ID:AuHZhxI0氏:夏

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「どうしましょ」 「お母さん、どうかしましたか」 「今日、夕方から急用ができてしまって、チェリーのお散歩ができなくなってしまって」 岩崎家は一週間の旅行で家を空けていた、そこで母がチェリーの散歩と餌やりを引き受けた。その最終日の最後の散歩のことを言っている。 「夕方の散歩なら私時間が空いているので」 「みゆき、大丈夫?、チェリーの散歩したことないじゃない」 「みなみさんと何度か行った事あるので」 「それは助かるわ、それじゃ頼むわね」 そう言うと、母は急ぐように出かける用意をしだした。  出かける準備が終わると、  「では、いってきます、お留守番とお散歩お願いね、そうそう、そこに散歩用の綱と糞の持ち帰り用のスコップと袋あるから忘れないように」 「分かりました、いってらっしゃい」  夏休みももう少しで終わり、宿題も委員会関係の用事も済ませたので今日は特に用事はなかった。 とは言え、チェリーの散歩までの時間は何かをするには短過ぎる。まさに暇つぶしとなってしまった。 こんな時の過ぎる時間はとても遅く感じる。私は、自分の部屋で何をするわけでもなく椅子に座っていた。 考えてみれば、チェリーと散歩するのは子犬の時以来だった事を思い出した。 そして、その思い出に浸っているうちに・・・  気が付くと時計は散歩の時間近くを指していた。転寝からそのまま寝てしまったよう。 私は少し急ぎ気味に身支度をして、岩崎家へと足を運んだ。 門を入ると、鎖につながれたチェリーが寝ていた。普段なら放し飼いで、家の出入りも自由だった。しかし留守にするとなるとそうもいかない。 「チェリーちゃん、散歩いきましょうか」 私は散歩用の綱をチェリーの目の前に出してそう言った。 私の声に耳を立てて、ゆっくりと起きて私の方を向くと、一度大きく背伸びとあくびをした。 散歩用の綱に気付いたのかチェリーは激しく尻尾を振り私にじゃれついてきた。 「こら、鎖がとれないじゃない」 いままで束縛されていた開放感なのか、私と一緒に散歩に行くのがよほど嬉しいのか、言い聞かせても、チェリーは言うことを聞かない。 四苦八苦してようやく鎖と散歩用の綱を付けかえた。 「さあ、行きましょうか」 そう言った途端、チェリーは猛ダッシュで門を出ようとした。私はチェリーに引きずられるように門を出る。 さすがにハスキー犬、綱を引く力は女の私では抑え切れなかった。 「チェリー、待ちなさい」 言葉空しく、チェリーの思うがままに道を進んでいく、予定していたコースを大きく外れて隣町に入り、滅多に行かない公園の前でやっとチェリーは止まった。 引っ張られた腕が痛い、そして、久しぶりに長く走ったせいか汗だくとなっていた。さすがのチェリーも口から舌を出して息をしていた。 私は少し公園で休もうとチェリーを公園に誘導する。すると不思議に私の後を素直に付いてきてくれた。 公園に入ると水のみ場があり、私とチェリーは渇きを潤した。その近くにベンチが空いていたのでしばらくそこで休むことにした。 ベンチに座ると、チェリーも私の足元に伏せをして休んだ。    どのくらい時間が経っただろうか、汗が引き、そろそろ帰ろうとした時だった。見知らぬ少年が公園に入ってきた。 幼稚園年長から小学生の低学年くらいの子だろうか、俯いてとても悲しそうに歩いてきて、私の目の前を通り過ぎようとしていた。 「どうしたの?」 私は思わず声をかけた。彼はとても悲しげだった。 すると彼は無言で手にもっていた者を私の前に差し出した。 「虫かご?」 虫かごの中をよく見ると、蝉が沢山入っていた。でも動いている様子はない。 「死んじゃった」 少年はそう言うとまた俯いてしまった。 「沢山捕まえたのね、でもね、蝉の寿命は・・・」 言いかけて止めた。 今の彼に蝉の寿命の話をしても無駄に傷を深めるだけだと思った。そして、おそらく親か友達にその話を既に聞かされたのかもしれない。 彼の悲しげな姿はそれを表しているようにみえた。 話題を変えようと彼を見ると、もう片方の手にスコップを持っている。 「蝉を埋めにきたのね」 無言で少年は頷く、 「一人で? 偉いわね」 そう言うと少年は無言で公園の奥の端まで走り出し、しゃがんでスコップで地面を掘り出した。照れ隠しだろうか。 私はしばらく後ろ姿の少年の行動を見ていた。 するとチェリーが大あくびをして私を見ていた。 「もう充分休んだわね、行きましょうか」 もうしばらく少年を見ていたかったが、危険もなさそうだし、少年にしてやれることはもうない。 私は立ち上がって帰ろうとした。するとそれと同時に少年も立ち上がった。 少年の方を見た。少年は両手で何かを真上に放り投げた。 私は放り投げられた物を目で追った。すると放り投げられた物は羽をばたつかせて飛び立った。どうやら一匹だけ生きていた蝉がいたよう。 かなり大きい蝉、クマゼミだろうか。その蝉は街の空へと消えていった。 少年は蝉が見えなくなった空をただ見ていた。 一匹だけでも生きていれば彼も少しは救われるだろうと思った。 「帰りましょ、チェリーちゃん」 私達は公園を後にした。    公園を離れて間もなく、道端に蝉が仰向けになって落ちていた。かなり大きい蝉、クマゼミ。 元々クマゼミは関東には居ない蝉、それに飛んで行った方向も同じ、少年が飛ばした蝉だと、そう思った。 蝉はピクリとも動かない、さっきの飛行で力尽きたのだろう。 公園の出入り口は一箇所、少年もこの道を通るはず、 この蝉を少年が見たら悲しむだろう。これも何かの縁、私はちょっとした演出をしてやろうと思った。蝉は遠く彼方へ飛んでいった事にしてあげよう。 公園の方を向くと植木が植えてありここは少年には見えない。 落ちている蝉を拾おうとした・・・できなかった。死んでいるとは言え、虫を触るのはさすがに気持ち悪い。 しかし時間はそんなにない、あの少年も用を終えてもうすぐ来るかもしれない。 私はチェリーの糞を処理する要領で、スコップで蝉をすくい、袋の中に入れた。 すると後ろから少年が走って来た、少年はそのまま通りすぎて行った。危なく気付かれるところ。 ほっと一息ついて、帰路についた。  チェリーを鎖につなぎ、帰宅すると母はもうすでに帰っていた。 「おかえり、みゆき、長いお散歩だったわね」 「ただいま、それが・・・チェリーちゃんが暴走しまして、隣町の公園まで」 「ああ、たまにそうゆう事あるわね、お母さんも引きずられたことあるわよ、ところでまた困ったことが・・・」 「なんでしょうか」 「さっき岩崎さんから電話があってね、都合で帰りが明日のお昼になるって、でもチェリーちゃんの餌、今朝の分までしかなくて」 「では私が買ってきます、散歩したついでですし」 「助かるわ、餌は明日の朝の分も含めて二食分お願いね」 そう言うと母は、お金とメモを書いた紙を私に渡した。 「これは?」 「今日の夕食の材料、ついでにお願い」  私は、スーパーで頼まれた品を全て買い物かごに入れ、レジに並んだ。 待っているとどこからか小さな鈴のような音が聞こえる。 音の方を向くと、鈴虫の販売をしていた。 夏休みも終わりとは言え、もう秋の虫がいるなんて、外はまだうだるような暑さ、とても秋を感じるような気分にはなれない。 「次の方ぞうぞ」 レジ係に私の会計の番が来たことを知らされる。慌てて買い物かごをレジの前に置いた。  買い物の帰り道、外はすっかり日が落ち、暗くなっていた。 あれほど騒がしかった蝉の合唱はもうすっかり止んでいる。 そして、微かにコオロギの鳴き声が聞こえる。自然は確実に秋の準備をしている。心なしか風も少し涼しく感じた。 今日は虫に縁がある、・・・虫か・・・虫?・・・虫で思い出した。 チェリーの糞の入った袋と、蝉の入った袋を、岩崎家に置いたままだったことに気が付いた。 「ただいま」 「おかえり」 母に買ってきた物を渡した。そして透かさず話す。 「お母さん、チェリーちゃんの餌、あげてきますね」 「そうね、いい時間ね、それじゃお願い」 母は買い物袋から餌を取り出し、そしてチェリーの餌の受け皿を持ってきて私に渡した。  岩崎家の庭に着くと、受け皿に餌を移しチェリーに餌を与えた。 長い散歩だったせいかお腹が空いていたらしく、激しい勢いで餌を食べだした。その食べている時間を利用し、二つの袋を回収した。 餌を食べ終わると、すぐに伏せて休んでしまった。 「チェリーちゃん、おやすみなさい」 話しかけても反応しない。 受け皿も回収し私は自宅へ戻った。  受け皿を母に渡し、二つのを袋をごみ箱に入れようとした。その時、公園で空を見つめる少年の姿が脳裏に浮かんだ。 「どうしたのみゆき、ごみ箱になのかある?」 「い、いいえ、なんでもないです」 私は慌てて糞の入ってる袋だけを捨てた。 「その袋は?」 「蝉が入っています」 「蝉?みゆきって昆虫採集の趣味なんかあった?」 不思議そうに私を見つめる母。私は散歩で起きたことを話した。 「そんな事があったの・・・確かに捨て辛いわね」 「庭に埋めてあげてもいいのだけど・・・やはり公園に戻してあげた方がいいかなと、明日の朝の散歩、私が行きます」 「あら、でもそうしてくれると助かるわ、お母さん朝苦手だし」 「この袋、私の部屋に置いてきます」 「みゆき、それ置いたらすぐご飯にしましょ、お父さんも遅くなるって言ってたし」 「え、さっき買い物したばかりなのに」 「今日の分は冷蔵庫にあったので足りたの、買ってくれたのは明日にまわすわ」 「・・・」 散歩の疲れが急に湧き上がってきた。  朝日が昇る前、昨日と同じように、散歩用の綱をもって岩崎家に向かった。 「チェリーちゃんお散歩行きましょうか」 昨日あれほど暴れていたチェリー、不思議なことに今日は素直に綱のかけ替えをさせてくれた。 そして、散々私を引きずっていたのに、今日は私の一歩後を付いてくる。 私はチェリーを誘導するように昨日の公園に向かった。大人しいチェリーのおかげで、汗をかくことなく公園に着いた。  早朝の公園はだれも居なかった。昨日、少年が蝉を埋めた所に向かった。 そこには、土が盛られていた。盛られた土の頂上に棒アイスの棒が刺さっていた。 (せみのはか) 棒にはサインペンでそう書かれていた。いかにも子供の作った墓らしい。 気付くと、その墓の隣りにもう一つ土が盛られていた。同じように棒が刺さっている。 (くまぜみのはか) 同じ筆跡でそう書かれていた。 放り投げた蝉、もう余命幾許もないことを少年は悟っていたと。 既に死んだ蝉とは別に墓を作った、この事からも特別な感情が入っているのが分かった。 しかしその蝉は今、私が持っている。・・・彼はあの後、蝉を探したのだろうか。 私は振り返り、少年が見上げていた空を見た。 その時、私は愕然とした。 私が蝉を取った道が丸見えだった。 道から少年が見えなので私は向こうからも道が見えないと勝手に思い込んでいた。 蝉を放り投げて、蝉が飛び立ち、落ちて、私が拾うまでの光景を全て少年は見ていた事になる。 私は・・・なんて事をしてまった。余計なお世話とはまさにこの事を言うのだろう。 私は蝉を犬の糞と同じ扱いで拾って、そして、ゴミ袋の中に入れた。その行動を少年が見ていたらどう思ったかはすぐに想像できた。 少年は、走って私の行動を止めようとしたのだろうか・・・ 彼が蝉を束縛して閉じ込めて死なせてしまった。その罪を彼は必死に償おうをしていた。それを私は奪ってしまった。 せめて、あの時素手で蝉を取っていれば・・・無理に隠したりせずに少年に手渡すことも出来たかもしれない。  今、私のできることは、彼の代わりに蝉をあの墓に埋葬してやること。道具を使わず素手で。これは私なりの精一杯の気持ち。 私は袋を取り出し中に手を恐る恐る入れた。やはり怖い・・・そして・・・覚悟を決めた。目を瞑り中の蝉を掴んで取り出した。そしてゆっくり目を開けた。  掴んだ感触は硬い感じで気持ち悪い感触は無かった。外観は少し気持ち悪いが、羽は透明できれい。 思ったほどたいしたことはない、これなら生魚の方がよっぽど感触は気持ち悪い。 私は蝉に対しても酷い事をしていたことに気が付いた。 「ごめんなさい、クマゼミさん」 蝉にそう語りかけ、そっと墓の前に蝉を置いた。そして周りの土を手で被せて少年の作った墓のように仕上げた。 朝日が公園に差し込んできた、朝日は公園の林を照らし出す。すると、今まで数匹の蝉の鳴き声が大合唱に変わった。 それはまるで、終わりゆく夏を惜しむかのように、墓の中に居る仲間の死を惜しむように短い命を削り鳴いている。 今まで私は蝉の鳴き声を聞いてこんな気持ちなることはなかった。私は少年と蝉に何か大切なものを教わった。そんな気がした。 チェリーが大あくびをして私を見ている。私を散歩に戻そうと誘っている。 「チェリーちゃん、あと五分、いえ、二分でいい、もう少し聴いていたいの、蝉達の命の賛歌を、それまで待って・・・」 日はますます力強く照りだす。蝉の大合唱は公園いっぱいに響き渡っていった。  新学期が始まった。 かがみ「帰りましょ」 ががみさんが私のクラスに入ってきた。 つかさ「お姉ちゃん、学級委員の会議はどうしたの?」 かがみ「今日は新学期の初めだから、顔見せみたいなもの、すぐ終わったわ、ね、みゆき」 みゆき「そうですね」 こなた「久しぶりに四人で帰れるね」 かがみ「久しぶりもなにも会ったのは、夏休みの花火大会以来じゃない」 つかさ「久しぶりついでにどこかで一緒にお話しない」 かがみ「それいいね、こなた、みゆきは?」 こなた「いいよ」 みゆき「いいですよ」 かがみ「決まりね」 私たちは、校舎を出てバス停に向かっていった。 すると通り道に一匹の蝉がひっくり返って倒れていた。 私はそっとその蝉を拾い上げた。 こなた・つかさ・かがみ「「「えっ」」」 みゆき「どうかしましたか」 かがみさんは私から一歩離れた、つかささんはかがみさんの後ろに隠れてしまった、泉さんはその場で私の持っている蝉を見ていた。 かがみ「どうかしましたか、じゃないでしょ、さっき拾った、それ」 みゆき「ああ、これはアブラゼミの雌ですね、腹部の特徴から・・・」 かがみ「そんな事は聞いてないわよ、みゆき、虫をまるで小石を拾うように、つかさが怖がってるじゃない」 みゆき「そんなに怖いですか」 私はかがみさんに蝉を差し出した。 かがみ「わ、わ、ちょっと、これ以上近づけないないで、こなた、みゆきに何か言ってやって」 しかし泉さんは何も言わず、私とかがみさんのやり取りを楽しんでいるように見ていた。 みゆき「そう、私も少し前まで、そうだった、その為に、私は・・・」 かがみ「なに分けの分からないことを、いいからそれをもう少し離して!」 つかさ「ゆきちゃん、何かあったの」 つかさんがかがみさんの後ろで震えていた。 みんなを怖がらすつもりはなかった。思えば公園の出来事がなかったら私もきっとかがみさんやつかささんの様な反応をしていた。私は腕を元に戻した。 そこに泉さんが割って入るように話し出した。 こなた「つかさの反応は想定内だね、かがみの怖がる姿が萌えた、みゆきさんも意外な一面を見て萌えたよ」 かがみ「こなた、そんな事を・・・あんたに助けを求めた私がバカだったわ」 こなた「虫を怖がるのは萌え要素としては充分なんだよ、みゆきさんも分かってきたね」 みゆき「私は別にそんなつもりで、ただ蝉はそんなに怖いものではないと、かがみさん、つかささん、ごめんなさい」 かがみ「謝らなくていいわよ、みゆきがイメージとかけ離れたことをするからちょっと驚いただけ」 こなた「ほう、みゆきさん、虫のよさが分かるんだね」 みゆき「泉さんは大丈夫なのですか」 こなた「まあ、ゴキブリとかはさすがにダメだけどね、一通りの昆虫ならいけるよ、よく言うでしょ昆虫は男のロマンって」 かがみ「それ、似たようなこと以前言わなかったか、しかし、みゆき、虫が平気だったなんて知らなかった」 みゆき「泉さんも私が蝉を拾った時、蝉をしばらく見ていましたね、興味あるのですか」 こなた「・・・昆虫にはそんなに興味ないけど、蝉には思い出があってね、みゆきさんが蝉を拾ったから思い出しちゃったよ」 みゆき「どんな思い出なんですか」 少し間を空けると、泉さんは私の持っている蝉を見ながら話し始めた。 こなた「子供の頃、お父さんと昆虫採取したんだけど、結局取れたのが蝉だけでね、それでも虫かごいっぱいに捕れた」      「帰りに、お父さんが蝉を放してあげなって言うんだけど、折角捕ったのにもったいないって駄々こねてね、それでも、お父さん、何度も放すように言ってくるんだ」    「それでも私は持ち帰って・・・」 泉さんはそこで話すを止めてしまた。言いたくないのは分かったので私は間接的な表現で完結させてあげた。 みゆき「一週間後におじ様の言ってる意味が分かった・・・」 泉さんは無言で頷いた。 かがみ「・・・」 かがみさんは黙って泉さんを見ていただけだった。きっとかがみさんは泉さんに今までにない共感を感じているに違いない、しかし、私が怖がらせて、 しかも泉さんに茶化されてしまった為に素直に感情を表せない、そう思った。 こなた「虫とはいえ、あれは悲しかったね、あれからもう昆虫採集はしなくなったよ」 つかさ「なにがそんなに悲しいの、一週間後何があったの」 つかささんがかがみさんの後ろから出てきた。体の震えは止まっている。 かがみ「つかさ、本当に分からないの、成虫の蝉の寿命は一週間」 つかさ「え、そんなに短いの、知らなかった、蝉って夏中ずーと鳴いているもんだと思ってた・・・」 みゆき「本来はもっと長いみたいですけど、捕まるとそのくらいになってしまうそうですね」 つかささんはかがみさんの前に出て私に近づき、私の持ってる蝉をじっと見る。 つかさ「よく見ると・・・ゆきちゃんの言うとおりそんなに怖くないかも、生イカを下ろした時の肝の方がよっぽどきもち悪いね・・・」    「夏も終わりだし、この蝉、もう寿命だったんだね、かわいそうに・・・ねえ、踏まれないような所に置いてあげようよ」 こなた「そうだね、蝉が居なくなれば・・・高校最後の夏・・・もう少し続いて欲しいな」 かがみ「何蝉の話でしんみりしてるの、、蝉なんかで・・・」 そう言ってるけど、私には誰よりも悲しそうな顔をしてるように見えた。 しばらく沈黙がつづいた。   みゆき「つかささん、泉さん、夏はまだ終わらない」 つかさ「どうして」 みゆき「なんとなくそう思うのです、ところで泉さん、虫かごの蝉、もし、一匹だけ生きていたらどうしましたか」 こなた「そりゃ逃がすだろうけど、なんでそんなことを聞くの・・・もしかしてその蝉」 みゆき「私ならこうします」 私は鞄を足元に置き、蝉を両手でつかんで、真上に放り投げた。    蝉が生きていたのは拾った時から気付いていた。しかし掴んでいる本人以外は死んでいると勘違いするほど衰弱していた。ところがつかささんが私に近づいたとき時、 蝉は羽を広げようと私の指を押し返かえした。それはとても力強かった。放してくれと叫んでいる様だった。最後の力を振り絞り私から逃れようと抗う。 私はその蝉の最後の叫びに答えた。  蝉はそれを待っていたかのように羽を開いて激しく羽ばたいた。 そして、校舎に向かって飛んで行った。蝉はみるみる高度を上げた。 つかささんは私の前に出てきて蝉を追った。蝉が生きていたことを喜んでいるようだった。 かがみさんは胸に手を当てて静かに蝉を見守ってる。羽ばたく蝉をを励ましているようだった。 泉さんは悲しい顔をしていた。やがて来る蝉の運命を哀れんでいるようだった。 これがあの時の少年の気持ち・・・償いや謝罪でした事なんかじゃない。もっと素晴らしいもの、言葉では言い表せない。 いいえ、それはいつでも考えられる。今は飛び去る蝉を見届けていたい。    蝉は校舎を超えてそのまま空の中に吸い込まれるように消えていった。 私たち四人は見えなくなっても空を見つめ、いつまでも見送った。いつまでも。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 母とか友人とかとの会話はさほど問題ないんだけど、チェリーに話しかけるときの口調が強すぎると思う。 &br()少年に対しての話し方も。みゆきは基本的にどんな人間(人間に限らず)が相手でも敬語だから、そこを意識しとけばいい感じ。 &br()現実そんなやつがいるとは思わんけどw &br()お話は綺麗で良かった。 -- 名無しさん (2009-08-14 09:32:14) - この作品の作者です。 &br()みゆきの口調がどうしても表現できません(他のキャラもそうかもしれないけど) &br()具体的にどこがどうおかしいのか指摘してくれるとうれしいです。 &br() -- 作者より (2009-08-14 08:05:26)
「どうしましょ」 「お母さん、どうかしましたか」 「今日、夕方から急用ができてしまって、チェリーのお散歩ができなくなってしまって」 岩崎家は一週間の旅行で家を空けていた、そこで母がチェリーの散歩と餌やりを引き受けた。その最終日の最後の散歩のことを言っている。 「夕方の散歩なら私時間が空いているので」 「みゆき、大丈夫?、チェリーの散歩したことないじゃない」 「みなみさんと何度か行った事あるので」 「それは助かるわ、それじゃ頼むわね」 そう言うと、母は急ぐように出かける用意をしだした。  出かける準備が終わると、  「では、いってきます、お留守番とお散歩お願いね、そうそう、そこに散歩用の綱と糞の持ち帰り用のスコップと袋あるから忘れないように」 「分かりました、いってらっしゃい」  夏休みももう少しで終わり、宿題も委員会関係の用事も済ませたので今日は特に用事はなかった。 とは言え、チェリーの散歩までの時間は何かをするには短過ぎる。まさに暇つぶしとなってしまった。 こんな時の過ぎる時間はとても遅く感じる。私は、自分の部屋で何をするわけでもなく椅子に座っていた。 考えてみれば、チェリーと散歩するのは子犬の時以来だった事を思い出した。 そして、その思い出に浸っているうちに・・・  気が付くと時計は散歩の時間近くを指していた。転寝からそのまま寝てしまったよう。 私は少し急ぎ気味に身支度をして、岩崎家へと足を運んだ。 門を入ると、鎖につながれたチェリーが寝ていた。普段なら放し飼いで、家の出入りも自由だった。しかし留守にするとなるとそうもいかない。 「チェリーちゃん、散歩いきましょうか」 私は散歩用の綱をチェリーの目の前に出してそう言った。 私の声に耳を立てて、ゆっくりと起きて私の方を向くと、一度大きく背伸びとあくびをした。 散歩用の綱に気付いたのかチェリーは激しく尻尾を振り私にじゃれついてきた。 「こら、鎖がとれないじゃない」 いままで束縛されていた開放感なのか、私と一緒に散歩に行くのがよほど嬉しいのか、言い聞かせても、チェリーは言うことを聞かない。 四苦八苦してようやく鎖と散歩用の綱を付けかえた。 「さあ、行きましょうか」 そう言った途端、チェリーは猛ダッシュで門を出ようとした。私はチェリーに引きずられるように門を出る。 さすがにハスキー犬、綱を引く力は女の私では抑え切れなかった。 「チェリー、待ちなさい」 言葉空しく、チェリーの思うがままに道を進んでいく、予定していたコースを大きく外れて隣町に入り、滅多に行かない公園の前でやっとチェリーは止まった。 引っ張られた腕が痛い、そして、久しぶりに長く走ったせいか汗だくとなっていた。さすがのチェリーも口から舌を出して息をしていた。 私は少し公園で休もうとチェリーを公園に誘導する。すると不思議に私の後を素直に付いてきてくれた。 公園に入ると水のみ場があり、私とチェリーは渇きを潤した。その近くにベンチが空いていたのでしばらくそこで休むことにした。 ベンチに座ると、チェリーも私の足元に伏せをして休んだ。    どのくらい時間が経っただろうか、汗が引き、そろそろ帰ろうとした時だった。見知らぬ少年が公園に入ってきた。 幼稚園年長から小学生の低学年くらいの子だろうか、俯いてとても悲しそうに歩いてきて、私の目の前を通り過ぎようとしていた。 「どうしたの?」 私は思わず声をかけた。彼はとても悲しげだった。 すると彼は無言で手にもっていた者を私の前に差し出した。 「虫かご?」 虫かごの中をよく見ると、蝉が沢山入っていた。でも動いている様子はない。 「死んじゃった」 少年はそう言うとまた俯いてしまった。 「沢山捕まえたのね、でもね、蝉の寿命は・・・」 言いかけて止めた。 今の彼に蝉の寿命の話をしても無駄に傷を深めるだけだと思った。そして、おそらく親か友達にその話を既に聞かされたのかもしれない。 彼の悲しげな姿はそれを表しているようにみえた。 話題を変えようと彼を見ると、もう片方の手にスコップを持っている。 「蝉を埋めにきたのね」 無言で少年は頷く、 「一人で? 偉いわね」 そう言うと少年は無言で公園の奥の端まで走り出し、しゃがんでスコップで地面を掘り出した。照れ隠しだろうか。 私はしばらく後ろ姿の少年の行動を見ていた。 するとチェリーが大あくびをして私を見ていた。 「もう充分休んだわね、行きましょうか」 もうしばらく少年を見ていたかったが、危険もなさそうだし、少年にしてやれることはもうない。 私は立ち上がって帰ろうとした。するとそれと同時に少年も立ち上がった。 少年の方を見た。少年は両手で何かを真上に放り投げた。 私は放り投げられた物を目で追った。すると放り投げられた物は羽をばたつかせて飛び立った。どうやら一匹だけ生きていた蝉がいたよう。 かなり大きい蝉、クマゼミだろうか。その蝉は街の空へと消えていった。 少年は蝉が見えなくなった空をただ見ていた。 一匹だけでも生きていれば彼も少しは救われるだろうと思った。 「帰りましょ、チェリーちゃん」 私達は公園を後にした。    公園を離れて間もなく、道端に蝉が仰向けになって落ちていた。かなり大きい蝉、クマゼミ。 元々クマゼミは関東には居ない蝉、それに飛んで行った方向も同じ、少年が飛ばした蝉だと、そう思った。 蝉はピクリとも動かない、さっきの飛行で力尽きたのだろう。 公園の出入り口は一箇所、少年もこの道を通るはず、 この蝉を少年が見たら悲しむだろう。これも何かの縁、私はちょっとした演出をしてやろうと思った。蝉は遠く彼方へ飛んでいった事にしてあげよう。 公園の方を向くと植木が植えてありここは少年には見えない。 落ちている蝉を拾おうとした・・・できなかった。死んでいるとは言え、虫を触るのはさすがに気持ち悪い。 しかし時間はそんなにない、あの少年も用を終えてもうすぐ来るかもしれない。 私はチェリーの糞を処理する要領で、スコップで蝉をすくい、袋の中に入れた。 すると後ろから少年が走って来た、少年はそのまま通りすぎて行った。危なく気付かれるところ。 ほっと一息ついて、帰路についた。  チェリーを鎖につなぎ、帰宅すると母はもうすでに帰っていた。 「おかえり、みゆき、長いお散歩だったわね」 「ただいま、それが・・・チェリーちゃんが暴走しまして、隣町の公園まで」 「ああ、たまにそうゆう事あるわね、お母さんも引きずられたことあるわよ、ところでまた困ったことが・・・」 「なんでしょうか」 「さっき岩崎さんから電話があってね、都合で帰りが明日のお昼になるって、でもチェリーちゃんの餌、今朝の分までしかなくて」 「では私が買ってきます、散歩したついでですし」 「助かるわ、餌は明日の朝の分も含めて二食分お願いね」 そう言うと母は、お金とメモを書いた紙を私に渡した。 「これは?」 「今日の夕食の材料、ついでにお願い」  私は、スーパーで頼まれた品を全て買い物かごに入れ、レジに並んだ。 待っているとどこからか小さな鈴のような音が聞こえる。 音の方を向くと、鈴虫の販売をしていた。 夏休みも終わりとは言え、もう秋の虫がいるなんて、外はまだうだるような暑さ、とても秋を感じるような気分にはなれない。 「次の方ぞうぞ」 レジ係に私の会計の番が来たことを知らされる。慌てて買い物かごをレジの前に置いた。  買い物の帰り道、外はすっかり日が落ち、暗くなっていた。 あれほど騒がしかった蝉の合唱はもうすっかり止んでいる。 そして、微かにコオロギの鳴き声が聞こえる。自然は確実に秋の準備をしている。心なしか風も少し涼しく感じた。 今日は虫に縁がある、・・・虫か・・・虫?・・・虫で思い出した。 チェリーの糞の入った袋と、蝉の入った袋を、岩崎家に置いたままだったことに気が付いた。 「ただいま」 「おかえり」 母に買ってきた物を渡した。そして透かさず話す。 「お母さん、チェリーちゃんの餌、あげてきますね」 「そうね、いい時間ね、それじゃお願い」 母は買い物袋から餌を取り出し、そしてチェリーの餌の受け皿を持ってきて私に渡した。  岩崎家の庭に着くと、受け皿に餌を移しチェリーに餌を与えた。 長い散歩だったせいかお腹が空いていたらしく、激しい勢いで餌を食べだした。その食べている時間を利用し、二つの袋を回収した。 餌を食べ終わると、すぐに伏せて休んでしまった。 「チェリーちゃん、おやすみなさい」 話しかけても反応しない。 受け皿も回収し私は自宅へ戻った。  受け皿を母に渡し、二つのを袋をごみ箱に入れようとした。その時、公園で空を見つめる少年の姿が脳裏に浮かんだ。 「どうしたのみゆき、ごみ箱になのかある?」 「い、いいえ、なんでもないです」 私は慌てて糞の入ってる袋だけを捨てた。 「その袋は?」 「蝉が入っています」 「蝉?みゆきって昆虫採集の趣味なんかあった?」 不思議そうに私を見つめる母。私は散歩で起きたことを話した。 「そんな事があったの・・・確かに捨て辛いわね」 「庭に埋めてあげてもいいのだけど・・・やはり公園に戻してあげた方がいいかなと、明日の朝の散歩、私が行きます」 「あら、でもそうしてくれると助かるわ、お母さん朝苦手だし」 「この袋、私の部屋に置いてきます」 「みゆき、それ置いたらすぐご飯にしましょ、お父さんも遅くなるって言ってたし」 「え、さっき買い物したばかりなのに」 「今日の分は冷蔵庫にあったので足りたの、買ってくれたのは明日にまわすわ」 「・・・」 散歩の疲れが急に湧き上がってきた。  朝日が昇る前、昨日と同じように、散歩用の綱をもって岩崎家に向かった。 「チェリーちゃんお散歩行きましょうか」 昨日あれほど暴れていたチェリー、不思議なことに今日は素直に綱のかけ替えをさせてくれた。 そして、散々私を引きずっていたのに、今日は私の一歩後を付いてくる。 私はチェリーを誘導するように昨日の公園に向かった。大人しいチェリーのおかげで、汗をかくことなく公園に着いた。  早朝の公園はだれも居なかった。昨日、少年が蝉を埋めた所に向かった。 そこには、土が盛られていた。盛られた土の頂上に棒アイスの棒が刺さっていた。 (せみのはか) 棒にはサインペンでそう書かれていた。いかにも子供の作った墓らしい。 気付くと、その墓の隣りにもう一つ土が盛られていた。同じように棒が刺さっている。 (くまぜみのはか) 同じ筆跡でそう書かれていた。 放り投げた蝉、もう余命幾許もないことを少年は悟っていたと。 既に死んだ蝉とは別に墓を作った、この事からも特別な感情が入っているのが分かった。 しかしその蝉は今、私が持っている。・・・彼はあの後、蝉を探したのだろうか。 私は振り返り、少年が見上げていた空を見た。 その時、私は愕然とした。 私が蝉を取った道が丸見えだった。 道から少年が見えなので私は向こうからも道が見えないと勝手に思い込んでいた。 蝉を放り投げて、蝉が飛び立ち、落ちて、私が拾うまでの光景を全て少年は見ていた事になる。 私は・・・なんて事をしてまった。余計なお世話とはまさにこの事を言うのだろう。 私は蝉を犬の糞と同じ扱いで拾って、そして、ゴミ袋の中に入れた。その行動を少年が見ていたらどう思ったかはすぐに想像できた。 少年は、走って私の行動を止めようとしたのだろうか・・・ 彼が蝉を束縛して閉じ込めて死なせてしまった。その罪を彼は必死に償おうをしていた。それを私は奪ってしまった。 せめて、あの時素手で蝉を取っていれば・・・無理に隠したりせずに少年に手渡すことも出来たかもしれない。  今、私のできることは、彼の代わりに蝉をあの墓に埋葬してやること。道具を使わず素手で。これは私なりの精一杯の気持ち。 私は袋を取り出し中に手を恐る恐る入れた。やはり怖い・・・そして・・・覚悟を決めた。目を瞑り中の蝉を掴んで取り出した。そしてゆっくり目を開けた。  掴んだ感触は硬い感じで気持ち悪い感触は無かった。外観は少し気持ち悪いが、羽は透明できれい。 思ったほどたいしたことはない、これなら生魚の方がよっぽど感触は気持ち悪い。 私は蝉に対しても酷い事をしていたことに気が付いた。 「ごめんなさい、クマゼミさん」 蝉にそう語りかけ、そっと墓の前に蝉を置いた。そして周りの土を手で被せて少年の作った墓のように仕上げた。 朝日が公園に差し込んできた、朝日は公園の林を照らし出す。すると、今まで数匹の蝉の鳴き声が大合唱に変わった。 それはまるで、終わりゆく夏を惜しむかのように、墓の中に居る仲間の死を惜しむように短い命を削り鳴いている。 今まで私は蝉の鳴き声を聞いてこんな気持ちなることはなかった。私は少年と蝉に何か大切なものを教わった。そんな気がした。 チェリーが大あくびをして私を見ている。私を散歩に戻そうと誘っている。 「チェリーちゃん、あと五分、いえ、二分でいい、もう少し聴いていたいの、蝉達の命の賛歌を、それまで待って・・・」 日はますます力強く照りだす。蝉の大合唱は公園いっぱいに響き渡っていった。  新学期が始まった。 かがみ「帰りましょ」 ががみさんが私のクラスに入ってきた。 つかさ「お姉ちゃん、学級委員の会議はどうしたの?」 かがみ「今日は新学期の初めだから、顔見せみたいなもの、すぐ終わったわ、ね、みゆき」 みゆき「そうですね」 こなた「久しぶりに四人で帰れるね」 かがみ「久しぶりもなにも会ったのは、夏休みの花火大会以来じゃない」 つかさ「久しぶりついでにどこかで一緒にお話しない」 かがみ「それいいね、こなた、みゆきは?」 こなた「いいよ」 みゆき「いいですよ」 かがみ「決まりね」 私たちは、校舎を出てバス停に向かっていった。 すると通り道に一匹の蝉がひっくり返って倒れていた。 私はそっとその蝉を拾い上げた。 こなた・つかさ・かがみ「「「えっ」」」 みゆき「どうかしましたか」 かがみさんは私から一歩離れた、つかささんはかがみさんの後ろに隠れてしまった、泉さんはその場で私の持っている蝉を見ていた。 かがみ「どうかしましたか、じゃないでしょ、さっき拾った、それ」 みゆき「ああ、これはアブラゼミの雌ですね、腹部の特徴から・・・」 かがみ「そんな事は聞いてないわよ、みゆき、虫をまるで小石を拾うように、つかさが怖がってるじゃない」 みゆき「そんなに怖いですか」 私はかがみさんに蝉を差し出した。 かがみ「わ、わ、ちょっと、これ以上近づけないないで、こなた、みゆきに何か言ってやって」 しかし泉さんは何も言わず、私とかがみさんのやり取りを楽しんでいるように見ていた。 みゆき「そう、私も少し前まで、そうだった、その為に、私は・・・」 かがみ「なに分けの分からないことを、いいからそれをもう少し離して!」 つかさ「ゆきちゃん、何かあったの」 つかさんがかがみさんの後ろで震えていた。 みんなを怖がらすつもりはなかった。思えば公園の出来事がなかったら私もきっとかがみさんやつかささんの様な反応をしていた。私は腕を元に戻した。 そこに泉さんが割って入るように話し出した。 こなた「つかさの反応は想定内だね、かがみの怖がる姿が萌えた、みゆきさんも意外な一面を見て萌えたよ」 かがみ「こなた、そんな事を・・・あんたに助けを求めた私がバカだったわ」 こなた「虫を怖がるのは萌え要素としては充分なんだよ、みゆきさんも分かってきたね」 みゆき「私は別にそんなつもりで、ただ蝉はそんなに怖いものではないと、かがみさん、つかささん、ごめんなさい」 かがみ「謝らなくていいわよ、みゆきがイメージとかけ離れたことをするからちょっと驚いただけ」 こなた「ほう、みゆきさん、虫のよさが分かるんだね」 みゆき「泉さんは大丈夫なのですか」 こなた「まあ、ゴキブリとかはさすがにダメだけどね、一通りの昆虫ならいけるよ、よく言うでしょ昆虫は男のロマンって」 かがみ「それ、似たようなこと以前言わなかったか、しかし、みゆき、虫が平気だったなんて知らなかった」 みゆき「泉さんも私が蝉を拾った時、蝉をしばらく見ていましたね、興味あるのですか」 こなた「・・・昆虫にはそんなに興味ないけど、蝉には思い出があってね、みゆきさんが蝉を拾ったから思い出しちゃったよ」 みゆき「どんな思い出なんですか」 少し間を空けると、泉さんは私の持っている蝉を見ながら話し始めた。 こなた「子供の頃、お父さんと昆虫採取したんだけど、結局取れたのが蝉だけでね、それでも虫かごいっぱいに捕れた」      「帰りに、お父さんが蝉を放してあげなって言うんだけど、折角捕ったのにもったいないって駄々こねてね、それでも、お父さん、何度も放すように言ってくるんだ」    「それでも私は持ち帰って・・・」 泉さんはそこで話すを止めてしまた。言いたくないのは分かったので私は間接的な表現で完結させてあげた。 みゆき「一週間後におじ様の言ってる意味が分かった・・・」 泉さんは無言で頷いた。 かがみ「・・・」 かがみさんは黙って泉さんを見ていただけだった。きっとかがみさんは泉さんに今までにない共感を感じているに違いない、しかし、私が怖がらせて、 しかも泉さんに茶化されてしまった為に素直に感情を表せない、そう思った。 こなた「虫とはいえ、あれは悲しかったね、あれからもう昆虫採集はしなくなったよ」 つかさ「なにがそんなに悲しいの、一週間後何があったの」 つかささんがかがみさんの後ろから出てきた。体の震えは止まっている。 かがみ「つかさ、本当に分からないの、成虫の蝉の寿命は一週間」 つかさ「え、そんなに短いの、知らなかった、蝉って夏中ずーと鳴いているもんだと思ってた・・・」 みゆき「本来はもっと長いみたいですけど、捕まるとそのくらいになってしまうそうですね」 つかささんはかがみさんの前に出て私に近づき、私の持ってる蝉をじっと見る。 つかさ「よく見ると・・・ゆきちゃんの言うとおりそんなに怖くないかも、生イカを下ろした時の肝の方がよっぽどきもち悪いね・・・」    「夏も終わりだし、この蝉、もう寿命だったんだね、かわいそうに・・・ねえ、踏まれないような所に置いてあげようよ」 こなた「そうだね、蝉が居なくなれば・・・高校最後の夏・・・もう少し続いて欲しいな」 かがみ「何蝉の話でしんみりしてるの、、蝉なんかで・・・」 そう言ってるけど、私には誰よりも悲しそうな顔をしてるように見えた。 しばらく沈黙がつづいた。   みゆき「つかささん、泉さん、夏はまだ終わらない」 つかさ「どうして」 みゆき「なんとなくそう思うのです、ところで泉さん、虫かごの蝉、もし、一匹だけ生きていたらどうしましたか」 こなた「そりゃ逃がすだろうけど、なんでそんなことを聞くの・・・もしかしてその蝉」 みゆき「私ならこうします」 私は鞄を足元に置き、蝉を両手でつかんで、真上に放り投げた。    蝉が生きていたのは拾った時から気付いていた。しかし掴んでいる本人以外は死んでいると勘違いするほど衰弱していた。ところがつかささんが私に近づいたとき時、 蝉は羽を広げようと私の指を押し返かえした。それはとても力強かった。放してくれと叫んでいる様だった。最後の力を振り絞り私から逃れようと抗う。 私はその蝉の最後の叫びに答えた。  蝉はそれを待っていたかのように羽を開いて激しく羽ばたいた。 そして、校舎に向かって飛んで行った。蝉はみるみる高度を上げた。 つかささんは私の前に出てきて蝉を追った。蝉が生きていたことを喜んでいるようだった。 かがみさんは胸に手を当てて静かに蝉を見守ってる。羽ばたく蝉をを励ましているようだった。 泉さんは悲しい顔をしていた。やがて来る蝉の運命を哀れんでいるようだった。 これがあの時の少年の気持ち・・・償いや謝罪でした事なんかじゃない。もっと素晴らしいもの、言葉では言い表せない。 いいえ、それはいつでも考えられる。今は飛び去る蝉を見届けていたい。    蝉は校舎を超えてそのまま空の中に吸い込まれるように消えていった。 私たち四人は見えなくなっても空を見つめ、いつまでも見送った。いつまでも。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - ご指摘ありがとうございます。 &br()これからの作品に活かしたいと思います。 -- 作者 (2009-08-25 20:10:55) - 母とか友人とかとの会話はさほど問題ないんだけど、チェリーに話しかけるときの口調が強すぎると思う。 &br()少年に対しての話し方も。みゆきは基本的にどんな人間(人間に限らず)が相手でも敬語だから、そこを意識しとけばいい感じ。 &br()現実そんなやつがいるとは思わんけどw &br()お話は綺麗で良かった。 -- 名無しさん (2009-08-14 09:32:14) - この作品の作者です。 &br()みゆきの口調がどうしても表現できません(他のキャラもそうかもしれないけど) &br()具体的にどこがどうおかしいのか指摘してくれるとうれしいです。 &br() -- 作者より (2009-08-14 08:05:26)

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