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名射手
暑い、眠い、疲れた、だるい。
祭囃子が別世界のように聞こえる。本当の自分はどこか別の場所にいて、この体を遠隔操作してるような気分だ。
食事も寝床も寝る時間も皆と同じだけど、あの人達に拾われるまでに相当体力落ちてたもんな。そんな身でこの生活はまずいかもしれない。
でも、あの家にいるよりはまだマシだった。
祭りの場にふさわしくない記憶が蘇り、気が滅入る。
「私達、同級生っすから!!」
高校生くらいの少女と、小学生くらいの小柄な少女を交えたグループがそこにいた。
傍にいる婦警さんになにか注意でもされているのだろうか?
そのにぎやかな光景をしばし見つめていた。
俺だって同年代なのに、何で俺だけこんな目に遭ってるんだろうな。
本来はあの子達みたいに友達と連れ立って縁日を楽しんだりしてたはずなのに。
特に小柄な少女が浮かべる何の悩みもなさそうな笑顔にはいらいらする。
そんな八つ当たりに自己嫌悪したとき、俺が担当している射的の屋台にさっきの婦警さんが近づいてきた。
補導されるのかと焦り、嫌な汗が吹き出し脈も速くなる。
だが婦警さんはさっきのグループの小柄な少女に薦められ客としてここに立った。
そして左手にフランクフルト持ったまま奇妙な構えをあれこれ模索してるうちに同僚に見つかり連行されていった。
「な、なんだったんだ……」
気が抜け脱力していると、さっきの小柄な少女がこっちに来た。
「おにーさん、そっちに並んでるのは当てたらどれでも貰えるの?」
「どれでもOKだよぉ~」
ああ、喋りかた変だ。
「どれでも?」
「うん、どれでも」
やばい、緊張が解けたせいか疲れやら眠気やらが激化して襲い掛かってきた。
朦朧としてきた俺をよそに指を咥え景品を吟味した少女は……。
「おっとお嬢ちゃん、僕は景品じゃないんで」
こっちに向けられた銃口に、いっそのことお持ち帰りされちゃってもいいかな? なんて考えがよぎる。
額に当たるコルクの衝撃、「わ!? ほんとに当たっちゃった」と狼狽するお嬢ちゃんの声と共に、俺の意識は暗転した。
俺の実家は様々なトラブルにより家庭は険悪なものになっていた。
そして俺に対し暴行やら悪口雑言やらメシ抜きエトセトラといった仕打ちが始まり、俺は耐え切れず家を飛び出した。
しかし身を寄せるあてなどなく、野垂れ死に寸前となった俺を拾ったのがいわゆるヤのつく商売の人たちで、ちょうど夏祭りの時期だったためその仕事を手伝うことになった。
トラックの荷台や仮設店舗という劣悪とは言いすぎだが少々ハードな寝床に屋台の残りものが中心の食生活、そして仕事に関する妥当なものとはいえ厳しい言葉を投げかけられ心身ともに消耗していった。
そんな中でこれからどうするか何も考えが浮かばないうちにお譲ちゃんの銃撃がトドメとなってぶっ倒れ、今に至る。
目覚めた病室のベッドでお巡りさんとそういったいきさつを再確認していた。
俺の処遇について香具師(本来の意味)の人たちにこれといったお咎めはなかった。
この人たちにすがるしかないと考え体調については問題ないと言い張っていただけに妥当なものだろう。
短い間だったしきつい生活ではあったが、かつて俺の家族だった人たちの仕打ちに比べれば遥かにマシな生活をさせてくれた恩人たちだったから、お咎めなしということに安心していた。
俺の数少ない持ち物から身元を探られて家族だった人たちと連絡はついていたのだが、お巡りさんの険しい表情と直接俺が電話口に出されないことから察するに、相当な悪意に満ちた言葉が吐き出されていた模様。
捜索願いも出されていなかったというから、俺を元通り受け入れるつもりはないらしい。
再開されるが進展のないお巡りさんの電話越しのやり取りを、少々変わったデザインの背広を着た男性二人がやりきれない顔で見ていた。
「やはりネグレクトか」
「ああ。情が離れた保護者に法や道徳では役に立たんよ」
一緒にいるのが苦痛だってのに家族としてやっていけるわけがないんだよな。
まして学費やら生活費やらの負担なんてやってられないだろうし。
でもどこにも行くとこなんてない。頼れそうな親戚がいたらとっくの昔にそこに身を寄せている。
さてどうしたものか。この状態で一人で生きていくのは相当な無理があった。
やり切れない面持ちで電話を切ったお巡りさんが背広の人に向き直る。
「今から白石みのる救済計画の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」
「了解です」
「我々の所有する権限では彼が直面している事態に対し有効な手段がない事は認めよう。だが君なら解決できるのかね?」
「そのための福祉です」
火傷の痕跡でもあるのか手袋をはめた手でクイと眼鏡の位置を直した顎鬚の職員さんは、てきぱきと養護施設への入所手続きを進めていった。
そして……。
「やほー、おにーさん」
陽気な声で迎えに現れたのは、屋台で俺を仕留めたあのお嬢ちゃんだった。
??「ほーほー、ソレが二人の馴れ初めか」
こなた「うんうん」
みのる「いや、その表現はちょっと。泉も何勝ち誇ってんだ」
??「それにしても、その婦警さん最高。うまく肉付けしたらいい味出すキャラクタになるかも」
新説
「日下部さん、またですか?」
案内された施設の玄関に入るなり、剣呑な空気が漂っていた。
「た、貸借主忘却の法則は絶対あるってヴぁ!?」
日下部と呼ばれた八重歯の少女は、職員らしきメガネの女性が怒気のようなものを増加させたことにのけぞっていた。
「そんな法則ありません。施設育ちは非常識という偏見で見られることになりますよ?」
こうして説教が始まる。
「あー、みさきち、またやっちゃったか」
「また?」
俺を迎えに来たお嬢ちゃん、泉こなたが言うには、みさきち、もとい日下部みさおは友人とのモノの貸し借りでよくトラブルを起こすらしい。
「これだから施設育ちは、って言われちゃうんだよね。普通の家庭で育ってもそういうズボラな子はいるんだろうけど」
肩をすくめる。
いろいろな物を皆で共有するという状況から、施設育ちの子は人のものと自分のものの区別がつかなくなるという偏見があるらしい。
だがどんなに偏見だと主張したところで、その偏見に合致してしまう行動を取ってしまったら偏見の強化にしかならない。
だからこそ躾が厳しくなるんだろうな。
それから園長である女性と連れ立って施設の説明を受けながら職員室に向かうが、すれ違う入所者たちの注目をやたらと浴びる。
新入りってことで珍しいからか? とも思ったが、どうにも違和感がある。
……女の子ばかり?
俺が抱いた違和感に気づいた園長先生の説明によると、保護されるまでに色々あって男性恐怖症になっている子がいるらしい。
他にも偶然が重なって男女比が偏っていき、いつの間にか女子ばかりになってしまったという。
だが女だらけの状況もそれはそれで色々と問題が出てきたため、男子も受け入れようと考えていた矢先に俺が保護されたとのこと。
最終的な手続きを終え、休み明けに学校に行くかどうかやその選択肢についての説明が行われた。
??「うわははは、その法則、最高。使わせてもらうよ」
みさお「うぅ~、恥ずかしいよぅ」
??「大丈夫大丈夫、演出次第で笑えるエピソードにできるから」
こなた「今になって思うと、あの状況ってギャルゲーやエロゲーみたいだね」
みのる「女の子が堂々と言うなっての」
??「規制に引っかかりそうだからそこらへんのネタは使えないかなー」
暗黙のルール
夕食の時間になり、簡単な自己紹介をして食卓につく。
俺の隣は柊つかさと名乗ったショートカットの子で、緊張の面持ちでチラチラと俺を見た。
顔に何かついてるかと思ったがどうも違うらしい。
つかさは意を決したように口を開いた。
「あ、あの、私が隣に座ったの嫌じゃない?」
「へ? 別にそんなことないけど」
「なんか無理してるとか」
「……無理してるように見えるのは君のほうだけど」
男性恐怖症になっている子がいるというが、つかさがそうなのだろうか?
あえて俺の隣に座ったのは荒療治のつもりなんだろうか? さてどうしたものか。
あれこれ考えを巡らせていると、みさおが心の底から美味そうにミートボールを頬張るのが見えた。
「あーん、んぐんぐ」
その様子を、玄関で説教していた職員さんが隣の席で嬉しそうに見ていた。
彼女は高翌良みゆきといい、元々この施設の出身で、18歳を超え今年度から職員として就職し、炊事などを切り盛りしてるとのこと。
みさおのあの笑顔を見たら食事の作り甲斐もあるだろうな。
などと和んでいたら……。
「ヴぁ!?」
みさおはミートボールを床に落とした。
ソレを素早く摘み上げたところで俺の視線に気づき固まる。
「ほ、ほら……3秒ルール3秒ルール!」
「……」
「5秒以内だったら菌がつかないんだってヴぁ」
「な、なんだよ、何も言ってないだろ」
「床は高翌良さんが綺麗に掃除してくれてるから大丈夫だってヴぁ!?」
拾い上げたミートボールを口に放り込もうとする手を隣のみゆきさんがわしづかみにしていた。
「財政の問題からタンパク源が貴重なのは事実です。しかし、そういう無作法は偏見の元ですよ?」
玄関での説教のような怒気が立ちこめた。
「が、学校ではやらないってヴぁ」
「どんなに気をつけていても癖はついつい出てしまうものです。そうして周りの人に引かれしまったら困るでしょう?」
「わ、わかったよぅ……」
しぶしぶとではあるが、拾ったミートボールをみゆきさんが差し出した小皿に置く。
「でも、それだけ掃除が徹底してることを評価してくれて嬉しいです」
みゆきさんは自分の皿からミートボールをひとつ、みさおに分けた。
皆みゆきさんの怒気に気圧されていたが、こういったことは日常茶飯事だったらしくすぐ和やかな食事が再開された。
??「うわははは、3秒ルール採用!」
みさお「うぅ~、恥ずかしいよぅ」
??「大丈夫大丈夫、演出次第で笑えるエピソードにできるから」
みさお「うぅ~」
防御不可
食後、食堂と繋がった共同スペースにてこなたと共に年少組の子達と遊んでいた。
いや、正確には……。
「潰れる潰れる、大勢でのしかかるなー!」
もてあそばれていた。
「あはは、男の人が相手だと年少組も遠慮なしだねー」
「泉までのしかかってどうする……」
こんな状況下で年少組と遊ぶこなたを観察していると……。
「さぁ、始まるザマスよ」
「ジェットストリームアタック」
「うーんマンダム」
「だって、涙が出ちゃう。女の子だもん」
「スケキヨです」
「恐ろしい子!」
といった具合にやたらと古くてマニアックなネタを披露していた。
俺は懐かしのテレビ特集の類でしか見覚えのないネタを、こなたは身振りまで見事に再現している。
そして年少組の子から頭にジュースをぶっ掛けられたこなたは、洗面台で頭を洗っていた。
俺が追加のタオルを持っていくと、大昔のシャンプーのCMを真似ていた。
「にーさんにーさん、ティモテ、ティモテ、ティモテ~♪」
「お前いくつやねん」
本当にいくつなんだろう? あの縁日のときのグループと同年代、つまり俺とも同年代らしいんだが。
「あー、私、年齢不詳だから」
「え?」
「私がすごく小さい頃、屋根裏部屋に閉じ込められてたんだよね」
予想だにしていなかった話に呆然としていると、通りがかった園長先生を交えてものすごい補足説明が始まった。
数年前。
とある古びた一軒家で激しい言い争いがあるという通報があり、警察が踏み込むと住人の男女は既に死亡していた。
そこで保護された少女がこなただった。
DNA鑑定の結果その男女が両親であることこそ証明されたが、異常なまでに近所づきあいが希薄だったため少女の存在は誰にも気づかれておらず、生い立ちを知るものは皆無らしい。
親からは、おい、とか、お前、といった呼び方しかされておらず、こなたという名は保護されてから施設の職員(話しぶりから察するに園長らしい)につけられたものだという。
親は妊娠を公にできない事情があったらしく、出生届は出されていなかった。
この状況下で、こなたは保護されるまで閉じ込められた部屋に収納されていた数々の漫画やゲーム、ビデオなどを見て過ごしていたという。
やたらとマニアックで古いネタを乱発するのはその名残らしい。
言葉や文字はこうして断片的に覚えただけであり、人並みに会話や読み書きができるようになるまで相当な訓練が必要だった。
こんな話をこなたは平然とした態度で語り、園長先生は真剣な顔で補足していた。
その顔から察するにホラではないらしい。
「そ、そうなんだ……悪い……」
平然と話せるのはこなたの強さなのか、はたまた社会的にどんな意味を持つのか理解してないだけなんだろうか。
「だから見た目はどう見ても○学生なんだけど18歳以上って設定にして攻略対象にできるよ」
「突っ込みづらい雰囲気の時に余計な事言うなっ」
??「う~ん……」
こなた「あ、18歳以上だとこの福祉の対象じゃなくなるんだっけ」
??「事情によっては延長できるけどいやいやそういうことじゃなくって」
みのる「この話はヘビー過ぎますね。ほとんどサイコスリラーの世界だし」
??「でも、マニアがニヤリとするネタを脈絡なく盛り込むのはウケるかもしれんな」
みのる「いいんすかソレ」
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