ID:zSZd+C1n氏:良き日

「ID:zSZd+C1n氏:良き日」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ID:zSZd+C1n氏:良き日」(2014/03/18 (火) 22:38:17) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「ほい、みゆきさんおまたせ」  そう言いながら泉こなたは最後の皿をテーブルに置き、椅子に座って待機していた高良みゆきの正面に座った。 「いえ…」 「おせちの余りくらいしかなかったけど、良かったかな?すぐに食べれそうなのってこれくらいだったからさ」 「あ、はい。十分です」  みゆきはテーブルに並べられた皿を見た。ピザやスパゲッティにローストチキン。以前こなたから聞いたことあるとおりの、洋風おせちだ。ナイフやフォークではなくお箸が付いている辺りが日本人なんだなと、みゆきはおかしなことを考えてしまっていた。 「あ、あの…泉さんは、食べないのですか?」 「わたし?…んー、さっき食べたばかりだからねー」 「そうですか…」  食べづらそうにしているみゆきにこなたは少し困った顔をすると、手近にあった小皿に料理を少し取り分けた。 「ま、折角だし少し食べるよ」 「…すいません」  こなたのその行為を、一人で食事をすることに躊躇してる自分への気遣いだと感じたみゆきは、こなたに向かって軽く頭を下げた。 「これでかがみみたいに太ったら、みゆきさんのせいだからね」 「そ、それは…えと…いただきます」  自分の気遣いを茶化すこなたの言葉に、みゆきは誤魔化すように手を合わせ、箸を手に取り料理を口に運んだ。 「…おいしい」  思わず出た感嘆の言葉。それに答えるように、こなたは得意げに腕を組んでいた。 「でも…ほんとにすいません…急に押しかけてきた上に、こうして食事までいただいて…」  料理を口に運びながらも器用に喋るみゆきに、こなたは手を振って見せた。 「いやいや、こういう奇抜なお正月も良いもんだよ」 「…奇抜ですか、わたし…」  そう言いながらも、みゆき自身これほどおかしな正月は無かったなと、ピザをかじりながら思っていた。 ― 良き日 ―  一月二日。正午を少し過ぎた頃。こなたは今日一日部屋で積みゲーの消化をすると決め、そのとおりに実行していた。  初詣やお年玉といった主な正月行事は元旦に済ませてある。それに父であるそうじろうは出版関係のパーティーに出かけていて帰りは遅くなり、居候の小早川ゆたかとパトリシア・マーティンは友人の家に泊まりに行っていて帰ってくるのは明日になる。  つまり今日一日家にはこなた一人であり、なんの気兼ねもなく積みゲーの消化に当たれるということだ。  ちなみにいつも気兼ねをしているのは、やっているのが十八歳未満は購入禁止の代物、つまるところのエロゲーだからだ。 「…んふふー、いーねー…こりゃ当たりだ」  自分が女子大生である事を忘れたようなエロオヤジ目線で画面を見ているこなたの耳に、玄関のインターホンのなる音が聞こえた。 「んもー、誰だよ。いいところなのにー」  そう文句を言いながら、こなたは念のためにセーブをしてモニターのスイッチを切って玄関に向かった。 「あ、あれー?みゆきさん?」 「明けましておめでとうございます。泉さん」  玄関のドアを開けたこなたが見たのは、晴れ着姿で深々とお辞儀をするみゆきだった。 「あ、うん、おめでとう…ってかどうしたのみゆきさん?田舎に帰ってたんじゃ…」 「えっと…それがその…ふらっと戻ってきちゃいました」 「えー」  舌を出しながら『えへっ』という台詞が似合いそうな顔ではにかむみゆきに、こなたはなんとも言えない表情をするしかなかった。  とりあえずこなたはみゆきを自分の部屋に通した。部屋の真ん中辺りに敷いた座布団にちょこんと座り込む晴れ着のみゆきは、ちょっとした日本人形のようだな、とこなたは思った。 「でも元旦は向こうに居たよね?メールにそういうこと書いてたし」  先ほどゲームをしていた時に使っていた椅子に座ったこなたが、ベッドの上に放りっぱなしの携帯を見ながらそう言うと、みゆきは頷いて見せた。 「はい、そうです」 「えらく早く帰ってこれたねー。飛行機でも使ったの?」 「いえ、夜行バスを利用しました」 「夜行ってそりゃまた…ってかその格好で?」 「はい、そうですけど」  そのバスに乗り合わせてた人には、さぞ違和感のある光景だっただろうと、こなたはみゆきを眺めながら思った。 「それでですね、戻ってきたのは良いんですが、家の鍵を持っていないことに気がつきまして、携帯も忘れてきたらしくどうしましょうってなりまして…」 「それでわたしんちに?」 「…はい」  あきれ果てたと言わんばかりのこなたの視線に、みゆきは顔を赤くして身を縮ませた。 「真っ先にわたしんちって事は、わたし相当暇してると思われてるんだねー」 「い、いえそういうわけでは…ただつかささん達は三日までは神社のお手伝いでお忙しいでしょうから…」 「だから暇なわたしの所に来た?」 「あ、いえ、それは…その…すいません…」  しおしおと縮んでいくみゆきを見て、こなたはとりあえずゲームを中断させられた事への意趣返しはできたと満足そうに頷いた。そして、ふと思いつくことがあった。 「そういや、みなみちゃんちには行かなかったの?ゆーちゃん達が泊まりに行ってるから、いると思うんだけど」  こなたがそう言うと、みゆきは目をぱちくりとさせ、しばらくポカンとした表情をしたあと「…あ」とだけ呟いた。  二人の間に部屋の中だというのに冷たい風が吹いたような気がした。 「…みなみちゃんが聞いたらどう思うだろ、コレ」 「…すいません、この事はどうかみなみさんにはご内密に…」  これ以上はないというほどに縮んでしまったみゆきから視線を逸らし、こなたは溜息をついた。と、そのこなたの耳にクーッと小さな音が聞こえた。みゆきに視線を戻してみると、みゆきは真っ赤な顔でお腹のあたりを押さえていた。 「…今の、みゆきさん?」 「あ、いや、その…すいません…昨日の晩から何も食べてなくて…」 「…お腹の音まで可愛いなあ、この人は」  こなたは頬をかきながらみゆきを眺めた。呆れられてると思ったのか、みゆきはますます顔を赤くして身を縮める。 「みゆきさん。お腹空いてるなら、なんか食べる?」 「え、あ、えと…」  みゆきは迷うように視線を泳がせた。 「…はい」  そして、小さく頷いた。 「…ごちそうさまでした」  みゆきが箸をおいて手を合わせる向かいで、こなたはあんぐりと口をあけていた。 「お粗末さまでした…ってか、みゆきさんよく食べたねー」  お節のあまりとはいえ、それなりの量があったはずなのだが、テーブルの上の皿はすっかり空になっていた。こなたも一緒に食べてはいたが、付き合い程度に少し食べただけで、ほとんどみゆき一人で食べたようなものだった。 「す、すいません…食べ始めたら止まらなくなりまして…」 「いや、謝ることじゃないと思うよ」  そう言いながら、こなたは立ち上がってテーブルの上の皿を片付け始めた。それを見て、みゆきも立ち上がる。 「あ、手伝います」 「いやいや、みゆきさんはお客なんだから、部屋に戻って待っててよ」  皿に手を伸ばそうとするみゆきを制して、こなたは片手に重ねた皿を持ったまま、空いた手でみゆきを部屋の外へと押しやった。 「で、でも…」  少しばかりみゆきは抵抗したが、部屋の外に追いやられたころには諦めたのか、そのままこなたの部屋へと向かった。 「やれやれ、わたしの友達は手伝いたがりさんが多いなー。任せるところは任せてくれればいいのに」  そう呟いてから、こなたは自分の胸の辺りを見た。 「…ま、信用ないからだろうけど、ね」  そして溜息をつくと、こなたは持っていた皿とテーブルに残っている皿を流しに入れ、冷蔵庫から白い液体の入ったビニール袋を出してきて、鍋に入れて火にかけた。 「さて、みゆきさんが猫舌ってのは聞いたこと無いけど…あんまり熱くしないでおこうかなっと」  鍋の中の液体が温まるにつれ、キッチンに甘い香りが広がっていく。こなたは頃合を見て、その液体…甘酒を二つの湯飲みに分けて入れた。  お盆の上の湯飲みが揺れないように、こなたは慎重に階段を下りていく。 「…ととっ…ちょっと入れすぎたかなこりゃ…」  階段を下りきり、自分の部屋の方を向いたときに、こなたの耳に声が聞こえた。そして、その瞬間にこなたの動きがぴたりと止まった。 「…ま…さ…か…」  聞こえてくるみゆきとは違う声。この家には、今こなたとみゆき以外の人間はいないはず。しかし、こなたにはその声に心当たりがある。 「…こりゃまずった…」  こなたは走り出したい衝動に駆られたが、持っている甘酒を放り出すわけにもいかず、ゆっくりと自分の部屋に向かった。  こなたが器用に足だけで部屋の扉を開け中に入ると、予想していた通りの光景が目の前にあった。  みゆきがこなたのパソコンのモニターを真っ赤な顔をしたまま食い入るように見つめているのだ。画面に映っているのは、先ほどこなたが放置していたゲームのエロシーン。聞こえてきていたのは、その女性キャラのエッチな声だ。  こなたは部屋にある座卓の上に持っていたお盆を置くと、みゆきの背後に立った。 「…みゆきさん。熱中してるとこ悪いんだけど…ちょっといいかな?」  こなたが出来るだけ優しくそう声をかけると、みゆきはビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこなたの方へ振り向いた。 「あ…いえ…あの…これは…その…」 「うん、電源切らずにほったらかしにしてた、わたしのせいだから…とりあえず、切っとくね」  こなたはみゆきが手放したマウスを握って、パソコンの電源を落とした。その間にみゆきはその場を離れ、床の上に正座をし、そのまま顔を両手で隠して突っ伏してしまった。 「みゆきさん、大丈夫…?」 「…出来ればこのまま消えてしまいたいです…」  本当に消えてしまうんじゃないかと思うほどのか細い声で呟くみゆきを、こなたはなんとも言えない表情で見つめた。 「ま、まあとりあえず、甘酒でも飲んで落ち着こうよ…」  そして、座卓の近くに座って、そこに置いてあった湯飲みを手に取り、みゆきに勧めた。 「…すいません…なんていうか、色々と…」  恐縮しながらこなたの傍に座り、湯飲みを受け取るみゆき。 「…良い香りですね…」  そこから立ち上る甘い香りに、思わずほっとした表情を浮かべる。それを見たこなたも、安堵の表情を見せた。 「ちょっとぬるかったかな?」  一口飲んだこなたがそう言うと、同じく一口飲んだみゆきが首を振った。 「いえ、丁度良いですよ」 「そか、じゃ良かった」  言いながらこなたは湯飲みに口をつけた。 「初めて飲みましたけど、甘酒って美味しいんですね」 「…へ?」  感心したように呟くみゆきに、こなたは驚いた顔をした。 「みゆきさん、飲んだこと無いの?」 「はい。実家でふるまわれてはいるのですが、なぜかわたしは飲むのを止められてまして…」 「ふーん」  何か理由があるんだろうか。だとしたら飲ませたのはまずかったかな。こなたはそんなことを考えたが、飲ませてしまったものはしょうがないと開き直った。  二人とも湯飲みの半分ほど飲み終わった辺りで、こなたはみゆきが甘酒を飲むのを止められる理由を知った。 「…ふぃー」  大きく溜息をつきながら、ゆらゆらと左右に揺れるみゆき。要するに酔っているのだ。 「甘酒で酔うなんて、漫画の中だけかと思ってたよ…」  飲んだことが無いというのは、飲んでるときの記憶が無いんだろうななどとこなたが思っていると、気持ちよさそうに揺れていたみゆきが真っ直ぐこっちを見ていることに気がついた。 「どしたの、みゆきさん?」 「泉さん。ぐだぐだです」  開口一番わけがわからなかった。 「え、えっと…なにが?」 「わたしがです。泉さんの家に来てから変なことばかりしてます。恥ずかしいかぎりです」  言いながらみゆきは湯飲みを座卓の上に置き、四つんばいでこなたに近づいていった。 「い、いや、珍しいみゆきさんが見れたし、特に問題ないかと…」  何か危険な予感を感じたこなたも、湯飲みを座卓の上に置いた。それを見計らったように、みゆきがこなたの腰の辺りに抱きついてきた。 「そーですよねー。泉さんはそーいうんです。お優しいですから、泉さんはー」  そのまま甘えるようにお腹の辺りに顔を擦り付けてくるみゆきに、こなたはどうしていいかわからずされるがままになっていた。 「でもそれじゃダメなんですよー。わたしはもっとしっかりしなきゃダメなんですー」 「そ、それはどうして…?」 「でないと、泉さん頼ってくれないじゃないですかー」 「ふぇ?」  みゆきの言ってることがわからず、こなたは首をかしげた。 「わたし知ってますよー。泉さん、高校の時にかがみさんに宿題を写させてももらったりしてたでしょー」 「う、うん…」 「どうしてわたしじゃダメだったんですかー?確かにかがみさんはしっかりしてますし、頼りがいがありますけど、わたしだって宿題くらいちゃんとしてましたよー」 「い、いや、それはなんていうか…」 「もーそんな意地悪する泉さんは、こなたさんって呼んじゃいますよー」 「脈絡が無さ過ぎる!」  突っ込むこなたを無視しみゆきは体を起こすと、こなたの首に右手を回し、左手の人差し指でこなたの鼻の頭をつんつんとつつき始めた。 「ほらほらー呼んじゃいますよー。こなたさんーって」 「いや、もう呼んでるんじゃ…うん、もう好きにして」  諦めの境地で呟くこなたに、みゆきは嬉しくてしょうがないという風な笑顔を見せた。 「ふふふー…こ・な・た・さ・ん」  一言ずつ区切ってそう呼ぶと、みゆきは両手でこなたを突き飛ばし、両手で顔を覆っていやいやと首を振った。 「いやーん、もう。恥ずかしいですー」 「…わたしは痛いよ、みゆきさん」  扉の側の壁まで転がったこなたは、ゆっくりと体を起こしながら今のみゆきをどう止めようか考え始めた。と、唐突にこなたの横の扉が開き、誰かが部屋の中に入ってきた。 「あ、はっぴーにゅーいやー!こなた元気ー!?」  そう元気よく大声を上げながら入ってきたのは、巫女服を着たかがみだった。 「ってー新年の挨拶は昨日したじゃなーい」  自分で突っ込みを入れた後、かがみはみゆきに近づいていった。 「なにーこなた晴れ着?お正月だからおめかし?結構似合ってるわねー」  そして、みゆきの首に腕を回しながらそう言った。 「かがみさーん。わたしはみゆきですよー」  みゆきがそれにほわほわと答える。 「いや、かがみ、わたしこっちだから…ってかもしかして酔ってる?」  こなたが突っ込みながら良く見ると、かがみの顔は真っ赤で表情はトロンとしていた。かがみはこなたを見て目をパチクリさせると、 「あー、そっちがこなた。んじゃー…ゆたかちゃん、ちょっと見ないうちに大きくなったわねー。もうこなた抜かしてるんじゃないー?」 「かがみさーん。わたしはみゆきですよー」 「…だめだこりゃ」  呆れた口調で額に手を当てて天井を見上げるこなた。そのこなたの傍に、かがみが近づいてきた。 「こなた、こなたー」 「ん、なに?」 「コレおかわりー」  かがみは手に持った湯飲みを揺らしながらそう聞いてきた。 「…それわたしの甘酒…」 「こなたさーん、わたしもおかわりー」 「…へいへい…」  こなたは溜息をついて、空になった二つの湯飲みをお盆に乗せた。 「泣く子と酔っ払いには勝てないってね…」  そう呟きながらこなたが部屋から出ると、玄関のインターホンが鳴った。 「…次はつかさに違いない」  こなたはとりあえずお盆を階段に置くと玄関に向かった。  玄関のドアを開けると、こなたの予想通りにつかさがいた。かがみと同じく巫女服で。 「…こ…こなちゃ…ん…お姉ちゃん…来てる…?」  しかし、つかさは酔っ払ってはいなくて、息も絶え絶えな状態だった。 「ど、どうしたのつかさ?とりあえず水飲む?」 「う、うん…」  こなたはつかさを家の中に入れてキッチンに向かうと、三人分の甘酒を鍋にかけ、水をコップに入れてつかさのところに戻った。 「ほい、つかさ。水だよ」  玄関でぐったりと寝そべっていたつかさは、起き上がってこなたからコップを受け取り、その中身を一気に飲み干した。 「…ふいー…ありがとう、こなちゃん」  礼を言うつかさに、こなたは頷いて見せた。 「で、かがみのことなんだけど」 「あ、そうだ。お姉ちゃんやっぱりここに?」 「うん。なんか酔っ払ってたけど…なにがあったの?」 「えっと、それが…まつりお姉ちゃんが無理やりお神酒飲ませちゃって…それで酔ったかがみお姉ちゃんが、急にこなちゃんに会いに行くって言い出して自転車で…」 「自転車って確か車両扱いだから、飲酒運転で捕まるんじゃ…」 「うん、だから止めようと思ってわたしも自転車で追いかけたんだけど、お姉ちゃん凄く速くて全然追いつけなくって…」 「結局ここまで来ちゃったのか…ま、とりあえず部屋にいこうか」  こなたはそう言って階段を上り始めた。 「あれ、こなちゃんの部屋そっちだっけ?」 「ん、ちょっと甘酒温めてるから、取りに行って来る。先に部屋に行っててよ」 「ううん、わたしも運ぶの手伝うよ」  つかさはそう言ってこなたの後に付いて階段を上り始めた。  こなたとつかさはそれぞれ二つずつ湯飲みを乗せたお盆を持って、こなたの部屋へと向かっていた。 「こなちゃん。四っつあるけど、他に誰かいるの?…一つだけお茶だし」 「うん、今頃かがみと酔っぱらいどうしで談笑してると思うよ」 「そ、そうなんだ…」  苦笑い気味になったつかさを引き連れて、こなたは自分の部屋の扉をまた足で開けて入った。 「くー」 「すー」  部屋の中では、かがみとみゆきが重なり合うように眠っていた。 「…こなちゃん、寝ちゃってるよ…ってかなんでゆきちゃんが…」 「…う、うん…おかわり頼んどいてこれかー…」  こなたはとりあえず二人を起こそうと、お盆を座卓に置いて近づいた。 「ねえ、二人ともこんなとこで寝ないでよ…」 「…んー…こなたー」  そのこなたの手をかがみががっちりと掴む。 「へ?」 「…こなたさーん」  そして、反対側の手をみゆきが掴んだ。 「え、ちょ、ちょっと二人とも…」  そのままこなたは引きずりこまれ、かがみとみゆきに挟み込まれる形になった。 「いや、あの…離して…」 「わーこなちゃんもてもてだー」 「つ、つかさ。そんな棒読みで…ってか助けてよ…」  こなたは三人の様子を自分の分の甘酒をすすりながら眺めるつかさに助けを求めたが、つかさは微笑んで首を横に振った。 「もうちょっと見てたいかな」 「…えー」  こなたは、実に幸せそうな顔で自分の腕に絡み付いているかがみとみゆきを見て、溜息をついた。 「ま、しょうがないか…」  こなたは諦めたように目を瞑ると、二人に身を任せることにした。  そして、こなたもまたゆっくりと眠りに落ちていった。 「…う…ん…?」  こなたは身を起こし、目をこすった。 「あ、起きた。こなちゃんおはよう」  寝ぼけ眼のこなたに、つかさが声をかけてきた。 「わたし、寝ちゃってた?」  あくび交じりにそう聞くこなたに、つかさは頷いて見せた。 「かがみとみゆきさんは?」  こなたがそう聞くと、つかさは苦笑して部屋の隅っこを指差した。こなたがそちらを見ると、まったく同じように膝を抱えて顔を伏せっているかがみとみゆきの姿があった。 「…二人ともどったの?」  こなたが聞くと、つかさは困ったように頬をかいた。 「えっとね。二人ともこなちゃんより先に起きたんだけど…もう酔いはさめてたんだけど、酔っぱらってる時のことぼんやりと覚えてたらしくて…」 「…なるほど」  こなたは頷くと、かがみたちの方に歩いていき、二人の間に座り込んだ。 「さて、二人ともわたしに言うことは?」 「…ごめんなさい」 「…すいません」  こなたの質問に、かがみとみゆきは同時に謝った。 「ふむ…いやまあ、気にしてないけどね」  こなたはのん気にそう言うと、立ち上がり大きく伸びをした。そして部屋の時計を確認する。 「かがみ達、帰らないとまずいんじゃない?もう夕方だよ」  こなたの言葉に、かがみがハッと顔を上げた。 「そ、そうだ…巫女の仕事ほったらかして来たんだっけ…うわーどうしよう…お父さん怒るだろうなあ…」  そしてそのまま頭を抱えた。 「怖いの?二人のお父さんって温厚そうだったけど」  こなたがつかさにそう聞くと、つかさは頷いた。 「うん…普段優しい分、怒るとね…」  二人が話してる間に、かがみは立ち上がって少し乱れた巫女服を直していた。 「…つかさ、帰りましょ」  そして、つかさに向かってそう言うと、ふらふらと部屋の扉に向かい、そのまま出て行った。 「ま、待ってお姉ちゃん…それじゃ、こなちゃんまたね」  つかさもこなたに別れの挨拶をすると、かがみを追いかけて扉を出て行った。 「…さて、と」  こなたは二人を見送ると、未だに部屋の隅にいるみゆきの傍に近づいた。 「みゆきさんはどうすろ?」 「…どうしましょう」  考えがまとまらないのか、みゆきは力なくそう答えた。 「家の鍵ないんだっけ?このまま止まってく?」 「…そうですね。そうします」  やはり力なく答えるみゆきに、こなたは溜息をついた。 「しっかりしてよみゆきさん。こんなの恥のうちに入らないよ」  こなたはみゆきの隣に座り、その肩を軽く叩いた。 「あと、迷惑でもないよ。食事してるときにも言ったけど、奇抜なお正月も良いもんだよ」 「…そうですか」  みゆきはようやく顔を上げ、こなたの方を向いた。 「すいません…色々気を使わせてしまって…」 「だから気なんか使って無いって…しょうがないなーみゆきさんは」 「で、でも…」  まだ何か言おうとしているみゆきの額に、こなたはでこピンを食らわせた。 「痛っ!?…な、なにをするんですかー…」 「今日の分はこれでチャラ。それでいいでしょ?」  こなたが微笑みながらそう言うと、みゆきは額を擦りながら渋々頷いた。 「さて、そろそろ晩御飯の支度しないと」  こなたがそう言って立ち上がると、みゆきも同じく立ち上がった。 「わたしもお手伝いします」 「…お詫びにとか言わない?」 「言いません。泊めていただけるお礼に、です」 「なるほど…おーけー。じゃ、手伝ってもらおうかな」 「はいっ。ではこなたさん、わたしは先に行ってますね」  みゆきはそう言うと、少し早足で部屋の扉を出て行った。 「そんな張り切らなくても…」  こなたは少し呆れ顔でみゆきの後を追い、廊下に出た所であることに気がついた。 「こなたさんって…呼び方直ってなかったね」  こなたはしばらく考え、嬉しそうに頷いた。 「今日は良い日…だね」  そして、今日の晩御飯は少し豪華にしよう…そんなことを思いながら、キッチンへと向かった。 ― おしまい ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 筆者です。 &br()ご指摘の通り「止まってく?」は「泊まってく?」の誤字です。 &br()ちなみにその何行か上にも「みゆきさんはどうする?」が「みゆきさんはどうすろ?」となってる誤字があります。 &br()誤字脱字は無くしたいと思ってるけどなかなか…。 -- 名無しさん (2010-01-16 00:42:52) - お正月の一コマらしい、暖かい作品でした。次回作も期待しています。 &br()それとは別なんですが、こなたの「このまま止まってく?」は『このまま泊まってく?』の誤字でしょうか? &br()気になりましたので、ご報告まで。 -- 匿名非希望 (2010-01-16 00:29:54) - ほのぼのしてて心暖まりました -- かさぶた (2010-01-15 19:50:31)
「ほい、みゆきさんおまたせ」  そう言いながら泉こなたは最後の皿をテーブルに置き、椅子に座って待機していた高良みゆきの正面に座った。 「いえ…」 「おせちの余りくらいしかなかったけど、良かったかな?すぐに食べれそうなのってこれくらいだったからさ」 「あ、はい。十分です」  みゆきはテーブルに並べられた皿を見た。ピザやスパゲッティにローストチキン。以前こなたから聞いたことあるとおりの、洋風おせちだ。ナイフやフォークではなくお箸が付いている辺りが日本人なんだなと、みゆきはおかしなことを考えてしまっていた。 「あ、あの…泉さんは、食べないのですか?」 「わたし?…んー、さっき食べたばかりだからねー」 「そうですか…」  食べづらそうにしているみゆきにこなたは少し困った顔をすると、手近にあった小皿に料理を少し取り分けた。 「ま、折角だし少し食べるよ」 「…すいません」  こなたのその行為を、一人で食事をすることに躊躇してる自分への気遣いだと感じたみゆきは、こなたに向かって軽く頭を下げた。 「これでかがみみたいに太ったら、みゆきさんのせいだからね」 「そ、それは…えと…いただきます」  自分の気遣いを茶化すこなたの言葉に、みゆきは誤魔化すように手を合わせ、箸を手に取り料理を口に運んだ。 「…おいしい」  思わず出た感嘆の言葉。それに答えるように、こなたは得意げに腕を組んでいた。 「でも…ほんとにすいません…急に押しかけてきた上に、こうして食事までいただいて…」  料理を口に運びながらも器用に喋るみゆきに、こなたは手を振って見せた。 「いやいや、こういう奇抜なお正月も良いもんだよ」 「…奇抜ですか、わたし…」  そう言いながらも、みゆき自身これほどおかしな正月は無かったなと、ピザをかじりながら思っていた。 ― 良き日 ―  一月二日。正午を少し過ぎた頃。こなたは今日一日部屋で積みゲーの消化をすると決め、そのとおりに実行していた。  初詣やお年玉といった主な正月行事は元旦に済ませてある。それに父であるそうじろうは出版関係のパーティーに出かけていて帰りは遅くなり、居候の小早川ゆたかとパトリシア・マーティンは友人の家に泊まりに行っていて帰ってくるのは明日になる。  つまり今日一日家にはこなた一人であり、なんの気兼ねもなく積みゲーの消化に当たれるということだ。  ちなみにいつも気兼ねをしているのは、やっているのが十八歳未満は購入禁止の代物、つまるところのエロゲーだからだ。 「…んふふー、いーねー…こりゃ当たりだ」  自分が女子大生である事を忘れたようなエロオヤジ目線で画面を見ているこなたの耳に、玄関のインターホンのなる音が聞こえた。 「んもー、誰だよ。いいところなのにー」  そう文句を言いながら、こなたは念のためにセーブをしてモニターのスイッチを切って玄関に向かった。 「あ、あれー?みゆきさん?」 「明けましておめでとうございます。泉さん」  玄関のドアを開けたこなたが見たのは、晴れ着姿で深々とお辞儀をするみゆきだった。 「あ、うん、おめでとう…ってかどうしたのみゆきさん?田舎に帰ってたんじゃ…」 「えっと…それがその…ふらっと戻ってきちゃいました」 「えー」  舌を出しながら『えへっ』という台詞が似合いそうな顔ではにかむみゆきに、こなたはなんとも言えない表情をするしかなかった。  とりあえずこなたはみゆきを自分の部屋に通した。部屋の真ん中辺りに敷いた座布団にちょこんと座り込む晴れ着のみゆきは、ちょっとした日本人形のようだな、とこなたは思った。 「でも元旦は向こうに居たよね?メールにそういうこと書いてたし」  先ほどゲームをしていた時に使っていた椅子に座ったこなたが、ベッドの上に放りっぱなしの携帯を見ながらそう言うと、みゆきは頷いて見せた。 「はい、そうです」 「えらく早く帰ってこれたねー。飛行機でも使ったの?」 「いえ、夜行バスを利用しました」 「夜行ってそりゃまた…ってかその格好で?」 「はい、そうですけど」  そのバスに乗り合わせてた人には、さぞ違和感のある光景だっただろうと、こなたはみゆきを眺めながら思った。 「それでですね、戻ってきたのは良いんですが、家の鍵を持っていないことに気がつきまして、携帯も忘れてきたらしくどうしましょうってなりまして…」 「それでわたしんちに?」 「…はい」  あきれ果てたと言わんばかりのこなたの視線に、みゆきは顔を赤くして身を縮ませた。 「真っ先にわたしんちって事は、わたし相当暇してると思われてるんだねー」 「い、いえそういうわけでは…ただつかささん達は三日までは神社のお手伝いでお忙しいでしょうから…」 「だから暇なわたしの所に来た?」 「あ、いえ、それは…その…すいません…」  しおしおと縮んでいくみゆきを見て、こなたはとりあえずゲームを中断させられた事への意趣返しはできたと満足そうに頷いた。そして、ふと思いつくことがあった。 「そういや、みなみちゃんちには行かなかったの?ゆーちゃん達が泊まりに行ってるから、いると思うんだけど」  こなたがそう言うと、みゆきは目をぱちくりとさせ、しばらくポカンとした表情をしたあと「…あ」とだけ呟いた。  二人の間に部屋の中だというのに冷たい風が吹いたような気がした。 「…みなみちゃんが聞いたらどう思うだろ、コレ」 「…すいません、この事はどうかみなみさんにはご内密に…」  これ以上はないというほどに縮んでしまったみゆきから視線を逸らし、こなたは溜息をついた。と、そのこなたの耳にクーッと小さな音が聞こえた。みゆきに視線を戻してみると、みゆきは真っ赤な顔でお腹のあたりを押さえていた。 「…今の、みゆきさん?」 「あ、いや、その…すいません…昨日の晩から何も食べてなくて…」 「…お腹の音まで可愛いなあ、この人は」  こなたは頬をかきながらみゆきを眺めた。呆れられてると思ったのか、みゆきはますます顔を赤くして身を縮める。 「みゆきさん。お腹空いてるなら、なんか食べる?」 「え、あ、えと…」  みゆきは迷うように視線を泳がせた。 「…はい」  そして、小さく頷いた。 「…ごちそうさまでした」  みゆきが箸をおいて手を合わせる向かいで、こなたはあんぐりと口をあけていた。 「お粗末さまでした…ってか、みゆきさんよく食べたねー」  お節のあまりとはいえ、それなりの量があったはずなのだが、テーブルの上の皿はすっかり空になっていた。こなたも一緒に食べてはいたが、付き合い程度に少し食べただけで、ほとんどみゆき一人で食べたようなものだった。 「す、すいません…食べ始めたら止まらなくなりまして…」 「いや、謝ることじゃないと思うよ」  そう言いながら、こなたは立ち上がってテーブルの上の皿を片付け始めた。それを見て、みゆきも立ち上がる。 「あ、手伝います」 「いやいや、みゆきさんはお客なんだから、部屋に戻って待っててよ」  皿に手を伸ばそうとするみゆきを制して、こなたは片手に重ねた皿を持ったまま、空いた手でみゆきを部屋の外へと押しやった。 「で、でも…」  少しばかりみゆきは抵抗したが、部屋の外に追いやられたころには諦めたのか、そのままこなたの部屋へと向かった。 「やれやれ、わたしの友達は手伝いたがりさんが多いなー。任せるところは任せてくれればいいのに」  そう呟いてから、こなたは自分の胸の辺りを見た。 「…ま、信用ないからだろうけど、ね」  そして溜息をつくと、こなたは持っていた皿とテーブルに残っている皿を流しに入れ、冷蔵庫から白い液体の入ったビニール袋を出してきて、鍋に入れて火にかけた。 「さて、みゆきさんが猫舌ってのは聞いたこと無いけど…あんまり熱くしないでおこうかなっと」  鍋の中の液体が温まるにつれ、キッチンに甘い香りが広がっていく。こなたは頃合を見て、その液体…甘酒を二つの湯飲みに分けて入れた。  お盆の上の湯飲みが揺れないように、こなたは慎重に階段を下りていく。 「…ととっ…ちょっと入れすぎたかなこりゃ…」  階段を下りきり、自分の部屋の方を向いたときに、こなたの耳に声が聞こえた。そして、その瞬間にこなたの動きがぴたりと止まった。 「…ま…さ…か…」  聞こえてくるみゆきとは違う声。この家には、今こなたとみゆき以外の人間はいないはず。しかし、こなたにはその声に心当たりがある。 「…こりゃまずった…」  こなたは走り出したい衝動に駆られたが、持っている甘酒を放り出すわけにもいかず、ゆっくりと自分の部屋に向かった。  こなたが器用に足だけで部屋の扉を開け中に入ると、予想していた通りの光景が目の前にあった。  みゆきがこなたのパソコンのモニターを真っ赤な顔をしたまま食い入るように見つめているのだ。画面に映っているのは、先ほどこなたが放置していたゲームのエロシーン。聞こえてきていたのは、その女性キャラのエッチな声だ。  こなたは部屋にある座卓の上に持っていたお盆を置くと、みゆきの背後に立った。 「…みゆきさん。熱中してるとこ悪いんだけど…ちょっといいかな?」  こなたが出来るだけ優しくそう声をかけると、みゆきはビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこなたの方へ振り向いた。 「あ…いえ…あの…これは…その…」 「うん、電源切らずにほったらかしにしてた、わたしのせいだから…とりあえず、切っとくね」  こなたはみゆきが手放したマウスを握って、パソコンの電源を落とした。その間にみゆきはその場を離れ、床の上に正座をし、そのまま顔を両手で隠して突っ伏してしまった。 「みゆきさん、大丈夫…?」 「…出来ればこのまま消えてしまいたいです…」  本当に消えてしまうんじゃないかと思うほどのか細い声で呟くみゆきを、こなたはなんとも言えない表情で見つめた。 「ま、まあとりあえず、甘酒でも飲んで落ち着こうよ…」  そして、座卓の近くに座って、そこに置いてあった湯飲みを手に取り、みゆきに勧めた。 「…すいません…なんていうか、色々と…」  恐縮しながらこなたの傍に座り、湯飲みを受け取るみゆき。 「…良い香りですね…」  そこから立ち上る甘い香りに、思わずほっとした表情を浮かべる。それを見たこなたも、安堵の表情を見せた。 「ちょっとぬるかったかな?」  一口飲んだこなたがそう言うと、同じく一口飲んだみゆきが首を振った。 「いえ、丁度良いですよ」 「そか、じゃ良かった」  言いながらこなたは湯飲みに口をつけた。 「初めて飲みましたけど、甘酒って美味しいんですね」 「…へ?」  感心したように呟くみゆきに、こなたは驚いた顔をした。 「みゆきさん、飲んだこと無いの?」 「はい。実家でふるまわれてはいるのですが、なぜかわたしは飲むのを止められてまして…」 「ふーん」  何か理由があるんだろうか。だとしたら飲ませたのはまずかったかな。こなたはそんなことを考えたが、飲ませてしまったものはしょうがないと開き直った。  二人とも湯飲みの半分ほど飲み終わった辺りで、こなたはみゆきが甘酒を飲むのを止められる理由を知った。 「…ふぃー」  大きく溜息をつきながら、ゆらゆらと左右に揺れるみゆき。要するに酔っているのだ。 「甘酒で酔うなんて、漫画の中だけかと思ってたよ…」  飲んだことが無いというのは、飲んでるときの記憶が無いんだろうななどとこなたが思っていると、気持ちよさそうに揺れていたみゆきが真っ直ぐこっちを見ていることに気がついた。 「どしたの、みゆきさん?」 「泉さん。ぐだぐだです」  開口一番わけがわからなかった。 「え、えっと…なにが?」 「わたしがです。泉さんの家に来てから変なことばかりしてます。恥ずかしいかぎりです」  言いながらみゆきは湯飲みを座卓の上に置き、四つんばいでこなたに近づいていった。 「い、いや、珍しいみゆきさんが見れたし、特に問題ないかと…」  何か危険な予感を感じたこなたも、湯飲みを座卓の上に置いた。それを見計らったように、みゆきがこなたの腰の辺りに抱きついてきた。 「そーですよねー。泉さんはそーいうんです。お優しいですから、泉さんはー」  そのまま甘えるようにお腹の辺りに顔を擦り付けてくるみゆきに、こなたはどうしていいかわからずされるがままになっていた。 「でもそれじゃダメなんですよー。わたしはもっとしっかりしなきゃダメなんですー」 「そ、それはどうして…?」 「でないと、泉さん頼ってくれないじゃないですかー」 「ふぇ?」  みゆきの言ってることがわからず、こなたは首をかしげた。 「わたし知ってますよー。泉さん、高校の時にかがみさんに宿題を写させてももらったりしてたでしょー」 「う、うん…」 「どうしてわたしじゃダメだったんですかー?確かにかがみさんはしっかりしてますし、頼りがいがありますけど、わたしだって宿題くらいちゃんとしてましたよー」 「い、いや、それはなんていうか…」 「もーそんな意地悪する泉さんは、こなたさんって呼んじゃいますよー」 「脈絡が無さ過ぎる!」  突っ込むこなたを無視しみゆきは体を起こすと、こなたの首に右手を回し、左手の人差し指でこなたの鼻の頭をつんつんとつつき始めた。 「ほらほらー呼んじゃいますよー。こなたさんーって」 「いや、もう呼んでるんじゃ…うん、もう好きにして」  諦めの境地で呟くこなたに、みゆきは嬉しくてしょうがないという風な笑顔を見せた。 「ふふふー…こ・な・た・さ・ん」  一言ずつ区切ってそう呼ぶと、みゆきは両手でこなたを突き飛ばし、両手で顔を覆っていやいやと首を振った。 「いやーん、もう。恥ずかしいですー」 「…わたしは痛いよ、みゆきさん」  扉の側の壁まで転がったこなたは、ゆっくりと体を起こしながら今のみゆきをどう止めようか考え始めた。と、唐突にこなたの横の扉が開き、誰かが部屋の中に入ってきた。 「あ、はっぴーにゅーいやー!こなた元気ー!?」  そう元気よく大声を上げながら入ってきたのは、巫女服を着たかがみだった。 「ってー新年の挨拶は昨日したじゃなーい」  自分で突っ込みを入れた後、かがみはみゆきに近づいていった。 「なにーこなた晴れ着?お正月だからおめかし?結構似合ってるわねー」  そして、みゆきの首に腕を回しながらそう言った。 「かがみさーん。わたしはみゆきですよー」  みゆきがそれにほわほわと答える。 「いや、かがみ、わたしこっちだから…ってかもしかして酔ってる?」  こなたが突っ込みながら良く見ると、かがみの顔は真っ赤で表情はトロンとしていた。かがみはこなたを見て目をパチクリさせると、 「あー、そっちがこなた。んじゃー…ゆたかちゃん、ちょっと見ないうちに大きくなったわねー。もうこなた抜かしてるんじゃないー?」 「かがみさーん。わたしはみゆきですよー」 「…だめだこりゃ」  呆れた口調で額に手を当てて天井を見上げるこなた。そのこなたの傍に、かがみが近づいてきた。 「こなた、こなたー」 「ん、なに?」 「コレおかわりー」  かがみは手に持った湯飲みを揺らしながらそう聞いてきた。 「…それわたしの甘酒…」 「こなたさーん、わたしもおかわりー」 「…へいへい…」  こなたは溜息をついて、空になった二つの湯飲みをお盆に乗せた。 「泣く子と酔っ払いには勝てないってね…」  そう呟きながらこなたが部屋から出ると、玄関のインターホンが鳴った。 「…次はつかさに違いない」  こなたはとりあえずお盆を階段に置くと玄関に向かった。  玄関のドアを開けると、こなたの予想通りにつかさがいた。かがみと同じく巫女服で。 「…こ…こなちゃ…ん…お姉ちゃん…来てる…?」  しかし、つかさは酔っ払ってはいなくて、息も絶え絶えな状態だった。 「ど、どうしたのつかさ?とりあえず水飲む?」 「う、うん…」  こなたはつかさを家の中に入れてキッチンに向かうと、三人分の甘酒を鍋にかけ、水をコップに入れてつかさのところに戻った。 「ほい、つかさ。水だよ」  玄関でぐったりと寝そべっていたつかさは、起き上がってこなたからコップを受け取り、その中身を一気に飲み干した。 「…ふいー…ありがとう、こなちゃん」  礼を言うつかさに、こなたは頷いて見せた。 「で、かがみのことなんだけど」 「あ、そうだ。お姉ちゃんやっぱりここに?」 「うん。なんか酔っ払ってたけど…なにがあったの?」 「えっと、それが…まつりお姉ちゃんが無理やりお神酒飲ませちゃって…それで酔ったかがみお姉ちゃんが、急にこなちゃんに会いに行くって言い出して自転車で…」 「自転車って確か車両扱いだから、飲酒運転で捕まるんじゃ…」 「うん、だから止めようと思ってわたしも自転車で追いかけたんだけど、お姉ちゃん凄く速くて全然追いつけなくって…」 「結局ここまで来ちゃったのか…ま、とりあえず部屋にいこうか」  こなたはそう言って階段を上り始めた。 「あれ、こなちゃんの部屋そっちだっけ?」 「ん、ちょっと甘酒温めてるから、取りに行って来る。先に部屋に行っててよ」 「ううん、わたしも運ぶの手伝うよ」  つかさはそう言ってこなたの後に付いて階段を上り始めた。  こなたとつかさはそれぞれ二つずつ湯飲みを乗せたお盆を持って、こなたの部屋へと向かっていた。 「こなちゃん。四っつあるけど、他に誰かいるの?…一つだけお茶だし」 「うん、今頃かがみと酔っぱらいどうしで談笑してると思うよ」 「そ、そうなんだ…」  苦笑い気味になったつかさを引き連れて、こなたは自分の部屋の扉をまた足で開けて入った。 「くー」 「すー」  部屋の中では、かがみとみゆきが重なり合うように眠っていた。 「…こなちゃん、寝ちゃってるよ…ってかなんでゆきちゃんが…」 「…う、うん…おかわり頼んどいてこれかー…」  こなたはとりあえず二人を起こそうと、お盆を座卓に置いて近づいた。 「ねえ、二人ともこんなとこで寝ないでよ…」 「…んー…こなたー」  そのこなたの手をかがみががっちりと掴む。 「へ?」 「…こなたさーん」  そして、反対側の手をみゆきが掴んだ。 「え、ちょ、ちょっと二人とも…」  そのままこなたは引きずりこまれ、かがみとみゆきに挟み込まれる形になった。 「いや、あの…離して…」 「わーこなちゃんもてもてだー」 「つ、つかさ。そんな棒読みで…ってか助けてよ…」  こなたは三人の様子を自分の分の甘酒をすすりながら眺めるつかさに助けを求めたが、つかさは微笑んで首を横に振った。 「もうちょっと見てたいかな」 「…えー」  こなたは、実に幸せそうな顔で自分の腕に絡み付いているかがみとみゆきを見て、溜息をついた。 「ま、しょうがないか…」  こなたは諦めたように目を瞑ると、二人に身を任せることにした。  そして、こなたもまたゆっくりと眠りに落ちていった。 「…う…ん…?」  こなたは身を起こし、目をこすった。 「あ、起きた。こなちゃんおはよう」  寝ぼけ眼のこなたに、つかさが声をかけてきた。 「わたし、寝ちゃってた?」  あくび交じりにそう聞くこなたに、つかさは頷いて見せた。 「かがみとみゆきさんは?」  こなたがそう聞くと、つかさは苦笑して部屋の隅っこを指差した。こなたがそちらを見ると、まったく同じように膝を抱えて顔を伏せっているかがみとみゆきの姿があった。 「…二人ともどったの?」  こなたが聞くと、つかさは困ったように頬をかいた。 「えっとね。二人ともこなちゃんより先に起きたんだけど…もう酔いはさめてたんだけど、酔っぱらってる時のことぼんやりと覚えてたらしくて…」 「…なるほど」  こなたは頷くと、かがみたちの方に歩いていき、二人の間に座り込んだ。 「さて、二人ともわたしに言うことは?」 「…ごめんなさい」 「…すいません」  こなたの質問に、かがみとみゆきは同時に謝った。 「ふむ…いやまあ、気にしてないけどね」  こなたはのん気にそう言うと、立ち上がり大きく伸びをした。そして部屋の時計を確認する。 「かがみ達、帰らないとまずいんじゃない?もう夕方だよ」  こなたの言葉に、かがみがハッと顔を上げた。 「そ、そうだ…巫女の仕事ほったらかして来たんだっけ…うわーどうしよう…お父さん怒るだろうなあ…」  そしてそのまま頭を抱えた。 「怖いの?二人のお父さんって温厚そうだったけど」  こなたがつかさにそう聞くと、つかさは頷いた。 「うん…普段優しい分、怒るとね…」  二人が話してる間に、かがみは立ち上がって少し乱れた巫女服を直していた。 「…つかさ、帰りましょ」  そして、つかさに向かってそう言うと、ふらふらと部屋の扉に向かい、そのまま出て行った。 「ま、待ってお姉ちゃん…それじゃ、こなちゃんまたね」  つかさもこなたに別れの挨拶をすると、かがみを追いかけて扉を出て行った。 「…さて、と」  こなたは二人を見送ると、未だに部屋の隅にいるみゆきの傍に近づいた。 「みゆきさんはどうすろ?」 「…どうしましょう」  考えがまとまらないのか、みゆきは力なくそう答えた。 「家の鍵ないんだっけ?このまま止まってく?」 「…そうですね。そうします」  やはり力なく答えるみゆきに、こなたは溜息をついた。 「しっかりしてよみゆきさん。こんなの恥のうちに入らないよ」  こなたはみゆきの隣に座り、その肩を軽く叩いた。 「あと、迷惑でもないよ。食事してるときにも言ったけど、奇抜なお正月も良いもんだよ」 「…そうですか」  みゆきはようやく顔を上げ、こなたの方を向いた。 「すいません…色々気を使わせてしまって…」 「だから気なんか使って無いって…しょうがないなーみゆきさんは」 「で、でも…」  まだ何か言おうとしているみゆきの額に、こなたはでこピンを食らわせた。 「痛っ!?…な、なにをするんですかー…」 「今日の分はこれでチャラ。それでいいでしょ?」  こなたが微笑みながらそう言うと、みゆきは額を擦りながら渋々頷いた。 「さて、そろそろ晩御飯の支度しないと」  こなたがそう言って立ち上がると、みゆきも同じく立ち上がった。 「わたしもお手伝いします」 「…お詫びにとか言わない?」 「言いません。泊めていただけるお礼に、です」 「なるほど…おーけー。じゃ、手伝ってもらおうかな」 「はいっ。ではこなたさん、わたしは先に行ってますね」  みゆきはそう言うと、少し早足で部屋の扉を出て行った。 「そんな張り切らなくても…」  こなたは少し呆れ顔でみゆきの後を追い、廊下に出た所であることに気がついた。 「こなたさんって…呼び方直ってなかったね」  こなたはしばらく考え、嬉しそうに頷いた。 「今日は良い日…だね」  そして、今日の晩御飯は少し豪華にしよう…そんなことを思いながら、キッチンへと向かった。 ― おしまい ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - みゆきがとても可愛い!こういう作品も、 &br()面白くて良かったです! -- チャムチロ (2014-03-18 22:38:17) - 筆者です。 &br()ご指摘の通り「止まってく?」は「泊まってく?」の誤字です。 &br()ちなみにその何行か上にも「みゆきさんはどうする?」が「みゆきさんはどうすろ?」となってる誤字があります。 &br()誤字脱字は無くしたいと思ってるけどなかなか…。 -- 名無しさん (2010-01-16 00:42:52) - お正月の一コマらしい、暖かい作品でした。次回作も期待しています。 &br()それとは別なんですが、こなたの「このまま止まってく?」は『このまま泊まってく?』の誤字でしょうか? &br()気になりましたので、ご報告まで。 -- 匿名非希望 (2010-01-16 00:29:54) - ほのぼのしてて心暖まりました -- かさぶた (2010-01-15 19:50:31)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。