ID: > YepGexQ氏:水滴の季節の向こう側

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「……にゃあ」  秋と冬の境のある雨の日。灰色に鎖じられた空のしたの道ばたで、私は泥に汚され寒さに震えるおさないからだへ向かって鳴きながら指先をのべた。真顔で鳴き真似。子供っぽいやりかた。ゆかりおばさんに笑われそうな、間抜けな構図。  死体のようにたおれていた、てのひらに乗りそうなほどちいさな猫は私の声に弱々しく反応した。私の指を嗅ぐ。私の目に緩慢に視線をうつす。  まばたきもせず私を見あげる子猫をみつめ返しても、視線を合わせている気がしなかった。視力がないのかもしれない。あるいは、私には見えないなにかをみているのか。  私はその猫をてのひらにとりあげた。子猫は嫌がる様子もなく、あるいは抵抗する気力もなく無反応のまま私のてのひらにおさまってしまった。ちいさすぎる、とあらためて思う。きっと生まれて数ヶ月も経っていない。これまで野良として一匹で生きてこれたはずがない。ならば親猫やきょうだいが近くにいるはずだ。しかし周りを見渡しても未だ姿を見せる様子はなかった。  悲惨なほどの衰弱。きっと、なにかの病気。だから飼い主はただ一匹だけを捨てた。そんなふうな連想が自然に浮かんでしまう。私も犬を飼っている身であるせいか、ペットの話題にはわりと注目してしまうタイプだったから。……ペットを大切にしない飼い主の存在についても。  涎を垂らす弱々しい外見。不規則で細い呼吸。ちいさく冷たい身体のなかで心臓が動いている。成猫だって、三日間雨に打たれれば死ぬという。それでも手に伝わる鼓動ははやくて、つよくて、正確で。もう間もなく死ぬであろう子猫は、壊れものの扱いをする私に反発するようにいのちを主張する。  それを感じたとたんに胸がつまった。鼻がツンとなって目の奥が熱くなる。  走り出さずにはいられなかった。じゃまな傘を閉じて、子猫を両腕で抱き直して、私は立ち上がった。  雨をかぶり、水たまりを跳ねとばしながらたどり着いた家の門前。ひとの気配がないことに奥歯を噛んだ。留守。鍵を開ける手間にすら苛立つ。  倒れ込むように玄関へ身を投げ出すと、暖の通わない空間に不意をうたれて、私は立ち止まってしまう。さびしさは毒。部屋を暖めなきゃ。でもそれまで時間がかかりすぎる。  いや、まずはタオルだ。身体をふいてあげて、そのあとにこんどは――こんどは、なにを? ダメだ。ひとりでは手が回らない。いや、いまはまだそんなことを考える段階じゃない。濡れた身体をどうにかしてから――頭がおかしくなっている。死ぬ猫に対して冷静になれない。身体をふく作業をするのはいい。部屋を暖める作業をするのもいい。だけどそこに、いつ死が途中で割り込んでくるかわからない。てのなかにあるいのちはいまにも消える。怖くて行動を決断できない。  できることはほとんどなにもないとわかっていたから、やけを起こして走ってきた。そう、わかっているけど、わかっているから、せめてなにか最善のひとつを。そう思えば思うほど、どうすることがいちばんいいのかぐずぐず考えずにはいられなくなる。  焦燥が胸にこみあげる。正常を保てない自分がみじめ。そのいっぽうで行動できない自分を悔いている暇があるなら身体を動かせと心が急かす。焦りと情けなさで頭のなかがぐるぐる回る。  軽いパニック。立ちつくしたまま視線だけがおぼつかなくあちこちに飛ぶ。周囲にしっかりしていると思われていても、ほんとうの私はこんなに頼りない子供で……。  涙に歪みはじめた目が閉じきった玄関ドアをとらえた。頭に閃くものを感じてあわてて扉に飛びつく。どうしていままで思いつかなかったのだろう。足がうまく動かない。身体と意思がうまく連動しない。心だけが急いている。浮ついた気ぶん、ぎこちない動きでドアを開けなおす。すぐ向かいの家に頼れる親しいひとがいるのに。私がおさないころから慕っている、なんでもできるやさしいお姉さん―――  私を迎えたみゆきさんは私のありさまをひとめ、目を見開いた。私は子猫を示した。意識なく涎を垂らす、水を吸ったボロ。ちゃんと説明しなければと思えば思うほど胸のなかがごちゃごちゃになって息がつまる。声が出ない。  私の表情がどうなっていたかはわからない。周りから見て、私はそれほど表情が動かないタイプらしいから。でも心のなかではこれ以上なく必死な思いだった。 「拭くものを持ってきます。汚すのは気にしないで、そこに座っていてください」  ふだんおだやかな彼女が見せることのない、真剣な鋭い語調が慌ただしく迷う私の胸をうつ。後ろ髪を揺らして俊敏に去っていく背中がぼんやり視界に映った。足から力が抜ける。ごつんと打ちつける勢いのまま土間に膝をつく。また目の奥から涙がこみあげてくる。説明もなく状況を察してくれた。パニックの私を強く制してくれた。心が通じてくれた安心で、気が抜けてしまった。  つまり、それは。  死ぬ子猫を直視できない私の弱さで。  子猫が頭をあげて私を見ていることに気づいた。いつから? 目を合わせると視線がぶつかった。  子猫が頭をあげて私を見ていることに気づけなかった。私には見えないなにか、ではなく。  胸が騒ぎはじめる。ひどいほどにわかりやすすぎる死の予兆。私にはこの猫の意思を正しく読み取ってあげることができない。なんとか読みとろうとしてそのいのちを胸に抱き寄せる。  抱き寄せられた子猫は身体を震わせながら私の胸へ首を伸ばした。目を閉じて頬をすり寄せる。なついてくれたよろこびはない。その頼りない動作がかなしくて意思を読もうとする意欲はあっさり砕けた。目の奥で、熱い涙の感触が染み広がる。  胸から顔をはなして、また、顔を上げて私の目をみつめる。  みゆきさんの足音が近づいてくる。子猫から目をはなすことができない。はなしてしまったら、終わってしまうと思ったから。  首をふるわせて、頭を支える子猫が力なく息を吐く。途端、ふ、と目の焦点が消える。  かくん、と、首が揺れ落ちた。  目の奥の熱がたちまち凍りついた。子猫の目の焦点が消えて首が揺れるまでの、あっと思う間もない一瞬のできごと。寸前まで生きものだった死体。その感触の心もとなさに、なにか温度の低いものが背筋を走る。実感が追いつかないまま、私はそれにはっきりしない視線をおくり続ける。  上から影が差す。みゆきさん。静かな眼差しで私の腕にあるものをみつめる。その視線で現実が私の理性に浸透しはじめた。寒さではない理由で私の身体が震えはじめる。震える私の腕のなか、首の据わらなくなった猫の頭がぐらぐら揺れる。慎重に子猫を支えなければと思うのに、その不快な感触によって震えはとまらない。  腕に抱いたものへうつむきながら土間に座り込んで身体を震わせる私。気がつけばみゆきさんはその私の眼前にかがみこんでいた。私に目線を合わせるように、おもてを上げた私の顔をのぞき込む。視線を合わせ、外し、なにも言わず私からちいさな死体を取りあげた。止める間もなく私の腕から重みが消える。  あ……。頼りなく声を漏らした。急に軽くなった腕を持てあます戸惑い。そんな汚いものに触ったらあなたの手が汚れてしまうという場違いなふざけた気づかい。いろいろなことが頭のなかをごちゃごちゃ駆けめぐる。そしていっぽうで、この混乱を冷静に黙って受け止める自分もここにいた。亡骸が私の身体から離れたことをきっかけに頭が冷えていく。私以外のひとがこの子猫に触れていることに違和を感じていることが妙に印象深いと、他人ごとのように感じた。  みゆきさんは片腕で注意ぶかく子猫を抱きながら、地べたに座り込む私にもう片方の手をのべる。静かでおだやかでやわらかい、いつも見慣れた彼女の表情のなかに、わずか、堅い色が混ざっている。  内心で慎重に、言葉を選ぶ様子でみゆきさんは口を開きかけたのがわかった。それを制するかたちで私は首を左右にふる。だいじょうぶ。  地べたから身体を起こす。私を気づかう彼女のまなざしを、ちゃんと受けとっている。いつまでも土間に座っていたら彼女が困ることを察することができるくらいには、自分は正常だと伝えたかった。立ちあがることでそれを表す。声を出さないのは、なんとなくどんな言葉を発すればいいのかわからなかったから。  ―――黙っているのは、性格だから。  ―――みゆきさんに心配されるようなことは、なにも、ない。  みゆきさんに促されて、土間と床の段差に腰をおろす。私の隣で、みゆきさんがずぶ濡れの子猫をタオルでていねいにくるむ。  彼女は向き直って私に亡骸を抱かせる。譲られた重みにうつむいた。もう一枚のタオルが私にかぶせられる。タオルのうえからやさしく私の髪をたたいてゆくみゆきさんの手。布が自然に水分を吸ってゆく感触を頭と腕のなかで感じながら、私は目をつむって、彼女のおこないに身をゆだねた。  みゆきさんの動作に伴うやさしい衣擦れの音があたたかい。それは、私がこの子猫に与えてあげたかったもので。  心のなかで嘆息する。最初から、この子にこうしてあげればよかったんだ。ぐずぐず迷っていないで、最初から死に際を楽にしてあげることを考えていれば、雨に濡れたまま息が絶えることはなかったのに。  タオルごしのちいさな亡骸の感触がひどく冷たい。死んだいのちというものは、こんなにも速く温度を失っていくものなのか。そんなことを思う。子猫が死んだ悲しみが、死体を抱く珍しさへの興味へと移っていく胸の内。こんなに自分は薄情だったのか。  でも、さりとて変なことでもないとも思った。べつに飼い猫でもなんでもない、ついさっきが初対面だった動物相手になにを思うことがあるというのだろう。子供でもあるまいし。だからきっと、冷めるのも速いだけ。  そう、こんなことは、ささいなことだから。 「どうしよう、"これ"」  ささいなことだから、ぽつりと、なんの気もなしに呟いた。 「雨がやんだら、埋めてあげましょう」  温度のない私の声音を彼女が察せないはずもない。でも彼女はそれには触れず、ただ、答えをひとことだけ返した。雨が、やんだら―――  いつしか衣擦れの音は聞こえなくなって。肩と腕がくっつくほど近く、みゆきさんは黙って私に寄り添う。私の服は、ぐっしょり濡れてしまっているのに。  さっさと子猫を箱にでも収めて、私はすぐに帰って着替えたほうがいい。汚い死体や濡れた身体を他人様の家に持ちこんだ分際でいつまでも黙っているわけにはいかない。だけれど、黙ってそばに居続けてくれる彼女の存在と腕のなかの亡骸。そのぬくもりと冷たさからどうしてか、とても離れがたくて。 「落ち着くまで、こうしていますから」  迷いのなかで身じろぎをした私に、みゆきさんは言った。そのやさしい声が心を打つ反面、彼女がそんな放任をしてくれることもすこし意外に感じてしまって、私は彼女に目を向ける。 「風邪をひかないようにお風呂場へ行ってほしいというのが本音ですけれど」  私の視線に困ったように微笑して、私の腕の亡骸に目を移した。「でも私ももうすこし、このままでいたい気もちもありますから」。 「だからすこしだけ、譲歩します」  だからすこしだけ、このままで。 「……はい」  その気づかいに、じんわりと、泣きそうになる気もち。すこし息が詰まって、答える私の声に涙のいろが混じった。  私は彼女の肩に頬をあずけて目を閉じる。私の濡れた髪が彼女の頬に触れることを気にせずに。そうしていいと許してくれたから。そうしてほしいと言ってくれたから。  悲しみを共有するように身体をくっつけあって、玄関の沈黙に身を浸す。  すこしだけ、すこしの間だけそのままで、私たちは雨音がドア越しに静寂を叩く音をいっしょに聴いていた。  夜明けごろの早い時間に目を覚ました。ベッドのなかで、私はみゆきさんの背中の裾をつかんでいた。おさないころ、こうして彼女の後ろに着いていたっけ。こんな年齢になっても、眠りの無意識の中で同じことをしている自分に苦笑する。  あれからそのまま、この家にお世話になってしまった。というよりは、みゆきさんのお世話を断るタイミングがつかめないままけっきょく泊まることになっていたと言うべきか。過度に慰めようとせずいっしょにいてくれるやさしいお姉さんのそばは心地好すぎた。  彼女を起こさないようにベッドを降りる。雨音は、もう聞こえなくなっていた。 「おはよう」  薄闇のなか、静かにリビングへ行くと突然の挨拶。おどろいてゆかりおばさんの姿をまじまじとみつめてしまう。 「早い、ですね」 「みなみちゃんが早起きすると思ったから、おどろかせたくて」  私の戸惑いの疑問に、いたずらが成功したうれしい様子で彼女は答える。私は「はあ」と生返事を返すしかできなかった。私がこの時間に起きるなんて、どうして思ったのだろう。 「みなみちゃんがこの時間に起きると決めつけていたわけじゃないんだけどね。でもこんな時間に目が覚めちゃうことはあり得るだろうなってくらいには気にしてたの」  私の疑問の表情に笑って答えた。 「みなみちゃん、このまま一回家に帰るつもりだったでしょ。着替えやら学校の準備やら」  だから、たまにはのんびり朝の空気を味わうついでに私を待ってみたという。 「私が早起きなんかできないぐ~たらだと思ってた?」 「はい」  馬鹿正直に即答してしまって、あ、と声が漏れた。つい口をついて出てしまった私の言葉におばさんは頬をふくらませて憤慨する。 「もう……! みなみちゃん私のこと嫌いでしょ」  「いえ、そんなことは……」  焦ってうまく気もちを口にできず、しどろもどろに弁解する私。そんな私の様子に溜飲を下げたのか、おばさんはもうそれをつつくことはせずに笑った。「……うん、じつはけっこう無理してるのよ。眠いわ」。 「はい、どうぞ。よく眠れたみたいね?」 「はい、ありがとうございます」  温かいカップを差しだす彼女に頭をさげる。とくべつ長い睡眠時間だったわけではない、けれど心と身体がずいぶんと楽になった。涙を流しきってある程度すっきりしたような気ぶん。それほど涙も流しているわけでもないけれど、みゆきさんたちが一晩かけて癒してくれた。  「まだちょっとさびしいですけど……、時間が経てば、きっと」  ……残っているのは、子猫を看取ったあとのすこしのさびしさだけ。子猫が死んでもそのまま時間は経過して、変わらず朝がやってくる。そのことが切なかった。だれかのやさしい行為に甘えることも、さびしがることさえも知らないままだったちいさないのち。その喪失も私たちにとってはけっきょく日常にちいさなさざ波が立っただけのものでしかなくて……。  私を見つめておばさんは微笑する。 「さびしく思うのは、いいことよ」 「え……」 「みなみちゃんがそういう気もちになることも、私たち大人からすればよくある青春の一部でしかなくてね。  でも、だからこそ、動物と人間のいのちのちがいをちゃんとさびしく感じられるようなみなみちゃんは、いい子に育ったなって思う」  私の様子を、とても微笑ましいと彼女は言う。 「それは、え……と、どうもありがとうございます」  いまのさびしい気もちを肯定してくれたことは、よくわかったのだけれど。正直、そんなことを言われてもどう返していいかわからない。これはほんとうに誉められているのだろうかとも気になってしまう。 「変なお礼」  そんなふうに戸惑う私を、おばさんはくすくす笑うのだった。  玄関で靴を履く。 「朝ご飯はどうする?」 「朝は、自分の家で食べます」  朝の忙しい時間帯に何度も往復するのもなんだかなという気もちもあったので、これ以上のお世話になるのは断っておく。 「わかった、子猫はそっちの庭に埋めるんでしょ? 朝食べたらそっちにいくようにみゆきにいっておくわ」 「はい、よろしくお願いします。昨日はほんとうにありがとうございました」 「いえいえどういたしまして。ほとんどお世話したのはみゆきだし、私はかわいいみなみちゃんが見れていうことなしだから」  ほんとうに返答に困ることばかり言ってくれるので、ただ会釈するだけの反応にとどめる。だけど、最後にひとつくらいは仕返しができると思った。たまの外泊明け、冴えた朝の空気、子猫の死を越えてこれから始まる一日、それらの要因によって知らず気ぶんがうわついている。 「あの、その、ですね」 「ん? なあに?」 「……さっきの、みなみちゃん私のこと嫌いでしょ、っていうのの答えなんですけど」 「へえ?」  なにを言ってくれるのかとニヤニヤ笑うおばさんにわたしは言った。 「私は、おばさんのこと、好きですから」  まあ、と声をあげる彼女に間髪入れず付け加える。 「ただ、私が勝手に苦手に思ってるだけで、嫌いだとは、思ってないんです」  私がおばさんを苦手に思うのは、彼女が特別私をからかうような人間であるからというのではなくて、私が自分のドジで間抜けな子供っぽい姿を彼女に晒してしまっているがゆえの自業自得だから。 「それじゃあ、おじゃましました」  言い捨てて玄関ドアをくぐった。後ろ手に扉を閉めて息をつく。ドキドキ言っている心臓を落ち着かせるように早朝の空気を深呼吸。  好き、と口にするのは大変だと思う。すくなくとも私のような性格の人間にとっては。黙っているのは、性格だけれど。だけれどみゆきさん同様、おさないころからお世話になっているひとへたまにはちゃんと気もちを伝えておきたいともつねづね思っていたから。  雨がやんだ曇り空のした。私は外門へ足を向ける。ちょっとの達成感と、これから先、おばさんのからかいの材料になりはしないかというすこしの心配が混ざり合って、ほんのりとしたしあわせに変わるのを感じながら。  子猫を収めた箱を深く埋めて、ふたりで手を合わせた。 「じゃあ、行きましょうか」  学年のちがう互いの学校生活のこともあって、ふだんはいっしょに登校するということはないからみゆきさんとふたり並んで歩くというのが妙に新鮮だった。  今日の天気は雨上がりの晴れ。雲間から差す陽光が水のしずくに虹をつくる。 「虹の橋、ですね」  虹の橋のたもとを幻視する。いつか収まってしまうだろうさびしさを、この瞬間だけはたいせつに思う気もちで私は虹を見つめた。  登校したあとのことを考える。私はこのことをゆたかやひよりに話すのだろうか。みゆきさんに視線をうつすと彼女も同じことを考えていたようで、はたと目があった。  おたがいになんとなく、苦笑してしまう。 「……どっちでも、いいです」  話しても、話さなくても。 「友達の顔を見てから考えたって、いいと思います」  吐く息の白さを視線で追いながら、言った。  みゆきさんはうなずいて前を向いた。虹に見とれることをやめて歩を進める私たち。寒くなってきた。もうすぐ、冬。季節がまた巡っていく。  私たちは雪の季節へ向かって歩いていく。息を白くする気温、そのなかにある温もりを抱きながら―――

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