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かなたとの恋愛談義
それは、高校一年生のときのとある昼休みのことだった。
泉とかなちゃんが向かい合って、弁当を食べていた。
仲睦ましいことよね。
いつもだったら、食べ終わっても昼休みが終わるまで二人でしゃべってるんだけど、用事があるっていって泉が教室を出ていった。
「相変わらずのラブラブカップルね」
私は、かなちゃんにそう話しかけた。
「そんなんじゃないって言ってるでしょ。私とそう君は、ただの幼馴染よ」
「登下校も一緒でお昼も一緒でさ。泉だってかなちゃんへの好意を隠そうともしないし、かなちゃんだってずっと面倒みてやってるじゃない。どこからどう見ても、ラブラブカップルじゃないの」
「どうしてみんな分かってくれないのかしら。幼馴染のお友達がたまたま男の子だってだけなのに」
「かなちゃん。それ本気で言ってるの?」
「もちろん」
「あのさ。泉は、かなちゃんのことが好きだってはっきり言ってるんでしょ。なのに、何とも思わないわけ?」
「付き合ってほしいなんていわれたことは一度もないわ。なら、今のままで何が悪いの?」
「かなちゃんって、彼の決定的な一言を待つ夢見る乙女ってやつ?」
「それも違う。私は今のままで何の不満もないもの。変わりたいなら、変わりたい方が言い出すべきだわ」
「そのうち泉も心変わりして、他の女のところに行くかもしれないわよ」
「それならそれでいいじゃない。心変わりなんて誰にでもあることよ」
「彼女との関係に邪魔だからって、かなちゃんとの友人関係もやめにしようって言われるかもよ?」
「そう君がそうしたいっていうなら、仕方ないわ」
「それでいいの?」
「大事なお友達の恋路を応援するのは当然でしょ」
本当に、かなちゃんは、泉のことを何とも思っていないらしい。
私は、唖然とするばかりだった。
「じゃあさ。泉から付き合ってほしいって言われたら、どうするの?」
「そう君にそういわれたら、私だってよく考えるわよ。よく考えて結論を出すわ」
断ったりしたら、泉のやつ、自殺しそうよね。
かなちゃんが断るなんて、想像もできないけどさ。
「泉じゃなくて、他の男から付き合ってほしいって言われたら?」
「それでも同じよ。相手は真剣なんだから、こっちだって真剣に考えてあげなきゃ」
泉以外の男と付き合うかなちゃんなんて、想像もできない。
「他の男と付き合うことになったら、泉のことはどうすんのよ?」
「今のままで何も変わらないわ」
「それって、相手の男から見たら浮気も同然よ。認めてくれるわけないじゃない」
「そんな心の狭い人なんて、好きにならないわ」
かなちゃんはそう言い切った。
「なるほど……」
そんな心の広い聖人君子は、この世に多くはない。
こんなに可愛いかなちゃんに今まで彼氏ができなかった真の理由が分かった気がした。
泉が遠慮なく周りを牽制してるという以上に、かなちゃん自身のそういう態度が男を怖気付けさせるんだ。
それが分かってるから、泉もある意味安心してるのだろう。
でも、それじゃあ、今のままで何も進展がない。ラブラブカップルにしか見えないのに、当人たちにとってはただの友人関係だという、周囲にとってはもどかしいというかはっきりしろやこらっていうかそんな感じのままで……。
私は、後日、泉を捕まえて、どうしてかなちゃんにちゃんと告白しないのかと訊いてみた。
「いやあ。こういうのは、告白される方が萌えるだろ? こう、上目遣いで、顔を赤らめながらさ」
そういいながら泉は陶酔していた。
駄目だ、このオタクは。
その後、高校を卒業するまで、二人はずっと変わらないままだった。
聞くところによると、大学に行ってもそんな感じのままだったみたい。
結局、泉の方が根負けして、かなちゃんにプロポーズしたそうよ。
付き合ってほしいってのをすっ飛ばしていきなりプロポーズってのもすごいけど、プロポーズのセリフもすごかった。
かなちゃんから泉のプロポーズのセリフを聞き出したときは、私は数分間声も出なかったわ。
かなちゃん、それでよくOKしたわよね。
いや、まあ、かなちゃんが断るなんて想像もできないけどさ。
泉のやつにプロポーズをやり直させるぐらいは、してもよかったんじゃない?
終わり