 「あー、それ聞いてなかったね。かがみも忘れてるっぽいし…ま、気にする事じゃなかったのかな。さっきの見てる限りじゃアシュレーさん強いみたいだし」 『まあ、そうだね』 「こなたー!遅れてるわよー!」  前から聞こえてきたかがみの声に、こなたは自分の歩く速度が落ちてることに気がつき、慌てて足を速めた。 森の中をアシュレーは、村に向かって走っていた。湧き上がってくる高揚感が、自然と走る速度を速める。 「…戦える…俺はまだ、戦えるんだ…」  少しでも早く村に帰り、マリナに今の気持ちを伝えた。アシュレーはその一心で走っていた。だが、どこからか聞こえてきた拍手の音に、その足がピタリと止まる。 「だ、誰だ…?」  アシュレーがそう聞くと、木の影から一人の女性が姿を現した。 「少し動きが鈍くなってたけど、まだまだ戦えそうね。安心したわ、アシュレー君」  優しい微笑を浮かべたその女性の顔を見たアシュレーは、驚きに目を見開いた。 「アナスタシア隊長…どうしてここに…」 「君を迎えに来たのよ、アシュレー君。銃士隊を復活させたいの。ユグドラシルをもう一度作り上げるために」  アシュレーは、アナスタシアから距離をとるように後ずさった。 「正気ですか?…あれのために、俺は…俺たちは…」  アナスタシアから放たれる得体の知れない空気に、アシュレーは冷や汗を流していた。 「そうね、いい思い出じゃないわ。でも、今は必要なの」  アナスタシアは後ろ手に隠していた、柄と同じ長さの刃を持つ槍を振りかざした。その先端から放たれる禍々しい虹色の光が、アシュレーを打ち抜いた。 「がっ!?…な…どうして…」  アシュレーはその場に崩れ落ち、そのまま意識を失った。 「あなたが必要なのよアシュレー君。無理矢理にでも、ね」  アナスタシアはアシュレーの体を軽々と担ぎ上げると、森の奥へと消えていった。 ― 続く ― 次回予告 つかさです。 アーデルハイドに辿り着いたこなちゃんとお姉ちゃんは、町の闇とそこに巣食う特異な渡り鳥…賞金稼ぎの事を知ります。 次回わいるど☆あーむずLS第五話『魔女と悪漢娘』 ふー、やっとわたしの出番だよー…え、なに、お姉ちゃん?…一応そういうことは言うな?…ご、ごめんなさい。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)

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