ID:OP.DLPIo氏:俺とこなたの誕生日 > アフター

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 諸君。  俺は他人に誇れる特技も持たない、どうしようもなく平凡な人間だ。  趣味はアニメとゲーム。最近は弾幕STGにお熱。昨日はナントカ地霊殿のLunaticを初めてクリアした。  つまり俺は世間一般で言う「オタク」だ。大体のオタクがそうであるようにモテない。  そう、どこにでもいる人間なのだ。  ジョジョ立ちはそろそろ卒業したいと思っている。 「あー、そうか……」  某SNSのトップページに“Happy Birthday!!”と記されたバナーが浮かんでいる。  俺一人だけが住まうこの部屋にはあいにく12ヶ月がまるまる1枚に収まったカレンダーしかなく、  しかもそれがこのパソコン前という位置から見えない場所に飾られていたため、日付の確認には苦戦を強いられた。  5月28日、木曜日。時刻は0時38分。  昨日の回は超能力おじさん突然の再登場で大いに笑わされた――なんていうのは関係ない話だ。こっちの話。アニメの話。  ふうっとため息をついて、俺は座椅子にもたれかかった。 「……歯がいてぇ」  どうもこの頃、左奥歯の痛みに悩まされることが多い。  きっと親知らずだ。そうに違いない。さっき麦茶を口に含んだら思いのほかジンとしみたが虫歯ではない、と思う。  そうだ、寝てる時も痛みで目を覚ますことが増えてきたから明日は歯医者に行こうと考えていたのだ。  いや、そうではなくて、先ほど俺はまたひとつ年を食ったのだった。  19だ。まだ酒は飲めない。 「誕生日かぁ」  俺のオヤジが転勤族だ、って話は前にしたっけか。してないかもしれない。  中1の夏に埼玉へ越してきて、高3の秋に我が家はまた引っ越しをした。転居先は北海道の道南、いわゆる地元だった。  お世話になった陵桜に別れを告げて中の中くらいの公立高校に編入、そのまま札幌の大学を受験してすんなり合格。  あれよあれよと言う間に色んな手続きが処理されていき、気がついたら俺は親元を離れて安い割にそこそこ広いアパートで一人暮らしを始めていた。  大学生活や目の前のSNSを通じて友人もたくさんできた。  ページを更新してみると俺の誕生日を祝うメッセージが数件入ってきていたし、さっき携帯に届いていたのもきっとそんな感じのメールだと思う。  いまに不満なんてない。むしろ俺には過ぎた幸せってヤツだ。ごめん少しカッコ良く言ってみた。  でも、そんな中で何かが物足りない気がしていた。  気がしていた、なんてのはたぶん正しくない。その感覚の正体だってわかってる。  今からちょうど、本当にぴったり1年前のことだ。俺がまだ陵桜に通っていた時の話。  彼女いない歴3年に終止符を打った、きっと一生忘れられないであろう大切な日だ。  俺の、そして泉こなたの18歳の誕生日。  その日、俺達は付き合い始めたのだった。  ――が、神様ってのは意外に残酷なもんで、俺とこなたは同年9月下旬に引き離されてしまうこととなってしまう。  と……ゆだんさせといて……ばかめ……もちろんそれで関係が終わったわけじゃあない!!! この時代、地球はそんなに広くないのだ。  携帯電話にメッセンジャー、ネトゲ、そしてこのSNS。この国には何だってあるんだから、距離が離れていたところで大した問題ではない。  俺達は頻繁に……というかもうほとんど毎日何かしら連絡を取り合っているし、遠距離恋愛も順調に続いている。  だいたいこんなかわいい子と別れるなんてとんでもない! 誰がなんと言おうとこなたは俺の嫁だぜウェッヘッヘッヘwwwwwww  とまあひとしきりノロケてみたが、ひとつ問題が発生している。  昨日から彼女はネット上のあらゆる場所に顔を出していないのだ。  メールも送ったし電話もかけてみたけれど結果は惨敗。へんじがない、ただの……いやいやいや死んでなんかないよな!?  これではせっかくのダブル記念日を祝うこともできない。  ネトゲにはこの日のために数百倍の競争率を誇る狩場で横殴りに耐えながら狩りを続け、  そこで手に入るドロップ率1%未満の超レア装備を携えた俺のPCがログインを今か今かと待っているというのに。  あぁ……こうして思い返してみると俺って廃人かもしれんね。  違う。それすら今日この日のオマケに過ぎないじゃないか。  心の底から愛するこなたにたった一言、「誕生日おめでとう」と言ってやることすらできない。何よりもそれが一番つらかった。  明日は1限から講義が待っている。成績のためにも夜更かしは最低限にしておかないとまずい。  2時が限度だな、と静かに呟く。俺は6時間は寝ないとダメな人なのだ。  考えるのをやめて座椅子に背中を預けてぼうっとしていると、唐突に電子音が耳に届いた。  曰く、卓球。  とっさに時計を見ると時刻は1時を回っていた。いつの間に。  って、1時に来客? 誰だよこんな時間に……ってこれは死亡フラグだ。  玄関ののぞき穴から外の様子をうかがう。が、何も見えない。今は夜中なんだから当たり前か。  イタズラなら変にゴタゴタしないからいいな――などと考えながら、俺はドアノブを回した。 「……え?」 「おこんばーん。久しぶり」  これなんてエロゲ? 「いやぁ参った参った。迷いに迷ってこんな時間になっちゃったヨ」 「あ、う、え、……ええ?」 「せっかくだから来てみたんだ。泊まっていいよね?」  あの日渡したペンダントを首にかけた突然の来訪者は、1年前と何一つ変わらない、輝くような笑顔で言った。 「19歳の誕生日、おめでとう」 「――という夢をだな」 「嘘つけ」 「嘘です。今度ばかりは妄想です」 「これはないわ……」 「引くわー。マジで」  諸君。  俺は特に取り得があるわけでもない、ごくごく一般的な小市民だ。  世間一般で言う「オタク」だ。そう、本当にどこにでもいる人間なのだ。  だが俺にはひとつ、諸君らに胸を張って自慢できることがある。  俺の誕生日は5月28日。  泉こなたと同じ日に生まれたということだ。  うぐっ、何か霊的なものに監視されてるような気配を感じる……。  具体的には「ここ」の上の方から……いやいや俺は一体何を言っているんだ。まとめられた後に伝わらないじゃないか。    了

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