ID:ueOS0c.0氏:WALS-2

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銃声と共に一匹の狼が床に落ち、その姿が砂へと戻る。  銃を撃った本人…こなたは肩で息をしながら、共に戦っているはずのロディのほうを見た。 「…まあ、わかっちゃいたけど、実力差ありすぎでしょ」  そう呟くこなたの視線の先では、すでに三体の狼を仕留めたロディが、ARMに弾丸を装填してるところだった。 『こっちは一匹倒すのにヒーヒー言ってるのにねえ』  手に持ったアガートラームから聞こえるのん気な声にこなたはむっとしたが、事実なので言い返せずに黙り込んだ。 「この辺りにはもういないようだね」  そのこなたの背中から、ロディが声をかける。こなたがそっちを向くと、ロディは狼になっていた砂の山から赤い宝石のようなものを回収していた。 「それ…えーっと…ライブジェムだっけ?持って帰るんだ」 「うん、これは色んなARMの燃料になるからね。売ればお金になるんだ」 「へー」  こなたはその話にうなずきながらも、この人懐っこい笑顔の少年に、金儲けの話は似合わないなと思っていた。 「この世には、お金で買えないものも確かにあるけど…お金で買えるものの方が遥かに多いんだよね」  こなたの思ってることを察したのか、ロディが少し照れ笑いを浮かべながらそう言った。 『顔に似合わず達観してるね』 「おい、こらポンコツ」  こなたは、自分が言いづらかったことをさらっと言うアガートラームに、思わず突っ込んでいた。 「はは、よく言われるよ…まあ、今のはパートナーの受け売りなんだけどね」  パートナーという言葉にこなたは驚いた。さっきからの戦闘で息切れ一つしてない彼が、パートナーを必要とするほど、この世界は過酷なのかと。 「その、パートナーさんはどこに?」 「僕のミスではぐれちゃってね…怒ってるだろうなあ」  さほど困った顔も見せずにそう言うロディを見て、かなり信頼関係のある間柄なんだろうなと、こなたは思った。 『意外とドジだ』 「おい、こらポンコツ」  そして、言いづらいことをはっきり言うアガートラームに突っ込んでいた。 ― わいるど☆あーむずLS ― 第二話『荒野の星』 「でも…おかしいな」  こなたの前を歩いていたロディが不意にそう呟いた。 「なにが?」  こなたがそう聞くと、ロディは少し歩く速度を落としてこなたの横に並んだ。 「砂獣の形態なんだけど…こんな所で狼形ってのはおかしいんだよね」 「あ、やっぱりそうなんだ」  こなたは、ロディが特に何も反応してなかったので、この世界では当たり前のことかと思っていた。 「砂獣は、元々そこにいる生物の真似をする傾向があるからね。僕が前に来たときは、虫型の砂獣ばかりだったんだけど…」 「虫よか狼の方がましかなあ…」 『狼の方が危険なきがするけど』 「虫は生理的にやばいでしょ」 「いや、そういう問題なのかなあ…」  ロディは話が脱線しそうなこなた達に突っ込んだ後、遺跡の廊下を見回した。 「砂獣には真似損ないってのはあるんだけど、まったく真似してないってのは今まで無かったからね。ここに狼の姿を真似れる何かがあるんだと思う」 「絵…とか?遺跡だしそういうのがあってもおかしくないでしょ」  こなたの意見に、ロディが顎に手を当てて考え込む。 「前に来たときはそう言うのは無かったなあ…いや、全部回ったわけじゃないけど…っていうか絵とかから真似たなんて事例も無いんだよね…」  こなたは、渡り鳥ってのは学者の真似事もするのだろうかと考えながら、ロディの邪魔をしないように少し前を歩いた。 「…あ」  そして、廊下の先に開けた場所があるのを見つけ、少し歩く速度を上げた。 「ほあー…」  こなたはその部屋の天井を見上げながら、思わずため息をついていた。学校の体育館くらいの広さの大きな部屋。壁や天井には良くわからない細かな文様がびっしりと刻まれている。 「これは…凄いね」  後から入ってきたロディも感嘆の声を上げる。そのままロディは部屋の中央に向かうと、そこにあった瓦礫の山を探り始めた。 「何かの祭壇が崩れたみたいだね…」 「ふーん…」  ロディの後ろから覗き込みながら、こなたはなんとなく嫌な予感がしていた。RPGならこういうところには大抵ボス敵が配置されてるはずだ、と。 「しかし、おかしいな…僕もだけど、この遺跡には何人も渡り鳥が来てるんだ。こんな大きな部屋が見つかってないなんて…」  と、そこでロディは言葉を止めた。 「ど、どしたの…?ふゃっ!?」  こなたが不安に駆られてそう聞いたのとほぼ同時に、ロディはこなたを抱きかかえて横に飛んだ。一瞬後に、こなた達のいた場所で爆発のようなものがおき、瓦礫が周囲に飛び散った。 「な、なに…?」 「構えて!」  慌てるこなたに、ロディが一喝する。こなたから離れたロディは、すでにARMを構えて臨戦態勢をとっていた。  こなたとロディが見る先…瓦礫の粉塵が晴れてくると、そこにいたのは今までのとは明らかに異形の狼だった。ふた周りほど大きい体躯に漆黒の毛並み。頭頂部から尻尾の方にかけて、紅い毛が背びれのようになびいている。 「…やな予感、的中しちゃったよ…強いよね?あれ」 「多分ね」  こなたの呟きにロディが答える、その真剣な横顔が敵の強さを物語っているようだった。 「…来るよ!」 「…え?」  狼が少し身をかがめたかと思うと、その姿が消え去った…いや、少なくともこなたにはそう見えた。一瞬後に金属音。そして、何かが横を通り過ぎたかのような風をこなたは感じた。  後ろを向くと、壁際でロディがARMを使って狼の噛みつきをガードしていた。 「なに…今の…」  まったく見えなかった。正直、レベルが違いすぎる。こなたは、レベル上げを怠ったRPGの主人公の気分を味わっていた。 「こいつ…やぁぁぁぁぁっ!」  ロディは狼にARMを噛ませたまま、その巨大な体躯を持ち上げた。線の細い少年に見えるロディのどこにそんな力があるのかと、こなたは目を見張った。そしてロディはそのまま狼の体を蹴り飛ばす。狼はこなたの上を飛び、最初の位置へと軽やかに着地した。  間髪いれずロディが銃撃を入れるが、狼は予測していたのか横に飛び弾丸をかわす。そして、狼はこなたの方を見た。こなたの背筋に寒気が走る。ロディが手ごわいと感じ、標的をこっちに変えたのだと、こなたは感じた。 「お前の相手は僕だ!こっちにこい!」  ロディが挑発をかけるが、狼はそちらを一瞥した後、口の端をゆがめた。 「え…笑った?」  こなたがそう呟くのと、狼の姿が消えるのはほぼ同時だった。こなたはとっさに横に飛んだ。狼の攻撃は直線的だ。かわせた…こなたはそう思ったが、すぐに違和感を感じる。さっき狼が攻撃してきたときのような、通り過ぎる風を感じなかったのだ。 「こなたちゃん!上だ!」  ロディの声にこなたは弾かれたように上を見た。そこにいたのは天井に張り付いた狼。その姿がまた消える。こなたはとっさにどうすべきなのか判断を迷ってしまった。 「ごめん!」  ロディの声が消えると同時に、こなたは腹の辺りに衝撃を感じた。そのままこなたは後ろに吹っ飛び、二度ほどバウンドして床に転がった。 「…いったー…」  呻きながらこなたが体をおこす。そして、さっきの場所を見ると、ロディが狼に左腕を咥えられていた。  わたしのせいだ。こなたは自分の鈍さを呪った。こなたがかわせないと判断したロディが、こなたを蹴り飛ばして狼の攻撃を受けたんだ。こなたはそう理解した。  狼が首を大きく振ると、ブチッと嫌な音がしてロディの体がこなたのほうに飛んできた。 「ロ、ロディ…くん…?」  こなたのそばに落ちたロディは顔色が青ざめていた。よく見ると左腕の肘から先が無くなっている。 「だ、大丈夫…?」  聞いてからこなたは、間抜けな質問をしたと思った。腕が無くなって大丈夫なわけがない。 「怪我は大したことないけど…あの狼、強力な毒をもってたみたいだ…体がうまく動かない…」  苦しそうにそう言いながら、ロディは立ち上がりARMを構えてこなたの前に立とうとした。こなたは深呼吸を一つすると、ロディの足を軽く蹴った。それだけでロディはバランスを崩して床に倒れこんだ。 「…な、なにを…」 「わたしがやるよ」  こなたはアガートラームを構えながら、ロディからできるだけ離れるように動いた。狼はすでにロディは脅威でないと感じているのか、こなたから視線を逸らさない。 『なにか考えが?』 「無いよ…やるだけやる。それだけ」  多分、わたしは死ぬんだろうな。こなたはそう思っていた。ロディの後ろに隠れていても、それは変わらないだろう。ならば、万が一にかけてやるだけだと…そう決意すると、少しだけ気分が落ち着くのをこなたは感じていた。 『…力が欲しいって思ってるね。伝わってくるよ』 「そりゃそうでしょ。この状況だもの。誰だって欲しくなるよ…なんか当てあるの?」  アガートラームの言葉に、こなたが軽い口調で返す。狼は余裕を見せているのか未だに襲っては来ない。 『当てがあるっていうか…今出来た』 「へ?どういうこと?」  こなたの問いにアガートラームは答えずに、そのまま黙り込んだ。 「ちょ、ちょっと…」  こなたは黙ったアガートラームに文句を言おうとしたが、目の端に捕らえていた狼が攻撃態勢を取ったため、そちらに集中せざるを得なくなってしまった。 「…やるしかない…やるしかない…」  こなたは自分を鼓舞するように呟きながら、狼の動きに集中する。真正面から撃っても、弾丸くらい軽く避けるのはさっき分かった。ならば隙を突くしかない。一番の隙は攻撃の直後。スピードを殺すためにブレーキをかけるその瞬間しかない。こなたはそう考え、攻撃をさけるために意識を集中した。  さっきのようにフェイントをかけられるかもしれない。どっちに飛ぶかくらいは見切るんだ。集中するにつれ、こなたは意識がなにか奥底に沈んでいくような感覚を覚えた。そして、アガートラームにアクセスした時と同じように、カチリと頭の奥で音がした。その瞬間、こなたの周りの景色が灰色となった。  狼が駆けてくる。こなたにはそれがはっきりと見えた。さっきまでのまったく見えない攻撃じゃない。普通に人が走るくらいの速度だ。こなたはそれを難なく避けることが出来た。  景色に色が戻る。狼の方を見ると、こなたを警戒するように唸り声を上げていた。 「…今の動きは一体…?」  ロディが信じられないと言う様にそう呟いた。 『アクセラレイター』  その問いに答えるかのように、アガートラームがそう言った。 「なに、それ?…ってーか今のなに?」  こなたは少し混乱しながらそう聞いた。こなた自身も自分が何をやったのか良くわかっていなかったのだ。 『アクセスの更に上。オーバーアクセスで引き出せる僕の機能だよ。短時間だけどこなたの体内時計を加速させると同時に、身体機能を大幅に上げることが出来るんだ』 「それをすると、さっきみたいなことが出来るってこと?」 『そう。こなたからは回りが遅く、周りからはこなたがとんでもない速度で動いてるように見えるはずだよ』 「…ふーん」  こなたは驚くより先に納得していた。いやに落ち着いている自分に戸惑いながらも、こなたはアクセラレイターをどう使おうか考えていた。 「こういうときは…攻めるべきだよね」  こなたはアガートラームを持った右手を背中に隠し、左手を前に伸ばして体を大きく沈めた。意味のないただのハッタリだ。しかし、さっきのこなたの動きを見た狼は、かなり警戒している。本能で動かず、多少の知恵を持ってるがために、こういうハッタリは良く効く。 「…アクセラレイター!」  叫ぶと同時に、こなたは狼に向かって迷いなく走った。周囲の景色が灰色になる。狼は動いていない。さっきフェイントを受けたこなたと同じように、どう動いていいか迷っているのだ。こなたは難なく、狼に接近することが出来た。  そして狼の腹の下へ、こなたはスライディングで滑り込むと、両足でその腹を思い切り蹴り上げた。狼がゆっくりと宙に浮く。こなたは蹴りの勢いを使って立ち上がると、狼に狙いをしっかり定めてアガートラームの引き金を連続で引いた。  景色が戻ると同時に狼の体が天井に激突し、その体に弾丸がいくつも突き刺さる。 「…シュート…」  聞こえてた声にこなたが振り向くと、いつの間にか立ち上がっていたロディが完全に天井に埋もれた狼に向かってARMを構えていた。銃口に光のようなものが集まっているのが見えた。 「エンドーッ!!」  耳を劈く轟音と共に弾丸が放たれる。光を纏った弾丸を受けた狼は真っ二つになり、地面に落ちて砂へと戻った。 「…やった…」  こなたは安堵してその場に座り込みそうになったが、崩れ落ちるロディを見て慌ててその側に駆け寄った。 「ロディ君!大丈夫!?」  こなたは倒れているロディの頭の側に座り込んだ。そのこなたに、ロディが弱々しく微笑んでみせる。 「…なんとか…一発だけ撃てたね…」 「さっきの?あれはなに?」 「…ARMは感応兵器だからね…心を深く繋げるとその威力を増すんだ…少し、疲れるけどね…」  ロディはそう言った後、目を瞑った。呼吸は荒く、明らかに危険な状態だ。 「ど、どうしよう…なんとかならないの、ポンコツ?」 『ここまできてポンコツ扱いとか…でもなんとかなりそうだよ。誰か来た』 「…え?」  こなたが顔を上げると、こなた達が入って来たのとは逆の方にある廊下から、一人の少女が入ってくるのが見えた。  オレンジのワンピースを着て、頭には大きなリボンをつけている、なんともこんな場所には不釣合いな格好だ。ロディとそう変わらない歳なのだろうが、顔に残るそばかすのおかげか、だいぶ幼い印象を受ける。  その少女はこなたたちに気がつくと、もの凄い勢いで走ってきた。 「ちょっと、ロディ!なにやってんの!?」  そして、そのままこなたを突き飛ばしてロディの横に座り込んだ。 「…ジェーン…アンチドーテを…」 「わ、わかったわ…」  ジェーンと呼ばれた少女は、格好に不釣合いな無骨なバックをあさると、鮮やかな黄緑色の葉っぱを取り出した。ジェーンはロディの口を無理矢理開かせ、それをねじ込んだ。そして、手で顎を動かし強引に咀嚼させる。葉っぱに強力な解毒作用があったのか、ロディの顔色はみるみる良くなっていった。 「なんか治ったみたいだね…よかった」  その様子を床に転がったまま見ていたこなたがそう呟いた。 『毒はともかく、手はどうするんだろうね』 「…思い出させないでよポンコツ」 「…こっちよ」  回復したロディとこなたは、ジェーンに案内されて遺跡の出口へと向かっていた。 「ところで…あんたなに?」  そのジェーンが、唐突に立ち止まりこなたのほうを振り向いてそう聞いた。 「なにって言われても…」 「彼女は泉こなた…異世界から来たらしいんだ」  言いよどむこなたに代わって、ロディがそう答えた。 「異世界?…ふーん、まあどうでもいいけど。あたしはジェーン・マックスウェル。ま、この遺跡出るまでだろうけどよろしく」 『歯牙にもかけないって感じだねえ』  ジェーンのあっさりとした態度にアガートラームがそう言うと、ジェーンは鼻を鳴らしてお手上げのポーズをした。 「ロディはそんな変な嘘つくやつじゃないし。それに、お金になりそうにないじゃない」  ジェーンはそう言って、また一行を先導して歩き出した。そして、数歩歩いたところで立ち止まり、凄い勢いでこなたの方に再び振り向いた。 「ARMが喋ったー!?」 『あ、僕の方には食いつくんだ』 「いや、だって普通喋んないでしょ…」  そして今度は、ジェーンの驚き振りを見たロディが嬉しそうにこなたの側に駆け寄った。 「でしょ!?凄いよね、喋るARMなんて!ジェーン、僕の鞄に工具が入ってるからちょっと分解して…」  ロディはそう言いながらジェーンの持っている無骨な鞄に手を入れた。ジェーンの格好に不釣合いだったのは、はぐれた時に置いてきてしまったロディの鞄だったからのようだ。 「…いや、あんた片手だから無理でしょ。ってーかいいARM見たら分解しようとするのやめなさい」  ジェーンがロディの手を叩いてそう言うと、ロディは渋々と言った感じに鞄から手を抜いた。 「あの…手、大丈夫なの?ロデイ君の…」  二人と一丁のやり取りを見ていたこなたが恐る恐るそう聞くと、ロディは食いちぎられた手をこなたの方に向けた。 「大丈夫だよ。これ、義手だから」  こなたが良く見てみると、断面から何かの配線が垂れ下がってるのが分かった。 「ああ。それで怪我は大丈夫だって…」 「そういうこと」  本当に大丈夫そうだとこなたは安堵したが、前を歩いているジェーンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「修理するのにお金かかるじゃない」 『…シビアな子だなあ』  アガートラームが呆れたようにそう言うと、ジェーンはもう一度鼻を鳴らして歩く速度を早めた。 「…ふわー…」  日の光の眩しさに目を細めながら周りを見渡したこなたは、思わず間の抜けたため息をついた。  遺跡から出たこなたが見たものは、見渡す限りの荒野。吹く風が砂塵を巻き上げている。テレビでしか見たことのない光景に、こなたは唖然としていた。 「この星の大地は、もう八割が荒野に覆われてるんだ」  そのこなたの後ろから、ロディがそう言った。 「ここから西に行くと小さな村があるから、まずはそこに行くといいよ…ホントはそこまで送ってあげたいけど、僕たちも仕事があるから…」  そして、西であろう方角を指差しながらそう言うロディに、こなたは不安な表情を見せた。 「それは…ちょっと心細いかな…」  そのこなたに、ジェーンがなにかを包んだ赤い布を差し出してきた。 「…これは?」  それを受け取って首を傾げるこなたに、ロディが苦笑して見せた。 「地図とコンパス、食料と水…あとライブジェムを何個か入れといたから、村に着いたら売ってお金にすればいいよ」  布を指差しながら、ロディが中身を説明する。 「…それと、その布はロディの使ってたスカーフだから。砂避けに使うといいわ。口に入ったら泣けるわよ」  そして、ロディの言葉を補足するかのようにジェーンが続けた。こなたはその二人を交互に見て、照れたように笑った。 「ありがとう」  こなたの感謝の言葉にジェーンは鼻を鳴らすと、こなたに背を向けて歩き出した。 「せいぜい、行き倒れないようにね」  そして、そう言いながら肩越しに手を振った。それを見たロディも苦笑しながら歩き出す。 「元の世界に戻れることを願ってるよ」  こなたの方に体を向けてそう言うロディに、こなたは手を振って別れを告げた。 「…行っちゃったね」 『そうだね…僕らも行こうか』 「うん…と、荷物確認しとかないと」  こなたはしゃがみこみ、渡されたスカーフを解いて中身を確認しはじめた。 「あれ、これは…?」  そして、説明された中にはなかった物を見つけた。手のひらに収まるくらいの小さな狼の彫像で、遺跡の中で倒した狼のボスによく似ていた。 「…まあ、もらっとこうか」  こなたは荷物を鞄につめ、口が隠れるようにスカーフを巻いて立ち上がった。 「まずは西…」  確認するようにそう呟いて、こなたは荒野の中へ足を踏み出した。 「…なにも言わなかったね」  隣を歩くロディがそう聞くと、ジェーンは首をかしげた。 「なにが?」 「こなたちゃんに…文句を言うかと思ったんだけどね」 「『あんたのせいでロディが怪我したのよ』って?…言ってもしょうがないでしょ。好きであそこに居たわけじゃないみたいだし、アンタのかばい癖は治しようがないし」 「…苦労かけるね」 「…まったくよ」  そして、しばらくお互い無言で歩いた後、ふとジェーンが何か思い出したようにロディのほうを見た。 「そういや、探してたものは見つかったの?遺跡出てきちゃったけど」 「ああ、これだよ」  ロディが懐から拳くらいの大きさの石を取り出した。ライブジェムに似ているが、澄んだ輝きをしており脈打つ鼓動のようなものが感じられた。 「ライブクリスタル…砂獣になる前のライブジェムだよ」 「マリエルだっけ…あのエルゥの子、こんなの何に使うつもりなのかしら」 「さあ…でも悪いことには使わないと思うよ」 「…でしょうね。アンタと同じ人畜無害な顔してたから」  ジェーンは呆れたように言いながら、頭の後ろで手を組んだ。 「ま、あたしは報酬がちゃんと貰えたら、それでいいけどね」  そう言いながら少し歩を早めるジェーンに、ロディは苦笑しながら付いて行った。 ― 続く ― 次回予告 かがみです。 こなたが辿り着いたのは、小さいながらも豊かな村。 そこでこなたに再会と新たな出会いが訪れます。 次回わいるど☆あーむずLS第三話『真面目兎とパン屋さん』 …え、つまらない?いや、予告って普通こんな感じでしょ…。
銃声と共に一匹の狼が床に落ち、その姿が砂へと戻る。  銃を撃った本人…こなたは肩で息をしながら、共に戦っているはずのロディのほうを見た。 「…まあ、わかっちゃいたけど、実力差ありすぎでしょ」  そう呟くこなたの視線の先では、すでに三体の狼を仕留めたロディが、ARMに弾丸を装填してるところだった。 『こっちは一匹倒すのにヒーヒー言ってるのにねえ』  手に持ったアガートラームから聞こえるのん気な声にこなたはむっとしたが、事実なので言い返せずに黙り込んだ。 「この辺りにはもういないようだね」  そのこなたの背中から、ロディが声をかける。こなたがそっちを向くと、ロディは狼になっていた砂の山から赤い宝石のようなものを回収していた。 「それ…えーっと…ライブジェムだっけ?持って帰るんだ」 「うん、これは色んなARMの燃料になるからね。売ればお金になるんだ」 「へー」  こなたはその話にうなずきながらも、この人懐っこい笑顔の少年に、金儲けの話は似合わないなと思っていた。 「この世には、お金で買えないものも確かにあるけど…お金で買えるものの方が遥かに多いんだよね」  こなたの思ってることを察したのか、ロディが少し照れ笑いを浮かべながらそう言った。 『顔に似合わず達観してるね』 「おい、こらポンコツ」  こなたは、自分が言いづらかったことをさらっと言うアガートラームに、思わず突っ込んでいた。 「はは、よく言われるよ…まあ、今のはパートナーの受け売りなんだけどね」  パートナーという言葉にこなたは驚いた。さっきからの戦闘で息切れ一つしてない彼が、パートナーを必要とするほど、この世界は過酷なのかと。 「その、パートナーさんはどこに?」 「僕のミスではぐれちゃってね…怒ってるだろうなあ」  さほど困った顔も見せずにそう言うロディを見て、かなり信頼関係のある間柄なんだろうなと、こなたは思った。 『意外とドジだ』 「おい、こらポンコツ」  そして、言いづらいことをはっきり言うアガートラームに突っ込んでいた。 ― わいるど☆あーむずLS ― 第二話『荒野の星』 「でも…おかしいな」  こなたの前を歩いていたロディが不意にそう呟いた。 「なにが?」  こなたがそう聞くと、ロディは少し歩く速度を落としてこなたの横に並んだ。 「砂獣の形態なんだけど…こんな所で狼形ってのはおかしいんだよね」 「あ、やっぱりそうなんだ」  こなたは、ロディが特に何も反応してなかったので、この世界では当たり前のことかと思っていた。 「砂獣は、元々そこにいる生物の真似をする傾向があるからね。僕が前に来たときは、虫型の砂獣ばかりだったんだけど…」 「虫よか狼の方がましかなあ…」 『狼の方が危険なきがするけど』 「虫は生理的にやばいでしょ」 「いや、そういう問題なのかなあ…」  ロディは話が脱線しそうなこなた達に突っ込んだ後、遺跡の廊下を見回した。 「砂獣には真似損ないってのはあるんだけど、まったく真似してないってのは今まで無かったからね。ここに狼の姿を真似れる何かがあるんだと思う」 「絵…とか?遺跡だしそういうのがあってもおかしくないでしょ」  こなたの意見に、ロディが顎に手を当てて考え込む。 「前に来たときはそう言うのは無かったなあ…いや、全部回ったわけじゃないけど…っていうか絵とかから真似たなんて事例も無いんだよね…」  こなたは、渡り鳥ってのは学者の真似事もするのだろうかと考えながら、ロディの邪魔をしないように少し前を歩いた。 「…あ」  そして、廊下の先に開けた場所があるのを見つけ、少し歩く速度を上げた。 「ほあー…」  こなたはその部屋の天井を見上げながら、思わずため息をついていた。学校の体育館くらいの広さの大きな部屋。壁や天井には良くわからない細かな文様がびっしりと刻まれている。 「これは…凄いね」  後から入ってきたロディも感嘆の声を上げる。そのままロディは部屋の中央に向かうと、そこにあった瓦礫の山を探り始めた。 「何かの祭壇が崩れたみたいだね…」 「ふーん…」  ロディの後ろから覗き込みながら、こなたはなんとなく嫌な予感がしていた。RPGならこういうところには大抵ボス敵が配置されてるはずだ、と。 「しかし、おかしいな…僕もだけど、この遺跡には何人も渡り鳥が来てるんだ。こんな大きな部屋が見つかってないなんて…」  と、そこでロディは言葉を止めた。 「ど、どしたの…?ふゃっ!?」  こなたが不安に駆られてそう聞いたのとほぼ同時に、ロディはこなたを抱きかかえて横に飛んだ。一瞬後に、こなた達のいた場所で爆発のようなものがおき、瓦礫が周囲に飛び散った。 「な、なに…?」 「構えて!」  慌てるこなたに、ロディが一喝する。こなたから離れたロディは、すでにARMを構えて臨戦態勢をとっていた。  こなたとロディが見る先…瓦礫の粉塵が晴れてくると、そこにいたのは今までのとは明らかに異形の狼だった。ふた周りほど大きい体躯に漆黒の毛並み。頭頂部から尻尾の方にかけて、紅い毛が背びれのようになびいている。 「…やな予感、的中しちゃったよ…強いよね?あれ」 「多分ね」  こなたの呟きにロディが答える、その真剣な横顔が敵の強さを物語っているようだった。 「…来るよ!」 「…え?」  狼が少し身をかがめたかと思うと、その姿が消え去った…いや、少なくともこなたにはそう見えた。一瞬後に金属音。そして、何かが横を通り過ぎたかのような風をこなたは感じた。  後ろを向くと、壁際でロディがARMを使って狼の噛みつきをガードしていた。 「なに…今の…」  まったく見えなかった。正直、レベルが違いすぎる。こなたは、レベル上げを怠ったRPGの主人公の気分を味わっていた。 「こいつ…やぁぁぁぁぁっ!」  ロディは狼にARMを噛ませたまま、その巨大な体躯を持ち上げた。線の細い少年に見えるロディのどこにそんな力があるのかと、こなたは目を見張った。そしてロディはそのまま狼の体を蹴り飛ばす。狼はこなたの上を飛び、最初の位置へと軽やかに着地した。  間髪いれずロディが銃撃を入れるが、狼は予測していたのか横に飛び弾丸をかわす。そして、狼はこなたの方を見た。こなたの背筋に寒気が走る。ロディが手ごわいと感じ、標的をこっちに変えたのだと、こなたは感じた。 「お前の相手は僕だ!こっちにこい!」  ロディが挑発をかけるが、狼はそちらを一瞥した後、口の端をゆがめた。 「え…笑った?」  こなたがそう呟くのと、狼の姿が消えるのはほぼ同時だった。こなたはとっさに横に飛んだ。狼の攻撃は直線的だ。かわせた…こなたはそう思ったが、すぐに違和感を感じる。さっき狼が攻撃してきたときのような、通り過ぎる風を感じなかったのだ。 「こなたちゃん!上だ!」  ロディの声にこなたは弾かれたように上を見た。そこにいたのは天井に張り付いた狼。その姿がまた消える。こなたはとっさにどうすべきなのか判断を迷ってしまった。 「ごめん!」  ロディの声が消えると同時に、こなたは腹の辺りに衝撃を感じた。そのままこなたは後ろに吹っ飛び、二度ほどバウンドして床に転がった。 「…いったー…」  呻きながらこなたが体をおこす。そして、さっきの場所を見ると、ロディが狼に左腕を咥えられていた。  わたしのせいだ。こなたは自分の鈍さを呪った。こなたがかわせないと判断したロディが、こなたを蹴り飛ばして狼の攻撃を受けたんだ。こなたはそう理解した。  狼が首を大きく振ると、ブチッと嫌な音がしてロディの体がこなたのほうに飛んできた。 「ロ、ロディ…くん…?」  こなたのそばに落ちたロディは顔色が青ざめていた。よく見ると左腕の肘から先が無くなっている。 「だ、大丈夫…?」  聞いてからこなたは、間抜けな質問をしたと思った。腕が無くなって大丈夫なわけがない。 「怪我は大したことないけど…あの狼、強力な毒をもってたみたいだ…体がうまく動かない…」  苦しそうにそう言いながら、ロディは立ち上がりARMを構えてこなたの前に立とうとした。こなたは深呼吸を一つすると、ロディの足を軽く蹴った。それだけでロディはバランスを崩して床に倒れこんだ。 「…な、なにを…」 「わたしがやるよ」  こなたはアガートラームを構えながら、ロディからできるだけ離れるように動いた。狼はすでにロディは脅威でないと感じているのか、こなたから視線を逸らさない。 『なにか考えが?』 「無いよ…やるだけやる。それだけ」  多分、わたしは死ぬんだろうな。こなたはそう思っていた。ロディの後ろに隠れていても、それは変わらないだろう。ならば、万が一にかけてやるだけだと…そう決意すると、少しだけ気分が落ち着くのをこなたは感じていた。 『…力が欲しいって思ってるね。伝わってくるよ』 「そりゃそうでしょ。この状況だもの。誰だって欲しくなるよ…なんか当てあるの?」  アガートラームの言葉に、こなたが軽い口調で返す。狼は余裕を見せているのか未だに襲っては来ない。 『当てがあるっていうか…今出来た』 「へ?どういうこと?」  こなたの問いにアガートラームは答えずに、そのまま黙り込んだ。 「ちょ、ちょっと…」  こなたは黙ったアガートラームに文句を言おうとしたが、目の端に捕らえていた狼が攻撃態勢を取ったため、そちらに集中せざるを得なくなってしまった。 「…やるしかない…やるしかない…」  こなたは自分を鼓舞するように呟きながら、狼の動きに集中する。真正面から撃っても、弾丸くらい軽く避けるのはさっき分かった。ならば隙を突くしかない。一番の隙は攻撃の直後。スピードを殺すためにブレーキをかけるその瞬間しかない。こなたはそう考え、攻撃をさけるために意識を集中した。  さっきのようにフェイントをかけられるかもしれない。どっちに飛ぶかくらいは見切るんだ。集中するにつれ、こなたは意識がなにか奥底に沈んでいくような感覚を覚えた。そして、アガートラームにアクセスした時と同じように、カチリと頭の奥で音がした。その瞬間、こなたの周りの景色が灰色となった。  狼が駆けてくる。こなたにはそれがはっきりと見えた。さっきまでのまったく見えない攻撃じゃない。普通に人が走るくらいの速度だ。こなたはそれを難なく避けることが出来た。  景色に色が戻る。狼の方を見ると、こなたを警戒するように唸り声を上げていた。 「…今の動きは一体…?」  ロディが信じられないと言う様にそう呟いた。 『アクセラレイター』  その問いに答えるかのように、アガートラームがそう言った。 「なに、それ?…ってーか今のなに?」  こなたは少し混乱しながらそう聞いた。こなた自身も自分が何をやったのか良くわかっていなかったのだ。 『アクセスの更に上。オーバーアクセスで引き出せる僕の機能だよ。短時間だけどこなたの体内時計を加速させると同時に、身体機能を大幅に上げることが出来るんだ』 「それをすると、さっきみたいなことが出来るってこと?」 『そう。こなたからは回りが遅く、周りからはこなたがとんでもない速度で動いてるように見えるはずだよ』 「…ふーん」  こなたは驚くより先に納得していた。いやに落ち着いている自分に戸惑いながらも、こなたはアクセラレイターをどう使おうか考えていた。 「こういうときは…攻めるべきだよね」  こなたはアガートラームを持った右手を背中に隠し、左手を前に伸ばして体を大きく沈めた。意味のないただのハッタリだ。しかし、さっきのこなたの動きを見た狼は、かなり警戒している。本能で動かず、多少の知恵を持ってるがために、こういうハッタリは良く効く。 「…アクセラレイター!」  叫ぶと同時に、こなたは狼に向かって迷いなく走った。周囲の景色が灰色になる。狼は動いていない。さっきフェイントを受けたこなたと同じように、どう動いていいか迷っているのだ。こなたは難なく、狼に接近することが出来た。  そして狼の腹の下へ、こなたはスライディングで滑り込むと、両足でその腹を思い切り蹴り上げた。狼がゆっくりと宙に浮く。こなたは蹴りの勢いを使って立ち上がると、狼に狙いをしっかり定めてアガートラームの引き金を連続で引いた。  景色が戻ると同時に狼の体が天井に激突し、その体に弾丸がいくつも突き刺さる。 「…シュート…」  聞こえてた声にこなたが振り向くと、いつの間にか立ち上がっていたロディが完全に天井に埋もれた狼に向かってARMを構えていた。銃口に光のようなものが集まっているのが見えた。 「エンドーッ!!」  耳を劈く轟音と共に弾丸が放たれる。光を纏った弾丸を受けた狼は真っ二つになり、地面に落ちて砂へと戻った。 「…やった…」  こなたは安堵してその場に座り込みそうになったが、崩れ落ちるロディを見て慌ててその側に駆け寄った。 「ロディ君!大丈夫!?」  こなたは倒れているロディの頭の側に座り込んだ。そのこなたに、ロディが弱々しく微笑んでみせる。 「…なんとか…一発だけ撃てたね…」 「さっきの?あれはなに?」 「…ARMは感応兵器だからね…心を深く繋げるとその威力を増すんだ…少し、疲れるけどね…」  ロディはそう言った後、目を瞑った。呼吸は荒く、明らかに危険な状態だ。 「ど、どうしよう…なんとかならないの、ポンコツ?」 『ここまできてポンコツ扱いとか…でもなんとかなりそうだよ。誰か来た』 「…え?」  こなたが顔を上げると、こなた達が入って来たのとは逆の方にある廊下から、一人の少女が入ってくるのが見えた。  オレンジのワンピースを着て、頭には大きなリボンをつけている、なんともこんな場所には不釣合いな格好だ。ロディとそう変わらない歳なのだろうが、顔に残るそばかすのおかげか、だいぶ幼い印象を受ける。  その少女はこなたたちに気がつくと、もの凄い勢いで走ってきた。 「ちょっと、ロディ!なにやってんの!?」  そして、そのままこなたを突き飛ばしてロディの横に座り込んだ。 「…ジェーン…アンチドーテを…」 「わ、わかったわ…」  ジェーンと呼ばれた少女は、格好に不釣合いな無骨なバックをあさると、鮮やかな黄緑色の葉っぱを取り出した。ジェーンはロディの口を無理矢理開かせ、それをねじ込んだ。そして、手で顎を動かし強引に咀嚼させる。葉っぱに強力な解毒作用があったのか、ロディの顔色はみるみる良くなっていった。 「なんか治ったみたいだね…よかった」  その様子を床に転がったまま見ていたこなたがそう呟いた。 『毒はともかく、手はどうするんだろうね』 「…思い出させないでよポンコツ」 「…こっちよ」  回復したロディとこなたは、ジェーンに案内されて遺跡の出口へと向かっていた。 「ところで…あんたなに?」  そのジェーンが、唐突に立ち止まりこなたのほうを振り向いてそう聞いた。 「なにって言われても…」 「彼女は泉こなた…異世界から来たらしいんだ」  言いよどむこなたに代わって、ロディがそう答えた。 「異世界?…ふーん、まあどうでもいいけど。あたしはジェーン・マックスウェル。ま、この遺跡出るまでだろうけどよろしく」 『歯牙にもかけないって感じだねえ』  ジェーンのあっさりとした態度にアガートラームがそう言うと、ジェーンは鼻を鳴らしてお手上げのポーズをした。 「ロディはそんな変な嘘つくやつじゃないし。それに、お金になりそうにないじゃない」  ジェーンはそう言って、また一行を先導して歩き出した。そして、数歩歩いたところで立ち止まり、凄い勢いでこなたの方に再び振り向いた。 「ARMが喋ったー!?」 『あ、僕の方には食いつくんだ』 「いや、だって普通喋んないでしょ…」  そして今度は、ジェーンの驚き振りを見たロディが嬉しそうにこなたの側に駆け寄った。 「でしょ!?凄いよね、喋るARMなんて!ジェーン、僕の鞄に工具が入ってるからちょっと分解して…」  ロディはそう言いながらジェーンの持っている無骨な鞄に手を入れた。ジェーンの格好に不釣合いだったのは、はぐれた時に置いてきてしまったロディの鞄だったからのようだ。 「…いや、あんた片手だから無理でしょ。ってーかいいARM見たら分解しようとするのやめなさい」  ジェーンがロディの手を叩いてそう言うと、ロディは渋々と言った感じに鞄から手を抜いた。 「あの…手、大丈夫なの?ロデイ君の…」  二人と一丁のやり取りを見ていたこなたが恐る恐るそう聞くと、ロディは食いちぎられた手をこなたの方に向けた。 「大丈夫だよ。これ、義手だから」  こなたが良く見てみると、断面から何かの配線が垂れ下がってるのが分かった。 「ああ。それで怪我は大丈夫だって…」 「そういうこと」  本当に大丈夫そうだとこなたは安堵したが、前を歩いているジェーンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「修理するのにお金かかるじゃない」 『…シビアな子だなあ』  アガートラームが呆れたようにそう言うと、ジェーンはもう一度鼻を鳴らして歩く速度を早めた。 「…ふわー…」  日の光の眩しさに目を細めながら周りを見渡したこなたは、思わず間の抜けたため息をついた。  遺跡から出たこなたが見たものは、見渡す限りの荒野。吹く風が砂塵を巻き上げている。テレビでしか見たことのない光景に、こなたは唖然としていた。 「この星の大地は、もう八割が荒野に覆われてるんだ」  そのこなたの後ろから、ロディがそう言った。 「ここから西に行くと小さな村があるから、まずはそこに行くといいよ…ホントはそこまで送ってあげたいけど、僕たちも仕事があるから…」  そして、西であろう方角を指差しながらそう言うロディに、こなたは不安な表情を見せた。 「それは…ちょっと心細いかな…」  そのこなたに、ジェーンがなにかを包んだ赤い布を差し出してきた。 「…これは?」  それを受け取って首を傾げるこなたに、ロディが苦笑して見せた。 「地図とコンパス、食料と水…あとライブジェムを何個か入れといたから、村に着いたら売ってお金にすればいいよ」  布を指差しながら、ロディが中身を説明する。 「…それと、その布はロディの使ってたスカーフだから。砂避けに使うといいわ。口に入ったら泣けるわよ」  そして、ロディの言葉を補足するかのようにジェーンが続けた。こなたはその二人を交互に見て、照れたように笑った。 「ありがとう」  こなたの感謝の言葉にジェーンは鼻を鳴らすと、こなたに背を向けて歩き出した。 「せいぜい、行き倒れないようにね」  そして、そう言いながら肩越しに手を振った。それを見たロディも苦笑しながら歩き出す。 「元の世界に戻れることを願ってるよ」  こなたの方に体を向けてそう言うロディに、こなたは手を振って別れを告げた。 「…行っちゃったね」 『そうだね…僕らも行こうか』 「うん…と、荷物確認しとかないと」  こなたはしゃがみこみ、渡されたスカーフを解いて中身を確認しはじめた。 「あれ、これは…?」  そして、説明された中にはなかった物を見つけた。手のひらに収まるくらいの小さな狼の彫像で、遺跡の中で倒した狼のボスによく似ていた。 「…まあ、もらっとこうか」  こなたは荷物を鞄につめ、口が隠れるようにスカーフを巻いて立ち上がった。 「まずは西…」  確認するようにそう呟いて、こなたは荒野の中へ足を踏み出した。 「…なにも言わなかったね」  隣を歩くロディがそう聞くと、ジェーンは首をかしげた。 「なにが?」 「こなたちゃんに…文句を言うかと思ったんだけどね」 「『あんたのせいでロディが怪我したのよ』って?…言ってもしょうがないでしょ。好きであそこに居たわけじゃないみたいだし、アンタのかばい癖は治しようがないし」 「…苦労かけるね」 「…まったくよ」  そして、しばらくお互い無言で歩いた後、ふとジェーンが何か思い出したようにロディのほうを見た。 「そういや、探してたものは見つかったの?遺跡出てきちゃったけど」 「ああ、これだよ」  ロディが懐から拳くらいの大きさの石を取り出した。ライブジェムに似ているが、澄んだ輝きをしており脈打つ鼓動のようなものが感じられた。 「ライブクリスタル…砂獣になる前のライブジェムだよ」 「マリエルだっけ…あのエルゥの子、こんなの何に使うつもりなのかしら」 「さあ…でも悪いことには使わないと思うよ」 「…でしょうね。アンタと同じ人畜無害な顔してたから」  ジェーンは呆れたように言いながら、頭の後ろで手を組んだ。 「ま、あたしは報酬がちゃんと貰えたら、それでいいけどね」  そう言いながら少し歩を早めるジェーンに、ロディは苦笑しながら付いて行った。 ― 続く ― 次回予告 かがみです。 こなたが辿り着いたのは、小さいながらも豊かな村。 そこでこなたに再会と新たな出会いが訪れます。 次回わいるど☆あーむずLS第三話『真面目兎とパン屋さん』 …え、つまらない?いや、予告って普通こんな感じでしょ…。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)

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