ID:TQpa6FU0氏:なんだかおかしな日

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 その日の朝は、いつになく爽やかな目覚めだった。  お日様の陽気も心地よく、今日は何か特別なことが起こるかもしれない。こなたはそんな予感を感じていた。  スキップでもしそうな上機嫌で校門に辿り着いたこなたは、前方にみゆきの後姿を見つけた。 「おっはよー、みゆきさん」  上機嫌なまま、みゆきに挨拶をするこなた。みゆきがその声に振り返り、こなたに挨拶を返す。 「ういっす、泉」  一瞬、こなたは人違いだと思った。しかし、再度見直しても、目の前にいるのはみゆきに他ならなかった。  でも、泉って呼び捨てされてるぞ。そもそも「ういっす」ってなんだ。いつからみゆきさんはこんな砕けたキャラになったんだ。  こなたは混乱する頭で、みゆきに問いかけた。 「えっと…みゆきさん…だよね?」 「そうよ。他の誰に見えるって言うのよ…大丈夫、泉?また徹ゲーとかしてたんじゃないの?」 「…えーっと…なに?かがみの物真似?」  特別なこと起こっちゃった。  とりあえずこなたは、今日一日爽やかには過ごせない予感をひしひしと感じていた。 - なんだかおかしな日 - 「ホントに大丈夫なの?熱とかない?」  冷や汗をだらだらと流しながら立ち尽くすこなたの額に手を当てながら、みゆきがそう言った。 「…いや、熱がありそうなのはむしろ貴女の方なんですが」  こなたは、かがみが来て突っ込んで欲しいと心底思っていた。 「…おはよう、こなちゃん、ゆきちゃん」  そこにつかさがやってきて二人に挨拶をした。 「お、おはよう。つかさ」  まさに天の助け。つかさがいると言う事は、かがみも来ているはずだ。  こなたは期待を込めてつかさの方を見た。つかさの声になんとなく元気がないのが気になったが。 「つかさ。おはよっ」  みゆきが軽快に挨拶する。それを見たつかさが、盛大にため息をついた。 「…そっか…ゆきちゃんがこうなってたんだ…」 「…え?」  つかさの言葉に、こなたは嫌な予感がした。  そして、つかさの後ろにいたかがみの姿を見て、嫌な予感は的中したことを悟った。  柔らかく微笑んでいるのだ。かがみが。なんというか、みゆきっぽく。 「おはようございます。こなたさん。みゆきさん」 「おはよう。かがみ」 「…お、おはよう…かがみ」  これまたみゆきっぽく挨拶するかがみに、軽快に挨拶を返すみゆきと怯えたように挨拶を返すこなた。 「…あの、こなたさん、どうかなされましたか?なんだか顔色が悪いようですけど…」  かがみがこなたの顔を覗き込んでそう言った。 「そうなのよ。ちょっと様子が変なのよね…ま、日頃の不摂生が原因だとは思うけどね」  みゆきがそう答えた。 「そうですか…つかささんも今朝から様子がおかしいですし…」  と、かがみ。 「…うーん…だらしないのに移る新手の病でも流行ってるのかしらね…」  と、みゆき。 「…や」  と、こなた。 『や?』  かがみとみゆきがこなたの方を向いて、同時に首を傾げた。 「ややこしいわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  多数の生徒の集まる校門前で、こなたは盛大にぶちキレた。 「…なにやってんのよ、あんたは?注目集めまくって、ホント恥ずかしかったんだからね」  教室の自分の机に突っ伏しているこなたに、みゆきが呆れ顔でそう言った。 「…ほっといてくだちぃ…」  校門前での出来事が話題になっているのか、クラス内でもこなたの方を見てヒソヒソと話す生徒が何人か見受けられた。 「ホントにもう…しっかりしてよ?」  そう言いながらみゆきは自分の席へと戻って行った。そして、入れ替わりにつかさがこなたの傍へとやってきた。 「…こなちゃん」 「…つかさ、かがみは朝からあんなだった?」  突っ伏したまま、首だけをつかさの方に向けて、こなたがそう聞いた。 「う、うん…朝起きたらああだったの…まつりお姉ちゃんなんか、頭が痛いって大学休んじゃったし…」 「どーなるんだろねコレ…」  一方その頃の隣のクラス。 「…あやの、アレはホントに柊か?」 「…だと、思うんだけど」  変わり果てた友人の姿に、みさおとあやのは動揺を隠し切れないでいた。 「あの…わたしの顔に何か付いてますか?」  少し控えめにそう聞いて来たかがみに、みさおとあやのはブンブンと首を振って否定した。 「だと、いいのですが…どうしてでしょう?なんだか今朝は随分注目を集めてる気がするんです」  それはそうだろうなーと、みさおは心の中で突っ込んだ。 「泉、つかさ。お昼にしましょう」  昼休み、みゆきがそう言いながら、こなた達のところにやってきた。 「あ、みゆきさん。わたしちょっとトイレ先行ってくるよ…行こう、つかさ」  みゆきにそう断り、こなたはつかさの腕を掴んだ。 「ふえ?わたしも?」 「さっき漏れそうだって言ってたじゃん。いいから行くよ」 「い、言ってないー」 「いちいち言わなくていいから…早く行きなさい」  つかさを引き摺って教室を出て行くこなたを見ながら、みゆきはため息をついた。 「さてと、つかさ。なんだかややこしくなってるわけなんだが…」 「う、うん」  こなたとつかさは廊下を歩きながら、今朝からの異常について話し合っていた。 「最初はね、漫画とかに良くあるような人格入れ替えだと思ってたんだけどね…微妙に違うみたい」 「どういうこと?」 「かがみもみゆきさんも、自分は自分だって認識してるみたいなんだよね」 「え、えーっと…どうしてわかるの?」 「わたしの呼び方。みゆきさんは名字で、かがみは名前でちゃんと呼んでる」 「あ、そっか」 「だから、みゆきさんはみゆきさんのまま、かがみはかがみのままで、性格だけが入れ替わってるみたいなんだよ」  つかさは、うーんと唸りながら考え込んでしまった。 「や、ややこしいよ、こなちゃん」 「だよねー…」 「…でも、なんでこんなことになったんだろ?」  腕を組んで考え込みながら、つかさがそう呟いた。 「それはさっぱりわかんないよ…昨日二人が衝突したって事もなかったし」  こなたもまた、腕を組んで考え込み始めた。  結論らしい結論が出ないまま、トイレの前まで来たこなたはそのまま中に入っていこうとした。 「あ、おトイレはホントに行くんだ」 「そだよ、つかさは行かないの?」 「わ、わたしはいいよ…」 「じゃ、ちょっと待ってて」 「う、うん」  ひらひらと手を振ってこなたはトイレに入って行き、ふと何かを思いついたように立ち止まって、つかさの方を振り向いた。 「つかさ…なんだったら、してるとこ見る?」 「見ないよ!」 「おまたへー」  教室に戻ってきたこなたとつかさは、席を準備して待っていたみゆきと、隣のクラスから移動してきたかがみに手を振りながら、自分達の定位置に座った。 「思ったより早かったわね」 「そ、そう?」  かがみ口調のみゆきに未だ慣れないのか、こなたの返事がどもりがちになる。 「…あ、あの、つかささん…その、おトイレで何かありましたか?」  その横では、かがみがつかさに非常に言い難そうにそう聞いていた。 「え、特になかったと思うけど…どうして?」 「その…先ほどクラスのお友達に、『柊の妹ってのぞき趣味でもあんのか?』って聞かれまして…」  その言葉に、つかさは先ほどのことを思い出した。 「こーなーちゃーんー」  つかさが前にいるこなたを睨みつけた。こなたが思わず「うひゃっ」と声をあげ、後ずさった。 「つ、つかさ…なんだか萌えキャラがしちゃいけない顔になっているザマスわよ…よ、よかったじゃん、なんか話題になれて」 「よーくーなーいー」 「…ご、ごめんなさい」  とうとう迫力負けして謝るこなた。それを見ていたみゆきが、ため息をついてこなたに言った。 「あんたも『覗かれる趣味でもあるんじゃない?』って噂になってたわよ」 「うそぉっ!?」 「あ、あの…そろそろ食べ始めませんか?」  遠慮がちにそう提案するかがみに、三人が頷いた。 「…あの…こなたさん…あんまり見ないでください…」  自分の弁当を凝視するこなたに、かがみが照れくさそうにそう言った。 「今日のお弁当。作ったのかがみ?」 「はい、そうですが…」  弁当箱の中の質素なおかずを見たこなたは、ふむと頷いた。 「…性格がみゆきさんになっても、家事下手はかわらないのか」 「はい?」 「いや、なんでもないよかがみ」  弁当を見るのをやめて、チョココロネにかぶりつくこなた。そのこなたの横顔を見て、かがみが何かを思い出したように「あっ」 と声をあげた。 「そう言えばこなたさん。昨日お貸した本は、もう読まれましたか?」 「…う」  こなたの食べる動作が止まった。  確かに昨日かがみにオススメのラノベを借りた…というか押し付けられていたが、読んでいないどころか鞄から出してすらいない。 「ちょ、ちょっと昨日は忙しかったから…」 「そうですか…残念です。今日はその事についてお話しようと思ってたのですが…」 「も、申し訳ない…」  普段のかがみへの反応とは違い、本気で罪悪感めいたものがこなたの中に湧き上がってきていた。 「とても読みやすい文章ですから、小説に慣れていないこなたさんでもすんなり入り込めると思いますよ。わたしなどはうっかり徹夜で読みふけってしまいまして…次の日が大変だったことがありましたから」 「そ、そうなんだ…」  とりあえず、家に帰ったら読んでおこう。こなたはそう心に誓わざるを得なかった。 「ゆきちゃん、鮭の皮まで食べるんだね…」 「うん、そうだけど…なにか変?」 「う…ううん、全然」  思わず頷きかけて、つかさはブンブンと首を振って否定した。そして、少し横を向いてボソリと呟く。 「…でも、ゆきちゃんのイメージじゃないよね」  「ん?なんか言った?」 「ううん、なんでも」  再びブンブンと首を振るつかさ。  みゆきはなんとなく納得のいかない表情をしたが、すぐに元の表情に戻った。 「あ、そういえばつかさはこれ知ってるかな?水戸光圀っているじゃない…えーっと俗に言う水戸黄門ね」 「うん」 「その人の大好物が、鮭の皮だったそうよ。なんでも周囲の人たちに、1㎝くらい皮の厚さがある鮭がいればいいのにって漏らしてたらしいわ」 「へー、それは知らなかったよ」 「さすがはみゆきさんですね」  素直に感心するつかさとかがみ。しかし、こなたは何故か渋い顔をしていた。 「こなちゃん、どうしたの?」 「ん、いや…この口調で雑学披露されると『なに、この知ったかは』って気分にならない?」 「…なんか、文句あるのか?」 「い、いえ、何も…」  みゆきに睨まれ、こなたは首をすくめた。  帰り道。こなたとつかさは、ちょっと二人で寄りたい所があるからとかがみとみゆきに断り、連れ立って歩いていた。 「…どうしよっかー」 「…どうなっちゃうんだろー」  今日の異変について話し合うつもりだったが、口を突いて出る言葉はそんな程度のものばかりで、なんの進展も見出せなかった。 「もしかしたらさ。願いが叶っちゃったのかな?」  そんな中、つかさがポツリとそう呟いた。 「願い?」 「うん、昨日お姉ちゃんが言ってたじゃない『ちょっとは、みゆきみたいなお淑やかさも欲しいわね』って」 「あー、そう言えばそんなことも言ってたような…」  ちょっとした雑談の中で出た言葉だったので、こなたはすっかり忘れていた。 「それでその後ね、ゆきちゃんが『わたしは、かがみさんのような活発さが欲しいですね』って呟いてたの聞こえたんだ」 「ふむー…それでお互いが入れ替わった?」 「かも」  こなたは考え込んだ。そんなこと思った程度でこんなことが起こりうるのか?起こりうるなら、何故みゆきさんの胸やら尻やら背丈やらをちょっと欲しいと思ったときに、大きくならなかったのか? 「…こなちゃん、なんか別のこと考えてない?」 「いえ、考えてございませんよ?…ってーか、なんとなくな理由が分かっても、なんの解決にもならないね」 「…そだね」  二人して、大きなため息をつく。 「まあ、明日になってまだこのままだったら、改めてなんか考えよっか?」 「うん、そだね」  結局、こなたがそうまとめ、つかさがそれに頷いた。 「…で、つかさ。どこまで付いてくるつもりなの?」 「…へ?」  こなたはつかさに向かい、自分の目の前にある『泉』と書かれた表札を指差して見せた。 「もう、わたしんちなんだけど」 「ほぇーっ!?早く言ってよこなちゃん!」 「いや、普通に気がつこうよ…」  家に入ったこなたは、折角だしちょっと寄っていくと家に上がってきたつかさに飲み物でも出そうと、とりあえず台所に向かった。  その途中にある居間を覗いてみると、父のそうじろうがテーブルに突っ伏しているのが見えた。 「なんだ、お父さん寝てるのか…後で起こしてあげないと」  そう呟いて、こなたは台所に入った。 「おかえり、こなた」 「うん、ただいま」  台所で声をかけられ、答えながらこなたは冷蔵庫を開けた。 「つまみ食い?晩御飯まで我慢できない?」 「ううん、違うよ。つかさが来てるからなんか飲み物出そうと思って…」  と、そこでこなたは違和感を感じた。確か父親は居間で寝てたはずだ。だったら、今わたしと話してるのは誰だ?こなたは声の方向を向いた。 「そう。でも、あんまり遅くまで引き留めちゃだめよ?」 「え…あ、あれ?…」  自分と同じような体型と容姿を持った女性が、晩御飯の準備をしていた。  写真でしか見たことのない、いや見ることが出来ないはずの人。 「…お、お母さん?…え、ちょ…えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」 「ちょ、ちょっとこなた、声が大きいわ。そう君が起きたらどうするのよ…」 「あ、お、お父さん…お父さーん!」  こなたは慌てて台所を飛び出し、居間で寝ている父の元に走った。 「あ、待ってこなた!」  その後を、こなたの母親…すでに他界しているはずのかなたが、追いかけた。 「お父さん!のんきに寝てる場合じゃモガッ…」  こなたがそうじろうを起こそうとしたところで、かなたが後ろからこなたの口を塞いだ。 「ダメだってばこなた…ふう、自然に溶け込もう作戦は失敗だったわね」  そう言ってため息をつくかなたを、こなたはジト目で見つめていた。 「な、なにかしら?」  慌ててこなたの口から手を離し、かなたは苦笑いをした。 「いや、もうなんか色々アレなんだけど…とりあえず、なんでお父さん起こしちゃダメなのさ?」 「うん、そう君がいるとなんだかややこしいことになりそうだったから、とりあえず寝ててもらったの」  こなたは父の方を見た。 「…お母様、お父様の後頭部にやたらデカイたんこぶらしきものが見えるのは、ワタクシの気のせいでありましょうか?」 「そ、それは…若い人にだけ見える幻影ってヤツなのかも…」  胡散臭そうなものを見る目で見つめるこなたから、かなたは冷や汗を垂らして目を背けた。 「こなちゃん。何かあったの?」  騒がしい物音を聞きつけたのか、こなたの部屋にいたつかさが、居間に入ってきた。 「え?あ…な、なんでもないよ…」 「ふーん…ねえ、こなちゃん」 「な、なに?」  つかさは、テーブルに突っ伏して寝ているそうじろう覗き込んでいた。 「おじさん。呼吸して無いっぽいんだけど、大丈夫?」 『うそぉっ!?』  つかさの言葉に、こなたとかなたは同時に声をあげた。  なんとかそうじろうを蘇生させ、自室のベッドに寝かせた三人は、こなたの部屋に移動していた。 「…ふう、危うくそう君を連れて逝っちゃうところだったわ」 「いや、まあなんか色々とアレなんだけど…まあ、いいや…」  爽やかに汗を拭う動作をするかなたを、こなたは諦めの境地の表情で眺めていた。 「ねえ、こなちゃん。さっきから気になってたんだけど」 「なに、つかさ?」 「この人、誰?なんだかこなちゃんに似てるんだけど…」  つかさが、かなたの方をチラッと見ながらそう言った。 「誰って、わたしのお母さん…ってーかつかさも写真見たことあるじゃん」 「あ、そっか」 「初めまして。こなたの母でかなたと言います。こなたがいつもお世話になっているみたいで…」  つかさにかなたが深々と頭を下げる。それを見たつかさが、それに負けずに頭を下げた。 「あ、こちらこそ初めまして。柊つかさです…って…あれ?」  感じる違和感。つかさは自分の記憶の糸を手繰り、ある会話に辿り着いた。 「…えっとさ、こなちゃん…こなちゃんのお母さんって確か…」 「うん、死んでる」 「…えーっと…その…ほ…ほぇぇぇぇぇぇぇっ!?なんで死んでる人がここにいるのぉっ!?」 「驚くのおそっ」 「あら、今度は気付かれないかと思ったのに」 「あーまあ、落ち着いてつかさ」  とりあえずこなたは、なんだか得体の知れない驚きの動作を繰り返すつかさを、なだめにかかった。 「とりあえず、害は無いからね?…はい、深呼吸」 「…害なんてあるわけないじゃないの」  素直に深呼吸して、落ち着きを取り戻しつつあるつかさを見ながら、かなたはそう呟いた。 「そう言えば、こなた。今日は何か変わったことが無かったかしら?」  つかさが落ち着いた頃を見計らって、かんたがこなたにそう尋ねた。 「え?変わったことって?」  こなたの頭に、今朝からのみゆきとかがみの事が浮かんだ。 「そうね、例えばお友達の感じがちょっと変わったとか」 「…うん、そう言えば性格がいつもと違ってたのがいたけど…」  なんとなく、こなたは嫌な予感がした。 「あら。じゃあ上手くいったのね」 「…なに?上手くいったって?」 「うん、こっち来る時にね、なんだかお互いの性格に憧れてるみたいだから、ちょっといじってみたんだけど…どうだった?」  なんだか軽い口調でそう言うかなたを、こなたとつかさはなんともいえない表情で眺めた。 「…害…あったよこなちゃん」 「…うん…わが母ながら何処から突っ込もうか」  自分を見つめるこなたとつかさの視線が妙に痛く、かなたは冷や汗を垂らした。 「…えーっと…ダメだった?」 「ちょっと感じが変わったどころか、丸々性格が入れ替わってて非常に厄介なので、早急に元に戻すことを所望しますよ、お母様」 「…ごめんなさい」  少々の怒気をはらんだこなたの言葉に、かなたは小さくなって謝った。 「…何処を間違えたのかしら…」 「最初から全部」  かなたの呟きにも、容赦なくこなたの突っ込みが突き刺さる。  と、こなたの部屋のドアがノックされた。 「こなた。帰ってるのか?」  そうじろうの声がする。それを聞いたかなたが慌てて立ち上がった。 「やっばい、そう君だ」  そのまま窓の方に向かい。 「じゃあ、こなた。私はこれで。そう君には内緒よ?」  窓を開けて出て行った。 「…窓からって」 「…間男ですか。アンタは」  それを、つかさとこなたが呆れ顔で見送った。 「こなたー?」 「あ、うん。どうぞ」  再びノックとそうじろうの声が聞こえ、こなたは返事をした。ドアを開けてそうじろうが部屋に入ってくる。 「すまんな。今日は俺の当番だったのに、晩飯作らせて」 「え?…あ、いや、うん」 「しっかし、なんでベッドに寝てたんだろうな…なんだか後頭部が痛いし」 「えっと…帰ってきたらお父さん居間で気絶してたんだよ。それで、たまたま一緒にいたつかさとベッドに運んどいたんだ。晩御飯の仕度もまだっぽかったから、ついでにやっといたんだよ」  こなたの説明に、そうじろうが頷いた。 「そうか…それはすまなかった。しかし、気絶時の記憶が全くないな…記憶が飛んだんだろうか?」 「うん、そう。きっとそう…頭打ったんだし、ご飯食べたらゆっくり休んだほうがいいよ」 「ああ、そうさせてもらうよ」  そう言いながら、そうじろうは部屋を出て行った。  こなたがほっとしたようにため息をつく。 「なんでフォローまでわたしがしなきゃいけないんだ…」 「う、うん…」  ブツブツと文句を言うこなたに、つかさが苦笑いを返す。 「ついでだし、つかさも晩御飯食べてく?」 「え?いや、わたしはいいよ。なんだか解決したみたいだし、そろそろ帰るよ」 「じゃ、駅まで送るよ。つかさ一人はなんだか物騒だし」 「えー、そんなことないよー」  文句を言いながらも、結局つかさはこなたに送ってもらっていた。  次の日の朝。こなたはつかさと一緒に登校していた。 「かがみは元に戻ってた?」 「うん…だけど、なんか頭が痛いって言って、今日はお休みするみたい」 「…後遺症かなんかかな…いい迷惑だ」 「ゆきちゃんもお休みしてそうだね…」 「うーむ…」  二人して大きくため息をつく。  ふと、こなたは自分たちが視線を集めているような気がした。見渡してみると、何人かの生徒が自分たちの方を見てヒソヒソと話をしている。 「…こなちゃん…なにか、おかしくない?」 「う、うん…なんだろう?」  こなたとつかさは良く耳を済ませて、みんなが何を言ってるのか聞き取ろうとした。 「…ほら、泉さんと柊さん。やっぱりそうなのよ…」 「…今日は同伴出勤ってところなのかしら…」 「…昨日、泉さんが柊さんに…おトイレしてるところ見せようとしてたって噂が…」 「…泉さんの家に二人で入っていくの見た人が…」 「…え、じゃあもしかして、そのまま一晩過ごして?…」  聞こえてくる、間違いはないんだけど勘違いされまくってそうな会話に、こなたとつかさはダラダラと脂汗が流れてきた。 「…こなちゃん、これって…」 「…わたし達にも後遺症出てたか…とことん迷惑な…」  その日一日、こなたとつかさは噂の火消しに奔走する羽目となった。 - おしまい -

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