ID:YedjPMk0氏:あのころ

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 わたしのしってることはなしても  だれもほめてくれないんだ  みんなへんなかおしてだまっちゃうんだ  みんなのしりたいことってわたしはしらないんだ  わたしのしってることのなかにはなかったんだ  でもだいじょうぶだよ  おとうさんはほめてくれたから  かがみは見ていた古いノートを机の上に置いた。そして、その表紙をじっと眺める。  どこにでもあるような自由帳。かがみも小学生のころ、同じようなノートを使った覚えがある。  しかし、このノートはかがみのものではない。こなたの家に遊びに言った際に発見し、つい持って帰ってきてしまったものだ。  色々な落書きに紛れて書いてあった、詩のようなもの。それがかがみには気になって仕方がなかった。  今と対して変わらない酷い癖字。しかし、ノートを取る時のような、自分が読めればいいというような荒さが無い。  丁寧さが見て取れるのだ。まるで、他人に見せるのが前提のように。  だからかがみにも難なく読めた。そして、気になった。  これを書いたこなたは、どんな心境だったのだろうか?これは一体誰に見せたくて書いたものなのだろうか? 「…ちゃんと、返さないとね」  考えても答えは浮かばず、かがみはノートを丁寧に鞄の中に詰め込んだ。  きっとこなたは怒るだろうから、なにか奢ってあげないと。そんな事を思いながら。 - あのころ - 「おはよ、こなた」 「こなちゃん、おはよー」  翌日の朝。待ち合わせの場所にいるこなたを見つけたかがみは、つかさと共に挨拶をしながら、鞄から昨日のノートを取り出した。 「ごめんね、こなた。これ、ちょっと持って帰っちゃって…」  差し出されたノートを受け取ったこなたは、少し首をかしげた後、何かを思い出したかのように目を見開いた。 「これ…どこで…?」  そして、少し震える声でかがみにそう聞いた。 「昨日遊びに行ったときに、こなたの部屋で…その、勝手に持って帰って、ごめん…」 「…無くしたと思ってたのに…」  かがみの謝罪が耳に届かないかのように、ノートを見ながら呟くこなた。その顔が、急にかがみの方に向いた。 「これ、中見たの?」 「…ごめん」  こなたに訊かれ、かがみは謝りながら頷いた。 「そっか…見たんだ…あの、その中にさ…その…」 「…あれは、こなたが書いたの?」 「…うん…忘れて…ってのは無理か…」  こなたはノートを鞄にしまいながら、バス停に向かって歩き出した。  かがみも黙ってその後に続く。  つかさだけが何が何やら分からず、こなたとかがみを交互に見ながら二人の後を付いていった。  結局こなたは学校につくまで一言も喋らなかった。  怒られると予想していたかがみは、拍子抜けしたようなもの悲しいような、複雑な気分だった。  休み時間に様子を見に行くと、こなたは机に座って頬杖をついてボーっとしていた。側には、心配そうな顔をしたつかさとみゆきが黙って立っていた。  かがみは教室に入ることが躊躇われ、そのまま自分の教室へと帰った。  昼休み。かがみはいつも通りに隣のクラスに行こうか迷ったが、こなたの事が気になり弁当を持ってこなたのクラスへと向かった。  しかし、そこにいたのはつかさとみゆきだけだった。 「こなたは?」  かがみがそう聞くと、つかさとみゆきは顔を見合わせた。 「それが…お昼休みになると同時に、どこかへ出て行ってしまわれて…」 「こなちゃん、朝から元気なさそうだったし、探しに行こうかって今ゆきちゃんと話してて…」  二人の言葉を聞いたかがみは、一つ頷くと、 「探してくる。二人はそのままご飯食べてて」  とだけ言って、弁当を持ったまま教室を出た。  原因は、恐らくあのノート。だったら、勝手にそのノートを持ち出して覗き見した自分に責任があるはずだ。かがみはそう考え、こなたのいそうな場所を端から当たってみることにした。  昼休みも半ばを過ぎたころ、かがみは屋上でこなたを見つけた。  屋上にはそれなりに人がいたが、こなたはその誰とも遠い場所に座ってチョココロネをかじっていた。 「やっと見つけた」  そう言いながら、かがみはこなたの横に腰を下ろした。 「…かがみ、なんでここに?」 「なんでって、あんたを探したからよ」 「…なんでわざわざ」 「んー…寂しがり屋のうさちゃんだからかしら」 「それ、自分で言っちゃダメだよ」  そう言って、こなたは少し笑った。 「寂しいなら、たまにはみさきち達と食べてあげればいいのに」 「ごもっともでございますな」  おどけた風に言いながら、かがみは自分の膝の上に弁当を広げた。 「でも、もう時間無いからここで食べるわよ」 「まあ、いいけどね」  しばらくの間、二人は無言で自分の昼飯を食べていた。 「…ねえ、かがみ」  少しして、チョココロネを食べ終えたこなたが、かがみに声をかけた。 「ん、なに?」 「わたしを探したのは、あのノートのこと?」 「…うん」  かがみは誤魔化さずに頷いた。 「もしかして、責任感じちゃったとか?」 「相変わらず、変なところは鋭いわね…」  あっさりと本心を言い当てられたかがみは、感心したようにそう言った。 「そっか…でも、そんな大袈裟な話じゃないんだよ」 「でも、こなた朝から様子がおかしかったし…あのノートが原因みたいだし、勝手に持ち出したのわたしだし…」 「んー…だからそんな大袈裟なものじゃ…あのノートもなくしたと思って諦めてたから、今朝見せられるまで持ってかれてたの分からなかったし…朝からボーっとしてたのは、ちょっと昔のこと思い出してただけだから…」 「昔のこと…?」 「うん…あー…じゃあさ、責任感じてるんだったら聞いてくれる?わたしの、昔のこと。つまんない話」 「え?」  かがみは驚いた。こなたがこんな風に自分のことを語ろうとするなんて、初めてのことだったから。 「…うん」  それはとても大切なことだと感じ、かがみは少し居住まいを正して頷いた。 「そんな固くならなくていいよ…きつい話じゃないからさ」 「じゃ、予想以上にきつかったら、耳ふさいで逃げ出すわよ」 「オーケー」  意識することなく叩いた軽口に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。 「小学生の頃ね、友達がいなかったんだ…あっと、勘違いしないでね。イジメられてたとか、クラスで孤立してたとかじゃないんだ。ただ、ちゃんと話せる人がいなかったっていうか…クラスの子と話が合わなかったていうか…」  そこでこなたは少し考え、二度ほど頷いてから言葉を続けた。 「小学生の時ってさ、大体みんなアニメとか特撮とか漫画とか好きだったじゃない?男の子は戦隊物とかロボットアニメとか、女の子だったら魔法少女物とかさ…かがみもそういったの、あったでしょ?」 「う、うん…」 「わたしはさ、お父さんのおかげでそういうの触れる機会が多かったんだ。だから、男の子の話も女の子の話も全部分かってた。相手の話を聞く分には、なんの問題も無かった…」  こなたは溜息を一つついた。 「でも、わたしが話すとダメだった。かがみも知ってる通り、お父さんかなりディープなオタクだからさ。そこから得たわたしの知識もかなりディープになっちゃってね。それをそのままクラスで話してね…誰も、ついてこれなかったんだ」  かがみは納得していた。その手の知識がそれなりに増えたかがみでさえ、ついて行けないことがあるこなたの会話。それを小学生が聞かされたら、それは引いてしまうだろう。 「それでもさ、わたしは話を聞いてもらおうとして、これはみんな知ってるんだって勘違いして、もっと知らないこと話さなきゃって知識を仕入れて、もっと引かれて、悪循環だって気付かずに続けて…最後には、わたし喋らなくなってた。黙ってて言われた。話、分からなくてつまらないって」  話しているこなたの顔は穏やかだった。懐かしそうに頷いたりもしていた。 「人の話聞くの、嫌じゃなかったからさ。それだけで我慢しとこうって。今思ったら、子供っぽくない考えかたしてた。話聞いてるだけなら、わたしもみんなも嫌な思いしないなって…その頃になると、わたしも気付いてた。わたしの話しに、みんなが知りたいことなんて無かったんだって」  かがみは、自分の弁当に手をつけるのも忘れてこなたの話を聞いていた。時折、笑顔すら見せるこなたの表情のおかげか、きつくも無いし悲しくも無かった。ただ、なんとなくやりきれない気持ちが少しだけあった。 「中学の時にさ、話の分かる友達が出来てさ、凄く嬉しかった。話を聞いてくれたし、理解もしてくれた。その子でも理解できないこともあったけど、分かるように努力してくれた。ちゃんと話が出来るって、友達と話が出来るってこんなに嬉しかったんだって、初めて知ったんだ」 「あ、あの…こなた」  かがみは疑問に思うことがあり、こなたの話に口を挟んでしまった。 「ん、なに?」 「その頃ってさ、あんたのお父さんとは話しをしてなかったの?」  あの父親なら、こなたとも普通に話が出来たはずだ。それでも、こなたは会話に飢えていたのだろうか、と。 「してたよ、普通に。でも、やっぱり違うんだ。お父さんと友達だと…あー、お父さんが悪いとかダメだとか、そう言う事じゃないんだけどね…家でお父さんと話すのと、学校とかで友達と話すのって全然違う嬉しさがあったんだよ。それを知っちゃったから、わたし我慢が出来なかった」 「…何を?」 「かがみ達と知り合った時にね、わたしは最初オタクだってばらすつもり無かったんだ」 「え…」  かがみにはそれは意外だった。常にオープンなオタク。かがみはこなたを事をそうだと、ずっと思っていた。恐らく、つかさやみゆきも。 「でもね、上っ面合わせた会話だと、ちっとも嬉しくなかった。もっと自分を出してみたくなった。わたしの知ってること、全部話したくなった。だから、そうした。かがみ達がオタクじゃないって分かってたから、また小学生の時みたいに引かれるんじゃないかって、すごく怖かったけど…」  こなたはかがみの方を見た。そこには、心底嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。 「でも、それで良かったって今は思うよ。みんなわたしの話聞いてくれるから。かがみは眉間にしわ寄せてること多いし、つかさやみゆきさんは困った顔してることあるから、理解して貰ってるとは思えないけど、それでも聞いてくれる。ちゃんと聞こうとしてくれてる。それだけで、嬉しいんだ…」 「そう、だったんだ…」 「あ、つかさやみゆきさんにはこれ内緒だよ。かがみは流してくれそうだけど、あの二人は変に気を遣いそうだからさ」 「それはなんだ。わたしが冷酷な人間だって事か?」 「違うよー。これでもかがみの事、信頼してるんだよ?」 「じゃ、つかさやみゆきは信頼してない、と」 「違うー。もう、意地悪だなー」 「冗談よ」  そう付け加えながら、かがみは少し笑ってしまった。 「…ねえ、かがみ」 「なに?」 「今日、ずっとあのノートのこと考えてた。アレを書いたわたしは、何を思ってたんだろうって」 「答えはでた?」 「…うん。もしかしたら、あの頃のわたしは、褒められたかったんじゃないかって。凄いねって言われたかったんじゃないかって、そう思ったよ…今はもう、そんな事ないと思うけど…って、かがみ?」  かがみの手が、こなたの頭の上に乗っていた。そして、優しく撫で始める。 「ちょ、なに、かがみ…くすぐったい…ってか恥ずかしいよ」 「…凄いね、こなたは」  かがみの呟きにこなたは驚き、そして目を細めた。 「恥ずかしいよ…かがみ…」  その目に、ほんの少しだけ涙が浮かんでいた。 - 終 - **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 良かった。 &br()こなかがの事、もっと好きになった。 &br()良い作品をありがと。 -- 名無しさん (2009-10-25 21:52:11) - かがみ優しいなあ -- 名無しさん (2009-08-27 14:15:18) - とても良かったです -- CHESS D7 (2009-08-27 10:31:32)
 わたしのしってることはなしても  だれもほめてくれないんだ  みんなへんなかおしてだまっちゃうんだ  みんなのしりたいことってわたしはしらないんだ  わたしのしってることのなかにはなかったんだ  でもだいじょうぶだよ  おとうさんはほめてくれたから  かがみは見ていた古いノートを机の上に置いた。そして、その表紙をじっと眺める。  どこにでもあるような自由帳。かがみも小学生のころ、同じようなノートを使った覚えがある。  しかし、このノートはかがみのものではない。こなたの家に遊びに言った際に発見し、つい持って帰ってきてしまったものだ。  色々な落書きに紛れて書いてあった、詩のようなもの。それがかがみには気になって仕方がなかった。  今と対して変わらない酷い癖字。しかし、ノートを取る時のような、自分が読めればいいというような荒さが無い。  丁寧さが見て取れるのだ。まるで、他人に見せるのが前提のように。  だからかがみにも難なく読めた。そして、気になった。  これを書いたこなたは、どんな心境だったのだろうか?これは一体誰に見せたくて書いたものなのだろうか? 「…ちゃんと、返さないとね」  考えても答えは浮かばず、かがみはノートを丁寧に鞄の中に詰め込んだ。  きっとこなたは怒るだろうから、なにか奢ってあげないと。そんな事を思いながら。 - あのころ - 「おはよ、こなた」 「こなちゃん、おはよー」  翌日の朝。待ち合わせの場所にいるこなたを見つけたかがみは、つかさと共に挨拶をしながら、鞄から昨日のノートを取り出した。 「ごめんね、こなた。これ、ちょっと持って帰っちゃって…」  差し出されたノートを受け取ったこなたは、少し首をかしげた後、何かを思い出したかのように目を見開いた。 「これ…どこで…?」  そして、少し震える声でかがみにそう聞いた。 「昨日遊びに行ったときに、こなたの部屋で…その、勝手に持って帰って、ごめん…」 「…無くしたと思ってたのに…」  かがみの謝罪が耳に届かないかのように、ノートを見ながら呟くこなた。その顔が、急にかがみの方に向いた。 「これ、中見たの?」 「…ごめん」  こなたに訊かれ、かがみは謝りながら頷いた。 「そっか…見たんだ…あの、その中にさ…その…」 「…あれは、こなたが書いたの?」 「…うん…忘れて…ってのは無理か…」  こなたはノートを鞄にしまいながら、バス停に向かって歩き出した。  かがみも黙ってその後に続く。  つかさだけが何が何やら分からず、こなたとかがみを交互に見ながら二人の後を付いていった。  結局こなたは学校につくまで一言も喋らなかった。  怒られると予想していたかがみは、拍子抜けしたようなもの悲しいような、複雑な気分だった。  休み時間に様子を見に行くと、こなたは机に座って頬杖をついてボーっとしていた。側には、心配そうな顔をしたつかさとみゆきが黙って立っていた。  かがみは教室に入ることが躊躇われ、そのまま自分の教室へと帰った。  昼休み。かがみはいつも通りに隣のクラスに行こうか迷ったが、こなたの事が気になり弁当を持ってこなたのクラスへと向かった。  しかし、そこにいたのはつかさとみゆきだけだった。 「こなたは?」  かがみがそう聞くと、つかさとみゆきは顔を見合わせた。 「それが…お昼休みになると同時に、どこかへ出て行ってしまわれて…」 「こなちゃん、朝から元気なさそうだったし、探しに行こうかって今ゆきちゃんと話してて…」  二人の言葉を聞いたかがみは、一つ頷くと、 「探してくる。二人はそのままご飯食べてて」  とだけ言って、弁当を持ったまま教室を出た。  原因は、恐らくあのノート。だったら、勝手にそのノートを持ち出して覗き見した自分に責任があるはずだ。かがみはそう考え、こなたのいそうな場所を端から当たってみることにした。  昼休みも半ばを過ぎたころ、かがみは屋上でこなたを見つけた。  屋上にはそれなりに人がいたが、こなたはその誰とも遠い場所に座ってチョココロネをかじっていた。 「やっと見つけた」  そう言いながら、かがみはこなたの横に腰を下ろした。 「…かがみ、なんでここに?」 「なんでって、あんたを探したからよ」 「…なんでわざわざ」 「んー…寂しがり屋のうさちゃんだからかしら」 「それ、自分で言っちゃダメだよ」  そう言って、こなたは少し笑った。 「寂しいなら、たまにはみさきち達と食べてあげればいいのに」 「ごもっともでございますな」  おどけた風に言いながら、かがみは自分の膝の上に弁当を広げた。 「でも、もう時間無いからここで食べるわよ」 「まあ、いいけどね」  しばらくの間、二人は無言で自分の昼飯を食べていた。 「…ねえ、かがみ」  少しして、チョココロネを食べ終えたこなたが、かがみに声をかけた。 「ん、なに?」 「わたしを探したのは、あのノートのこと?」 「…うん」  かがみは誤魔化さずに頷いた。 「もしかして、責任感じちゃったとか?」 「相変わらず、変なところは鋭いわね…」  あっさりと本心を言い当てられたかがみは、感心したようにそう言った。 「そっか…でも、そんな大袈裟な話じゃないんだよ」 「でも、こなた朝から様子がおかしかったし…あのノートが原因みたいだし、勝手に持ち出したのわたしだし…」 「んー…だからそんな大袈裟なものじゃ…あのノートもなくしたと思って諦めてたから、今朝見せられるまで持ってかれてたの分からなかったし…朝からボーっとしてたのは、ちょっと昔のこと思い出してただけだから…」 「昔のこと…?」 「うん…あー…じゃあさ、責任感じてるんだったら聞いてくれる?わたしの、昔のこと。つまんない話」 「え?」  かがみは驚いた。こなたがこんな風に自分のことを語ろうとするなんて、初めてのことだったから。 「…うん」  それはとても大切なことだと感じ、かがみは少し居住まいを正して頷いた。 「そんな固くならなくていいよ…きつい話じゃないからさ」 「じゃ、予想以上にきつかったら、耳ふさいで逃げ出すわよ」 「オーケー」  意識することなく叩いた軽口に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。 「小学生の頃ね、友達がいなかったんだ…あっと、勘違いしないでね。イジメられてたとか、クラスで孤立してたとかじゃないんだ。ただ、ちゃんと話せる人がいなかったっていうか…クラスの子と話が合わなかったていうか…」  そこでこなたは少し考え、二度ほど頷いてから言葉を続けた。 「小学生の時ってさ、大体みんなアニメとか特撮とか漫画とか好きだったじゃない?男の子は戦隊物とかロボットアニメとか、女の子だったら魔法少女物とかさ…かがみもそういったの、あったでしょ?」 「う、うん…」 「わたしはさ、お父さんのおかげでそういうの触れる機会が多かったんだ。だから、男の子の話も女の子の話も全部分かってた。相手の話を聞く分には、なんの問題も無かった…」  こなたは溜息を一つついた。 「でも、わたしが話すとダメだった。かがみも知ってる通り、お父さんかなりディープなオタクだからさ。そこから得たわたしの知識もかなりディープになっちゃってね。それをそのままクラスで話してね…誰も、ついてこれなかったんだ」  かがみは納得していた。その手の知識がそれなりに増えたかがみでさえ、ついて行けないことがあるこなたの会話。それを小学生が聞かされたら、それは引いてしまうだろう。 「それでもさ、わたしは話を聞いてもらおうとして、これはみんな知ってるんだって勘違いして、もっと知らないこと話さなきゃって知識を仕入れて、もっと引かれて、悪循環だって気付かずに続けて…最後には、わたし喋らなくなってた。黙ってて言われた。話、分からなくてつまらないって」  話しているこなたの顔は穏やかだった。懐かしそうに頷いたりもしていた。 「人の話聞くの、嫌じゃなかったからさ。それだけで我慢しとこうって。今思ったら、子供っぽくない考えかたしてた。話聞いてるだけなら、わたしもみんなも嫌な思いしないなって…その頃になると、わたしも気付いてた。わたしの話しに、みんなが知りたいことなんて無かったんだって」  かがみは、自分の弁当に手をつけるのも忘れてこなたの話を聞いていた。時折、笑顔すら見せるこなたの表情のおかげか、きつくも無いし悲しくも無かった。ただ、なんとなくやりきれない気持ちが少しだけあった。 「中学の時にさ、話の分かる友達が出来てさ、凄く嬉しかった。話を聞いてくれたし、理解もしてくれた。その子でも理解できないこともあったけど、分かるように努力してくれた。ちゃんと話が出来るって、友達と話が出来るってこんなに嬉しかったんだって、初めて知ったんだ」 「あ、あの…こなた」  かがみは疑問に思うことがあり、こなたの話に口を挟んでしまった。 「ん、なに?」 「その頃ってさ、あんたのお父さんとは話しをしてなかったの?」  あの父親なら、こなたとも普通に話が出来たはずだ。それでも、こなたは会話に飢えていたのだろうか、と。 「してたよ、普通に。でも、やっぱり違うんだ。お父さんと友達だと…あー、お父さんが悪いとかダメだとか、そう言う事じゃないんだけどね…家でお父さんと話すのと、学校とかで友達と話すのって全然違う嬉しさがあったんだよ。それを知っちゃったから、わたし我慢が出来なかった」 「…何を?」 「かがみ達と知り合った時にね、わたしは最初オタクだってばらすつもり無かったんだ」 「え…」  かがみにはそれは意外だった。常にオープンなオタク。かがみはこなたを事をそうだと、ずっと思っていた。恐らく、つかさやみゆきも。 「でもね、上っ面合わせた会話だと、ちっとも嬉しくなかった。もっと自分を出してみたくなった。わたしの知ってること、全部話したくなった。だから、そうした。かがみ達がオタクじゃないって分かってたから、また小学生の時みたいに引かれるんじゃないかって、すごく怖かったけど…」  こなたはかがみの方を見た。そこには、心底嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。 「でも、それで良かったって今は思うよ。みんなわたしの話聞いてくれるから。かがみは眉間にしわ寄せてること多いし、つかさやみゆきさんは困った顔してることあるから、理解して貰ってるとは思えないけど、それでも聞いてくれる。ちゃんと聞こうとしてくれてる。それだけで、嬉しいんだ…」 「そう、だったんだ…」 「あ、つかさやみゆきさんにはこれ内緒だよ。かがみは流してくれそうだけど、あの二人は変に気を遣いそうだからさ」 「それはなんだ。わたしが冷酷な人間だって事か?」 「違うよー。これでもかがみの事、信頼してるんだよ?」 「じゃ、つかさやみゆきは信頼してない、と」 「違うー。もう、意地悪だなー」 「冗談よ」  そう付け加えながら、かがみは少し笑ってしまった。 「…ねえ、かがみ」 「なに?」 「今日、ずっとあのノートのこと考えてた。アレを書いたわたしは、何を思ってたんだろうって」 「答えはでた?」 「…うん。もしかしたら、あの頃のわたしは、褒められたかったんじゃないかって。凄いねって言われたかったんじゃないかって、そう思ったよ…今はもう、そんな事ないと思うけど…って、かがみ?」  かがみの手が、こなたの頭の上に乗っていた。そして、優しく撫で始める。 「ちょ、なに、かがみ…くすぐったい…ってか恥ずかしいよ」 「…凄いね、こなたは」  かがみの呟きにこなたは驚き、そして目を細めた。 「恥ずかしいよ…かがみ…」  その目に、ほんの少しだけ涙が浮かんでいた。 - 終 - **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - うおぅ…心が澄んだよ… -- 名無しさん (2024-02-25 21:38:48) - 良かった。 &br()こなかがの事、もっと好きになった。 &br()良い作品をありがと。 -- 名無しさん (2009-10-25 21:52:11) - かがみ優しいなあ -- 名無しさん (2009-08-27 14:15:18) - とても良かったです -- CHESS D7 (2009-08-27 10:31:32)

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