ID:o9eM3ESO氏:あの日あのとき

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 登校する生徒はほとんどいない、とある日の早朝。 「つかさ、おはよー」  校門前で見知った背中を見かけた泉こなたは、手を振りながら声をかけた。 「ふえ?…え、こなちゃん?」  声をかけられたこなたの友人柊つかさは、振り返ってこなたの姿を見つけると、微笑みながら挨拶を返した。 「おはよ。今日は早いんだね」  こなたは少し早足でつかさの隣に並び、二人は連れだって校舎に向かい歩き出した。 「いやー、なんか日の出前に眼がさめちゃってねー…折角だから、教室一番乗りでもやってみようかと思ってね」 「そうなんだ…わたしだったら、もう一度寝ちゃうな」 「つかさはどうしたの?」 「わたしは日直だよ」 「あ、そういやそうだっけか」  駄弁りながら二人は校舎内へと入り、教室の鍵を取ってくると言うつかさと別れ、こなたは一人で教室へと向かった。 - あの日あのとき -  教室についたこなたは、何となく教室のドアに手をかけてみた。  すると、鍵がかかっているはずのドアがカラカラと開いてしまった。 「ありゃ…鍵かけ忘れかな…」  こなたは呆れながら教室に入ると、後から来るつかさを驚かそうと隠れる場所を探して教室を見回した。  そして、黒板に何か書いてある事に気がついた。 「…なにこれ」  こなたは唖然とした表情で黒板の文字をを眺めていたが、誰も来ない内に消してしまおうと黒板へと近付いた。 「あれ、開いてる?こなちゃん、鍵かかってなかったの?」  そして、黒板消しを手に取ったところで、つかさが教室へと入って来た。 「職員室に鍵ちゃんとあったのにね。昨日の最後の人、だいぶ慌てて…」  そこまで話したところで、つかさの動きが止まった。  つかさの視線の先。こなたが消そうとしている黒板の文字。 『柊つかさは男の子より女の子の方が好き』  大きく書かれたその文字を、つかさは微動だにせずに見つめていた。 「た、質の悪い悪戯だよね…とりあず消すよ…」  こなたは持っていた黒板消しを動かして、文字を跡が残らないように丁寧に消し去った。  こなたが黒板を消し終わっても、つかさはまだそちらの方を見つめたままだった。 「…つかさ?」  少し心配になったこなたが声をかけると、つかさはゆっくりとこなたの方に顔を向けた。 「…これ、書いたのこなちゃん?」  そして、ポツリとそう呟いた。 「ま、まさか!わたしが教室入った時には、もう書いてあったよ!」  こなたが首と手を振りながら否定すると、つかさは顔を伏せて聞き取れない声で何かを呟いて、そのまま自分の席に座ってしまった。  こなたはとりあえず、動きそうにないつかさの代わりに日直の仕事をする事にした。 「…んー」  昼休み。柊かがみは一緒にご飯を食べているこなたとつかさを見ながら、唸り声にも似た言葉を発した。  二人の様子がどうもおかしい。つかさは元気なさそうにずっと俯いているし、こなたはそのつかさを気遣うようにチラチラと視線を送っている。  一緒に食べているもう一人、高良みゆきも様子のおかしさに気付いているのか、二人の顔を交互に見たり、かがみの方をちらっと見たりしていた。 「…ねえ、こなたもつかさもどうしたのよ。なんか変よ?」  場の空気に耐え兼ねたかがみがそう聞くと、こなたはビクッと体を震わせた。つかさはかがみの声が聞こえていないのか、俯いたまま身じろぎ一つしなかった。 「な、なんにもないよ…」  明らかに不審な態度を取るこなたに、かかみはため息をついた。 「こなた。ちょっと来て」  そして、こなたの腕を掴んで無理矢理立たせた。 「え?ちょ、ちょっとかがみ、なに?」 「いいから来なさい」 「わ、わたしまだ食べてる途中…」 「歩きながら食べなさい」  かがみはそのまま、こなたを教室の外まで引きずって行った。  取り残されたみゆきはどうしていいか分からず、相変わらず俯いたままのつかさとかがみ達がでていった教室のドアの方を交互に見ていた。  かがみはこなたを、人のいない廊下の隅まで引っ張ってきた。 「で、何があったの?」  そして、こなたの顔を真正面から見据えてそう聞いた。 「それは…その…」  こなたは言葉を濁しながら顔を背けたが、かがみがその顔を両手で掴んで自分の方へと向き直させた。 「ごまかさずに答えなさい」 「か、かがみ…なんか恐いよ…」  こなたは冷や汗を垂らしながらも、持ってきてしまっていたチョココロネを一口かじった。そして、かがみに言いづらそうに話し出した。 「実は…かがみのせいなんだ」  スパーンッ!という軽快な音と共に、こなたは頭頂部に強い衝撃を受けた。涙目になりながらかがみの方を見ると、手になぜかスリッパを持っていた。 「真面目に答えなさい。今朝家で顔合わせた時は普通だったのよ。そこから昼休みまで会ってないんだから、わたしのせいなわけないじゃない」 「…だよね…ってかそのスリッパなに?」 「こんなこともあろうかと、持ってきといたのよ」 「こんなこと想定しないでよね…いや、やっちゃったけどさ…」  こなたは仕方なくといった風に、今朝あった事をかがみに話した。 「…なるほど」  こなたの話を聞き終わったかがみは、顎に手を当てて考え込んだ。 「多分、つかさはわたしが書いたって思ってるんじゃないかな…」  こなたがそう言うと、かがみは手は顎に当てたままでこなたの方を向いた。 「あんたは違うって言ったんでしょ?」 「うん、そうだけど…」 「あんたは、なにかと信用ないからね」 「ひどっ」 「でも、つかさがこういう事であんたを疑うとは思えないし、わたしもあんたがつかさにシャレで済まないような真似をするとは思ってないわ」 「信用、あるんだかないんだか…」  ため息をつきながら、複雑な表情をするこなた。かがみは少し苦笑したが、すぐに真面目な表情に戻った。 「で、犯人探しはするの?それとも学校側に言っちゃう?」 「え、あーそれは…」  かがみの言葉にこなたは少し考えた後、真剣な表情をして言った。 「しばらくは両方しない。わたしとしてもあんまり事を大きくしたくないし、なによりつかさを先になんとかしたい」 「…そう、わかったわ」  かがみは少し納得のいかない顔をしながらも、こなたの言葉に頷いた。  放課後。こなたはつかさと二人きりで下校していた。  その方がつかさと話しやすいとこなたは思ったのだが、つかさはずっと暗い表情をしたまま黙っ黙っていて、こなたは話し掛けるきっかけが掴めずにいた。  こなたはつかさに気付かれないように、こっそり後ろの方を見た。念のためにとかがみとみゆきが後をつけてきているはずだが、上手く隠れているのかその姿は確認出来なかった。  こなたはため息をついて視線を前に戻し、そして自分の隣を歩いていたはずのつかさがいない事に気が付いた。 「あ、あれ?つかさ?」  慌てて周囲を見回すと、つかさの姿はすぐに見つかった。いつも通る通学路。その真ん中でつかさは立ち止まっていた。 「こなちゃん。ここ、覚えてる?」  たった一日だというのに、久しぶりに聞いた気がするつかさの声。今までの暗い顔が嘘だったかのように、微笑んでいる。こなたは少しホッとしながら、つかさに近づいた。 「…えーっと、なんかあったっけ?」  周りに特別なものなどなにもない、どう見ても普通の道。こなたが困惑した表情をすると、つかさはクスッと笑った。 「うん。こなちゃんはそうだと思った」 「あれ、なんか馬鹿にされてる?」 「違うよ…ここはね、わたしがこなちゃんに助けてもらった場所。外人さんに道を聞かれて、困ってた時に」 「あー…ここだったんだ。よくこんなに細かい場所まで覚えてたねー」  こなたがそう言うと、つかさは少し目を伏せた。 「うん、覚えてるよ…わたしにとって、ホントに大切な出来事だったから」  二人が友達になったきっかけだったというのなら、こなたにとってもそれは大切な出来事だ。しかし、こなたはなんとなく自分とつかさではその意味が違うような気がしていた。 「ねえこなちゃん。今朝の落書きどう思った?」 「え、どうって…」  急に話を変えられて、こなたは答えに詰まった。 「わたしを…嫌いになったりしないかな?」 「え?」  こなたは驚きに目を見開いた。 「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでわたしがつかさを嫌うんだよ。逆ならわかるけどさ」 「ええっ?」  今度はつかさが驚きに目を見開く。 「それこそわけがらからないよ。こなちゃんを嫌う理由なんて無いよ」 「だってつかさ。あの落書きわたしが書いたって思ってるんじゃ…」 「…あ」  つかさはポカンと口を開けて固まったが、すぐにクスクスと笑いだした。 「思ってないよ、そんなこと。だってこなちゃん違うって言ったもの」 「そ、そう?だったらいいんだけど…」  つかさは笑い終えると、こなたの目をじっと見つめた。何かを決意したような表情。しかしこなたはその中に、諦めのようなものがまじっている気がした。 「こなちゃんに嫌われるって思ったのはね…書いてある事がホントだったからだよ」  一瞬、こなたは何を言われたのか分からなかった。 「…え、今なんて?」  少ししてその意味を理解したものの、そのことにまったく自信がなく、こなたは思わずそう聞いていた。 「わたしね、男の子を好きになったことないけど、女の子を好きになったことはあるの」  こなたはなんと言っていいか分からず、唖然とした表情でつかさの顔を見つめていた。  つかさはこなたの視線に、少し恥ずかしそうに頬を染めて下を向いた。 「えっと、ちょっと違うかな…なったことがあるんじゃなくて今も好きだから」 「え、現在進行系?」 「うん、今も…あの日、あのときからずっと好き。今この瞬間も」  つかさは顔を上げた。その表情を見たこなたは、全てを理解した気がした。 「わたし、こなちゃんが好き。家族を好きとか、友達を好きとか、そんなんじゃなくて…こなちゃんが好き。大好き」  今までに見たことないつかさの表情。赤く染まった頬に、熱っぽく潤んだ目。これは本気だ。こなたの頬を一筋の汗が流れた。 「なんでわたし…ああ、ここで助けたからか」  こなたはつかさの立っている場所の意味を思い出し、納得したように頷いたが、つかさはそのこなたに首を振って見せた。 「ううん、違うよ。こなちゃんを好きになったの、それよりもっと前…こなちゃんは覚えてないかも知れないけど、稜桜に入学して最初にわたしに話しかけてくれたの、こなちゃんなんだよ」 「う…ご、ごめん。ちょっと覚えてないや…」 「うん。そうだと思う。こなちゃんには特別なことじゃないって…でも、わたしは凄く嬉しかった」  そう言いながら、つかさは自分のトレードマークともいえる、頭の大きなリボンをさわった。 「リボン、可愛いねって言ってくれたんだよ…お姉ちゃんにだって子供っぽいって笑われたのに」  こなたは徐々にその時の事を思い出していた。  某ギャルゲのヒロインに似ている髪型だったから思わずじっと見てしまい、目があってしまってとっさにリボンを褒めたのだ。 「今日、ずっとこなちゃんに言おうかなって迷ってたんだけど…うん、ごめん。こんなこと言われても、こなちゃん困るよね」  つかさはそう言いながら微笑んだ…が、すぐに泣きそうな表情に変わる。 「…自分でも分かってるんだよ?おかしいって…でもどうしようもなかったから…こなちゃんに聞いてほしかったから…分かってたのに…変だって…変だって…」  つかさの目からぽろぽろと涙がこぼれはじめた。それを見たこなたはとっさにつかさの手を握っていた。 「待って待ってつかさ。なんか一人で勝手に結論出そうとしてない?」  つかさは握られた自分の手を見て、次にこなたの顔を見た。つかさと目があったこなたは、少しぎこちないながらも笑顔を見せた。 「わたし、まだ何も言ってないじゃん」 「…でも、こなちゃん…」 「そんな一人で勝手に傷つかないでよ。確かにいきなりそんなこと言われて驚いたよ。でも…驚いただけだよ。そんな程度でつかさを嫌いになったりとか悪い方に思ったりしないよ」  つかさはこなたの言葉に俯き、すぐにまた顔を上げた。涙はまだ流れたままだったが、つかさは精一杯の笑顔を見せていた。 「…やっぱり、こなちゃんは優しいね」  こなたは急に気恥ずかしさを覚え、空いた手で頬をかきながらつかさから少し視線を逸らした。 「ほ、惚れなおした?」  そして、思わずそんなことを口走っていた。 「うん…こなちゃんのこともっと好きになったよ」  涙を拭きながら笑顔でそう言うつかさを、こなたはまともに見ることができず、顔を赤らめながら完全に顔を逸らしていた。 「さて、つかさ」  つかさが落ち着いたところで、こなたはつかさの手を握ったままで切り出した。 「う、うん」  つかさは不安げな顔で、こなたの手を強く握り返した。 「正直に言って、わたしソッチの趣味は無いんだよ…えーっと、ソッチのってのは同性でお付き合いするとかそういうの」 「うん…そうだよね」  つかさは手の力を抜いてうなだれた。それを見たこなたは少し苦笑した。 「だからさ、つかさ。わたしを攻略してみてよ」 「…え」  こなたの言葉に、つかさは顔を上げた。 「少しずつでも、わたしがつかさを…その…ソ、ソッチの意味で好きになるようにさ、頑張ってみてくれないかなって…それが、今のわたしの精一杯の答えかな」  つかさは唖然とこなたの顔を見つめていたが、その目からまた涙がこぼれはじめた。それに気づいたつかさは、慌てて服の袖で涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。 「うん!こなちゃん、わたし頑張るよ!」  つかさのその笑顔を、こなたもまた笑顔で見つめていた。 「…出そびれたわ」 「…ですね…というか、とても出られるような雰囲気では…」  こなたとつかさが帰った後、かがみとみゆきは隠れていた場所でため息をつきあった。 「にしても、つかさがこなたを…ねえ…」 「かがみさんは、気がつかれなかったのですか?」  みゆきがそう聞くと、かがみはゆっくりと首を横に振った。 「まったく、よ…双子の姉の癖にド鈍いにもほどがあるわ」  自嘲気味にそう言うかがみにみゆきは何も言えず、こなた達がいた場所に顔を向けた。 「…ねえ、みゆき」 「は、はい?」  急に声をかけられ、みゆきは慌ててかがみの方に向き直った。 「いっそ、わたし達も付き合おっか?」 「えっ!?…そ、それはその…あの…か、かがみさんにはわたしなどよりもっと素敵な方が…い、いえ、それよりまだつかささんと泉さんがお付き合いすると決まったわけでは…」 「…いや…冗談なんだけど…」  予想外のみゆきの慌てぶりに冷や汗を垂らしながらかがみがそう言うと、みゆきの動きがピタリと止まった。 「冗談…そ、そうですよね」  ホッと胸を撫で下ろすみゆきに、かがみが怪訝そうな顔をする。 「えらくホッとしてるわね。もしかして、みゆきはわたしのこと嫌いなの?」 「ち、違います!い、今のはそういう意味では…」 「…冗談よ」  再びそういうかがみに、みゆきは複雑な表情で黙り込んでしまった。 「え、えーっと…ごめん」  流石に罪悪感を覚えたかがみが謝ると、みゆきはそっぽを向いてそのまま歩きだした。 「あ、ちょっと待ってよ。ごめんってば…そんなふて腐れないでよみゆきー」  かがみはみゆきの後を追いながら、ひたすらに謝り続けた。  数日後の放課後。こなたとつかさが並んで歩き、その二人に遠慮するかのように、かがみとみゆきが少し離れた位置を歩いていた。 「えへへ…こなちゃん、今日も綺麗に食べたね」  つかさが心底嬉しそうに、空の弁当箱が入った自分の軽く叩きながらそう言うと、こなたは照れ臭そうに頬をかいた。 「そりゃ、つかさのお弁当おいしいからね。残す気になんかなんないよ」  こなたがそう言うと、今度はつかさが照れながら頭をかいた。 「嬉しいな…ホントに」  少し顔を赤らめながら、俯きかげんでそう呟くつかさ。その可愛いらしい仕種に、こなたは顔が熱くなるのを感じていた。 「そうだこなちゃん。なにかお弁当のリクエストとかあるかな?」  つかさが急に顔を上げてそう聞いてきたので、こなたは顔の熱を冷まそうと自分の頬を軽く叩いた。 「と、特に無いかな…もずくさえ入って無かったら」 「もずく?…あ、そっか。こなちゃん、もずく苦手だったんだよね…そっかー…うーん」  何か真剣に悩み始めたつかさに、こなたはなんとなく嫌な予感を感じていた。 「…お弁当にもずく入れるのは難しいなー…ワンカップのを添える…じゃ味気無いか…」  漏れ聞こえてくるつかさの呟きに、こなたの血の気が一気に引いていった。 「ちょ、ちょっと待ってよつかさ。苦手だって言ってるのに、なんで入れようってことになってるの?」 「ダメだよこなちゃん。好き嫌いはちゃんと治さないと」 「そ、そうだけど、そうだけどさ…」 「みゆきなら良い方法知ってるんじゃない?聞いてみたら?」  なんとかつかさを思い止まらせようと言葉を探すこなたの後ろから、いつの間にか傍にきていたかがみがそう言った。 「あ、そうか、ゆきちゃんだったら…うん、わかった。聞いてくるね」  つかさは嬉しそうに頷くと、みゆきの方へと小走りにかけていった。 「…かがみ、わたしに何か恨みでも?」 「別に…可愛い妹が困っているのを助けるのは、姉としての務めじゃないかしら?」  しれっとそう言うかがみに、こなたは大きなため息をついてみせた。 「ま、冗談よ。ちょっとあんたと二人で話がしたかったのよ」  かがみはそう言いながらこなたの肩を軽く叩き、少し暗い表情で顔を俯かせた。 「…あと、みゆきと二人きりはきついわ」 「…みゆきさん、まだ怒ってるんだ」  かがみがみゆきを怒らせたような事はこなたも聞いていたが、まだ根に持っているとは流石にこなたも思っていなかった。 「ま、まあそれは置いといて…あんたも大胆なことしたわね」 「大胆?」 「自分を攻略しろ、だなんて」 「ああ…うん、まあ…」  こなたは言葉を濁して少し俯いた。 「なんてーか…これって逃げたみたいなもんだよね。つかさに丸投げして、結論先延ばしにした感じでさ」 「…そうね」 「でも、そんな答えになってないような答えでも、つかさは泣いて喜んでくれてさ…自分の得意な料理で頑張ってさ」  こなたはそこで言葉を切って、照れ臭そうに頬をかいた。 「…ちょっと自分の気持ちがわかんなくなってきたよ…もしかしたら、わたしも本気になってきてるのかなーって思ったり…」  こなたの言葉に、かがみは嬉しいような哀しいような、複雑な表情をみせた。 「そ…姉としてはちょっと喜べない部分もあるんだけど…でもまあ、順調そうでなによりだわ」 「さっきの選択肢ミスで、好感度ガクッと下がりましたけどねー」 「ふふ…そうね」  茶化すように言うこなたに、かがみは思わず笑みをこぼしていた。 「どうするつもりか知らないけど、つかさの愛情を無下にするようならわたしがシメるわよ」 「うわ、怖いっすよ姐さん」  そしてお互い軽口をたたきあった後、どちらともなく笑い出していた。 「まあ、ストーキングの事もそうだけど、つかさは変に真っすぐなんだよね」  ひとしきり笑いあった後こなたがそう言うと、かがみは怪訝そうな表情をした。 「…は?ストーキング?つかさが?」 「あ、かがみ知らなかったんだ。えーっと、つかさがわたしのこと好きになったきっかけは知ってるよね?」 「リボン褒めたってのでしょ。それはつかさから聞いたわ」 「うん。で、その後わたしと何とか話ししようとして、放課後とかにわたしの後付け回してたんだってさ」 「…それは…何て言ったらいいんだろ…」 「まあ、なんかされたわけじゃないから、気にしてないけどね。そのおかげで、つかさが外人さんに絡まれたのを助けれたわけだし」 「…偶然じゃなかったんだ…」 「みたいねー」  一途な思いから生まれた事とはいえ、あまりと言えばあまりな妹の奇行に、かがみは大きくため息をついた。 「一時期、一緒に帰らなかった時があったんだけど、そういうことか…あ、そうだこなた」  神妙な顔付きで呟いていたかがみは、突如なにかを思い出しこなたの方に顔を向けた。 「結局、あの落書きは誰の仕業かわかったの?」 「あーあれね…んーわかったっていうか、向こうから名乗り出てきたよ」 「へー。で、誰?」 「同じクラスの女の子」  こなたの答えに、かがみの顔が険しくなった。 「なにそれ?もしかしてイジメ?」 「あーいや、そういうことじゃないんだよ」 「じゃ、どういうことよ」 「えーっと、なんてーか」  こなたは少し言いづらそうにした後、照れ臭そうに鼻の頭をかいた。 「その女の子も、わたしのこと好きだったんだってさ」 「…はあ?」  こなたの言葉に、かがみの目が点になった。 「んでその子、つかさもわたしのこと好きだって気付いたらしくて、それであの落書きをしたんだって…アレ見たつかさがわたしから離れるんじゃないかって」 「なんとまあ…」  かがみは呆れ果てた表情でこなたを見つめていた。 「結果は逆効果だったわけだけど…まあ、本人もかなり反省してたし、不問に付すことにしたよ」 「そう…いや、なんつーか…あんたモテるわね」  かがみがそう言うと、こなたは不快そうに眉間に皺をよせた。 「いや、同性にモテても嬉しくないよ…」  不満そうに言うこなたの後ろを見たかがみは、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。 「…だってさ。つかさ」 「え?」  こなたが振り向くと、そこにはすでに涙目のつかさが立っていた。 「…ご、ごめんねこなちゃん…わたし、やっぱり迷惑…」 「うわーっ!違う違う違いますよつかささん!つかさは別!別だから!…おのれかがみ謀ったなーっ!」 「あーら、なんのことかしら?偶然よ偶然」  なんだか楽しそうにもめはじめた二人を見て、つかさはこなたの言葉が深刻なものでは無いと思い、服の袖で涙を拭った。 「お姉ちゃん。ゆきちゃんが呼んでたよ」  そして、かがみに向かってそう言った。 「え?み、みゆきが?…そ、そう…じゃあ、い、行かないとね…」  それを聞いたかがみは急におどおどしだすと、ぎくしゃくとした動きでみゆきの方に歩いていった。 「…いや、あの二人もどういう関係になってるのやら」  こなたは冷や汗を垂らしながらかがみを見送ると、つかさの方に向き直った。 「で、つかさ、結局もずくの件はどうなったの?」 「んー…えーっとね、好き嫌い無くすためでも、嫌いなものばかり入れるのはダメだと思うんだよ」 「うん」 「それで、こなちゃんの好きなものとあわせてみようかなって」 「わ、わたしの好きな…?」  つかさの言葉に、こなたは凄まじい不安を覚えていた。 「うん。もずくコロネを作ってみようと思うんだ」  こなたはコロネの穴から緑色の物体が垂れてくる様を想像し、顔色を一気に青ざめさせた。 「い、いやいやいやいや!ダメ!それ絶対ダメ!てーか無理!絶対無理だからっ!」 「えー」  こなたは、なかなか諦めてくれないつかさを必死に説得しながら思っていた。  自分が攻略されるのはまだまだ先になりそうだ、と。 - おしまい - **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 告白までの展開が上手いですね。 -- 名無しさん (2013-01-06 20:19:04) - らきすたSSでこんな良作を見れる日がまたくるとは思わなかった。GJ! -- モーリアオイ (2010-05-12 00:24:35) - もずくコロネに吹いたー(wwww -- 名無しさん (2010-05-08 22:34:36) - かわえええwwww &br()こなた×つかさかwwwwこっちの方がらき☆すたらしいカップリングですねwww &br()しかも、何気にかがみ×みゆきのいいカップリングですねwww -- 名無しさん (2010-05-08 18:29:53)
 登校する生徒はほとんどいない、とある日の早朝。 「つかさ、おはよー」  校門前で見知った背中を見かけた泉こなたは、手を振りながら声をかけた。 「ふえ?…え、こなちゃん?」  声をかけられたこなたの友人柊つかさは、振り返ってこなたの姿を見つけると、微笑みながら挨拶を返した。 「おはよ。今日は早いんだね」  こなたは少し早足でつかさの隣に並び、二人は連れだって校舎に向かい歩き出した。 「いやー、なんか日の出前に眼がさめちゃってねー…折角だから、教室一番乗りでもやってみようかと思ってね」 「そうなんだ…わたしだったら、もう一度寝ちゃうな」 「つかさはどうしたの?」 「わたしは日直だよ」 「あ、そういやそうだっけか」  駄弁りながら二人は校舎内へと入り、教室の鍵を取ってくると言うつかさと別れ、こなたは一人で教室へと向かった。 - あの日あのとき -  教室についたこなたは、何となく教室のドアに手をかけてみた。  すると、鍵がかかっているはずのドアがカラカラと開いてしまった。 「ありゃ…鍵かけ忘れかな…」  こなたは呆れながら教室に入ると、後から来るつかさを驚かそうと隠れる場所を探して教室を見回した。  そして、黒板に何か書いてある事に気がついた。 「…なにこれ」  こなたは唖然とした表情で黒板の文字をを眺めていたが、誰も来ない内に消してしまおうと黒板へと近付いた。 「あれ、開いてる?こなちゃん、鍵かかってなかったの?」  そして、黒板消しを手に取ったところで、つかさが教室へと入って来た。 「職員室に鍵ちゃんとあったのにね。昨日の最後の人、だいぶ慌てて…」  そこまで話したところで、つかさの動きが止まった。  つかさの視線の先。こなたが消そうとしている黒板の文字。 『柊つかさは男の子より女の子の方が好き』  大きく書かれたその文字を、つかさは微動だにせずに見つめていた。 「た、質の悪い悪戯だよね…とりあず消すよ…」  こなたは持っていた黒板消しを動かして、文字を跡が残らないように丁寧に消し去った。  こなたが黒板を消し終わっても、つかさはまだそちらの方を見つめたままだった。 「…つかさ?」  少し心配になったこなたが声をかけると、つかさはゆっくりとこなたの方に顔を向けた。 「…これ、書いたのこなちゃん?」  そして、ポツリとそう呟いた。 「ま、まさか!わたしが教室入った時には、もう書いてあったよ!」  こなたが首と手を振りながら否定すると、つかさは顔を伏せて聞き取れない声で何かを呟いて、そのまま自分の席に座ってしまった。  こなたはとりあえず、動きそうにないつかさの代わりに日直の仕事をする事にした。 「…んー」  昼休み。柊かがみは一緒にご飯を食べているこなたとつかさを見ながら、唸り声にも似た言葉を発した。  二人の様子がどうもおかしい。つかさは元気なさそうにずっと俯いているし、こなたはそのつかさを気遣うようにチラチラと視線を送っている。  一緒に食べているもう一人、高良みゆきも様子のおかしさに気付いているのか、二人の顔を交互に見たり、かがみの方をちらっと見たりしていた。 「…ねえ、こなたもつかさもどうしたのよ。なんか変よ?」  場の空気に耐え兼ねたかがみがそう聞くと、こなたはビクッと体を震わせた。つかさはかがみの声が聞こえていないのか、俯いたまま身じろぎ一つしなかった。 「な、なんにもないよ…」  明らかに不審な態度を取るこなたに、かかみはため息をついた。 「こなた。ちょっと来て」  そして、こなたの腕を掴んで無理矢理立たせた。 「え?ちょ、ちょっとかがみ、なに?」 「いいから来なさい」 「わ、わたしまだ食べてる途中…」 「歩きながら食べなさい」  かがみはそのまま、こなたを教室の外まで引きずって行った。  取り残されたみゆきはどうしていいか分からず、相変わらず俯いたままのつかさとかがみ達がでていった教室のドアの方を交互に見ていた。  かがみはこなたを、人のいない廊下の隅まで引っ張ってきた。 「で、何があったの?」  そして、こなたの顔を真正面から見据えてそう聞いた。 「それは…その…」  こなたは言葉を濁しながら顔を背けたが、かがみがその顔を両手で掴んで自分の方へと向き直させた。 「ごまかさずに答えなさい」 「か、かがみ…なんか恐いよ…」  こなたは冷や汗を垂らしながらも、持ってきてしまっていたチョココロネを一口かじった。そして、かがみに言いづらそうに話し出した。 「実は…かがみのせいなんだ」  スパーンッ!という軽快な音と共に、こなたは頭頂部に強い衝撃を受けた。涙目になりながらかがみの方を見ると、手になぜかスリッパを持っていた。 「真面目に答えなさい。今朝家で顔合わせた時は普通だったのよ。そこから昼休みまで会ってないんだから、わたしのせいなわけないじゃない」 「…だよね…ってかそのスリッパなに?」 「こんなこともあろうかと、持ってきといたのよ」 「こんなこと想定しないでよね…いや、やっちゃったけどさ…」  こなたは仕方なくといった風に、今朝あった事をかがみに話した。 「…なるほど」  こなたの話を聞き終わったかがみは、顎に手を当てて考え込んだ。 「多分、つかさはわたしが書いたって思ってるんじゃないかな…」  こなたがそう言うと、かがみは手は顎に当てたままでこなたの方を向いた。 「あんたは違うって言ったんでしょ?」 「うん、そうだけど…」 「あんたは、なにかと信用ないからね」 「ひどっ」 「でも、つかさがこういう事であんたを疑うとは思えないし、わたしもあんたがつかさにシャレで済まないような真似をするとは思ってないわ」 「信用、あるんだかないんだか…」  ため息をつきながら、複雑な表情をするこなた。かがみは少し苦笑したが、すぐに真面目な表情に戻った。 「で、犯人探しはするの?それとも学校側に言っちゃう?」 「え、あーそれは…」  かがみの言葉にこなたは少し考えた後、真剣な表情をして言った。 「しばらくは両方しない。わたしとしてもあんまり事を大きくしたくないし、なによりつかさを先になんとかしたい」 「…そう、わかったわ」  かがみは少し納得のいかない顔をしながらも、こなたの言葉に頷いた。  放課後。こなたはつかさと二人きりで下校していた。  その方がつかさと話しやすいとこなたは思ったのだが、つかさはずっと暗い表情をしたまま黙っ黙っていて、こなたは話し掛けるきっかけが掴めずにいた。  こなたはつかさに気付かれないように、こっそり後ろの方を見た。念のためにとかがみとみゆきが後をつけてきているはずだが、上手く隠れているのかその姿は確認出来なかった。  こなたはため息をついて視線を前に戻し、そして自分の隣を歩いていたはずのつかさがいない事に気が付いた。 「あ、あれ?つかさ?」  慌てて周囲を見回すと、つかさの姿はすぐに見つかった。いつも通る通学路。その真ん中でつかさは立ち止まっていた。 「こなちゃん。ここ、覚えてる?」  たった一日だというのに、久しぶりに聞いた気がするつかさの声。今までの暗い顔が嘘だったかのように、微笑んでいる。こなたは少しホッとしながら、つかさに近づいた。 「…えーっと、なんかあったっけ?」  周りに特別なものなどなにもない、どう見ても普通の道。こなたが困惑した表情をすると、つかさはクスッと笑った。 「うん。こなちゃんはそうだと思った」 「あれ、なんか馬鹿にされてる?」 「違うよ…ここはね、わたしがこなちゃんに助けてもらった場所。外人さんに道を聞かれて、困ってた時に」 「あー…ここだったんだ。よくこんなに細かい場所まで覚えてたねー」  こなたがそう言うと、つかさは少し目を伏せた。 「うん、覚えてるよ…わたしにとって、ホントに大切な出来事だったから」  二人が友達になったきっかけだったというのなら、こなたにとってもそれは大切な出来事だ。しかし、こなたはなんとなく自分とつかさではその意味が違うような気がしていた。 「ねえこなちゃん。今朝の落書きどう思った?」 「え、どうって…」  急に話を変えられて、こなたは答えに詰まった。 「わたしを…嫌いになったりしないかな?」 「え?」  こなたは驚きに目を見開いた。 「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでわたしがつかさを嫌うんだよ。逆ならわかるけどさ」 「ええっ?」  今度はつかさが驚きに目を見開く。 「それこそわけがらからないよ。こなちゃんを嫌う理由なんて無いよ」 「だってつかさ。あの落書きわたしが書いたって思ってるんじゃ…」 「…あ」  つかさはポカンと口を開けて固まったが、すぐにクスクスと笑いだした。 「思ってないよ、そんなこと。だってこなちゃん違うって言ったもの」 「そ、そう?だったらいいんだけど…」  つかさは笑い終えると、こなたの目をじっと見つめた。何かを決意したような表情。しかしこなたはその中に、諦めのようなものがまじっている気がした。 「こなちゃんに嫌われるって思ったのはね…書いてある事がホントだったからだよ」  一瞬、こなたは何を言われたのか分からなかった。 「…え、今なんて?」  少ししてその意味を理解したものの、そのことにまったく自信がなく、こなたは思わずそう聞いていた。 「わたしね、男の子を好きになったことないけど、女の子を好きになったことはあるの」  こなたはなんと言っていいか分からず、唖然とした表情でつかさの顔を見つめていた。  つかさはこなたの視線に、少し恥ずかしそうに頬を染めて下を向いた。 「えっと、ちょっと違うかな…なったことがあるんじゃなくて今も好きだから」 「え、現在進行系?」 「うん、今も…あの日、あのときからずっと好き。今この瞬間も」  つかさは顔を上げた。その表情を見たこなたは、全てを理解した気がした。 「わたし、こなちゃんが好き。家族を好きとか、友達を好きとか、そんなんじゃなくて…こなちゃんが好き。大好き」  今までに見たことないつかさの表情。赤く染まった頬に、熱っぽく潤んだ目。これは本気だ。こなたの頬を一筋の汗が流れた。 「なんでわたし…ああ、ここで助けたからか」  こなたはつかさの立っている場所の意味を思い出し、納得したように頷いたが、つかさはそのこなたに首を振って見せた。 「ううん、違うよ。こなちゃんを好きになったの、それよりもっと前…こなちゃんは覚えてないかも知れないけど、稜桜に入学して最初にわたしに話しかけてくれたの、こなちゃんなんだよ」 「う…ご、ごめん。ちょっと覚えてないや…」 「うん。そうだと思う。こなちゃんには特別なことじゃないって…でも、わたしは凄く嬉しかった」  そう言いながら、つかさは自分のトレードマークともいえる、頭の大きなリボンをさわった。 「リボン、可愛いねって言ってくれたんだよ…お姉ちゃんにだって子供っぽいって笑われたのに」  こなたは徐々にその時の事を思い出していた。  某ギャルゲのヒロインに似ている髪型だったから思わずじっと見てしまい、目があってしまってとっさにリボンを褒めたのだ。 「今日、ずっとこなちゃんに言おうかなって迷ってたんだけど…うん、ごめん。こんなこと言われても、こなちゃん困るよね」  つかさはそう言いながら微笑んだ…が、すぐに泣きそうな表情に変わる。 「…自分でも分かってるんだよ?おかしいって…でもどうしようもなかったから…こなちゃんに聞いてほしかったから…分かってたのに…変だって…変だって…」  つかさの目からぽろぽろと涙がこぼれはじめた。それを見たこなたはとっさにつかさの手を握っていた。 「待って待ってつかさ。なんか一人で勝手に結論出そうとしてない?」  つかさは握られた自分の手を見て、次にこなたの顔を見た。つかさと目があったこなたは、少しぎこちないながらも笑顔を見せた。 「わたし、まだ何も言ってないじゃん」 「…でも、こなちゃん…」 「そんな一人で勝手に傷つかないでよ。確かにいきなりそんなこと言われて驚いたよ。でも…驚いただけだよ。そんな程度でつかさを嫌いになったりとか悪い方に思ったりしないよ」  つかさはこなたの言葉に俯き、すぐにまた顔を上げた。涙はまだ流れたままだったが、つかさは精一杯の笑顔を見せていた。 「…やっぱり、こなちゃんは優しいね」  こなたは急に気恥ずかしさを覚え、空いた手で頬をかきながらつかさから少し視線を逸らした。 「ほ、惚れなおした?」  そして、思わずそんなことを口走っていた。 「うん…こなちゃんのこともっと好きになったよ」  涙を拭きながら笑顔でそう言うつかさを、こなたはまともに見ることができず、顔を赤らめながら完全に顔を逸らしていた。 「さて、つかさ」  つかさが落ち着いたところで、こなたはつかさの手を握ったままで切り出した。 「う、うん」  つかさは不安げな顔で、こなたの手を強く握り返した。 「正直に言って、わたしソッチの趣味は無いんだよ…えーっと、ソッチのってのは同性でお付き合いするとかそういうの」 「うん…そうだよね」  つかさは手の力を抜いてうなだれた。それを見たこなたは少し苦笑した。 「だからさ、つかさ。わたしを攻略してみてよ」 「…え」  こなたの言葉に、つかさは顔を上げた。 「少しずつでも、わたしがつかさを…その…ソ、ソッチの意味で好きになるようにさ、頑張ってみてくれないかなって…それが、今のわたしの精一杯の答えかな」  つかさは唖然とこなたの顔を見つめていたが、その目からまた涙がこぼれはじめた。それに気づいたつかさは、慌てて服の袖で涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。 「うん!こなちゃん、わたし頑張るよ!」  つかさのその笑顔を、こなたもまた笑顔で見つめていた。 「…出そびれたわ」 「…ですね…というか、とても出られるような雰囲気では…」  こなたとつかさが帰った後、かがみとみゆきは隠れていた場所でため息をつきあった。 「にしても、つかさがこなたを…ねえ…」 「かがみさんは、気がつかれなかったのですか?」  みゆきがそう聞くと、かがみはゆっくりと首を横に振った。 「まったく、よ…双子の姉の癖にド鈍いにもほどがあるわ」  自嘲気味にそう言うかがみにみゆきは何も言えず、こなた達がいた場所に顔を向けた。 「…ねえ、みゆき」 「は、はい?」  急に声をかけられ、みゆきは慌ててかがみの方に向き直った。 「いっそ、わたし達も付き合おっか?」 「えっ!?…そ、それはその…あの…か、かがみさんにはわたしなどよりもっと素敵な方が…い、いえ、それよりまだつかささんと泉さんがお付き合いすると決まったわけでは…」 「…いや…冗談なんだけど…」  予想外のみゆきの慌てぶりに冷や汗を垂らしながらかがみがそう言うと、みゆきの動きがピタリと止まった。 「冗談…そ、そうですよね」  ホッと胸を撫で下ろすみゆきに、かがみが怪訝そうな顔をする。 「えらくホッとしてるわね。もしかして、みゆきはわたしのこと嫌いなの?」 「ち、違います!い、今のはそういう意味では…」 「…冗談よ」  再びそういうかがみに、みゆきは複雑な表情で黙り込んでしまった。 「え、えーっと…ごめん」  流石に罪悪感を覚えたかがみが謝ると、みゆきはそっぽを向いてそのまま歩きだした。 「あ、ちょっと待ってよ。ごめんってば…そんなふて腐れないでよみゆきー」  かがみはみゆきの後を追いながら、ひたすらに謝り続けた。  数日後の放課後。こなたとつかさが並んで歩き、その二人に遠慮するかのように、かがみとみゆきが少し離れた位置を歩いていた。 「えへへ…こなちゃん、今日も綺麗に食べたね」  つかさが心底嬉しそうに、空の弁当箱が入った自分の軽く叩きながらそう言うと、こなたは照れ臭そうに頬をかいた。 「そりゃ、つかさのお弁当おいしいからね。残す気になんかなんないよ」  こなたがそう言うと、今度はつかさが照れながら頭をかいた。 「嬉しいな…ホントに」  少し顔を赤らめながら、俯きかげんでそう呟くつかさ。その可愛いらしい仕種に、こなたは顔が熱くなるのを感じていた。 「そうだこなちゃん。なにかお弁当のリクエストとかあるかな?」  つかさが急に顔を上げてそう聞いてきたので、こなたは顔の熱を冷まそうと自分の頬を軽く叩いた。 「と、特に無いかな…もずくさえ入って無かったら」 「もずく?…あ、そっか。こなちゃん、もずく苦手だったんだよね…そっかー…うーん」  何か真剣に悩み始めたつかさに、こなたはなんとなく嫌な予感を感じていた。 「…お弁当にもずく入れるのは難しいなー…ワンカップのを添える…じゃ味気無いか…」  漏れ聞こえてくるつかさの呟きに、こなたの血の気が一気に引いていった。 「ちょ、ちょっと待ってよつかさ。苦手だって言ってるのに、なんで入れようってことになってるの?」 「ダメだよこなちゃん。好き嫌いはちゃんと治さないと」 「そ、そうだけど、そうだけどさ…」 「みゆきなら良い方法知ってるんじゃない?聞いてみたら?」  なんとかつかさを思い止まらせようと言葉を探すこなたの後ろから、いつの間にか傍にきていたかがみがそう言った。 「あ、そうか、ゆきちゃんだったら…うん、わかった。聞いてくるね」  つかさは嬉しそうに頷くと、みゆきの方へと小走りにかけていった。 「…かがみ、わたしに何か恨みでも?」 「別に…可愛い妹が困っているのを助けるのは、姉としての務めじゃないかしら?」  しれっとそう言うかがみに、こなたは大きなため息をついてみせた。 「ま、冗談よ。ちょっとあんたと二人で話がしたかったのよ」  かがみはそう言いながらこなたの肩を軽く叩き、少し暗い表情で顔を俯かせた。 「…あと、みゆきと二人きりはきついわ」 「…みゆきさん、まだ怒ってるんだ」  かがみがみゆきを怒らせたような事はこなたも聞いていたが、まだ根に持っているとは流石にこなたも思っていなかった。 「ま、まあそれは置いといて…あんたも大胆なことしたわね」 「大胆?」 「自分を攻略しろ、だなんて」 「ああ…うん、まあ…」  こなたは言葉を濁して少し俯いた。 「なんてーか…これって逃げたみたいなもんだよね。つかさに丸投げして、結論先延ばしにした感じでさ」 「…そうね」 「でも、そんな答えになってないような答えでも、つかさは泣いて喜んでくれてさ…自分の得意な料理で頑張ってさ」  こなたはそこで言葉を切って、照れ臭そうに頬をかいた。 「…ちょっと自分の気持ちがわかんなくなってきたよ…もしかしたら、わたしも本気になってきてるのかなーって思ったり…」  こなたの言葉に、かがみは嬉しいような哀しいような、複雑な表情をみせた。 「そ…姉としてはちょっと喜べない部分もあるんだけど…でもまあ、順調そうでなによりだわ」 「さっきの選択肢ミスで、好感度ガクッと下がりましたけどねー」 「ふふ…そうね」  茶化すように言うこなたに、かがみは思わず笑みをこぼしていた。 「どうするつもりか知らないけど、つかさの愛情を無下にするようならわたしがシメるわよ」 「うわ、怖いっすよ姐さん」  そしてお互い軽口をたたきあった後、どちらともなく笑い出していた。 「まあ、ストーキングの事もそうだけど、つかさは変に真っすぐなんだよね」  ひとしきり笑いあった後こなたがそう言うと、かがみは怪訝そうな表情をした。 「…は?ストーキング?つかさが?」 「あ、かがみ知らなかったんだ。えーっと、つかさがわたしのこと好きになったきっかけは知ってるよね?」 「リボン褒めたってのでしょ。それはつかさから聞いたわ」 「うん。で、その後わたしと何とか話ししようとして、放課後とかにわたしの後付け回してたんだってさ」 「…それは…何て言ったらいいんだろ…」 「まあ、なんかされたわけじゃないから、気にしてないけどね。そのおかげで、つかさが外人さんに絡まれたのを助けれたわけだし」 「…偶然じゃなかったんだ…」 「みたいねー」  一途な思いから生まれた事とはいえ、あまりと言えばあまりな妹の奇行に、かがみは大きくため息をついた。 「一時期、一緒に帰らなかった時があったんだけど、そういうことか…あ、そうだこなた」  神妙な顔付きで呟いていたかがみは、突如なにかを思い出しこなたの方に顔を向けた。 「結局、あの落書きは誰の仕業かわかったの?」 「あーあれね…んーわかったっていうか、向こうから名乗り出てきたよ」 「へー。で、誰?」 「同じクラスの女の子」  こなたの答えに、かがみの顔が険しくなった。 「なにそれ?もしかしてイジメ?」 「あーいや、そういうことじゃないんだよ」 「じゃ、どういうことよ」 「えーっと、なんてーか」  こなたは少し言いづらそうにした後、照れ臭そうに鼻の頭をかいた。 「その女の子も、わたしのこと好きだったんだってさ」 「…はあ?」  こなたの言葉に、かがみの目が点になった。 「んでその子、つかさもわたしのこと好きだって気付いたらしくて、それであの落書きをしたんだって…アレ見たつかさがわたしから離れるんじゃないかって」 「なんとまあ…」  かがみは呆れ果てた表情でこなたを見つめていた。 「結果は逆効果だったわけだけど…まあ、本人もかなり反省してたし、不問に付すことにしたよ」 「そう…いや、なんつーか…あんたモテるわね」  かがみがそう言うと、こなたは不快そうに眉間に皺をよせた。 「いや、同性にモテても嬉しくないよ…」  不満そうに言うこなたの後ろを見たかがみは、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。 「…だってさ。つかさ」 「え?」  こなたが振り向くと、そこにはすでに涙目のつかさが立っていた。 「…ご、ごめんねこなちゃん…わたし、やっぱり迷惑…」 「うわーっ!違う違う違いますよつかささん!つかさは別!別だから!…おのれかがみ謀ったなーっ!」 「あーら、なんのことかしら?偶然よ偶然」  なんだか楽しそうにもめはじめた二人を見て、つかさはこなたの言葉が深刻なものでは無いと思い、服の袖で涙を拭った。 「お姉ちゃん。ゆきちゃんが呼んでたよ」  そして、かがみに向かってそう言った。 「え?み、みゆきが?…そ、そう…じゃあ、い、行かないとね…」  それを聞いたかがみは急におどおどしだすと、ぎくしゃくとした動きでみゆきの方に歩いていった。 「…いや、あの二人もどういう関係になってるのやら」  こなたは冷や汗を垂らしながらかがみを見送ると、つかさの方に向き直った。 「で、つかさ、結局もずくの件はどうなったの?」 「んー…えーっとね、好き嫌い無くすためでも、嫌いなものばかり入れるのはダメだと思うんだよ」 「うん」 「それで、こなちゃんの好きなものとあわせてみようかなって」 「わ、わたしの好きな…?」  つかさの言葉に、こなたは凄まじい不安を覚えていた。 「うん。もずくコロネを作ってみようと思うんだ」  こなたはコロネの穴から緑色の物体が垂れてくる様を想像し、顔色を一気に青ざめさせた。 「い、いやいやいやいや!ダメ!それ絶対ダメ!てーか無理!絶対無理だからっ!」 「えー」  こなたは、なかなか諦めてくれないつかさを必死に説得しながら思っていた。  自分が攻略されるのはまだまだ先になりそうだ、と。 - おしまい - **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - とても読みやすくて、面白かったです! -- チャムチロ (2014-03-24 23:10:30) - 告白までの展開が上手いですね。 -- 名無しさん (2013-01-06 20:19:04) - らきすたSSでこんな良作を見れる日がまたくるとは思わなかった。GJ! -- モーリアオイ (2010-05-12 00:24:35) - もずくコロネに吹いたー(wwww -- 名無しさん (2010-05-08 22:34:36) - かわえええwwww &br()こなた×つかさかwwwwこっちの方がらき☆すたらしいカップリングですねwww &br()しかも、何気にかがみ×みゆきのいいカップリングですねwww -- 名無しさん (2010-05-08 18:29:53)

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