「ID:8kz2AIM0氏:アニ研部長後任問題」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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アニ研部室。
「ひよりん」
「なんスか、先輩」
「そろそろ、私の後任の部長を決めなきゃいけないんだけど」
「ああ、もうそんな時期っスね」
「ひよりんで決まりだから」
「えっ、なぜっスか!? 私は部長なんて向かないっスよ!」
「まあ、そうなんだけどさ。今の二年部員に部長向きの人材ってそもそもいないんだよね」
「なら、せめてアミダとか……」
「それでもいいんだけどさ。でも、この部ってなんつーかみんな自由すぎて規律がゆるいっていうかそんな感じだから、せめて熱意っていうほど大げさでもないけどそんなのがある人間じゃないと、部長は務まんないかなぁってね」
「でも、私じゃこうちゃん先輩の後釜なんて務まらないっスよ」
今まではこうの統率力があったからこそ、このゆるゆるの部もなんとかまとまってきたというところはある。
その後任となると、今の二年部員は誰もが力量不足だった。
かといって、学校の部組織として部長なしというわけにはいかない。
となれば、少しでもマシな人材をあてるしかなく、そうなるとひよりが筆頭があがるのも、仕方のないところであった。
なんだかんだいっても、今の二年部員でアニ研の活動に一番熱心に取り組んでいるのは彼女なのだ。
「嫌なら、ひよりんのクラスの委員長を引っ張り込むんだね。あの若瀬さんなら適任だよ。これは毒さんも同意見」
「う~……」
確かにいずみは適任だった。こうとは全く違うタイプだが、学級委員長としての仕事ぶりには申し分なく、部長としてもうまくやっていけるだろう。
でも、彼女は隠れオタ。無理やりアニ研に引っ張り込むのは、気が引ける。
オタクの目から見れば、彼女が隠れオタなのはバレバレだったが、少なくても一般人にはまだバレてはいないから。
「八坂。少しは田村にも考えさせてやれ」
顧問のひかるがそう発言した。
「まっ、そういうわけだから、前向きに考えてくれよ」
こうはひよりの肩を軽く叩くと部室をあとにした。
翌日、昼休み。
お弁当を食べながら、ひよりは上の空だった。
「田村さん、どうしたの?」
「何か悩み事でも?」
ゆたかとみなみが心配そうにひよりを見る。
「まあ、悩み事といえば悩み事かな……」
ひよりは、事情を話した。
「Oh! ヒヨリがブチョウでスか。ダイシュッセね!」
バティがズレた感想を述べる。
「いや、部活は会社じゃないから」
いっそのこと、このパティを引っ張り込んでしまえば解決するのかもしれないが、いくら何でも途中でいなくなってしまうことが確実な留学生を部長に据えるわけにもいかない。
「ひよりなら大丈夫だと思う」
みなみがそう言った。
「でも、私じゃ八坂先輩みたいにはいかないし……」
「何もかも八坂先輩のようにする必要はないと思う。ひよりはひよりなりのやり方でやればいい」
「そうだよ、田村さん。田村さんは、ええっと……いろんな人とうまく付き合っていけるっていうか、そういう人だから、うまくやれると思うよ?」
確かに、自分がこうのようにやれるわけはない。
自分は自分なりのやり方でやるしかないのだろう。
「ジブンにジシンをモちましょう!」
パティに背中を叩かれた。
「痛いよ、パティ」
「アイのムチね」
「それ意味不明だから」
でも、なんとなく決心はついた。
「みんな、ありがとう」
ひよりは、お弁当を食べ終わると、3年C組に向かった。
数ヵ月後、アニ研部室。
「おっす、ひよりん。久しぶり」
「あっ、こうちゃん先輩、お久しぶりっス。今日は、どうしてこちらに?」
卒業式があったのは一週間前。
何か用事がなければ、こうがこの学校に来る必要性はない。
「ようやく大学決まったから、担任に報告してきたところ」
「おめでとうございますっス」
「やさこ、決まったんだ。オメデト」
制服姿のたまきが、さも当然といった態度でそこにいた。
「よかったじゃん」
そして、その隣では、同じく制服姿のみくが本を読んでいる。
たまきとみくは、推薦で早々に進路が決まっていた。
そして、このゆるゆるの部活は、三年部員の引退という概念があいまいだ。
よって、二人は、以前と変わらず放課後はアニ研部室に入り浸り、それは卒業しても変わることがなかった。
顧問のひかるがその辺に寛容だということもあって、そんな状況が続いていた。
「ひよりんも部長としてなんとかやってるみたいだな」
「それなりに何とかなってるっス」
部誌原稿のスケジュール管理さえ何とかやれば、あとはほぼ自由放任でもどうにかなる。アニ研はもともとそんな部活だ。
その部誌原稿で四苦八苦してるというのは、相変わらずのことだけど。
それから、ひよりとこうとたまきで久しぶりに雑談しながら、時をすごした。
翌日以降、たまきもみくも、そしてこうも、部室に来ることはなかった。
ひよりは、そのとき初めて、三人がもう卒業してしまったのだということを明確に認識した。
終わり
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