ID:P8o2Apc0氏:妹離れ

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家で試験勉強をしていると不意に携帯が鳴った。 発信者は「泉こなた」 高校卒業してしばらくは頻繁に会ったりしていたが最近では、私が忙しいこともあって連絡を取る回数も減ってきていた。 電話を取ると高校の時と変わらぬこなたの声が聞こえてきた。 「やふー、かがみん。元気?」 しばらく連絡を取っていなくてもこなたとの会話はいつも楽しい。 その高校時代と変わらない空気が私を安心させてくれる。 「それでこないだも怖くて眠れないからってベッドに入ってきて…」 「へー、相変わらずだねぇ、つかさは」 「もういい加減つかさにも自立してほしいわよね」 「そんなこと言っちゃって。実際につかさがかがみを頼らなくなったらかがみすっごくさびしがると思うよ」 「そんなことないわよ!」 「どーだかねー。なんたってかがみはうさちゃんだからね~」 それからお互いの大学の話になった。 こなたは大学でも相変わらずグータラな生活を送っているようだ。 「呑気そうでいいわね。こっちは大変よ~、大学の試験で」 「それにつかさも今は準備で忙しいでしょ」 「え?何の話?」 「え?かがみ聞いてないの?つかさが留学するって話…」 その先のこなたの言葉はほとんど耳に入らなかった。 つかさが留学? そんな話は全く聞いたことがない。 こなたのたちの悪い冗談としか思えない。 そうだ、きっとこなたの悪戯だ… そう思い、こなたを適当にあしらって電話を切った。 つかさがそんな重要な決断を私に何の相談もせずに決めるはずがない。 しかし、そんな私の希望的観測はあっさり打ち砕かれることになる。 「あのー、お姉ちゃん、いい?」 夜、大学の試験勉強中の私の部屋につかさが入ってきた。 「なによ?あらたまって」 「あのね、お姉ちゃんに大事な話があるの…」 この時点で分かった。 こなたが言ってたことは本当なんだ… 「私ね、留学しようと思ってるの」 「そっか…」 やっとの思いで私はその一言を口にした。 言いたいこと、聞きたいことはいっぱいあった。 どこに留学するのか、どれくらいの期間するのか、いつ出発するのかetc… でも一番聞きたいのはそんなことじゃなかった。 『どうして私に何の相談もしないで決めちゃったの?』 その言葉が出かかって、かろうじて喉の奥に飲み込んだ。 しかし、そんな私の思いを見抜いたかのようにつかさは言った。 「お姉ちゃんに言わなかったのはね。私にとってすごく大事なことだから…私自身で考えて決めたかったからなの」 そのあと何を話したのかはよく覚えていない。 つかさが自分の部屋に帰った後も私はしばらく呆然としていた。 あたまがふわふわしてて現実感がなくて夢みたいだった。 気がついたらすでに12時を回っていた。 机の上に参考書を広げているが、試験勉強は全然はかどらない。 気分転換になにか飲み物でも飲もう… そう思って階段を下りると、居間に電気がついている。 誰か起きてるのかしら…この時間に? 「あらかがみ。どうしたの?」 居間にいたのはお母さんだった。 「なにか飲み物でも飲もうかと思っただけだけど」 「そう。じゃあ今お湯わかして紅茶でも淹れてあげるわ。試験勉強は大変?」 「ありがとう。まあ大変だけど自分で選んだ道だし、興味も持てるから」 「そうね。いつの間にかかがみもすっかり大人の顔になったわね」 そうかな。自分じゃ実感ないけど… 「つかさも成長してたのね。いつかこうなるのはわかっていたけどやっぱりさみしいわね」 「そうだね…」 「つかさがね。はじめに料理の勉強のために留学したいって言ったとき、私もお父さんも不安だったの。あの子は積極的に人と仲良くなれる子じゃないし、なによりずっと一緒にいるかがみと離れて大丈夫かなって」 私もそこは不安ではある。 つかさ一人で大丈夫だろうか… 「でもね。話を聞いてるとつかさはつかさでちゃんと考えてるってことがよくわかったし、かがみに頼りきりにするのをやめようってがんばってるのが伝わってきたの。それで私は応援することにしたわ。だからかがみも応援してあげて」 部屋に戻ってベッドへと倒れこんだ。 つかさ、私の大事な可愛い双子の妹。 つかさと一緒にいることは当たり前だった。 つかさに頼られたり、甘えられたりするのも当たり前だった。 でもつかさは自分一人で歩いていけるようになりたいと思っていたんだ… 私はつかさを助けていると思っていた。 でも逆だった… 私はつかさに頼られることで救われてたんだ… 「おはよー、つかさ」 次の日、私はいつものようにつかさに挨拶をした。 お母さんと夜話して、そのあと部屋でも一人で考えて、ひとつの結論を出した。 つかさが私に頼るのをやめようとしているように、私もつかさに対する精神的依存を断ち切ろうと。 とはいえ、別に接し方が普段と変わるわけではない。 いつも通り、静かに日々は過ぎて行った。 つかさの留学が決まってから、大学に入ってあまり会わなくなっていたこなたやみゆきと4人でよく遊ぶようになった。 誰も口には出して言わないが、つかさとすぐに会うことができる日々に少しでも一緒にいようと考えているようだった。 いつでも会えるときはあえて会おうとしなかったのに、会える時間が短くなるとむしろ会う機会が増えるのは皮肉だった。 つかさが離れていくように、こなたたちとも段々離れていくのかな… そんな考えが一緒に遊んでいる最中でも時々浮かんできて無性に寂しくなった。 つかさの留学出発前日の夜、部屋をノックする音がした。 「お姉ちゃん、あの~…」 言い淀んでいても枕を持ってきている時点で何を言おうとしているのかは想像がつく。 「しょうがないわねぇ」 わざとらしくため息をつき、私はつかさを部屋に入れた。 「まったく甘えん坊なんだから」 「えへへ、でも今日くらいはいいでしょ?これで…」 最後だから…そう言おうとしてつかさが言葉を飲み込んだことが分かった。 私はつかさの手を握った。 この手も明日には遠く遠く離れた所に行ってしまう… それは喜ぶべきことだった。 つかさが成長したという大きな証なのだから。 でも今はそのことがとても寂しく感じられた。 「つかさ…」 隣にいる妹に話しかける。 つかさはすでに小さな寝息を立てていた。 「もう寝ちゃったか…」 私はつかさをぎゅっと抱きしめて眠りについた。 出発の日、私以外の家族は予想以上にあっさりしていた。 お父さん、いのり姉さん、まつり姉さんは仕事で見送りに行けないということで、家でつかさと別れの挨拶を交わした。 「気をつけるんだよ、つかさ」 「何かあったらいつでも電話してきなよ」 「留学かぁ、いいなぁ、私もしたいなー」 それぞれ思い思いの言葉でつかさとの別れを惜しんでいた。 「もう忘れものない?」 「うん。大丈夫」 荷づくりも終え、まだ出発の時間まで余裕があったのでリビングで一息つく。 ソファに座ったつかさはきょろきょろあたりを見回して落ち着かない様子だった。 「どうしたの?つかさ」 「…うん。しばらくこのお家ともお別れだから、よく見ておこうかなって…」 そうか、明日からつかさはいなくなるんだ。 ここ最近は準備でバタバタしていたから実感がなかった。 つかさは今日、この家から出ていく。 私もいつかここを出て行く時がくるだろう。 そうやって、少しずつ変わっていく… いつもは当たり前のように、この家に帰ってきて、二階の私の部屋で寝て、朝起きて下に降りてきてお早うという。 そんな当り前の日々もいつまでもは続かないのだ。 それに気づくと、急に日常の当り前の生活が愛おしく思えてきた。 「そろそろ行くわよ」 お母さんの一声でつかさと私は立ち上がった。 空港に着くとすでに見送りのためにこなたとみゆきが来ていた。 「つかさー、私をおいて行かないでよー」 「つかささんがいなくなると寂しくなりますね」 「うん、でも長いお休みには帰ってくるから…」 「そのうちこっちからも遊びに行くよ!」 「そうですね。みんなでつかささんの留学先に遊びに行きましょう」 「みんな…」 そうこうしているうちにつかさの乗る飛行機が出る時間が近づいてきた。 「じゃあつかさ、そろそろ…」 「うん」 お母さんに促されて座っていたつかさが立ち上がった。 「じゃあみんな、お見送りありがとう。行ってくるね!」 つかさがカート付きのバッグを引きながらゲートの方に向かう。 私はつかさに手を振りながらこみ上げる想いを抑えるのに必死だった。 そのとき襟をつかまれ、急に後ろに引っ張られた。 「ちょっとこなた!なにするのよ!」 「このままでいいの?」 このままでいいもなにもこの期に及んで何をするというのか。 「私たちには何も遠慮することないよ。このままつかさと別れちゃっていいの」 「だって…」 「貯め込んだまま別れちゃ絶対ダメだよ!言いたいことは全部言っといた方がいいよ」 こなたの言葉が引き金になった。 私は思わず駆け出していた。 「つかさ!」 両手を広げてつかさに向かって飛びついた。 つかさは振り向いて少し驚いた顔をして、それでも私を受け止めてくれた。 「行っちゃやだよ。つかさと離れたくない…」 涙がボロボロ零れ落ちてくる。 「お姉ちゃん、泣かないで」 そう言うつかさの声も涙声だった。 「私、必ず帰ってくるから。お姉ちゃんみたいに強くなって帰ってくるから」 涙声だけどはっきりとした強い声だった。 違う…私は強くなんかない。 つかさがいたから強くいられた。 「大丈夫だよ。離れてても私たちが姉妹だってことは絶対変わらないよ」 つかさはそう言ってにっこりと笑った。 目には涙が浮かんでいたし、泣き腫らした後もあった。 それでもいつもの素敵な、大好きな妹の、つかさの笑顔だった。 そっか、そうだよね… 今まで悩んでいたことにつかさはあっさり答えを出してしまった。 私たちはどんなに離れていても姉妹なんだ。 二人の距離なんて関係ない。 たとえ、地球の反対側にいてもそれは絶対に揺るがない真実だった。 そしてそれは…こなたやみゆきに対しても同じだった。 話す機会が少なくなっても、会うことがなくなっても、私たちが親友であることは変わらない。 そう思うと急に心が軽くなった。 私も涙を拭いて笑った。 ひどい顔になってるかもしれないけどともかく笑った。 見送りは笑顔で… ずっと前からそう決めていた。 「じゃあ行くね、お姉ちゃん」 「行ってらっしゃい、つかさ」 最後に一回だけしっかりと握手を交わして私たちは手を離した。 不思議とさみしくはなかった。 そう、私たちはどんなに離れていても姉妹という絆でつながっているから。 ゲートの前に来た時、もう一度だけ私たちの方を見てつかさは手を振った。 私たちも手を振り返した。 ゲートをくぐるつかさの背中は今まで見た中のどのつかさよりも頼もしかった。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 感動しました、 -- 名無しさん (2012-07-04 01:35:53) - そういえば、つかさの進路って未だに不明のままだけど・・・ &br()美水先生はこんな話を考えてるんじゃ・・・ -- 名無しさん (2009-12-23 22:26:04) - こんなつかさもいいと思った。 &br() &br()つかさが留学することを決意させた &br()エピソードがあれば完璧だったと思う。 &br()これはあくまで個人的な感想ですので真に受けないでください。 &br() -- 名無しさん (2009-08-14 22:11:01) - いい感じだね。まだ粗いけどすぐ上手くなりそうだ。 -- 名無しさん (2009-08-14 02:17:28)
家で試験勉強をしていると不意に携帯が鳴った。 発信者は「泉こなた」 高校卒業してしばらくは頻繁に会ったりしていたが最近では、私が忙しいこともあって連絡を取る回数も減ってきていた。 電話を取ると高校の時と変わらぬこなたの声が聞こえてきた。 「やふー、かがみん。元気?」 しばらく連絡を取っていなくてもこなたとの会話はいつも楽しい。 その高校時代と変わらない空気が私を安心させてくれる。 「それでこないだも怖くて眠れないからってベッドに入ってきて…」 「へー、相変わらずだねぇ、つかさは」 「もういい加減つかさにも自立してほしいわよね」 「そんなこと言っちゃって。実際につかさがかがみを頼らなくなったらかがみすっごくさびしがると思うよ」 「そんなことないわよ!」 「どーだかねー。なんたってかがみはうさちゃんだからね~」 それからお互いの大学の話になった。 こなたは大学でも相変わらずグータラな生活を送っているようだ。 「呑気そうでいいわね。こっちは大変よ~、大学の試験で」 「それにつかさも今は準備で忙しいでしょ」 「え?何の話?」 「え?かがみ聞いてないの?つかさが留学するって話…」 その先のこなたの言葉はほとんど耳に入らなかった。 つかさが留学? そんな話は全く聞いたことがない。 こなたのたちの悪い冗談としか思えない。 そうだ、きっとこなたの悪戯だ… そう思い、こなたを適当にあしらって電話を切った。 つかさがそんな重要な決断を私に何の相談もせずに決めるはずがない。 しかし、そんな私の希望的観測はあっさり打ち砕かれることになる。 「あのー、お姉ちゃん、いい?」 夜、大学の試験勉強中の私の部屋につかさが入ってきた。 「なによ?あらたまって」 「あのね、お姉ちゃんに大事な話があるの…」 この時点で分かった。 こなたが言ってたことは本当なんだ… 「私ね、留学しようと思ってるの」 「そっか…」 やっとの思いで私はその一言を口にした。 言いたいこと、聞きたいことはいっぱいあった。 どこに留学するのか、どれくらいの期間するのか、いつ出発するのかetc… でも一番聞きたいのはそんなことじゃなかった。 『どうして私に何の相談もしないで決めちゃったの?』 その言葉が出かかって、かろうじて喉の奥に飲み込んだ。 しかし、そんな私の思いを見抜いたかのようにつかさは言った。 「お姉ちゃんに言わなかったのはね。私にとってすごく大事なことだから…私自身で考えて決めたかったからなの」 そのあと何を話したのかはよく覚えていない。 つかさが自分の部屋に帰った後も私はしばらく呆然としていた。 あたまがふわふわしてて現実感がなくて夢みたいだった。 気がついたらすでに12時を回っていた。 机の上に参考書を広げているが、試験勉強は全然はかどらない。 気分転換になにか飲み物でも飲もう… そう思って階段を下りると、居間に電気がついている。 誰か起きてるのかしら…この時間に? 「あらかがみ。どうしたの?」 居間にいたのはお母さんだった。 「なにか飲み物でも飲もうかと思っただけだけど」 「そう。じゃあ今お湯わかして紅茶でも淹れてあげるわ。試験勉強は大変?」 「ありがとう。まあ大変だけど自分で選んだ道だし、興味も持てるから」 「そうね。いつの間にかかがみもすっかり大人の顔になったわね」 そうかな。自分じゃ実感ないけど… 「つかさも成長してたのね。いつかこうなるのはわかっていたけどやっぱりさみしいわね」 「そうだね…」 「つかさがね。はじめに料理の勉強のために留学したいって言ったとき、私もお父さんも不安だったの。あの子は積極的に人と仲良くなれる子じゃないし、なによりずっと一緒にいるかがみと離れて大丈夫かなって」 私もそこは不安ではある。 つかさ一人で大丈夫だろうか… 「でもね。話を聞いてるとつかさはつかさでちゃんと考えてるってことがよくわかったし、かがみに頼りきりにするのをやめようってがんばってるのが伝わってきたの。それで私は応援することにしたわ。だからかがみも応援してあげて」 部屋に戻ってベッドへと倒れこんだ。 つかさ、私の大事な可愛い双子の妹。 つかさと一緒にいることは当たり前だった。 つかさに頼られたり、甘えられたりするのも当たり前だった。 でもつかさは自分一人で歩いていけるようになりたいと思っていたんだ… 私はつかさを助けていると思っていた。 でも逆だった… 私はつかさに頼られることで救われてたんだ… 「おはよー、つかさ」 次の日、私はいつものようにつかさに挨拶をした。 お母さんと夜話して、そのあと部屋でも一人で考えて、ひとつの結論を出した。 つかさが私に頼るのをやめようとしているように、私もつかさに対する精神的依存を断ち切ろうと。 とはいえ、別に接し方が普段と変わるわけではない。 いつも通り、静かに日々は過ぎて行った。 つかさの留学が決まってから、大学に入ってあまり会わなくなっていたこなたやみゆきと4人でよく遊ぶようになった。 誰も口には出して言わないが、つかさとすぐに会うことができる日々に少しでも一緒にいようと考えているようだった。 いつでも会えるときはあえて会おうとしなかったのに、会える時間が短くなるとむしろ会う機会が増えるのは皮肉だった。 つかさが離れていくように、こなたたちとも段々離れていくのかな… そんな考えが一緒に遊んでいる最中でも時々浮かんできて無性に寂しくなった。 つかさの留学出発前日の夜、部屋をノックする音がした。 「お姉ちゃん、あの~…」 言い淀んでいても枕を持ってきている時点で何を言おうとしているのかは想像がつく。 「しょうがないわねぇ」 わざとらしくため息をつき、私はつかさを部屋に入れた。 「まったく甘えん坊なんだから」 「えへへ、でも今日くらいはいいでしょ?これで…」 最後だから…そう言おうとしてつかさが言葉を飲み込んだことが分かった。 私はつかさの手を握った。 この手も明日には遠く遠く離れた所に行ってしまう… それは喜ぶべきことだった。 つかさが成長したという大きな証なのだから。 でも今はそのことがとても寂しく感じられた。 「つかさ…」 隣にいる妹に話しかける。 つかさはすでに小さな寝息を立てていた。 「もう寝ちゃったか…」 私はつかさをぎゅっと抱きしめて眠りについた。 出発の日、私以外の家族は予想以上にあっさりしていた。 お父さん、いのり姉さん、まつり姉さんは仕事で見送りに行けないということで、家でつかさと別れの挨拶を交わした。 「気をつけるんだよ、つかさ」 「何かあったらいつでも電話してきなよ」 「留学かぁ、いいなぁ、私もしたいなー」 それぞれ思い思いの言葉でつかさとの別れを惜しんでいた。 「もう忘れものない?」 「うん。大丈夫」 荷づくりも終え、まだ出発の時間まで余裕があったのでリビングで一息つく。 ソファに座ったつかさはきょろきょろあたりを見回して落ち着かない様子だった。 「どうしたの?つかさ」 「…うん。しばらくこのお家ともお別れだから、よく見ておこうかなって…」 そうか、明日からつかさはいなくなるんだ。 ここ最近は準備でバタバタしていたから実感がなかった。 つかさは今日、この家から出ていく。 私もいつかここを出て行く時がくるだろう。 そうやって、少しずつ変わっていく… いつもは当たり前のように、この家に帰ってきて、二階の私の部屋で寝て、朝起きて下に降りてきてお早うという。 そんな当り前の日々もいつまでもは続かないのだ。 それに気づくと、急に日常の当り前の生活が愛おしく思えてきた。 「そろそろ行くわよ」 お母さんの一声でつかさと私は立ち上がった。 空港に着くとすでに見送りのためにこなたとみゆきが来ていた。 「つかさー、私をおいて行かないでよー」 「つかささんがいなくなると寂しくなりますね」 「うん、でも長いお休みには帰ってくるから…」 「そのうちこっちからも遊びに行くよ!」 「そうですね。みんなでつかささんの留学先に遊びに行きましょう」 「みんな…」 そうこうしているうちにつかさの乗る飛行機が出る時間が近づいてきた。 「じゃあつかさ、そろそろ…」 「うん」 お母さんに促されて座っていたつかさが立ち上がった。 「じゃあみんな、お見送りありがとう。行ってくるね!」 つかさがカート付きのバッグを引きながらゲートの方に向かう。 私はつかさに手を振りながらこみ上げる想いを抑えるのに必死だった。 そのとき襟をつかまれ、急に後ろに引っ張られた。 「ちょっとこなた!なにするのよ!」 「このままでいいの?」 このままでいいもなにもこの期に及んで何をするというのか。 「私たちには何も遠慮することないよ。このままつかさと別れちゃっていいの」 「だって…」 「貯め込んだまま別れちゃ絶対ダメだよ!言いたいことは全部言っといた方がいいよ」 こなたの言葉が引き金になった。 私は思わず駆け出していた。 「つかさ!」 両手を広げてつかさに向かって飛びついた。 つかさは振り向いて少し驚いた顔をして、それでも私を受け止めてくれた。 「行っちゃやだよ。つかさと離れたくない…」 涙がボロボロ零れ落ちてくる。 「お姉ちゃん、泣かないで」 そう言うつかさの声も涙声だった。 「私、必ず帰ってくるから。お姉ちゃんみたいに強くなって帰ってくるから」 涙声だけどはっきりとした強い声だった。 違う…私は強くなんかない。 つかさがいたから強くいられた。 「大丈夫だよ。離れてても私たちが姉妹だってことは絶対変わらないよ」 つかさはそう言ってにっこりと笑った。 目には涙が浮かんでいたし、泣き腫らした後もあった。 それでもいつもの素敵な、大好きな妹の、つかさの笑顔だった。 そっか、そうだよね… 今まで悩んでいたことにつかさはあっさり答えを出してしまった。 私たちはどんなに離れていても姉妹なんだ。 二人の距離なんて関係ない。 たとえ、地球の反対側にいてもそれは絶対に揺るがない真実だった。 そしてそれは…こなたやみゆきに対しても同じだった。 話す機会が少なくなっても、会うことがなくなっても、私たちが親友であることは変わらない。 そう思うと急に心が軽くなった。 私も涙を拭いて笑った。 ひどい顔になってるかもしれないけどともかく笑った。 見送りは笑顔で… ずっと前からそう決めていた。 「じゃあ行くね、お姉ちゃん」 「行ってらっしゃい、つかさ」 最後に一回だけしっかりと握手を交わして私たちは手を離した。 不思議とさみしくはなかった。 そう、私たちはどんなに離れていても姉妹という絆でつながっているから。 ゲートの前に来た時、もう一度だけ私たちの方を見てつかさは手を振った。 私たちも手を振り返した。 ゲートをくぐるつかさの背中は今まで見た中のどのつかさよりも頼もしかった。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 感動しました。よかったです!gj -- 名無しさん (2017-05-22 12:57:26) - 感動しました、 -- 名無しさん (2012-07-04 01:35:53) - そういえば、つかさの進路って未だに不明のままだけど・・・ &br()美水先生はこんな話を考えてるんじゃ・・・ -- 名無しさん (2009-12-23 22:26:04) - こんなつかさもいいと思った。 &br() &br()つかさが留学することを決意させた &br()エピソードがあれば完璧だったと思う。 &br()これはあくまで個人的な感想ですので真に受けないでください。 &br() -- 名無しさん (2009-08-14 22:11:01) - いい感じだね。まだ粗いけどすぐ上手くなりそうだ。 -- 名無しさん (2009-08-14 02:17:28)

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