「ID:Ar4ap4ko氏:Daydreamer」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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「いやー、会場でバッタリ鉢合わせするなんて思ってもみなかったっスよ」
まん丸レンズのメガネをかけた少女が嬉しげにそう言った。
彼女の両手は、絶対に逃がさんとばかりに私の腕をがっちり掴んで離さない。
「……それはともかく、なんでここに連行されてるかな」
「そりゃあ当然、我らが部長に期待の新人を紹介するために!」
この子は私の壊滅的な絵心を知らない。だからこんなことが言えるのだ。
いま私たちが立っているここは陵桜学園のアニメーション研究部室。
その部長に私を引き合わせるだって? 冗談じゃない、「作る側」には興味なんてないのに。
「期待とか勘弁してよ、私は消費者! 生産はそっちに任せるから」
「つれないこと言わずに、会うだけ会ってみてほしいっス!」
いやいや、お見合いじゃないんだから。
「自家発電できるようになれば何かとオトクだし!」
そういう「自分の世界」を展開できる想像力も私にはない。それは本当に残念。
……そんな押し問答の末、ついに廊下から足音が聞こえてくる。
「来たっスよ!」
がらりと部室のドアが引かれた。
ああもう、タイムオーバーか。面倒だけどきっちり断わってさっさと帰ろう。
「ひより、お待たせー。話って――」
そこに現れた部長らしき人物は、言いかけて動きを止めた。
視線の先には私。そして、私の目もまた、彼女を捉えて離れなかった。
その顔には、確かに見覚えがあったのだ。
*
学校では話せないけれど、折り入って相談がある――そう持ちかけると、部長は快く自宅に招いてくれた。
初めて先輩の家にお邪魔する、というプレッシャーで正直言って緊張していたのだけど、そこはさすが部をまとめる人間。
巧みな話術であっという間に私がリラックスできる空間を作り出してくれたのだった。
「で」
本題。
「話って何? 学校じゃ話せないことなんでしょ?」
「話せないというか、学校に持ち込むのはいくらなんでもまずいかなーと」
私は持参してきた大きな紙袋を示す。部長もこの中身について色々と予想することがあるらしく、ふむ、と即座に相槌を打った。
「兄に『コスプレしてみないか』って言われたんですよ。最初は断ったんですけど、あんまり強く薦めてくるもので」
私自身、容姿に自信があるわけでもない。一線を越えても良いものかどうか判断がつかないのだ。
「だんだんその気になり始めたワケだ。それ衣装でしょ?」
返事をして、紙袋の口をがばっと開く。中には流行りのアニメキャラのコスプレ衣装が入っている。
高校が舞台のアニメで、ブレザータイプの学生服だ。出来はいいけど、はっきり言って地味なので私的評価はいまいち。
「制服なら毎日着てるし、どうせならもっとそれっぽい衣装の方がいいなって思ってるんです」
「それぐらい地味な方が後戻りもきくんじゃないの」
それまで静かに漫画を読んでいた部長の友人が突然口をはさんだ。言い方は少しきついけど、それも正論だとは思う。
が、部長はそれに異を唱える。
「わかってないね。コスプレってのはやると決めたら深みに入り込んでくしかないんだよ!」なんという暴論。
「別に、わかろうと思ってない」
すまし顔で受け流し、彼女は再び本の世界に戻る。本当に仲は良いのだろうか。
「そういうわけで、まずは小道具の調達だね。ギター? それともベース?」
「いや、それ小道具じゃないですよね?」
「細かいことは気にしない!」
というか、いつの間にやらコスプレする前提で話が進んでいる……。
部長にはこの手の相談をしてはいけないんだ。そう学習して、私は深くうなだれた。
*
「――ずみ、おい、起きぃや!」
その声で、意識は完全に覚醒した。
反射的に顔を上げると、私を起こしたらしい黒井先生に加え、クラスメイト全員がこちらを凝視していた。
居眠りしてしまったのだ。それに気付くと、たちまち顔がかあっと赤くなる。
「……すみません」
「ま、一回目は大目に見るけどな。委員長の寝顔っちゅー珍しいもんも見れたし」
どこかで小さく笑いが起きる。もう、恥ずかしいったらありゃしない……。
「居眠りと言えば、ウチが去年まで受け持ってたクラスに、これまた泉っちゅーヤツがおってなぁ。あ、この泉は苗字なんやけど。
そいつがまた授業するたびに寝てる常習犯でなー。お見舞いした鉄拳の数は百や二百どころやないかもしれへんな!」
今度は教室中がどっと沸く――が、先生の話はそこで途切れる。次に向かったのは、一分前の私と同じように机に突っ伏す留学生の席だった。
気配……いや、殺気でも感じたのか、彼女はすぐに目を覚ます。が、時すでに遅し。
「せや、ちょうどお前みたいな居眠り常習犯だったわけや」
「……ネてまセンヨ? コナタとはチガウんでス」
「パトリシア。お前はちぃーっと睡眠時間足りてへんのとちゃうか?」
「...Exactly」
「ほぉ」
その通りでございます。パティ、そのネタは黒井先生には通じない……。
「目ェ瞑れ!」
ぱしーん、と小気味良い音が響く。
さっきの話から察するに、丸めた教科書での一撃ならまだ慈悲は残されていそうだ。
それにしても嫌な夢だった。コミケが近いからだろうか。
オタクであることが学校でバレる――なんて、考えたくもない。ましてやコスプレなんてありえない。
……まあ、万が一カミングアウトせざるを得ない状況になった時は、もしかしたらアニ研の門を叩く時もあるかもしれない。
そういえば最初の夢、「会場」がどうとか言っていたような――
* コンプティーク9月号に続…く?
「いやー、会場でバッタリ鉢合わせするなんて思ってもみなかったっスよ」
まん丸レンズのメガネをかけた少女が嬉しげにそう言った。
彼女の両手は、絶対に逃がさんとばかりに私の腕をがっちり掴んで離さない。
「……それはともかく、なんでここに連行されてるかな」
「そりゃあ当然、我らが部長に期待の新人を紹介するために!」
この子は私の壊滅的な絵心を知らない。だからこんなことが言えるのだ。
いま私たちが立っているここは陵桜学園のアニメーション研究部室。
その部長に私を引き合わせるだって? 冗談じゃない、「作る側」には興味なんてないのに。
「期待とか勘弁してよ、私は消費者! 生産はそっちに任せるから」
「つれないこと言わずに、会うだけ会ってみてほしいっス!」
いやいや、お見合いじゃないんだから。
「自家発電できるようになれば何かとオトクだし!」
そういう「自分の世界」を展開できる想像力も私にはない。それは本当に残念。
……そんな押し問答の末、ついに廊下から足音が聞こえてくる。
「来たっスよ!」
がらりと部室のドアが引かれた。
ああもう、タイムオーバーか。面倒だけどきっちり断わってさっさと帰ろう。
「ひより、お待たせー。話って――」
そこに現れた部長らしき人物は、言いかけて動きを止めた。
視線の先には私。そして、私の目もまた、彼女を捉えて離れなかった。
その顔には、確かに見覚えがあったのだ。
*
学校では話せないけれど、折り入って相談がある――そう持ちかけると、部長は快く自宅に招いてくれた。
初めて先輩の家にお邪魔する、というプレッシャーで正直言って緊張していたのだけど、そこはさすが部をまとめる人間。
巧みな話術であっという間に私がリラックスできる空間を作り出してくれたのだった。
「で」
本題。
「話って何? 学校じゃ話せないことなんでしょ?」
「話せないというか、学校に持ち込むのはいくらなんでもまずいかなーと」
私は持参してきた大きな紙袋を示す。部長もこの中身について色々と予想することがあるらしく、ふむ、と即座に相槌を打った。
「兄に『コスプレしてみないか』って言われたんですよ。最初は断ったんですけど、あんまり強く薦めてくるもので」
私自身、容姿に自信があるわけでもない。一線を越えても良いものかどうか判断がつかないのだ。
「だんだんその気になり始めたワケだ。それ衣装でしょ?」
返事をして、紙袋の口をがばっと開く。中には流行りのアニメキャラのコスプレ衣装が入っている。
高校が舞台のアニメで、ブレザータイプの学生服だ。出来はいいけど、はっきり言って地味なので私的評価はいまいち。
「制服なら毎日着てるし、どうせならもっとそれっぽい衣装の方がいいなって思ってるんです」
「それぐらい地味な方が後戻りもきくんじゃないの」
それまで静かに漫画を読んでいた部長の友人が突然口をはさんだ。言い方は少しきついけど、それも正論だとは思う。
が、部長はそれに異を唱える。
「わかってないね。コスプレってのはやると決めたら深みに入り込んでくしかないんだよ!」なんという暴論。
「別に、わかろうと思ってない」
すまし顔で受け流し、彼女は再び本の世界に戻る。本当に仲は良いのだろうか。
「そういうわけで、まずは小道具の調達だね。ギター? それともベース?」
「いや、それ小道具じゃないですよね?」
「細かいことは気にしない!」
というか、いつの間にやらコスプレする前提で話が進んでいる……。
部長にはこの手の相談をしてはいけないんだ。そう学習して、私は深くうなだれた。
*
「――ずみ、おい、起きぃや!」
その声で、意識は完全に覚醒した。
反射的に顔を上げると、私を起こしたらしい黒井先生に加え、クラスメイト全員がこちらを凝視していた。
居眠りしてしまったのだ。それに気付くと、たちまち顔がかあっと赤くなる。
「……すみません」
「ま、一回目は大目に見るけどな。委員長の寝顔っちゅー珍しいもんも見れたし」
どこかで小さく笑いが起きる。もう、恥ずかしいったらありゃしない……。
「居眠りと言えば、ウチが去年まで受け持ってたクラスに、これまた泉っちゅーヤツがおってなぁ。あ、この泉は苗字なんやけど。
そいつがまた授業するたびに寝てる常習犯でなー。お見舞いした鉄拳の数は百や二百どころやないかもしれへんな!」
今度は教室中がどっと沸く――が、先生の話はそこで途切れる。次に向かったのは、一分前の私と同じように机に突っ伏す留学生の席だった。
気配……いや、殺気でも感じたのか、彼女はすぐに目を覚ます。が、時すでに遅し。
「せや、ちょうどお前みたいな居眠り常習犯だったわけや」
「……ネてまセンヨ? コナタとはチガウんでス」
「パトリシア。お前はちぃーっと睡眠時間足りてへんのとちゃうか?」
「...Exactly」
「ほぉ」
その通りでございます。パティ、そのネタは黒井先生には通じない……。
「目ェ瞑れ!」
ぱしーん、と小気味良い音が響く。
さっきの話から察するに、丸めた教科書での一撃ならまだ慈悲は残されていそうだ。
それにしても嫌な夢だった。コミケが近いからだろうか。
オタクであることが学校でバレる――なんて、考えたくもない。ましてやコスプレなんてありえない。
……まあ、万が一カミングアウトせざるを得ない状況になった時は、もしかしたらアニ研の門を叩く時もあるかもしれない。
そういえば最初の夢、「会場」がどうとか言っていたような――
* コンプティーク9月号に続…く?
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#comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
- いやぁ~、夢だったとはいえ、とてもヒヤヒヤしますねぇ~。 &br()学校全体で自分がオタクである事がバレる...。 ....ん~、 &br()考えただけでもゾッとしますね。 しかし、この最後のオチは....? -- Waffen Elite (2009-09-16 22:33:49)