ID:bz0WGlY0氏:道草

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 衣替えも終わり、そろそろ梅雨になりそうな季節、  そんなある日のこと、 つかさと一緒に帰宅途中、 自宅の近くにさしかかった時 つかさが急に立ち止まる。  つかさ「お姉ちゃん」  かがみ「ん、どうした」 つかさが指差す方を見るとツバメの雛が道の隅に 横たわっていた。  かがみ「ツバメの雛ね きっと巣から落ちたんだわ。」 私が落ちたツバメの雛の上をみるとツバメの巣があった。  かがみ「きっとあの巣から落ちたんだわ。」  つかさ「かわいそう 巣に戻せないかな。」 そう言うとつかさは横たわっているツバメの雛を両手で やさしくすくい上げた。  つかさ「動かない 冷たくなってる。」  かがみ「残念ね もう死んでるわよ。」  つかさ「このままじゃ かわいそう。」     「そうだ うちの神社の公園に埋めてくる。」     「お姉ちゃん 一緒に行かない。」 かがみ「なんで」  つかさ「一人より二人の方が喜ぶかなって。」  かがみ「子供じゃあるまいし 二人で行くことないじゃない。」    「私は帰るわ。」  つかさ「そう、そう言えばそうね、私、行ってくるね」 そう言うと、つかさは公園に向かっていった。 私は家にそのまま帰った。 しかし帰宅後、何かが引っかかった感じが湧いてきた。  数日後、よく晴れた日だったが風が強かった。 午前中、つかさ達のクラスと合同で体育の授業が 終わり片付けをしている時だった。  校庭で私は道具の整理をしていた。 ふと周りを見渡すと こなたとつかさが立ち話をしているのが見えた。 片付けをサボっているようである。 こなたのやつ、つかさとサボっているな、  かがみ「おーい こなた つかさ サボってないでこっち来て手伝え」 私は叫んでこなた達を呼びつけた。 つかさはすぐ反応して私に手を振って答えた。 こなたは無反応だった。 つかさは私を指差しこなたと何か話している。こなたを誘っているようだ。 しばらくして、つかさは諦めたのか一人で私の所へ向かってきた。 すると今度はこなたがつかさを呼んでるように見えた。 つかさがこなたの方に振り向くと同時に一段と強い風が吹き付けてきた。 つかさの目の前にあったサッカーゴールが倒れてきた。 間一髪であった、こなたが呼び止めなければつかさはゴールの下敷きになっていたところだ。 ゴールの倒れる音で他の生徒達やや先生が倒れたゴールに集まる。  授業終了のチャイムが鳴った。 つかさが心配だったが、校庭が慌しかったのと委員会の件で先生に呼ばれていたので私は 片付けを終わらせるとそのまま教室に帰った。  委員会の用事を済ませるともうお昼休み。 私はお弁当を持ってつかさのクラスへと足を運ぶ。 かがみ「オース お弁当食べましょ」  こなた「食べよう 食べよう」  かがみ「みゆきは どうしたの」  こなた「委員会の用事で先生の所へ行った」  かがみ「そうか、まだ終わってないみたいね つかさもまだ戻ってないみたいだけど」  こなた「ああ つかさなら校庭で倒れたゴールの後始末をしてるよ」     「先生が近くに居る人みんな呼んでいたから巻き込まれたみたいだね」  かがみ「で あんたも近くに居たのに なぜここにいるんだ」  こなた「先生に呼ばれなかったからだよ」  かがみ「嘘つけ 私が呼んだときも無視したくせに ほんとに調子いいわね」  こなた「まあね」  かがみ「そこは 認めるのか。」     「しかし、こなた よく分かったわね。」  こなた「え 何のこと」  かがみ「あの時 ゴールの倒れる前につかさを呼び止めたじゃない」  こなた「そんな予言者じゃあるまいし 分かるわけないよ」  かがみ「じゃなんで つかさを呼び止めたのよ」  こなた「ああ あれは呼び止めたんじゃないよ」     「あまりにも面白かったから つかさに指差して笑っただけだよ」  かがみ「私もつかさ見てたけど 笑えるようなことあったかしら」  こなた「かがみは遠くに居たからね 見えなかったんだよ」     「ツバメの糞がつかさの襟の中にすっぽと入っちゃね」     「それでつかさが のけぞっちゃってね」  かがみ「あんたそこまで見てたの」  こなた「ゲームで鍛えた動体視力をもってすれば」  かがみ「はいはい 最後はその話かい」  かがみ「まったく 助けたように見えただけか」     「危うくお礼を言うところだった」  こなた「お礼なら 糞をかけたツバメに言うんだね」  かがみ「ツバメにお礼って 糞をかけただけじゃない。」  こなた「相変わらずかがみは夢がないというか。少しはつかさを見習わないと。」  かがみ「そのつかさを見て笑った人に言われたくないわね」 丁度、そこにつかさとみゆきが教室に入ってきた。 かがみ「ごめんね、二人とも、先にお昼食べてたわよ」  みゆき「おかまいなく、委員会の資料をまとめるに手間取りました。」  つかさ「やっと片付けおわった。お腹空いた」     「あれ、こなちゃん、いつの間に教室に戻ってきたの。」  かがみ「こいつは、つかさを盾にして置き去りにしたわよ。」  こなた「相変わらず容赦ないね」  かがみ「さっき、認めてなかったか。」  つかさ「お姉ちゃん、私、別に気にしてないから。」  かがみ「まったく、つかさは人が良すぎなんだから。」   みゆき「あの事故、つかささん、間一髪の差で泉さんに助けられましたね。」  かがみ「みゆきまでそう見えるのか」     「つかさは鳥に糞をかけられて立ち止まっただけよ。」     「こなたはそれを笑ったのをそう見えただけ。」 みゆき「それにしても タイミングが素晴らしくいいですね。」  つかさ「これってきっと、あの雛鳥の親のお礼だよ。」  こなた「雛鳥って何かあったの。」 つかさは、数日前の出来事を話した。  こなた「そんなことがあったんだ。」  みゆき「確かにつかささんの言われたとおりお礼かもしれませんね。」  こなた「うんうん まさに奇跡だね。」 三人はそのまま話が盛り上がっていった。 私はしばらく三人の会話をただ聞いていた。  つかさが雛の話をしたときから雰囲気が変わったのは分かった 特にこなたの変わり様には驚いた。 おそらくつかさと同じ心境になっているだろう。 子供じみたたわいもない出来事、 そんな話に華を咲かせている。 私は退屈になり、ふと窓の外を見る。 校庭に植えられている木々が静かに立っている。 体育の授業であれだけ吹いていた風はもうすっかり無くなっているみたいだ。 そしてその木々の間をツバメが頻繁に飛び交っている。 どうやらこの校舎にいくつか巣があるようだ。 これだけツバメがいれば糞の一つや二つは人に落ちても不思議じゃない。 三人の会話が理解できなかった。 突然、数日前と同じ感じがよみがえる。 つかさが雛を埋めに行くと言って別れた時、感じた何か引っかかったような感じ。  昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 もやもやした感じが残ったまま、私は三人と別れ自分の教室へ戻った。  その日の下校時。 駅を降りつかさと二人でいつものように家路を通っていた。 私は昼からどうも気分が優れない。 さっさと帰りたい気持ちのせいか、 家路への足取りが自然と速くなっていく。 そんな私につさが話しかけてくる。  つかさ「お姉ちゃんどうしたの」  かがみ「どうたって、何が」  つかさ「お昼の途中から急に黙っちゃって、今もだけど」     「こなちゃんも突っ込まないからおかしいって言ってたし」  かがみ「あいつは私を何だと思ってるのか、」     「別に、何の変わりもないわよ。気のせい」  つかさ「それならいいんだけど」 しばらくつかさは何かを考えているように沈黙した。 そして、何か決心するかのように私に話しかけてきた。  つかさ「これから 体育の時のお礼をしに雛の所に行こうと思うんだけど。」  かがみ「お礼って、なんで。」     つかさ「あのままだったら下敷きになってたし 奇跡だよ」     かがみ「奇跡って つかさ あの雛が居た巣から学校までどれだけ離れてるのよ」     「ほとんど家からと同じ距離じゃない、いくら渡り鳥だからって」     「そこまで遠くに行かないでしょ」     「それにつかさが陸桜に居るのをどうやって知ったの」     「それに、いつまでもそんな事いって」     「もうすぐ受験でしょ。もうそんなこと考えている余裕なくなるわよ」 もうこのこの事について話すのはもうたくさんだ。 私は少し怒り口調でつかさをたしなめた。 つかさは黙り込んでしまった。 しばらく沈黙が続いたが、口を最初に開いたのはつかさの方だった。  つかさ「お姉ちゃんも一緒きてほしいな。」  かがみ「あの雛を埋めてあげたのはつかさじゃない、それに助けられれたのはつかさでしょ」     「私なんて関係ないじゃない」     「行くだけ無駄よ。」 雛を見つけた時と同じように私は断った。 こうなることはつかさなら分かるはず、 それなのに誘うつかさが理解できなかった。 ここまでくると当て付けがましくも受け取られる。  程なく公園への分かれ道にさしかかり、私たちは別れた。 後姿がどことなく淋しくみえたが、気にもとめず家路を急ぐ。 なぜか急にイライラしてきた。 つかさと別れて家路を歩いていると突然、私の首筋に生暖かい感覚が走った。 立ち止まり、すぐさま手を首筋に触れて確認した。 手には白い塊と黒い粘りのある液体が混ざっている。 空を見上げるとツバメが飛んでいた。 鳥の糞。 身の危険を感じとっさに中腰になり構えた。 ・・・何も起きない、時間だけが空しく過ぎていく。 私はあの事故のことを無意識に思い出していたようだ。 私は手を見た。 汚い、やられた、手がベトベトだ。 私はハンカチで手を拭う、首筋は見れないがおそらく汚れているだろう。 お気に入りのハンカチは汚れてしまった。 そして無駄な行動までさせたツバメに怒りがこみ上げてきた。     「なんて事するのさ」 思わず空に向かって叫んだ。 しかしツバメはどこにも見当たらない、飛び去っていた。 私は恥ずかしくなり辺りを見渡した。 誰も居なかったことを確認するとほっと胸をなでおろした。  私は何をしたのだろうか。 体育の授業につかさに起きたような事が起きるのではないかと 期待していたのだろうか。 ばかばかしい、 今日はついてない。 早く帰って汚れたハンカチを洗わなくては。 私は家帰ろうとしたが、数日前のことを思い出す。 ここは、つかさが雛を見つけた所だ。 そして近くに巣があることを思い出した。 するとツバメが飛んできた。 さっきのツバメだろうか、 私はツバメの後を目で追うとツバメはその巣に入っていった。 雛に餌をあげると、またどこかに飛び去っていく。 するとまた餌をくわえたツバメが交代するように巣に入る 雛たちはしきりに餌をねだって首を伸ばして 親に餌をねだっている。 いつの間にか、私はその様子をしばらく見入っていた。  どこにでもあるようなツバメの子育て風景。 ほんの数日前、自分の子供が巣から落ちて 息絶えた事など忘れてしまっているようにない忙しさだ。 落ちた雛は即死だったのか、それとも苦しみながらだったのか、 親は助けようとしたのだろうか。 今、巣を見ても何もその時の状況をうかがい知ることはできない。 こんなに巣の近くに居たのに、身内にすら忘れられた雛鳥の死、 私はいつの間にか目から涙が出ていた。  あの時、雛を見つけたとき真っ先に手にとってやりたかった。 死んでいると分かった時、雛を埋めてやりたいと思っていた。 そして、冥福を祈ってやりたかった。 今になって強く感情が湧き出してくる。    あの時のつかさはこんな気持ちだったのか。 つかさの気持ちになってはじめて気が付いた。 こんな気持ちになっているのに、それをたしなまれたり、 否定されたら、どれほど辛いか。 私は、散々なことをつかさに言っていた。 そんな私につかさは一度も反攻する態度をとっていない。 それどころか、つかさは雛を埋めに行き、 そしてさっきも、お礼をすると言って別れた。 今まで黙って耐えていたのだろうか。  親鳥は交互に餌を巣に持ち帰えり、 雛鳥たちは餌をねだっている。 雛鳥達の鳴き声が切なくこだまする。 まるで私を非難しているように思える。  確かに悪いのは私、 ここで立っているだけじゃ何も変わらない。 公園の分かれ道まで戻り、つかさを待とう、 そして謝ろう。   「なにしてるの」    突然、後ろから声がした。 驚き、後ろを振り返る。 つかさだった。  用が済んで戻ってきたようだ、別れてからかなり時間が経過していたようだ。 私がまだここに居ることが不思議に見えたようだ。  つかさ「首筋によごれが付いているよ」 心配そうな顔で私をみている。 あまりに急で声が出ない。 まごついてると、つかさは笑顔で言った。  つかさ「お姉ちゃんもツバメに助けられたんだね」  かがみ「え、なんで」  つかさ「だって、お姉ちゃんの首筋に付いてる物、それにここは、雛が倒れてた所だし、」     「これだけで奇跡だよ」 まるで自分のことのように喜ぶつかさ。  かがみ「何もないわよ、糞をかけられただけよ」     「そのせいで、足止めされて・・巣を見て・・・」 話すのが止まり、頭の中で続いた。 そのせいで、私の本当の気持ちに気が付いた。 そのせいで、つかさの気持ちが分かった。 そのせいで、謝るべきつかさが今、そこに立っている。 そう、そのせいで私は助けられた。 つかさの言う奇跡の意味が分かった。 あまりにも簡単だった。 今までの出来事が全て奇跡にのように思えてきた。 私は、すでに奇跡の中にいることに、気が付いた。 突然、止まっていた涙がまた湧くように出てきてしまった。 抑えようとしても涙が止まらない。 私は耐えられなくなり、つかさにもたれかかって泣き崩れた。 つかさは、そんな私をやさしく受止めてくれた。 そして私の首筋の汚れをふき取ってくれた。 そのまま私の手にハンカチを渡してくれた。 まるで私がなぜ泣いているのか分かっているようだった。 ただ、黙って私を泣かせてくれた。 私はつかさのやさしさに甘えているしかできなかった。  どのくらい時間が経ったか、 私は我にかえった。  つかさは私に対して何も怨んでも、怒ってもいない。 それどころか喜んでくれている。 そんなつかさに謝ったって意味は無い。 でも、私なりに今までの清算がしたい。  私はつかさから離れた。 つかさに渡されたハンカチを返す。 そして、自然と口が開く。 「私も雛の為に祈りたい。」     「つかさも一緒に来てれないかしら、場所も分からないし、」     「それに、一人より二人の方が喜ぶかなって」 つかさはそれを待っていたかのようにうなずく。   雛の為に祈る。 たったこれだけの事をするのに私は長い道草をしてしまったようだ。  つかさはツバメの巣の方を向き手を振りながら、     「ありがとう」 そう言うと公園の方の道へ体を反転させて、進みはじめた。 振り向きざま、つかさの目に光るものをみた。 そんなつかさを見て、私も巣の方を見て心でツバメたちに語りかけた。     分かってるわよ、今日の事は全てつかさのためにしたことくらい、     お礼は亡くなった雛とつかさにって言いたいんでしょ。 でも、救われたのは何もしていない私の方だったかもね。     だから、せめてお礼を言わせて、    「ありがとう」 まとわり付いていたわだかまりは、涙と共に消えていた。 そして、淡い悲しさだけが残った。 そんな私に風がやさしく通り過ぎていく。 私は大きく深呼吸を一回してつかさの後を追った。    終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
 衣替えも終わり、そろそろ梅雨になりそうな季節、  そんなある日のこと、 つかさと一緒に帰宅途中、 自宅の近くにさしかかった時 つかさが急に立ち止まる。  つかさ「お姉ちゃん」  かがみ「ん、どうした」 つかさが指差す方を見るとツバメの雛が道の隅に 横たわっていた。  かがみ「ツバメの雛ね きっと巣から落ちたんだわ。」 私が落ちたツバメの雛の上をみるとツバメの巣があった。  かがみ「きっとあの巣から落ちたんだわ。」  つかさ「かわいそう 巣に戻せないかな。」 そう言うとつかさは横たわっているツバメの雛を両手で やさしくすくい上げた。  つかさ「動かない 冷たくなってる。」  かがみ「残念ね もう死んでるわよ。」  つかさ「このままじゃ かわいそう。」     「そうだ うちの神社の公園に埋めてくる。」     「お姉ちゃん 一緒に行かない。」 かがみ「なんで」  つかさ「一人より二人の方が喜ぶかなって。」  かがみ「子供じゃあるまいし 二人で行くことないじゃない。」    「私は帰るわ。」  つかさ「そう、そう言えばそうね、私、行ってくるね」 そう言うと、つかさは公園に向かっていった。 私は家にそのまま帰った。 しかし帰宅後、何かが引っかかった感じが湧いてきた。  数日後、よく晴れた日だったが風が強かった。 午前中、つかさ達のクラスと合同で体育の授業が 終わり片付けをしている時だった。  校庭で私は道具の整理をしていた。 ふと周りを見渡すと こなたとつかさが立ち話をしているのが見えた。 片付けをサボっているようである。 こなたのやつ、つかさとサボっているな、  かがみ「おーい こなた つかさ サボってないでこっち来て手伝え」 私は叫んでこなた達を呼びつけた。 つかさはすぐ反応して私に手を振って答えた。 こなたは無反応だった。 つかさは私を指差しこなたと何か話している。こなたを誘っているようだ。 しばらくして、つかさは諦めたのか一人で私の所へ向かってきた。 すると今度はこなたがつかさを呼んでるように見えた。 つかさがこなたの方に振り向くと同時に一段と強い風が吹き付けてきた。 つかさの目の前にあったサッカーゴールが倒れてきた。 間一髪であった、こなたが呼び止めなければつかさはゴールの下敷きになっていたところだ。 ゴールの倒れる音で他の生徒達やや先生が倒れたゴールに集まる。  授業終了のチャイムが鳴った。 つかさが心配だったが、校庭が慌しかったのと委員会の件で先生に呼ばれていたので私は 片付けを終わらせるとそのまま教室に帰った。  委員会の用事を済ませるともうお昼休み。 私はお弁当を持ってつかさのクラスへと足を運ぶ。 かがみ「オース お弁当食べましょ」  こなた「食べよう 食べよう」  かがみ「みゆきは どうしたの」  こなた「委員会の用事で先生の所へ行った」  かがみ「そうか、まだ終わってないみたいね つかさもまだ戻ってないみたいだけど」  こなた「ああ つかさなら校庭で倒れたゴールの後始末をしてるよ」     「先生が近くに居る人みんな呼んでいたから巻き込まれたみたいだね」  かがみ「で あんたも近くに居たのに なぜここにいるんだ」  こなた「先生に呼ばれなかったからだよ」  かがみ「嘘つけ 私が呼んだときも無視したくせに ほんとに調子いいわね」  こなた「まあね」  かがみ「そこは 認めるのか。」     「しかし、こなた よく分かったわね。」  こなた「え 何のこと」  かがみ「あの時 ゴールの倒れる前につかさを呼び止めたじゃない」  こなた「そんな予言者じゃあるまいし 分かるわけないよ」  かがみ「じゃなんで つかさを呼び止めたのよ」  こなた「ああ あれは呼び止めたんじゃないよ」     「あまりにも面白かったから つかさに指差して笑っただけだよ」  かがみ「私もつかさ見てたけど 笑えるようなことあったかしら」  こなた「かがみは遠くに居たからね 見えなかったんだよ」     「ツバメの糞がつかさの襟の中にすっぽと入っちゃね」     「それでつかさが のけぞっちゃってね」  かがみ「あんたそこまで見てたの」  こなた「ゲームで鍛えた動体視力をもってすれば」  かがみ「はいはい 最後はその話かい」  かがみ「まったく 助けたように見えただけか」     「危うくお礼を言うところだった」  こなた「お礼なら 糞をかけたツバメに言うんだね」  かがみ「ツバメにお礼って 糞をかけただけじゃない。」  こなた「相変わらずかがみは夢がないというか。少しはつかさを見習わないと。」  かがみ「そのつかさを見て笑った人に言われたくないわね」 丁度、そこにつかさとみゆきが教室に入ってきた。 かがみ「ごめんね、二人とも、先にお昼食べてたわよ」  みゆき「おかまいなく、委員会の資料をまとめるに手間取りました。」  つかさ「やっと片付けおわった。お腹空いた」     「あれ、こなちゃん、いつの間に教室に戻ってきたの。」  かがみ「こいつは、つかさを盾にして置き去りにしたわよ。」  こなた「相変わらず容赦ないね」  かがみ「さっき、認めてなかったか。」  つかさ「お姉ちゃん、私、別に気にしてないから。」  かがみ「まったく、つかさは人が良すぎなんだから。」   みゆき「あの事故、つかささん、間一髪の差で泉さんに助けられましたね。」  かがみ「みゆきまでそう見えるのか」     「つかさは鳥に糞をかけられて立ち止まっただけよ。」     「こなたはそれを笑ったのをそう見えただけ。」 みゆき「それにしても タイミングが素晴らしくいいですね。」  つかさ「これってきっと、あの雛鳥の親のお礼だよ。」  こなた「雛鳥って何かあったの。」 つかさは、数日前の出来事を話した。  こなた「そんなことがあったんだ。」  みゆき「確かにつかささんの言われたとおりお礼かもしれませんね。」  こなた「うんうん まさに奇跡だね。」 三人はそのまま話が盛り上がっていった。 私はしばらく三人の会話をただ聞いていた。  つかさが雛の話をしたときから雰囲気が変わったのは分かった 特にこなたの変わり様には驚いた。 おそらくつかさと同じ心境になっているだろう。 子供じみたたわいもない出来事、 そんな話に華を咲かせている。 私は退屈になり、ふと窓の外を見る。 校庭に植えられている木々が静かに立っている。 体育の授業であれだけ吹いていた風はもうすっかり無くなっているみたいだ。 そしてその木々の間をツバメが頻繁に飛び交っている。 どうやらこの校舎にいくつか巣があるようだ。 これだけツバメがいれば糞の一つや二つは人に落ちても不思議じゃない。 三人の会話が理解できなかった。 突然、数日前と同じ感じがよみがえる。 つかさが雛を埋めに行くと言って別れた時、感じた何か引っかかったような感じ。  昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 もやもやした感じが残ったまま、私は三人と別れ自分の教室へ戻った。  その日の下校時。 駅を降りつかさと二人でいつものように家路を通っていた。 私は昼からどうも気分が優れない。 さっさと帰りたい気持ちのせいか、 家路への足取りが自然と速くなっていく。 そんな私につさが話しかけてくる。  つかさ「お姉ちゃんどうしたの」  かがみ「どうたって、何が」  つかさ「お昼の途中から急に黙っちゃって、今もだけど」     「こなちゃんも突っ込まないからおかしいって言ってたし」  かがみ「あいつは私を何だと思ってるのか、」     「別に、何の変わりもないわよ。気のせい」  つかさ「それならいいんだけど」 しばらくつかさは何かを考えているように沈黙した。 そして、何か決心するかのように私に話しかけてきた。  つかさ「これから 体育の時のお礼をしに雛の所に行こうと思うんだけど。」  かがみ「お礼って、なんで。」     つかさ「あのままだったら下敷きになってたし 奇跡だよ」     かがみ「奇跡って つかさ あの雛が居た巣から学校までどれだけ離れてるのよ」     「ほとんど家からと同じ距離じゃない、いくら渡り鳥だからって」     「そこまで遠くに行かないでしょ」     「それにつかさが陸桜に居るのをどうやって知ったの」     「それに、いつまでもそんな事いって」     「もうすぐ受験でしょ。もうそんなこと考えている余裕なくなるわよ」 もうこのこの事について話すのはもうたくさんだ。 私は少し怒り口調でつかさをたしなめた。 つかさは黙り込んでしまった。 しばらく沈黙が続いたが、口を最初に開いたのはつかさの方だった。  つかさ「お姉ちゃんも一緒きてほしいな。」  かがみ「あの雛を埋めてあげたのはつかさじゃない、それに助けられれたのはつかさでしょ」     「私なんて関係ないじゃない」     「行くだけ無駄よ。」 雛を見つけた時と同じように私は断った。 こうなることはつかさなら分かるはず、 それなのに誘うつかさが理解できなかった。 ここまでくると当て付けがましくも受け取られる。  程なく公園への分かれ道にさしかかり、私たちは別れた。 後姿がどことなく淋しくみえたが、気にもとめず家路を急ぐ。 なぜか急にイライラしてきた。 つかさと別れて家路を歩いていると突然、私の首筋に生暖かい感覚が走った。 立ち止まり、すぐさま手を首筋に触れて確認した。 手には白い塊と黒い粘りのある液体が混ざっている。 空を見上げるとツバメが飛んでいた。 鳥の糞。 身の危険を感じとっさに中腰になり構えた。 ・・・何も起きない、時間だけが空しく過ぎていく。 私はあの事故のことを無意識に思い出していたようだ。 私は手を見た。 汚い、やられた、手がベトベトだ。 私はハンカチで手を拭う、首筋は見れないがおそらく汚れているだろう。 お気に入りのハンカチは汚れてしまった。 そして無駄な行動までさせたツバメに怒りがこみ上げてきた。     「なんて事するのさ」 思わず空に向かって叫んだ。 しかしツバメはどこにも見当たらない、飛び去っていた。 私は恥ずかしくなり辺りを見渡した。 誰も居なかったことを確認するとほっと胸をなでおろした。  私は何をしたのだろうか。 体育の授業につかさに起きたような事が起きるのではないかと 期待していたのだろうか。 ばかばかしい、 今日はついてない。 早く帰って汚れたハンカチを洗わなくては。 私は家帰ろうとしたが、数日前のことを思い出す。 ここは、つかさが雛を見つけた所だ。 そして近くに巣があることを思い出した。 するとツバメが飛んできた。 さっきのツバメだろうか、 私はツバメの後を目で追うとツバメはその巣に入っていった。 雛に餌をあげると、またどこかに飛び去っていく。 するとまた餌をくわえたツバメが交代するように巣に入る 雛たちはしきりに餌をねだって首を伸ばして 親に餌をねだっている。 いつの間にか、私はその様子をしばらく見入っていた。  どこにでもあるようなツバメの子育て風景。 ほんの数日前、自分の子供が巣から落ちて 息絶えた事など忘れてしまっているようにない忙しさだ。 落ちた雛は即死だったのか、それとも苦しみながらだったのか、 親は助けようとしたのだろうか。 今、巣を見ても何もその時の状況をうかがい知ることはできない。 こんなに巣の近くに居たのに、身内にすら忘れられた雛鳥の死、 私はいつの間にか目から涙が出ていた。  あの時、雛を見つけたとき真っ先に手にとってやりたかった。 死んでいると分かった時、雛を埋めてやりたいと思っていた。 そして、冥福を祈ってやりたかった。 今になって強く感情が湧き出してくる。    あの時のつかさはこんな気持ちだったのか。 つかさの気持ちになってはじめて気が付いた。 こんな気持ちになっているのに、それをたしなまれたり、 否定されたら、どれほど辛いか。 私は、散々なことをつかさに言っていた。 そんな私につかさは一度も反攻する態度をとっていない。 それどころか、つかさは雛を埋めに行き、 そしてさっきも、お礼をすると言って別れた。 今まで黙って耐えていたのだろうか。  親鳥は交互に餌を巣に持ち帰えり、 雛鳥たちは餌をねだっている。 雛鳥達の鳴き声が切なくこだまする。 まるで私を非難しているように思える。  確かに悪いのは私、 ここで立っているだけじゃ何も変わらない。 公園の分かれ道まで戻り、つかさを待とう、 そして謝ろう。   「なにしてるの」    突然、後ろから声がした。 驚き、後ろを振り返る。 つかさだった。  用が済んで戻ってきたようだ、別れてからかなり時間が経過していたようだ。 私がまだここに居ることが不思議に見えたようだ。  つかさ「首筋によごれが付いているよ」 心配そうな顔で私をみている。 あまりに急で声が出ない。 まごついてると、つかさは笑顔で言った。  つかさ「お姉ちゃんもツバメに助けられたんだね」  かがみ「え、なんで」  つかさ「だって、お姉ちゃんの首筋に付いてる物、それにここは、雛が倒れてた所だし、」     「これだけで奇跡だよ」 まるで自分のことのように喜ぶつかさ。  かがみ「何もないわよ、糞をかけられただけよ」     「そのせいで、足止めされて・・巣を見て・・・」 話すのが止まり、頭の中で続いた。 そのせいで、私の本当の気持ちに気が付いた。 そのせいで、つかさの気持ちが分かった。 そのせいで、謝るべきつかさが今、そこに立っている。 そう、そのせいで私は助けられた。 つかさの言う奇跡の意味が分かった。 あまりにも簡単だった。 今までの出来事が全て奇跡にのように思えてきた。 私は、すでに奇跡の中にいることに、気が付いた。 突然、止まっていた涙がまた湧くように出てきてしまった。 抑えようとしても涙が止まらない。 私は耐えられなくなり、つかさにもたれかかって泣き崩れた。 つかさは、そんな私をやさしく受止めてくれた。 そして私の首筋の汚れをふき取ってくれた。 そのまま私の手にハンカチを渡してくれた。 まるで私がなぜ泣いているのか分かっているようだった。 ただ、黙って私を泣かせてくれた。 私はつかさのやさしさに甘えているしかできなかった。  どのくらい時間が経ったか、 私は我にかえった。  つかさは私に対して何も怨んでも、怒ってもいない。 それどころか喜んでくれている。 そんなつかさに謝ったって意味は無い。 でも、私なりに今までの清算がしたい。  私はつかさから離れた。 つかさに渡されたハンカチを返す。 そして、自然と口が開く。 「私も雛の為に祈りたい。」     「つかさも一緒に来てれないかしら、場所も分からないし、」     「それに、一人より二人の方が喜ぶかなって」 つかさはそれを待っていたかのようにうなずく。   雛の為に祈る。 たったこれだけの事をするのに私は長い道草をしてしまったようだ。  つかさはツバメの巣の方を向き手を振りながら、     「ありがとう」 そう言うと公園の方の道へ体を反転させて、進みはじめた。 振り向きざま、つかさの目に光るものをみた。 そんなつかさを見て、私も巣の方を見て心でツバメたちに語りかけた。     分かってるわよ、今日の事は全てつかさのためにしたことくらい、     お礼は亡くなった雛とつかさにって言いたいんでしょ。 でも、救われたのは何もしていない私の方だったかもね。     だから、せめてお礼を言わせて、    「ありがとう」 まとわり付いていたわだかまりは、涙と共に消えていた。 そして、淡い悲しさだけが残った。 そんな私に風がやさしく通り過ぎていく。 私は大きく深呼吸を一回してつかさの後を追った。    終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 良かった -- 名無しさん (2017-05-14 20:03:37)

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