「ID:TGELITk0氏:こなたの鬼退治」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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ゆさゆさゆさ。ゆさゆさゆさ。体が揺すられている。
「――なた。起きなさい、こなた」
「ん、う~ん……ふわぁああぁ……あれ?お父さん?」
「おはよう。こなた」
「え?お、おはよー……?」
あれ?何でお父さんに起こされたのだろう?今日は何かあったっけ?
寝起きで頭がぼんやりとしているためか、起こされる理由が思い出せない。
とりあえず、落ち着いて順番に考えていこう。
えーと、まず、今日は日曜のはずだ。
休日だから学校には行かなくていい。
ってなわけで、昨日の夜はいつものように遅くまで起きていた。
というか、今朝方、つまりついさっきまでず~~っとネトゲで狩りにいそしんでいた。
結局、最後の最後までレアアイテムには出会えなかったんだよね~。
などと寝る直前のことを思い出しながら、PCのある方に目をやる。
PCのある方……ある方……ありゃりゃ?おかしいね、私のPCが無いじゃん。
って、PCが無い!!!?
ガバッと起きる。確かにさっきまで遊んでいたはずの私のPCが無い!
ああ、私の至高のかがみんフォルダが……!!
一気に目が覚めてしまった私は、さらなる違和感を覚えて部屋をグルリと見回す。
漫画が、積みゲーが、フィギュアが、ポスターが、かがみとの写真が、全部無い!!
状況から察するに、ここは私の部屋じゃナイ!!何処なんだ、ここは!?
「こなた。今日でお前は18歳になる」
「え?……あ、そういえば」
あまりの事態に忘れていたが、今日は私の誕生日だった。
ハッピーバースデー、私。ありがとう、私。
これで私も堂々と18禁のシロモノを……いやいやいや、そんなことよりも状況確認が先だから。
そのシロモノを楽しむ為の道具すらも無い状況なんだってば。
「ねえ、お父さん!私――!!」
この状況について質問しようとしたら、お父さんは掌をスッと突き出して私の言葉を遮った。
「うんうん、わかっているさ。こなたが何を言いたいかは、俺にはわかっているとも」
そして、どこか遠くの方をびしっと指差してこう言った。
「さあ、心おきなく鬼退治へと行ってくるんだ!俺ももう止めやしない!」
「ふぇ?」
ああ、そうか。私はまだ夢を見ているのか。
☆
「う~。わたし、これでもフツーの女子高生なんだけどな。鬼退治なんて無理だヨ……」
ほっぺたがまだヒリヒリしている。
残念ながら夢じゃなかったようだ。
いや、或いはとてもしつこい夢なのかもしれないけど。
結局、私は少しばかりのお小遣いと竹槍、鬼ヶ島までの地図を渡され、家から放り出されてしまった。
とりあえず、“鬼退治”というフレーズにピンときたので、出かける前にキビ団子を手に入れておいた。
こんな訳の分からない状況では、これくらいの洒落っ気でも出さないとやってられないのだ。
まあ、お弁当の代わりにもなるし、邪魔にはならないアイテムだよね。
「それにしても渡される武器が竹槍って、どうなんだろーね。貰える初期装備が貧弱なのはRPGのお約束とは言え、ツラすぎだヨ」
ブツブツと文句を言いながらだが、地図に従い海を目指して歩いていく。
と、見慣れた姿に出くわした。
「あ、こなちゃんだ~。おはよ~」
「あ、おは……えっと、つかさ?」
笑顔で挨拶をしてきたのは、いつもと変わらぬつかさ……ではなかった。
犬のような耳と尻尾をピョコピョコさせている。いつの間にそんな武器を。
横にいるのは、いのりさんとまつりさん。
こちらも耳と尻尾が生えている。うーむ。これはこれで、かなり萌える。
ん?
ということは、ここにはいないが、愛しのかがみんも同じような格好でいらっしゃるということか!
或いはウサちゃんだったりしてね。くふふ。
これは確かめる必要がありそうですなぁ!
「どうしたの、こなちゃん?なんか、いつもよりぼーっとしてるけど?」
「あ、いや……おはよ、つかさ。えっと、かがみは?」
「あ、そっか。こなちゃん今日が誕生日だっけ。忘れちゃったの?鬼ヶ島はあっちだよ~」
「うん?だから、かがみは?」
「え?だから鬼ヶ島はあっちだよ?」
ふむ。
つかさにかがみのことを尋ねると、鬼ヶ島の話がでる。
これはつまり、かがみ=鬼ということだろうね。ちぇっ。
かがみのウサちゃん姿、見たかったなぁ。
いや、まてよ。鬼娘というのもなかなか――
果たしてかがみの鬼姿は萌えるのか、と真剣に考える私。
長考に入った私の横で、まつりさんがつかさに声をかける。
「つかさー。あんたもこなたちゃんについて行って、鬼退治を手伝ってやんなさい」
「えっ!?でも、鬼なんてこわいよう」
「なーに言ってんのよ。あんたら友達でしょ?ついでに、鬼達に私ら戌族の強さを見せつけてきなさい!」
つかさは助けを求めるような目でいのりさんの方をみつめた。
しかし、つかさももうすぐ18だから丁度いいんじゃない、といのりさんからも行くように勧められる。
「ううう。わかったよう。こなちゃんについて行くよ……こなちゃん、頼り無い私だけどよろしくね?」
「よしよし。つかさ、とりあえず、お団子でも食べとく?」
涙目のつかさを団子であやす。
特に意図した訳じゃないけど、一緒に旅する仲間に団子を渡すなんてあの童話の世界のまんまだね。
☆
「こなたー。お誕生日おっめでとー」
「あ、ゆい姉さん。ありがと」
つかさからこの世界の情報を引き出しつつ鬼ヶ島に向かう途中、ゆい姉さんにばったり出くわした。
ゆい姉さんにも耳と尻尾。
これは……お猿さんかな?
ここで会ったのも何かの縁。
とりあえず誕プレを要求すべく、ニヨニヨしながら手をつきだす。
「う。それは、まさか……」
「そう。誕生日といえばプレゼントでしょ?」
「お姉さん、今は持ち合わせがないんだよー」
「えぇー」
「そんな露骨に嫌な顔をしないでおくれよぅ」
「むー。でも、1年に1度のイベントだしさ」
後で多少法外な要求をしてもなんとかなるように、とりあえずごねておく。
困り果てるゆい姉さんの姿を見てかわいそうに思ったのか、つかさが私の肩をつついて言った。
「ねえ、こなちゃん。今はプレゼントとか貰ってる場合じゃないと思うよ?」
「まあネ。鬼退治しなきゃだしねー」
「ん?鬼退治?……そうだ!プレゼントの代わりに、お姉さんも鬼ヶ島まで一緒に行ってあげるよ!大人抜きだと心細いでしょ?」
「え?いいの?」
「いいの、いいの!今日はきよたかさんもいないしさー」
この時点で犬と猿がお供の鬼退治。
まだ1匹足りないけど、もう完全にあの童話の世界だヨ。
とりあえず、ゆい姉さんにも団子を渡してみる。
喜んで食べてくれた。
「こなちゃん、なんで今日はみんなにお団子を配ってるの?」
「そういう仕様なのだヨ」
当然であるかのように応える私。
つかさはしばらくの間、でっかいはてなマークを浮かべていた。
☆
「うはー!見事なキジ発見!」
「……鷹、です……」
もうすぐ海が見えるという頃、本当に見事な翼を備えたみなみちゃんに出会った。
つまり、みなみちゃんを仲間に加えれば私のお供は犬、猿、キジ。いや、鷹か。
ともあれ、お供コンプリートのチャンス!
4人パーティーは冒険の基本だしネ!
これはもう、仲間にせざるを得ない。
「みなみちゃんも私達と一緒に、 や ら な い か ?」
「?」
「今ね、みんなで鬼ヶ島に行く途中なの。ほら、こなちゃんは今日が誕生日だから」
「鬼ヶ島に、ですか?」
「そーなのだよ!さらに、今なら私特製の団子も、もれなくついてくるよー」
「行きます」
あっさりと快諾。
まさか、これがあの童話の中でも語られていた、伝説の団子効果だというのか!?
団子ひとつで命がけの旅にすらお供するという、あの伝説。
おお、なんということだ、この世界で団子がこれほどまでに重要なアイテムだったとはッ!
「ゆたか……」
「ん?ゆーちゃんがどうかしたの?」
みなみちゃんが、聞き慣れた名前を呟いた。
そういえば、今朝は家にいなかったなぁ。
「ゆーちゃんって、ゆたかのこと?鬼ヶ島の?」
「あれ?ゆい姉さん、今、なんていった?」
「え?今?え~っと……鬼ヶ島?」
なるほど、かがみだけでなく、ゆーちゃんも鬼サイドということか。
みなみちゃんが鬼ヶ島に行きたがる理由がよくわかった気がする。
ゆーちゃんに会いたいだけなんだね。
団子は少しも関係なかったのか。
ちくしょう、騙された!伝説の団子効果ってなんだヨ!
まあ、私が勝手に思っただけなんだけどネ。
☆
そして私たち4人は鬼ヶ島を目指し、海へと乗り出す。
ちなみに、船を借りに行った浜辺では、パティによく似た漁師がひよりんによく似た亀と戯れていた。
《オウ!ヨイ亀デス!!子供達にイジメさせるなんてモッタイナイ!ワタシがちゃんと虐めてあげマショウ!!》
《ちょっ!!……ああ~、そこのみなさん、どうか可哀相な私を助けてほしいッス……って、アッー!!》
最善の対処法として、見て見ぬフリをしておいた。
さらば、ひよりん。
君の事は、君の誕生日同様に華麗に忘れよう。
鬼ヶ島には思った以上にあっさりとついた。
船が着いた場所も港町として綺麗に整備されており、桟橋では気さくな鬼達が普通に出迎えてくれた。
「鬼ヶ島って、なんかおどろおどろしい城砦のようなイメージがあったんだけどネー」
「私も、鬼さんってもっといつも怒ってるのかと思ってたよ~」
つかさは鬼を単にイメージで怖がっていただけのようで、実際に鬼達と触れ合うことですぐにその恐怖心を克服した。
到着間際まで目を潤ませていたのに、今はずっとニコニコしている。
しばらく町を歩いてかがみとゆーちゃんの姿を探してみたが、見つける事はできなかった。
見つけられるまで探したかったが、日が暮れる前に鬼退治を済ませた方がいいとゆい姉さんが言うのでやむなくそれに従う。
観光案内所の鬼のお姉さんに『鬼退治に来た』と伝えると、町の裏手にある洞窟を紹介してくれた。
洞窟までは歩いて5分。
途中にもこれといった障害は無く、意外とあっさり着くことができた。
凶暴な悪い鬼との戦闘を覚悟していただけに、これには拍子抜けだった。
嵐の前の静けさ、というやつなのかもしれないが。
たどり着いた洞窟の入口には“ようこそ!鬼退治へ!”と明るい色で書かれたアーチ状の看板が架かっていた。
実に笑えない冗談だ。
洞窟の入り口まで来たところで、みんなの足が自然と止まった。
私のお供であるつかさ達がなんだかそわそわし始める。
やはり、この先には凶暴な鬼共が待ち受けているのだろうか……
「ねえ、こなちゃん。本当について行ってもいいの?ここで待ってようか?」
「こなた、私達が邪魔なら、遠慮せずに言うんだよ?一緒に行かないから」
みなみちゃんも2人と同意見のようで、コクコクと頷いている。
「ちょっ!!ここまで来といてそりゃ無いよ!お願いだから一緒に来てって!!」
土壇場でそんな態度をとるなんて、薄情すぎやしませんか、みなさん?
団子を食べたぢゃないですか!
特殊能力も無い私ひとりで鬼の巣窟へ殴りこむなんて自殺行為デスヨ!?
私の必死な態度を見てか、みんなは中までついて来ることをしぶりながらも承諾してくれた。
「それじゃあ、みんなっ!中に入るよっ!」
「こなちゃん、気合はいってるね~。がんばってね!」
私の武器は何の変哲もないチープな竹槍が1本のみ。
そりゃ、気合も入れたくなりますってば。
というか、つかさもがんばってよ?他人事みたいに応援してないでさ。
☆
洞窟の中では迷わずに進むことができた。
別につかさの嗅覚が凄かったから、とかそういう系ではない。
中は灯りがちゃんと点っていたし、律儀にも分岐毎に案内看板が立っていたのだ。
「こなちゃん凄いね~。初めての場所で迷わずどんどん進んでいくなんて」
「むふふ。私は、生まれついての勇者だからね。実は、この髪の毛はありとあらゆる波長をとらえるセンサーなのだヨ!」
「ええーっ!?そうだったんだー!!」
「ふっふっふ。このセンサーによるいろいろな状況判断の結果、進む道を決めているのだよ」
実際のところ、状況判断などはしていない。
単に看板に従って一番奥の部屋を目指しているだけ。
最初の看板を見たとき、その部屋のところに“かがみ”と走り書きがしてあるのを私は見落とさなかった。
それが私の知っているかがみの事を表している可能性は決して高くないが、他に頼るべき道しるべは無い。
今はただかがみに会いたい一心で、その少ない可能性に全力を投じて進んでいるのだ。
これは余談だが、鬼達の服装は男女共に虎柄の水着と相場が決まっているようだった。
鬼の町の人々は老若男女問わずその格好をしていた。
正直、老は無理をするなよ、と思った。
まあ、それはおいといて……むふふ。かがみんの水着姿。むふふふふ。
「そういう訳で、私の目標は一番奥の部屋なのだよ!」
☆
半分あたりまで進んだところで、何かの気配に気付いた。
そっと様子を窺うと、そこには通路の真ん中に座り込んで酒を飲んでいる鬼がいた。
「……男なんて……男なんてェ……」
「あれは……黒井先生!?」
むむぅ。こちらは竹槍を持っているとはいえ、相手は武闘派の先生。
しかも鬼だ。
私は鬼の能力がどれほどのものか、まだ知らない。
戦うべきか、戦わざるべきか。どうやって切り抜けよう。
私がウンウン言って悩んでいると、ゆい姉さんが手を挙げる。
「よっし。ここはお姉さんが引き受けてあげるよ、こなた」
「え。いいの?」
「こなたが目指してるのはもっと奥なんでしょ?ここは任せたまへ!!」
「ありがと!ゆい姉さん!!」
「さぁー、鬼よ!お姉さんが相手だー!!どっからでも、かかってこーい!!」
「なんや、騒がしいやっちゃなぁ。まぁ、ええわ。そこのアンタ、一緒に飲まへんか?」
「え?……じゃ、じゃあ、ちょっとだけ~」
ゆい姉さんが黒井先生を惹きつけている間に、すばやく通路の奥の扉へ向かう。
《ふおおおおぉっ!?わ、私にはダンナがいますからーーっ!!》
数分後、何があったかは知らないが、ゆい姉さんの断末魔の叫びが聞こえてきた。合掌。
☆
しばらく進むと、また何かの気配がする。
そっと様子を窺うと、通路の真ん中でオロオロしている鬼がいた。
「ど、どうしよう。自分達の洞窟で、ま、迷っちゃったよう」
「あ、ゆーちゃんだ」
むむぅ。こちらは竹槍を持っているとはいえ、使うわけにはいかない。
鬼とはいえ、相手はゆーちゃんだ。軽く殴ることすら気が引けちゃうよ。
戦うべきか、戦わざるべきか。どうやって切り抜けよう。
私がウンウン言って悩んでいると、みなみちゃんが手を挙げる。
「私が、相手をします」
「あ、そっか。みなみちゃん、この為について来たんだしね」
「はい。みなさんは先へ……」
「それじゃあ、頼んだよ、みなみちゃん」
「……ゆたか……」
「あっ。あなたは……ええっと、この間は、助けてくれてありがとう。でも、どうしてここに?」
「……ゆたかに、会いたくて……」
みなみちゃんがゆーちゃんの相手をしている間に、とりあえず通路の奥の扉へ向かう。
《ゆたか……///》
《みなみちゃん……///》
事の顛末を物陰から見届け、奥へと進む。うーむ。両想いっていいなぁ、羨ましいなぁ。
☆
もう少しでかがみの部屋、しかしここでも何かの気配がする。
そっと様子を窺うと、通路の端で椅子に腰掛け優雅に読書をする鬼がいた。
「……」
「う。みゆきさんか」
むむぅ。こちらは竹槍を持っているとはいえ、使うと後が怖い。
普段おとなしい人ほど、キレると洒落にならないのが通説だ。
ましてや鬼だ。みゆきさんだ。
戦うべきか、戦わざるべきか。どうやって切り抜けよう。
私がウンウン言って悩んでいると、つかさが手を挙げる。
「私が行くよ!こなちゃん!」
「え。いや、それはやめておいた方が……」
「大丈夫!私だって、やればできるんだよ!?」
「いや、でもネ、相手が悪すぎるよ……って、つかさぁ!?」
「が、がおぉ~!」
「ひゃあっ!?」
どんがらがったーん。
つかさがみゆきさんに飛びかかっていったので、何も見ないようにして通路の奥の扉へ向かう。どんどん進む。
《たすけてぇええぇぇー!こなちゃああぁぁぁっぁあぁぁぁあんっ……!!》
私の心の中のつかさが断末魔の叫びをあげる。実際はどうなったかなんて、恐ろしすぎて確認したくもない。
☆
そうして私は、みんなの力を借りることによって無事に目的の部屋へとたどり着いた。
「とうとう会えるネ!かがみっ!!」
目的の部屋の扉に近づくと、中から声が聞こえてきた。
どうやら、この扉の向こうには複数の鬼がいるようだ。
「意外と臭いのよねー」
「だよなー。臭いよなー」
「うふふ。そうなんだー」
声の主は私の嫁と、えーっと……みさきちに峰岸さんだ。
C組のメンバーで楽しく会話しているといったところか。
むぅ。かがみと2人っきりになれると思ってたのにな。
「ところでさ、最近あやのがなーんかつめてーんだよな。なんとかしてくれよー、かがみー」
「しょうがないわよ、みさお。あやのは彼氏いるんだから。私たちなんて背景よ、きっと?」
「もー。かがみちゃんったら」
なんだろう、この違和感。
なんか、いつもよりこの3人がやたら親しげな気がする。
むー?なんなんだろ?
……ああっ!?
か、かがみが、かがみがあの2人と下の名前で呼びあっているだと!?いったい、どゆこと!?
そうか。そう言えばこの世界では、いつもの私たち4人組の構図は成り立たっていない。
私とつかさは向こうの島にいたが、かがみとみゆきさんは鬼ヶ島にいた。
たぶん、今まで会ったことすらない設定なのだろう。
さっきのつかさはみゆきさんと初対面な風だったし。
状況から察するに、この世界のみさきちと峰岸さんはかがみとずっと一緒にいた可能性が高い。
そうであれば、この3人が本来の世界より少~しばかり親しかったとしても何の不思議も無いのだ。
あれ?でも、この世界のつかさはかがみのことを知っていたような気が……??
つかさにかがみのことを尋ねたとき、“鬼ヶ島はあっち”と当然のように言っていた。
うーん。辻褄があわない。
まあ、考えても答えはでない。
つかさが生きていたら聞いてみよう。生きていたら。
「なぁ、かがみー。お願いがあるんだけど」
「何よ?」
「ほら、アレだよ、アレ。アレしてくんないかな?」
「アレって言われてもわかんないわよ。はっきり言いなさいよね」
「う。い、いつものようにさ、その、ち、ちち、ちゅーしてくれよ!」
え?ちゅー?いつものように?
かがみとみさきちがキス?
いやはや、幻聴が聞こえるなんて、ここにきて旅の疲れがでてきたのかなぁ。
「もう、しょうがないわね。あやの、悪いけど外してくれる?さすがに見られてると恥ずかしいのよね」
「うふふ。しょうがないなぁ、2人とも。ごゆっくりね」
え?あれ?しょうがない?見られてると恥ずかしい?
……かがみ、キスしちゃうの?
わ、わたしですら、まだ1回もしてもらってないってのに!?
「ほら、みさお……もっとこっち来なさいよ」
「……そんな風に見つめられたら、恥ずかしいってヴぁ」
「さ、目を閉じて――」
「ちょおぉーっと、待ったぁーーーーーーーっ!!」
私は扉をぶち破った。
そのままの勢いで部屋の中へと転がり込む。
「かがみ!かがみぃ!!私というものがありながらっ!!」
かがみとみさきちは、ふかふかのソファーに密着状態で腰掛けていた。
突然の乱入者に気がつくとパッと離れる。
かがみは鬼の中でも位が高いのだろうか、他の鬼たちと違いキラキラと光る装飾品を身につけていた。
うん、似合っている。とても綺麗だ。
いいところを邪魔されたせいか、みさきちは憮然とした表情でこちらを見ていた。
「……なあ、かがみ。このちっこいの、知り合いか?」
「……知らないわよ、こんなやつ。今、初めて会ったわ」
あああああ。私のかがみが冬のように冷たい。
これは死ねる。
それにしても鬼の格好のかがみ、想像以上に萌える。
大盛りご飯で3杯はイケる。
いろんな意味で悶える私。
「おい、ちびっ子。お前何者だ?何か用でもあんのか?」
「私はかがみに会いに来たんだヨ」
「え?私に?なんで?」
「だって、かがみは……私の嫁だからっ!!」
竹槍をびしっと突き出して、高らかに宣言する。
例え世界は違えども、かがみを他の人間に渡してなるものか!
「その竹槍……まさか、鬼退治かぁ!?」
「ちょっと、みさお。今週の警備はあんたが責任者でしょ?どうなってんのよ!?」
「う。実は、まだ何も指示してねーんだよな。誰も配置についてないハズ……」
「はあぁぁー!?何よソレ!?」
「かがみと一緒にいられるだけでソワソワワクワクしてさ、それどころじゃなかったってゆーか」
「信じらんない!あんた降格よ、降格!」
かがみの剣幕にみゅ~んと鳴くみさきち。ふふふ、いい気味だ。
私がニマニマしていると、かがみが優しい笑顔を見せて私のほうへゆっくりと近づいてきた。
いい表情だ。写メを撮りたくなるくらいに。
「警備が手薄だったとは言え、ここまで来るなんて……あんたなかなかやるじゃない」
「むふふー。かがみのためなら、たとえ火の中、水の中なのだよ」
「嬉しいこと言ってくれるわね。でも……残念だけど、鬼退治は18歳になってからじゃないとダメなのよ?ほら、今日はもう帰りなさい、ボク」
「そーだぞー、ちびっ子ー。出なおしてきなー」
「わわわ、私は18だよっ!ちっこいからって、ばかにすんなーっ!!それに“ボク”じゃないもんっ!!」
「「えええっ!?」」
あまりの衝撃に口が開いたままになる2人。
とりあえず、私はぷーっと膨れておいた。
「ふ~ん……そういうことなら話は別ね」
「お、おい、かがみ。まさか、お前あのちびっ子と……だ、ダメだっ!それはダメっ!!」
「もとはといえば、みさおがサボったのが悪いのよ?そうでしょ?」
「そ、それはそうなんだけどさ」
かがみが私の方にさらに近づいてくる。
その顔からさっきまでの優しい笑顔は消えていた。
かわりに実に鬼らしい妖しい笑顔を浮かべている。
うん。これはこれでイイ。実にイイ。
昔話盛りで5杯はイケる。
かがみは私から3mほどのところまで来ると、構えをとり戦闘体制にはいる。
ギラリと光る爪。
「ちょ。か、かがみん?」
「ここまで来たってことは、私が目当てなんでしょ?……ふふっ。その鬼退治、受けてあげるわ」
どうやらかがみは本気のようだ。私はかがみと戦う気なんてこれっぽちも無いのに。
しかし、そうも言ってはいられない。
鬼が本気でかかってくるのだ、こちらも本気をださなければ命が危ないかもしれない。
かと言って、本気をだして反撃してかがみに怪我なんてさせたくない。
あああ、どうしよう。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」
「え?あ。私は泉こなた、だよ」
「こなた、か……いい名前じゃない。よろしくね、こなた。さあ、いくわよ!」
「えっ!?ちょっ、待っ!!」
私がまだ躊躇しているうちに、かがみは爪を振りかざして襲い掛かってきた。
私は竹槍を構えることすらできない。
かがみが真っ直ぐに突っ込んできての一瞬の交錯。
次の瞬間、視界に映った真っ赤な血が、私の頬に飛び散った。
「ッ!!……あれ?痛く……ない?」
おそるおそる自分の体を確認すると、どこからも血は出ていなかった。
「ああん。私、こなたに退治されちゃった~♪」
「あちゃー。やっぱり、こうなっちまったか」
「ふぇ?」
目の前の光景に理解が追いつかない。
腕の傷から血を流しながらとても嬉しそうなかがみ。
それを見て額に手をあてるみさきち。
かがみの傷は私の竹槍によってできたものだ。
といっても、私はかがみを攻撃した覚えなんてない。
ただ単に向こうが突っ込んできただけだ。
「……あの、かがみさん?」
「なぁに、こなたぁ?」
かがみは極度のデレ状態だった。私に擦り寄り無傷な方の腕を絡めてくる。
何か聞こうにもこうもデレんデレんでは使いものにならない。
かがみとの密着状態が嬉しいよりも先に、何が起こったのか不思議でならない。
考えがまとまらずぼーっとしていると、みさきちが話し掛けてきた。
「あー、ちびっ子。その、なんだ、わたしでよければ説明してやるよ」
「……お願いするヨ。もう、なにがなんだか」
☆
「ちびっ子がどこまで知ってるかわかんねぇからさ、1から説明すっぞ?えーっとな。まず、かがみって鬼のお姫様じゃん?」
「お姫様!?かがみが?」
「なんだよ、そんなことも知らねーくせにここに来たのかよ?ま、それはそれとしてだ。そんな身分だからかがみには自由なんかねえんだよな、実際」
「なるほど」
「外の世界を見れるのも、わたしらと一緒にさ、壁をぶちやぶったりしてこの部屋から抜け出した時くらいなわけよ」
「それなんてア○ーナ姫?」
「誰だ、それ?どこの一族の姫だ?」
「あ。こっちの話だから気にしないで続けてくれたまへ」
「へ?そうなのか?……そんなわけでさ、かがみはこの一番奥の部屋まで鬼退治に来てくれるヤツを待ってたんだよな。そりゃもう、ずーっと前からな」
話の流れがイマイチよくわからない。
自由が無かったから、退治されることを望んだ?自殺願望?
いや、そうではない。
私の横でピンピンしているかがみは、本人いわく、既に私に退治されたことになっているようだ。
とりあえず、退治=死では無いようだ。
「で、今日、自分の趣味にぴったりなオマエが鬼退治に来ちまったってわけだ」
「趣味にぴったり?」
「そう、ぴったり。いやな予感がしたけどさ、まさかホントに自分から退治されるとはなー。いや、まいったぜ」
「ちょっと、話が長いわよみさお!こなたが困ってるでしょ!?いいかげんにしなさい!!」
「うう。かがみがさっそく冷たいよー。あやのー、あやのー」
「ねぇ、こなたぁ。こんなヤツほっといて、さっさと行きましょ!」
「ふぇ?何処へ?」
「ん、もう。あんたの家に決まってるじゃないのよ」
「なんで?」
「忘れたとは言わせないわよ?あんた私のこと退治したでしょ?だったら、ちゃんと責任とりなさいよね!」
「いや、でも、退治って言われてもサ、あれはかがみが勝手に……って、責任ってどゆこと?」
「こういうことよ!」
チュッ。
「私はあんたの嫁になってやるって言ってんの」
ああ、そうか。鬼退治ってそういうイベントのことだったのか。
つまり、自分の力を示して嫁をゲットするイベント……って、あれ?
私とかがみって女同士じゃね?
かがみはそれでいいのかなぁ?
私としてはノープロブレムだけど。
まあ、そんなこんなで私はかがみに引きずられながら来た道を戻っていくことになった。
これは後で知ったことだけど、“鬼ヶ島のかがみ姫、三度の飯より女娘(おなご)好き”というかなり有名な噂があったらしい。
かがみが三度の飯が大好きだということを知っている諸君ならば、この噂の内容がどれだけおそろしいことなのかわかるだろう。
私はむしろ望むところだけどネ。
ちなみに、つかさがかがみのことを知っていたのも、このおそろしい噂によるところが大きかったようだ。
『母さんの言うコトを守れない悪い娘は、鬼のかがみに連れて行かれて、食べられちゃうわよ(性的な意味で)!』
といった調子で、いのりさんやまつりさんにからかわれていたそうだ。
☆
「お父さん、ただいまー」
「おかえり。早かったな、こなた。ちょっと話があるんだが、いいか?」
「別にいいけど……なに?」
「今朝はあんなことを言って送り出したけど、こなたが鬼退治だなんて、お父さんやっぱり認めないからな!」
「あー、でも、もう退治してきちゃったヨ。その鬼さ、お父さんに挨拶するって言ってついて来てるんだけど?」
「何ィ!?いったいどこのどいつだ!!すぐに呼びなさい!!お父さん絶対に許さないからっ!!」
「おーい。入って来いってさー」
「このヤロウ!!よくも、よくも哀れなこなたを手篭めにしたなぁ!?」
「は、ハジメマシテ!お義父さん!かがみと申します!ふ、ふつつか者ですが――」
「許せる!!」
なんだその立てた親指と輝かしい笑顔は。
なにはともあれ、こうして私はかがみと仲良く一緒に暮らす事になったとサ。
☆
一緒に暮らすようになってから1週間が過ぎたある日のこと。
「こなたぁ~。早く起きなさいよぉ~。もう昼前よぉ~?」
「うう……元気だね、かがみん。私はかがみのせいで眠くてたまらないよ……むにゃむにゃ……」
「完全に起きるまで暫くかかりそうね。いいわ。お義父さんとの用事を済ませてくるから、その間に起きてなさいね」
かがみは鬼だけあって体力的にもの凄い。
帰ってきてから毎晩、何回も何回も私を襲ってきた。もちろん性的な意味で。
いい加減にしてほしいとは思うが、しかし、拒否するわけにもいかないのだ。
あれは4日目の晩のことだった。
さすがに疲れたので少しつれない態度を見せたところ、かがみの姿が忽然と消えた。
いつの間に目をつけていたのか知らないが、かがみはいのりさんとまつりさんを襲いに行ってしまったのだ。
私の機転により事は未遂に終わり、何とか最悪の事態は防げたものの……いのりさん達が満更でもない様子だったのが気になる。
かがみがとられてしまう可能性があるから心配だ。
そんなことを考えながらベッドの中で睡魔と闘っていると、部屋にいる人の気配が増えた。
かがみの気配ではない。誰かお客さんが来たようだ。
「こなちゃん、おはよ~」
「おはようございます。こなたさん」
あ、つかさとみゆきさんだ。相変わらず仲が良さそうだ。
しかし、命を落とさずに済んで本当に良かったね、つかさ。
お客が来たのではしょうがないから起きることにする。
私が布団からもぞもぞと抜け出したところで、お父さんとの用事が終わったのか、かがみが部屋に戻ってきた。
「おー。みゆきにつかさ、いらっしゃーい」
「あ、お邪魔してます。かがみさん」
「あ、おねえちゃんだ。おはよ~」
「……あれ?なんで、つかさがかがみのこと“お姉ちゃん”って呼んでるの?」
「ん?こなたには言ってなかったっけ?あたしとみゆきって異母姉妹なのよ。みゆきが敬語で話すから、気がつかなかったとは思うけど」
「そうなんです。ですので、つかささんはかがみさんの義理の妹になるんですよ……お恥ずかしながら、私の敬語は昔からの癖でして」
あの日、結局みゆきさんはつかさに退治されたことになったようで、かがみと一緒にこっちについて来ていた。
つかさは誕生日を迎えていなかったが、みゆきさんによると、数えで18歳になっていれば鬼退治は成立するのだそうだ。
真偽の程は定かではないが。
かがみによると、みゆきさんはつかさに惚れてるから自分に都合のいい嘘をついている、とのことだ。
手段を選ばないなんてみゆきもみっともないことするわね、なんて言ってたけど……オマエが言うな。
そもそも、みゆきさんが女に惚れてしまうような性格になったのは、かがみんの影響なんじゃないだろうか。
この姉のへんたい電波に侵されて……ああ、かわいそうなこっちの世界のみゆきさん。
「だから、こなちゃんも“お義姉ちゃん”なんだよ~。でも、恥ずかしいから、こなちゃんはこなちゃんのままで良いよね?」
「いいんじゃない?みゆきも私のこと、ずっとかがみさんって呼んでるしね。無理に変える必要も無いんじゃないかしら?」
「そうですね」
「で、とりあえず、こいつらも明日から一緒に住むことになったから。もちろん、お義父さんも了解済よ」
「ふぇ?」
お父さんが萌え死にする日もそう遠くなさそうだ。
「ついでに言っとくと、私にはもうひとり妹がいるのよね。鬼ヶ島に残してくるの心配だから、こっちに呼んじゃったんだけど――」
「こんにちはー。お邪魔します、かがみお姉ちゃん」
「……お邪魔します……」
「ああ、噂をすればなんとやらね。私の妹、ゆたかちゃん。やっぱり異母姉妹よ」
「ゆたかです。よろしくお願いします、こなたお義姉ちゃん」
「隣にいるのはお友達ですか?」
「あ、みゆきお姉ちゃん。みなみちゃんはね、私の大事な人なんだよ。えへへ」
ここにもかがみのへんたい電波の犠牲者がひとり。
いや、みなみちゃんもカウントするとすれば、ふたりか。
それにしても、何かいつもの世界と面子があまり変わらなくなってきたなぁ。
もしかして、ゆーちゃんもそのうち一緒に暮らす事になるのだろうか。
お父さんなら当然快諾するんだろうなぁ……そうか、萌え死にまであと2年かぁ。
まぁ、人数が多い方が賑やかで良いよネ。
ウチのかがみが他の娘に手をださないか、心配のタネは増えちゃうけど。
あれ?ゆーちゃんとみなみちゃんの後ろにもまだ誰かいるような……?
「ちびっこー!私のかがみをかえしやがれー!!」
「なっ!みさお!?だ、誰があんたのものなのよ!あたしはもう、こなたのものなんだから!!」
「みさちゃん、他所の家であんまり大声出したりとか、迷惑かけちゃダメよ?」
「ゆきちゃん。あの鬼さんたちって知り合い?」
「ええ。おふたりとも、元はかがみさんの直属の護衛で、確か今はゆたかちゃんの護衛役なんですよ」
「Wow!萌え萌えガールズでいっぱいデス!怪しげな鬼娘たちを全力デ追いかけて来たカイがアリマシタ!」
「あわわわわ。どうしよう、みなみちゃん。なんか、知らない人がついてきてたよー」
「……大丈夫。ゆたかは私が護るから」
「ふおおーっ!こ、これは、たまらないシチュエーションっス!眩しすぎるっス!……ごふっ」
「わぁ!?ゆきちゃん、亀さんが血をはいて倒れちゃったよ!?」
「大丈夫です、つかささん。それは仕様ですから」
「おい、そこの鳥!ゆたかの護衛は私らの仕事だぞ!抱き合ってないで離れろー!」
「ちょっ、空気よみなさいよ!ていうか、護衛ならまずこっちの知らないやつらを何とかするべきでしょ!?また降格するわよ!?」
「みさちゃん、これ以上の降格はシャレになってないわよ。そっちの人達を早く追い出さなきゃ」
「オーウ、つれないデスネー。旅は道連れ世は情け、という言葉もアルではナイデスカ!」
……収拾がつきそうに無いなぁ。賑やか過ぎるのも、どうなんだろうね。
まぁ、かがみも楽しそうだし、私もそれなりに楽しいからヨシとしますか!
めでたし、めでたしっと。