ID:MRmGUr.0氏:命の輪のゆらぎ

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「そう君の馬鹿っ!もう出てってよっ!!」  近所迷惑じゃないかと思うほどの大声と共に、一人の男性がドアから文字通り叩き出されてきた。 「ちょっ、オイかなた…」  ドアを閉められ、ご丁寧に鍵までかけられる。  男性はしばらくドアの前で頭をかいて、ため息を一つついて振り返った。 「…やあ」  そして、呼び鈴を押そうとしたポーズのまま固まっている私に気がつき、間の抜けた挨拶をしてきた。 「なに?喧嘩?珍しいわね」  私は呼び鈴から指を離してその男性…泉そうじろうに近づいた。 「んー、まあ…ちょっとな…」  歯切れの悪い返事が返ってくる。さっきのかなたの剣幕からすると、そうとう酷く怒らせたみたいだ。 「しばらくは、入れなさそうだな…どうすっかな…」  泉君が腕を組んで考え込み始めた。  それを見ていた私の頭に、電球が閃いた気がした。  多分、ドアの向こうで聞き耳を立ててるであろうかなたに聞こえるように、少し大きめの声で言う。 「私はかなたに用があったんだけど、これじゃ会えそうにないわね…ほとぼりがさめるまで、二人でどこかでお茶でもしない?」  私の提案に、泉君が目を丸くした。 「え…いや、手ぶらで放り出されたから、お金ないよ?」  心配するのはそこなのか。 「いいわよ、それくらい。私が奢るわよ」 「いや、しかし…」 「ま、いいから、いいから。行くわよ」  それでも渋い顔をする泉君の手を強引に取って、私は歩き出した。  後ろのドアでなにやらゴンッとかいう音が聞こえたが、私は聞こえないことにした。 - 命の輪のゆらぎ -  アパートを離れ、近くにある喫茶店まで歩く私たち。  泉君はさっきから後ろをチラチラと気にしている。私もチラッと後ろを見た。 「…付いてきてるわね」 「…付いてきてるな」  電柱の影に、多分隠れてるつもりのかなたが見えた。 「…変装してるつもりなのかな、アレ」 「…多分」  かなたは全然似合ってないサングラスをかけていた。  服はいつも愛用している白のワンピースだから、違和感ありまくりだ。 「あのサングラスって泉君の?」 「うん、まあ」 「アンタがつけても似合いそうにないわね」 「そ、そうかな…うわっ!?」  これ見よがしに、泉君の腕に腕を絡ませてみる。後ろの方でビキッという音が聞こえた気がした。  確認してみると、生まれてこの方一度も切ったことが無いと思うくらい長いかなたの髪の毛が、ウネウネと動いているのが見えた気がした。  うお、すごい。本気で怒ってるよ。 「な、なあ…これは…いったいなんのつもりなんだ?」  後ろが怖いのか、冷や汗を垂らしている泉君。 「ま、いいから、いいから」  私は笑いをこらえるのに必死だった。  喫茶店に入って、私達は適当に注文を済ませる。  かなたは少し離れたテーブルに座って、身体を伏せ気味にこっちを睨んでいる。いや、サングラスで見えないけど、迫力からしてきっとそうなのだろう。異様な風体と雰囲気のせいか、店員が注文を取りづらそうにしていた。 「で、なんで俺を誘ったんだ?」  泉君がそう聞いて来た。落ち着かないのは、かなたが気になってしょうがないのだろう。 「そうね…泉君と話がしてみたかったからかな?いつも、かなたとセットだったから、こんな機会って全然無かったし」  そう答えながら、泉君の顔をじっと見つめる。照れくさいのか、顔を背けられた。 「泉君って、結構いい顔なのよね」  わざと艶っぽい声色でそう言ってみた。泉君の顔が少し赤くなる。どうやら褒められなれていないようだ。  実際、泉君の顔立ちは悪くはない。大学の成績もいいほうだし、家事も一通り出来るそうだし。 「かなたから聞いたけど、作家目指してるんだって?いいわね、そういうの。夢を追いかけてるって感じで」 「そ、そうかな…」  上手く売れ筋になれば、お金も入ってくるだろうし。  …あれ?冷静に考えたら結構いい男だったり? 「泉君って、アニメとか漫画だっけ?あの変な趣味やめたら、意外ともてるんじゃない?」 「…あれはやめられないな。俺の存在意義そのものだからな」  言い切られた。しかも、表現大袈裟すぎ。 「じゃ、それさえ我慢できれば全然オーケーって訳ね」 「…え?」 「ふふふ…」  かなたのいる方から、なにやら生暖かい空気が流れてきた。見てみると、かなたの周辺の空気がなんとなく歪んでいる。  おお、凄い。オーラだオーラ。初めて見た。 「ねえ、ちょっと場所変えよっか?」  私は立ち上がり、再び泉君の手を取って歩き出した。  喫茶店から近い公園。ちょっと奥まった、昼間でも人の少ない場所まで泉君を引っ張ってくると、私は立ち止まり泉君と向かい合った。  少し離れた木陰に、かなたが隠れているのが見えた。 「な、なあ…結局君は一体…」 「あら、まだ分からない?」  泉君の言葉を遮り、私は悪戯っぽく微笑んだ。 「かなたと喧嘩してるみたいだし、これはチャンスかなって…」  そう言いながら、泉君の首に手を廻す。 「え…いや、俺は…その…」 「私じゃダメかしら?損はさせない自信はあるけど…」  ゆっくりと、泉君の顔に自分の顔を近づける。 「ちょ、ちょっと待って…」 「待たないわよ。チャンスは逃したくないから…」  唇を、彼の唇に…。 「わああああああああっ!!」  大きな声と共に、私の身体が突き飛ばされた。といっても、ぶつかってきたのが軽いから、二、三歩たたらを踏んだだけだけど。 「なななななにやってられゆるのよーっ!!」  私にぶつかってきたかなたは、そうまくし立てた。怒りのあまりに舌が回ってない。 「そう君もなんで抵抗しないのよーっ!!」  腕を何か振り回しながら、バタバタと足を踏み鳴らすかなた。傍から見てると駄々こねる小学生そのものだ。 「い、いや、それは、その…なんか色々と急だったから…」  そのかなたに、必死で言い訳めいたこと言ってる泉君。  愉快すぎる。私は限界だった。 「…くくく…あはははははははっ!」  急に腹を抱えて笑い出した私に、かなたと泉君が呆気に取られる。 「冗談よ、冗談!私が、友達の彼氏を本気で口説くはずないじゃない…あーおっかし。かなたの行動は見てて飽きないわー」  そう言ってまた笑い出した私を見るかなたの顔が、見る見る真っ赤になっていく。 「うううううう…ばかぁぁぁぁっ!!」  かなたが私をポカポカと叩き始めた。 「あははははっ。ごめん、ごめんってばかなた」  それを適当にあしらいながら泉君の方を見ると、心底ほっとした表情を浮かべていた。 「そっか、冗談だったのか…良かった」 「そう君もそう君!もっと毅然としてたら私だって余計な事しなくてすんだのに!」  かたなは今度は泉君を叩き始めた。 「そう君なんてそう君なんて…う、う、うううううう~」  叩く手を止めて、私の方を見てなにやら唸り始めるかなた。 「ど、どうしたんだ、かなた?」 「あれじゃない?『そう君なんて知らない』って言い切っちゃったら、また私がアプローチ始めるとか思ってるんじゃないかな」 「うううううう~」  私が泉君の疑問に答えると、かなたの唸り声が一際大きくなった。図星だったらしい。  つーか、かなたのこれって威嚇なんだろうか。 「まあ、でも。さっきのはいいとこまで行ったしねー…そうだ、これからは私も『そう君』って呼んで良いかな?」 「ううー!うー!」 「…おいおい」  なんかもう、かなたが噛み付いてきそうだ。 「冗談だって。落ち着いてよ、かなた。お詫びに今度奢るから」  そうなだめてみるが、かなたの威嚇はなかなか収まらなかった。  ホント、からかいがいのある子だ。 「馬鹿ー!!もう、でてけー!!」  近所迷惑かと思うほどの大声と共に、一人の男性がドアから文字通り蹴り出されてきた。 「ちょ、オイこなた…」  ドアを閉められ、ご丁寧に鍵までかけられる。  男性はドアの前でしばらく頭をかいて、ため息を一つついて振り返った。 「…や、やあ。かがみさん」  そして、インターホンを押そうとしている格好のまま固まっているわたしに気がつき、ばつが悪そうに挨拶してきた。 「なに?喧嘩?珍しいわね」  わたしはインターホンから指を話してその男性…こなたの旦那に近づいた。 「うん、まあ…ちょっとね…」  歯切れの悪い答えが返ってくる。さっきのこなたの剣幕からすると、相当酷く怒らせたらしい。 「しばらくは、入れないだろうなあ…どうしようか…」  旦那が腕を組んで考え込み始めた。  それを見ていたわたしの頭に、電球が閃いた気がした。  多分、ドアの向こうで聞き耳を立てているであろうこなたに聞こえるように、わざと大きめの声で言う。 「わたしはこなたに用事があってきたんだけど…これじゃ無理っぽいわね。ほとぼりがさめるまで、二人でどっかでお茶でもしない?」 - おしまい -

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