ID:N9VE5ZU0氏:アルタイルに願いを

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7月7日 私に娘が出来ました。名前はこなたと言います。 ほら、隣で寝ているのがこなたです。 かわいいですよね。まだ生まれて一ヶ月ちょっとしかたっていないんですよ。 これから夫のそう君と二人で力を合わせてこの子を育てるんです。頑張っていかないといけませんね!エイエイオー!!……なんちゃって さて、今日は何の日か分かりますか? そう、今日は織姫様と彦星様が年に一度、今日だけ会うことが出来る特別な日。七夕です。 そして願い事を書いた短冊を笹に吊るすと、願い事が叶うって言いますよね? つまり私が何をしているかと言うと、もちろん私だってお願い事をするんですよ! いいんです!子供っぽいってそう君に言われたって、そんな事気にする必要はありません! 大切なのはやさしく素直な心を持つ事です。そうですよね。 さあ、書けました。そう君に見られる前に笹に吊るしてしまいましょう。 織姫様、彦星様。どうか私の願いを叶えてください……。 こなたの背は私に似ず    性格はそう君に似ませんように        かなた 同時刻 今日の早朝、私は双子の娘を産んだ。 これでこの子の姉二人を合わせて四人姉妹となり、男を産む事は結局なかった。 それでも神様から授かった赤子なのだ。大切に育てていこう。 今日はこの子達の誕生日であり、七夕でもある。 これはきっと偶然ではなく、何か特別な意味があるに違いない。私はそう信じたい。 「お母さん、大丈夫?」 この子の姉となったいのりやまつり、それと旦那が、私と双子が眠る病室へやって来た。 いのりとまつりは、自分の妹たちをまじまじと見つめ、楽しそうに二人で話をしている。 「ねえ、あなた。短冊にお願い事を書いたの。境内にある笹の林に結わえてもらえないかしら」 旦那は無言で短冊を受け取ると、やさしく微笑んでくれた。おめでとう、って。   つかさとかがみに     織姫様、彦星様のご加護がありますように        みき それから17年後の7月6日 つかさとかがみは、自分の家の境内に友人のこなたとみゆきを招き入れていた。 最近は梅雨の真っ只中らしく、四人はなかなか太陽を拝む事が出来ないでいた。 夕暮れだと言うのにむしむしと湿気と気温ばかりが高く、これでは彼女らの不快指数がうなぎ登りだ。 「や~、さすが神社の子は違うね!自分の家に笹林があるなんてさ!」 「えへへ。でもこなちゃんが急に私の家に来たいって言うからビックリしちゃった」 「せっかく来てもらったのにこんな天気で、なんか悪いわね」 かがみがそう言って空を見上げた。 今日は七夕前日だと言うのに空は雲に覆われていた。そもそも星が見られないのは毎年の事だからと、あまり期待はしていなかったのだが。 「まあ、天気の事は仕方ないよ」 「明日は雨という予報ですし、残念ですが今年も織姫彦星は見る事が出来そうにありませんね」 三人はお互い目を見詰め合うと、はぁ~とため息を吐き、なんだかそれがおかしくて自然と笑みがこぼれた。 今回三人がここに集まったのは、もちろん七夕でやらなきゃならない行事をするためだ。 これをしなけりゃ七夕は始まらない。 「じゃ~ん、短冊は私が持って来たよ!」 「おー……。なんてお願いしようかしらね」 「おっと、その前に、織姫と彦星ってなんて名前の星か知ってる?」 「織姫がベガで、彦星がアルタイルでしょ?」 「そのとおり!じゃあ、それぞれの距離って知ってる?」 「たしかベガが約25光年、アルタイルが約17光年ですね」 「あんた、さすがというか、良くそんな事知ってるわね」 「いえ恐れ入ります……」 「みゆきさんの言うとおり。彦星は光の速さで17年、織姫は25年かかるんだよ。だからさ、短冊に書いたお願い事があの星に届くには、彦星には17年、織姫には25年かかるってわけさ。つまり、今書いた願い事は、17年後か25年後に叶うはずなんだよ!」 「ほわ~~~~」 「あれ、つかさ?あぁダメだ。全然付いて来れてないわね。後でゆっくり教えてあげるわ」 「いずみさん、すごい事を考えていらっしゃるんですね。でももしそうなら、織姫と彦星に願い事が届いて、更に実際に地球で叶うまでには、往復分でまた17年と25年の時間がかかりませんか?」 「それは、神様なんだからきっと何とかしてくれるって!」 「そんなまた適当な。あれ?こんな展開、何かのラノベにもあったような……」 「かがみん、細かい事は気にしないのがいいよ~」 こなたの提案から、四人は彦星用に17年後と織姫用に25年後と、それぞれの時に叶って欲しい願い事を短冊に書き記す事になった。 あたりは徐々に暗くなっていき、手元が見えづらくなった頃には、短冊は林の笹に結わいつけられていた。 気温はやや下がり、心地よい風が四人の汗ばんだ肌を冷ますと、そのままサラサラと周りの笹の葉を鳴らして通り過ぎていった。 いくら空が曇っていようとも、笹の林は十分に神秘的な雰囲気をかもし出しており、四人は緊張感に似た、言葉に表しがたい何かを感じていた。 「つかさはなんて書いた?」 「えっとねぇ、『17年後も皆いっしょでいられますように』と『25年後も皆いっしょでいられますように』だよ」 「むー、それってさ、お願いが届くのが17年後でお願いが叶うのは更に17年後にならない?34年も先のことを言ってることになるよね?書くんだったら『皆いっしょでいられますように』だけで言いと思うんだけど」 「え?そっか……。で、でもそれでもいいかも!34年後と50年後にも皆一緒になれるよ!」 「それはロマンチックですね。ずーっと私たちが一緒です」 四人の楽しげな会話は、笹林の静寂の中に溶け込んでいった。 その日の深夜、ちょうど日付が変わろうとしていた時だった。 四人……いや、深夜アニメを見るために待機している約一名を除く三人が眠っている時間の事。 雲の上で日本中の誰かに見られてることのない、七夕の主人公である2つの星の1つアルタイルが一際強く瞬いていた。 気流の乱れが光を屈折させてそう見えたのか、あるいは星自体が光を発したのか。 誰にも見られる事も無く、ただひっそりと瞬いていた。 7月7日 「まってー、お姉ちゃ~ん!」 「つかさ急いで!あんたが寝坊するのがいけないんでしょうが!!」 「う~、だって目覚ましが勝手に切れてたんだもん……」 「切れてたんじゃないわ、きっとあんたが自分で切ったのよ。無意識で。もういいわ、とにかく走って」 かがみとつかさは慌しい朝を迎えていた。 かがみはどうにかこなたとの待ち合わせ時間に間に合わせたく、あせる気持ちが強くあった。 どうにか間に合ったにも関わらず、バス停にはこなたの姿が無かった。 「はぁっ、はぁっ。こなちゃん、いないね。ひぃ、ふぅ」 と言ってもこなたが遅刻してここに時間通りに来ない事は、それほど珍しい事でもなかった。 ただ、ここまで苦労してたどり着いたかがみにとっては、「またか」では済まされる事はなかった。 「あいつ……、あとで説教してやるっ」 どうせ携帯にメールや電話をしたところで、普段から携帯を携帯していないこなたと連絡が取れるとははなから考えてはいない。 結局、バスがやって来るまでこなたは現れなかった。 おそらくこなたはまた遅刻だろう。これもいつもの事であり、つかさとかがみは先にバスに乗ることにした。 「おはよう、ゆきちゃん。こなちゃん、また遅刻みたいだよ」 「おはようございます、つかささん。今日はお誕生日でしたよね、おめでとうございます。泉さんならほら、そこにいらっしゃいますよ?」 つかさはみゆきが指差す方向を見たが、こなたの姿は見つからなかった。 「え~、どこ~?」 「ほら、そこですよ。自分の席で本を読んでいらっしゃいます」 「ほぇ~……」 確かにこなたの席で本を読む少女の姿があった。それは青く長い髪で、トレードマークのアホ毛と無きボクロがある。 「え?え?ほ、本当に、こここここここここここなちゃん?」 「あ、つかさ?」 しかし、目の前のこなたの姿は、スレンダーでキリっとしておりで、背がつかさよりも高くて、見た目の幼さが完全に消えたこなたの姿だった。 もしもこなたの成長が止まらず、そのまま背が伸び続けていたならば、まさにこんな体格になっていたかもしれない。 「つかさ、今日は17歳の誕生日でしたね。おめでとうございます!」 「な、なんじゃこりゃ―――――――――!!!!!!!」 賑やかな教室の中で、つかさの悲鳴がこだました。 昼休みになり、かがみは初めてスレンダーで大人なこなたを目の当たりにした。 その前につかさから話は聞いていたため、かがみの悲鳴がこだまするような事は無かったが、それでも狐に化かされているんじゃないかと、到底納得など出来なかった。 「な、なあこなた。えっと何から聞けばいいのか……」 「なんですか?かがみ……」 「じゃあ単刀直入に、なんでそんな格好になっちゃったのよ。なんでみゆきみたいに敬語なのよ」 「えっとー、なんのことですかぁ?私はいつも通りだと思うんですけど。そ、それに敬語だっていつもの事じゃないですか……」 「あんたまさか本気なの?あぁ、なにがなんだか……」 「ねえゆきちゃん。こなちゃんの言ってる事って本当?」 「ええ。本当ですよ。どうしてですか?」 「え、ええとね……。うん、なんでもないよ」 「そうそう、かがみとつかさ~。今日、私の家に来ませんか?」 「はあ?」 「いや、実は誕生パーティを開こうと思ってるんですよ。だから、ぜひぜひ来て欲しいな~って」 かがみとつかさはお互いを見つめあい、そして無言のまま小さく頷いた。 「行くわ!」「行くよ!」 「じゃあ決定!学校が終わったらそのまま私の家に直行です!」 何が起こっているのか全くわからない二人にとって、こなたの家に行けることは幸運だった。 なぜこなたの姿が変わってしまったのか。はじめあれがこなただと気が付けなかったほどの変わりようだ。 性格まで変わっているように思う。普段のこなたに比べて、素直になっているようにかがみは感じた。 もう一つ気になるのは、こなたが変化した事を認知しているのが、つかさとかがみだけだと言う事だ。 みゆきによれば、こなたはいつも通りだと言う。クラスメイトも特にリアクションも無く、つかさとかがみだけが取り残されたようだった。 本当は皆の方が正しくて、私たちが間違っているんじゃないか。つかさにそんな考えが頭をよぎり不安にさせた。 そういった答えが、もしかしたらこなたの家にあるかもしれない。いや、ここに無ければ、他に答えを見つける当ては無い。 こなたの家は、つかさとかがみにとっての、唯一の頼みの綱だった。 こなたの家は小さかった。いや、かがみとつかさが知るこなた家が特別大きかったのであって、今のこなたの家のサイズは通常サイズと言えるかもしれない。 庭にはいくつかの花壇があり、良く手入れされていてとてもきれいだ。 洋風に統一されているようで、芝生が青々としていて所々に小人の形をした置物が陳列しており、いかにも女性が好みそうな庭だった。 はたして、こっちのそうじろうはこんな趣味なのだろうか?かがみは疑問に思った。 「ただいま。お母さん」 「お帰りなさい。かがみちゃんにつかささん、みゆきさん。お久しぶりですね」 目の前に現れたのは、かがみとつかさが求めていたこなたの姿だった。 小さくて胸が無く、あのちまっこい、なつかしのこなたの姿だった。 しかしよく見ると、雰囲気や物腰の違いが直ぐに分かる。 むしろこれは今のこなたとそっくりだった。 そして、見た目の違いにも気が付いた。こなたのトレードマークである、アホ毛、泣きボクロ、猫のような口が無い。 それらも今のこなたに受け継がれていた。 目の前にいる人間、それはこなたの家に遊びに行くたびに見ていた、部屋の片隅にいつも置かれた写真の中の人物。 「わ、小さいこなちゃん!」 「それは言わないで―――」 「まさか……。あ、あなたはもしかして、こなたのお母さんですか?」 「え?こなちゃんのお母さん?かなたさん?」 「え、そうですけど……、どうしたんですか?そんな怖い顔して」 「そんな、そんなまさか!」 「お姉ちゃん大丈夫?」 「うん。じゃあ、あの。もしかして、こなたのお父さんは?そうじろうさんはどうしたんですか?」 「かがみ、どうしてそんな事を急に?」 「ごめん、こなた。どうしても知りたいのよ……」 「そう君のですか……?知ってると思うけどそう君は死んじゃってます。そうですよね、こなたの親友だし、大切な事も知っててもいいですよね」 あのね、そう君は病気で死んでしまったんですよ。 あれはこなたがまだ中学生の頃でしたね。やさしくて一途なひとでした。 そうそう、そう君ね死んじゃう直前は私たちや、こなたのいとこの、ゆたかちゃんやゆいちゃん囲まれていたんです。 そうくんよっぽどうれしかったみたいで、『俺の人生は勝ち組だったよ、最高の萌え死にだ』なんて言って息を引き取ったの。 「私にはあまり意味がよく分からなかったけど、きっと幸せだったんですね」 「あぁ、まぁ。おじさんらしいと言うか、突っ込んでいいのか悲しむべきなのか……」 初めは面食らっていた二人だったが、お互いを大切な親友だと想いあっていることは、以前となんら変わっておらず、次第にこの状況にも馴染んでいった。 つかさとかがみの誕生パーティは順調に進んでいた。 次第に空は暗くなり、七夕を祝うため短冊を飾る家がいくつか見えた。 泉家の質素で小さなベランダにも、かわいらしい小さな笹が飾られていた。 「私からは、はい、リボンですよ!つかさとかがみのために、手作りしたんです!」 「わー、こなちゃんありがと~」 「団長とかは書いてないのね……」 「では、私はペンケースです。すみません、泉さんのように手作りは難しかったです」 「そんなことないよ。すごくうれしいよ!」 そこにかなたが、ろうそくを17本立てた特大ケーキを持ってやって来た。 ほんの少し前まで、絶対に会うことの無いだろう人物だったはずの人間。 しかしかなたの性格が幸いしたのか、かがみたちが抱く違和感は直ぐになくなっていた。 かなたの、昔から会っていたかのような親しみやすさが、二人にはうれしかった。 「七夕がお誕生日だなんて、ロマンチックですね~。こなたが生まれて直ぐのときにも、短冊にお願い事書いたのよ~。今日でちょうど17年前の事になりますね」 「そうなの~、どんなお願いだったんですか?」 「そうねえ、こなたの背は私に似ず、性格はそう君に似ませんように だったかしら。ちゃんと願いが叶ったみたいですね。 こなたが立派に育って、うれしいでしすよ。ふふふ。いや、その、別に私が背が低い事を気にしていたわけじゃないんですよ!」 「お母さん!恥ずかしいなぁもお。私は短冊が無くてもちゃんと育ってました!」 「むむ、短冊にお願い……。17年前……」 時間が過ぎるのはあっという間だった。 もうそろそろ帰らないと、みゆきが乗る最終バスに間に合わなくなってしまう。 帰らなくてはいけない。そう、小さなこなたがいるあの世界に、帰らないといけない。 七夕と言う、特別な日はもう直ぐ終わってしまう。 大きなこなたと、かなたとの別れには複雑な思いがあった。 しかし別れなくては、帰れないのだから。 つかさ、かがみ、みゆきの三人は、夜道を歩いていた。 昨日の天気予報では雨と言われていたにもかかわらず、夜空を見上げると満天の星空が広がっていた。 かがみは少しずつ気が付き始めていた。ここは、自分がいた世界とは違うのではないかと。 「ねえ、お姉ちゃん。ゆきちゃんに正直に言おうよ。今の私たちのことを。だってこのままじゃ帰れないよ?」 「うん……。なんとなくわかってきたのよ。でも……。ねえみゆき」 「はい、なんでしょか?」 かがみは、みゆきに全てを明かす事にした。 世界が違っていても、みゆきとは親友のはず、そう信じていたからこそ打ち明けた。 「まさかそんなことが……。にわかには信じられませんが……いえ、かがみさんがそうまで言うのなら信じます」 「ありがとう、みゆき。こなたの家に行って、いくつかヒントを見つけたわ」 「お姉ちゃんすごい!なにが分かったの?」 「すごく、迷惑な話だけど、どうも、かなたさんの短冊の願いが、17年目にして成就しちゃったみたいなのよ。小さいこなたが言ってたじゃない、アルタイルまでお願い事が届くには17年かかるって」 「えー!?本当に叶っちゃったんだ!」 「それはすごい話ですね」 「性格がおじさんに似ないようにするには、かなたさんは必要不可欠で、途中で死んじゃうわけには行かないし。 あとは、かなたさんが作る栄養バランスの取れた食生活でこなたの身長が伸びたのかしら?きっとあいつコロネばっかり食べてるから大きくなれないのよ」 「つまり、願いが叶うと同時に、かなたさんの寿命が延びたということですか?」 「そうなるわね……」 「じゃあ、なんで私たちだけ、こなちゃんの背が低い事とか、かなたさんが死んじゃってる事を知ってるの?」 「なんでかは分からないけど、ここ、願いが叶った世界と、私たちが知ってる願いが叶わなかった世界の二つがあるんじゃないかって思うのよ。それで私たちが、願いが叶った世界に移ってきたんじゃないかって。私の考えはここまでなんだけど、みゆきはどう思う?」 「そうですね……。私が今まで一緒にお付き合いしていた、つかささんとかがみさんは、今の背の高いこなたさんととても仲が良かったんです。 それが突然、お化けでも見てるかのような目でこなたさんを見るようになってしまって、私もちょっと変だと思ったんですよ。 途中からまたいつもどおりに仲が良くなってきて安心していたら、突然こんな告白をされて、実はちょっと戸惑ってます」 「ごめんねゆきちゃん。私たちも困ってるの。助けて~」 「もちろん、お力になれることはできる限りのことをいたします。 まず、私の知っているつかささんとかがみさんが何処へ行ってしまったのかを考えると、 やはりかがみさんのおっしゃるように、実は世界が二つあって、もう一つ世界へあなたたちと入れ替わったのかもしれませんね」 「そっかー、こっちの世界にも私たちがいたんだもんね。いまごろ背の低いこなちゃんと仲良くしてるのかな」 「えぇ、私も今までのかがみさんとつかささんに会えないのは辛いんです……。でもどうしてかがみさんとつかさんだけが?」 「さあ、これも七夕関係なのかしらね~。七夕生まれの私たちに対する彦星の気まぐれかしら」 「そ、そんな~~。困るよ~。どうしたら戻れるのかな?」 「また短冊に書いてお願いするとか。返してくださいって」 「しかしそれが叶うのは17年後の事ですよ。書かないよりはマシかもしれないですが……」 「「う~~~~ん……」」 つかさとかがみは、かがみの部屋で一緒に眠っていた。 一人用のベッドに二人入るのだから、当然窮屈で、お互いの体温や寝息が聞こえてきそうだった。 一緒に寝たいと言い出したのは、つかさの方だった。 自分たちは外の世界から来た、この世界ではただ二人だけの異世界人。 そう考えると、この世界にいるべきではなくて、全てから仲間はずれにされそうな気がして、怖くて悲しかった。 今の、背が高くて少し大人びているこなた。でも自分の世界のこなたと同様にやさしくて、ただ喋っているだけでも楽しくて、やっぱりあれは、こなただった。 そう考えると、この世界もそれほど悪くは無いかもしれない。 「ねえ、お姉ちゃん。起きてる?」 「なんだ、あんたも眠れないの?」 「うん……。本当に明日は元の世界に帰れるのかな?」 「正直、神のみぞ知るって感じよね。でも、つかさが思いついたあれなら、きっと明日には戻ってるわよ。あんたらしくなく、よく思いついたわよね」 「えへへ、昨日短冊書くときに、似たような失敗してたから、そう言えばって……。こっちの世界のこなちゃんもゆきちゃんも、かなたさんもいい人だったね」 「……。あんた、本当は戻りたくないの?」 「ううん、帰りたい。でも、楽しかった。この思い、こっちの世界の人に伝えくて……」 「……。寝ましょう。明日はまた学校なんだし」 「うん……」 この日の夜も、アルタイルが強く瞬いていた。 よく晴れたこの日、たくさんの人がそれを見たかもしれない。しかしそれに興味を持つような人は結局いなかった。 ただただ静かに、アルタイルは瞬いていた。 7月8日 「あーもー、一緒に寝たから、一緒に寝坊しちゃったじゃない!」 「うー、私のせいじゃないもん!」 「とにかく急ぐわよ!」 かがみとつかさは慌しい朝を迎えていた。 かがみはどうにかこなたとの待ち合わせ時間に間に合わせたく、あせる気持ちが強くあった。 どうにか時間に間に合い、バス停を見ると、そこには背の小さなこなたの姿があった。 「うわ~~、こなちゃんの背が低い!背が低いよ!お姉ちゃん!」 「あー、小さいこなた~。会いたかったわ~!」 「な、なんだなんだ!?私を小さいって言うな―――――!!」 学校にはみゆきの姿があった。 「あ、ゆきちゃんおはよう!」 「おはようございます。あのう、失礼ですがどちらの世界のつかささんでしょうか……?」 「ゆきちゃん、私たち帰ってきたよ。小さいこなちゃんの世界に戻ってきたんだよ」 「戻ってきたんですか!?あぁそれはよかった……」 「ゆきちゃん、背の高いこなちゃんの世界の私からのゆきちゃん宛のお手紙が、私の机の上においてあったよ。やっぱり私と考える事同じなんだね。私も向こうの世界で気持ちを伝えたくて手紙を書いて置いておいたんだ」 「また、背が低いとか高いとか、私の体にイチャモンつける気?私だって好きでこうなったんじゃないやい!」  「えへへ、背の高いこなちゃんも、背の低いこなちゃんも大好きだよ!」 「だから背が高いとか低いとか、一体なんなんだ―――――!!!!」 2年B組に、和やかな笑いが広がっていた。 境内にある、笹の林の中に、短冊が一つ新たに吊るされていた。 昨日降った雨のために、ぐしゃぐしゃに濡れてしまい、何が書いてあるかかろうじて読める程度だった。  17年前の私たちを、 背が高いこなちゃんのいる世界に戻してください        つかさ かがみ 「あ、そう言えば……」 かがみは2年C組の教室で、一人あることに気が付いていた。 「今回はアルタイルだったけど、もう一つ、ベガの距離が25光年。25歳の誕生日のときにもなんか起こるかも」 「なんだよ柊、にやにやしてなんだか不気味だぜ~」 「な、なんでもないわよ!」 2年C組でも、和やかな笑いが広がっていた。

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