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解散後の風景
「幸星党動画チャンネル、この時間は、あきらの衆議院解散記念コンサートの映像をお送りしました。コンサートに来れなかった人も、楽しんでくれたかな? みんな、選挙の投票用紙の比例区には『幸星党』って書いてね。じゃあ、ばいにー☆」
パソコン画面の中の動画プレイヤーがブラックアウトした。
幸星党分裂以前に、公職選挙法を改正して、細かい規制は全廃していた。
選挙の事前運動もネットでの選挙運動も今ではやりたい放題だ。
残っているというか強化された規制は、戸別訪問の禁止、連呼行為の禁止、スピーカーの音量制限ぐらいだった。
「あきらは、相変わらず派手にやってるな」
「昔からそれが小神さんの役割でしょう」
新星党本部総裁室。ひかるが、いつもどおりに、ふゆきがいれた紅茶を飲んでいる。
「確かにそうなんだがな。他の連中の動きがほとんどない。祭り好きのぱとりしあや黒井さんがもっと表に出てくると思ってたんだが、柊官房長官からあきらと白石以外の国務大臣は公務に専念するようにとお達しが出たそうだ。この前、黒井さんがぼやいてた」
「みなさん、お忙しいのではありませんか?」
「重要閣僚ならそれも分からんではないが。だが、政治家なら公務と選挙運動は両立させてなんぼのもんだ。いくら自分たちは比例名簿上位で安泰とはいえ、議席が過半数を割ったら政権の維持はできんのだぞ。なのに、泉の奴でさえ、ときどき失言もどきをやらかして、柊のツッコミを受けてる程度だ」
「それは、あのお二人の日常でしょう」
「ああ、政権をかけた選挙だというのに、いつもどおり以上のことをまったくしようとしない。どう考えてもおかしい。泉は天性の扇動政治家だ。永森機関の裏工作も組み合わせれば、過半数の維持ならまったく不可能というわけでもあるまいに」
「永森さんたちの動きは?」
「具体的な動きがつかめるまでにはなってないが、永森機関が動いてる気配は感じられんな」
「彼女たちに動きがないことは、よいことなのではありませんか?」
「私には、嵐の前の静けさとしか思えん。奴らは選挙後をにらんで、なんかやらかすために準備に専念してるんじゃないのか?」
それがひかるの結論だった。
幸星党、特にその中枢メンバーの動きのなさは、あまりにも怪しすぎる。
「だとしても私たちにできることは何もありませんよ。何が起きても動じないように心構えをしておく程度です」
「無茶すれば調べられないこともないんだが……」
「駄目です。命を粗末にしてはいけません。ひかるさんの部下には、その点を徹底してください」
「分かった。その点は徹底する。総裁命令だといえば、血気はやる連中も抑えるだろう。おまえは、人気者だからな」
「個人崇拝はいけませんね。それでは、泉さんと同じですよ」
「ああ、分かってる。その辺もおいおい教育していくさ」
ひかるはここで話題を変えた。
「で、うちの選挙運動なんだが」
「選対本部のあやのさんと八坂さんに任せておけば大丈夫でしょう」
「確かにあやのも八坂も優秀だから、任せておいても大丈夫だろうけどな。でも、総裁が表に出ないというのはありえないぞ。特に忙しいわけでもあるまいに」
「騒がしいのは好きではありません。負けたら責任をとる──総裁の役目はそれぐらいで充分ですよ」
「おまえが辞めたら、誰が後釜に座るんだ?」
「ひかるさんはどうですか?」
「勘弁してくれ。まあ、みさおを立ててあやのを幹事長につけるのが適当かもしれんな。日下部義姉妹は息もぴったりだし。あるいは、八坂か岩崎を立てるか」
幸星党本部。
みゆきは、自室でパソコン画面に向かって作業に集中していた。
「みゆき。ちょっと根つめすぎじゃないの」
思いのほか近くから降ってきた声に、みゆきが顔をあげると、かがみが立っていた。
「細部をつめておきたかったものですから」
「選挙が終わるまでには余裕があるんだから、そんなに根つめてやらなくたっていいでしょ?」
「すみません。集中すると止まらなくなってしまうたちでして。泉さんのお言葉ではないですが、この世には現実よりも面白いゲームは存在しないんですよ」
「あんたもすっかりこなたに染められちゃったわね」
「かがみさんほどではないと思いますが」
「確かに、私もひとのことはいえないわね」
「でも、意外でしたね。かがみさんでしたら、泉さんを止める側に回るかとも思ったのですが」
「止めるんだったら、幸星党結成のときに止めるべきだったのよ。でも、私はそうしなかった。なら、最後まで見届けてやるしかないでしょ」
かがみは、ここで一呼吸おいた。
そして、
「我らの女王様の妄想がどこまで実現しうるのか」
そういい残して、去っていった。
かがみが去っていったあと、みゆきは再び作業に没頭した。
開いてるファイルは「魔王プラン」と題されていた。そのファイルの横には「デビルプラン──不採用・後日廃棄」と題されたファイルもある。
デビルプランが徹底的な鎖国による日本オタク文化保護政策であるのに対して、魔王プランは……
深夜、やまとが外務省での公務を終えて、自宅のマンションに戻ると、部屋の前で一人の人物が待っていた。
「これはこれは。在日アメリカ大使館一等書記官殿ではありませんか」
「外務大臣殿に覚えていただいているとは光栄です」
「あいにく、外務大臣としての営業時間は終了しております。それとも、この場ではCIA日本地域担当上級工作官とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「そうですね。幸星党非公式工作機関総括責任者永森やまとさん」
やまとはちらりと周りを見回した。
「公安のお友達は撒いてきましたので、ご安心を」
まあ、CIAの工作官ともなれば、日本の警察の尾行を撒くぐらいは造作もないことだろう。
「とりあえず、中へどうぞ」
居間のテーブルに向かい合って座る。
「で、ご用件は?」
「あなたがたの動きが急に静かになってしまったことを、上の方が気にしてましてね。電子的な通信手段をあまり用いない組織に対してはNSAのエシュロンも無力でして。まあ、そのおかげで我々も失業せずに済んでるわけですが」
「私が、それを答えると思っているのですか?」
「直接的な回答が得られるとは思ってませんよ。まあ、今のあなたの言葉だけで充分です。少なくても、あなたの組織は、活動している、あるいは活動しうる状態にあるということは分かりましたからね」
なんとも食えない男だ。
少しばかり仕返ししてやらねばなるまい。
「まあ、アメリカに悪いようにはしませんよ。ですから、しばらく様子を見ていただけますか?」
相手の顔の眉があがった。
この発言に特に意図はない。せいぜい、その意図するところを悩んでくれればいい。
CIAといえども、永森機関が何をするつもりなのか分からなければ動きようがないのだから。
客人が去っていったあと、やまとはパソコンの電源を入れた。
幸星党動画チャンネルにつなぐ。
「おはらっきー☆ 司会の小神あきらです」
「アシスタントの白石みのるです」
「幸星党動画チャンネル、この時間は、幸星党の萌え萌え公約を紹介しちゃうぞ☆」
「はぁ、公約が萌えですか……。いや、さすがにそれはどうなんすかねぇ」
「細かいことは気にしない。では、さっそく一つ目の公約」
白石が、ボードを手にとって読み上げる。
「ええと、まずは、アキバにアニメの殿堂を建設と。ああ、これは、泉総裁が昔から言ってることですね」
「そうそう。パンピー党の反対でつぶれちゃってさ。でも、そのパンピー党も今はなくなちゃったから、チャンス到来ってわけよ」
「なるほど」
画面の中の二人は、充分にその役目を果たしていた。
そう、自分も命じられた役目を淡々と果たすだけだ。
道具に徹すること。やまとはそれを心がけていた。
これまで、こなたの色に染められていくかがみとみゆきの姿を近くで眺めてきた。ああなりたくはない。
こなたは、誤解を恐れずにいえば、周囲の人間を惚れさせることが得意な人間だ。それを避けるには、感情を排して道具に徹するしかない。
やまとは、胸に手を当てた。
そこには、小早川前総裁からの封緘命令書が収められていた。封を切って以来、肌身離さず携帯している。
命令書は、総裁命令として完全に有効であった、総裁命令によって取り消されない限りは。
命令の実行時期については、やまとに一任されている。
命令を遂行する道具であるやまととしては、その命令は当然遂行しなければならない。
躊躇はない。ないはずだ。自分は道具。そう言い聞かせる。
どちらにしても、動くのは選挙が終わってからだ。
準備の時間も、覚悟を固める時間も、充分にある。
「幸星党動画チャンネル、この時間は、幸星党の萌え萌え公約を紹介しました。みんな、次の選挙では幸星党に萌えな一票をお願いね。ばいにー☆」
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解散後の風景
「幸星党動画チャンネル、この時間は、あきらの衆議院解散記念コンサートの映像をお送りしました。コンサートに来れなかった人も、楽しんでくれたかな? みんな、選挙の投票用紙の比例区には『幸星党』って書いてね。じゃあ、ばいにー☆」
パソコン画面の中の動画プレイヤーがブラックアウトした。
幸星党分裂以前に、公職選挙法を改正して、細かい規制は全廃していた。
選挙の事前運動もネットでの選挙運動も今ではやりたい放題だ。
残っているというか強化された規制は、戸別訪問の禁止、連呼行為の禁止、スピーカーの音量制限ぐらいだった。
「あきらは、相変わらず派手にやってるな」
「昔からそれが小神さんの役割でしょう」
新星党本部総裁室。ひかるが、いつもどおりに、ふゆきがいれた紅茶を飲んでいる。
「確かにそうなんだがな。他の連中の動きがほとんどない。祭り好きのぱとりしあや黒井さんがもっと表に出てくると思ってたんだが、柊官房長官からあきらと白石以外の国務大臣は公務に専念するようにとお達しが出たそうだ。この前、黒井さんがぼやいてた」
「みなさん、お忙しいのではありませんか?」
「重要閣僚ならそれも分からんではないが。だが、政治家なら公務と選挙運動は両立させてなんぼのもんだ。いくら自分たちは比例名簿上位で安泰とはいえ、議席が過半数を割ったら政権の維持はできんのだぞ。なのに、泉の奴でさえ、ときどき失言もどきをやらかして、柊のツッコミを受けてる程度だ」
「それは、あのお二人の日常でしょう」
「ああ、政権をかけた選挙だというのに、いつもどおり以上のことをまったくしようとしない。どう考えてもおかしい。泉は天性の扇動政治家だ。永森機関の裏工作も組み合わせれば、過半数の維持ならまったく不可能というわけでもあるまいに」
「永森さんたちの動きは?」
「具体的な動きがつかめるまでにはなってないが、永森機関が動いてる気配は感じられんな」
「彼女たちに動きがないことは、よいことなのではありませんか?」
「私には、嵐の前の静けさとしか思えん。奴らは選挙後をにらんで、なんかやらかすために準備に専念してるんじゃないのか?」
それがひかるの結論だった。
幸星党、特にその中枢メンバーの動きのなさは、あまりにも怪しすぎる。
「だとしても私たちにできることは何もありませんよ。何が起きても動じないように心構えをしておく程度です」
「無茶すれば調べられないこともないんだが……」
「駄目です。命を粗末にしてはいけません。ひかるさんの部下には、その点を徹底してください」
「分かった。その点は徹底する。総裁命令だといえば、血気はやる連中も抑えるだろう。おまえは、人気者だからな」
「個人崇拝はいけませんね。それでは、泉さんと同じですよ」
「ああ、分かってる。その辺もおいおい教育していくさ」
ひかるはここで話題を変えた。
「で、うちの選挙運動なんだが」
「選対本部のあやのさんと八坂さんに任せておけば大丈夫でしょう」
「確かにあやのも八坂も優秀だから、任せておいても大丈夫だろうけどな。でも、総裁が表に出ないというのはありえないぞ。特に忙しいわけでもあるまいに」
「騒がしいのは好きではありません。負けたら責任をとる──総裁の役目はそれぐらいで充分ですよ」
「おまえが辞めたら、誰が後釜に座るんだ?」
「ひかるさんはどうですか?」
「勘弁してくれ。まあ、みさおを立ててあやのを幹事長につけるのが適当かもしれんな。日下部義姉妹は息もぴったりだし。あるいは、八坂か岩崎を立てるか」
幸星党本部。
みゆきは、自室でパソコン画面に向かって作業に集中していた。
「みゆき。ちょっと根つめすぎじゃないの」
思いのほか近くから降ってきた声に、みゆきが顔をあげると、かがみが立っていた。
「細部をつめておきたかったものですから」
「選挙が終わるまでには余裕があるんだから、そんなに根つめてやらなくたっていいでしょ?」
「すみません。集中すると止まらなくなってしまうたちでして。泉さんのお言葉ではないですが、この世には現実よりも面白いゲームは存在しないんですよ」
「あんたもすっかりこなたに染められちゃったわね」
「かがみさんほどではないと思いますが」
「確かに、私もひとのことはいえないわね」
「でも、意外でしたね。かがみさんでしたら、泉さんを止める側に回るかとも思ったのですが」
「止めるんだったら、幸星党結成のときに止めるべきだったのよ。でも、私はそうしなかった。なら、最後まで見届けてやるしかないでしょ」
かがみは、ここで一呼吸おいた。
そして、
「我らの女王様の妄想がどこまで実現しうるのか」
そういい残して、去っていった。
かがみが去っていったあと、みゆきは再び作業に没頭した。
開いてるファイルは「魔王プラン」と題されていた。そのファイルの横には「デビルプラン──不採用・後日廃棄」と題されたファイルもある。
デビルプランが徹底的な鎖国による日本オタク文化保護政策であるのに対して、魔王プランは……
深夜、やまとが外務省での公務を終えて、自宅のマンションに戻ると、部屋の前で一人の人物が待っていた。
「これはこれは。在日アメリカ大使館一等書記官殿ではありませんか」
「外務大臣殿に覚えていただいているとは光栄です」
「あいにく、外務大臣としての営業時間は終了しております。それとも、この場ではCIA日本地域担当上級工作官とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「そうですね。幸星党非公式工作機関総括責任者永森やまとさん」
やまとはちらりと周りを見回した。
「公安のお友達は撒いてきましたので、ご安心を」
まあ、CIAの工作官ともなれば、日本の警察の尾行を撒くぐらいは造作もないことだろう。
「とりあえず、中へどうぞ」
居間のテーブルに向かい合って座る。
「で、ご用件は?」
「あなたがたの動きが急に静かになってしまったことを、上の方が気にしてましてね。電子的な通信手段をあまり用いない組織に対してはNSAのエシュロンも無力でして。まあ、そのおかげで我々も失業せずに済んでるわけですが」
「私が、それを答えると思っているのですか?」
「直接的な回答が得られるとは思ってませんよ。まあ、今のあなたの言葉だけで充分です。少なくても、あなたの組織は、活動している、あるいは活動しうる状態にあるということは分かりましたからね」
なんとも食えない男だ。
少しばかり仕返ししてやらねばなるまい。
「まあ、アメリカに悪いようにはしませんよ。ですから、しばらく様子を見ていただけますか?」
相手の顔の眉があがった。
この発言に特に意図はない。せいぜい、その意図するところを悩んでくれればいい。
CIAといえども、永森機関が何をするつもりなのか分からなければ動きようがないのだから。
客人が去っていったあと、やまとはパソコンの電源を入れた。
幸星党動画チャンネルにつなぐ。
「おはらっきー☆ 司会の小神あきらです」
「アシスタントの白石みのるです」
「幸星党動画チャンネル、この時間は、幸星党の萌え萌え公約を紹介しちゃうぞ☆」
「はぁ、公約が萌えですか……。いや、さすがにそれはどうなんすかねぇ」
「細かいことは気にしない。では、さっそく一つ目の公約」
白石が、ボードを手にとって読み上げる。
「ええと、まずは、アキバにアニメの殿堂を建設と。ああ、これは、泉総裁が昔から言ってることですね」
「そうそう。パンピー党の反対でつぶれちゃってさ。でも、そのパンピー党も今はなくなちゃったから、チャンス到来ってわけよ」
「なるほど」
画面の中の二人は、充分にその役目を果たしていた。
そう、自分も命じられた役目を淡々と果たすだけだ。
道具に徹すること。やまとはそれを心がけていた。
これまで、こなたの色に染められていくかがみとみゆきの姿を近くで眺めてきた。ああなりたくはない。
こなたは、誤解を恐れずにいえば、周囲の人間を惚れさせることが得意な人間だ。それを避けるには、感情を排して道具に徹するしかない。
やまとは、胸に手を当てた。
そこには、小早川前総裁からの封緘命令書が収められていた。封を切って以来、肌身離さず携帯している。
命令書は、総裁命令として完全に有効であった、総裁命令によって取り消されない限りは。
命令の実行時期については、やまとに一任されている。
命令を遂行する道具であるやまととしては、その命令は当然遂行しなければならない。
躊躇はない。ないはずだ。自分は道具。そう言い聞かせる。
どちらにしても、動くのは選挙が終わってからだ。
準備の時間も、覚悟を固める時間も、充分にある。
「幸星党動画チャンネル、この時間は、幸星党の萌え萌え公約を紹介しました。みんな、次の選挙では幸星党に萌えな一票をお願いね。ばいにー☆」
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- 今までにないらき☆すた。 新鮮でおもしろかったです -- CHESS D7 (2009-08-02 07:52:41)