ID:i8fDgAM0氏:こなたリフレイン

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 父親であるおっさんに他愛のない話を振る。 「お父さんは生まれ変わったらなりたいものとかある?」  彼の返答は……。 「んー、可愛い女の子とかかなっ」 「お、おん……っ!? ネットでもたまに見かけるけど……なんで?」 「食事にしろレジャーにしろレディースデーっていって割引されるだろう。なんか女の子ばっかズルくない?」 「お父さん基本的に大らかなのに妙なトコで女々しいね……」  おっと、女の子ならこう付け加えとくのが無難かな。 「まあそう言われると確かにありがたくはあるかも。普通に利用できるから特に何とも思ってなかったなぁ」 「はーあ、こなたはずるいよな―。中身はオレと同じオヤジなのに女の子の恩恵受けられて」 「うおーいっ」  少なくともオヤジではないぞ、と内心で突っ込む私は、こなたという名の女の子らしい。  女友達と連れ立って登校。とある事件の話題が出た。 「……って感じで教師犯罪が増えてるみたいよー」  と、女友達のひとり、かがみが言う。 「それってさ、モラル云々より単にギャルゲーエロゲーのやり過ぎって感じしない? よくあるシチュだし」  との私の返答に、 「そりゃまんまアンタのことでしょーが」  と突っ込みが入る。そして更なる突っ込み。 「……ちょっと待て、なんでアダルトゲームの内容知ってんだ高校1年生」 「ふっ」 「『ふ』じゃねぇ」 「あんた私らと知り合う前って友達いたの?」  学校で昼メシ食ってたら、かがみからこんな質問をされた。  こなたに友達は普通にいたようだが、彼女の日記は流し読みした程度なのでこの場でスラスラ話せるほど内容を覚えてはいない。  さて、本来の私がこの子達と知り合う前だったらどうだったかな。 「中学の時一人仲のいい友達がいたかな。しばらく連絡とってないけど、今、何してんのかな。中学の授業参観の時、将来の夢は魔法使いって言ってたけど」 『今』……この時代にヤツが健在なら30代をとっくに越えている。  童貞のまま30歳になると魔法使いになるなんて都市伝説があり、お互いそうなる可能性が高い。  それを少々誤解した結果があの作文だった。  試しにヤツと連絡試みたが、引っ越したのか電話は通じないし手紙も届かなかった。  こなたという赤の他人になってしまった今の私が無理に調べようとしたら怪しまれるだろう。  などと考えていたら、かがみの双子の妹、つかさと、こなたがどのようにして仲良くなったのかと聞かれた。  日記によると、つかさが怪しい大男に絡まれていたのを助けたのがきっかけだった。  こなたは格闘技の経験者らしいんだが、ずいぶんと無茶をするものである。  おまけに道聞かれてただけだったみたいだし。 「おまっ……駄目じゃん!! 何勝ち誇ってんだ」  いやぁ、やっぱ女の子助けるってシチュエーションは男のロマンだし。  PCに保存されているメールを読み返してみる。  かがみからのメールは付き合いが始まったばかりの頃は丁寧な文体だったのだが、徐々にくだけた書き方になり、ついには遅刻しないようにと釘を刺される始末。 「ってカンジでメール見てると友達としての歴史がだねー」  皆との付き合いの歴史、勉強しないとな。 「私があんたの正体に気付いてきた経過の記録だな」  などと呆れられたわけだが、気づいたのはこなたがオタクだったり時間にルーズであるという程度で、私の本当の正体に気付いたわけではないだろうかがみんや。  そんなかがみは今、体重の話で落ち込んでいる。 「1~2キロ上下したって見た目的にあんま差なんてないのに、なんでそんな数キロで一喜一憂するかねぇ。これだから女ってヤツは」 「あんたもたしか女だったハズだけどね」  残念だったな、私は男だったハズなんだ。 ―― こなたリフレイン ――  コテコテのオタクであるオレが、朝起きたら女の子になっていました。  しかも、20年くらい経った近未来の世界。あの大予言はあっさりと外れたらしい。  目が覚めて部屋を見回した時、あまり違和感がなかったため、しばらくは自分自身の変化にも気づかなかった。  部屋中に張られたポスター、PC、漫画etc……。  そりゃあ、未来の技術で作られただけあってPCのデザインは洗練されたものだったし、よく見るとポスターや本の印刷は精密なものになっていた。  だがオレがはまっていた作品のいくつかは世代を超えて愛されるものだったらしく、ちょっと見ただけではオレの部屋と雰囲気が変わらなかったのだ。  あくびと共に背伸びしたときの長い髪の感触をきっかけに、自分が背も胸もちっこい女の子になってることに気づいた。  ネタなのかと言いたくなる200X年のカレンダーや、雑誌とか単行本の奥付の日付見て面食らった。  そして恐る恐る部屋を出ると、廊下には無精ヒゲ伸ばしたおっさんがいた。彼はゲームの攻略法を教えてくれと言って部屋に侵入してPCを起動し、せり出してきたトレイにCDを入れる。  なるほど、カセットテープでプログラムの保存が出来るんだから、同じく音を記録する媒体であるCDでも保存できるんだな。  などと感心していたら、フロッピー、ましてカセットテープとは比べ物にならないスピードでデータが読み出され、ゲームが起動した。  ドットなんて意識させない生のイラスト原稿でも見てるかのような画像と、音源なんて意識させない生の楽器で演奏しているかのような音楽に圧倒される。  オレが呆然としていたら、しばらく怪訝な顔をしていたおっさんは不意に顔を赤らめ「ゆっくり体を休めるんだぞ」とか言って慌てて部屋を出て行った。  どうやら、あのおっさんがこの女の子の父親らしい。  父親の不可解な反応をあれこれ考え、ある可能性に気づく。  娘の様子がおかしいのは月の物ではないか? と、父親は仮説を立てたのではないだろうか。  中身が男のオレになってしまったことでボロが出たわけではない。というわけで安堵するべきか、アレになったと誤解されたことを恥らうべきなのか大いに悩むところであるが、とりあえず一人っきりになったのでこの女の子について色々調べてみる。  日記帳やアルバムを発見。この子には悪いが、円滑に生活を送るためと言い訳し拝見させてもらった。  更に、金持ちの友人にいじらせてもらったマックの要領でPCを調べているうちに、ゲームを動作させたまま他の作業もできることに気づき、様々なデータを覗いてみる。  そういえば、ヤツの家でやってたロードスのテーブルトーク、いいところで中断してるんだよな。  などと考えながら様々なファイル見ていると、手紙のような文章を発見した。パソコン通信の世界(この時代ではネットと言うらしい)で送受信されたもののようだ。  それらを見た結果、オレがなってしまったこなたという女の子は、オレ同様に筋金入りのオタクであることが判明した。  オレをそのまま女にしたような子。どうも、オレが素で行動してもあまりボロが出そうにない。  改めて電源入れっぱなしのPCに目を向ける。  そこでは、相変わらずの奇麗な画像と音楽が流れ、更に画面が切り替わってビデオでも見てるかのように滑らかな動画の再生が始まった。技術の進歩はすごい。  ……が、その内容はエロ。  オタクって生物の本質がさほど変わっていないのが少々切なかった。  とりあえずボロが出ないように一人称は思考も言動もこなたが使用していた『私』に切り替え、女の子としての生活を始めた。  女言葉ということになるが、少々丁寧語に切り替えたと考えると言葉遣いは割とすんなり順応できた。  新聞等を見て知識を身につけ、どうにかこの時代に順応してきた頃に新型ビデオデッキの記事が目に入った。  タイトルやキーワードを設定すると、それに関する番組をサーチして撮っておいてくれるスグレモノらしい。  さすがは近未来。コレで野球延長も怖くない!  と思っていたら、ネットTV欄みたいので照合してるだけで延長みたいなイレギュラーまでは対応してないとの事。  未来技術も大したことない。オタクの最大の敵は相変わらず野球をはじめとするスポーツ中継である。こういう点でもオタクの世界は変わっていない。  その上に、これらのスポーツ中継が中止になって普通にアニメが見れるということで好きだった雨は、海外から上陸し増殖していたドーム球場のせいで嫌いになってしまった。  買い物で訪れたオタクの聖地である秋葉原は、ずいぶんと軟派というか二次元寄りに変化してしまい、しばらくは見えない壁を感じたものだ。  2画面の折り畳み式ゲームウォッチがこの時代でも現役なのかと驚いたが、これがファミコンのようにカートリッジ替えて別のゲームができる上に性能は比べようのない高性能であることに更に驚かされた。  このDSというゲーム機向けに、本来の私の時代に発売されていたゲームがリメイクされていたりして、ゲームといえど名作は世代を超えるのだなと感心した。  こうしてみると、人間社会の本質はそうそう変わるものではないようだ。  景品にばかり目がいって本体であるはずのお菓子はついついないがしろにしてしまうし、ロッテはこの時代に至るも優勝してないし。  かと思えばこんなこともあった。  ガンダムはZでは飽き足らずVとかWとかXとか色々出ているようだが、その一方で1年戦争の時代を描いた外伝もいくつか作られており、こなたの趣味はその時代の作品に偏っていた。  そういうこともあって彼女のコレクション見てもすぐには違和感に気づかなかった。  父親が「お隣さんから良いもの頂いたぞー」とか言うから、「何? ツボ?」などとボケたら感極まって抱きしめてくる始末。  こんなことで父娘のコミュニケーションが取れてしまう辺り、オタク文化もかなり一般化しているようだ。  あれからも女子高生としての日常が続く。  つかさ達が歯医者の話してるな。ドリルか。これは怖がっておいたほうがいいか。  ああ、でもいきすぎたか、フォロー入れねば。女の子だったらどう言うかな?  ……そうだ。 「でも男子は歯医者とか好きそうだよね」 「何で?」 「だってドリルは男のロマンって言うし」 「いや……見るのはともかく削られるのは嫌だと思うけど……」  それもそうか。  ちょっと早起きしたのでゲームやってたらついつい長引いてしまい、学校出るの遅れた。というわけで学校の廊下を全力疾走している。  担任である黒井先生が出欠取る声が聞こえた。 「泉、泉ー、なんや遅刻かー?」 「ストップっ、遅刻じゃないですーっ」  さて、なんて言い訳しよう? 『ウィッキーさんと英会話してきました』  なんて、この時代で通じるわけないよな。 『ブラウンのモーニングリポートに引っかかった』  オレはこの年なのに結構ヒゲ濃いから信じてもらえるか……って、オレ、いやいや、今の私は女の子なんだから駄目じゃん!  正直に言おう。 「人助けをしてたら遅くなりましたっ。そのあと話とか聞いてたら長引いてっ」 「なるほどな、そりゃええコトしたわ」  嘘は言ってない、嘘は……って、おお、信じてもらえた。  笑みをたたえた先生は更に続ける。 「で、それは何のゲームの話や?」  ううっ、読まれてる……。  アニメキャラの仮装もずいぶんと一般化しているようだ。せっかく女の子になったことだし、色々な格好を試してみるか。こなたならやってもおかしくないだろうし。  というわけで……。 「仮装喫茶でバイト始めたって言ってたけど、そういうとこってスタイルとか良くないと駄目なんじゃないの?」  と、かがみが突っ込んできた。 「いやぁ……私もずっと胸がないのを嘆いてきたんだけどね?」  こなたには悪いのだが、自分が女の子になったとすぐ気づくことができなかった原因のひとつがそれだったのだ。  女の子になったんだもの、揺れる胸への戸惑いとか体験してみたいんだが。 「とあるゲームで『貧乳はステータスだ希少価値だ』って言ってたんだよね。言われると確かにそういうニーズもあるわけじゃん?」  と、自信たっぷりに続ける。  実際、本来の私が膨大な量のフロッピーをとっかえひっかえしてプレイしてたゲームでも巨乳キャラではなく貧乳キャラに興奮していたものである。  ……自分が貧乳キャラになっても仕方ないんだが。 「そう言えばこなたって漫画やゲームの趣味変わってるわよね。少年誌ばかりだしギャルゲーメインでしょ」  かがみにこう指摘された。  日記などの資料や自分が見聞きしたことから考えると、 「ウチ、お父さんがよく漫画見たりゲームするからそれに影響されてるんだよね」  ということらしい。自分で言うのもなんだが、娘の前でギャルゲーやエロゲーやるってどんな父親だろう。  かがみも同じこと考えているのか唖然としつつ突っ込んできた。 「父子揃ってそんな感じでお母さん何とも言わないの?」 「あー、ウチ、お母さんいないから」 「え?」  実際に居ないし父親もあまり話題にしないが、アルバムなどの写真や位牌から推察するに、 「私がすごく小さい頃に死んじゃったんだよね」  ということらしい。  居間に飾られてる写真には、今より若い父親と、こなたと見間違えそうなくらいにそっくりな女性、その二人に挟まれる赤ちゃんが写っていた。  あれが両親であり、赤ちゃんだった頃のこなたらしい。  本来は他人であるはずの私から見ても、暖かく、切ないものがひしひしと伝わってきた。  両親の顔は本来の私から見ても見覚えがあった。  まあ、こなたの両親なのだから見覚えがあってもおかしくないか。  毎朝髪の手入れで鏡を凝視してることだしな。 「そ、そうなんだ……悪い……」  あ、かがみとつかさがバツが悪そうにしているな。フォロー入れねば。 「だから家事とかいつもやってるからかがみより全然できるよ」 「突っ込みづらい雰囲気の時に余計な事言うなっ」  そうそう、かがみはこうでなくちゃ。  バイト先の喫茶店で行う夏の新メニューについて考えていると、かがみが話しかけてきた。 「へぇ、そんなのあるんだ?」 「暑い時こそ辛い物ってことで激辛ラーメンとかどうかナ?」  実際、本来の私の時代では激辛がブームになってて、激辛ラーメンは暑いときには最高だった。 「もう少し喫茶店っぽいメニューにしなさいよ」  それもそうか。 「じゃあ激辛パフェとか!」  カレーやラーメンに飽き足らず、お菓子や清涼飲料にも激辛があったんだ。パフェもアリだろう。 「いい加減、脊髄反射的な発想はやめないか?」  ううっ、呆れられた。でもブームが再来すれば、あるいは……。  親戚のゆい姉さんと担任である黒井先生の引率で私達は海に行くことになった。  で、紆余曲折の末に辿り着いた海の家。 「おお、期待通りだ!」 「何がそんなに嬉しいのよ?」 「だって海の家を絵に描いたようなのが出てきたんだよ? 見よ! この具のないカレー! さすが海の家!」  他にも定番のメニューが並んでいる。こういうのは世代を超えて受け継がれていくのだなあ。  で、民宿で風呂に入る。こなたは女の子であるからして当然ながら女湯に入ることになり、他の皆とご一緒することになってしまう。  しかし、全然いやらしい気持ちにならないし興奮もしない。体が女だからかな。  考えてみると、私がこなたという女の子になってから誰かと風呂に入るのはこれが初めてだな。  せっかく髪が長い女の子になったんだ、アレをやってみよう。 「見て見て! ティモテ、ティモテ、ティモテ~♪」        /⌒彡      / 冫、 ))   ティモテ     / ~ヽ ` , ((((  ティモテ     | \ y  ))))   ティモテ~     |   ニつ))つ     |、ー‐ < ((     /   ヾ \、   // しヽ__)~  ~~~~`  ウケるぞ~これは。 「何それ」  との冷め切ったかがみの反応。  そうか、この時代であのシャンプーは見かけなかったから、もしやと思っていたが、もう消え去った商品だったんだな。君らも生まれてなかったんだな。  ジェネレーションギャップを痛感し、寂しくなる。  いや、まだだ、このネタで笑いを取らねば気がすまない。  振り向くと、そこには大人である黒井先生とゆい姉さんがいた。彼女らなら! 「姉さん姉さん! ティモテ、ティモテ、ティモテ~♪」 「おー懐かしい~! やったやった♪」 「これだー! 私の欲しかった反応はこれだった!」  通じた、私がリアルタイムで接していたネタが通じた! 「お前いくつやねん」  などと先生に呆れられた。  さてはて、本来の私はこの時代ならいくつなんだろうな?  みゆきさんが眼鏡なしで登校してきた。割れてしまったとのこと。  そんなわけで今日取ったノート貸したりしていた。  そうこうしてるうちにトイレ行くことになったのだが、よく見えないせいか彼女はふらふらと男子トイレに入りそうになり慌てて静止した。  こなたになったばかりの頃は私も習慣で入りそうになったっけ。  そんなみゆきさんは体育祭でリレーに抜擢された。  最初は障害物競走になるはずだったんだが、私が、 「みゆきさんは体の凹凸激しいから障害物はダメだよ~、いろいろくぐるし」  と言ったためである。 「お前それ中年オヤジのセクハラかよ……」  と、かがみに呆れられた。まあ、オヤジではないが中身は男だしな。  そんな私は100メートル走に抜擢。 「どうしたらこなちゃんみたいに早く走れるの?」  とのつかさの問いにこう答える。 「こういうのはイメージが大事なのだよイメージが」  号砲で駆け出すとき、頭にとあるゲームの画面を思い浮かべる。  まずは手を痙攣させるように力技でボタンを連打、それからコインでこすり、終盤は定規ではじくようにしてその振動で……。 「ごーるっ♪ こんな感じ?」 「マジか」  ふっふっふ、連射している信号を出す回路があらかじめコントローラーについてても珍しくない世代の君らにはわかるまい……って、わかるのかよかがみ。  バレンタインがやってきた。  本来の私としては無縁だったし、女の子になった今では貰えるわけがないし、中身が男ということであげる相手を作る気にもなれないということで現実世界ではやっぱり無縁のはずだった。  だが。 「おはよーこなちゃん、はいこれ」  つかさから義理チョコを貰った。  欧米では男女問わず好きな人や友達にお菓子やカードを渡すということで、女の私に義理チョコらしい。  しかしこの凝りよう……。 「つかさ~、義理でも男子にはあげない方がいいよ~、絶対勘違いされるから~」  体が女子でも中身が男子である私が言うんだから間違いない。  不覚にもときめいてしまったじゃないか。  で、かがみもチョコくれた。ぶっきらぼうな態度で顔赤くしながら渡すのが堪らん。  本来の私がこんな態度で渡されたら絶対勘違いしてしまう。  そんな私だが、ネットの世界ではチョコをあげる予定がある。  ゲーム内でキャラとして、である。  女の子として生活する反動なのか、ネット上のゲームでキャラを作成するとき性別は迷わず男を選択していた。おまけに結婚もしていたりする。 「はぁ……男が女にチョコあげるのか……? というか女が女にあげてるようなもんでしょ? それ」  と、かがみに突っ込まれる。 「大丈夫、相手、中身は男だから……あれ?」  相手は男が女キャラ操作してて、私が操作する男キャラからチョコ貰うわけで、それ操作する私は女の子なんだけどその中身は男で……??? 「あー……まぁ、こういうのは各個人が楽しめればそれでいいのよネ!!」 「そうだネ!!」  二重に性別を偽った上にチョコの受け渡しは逆転してるわけで、混乱避けるためにも今後は自重しよう。  従兄弟のゆたかという女の子が私達と同じ高校に合格し、実家からだと遠いということで我が家から通うことになった。  そんなわけで一緒に暮らすのだが……。  父親がトイレのドア開けたままで用たしていため彼女は引越し早々にショック受けていた。  私は中身が男ということもあってお構いなしでいたため、感覚が麻痺していた模様。これからは気をつけねば。  それにしても女ってのは脅威の生物だ。  今もかがみは、携帯電話(こんな小さな物体にPC並みの性能があり無線で電話できるなんて信じられんが、この分野ではいちいち驚いてたらキリないので深く考えず受け入れることにした)に出たとたんに……。 「あ、はいもしもし○○ですけど、あっいやいや、つい、家電のクセで……うん、うん――」  つい、たった今まであんなに激しく私に怒りをぶつけてたのに、どうして女ってこう素早く切り替えられるんだろう?  誕生日を祝われた。 「このくらいになると年とっても別に嬉しくないわよね」  と、かがみは言うが……。 「いやー、私はすごーく嬉しいけどね~」 「へ~何で?」 「だってこれで美少女ゲーとか堂々とできるじゃん」  コレまではさ、ちょっと後ろめたさがあったわけよ。私がこなたになったばかりの頃、彼女は年齢満たしてなかったわけだし。 「狐……えーと……犬……リス……」 「急になに言ってるんだ?」 「いや、皆を動物に例えたらどうなるかなーって」  友達同士で集まったとき、ふと思いつきで出した例え話。  そしてかがみはウサちゃんだと言ったら激しく照れていた。うーむ、可愛い。  で、みゆきさんは羊かなと言われたが、あえて反論させていただく。 「いやー、みゆきさんは……なんと言っても牛でしょっ! このへんが」 「あんたの発想はどうしてそう中年のおじさんみたいなんだ」  かがみの突っ込みが入る。  おじさんではないが、まあ、中身は男だしな。  あ、雨か。傘用意してねーな。 「もう男子みたいに濡れるの気にしないでそのまま帰ろうかなー」  私のぼやきにかがみの妹、つかさが答える。 「あはは、男の子って何で濡れるの気にならないんだろうね」 「ブラとか透ける心配ないからじゃん?」 「一理あるだろうけどあまり大声で堂々というな恥らいもてよ」  私の返答にかがみが気まずそうに突っ込む。  ふーむ、こういうのは女同士でも気を遣わねばならんのか。 「あんたの家族はホント仲良いよね」  かがみにそう言われたので、ふと思いつきで父親に聞いてみた。 「私が男子でも今と同じように接してた?」  しばしの間を置いてから「当たり前じゃないか」と返してきた。 「……はいはい、よーくわかったヨ」  よかったね、私が体だけでも女で。 「修正してやるっ!!」  頭への衝撃で覚醒する。 「泉ー、居眠りすなー」 「体罰が禁止のご時勢で、先生、けっこう普通になぐりますよね。別にいいですけど」  自分で言うのもなんだけど、殴られなきゃわからん奴っているし。  本来の私の時代ならこれは妥当なケース、別におかしなことではない。この時代の人間が過剰反応してるとしか思えない。 「せやな。けど誰も彼もやなくて殴る相手はえらんどるよ、いろんな意味で」  どんな意味ですか……。  ゆたかがポテトチップの袋開けられず四苦八苦してるな。  というわけで私が開けようとしたわけだが……。 「ギザギザのトコロから破って開けちゃおっか?」 「ちょっ、まっ、ちゃんとあけるから、ちょっとまって!!」  しかし、どんなに力入れても、ひっくり返してもダメ。  男として力技で負けるわけには……あれ? 今は女なんだっけ。でも年長者としてはやはり負けるわけにはいかない~~~!!  ゆたかのクラスメイトで重度のオタクである女の子、ひよりと意気投合する。  実際に妹がいる人は妹萌えしにくい、アニメの予告編における次回タイトルで即バレ、PCの調子の悪さをどう表現するか、連載続いてる漫画における絵柄の変化、コスプレは素材がよくないと楽しめない、朝起きたら最初に何をするか? 袴もいい、といった具合に。  だが最後の袴で決定的な溝があった。 「眼鏡と袴は女の子に限る」  というのが私の主張、それに対しひよりは、 「私的には男の子もありなんですが」  私の中身が男であることが、この違いを生んだのだろうか?  さて、かがみんとこは世界史の宿題出ただろうな。しかし、何も言ってないのに見せないと宣言された。  毎回たかられちゃかなわんとの事。行動パターン読まれてるなー。 「いやいや考えてご覧よかがみ。毎回宿題を理由にしてかがみに会いたいがために隣のクラスまで足げく女の子が通ってくる。って想像すると、ほらっ、すっごい萌えシチュエーションじゃない?」 「オタクのその発想力には時々色んな意味で関心するわ。それ男子の発想じゃないのか?」  見抜かれたか!? とも思ったが、呆れられるだけで気持ち悪がられたり怪しまれたりはしないな。  中身が男子なんじゃなく、そういうキャラとして認知されてるようだ。  部屋を片付けていると、こなたが子供の頃に使っていたと思われるクレヨンが出土した。  本来の私としてもさまざまな意味で懐かしくて、童心に返り絵を描いてみた。  しかし、絵心がなく散々な出来。そのことに呆れていたらかがみが来訪。  笑われるだろうから隠し、話を逸らす。 「そういえばさー、子供の頃からずっと気になってるんだけど」 「ん?」  男の子と女の子が向かい合って絵を描いているイラストが入ったクレヨンのパッケージを指差す。 「この女の子はどーして怒ってんのかな?」  目つきが怖かったのだ、この子。 「あんたはほんと、どーでもいいコトだけはよく考えるな……」  どうでもよくなんかない! 本来の私が子供の頃からこの会社のクレヨンのパッケージはこの絵だったんだ、これって地味にすごい事だ。  と、言いそうになったのを堪える。本来の自分を隠すってのも結構大変だ。  たまには、ということで夕食をカップ麺で済ますことになった。  ゆたかは焼きそばを選択。流しに湯を捨てに行き、ベコンという定番の音が鳴り響いた。  デザイン同様、あの音の発生も変わらないんだな。  などと感心していたら……。  ぼとぉっ 「は、半分くらいになっちゃった……」  定番の悲劇も変わらないか。この時代になっても克服できてなかったとは。  などと考えながら私のカップを開けると、なんかスープの具合が変。でろーんとしている。  ふとスープの袋を見ると『お召し上がりの直前にお入れください』との注意書き。  そりゃあ普通の料理でも調味料とか入れるタイミングってものがあるけどさ、さしすせそってヤツ。でもそういう面倒から開放するのがインスタントってやつじゃないのかね?  実際、本来の私の時代なら既にスープはカップの中にぶちまけられてて、無造作に湯を注ぐだけで済んでたのにさ。 「まあ、そういう時もあるよな」  などと慰めてくれた父親のカップの中では、具、またはスパイスか何かが入った子袋が浮いていた。  最近のカップ麺ってヤツァ――  弁当を忘れた。  今日は寒いから購買で肉まん買ってきたわけだが。 「ほら、かがみ、おっぱいおっぱい」 「ぶっ、そういうコトでかい声でゆーなっ」  貧乳の女の子にしかできないギャグであり、二つ買ったことでついやってしまった。今では反省している。  なんなんだ、このやるせなさ、自己嫌悪、敗北感。  他人の体であり本来の私は男のはずなのに。  もう精神は乙女のソレに侵食されてしまったのか、それとも男だからこそ抱く感情なのか。  格闘ゲームが再ブームになったという。  本来の私がはまっていたコナミの『イー・アル・カンフー』。  アレを凄くしたようなストリートファイターというゲームをゲーセンで見た記憶があるのだが、アレは更に進化を続け格闘ゲームという1ジャンルを築いて今に至るらしい。  これまたアニメビデオでも見てるかのように綺麗な画像が動く。これがリアルタイムに作られている画像なのだから恐れ入る。  ふと、ある可能性に気づき押入れを発掘してみた。こなたならアレを持っていたのではないか、と。  その予想は的中した。押入れの中で、本来の私にとっては未来に発売されることになるオーパーツ、スーパーファミコンが数々のカセットと共に埃を被っていた。  引っ張り出し、埃を掃除してコレに移植されたストリートファイターⅡをやってみる。  さきほどゲーセンで見た最新作と比べれば見劣りするものの、『イー・アル・カンフー』に馴染んだ私にとってはやはり脅威の画像である。  そのとき、父親が画面を覗き込んできた。 「お、バイソンか。当時M・タイソン格好よかったんだよなー」  との発言に、激しく同意を返そうとしてある事を思い出し静止。 「M・タイソンって誰?」  と、すっとぼける。  こなたの年代なら知らない筈だからな。  海行ったときのティモテやキャンプで遭難したときの死兆星のようなネタは今後自重しよう。  カラオケ行ったときも、あまりにもラインナップが充実してるんで嬉しくて特撮とか歌いまくったが、アレもまずかろう。  さすがに何度もやると怪しまれる。  それにしてもこのゲームは国際色豊かで、アマゾンは電気うなぎという連想で野生児が自家発電したり、インドの僧侶がヨガという連想で手足を伸ばして攻撃していた。  ベラボーマンみたいで笑ったのだが、この時代だと偏見だの差別だのと言われそうだ。  実際、新聞の投書欄なんかで時折そういうふうにヒステリックな主張を見ることがある。  昔の漫画の復刻版でも差別表現があるとかで台詞を改変されたりその話だけカットされたりしていた。  子供の頃読んで胸躍らせたちびくろサンボに至っては絶版になる始末。  この時代は、ネットで発言の機会が増えている反面けっこう窮屈なところもあるようだ。  父親やゆたかとクイズ番組を見ていると、この時代から見て昔の小学生の体育授業の映像が流れた。  女子はブルマを履いている。  私がこなたになってしまった当初、体育の授業であのブルマを履く羽目になるのかと戦々恐々としていたが、男子同様に短パンだったことに安堵すると共に拍子抜けしたものだ。  などと感慨にふけっていたらこんな問題が出た。 『最近、日本の小学校で見なくなった物に「ブルマ」がありますが、意外なところでニーズがあり売れているそうです。そのニーズとは何でしょーか!!』 「えー、いや、何となくわかるけどさぁ~」  わかってしまっていた。この時代について知るべくネットをさまよって情報をかき集めるうちに、知らなくてもいいことを色々と。  本来の自分の時代でも世も末だと感じることが多々あったが、アレについて知ったときはもう、そういうのを通り越したものを感じた次第である。 「それをゴールデンのお茶の間に流してもいいのかなぁ」  と、父親が言う。  ですよねー。  というか、父と娘とでこういうことで分かり合うってのもどうかと思うが。 『正解は、より小さな幼稚園児くらいの子供がアンダースコートやオーバーパンツとして運動の時に使う、でした~っ』  ゆたかが首をかしげるのを尻目に、父と娘とでうなだれあう。 「うーん、私達って……めちゃくちゃ汚れてますネ」 「結構取り返しつかないトコまで来てるかもな」  といった具合に、父と娘とで深いとこまで分かりあった。  中身である本来の私から見ればこのおっさんは他人のはずなのだが、とてもそうは思えない。  一体これはどういうことなのだろう?  PCにてゲームやってるときにゆい姉さんがやってきた。 「いやーしかし、か弱い年下キャラもいいけど、やっぱりお姉さんキャラもたまりませんなーっ」  色々とね、憧れとか幼少期の体験とか思い出しちゃうわけですよ。 「や~、……お姉さんお姉さん言うけど……そういうゲームやる人にとっちゃそのキャラの方が年下なことが多いんじゃないの?」 「私達、心はいつも少年少女なんですよ姉さん!!」  まして、本来の私はかろうじて少年と言えなくもないわけだしな。  などと感慨にふけりながら続ける。 「まー、姉さんが言うようなこともたまに思ったりしますけどねー」 「ふむふむ?」 「いやー、例えば、気付いたら遊んでた頃は年上だったゲーキャラと同い年になって不思議な感じしたり、前から憧れていたキャラより年上になって複雑な気分になったり」  おまけに、本来の私の時代に接していた作品が今でも連載続いていたり、リメイクされたりで、時代を超えて接した私が抱く感情の複雑さといったら――  などと言い出しそうになって慌てて別の話に変える。 「キャラは漫画の中でいろいろ成長とか活躍してるのにリアルの私は何やってんだろうなーとか思ったり……」  言ってて自分で傷付いた。アムロより年上だし、ブライトさんに追いつきそうだし。 「まあ飲もうか」  などと姉さんに慰められる。  本来の私は、この時代だったら実際にこうやって飲みに行くような、こなたのような年齢の子供がいてもおかしくないおっさんになってるはずなんだよな。  なのにどうして私は女子高生やってるんだろう。  体育の授業でバレーボールをやる。  かがみのチームと対戦することになり大いに盛り上がった。  そのとき、かがみが打ったスパイクをつかさが受け損ね、顔を強く打って泣き出した。  そんなに痛かったか? とも思ったが、つかさはどうやら成績や運動神経で負けてるってことで姉のかがみにコンプレックスを抱いていて、それがついに爆発したらしい。  いたたまれない雰囲気、どうにかせねば。 「だって、涙が出ちゃう。女の子だもん」  封印していた世代超越ネタだが、止むを得まい。  くねくねと身をよじる。男だったら気持ち悪いが、この姿なら問題なかろう。 「何よそれ」 「え゛~!? 知らないの? これって日本人の常識じゃん?」 「そう思うのはお前だけだ」  そうか、世代を超えた名作だと思ったが通じないか。  でもまあ、紆余曲折あったがつかさも立ち直ったからいいさ。はっはっは。  とまあ、こんな調子でゆる~い日々を謳歌していたある朝。 「朝起きたら男の子になっていました」  というか戻っていました。  いつだったか皆の前でつかさが犬のしつけや芸の話を出し、ある単語を口走ってその場を凍りつかせたわけだが、その単語の対象がここで元気に……って。 「……夢オチかよっ!?」  あれから、受験やらなにやらで忙しくなりあの夢のことも忘れてきた頃、疎遠になっていた幼馴染の女の子と大学で再会した。  見違えるくらいに綺麗になっていて、しばらくはあいつだと気付かなかったくらいだ。  作家としてデビューしようと四苦八苦してる頃、資料として多数保有していたあるものについてあいつから苦言を呈され、なかば冗談のつもりで言ったプロポーズまがいの台詞がすんなりと受理され結婚、娘も生まれた。  あいつは娘の成長を待たずして逝ってしまったが、そこそこ幸せな人生だったと思う。  娘の性格は、オレの趣味の影響で相当にオレに似ている。正確には、年齢や性別ゆえの違いが加わった結果、あの時のオレ、筋金入りのオタクだったオレに似ている。  それでもまあ、あいつが望んだ『普通』とはちょっと違うが、とてもいい子に育っている。  抱っこした感じもどんどんあいつに似てきて――  そこである事実に気づき、愕然とした。  なんとなく思い浮かんだ名であり、妻となったあいつの名と韻を踏むからと即決した名前、こなた。  改めて見てみると、今オレの腕の中でうっとおしそうにもがき蹴りを繰り出した娘は、外見といい性格といい歩んでいる人生といい、あの夢の中でオレがなっていた女の子、『こなた』にそっくりになっていた。  改めてあの夢の記憶と娘との記憶を照らし合わせると、まったく同じ内容だった。  たとえばクリスマスイブ。  娘からのプレゼントは、夢の中でオレがバイトして父親に贈ったものとまったく同じだった。  それ以前の問題として、今のオレは夢の中の『こなたの父親』そのものだった。  それに、娘が友人のかがみちゃんとつかさちゃんを連れてきた時、ふたりが初対面とは思えなかった。  そもそも、彼女らの家が神社で巫女さんであるということをなぜ知っていたのか? 娘からいろいろ話を聞いていたが、その点は聞いた記憶がなかった。 「お父さんは生まれ変わったらなりたいものとかある?」  との娘の問い。やはり夢の中でこう質問した記憶がある。  あの記憶の中で父親はこう答えていたな。 「んー、可愛い女の子とかかなっ」 「お、おん……っ!? ネットでもたまに見かけるけど……なんで?」  娘はやはり、あのときのオレと同じ返答をしてきた。 「食事にしろレジャーにしろレディースデーっていって割引されるだろう。なんか女の子ばっかズルくない?」 「お父さん基本的に大らかなのに妙なトコで女々しいね……」  そうだな、オレは女の子になってた時期があることだしな。  少しの沈黙の後、娘は続けた。 「まあそう言われると確かにありがたくはあるかも。普通に利用できるから特に何とも思ってなかったなぁ」  そうそう、女の子らしく振舞おうとしてこう付け加えてたっけ。 「はーあ、こなたはずるいよな―。中身はオレと同じオヤジなのに女の子の恩恵受けられて」  というか、中身はオヤジと同じオレなんだよな、今。  さてはて、これは一体どういうことなんだろう? 娘は性格が似てきた結果、時と空間と性別を超えてあの頃のオレとシンクロした、なんて事があるんだろうか。  あれからも改めて娘を観察してみると、まるっきりあの夢の通りだった。  ならばそろそろ、あの質問をした……いや、する頃になるのか。 「お母さんって背小さいし幼馴染だし、なんかギャルゲーキャラみたいじゃん? お父さんがベタ惚れなのはわかるんだけど、お母さんは何で結婚したんだろ?」  やはり来たか。  この問いにどう答えるかをオレは考え続けていた。そして……。 「『お前が振り向いてくれないからオレはギャルゲ好きになったんだ』と言ったら割とすんなり……」  と、夢の中の父親と同じ答えをした。  今、そしてこれからもしばらくの間、娘の中身はあの頃のオレになっていることだろう。  元の時代、元の体に戻ったオレは『こなた』としての経験を夢として受け止め、その後の人生にそれなりに影響を与え、今に至っている。  今オレの目の前にいる娘と、もし、あの夢と異なる接し方をして、娘……あの時のオレに異なる体験をさせたとしたら、過去、そして今は変わってしまうかもしれない。  変えることが出来るかもしれない。  その可能性を考えた上で、オレはあの夢を辿ることを決断した。 「でも何で急にかなたの事を?」  こなた、貴様は『んー、私、お母さんの事よく知らないし……』という。 「んー、私、お母さんの事よく知らないし……」  やっぱりだ。あの時のオレ……今のお前は、母親に限らず誰のことも知らなかったんだ。  友達のことも、自分自身のことも、日記やメールやアルバムなどの資料を通して断片的に覚えただけ。  父親の名が本来の自分と同じであることにすら気づかない有様だったもんな。  これから、ちょくちょくかなたとの思い出を話しておこう。  今のこなた……かなたと結婚する前の時代に戻るオレにどんな知識を与えたとしても、あいつを救うことは無理だ。  かなたを蝕んでいた病魔の対処法は、今に至るも見つかっていないのだから。  だからせめて―― 「かなたは若くして逝っちまったけど、幸せだったよって最期は笑ってたよ」  あいつにこのルートを辿らせてやるのが、せめてもの救いになると思う。そのためにも、な。 「こなたはこなたのやりたいようにやればいいさっ。オレもむりやりかなたを連れまわして思い出たくさん作ったものさー」 「じゃあ私も彼氏とか作って思い出作りしようかなー」 「それは絶対ダメっっ!」  夢の記憶において、色恋沙汰はなかったからな。  逆にこういうやり取りの記憶があり、その記憶の通りになっている。タイムパラドックスは回避せねば。  ……いや、娘をもつ父親としては、当たり前の反応であろう。  そうだよな? かなた。  完
 父親であるおっさんに他愛のない話を振る。 「お父さんは生まれ変わったらなりたいものとかある?」  彼の返答は……。 「んー、可愛い女の子とかかなっ」 「お、おん……っ!? ネットでもたまに見かけるけど……なんで?」 「食事にしろレジャーにしろレディースデーっていって割引されるだろう。なんか女の子ばっかズルくない?」 「お父さん基本的に大らかなのに妙なトコで女々しいね……」  おっと、女の子ならこう付け加えとくのが無難かな。 「まあそう言われると確かにありがたくはあるかも。普通に利用できるから特に何とも思ってなかったなぁ」 「はーあ、こなたはずるいよな―。中身はオレと同じオヤジなのに女の子の恩恵受けられて」 「うおーいっ」  少なくともオヤジではないぞ、と内心で突っ込む私は、こなたという名の女の子らしい。  女友達と連れ立って登校。とある事件の話題が出た。 「……って感じで教師犯罪が増えてるみたいよー」  と、女友達のひとり、かがみが言う。 「それってさ、モラル云々より単にギャルゲーエロゲーのやり過ぎって感じしない? よくあるシチュだし」  との私の返答に、 「そりゃまんまアンタのことでしょーが」  と突っ込みが入る。そして更なる突っ込み。 「……ちょっと待て、なんでアダルトゲームの内容知ってんだ高校1年生」 「ふっ」 「『ふ』じゃねぇ」 「あんた私らと知り合う前って友達いたの?」  学校で昼メシ食ってたら、かがみからこんな質問をされた。  こなたに友達は普通にいたようだが、彼女の日記は流し読みした程度なのでこの場でスラスラ話せるほど内容を覚えてはいない。  さて、本来の私がこの子達と知り合う前だったらどうだったかな。 「中学の時一人仲のいい友達がいたかな。しばらく連絡とってないけど、今、何してんのかな。中学の授業参観の時、将来の夢は魔法使いって言ってたけど」 『今』……この時代にヤツが健在なら30代をとっくに越えている。  童貞のまま30歳になると魔法使いになるなんて都市伝説があり、お互いそうなる可能性が高い。  それを少々誤解した結果があの作文だった。  試しにヤツと連絡試みたが、引っ越したのか電話は通じないし手紙も届かなかった。  こなたという赤の他人になってしまった今の私が無理に調べようとしたら怪しまれるだろう。  などと考えていたら、かがみの双子の妹、つかさと、こなたがどのようにして仲良くなったのかと聞かれた。  日記によると、つかさが怪しい大男に絡まれていたのを助けたのがきっかけだった。  こなたは格闘技の経験者らしいんだが、ずいぶんと無茶をするものである。  おまけに道聞かれてただけだったみたいだし。 「おまっ……駄目じゃん!! 何勝ち誇ってんだ」  いやぁ、やっぱ女の子助けるってシチュエーションは男のロマンだし。  PCに保存されているメールを読み返してみる。  かがみからのメールは付き合いが始まったばかりの頃は丁寧な文体だったのだが、徐々にくだけた書き方になり、ついには遅刻しないようにと釘を刺される始末。 「ってカンジでメール見てると友達としての歴史がだねー」  皆との付き合いの歴史、勉強しないとな。 「私があんたの正体に気付いてきた経過の記録だな」  などと呆れられたわけだが、気づいたのはこなたがオタクだったり時間にルーズであるという程度で、私の本当の正体に気付いたわけではないだろうかがみんや。  そんなかがみは今、体重の話で落ち込んでいる。 「1~2キロ上下したって見た目的にあんま差なんてないのに、なんでそんな数キロで一喜一憂するかねぇ。これだから女ってヤツは」 「あんたもたしか女だったハズだけどね」  残念だったな、私は男だったハズなんだ。 ―― こなたリフレイン ――  コテコテのオタクであるオレが、朝起きたら女の子になっていました。  しかも、20年くらい経った近未来の世界。あの大予言はあっさりと外れたらしい。  目が覚めて部屋を見回した時、あまり違和感がなかったため、しばらくは自分自身の変化にも気づかなかった。  部屋中に張られたポスター、PC、漫画etc……。  そりゃあ、未来の技術で作られただけあってPCのデザインは洗練されたものだったし、よく見るとポスターや本の印刷は精密なものになっていた。  だがオレがはまっていた作品のいくつかは世代を超えて愛されるものだったらしく、ちょっと見ただけではオレの部屋と雰囲気が変わらなかったのだ。  あくびと共に背伸びしたときの長い髪の感触をきっかけに、自分が背も胸もちっこい女の子になってることに気づいた。  ネタなのかと言いたくなる200X年のカレンダーや、雑誌とか単行本の奥付の日付見て面食らった。  そして恐る恐る部屋を出ると、廊下には無精ヒゲ伸ばしたおっさんがいた。彼はゲームの攻略法を教えてくれと言って部屋に侵入してPCを起動し、せり出してきたトレイにCDを入れる。  なるほど、カセットテープでプログラムの保存が出来るんだから、同じく音を記録する媒体であるCDでも保存できるんだな。  などと感心していたら、フロッピー、ましてカセットテープとは比べ物にならないスピードでデータが読み出され、ゲームが起動した。  ドットなんて意識させない生のイラスト原稿でも見てるかのような画像と、音源なんて意識させない生の楽器で演奏しているかのような音楽に圧倒される。  オレが呆然としていたら、しばらく怪訝な顔をしていたおっさんは不意に顔を赤らめ「ゆっくり体を休めるんだぞ」とか言って慌てて部屋を出て行った。  どうやら、あのおっさんがこの女の子の父親らしい。  父親の不可解な反応をあれこれ考え、ある可能性に気づく。  娘の様子がおかしいのは月の物ではないか? と、父親は仮説を立てたのではないだろうか。  中身が男のオレになってしまったことでボロが出たわけではない。というわけで安堵するべきか、アレになったと誤解されたことを恥らうべきなのか大いに悩むところであるが、とりあえず一人っきりになったのでこの女の子について色々調べてみる。  日記帳やアルバムを発見。この子には悪いが、円滑に生活を送るためと言い訳し拝見させてもらった。  更に、金持ちの友人にいじらせてもらったマックの要領でPCを調べているうちに、ゲームを動作させたまま他の作業もできることに気づき、様々なデータを覗いてみる。  そういえば、ヤツの家でやってたロードスのテーブルトーク、いいところで中断してるんだよな。  などと考えながら様々なファイル見ていると、手紙のような文章を発見した。パソコン通信の世界(この時代ではネットと言うらしい)で送受信されたもののようだ。  それらを見た結果、オレがなってしまったこなたという女の子は、オレ同様に筋金入りのオタクであることが判明した。  オレをそのまま女にしたような子。どうも、オレが素で行動してもあまりボロが出そうにない。  改めて電源入れっぱなしのPCに目を向ける。  そこでは、相変わらずの奇麗な画像と音楽が流れ、更に画面が切り替わってビデオでも見てるかのように滑らかな動画の再生が始まった。技術の進歩はすごい。  ……が、その内容はエロ。  オタクって生物の本質がさほど変わっていないのが少々切なかった。  とりあえずボロが出ないように一人称は思考も言動もこなたが使用していた『私』に切り替え、女の子としての生活を始めた。  女言葉ということになるが、少々丁寧語に切り替えたと考えると言葉遣いは割とすんなり順応できた。  新聞等を見て知識を身につけ、どうにかこの時代に順応してきた頃に新型ビデオデッキの記事が目に入った。  タイトルやキーワードを設定すると、それに関する番組をサーチして撮っておいてくれるスグレモノらしい。  さすがは近未来。コレで野球延長も怖くない!  と思っていたら、ネットTV欄みたいので照合してるだけで延長みたいなイレギュラーまでは対応してないとの事。  未来技術も大したことない。オタクの最大の敵は相変わらず野球をはじめとするスポーツ中継である。こういう点でもオタクの世界は変わっていない。  その上に、これらのスポーツ中継が中止になって普通にアニメが見れるということで好きだった雨は、海外から上陸し増殖していたドーム球場のせいで嫌いになってしまった。  買い物で訪れたオタクの聖地である秋葉原は、ずいぶんと軟派というか二次元寄りに変化してしまい、しばらくは見えない壁を感じたものだ。  2画面の折り畳み式ゲームウォッチがこの時代でも現役なのかと驚いたが、これがファミコンのようにカートリッジ替えて別のゲームができる上に性能は比べようのない高性能であることに更に驚かされた。  このDSというゲーム機向けに、本来の私の時代に発売されていたゲームがリメイクされていたりして、ゲームといえど名作は世代を超えるのだなと感心した。  こうしてみると、人間社会の本質はそうそう変わるものではないようだ。  景品にばかり目がいって本体であるはずのお菓子はついついないがしろにしてしまうし、ロッテはこの時代に至るも優勝してないし。  かと思えばこんなこともあった。  ガンダムはZでは飽き足らずVとかWとかXとか色々出ているようだが、その一方で1年戦争の時代を描いた外伝もいくつか作られており、こなたの趣味はその時代の作品に偏っていた。  そういうこともあって彼女のコレクション見てもすぐには違和感に気づかなかった。  父親が「お隣さんから良いもの頂いたぞー」とか言うから、「何? ツボ?」などとボケたら感極まって抱きしめてくる始末。  こんなことで父娘のコミュニケーションが取れてしまう辺り、オタク文化もかなり一般化しているようだ。  あれからも女子高生としての日常が続く。  つかさ達が歯医者の話してるな。ドリルか。これは怖がっておいたほうがいいか。  ああ、でもいきすぎたか、フォロー入れねば。女の子だったらどう言うかな?  ……そうだ。 「でも男子は歯医者とか好きそうだよね」 「何で?」 「だってドリルは男のロマンって言うし」 「いや……見るのはともかく削られるのは嫌だと思うけど……」  それもそうか。  ちょっと早起きしたのでゲームやってたらついつい長引いてしまい、学校出るの遅れた。というわけで学校の廊下を全力疾走している。  担任である黒井先生が出欠取る声が聞こえた。 「泉、泉ー、なんや遅刻かー?」 「ストップっ、遅刻じゃないですーっ」  さて、なんて言い訳しよう? 『ウィッキーさんと英会話してきました』  なんて、この時代で通じるわけないよな。 『ブラウンのモーニングリポートに引っかかった』  オレはこの年なのに結構ヒゲ濃いから信じてもらえるか……って、オレ、いやいや、今の私は女の子なんだから駄目じゃん!  正直に言おう。 「人助けをしてたら遅くなりましたっ。そのあと話とか聞いてたら長引いてっ」 「なるほどな、そりゃええコトしたわ」  嘘は言ってない、嘘は……って、おお、信じてもらえた。  笑みをたたえた先生は更に続ける。 「で、それは何のゲームの話や?」  ううっ、読まれてる……。  アニメキャラの仮装もずいぶんと一般化しているようだ。せっかく女の子になったことだし、色々な格好を試してみるか。こなたならやってもおかしくないだろうし。  というわけで……。 「仮装喫茶でバイト始めたって言ってたけど、そういうとこってスタイルとか良くないと駄目なんじゃないの?」  と、かがみが突っ込んできた。 「いやぁ……私もずっと胸がないのを嘆いてきたんだけどね?」  こなたには悪いのだが、自分が女の子になったとすぐ気づくことができなかった原因のひとつがそれだったのだ。  女の子になったんだもの、揺れる胸への戸惑いとか体験してみたいんだが。 「とあるゲームで『貧乳はステータスだ希少価値だ』って言ってたんだよね。言われると確かにそういうニーズもあるわけじゃん?」  と、自信たっぷりに続ける。  実際、本来の私が膨大な量のフロッピーをとっかえひっかえしてプレイしてたゲームでも巨乳キャラではなく貧乳キャラに興奮していたものである。  ……自分が貧乳キャラになっても仕方ないんだが。 「そう言えばこなたって漫画やゲームの趣味変わってるわよね。少年誌ばかりだしギャルゲーメインでしょ」  かがみにこう指摘された。  日記などの資料や自分が見聞きしたことから考えると、 「ウチ、お父さんがよく漫画見たりゲームするからそれに影響されてるんだよね」  ということらしい。自分で言うのもなんだが、娘の前でギャルゲーやエロゲーやるってどんな父親だろう。  かがみも同じこと考えているのか唖然としつつ突っ込んできた。 「父子揃ってそんな感じでお母さん何とも言わないの?」 「あー、ウチ、お母さんいないから」 「え?」  実際に居ないし父親もあまり話題にしないが、アルバムなどの写真や位牌から推察するに、 「私がすごく小さい頃に死んじゃったんだよね」  ということらしい。  居間に飾られてる写真には、今より若い父親と、こなたと見間違えそうなくらいにそっくりな女性、その二人に挟まれる赤ちゃんが写っていた。  あれが両親であり、赤ちゃんだった頃のこなたらしい。  本来は他人であるはずの私から見ても、暖かく、切ないものがひしひしと伝わってきた。  両親の顔は本来の私から見ても見覚えがあった。  まあ、こなたの両親なのだから見覚えがあってもおかしくないか。  毎朝髪の手入れで鏡を凝視してることだしな。 「そ、そうなんだ……悪い……」  あ、かがみとつかさがバツが悪そうにしているな。フォロー入れねば。 「だから家事とかいつもやってるからかがみより全然できるよ」 「突っ込みづらい雰囲気の時に余計な事言うなっ」  そうそう、かがみはこうでなくちゃ。  バイト先の喫茶店で行う夏の新メニューについて考えていると、かがみが話しかけてきた。 「へぇ、そんなのあるんだ?」 「暑い時こそ辛い物ってことで激辛ラーメンとかどうかナ?」  実際、本来の私の時代では激辛がブームになってて、激辛ラーメンは暑いときには最高だった。 「もう少し喫茶店っぽいメニューにしなさいよ」  それもそうか。 「じゃあ激辛パフェとか!」  カレーやラーメンに飽き足らず、お菓子や清涼飲料にも激辛があったんだ。パフェもアリだろう。 「いい加減、脊髄反射的な発想はやめないか?」  ううっ、呆れられた。でもブームが再来すれば、あるいは……。  親戚のゆい姉さんと担任である黒井先生の引率で私達は海に行くことになった。  で、紆余曲折の末に辿り着いた海の家。 「おお、期待通りだ!」 「何がそんなに嬉しいのよ?」 「だって海の家を絵に描いたようなのが出てきたんだよ? 見よ! この具のないカレー! さすが海の家!」  他にも定番のメニューが並んでいる。こういうのは世代を超えて受け継がれていくのだなあ。  で、民宿で風呂に入る。こなたは女の子であるからして当然ながら女湯に入ることになり、他の皆とご一緒することになってしまう。  しかし、全然いやらしい気持ちにならないし興奮もしない。体が女だからかな。  考えてみると、私がこなたという女の子になってから誰かと風呂に入るのはこれが初めてだな。  せっかく髪が長い女の子になったんだ、アレをやってみよう。 「見て見て! ティモテ、ティモテ、ティモテ~♪」        /⌒彡      / 冫、 ))   ティモテ     / ~ヽ ` , ((((  ティモテ     | \ y  ))))   ティモテ~     |   ニつ))つ     |、ー‐ < ((     /   ヾ \、   // しヽ__)~  ~~~~`  ウケるぞ~これは。 「何それ」  との冷め切ったかがみの反応。  そうか、この時代であのシャンプーは見かけなかったから、もしやと思っていたが、もう消え去った商品だったんだな。君らも生まれてなかったんだな。  ジェネレーションギャップを痛感し、寂しくなる。  いや、まだだ、このネタで笑いを取らねば気がすまない。  振り向くと、そこには大人である黒井先生とゆい姉さんがいた。彼女らなら! 「姉さん姉さん! ティモテ、ティモテ、ティモテ~♪」 「おー懐かしい~! やったやった♪」 「これだー! 私の欲しかった反応はこれだった!」  通じた、私がリアルタイムで接していたネタが通じた! 「お前いくつやねん」  などと先生に呆れられた。  さてはて、本来の私はこの時代ならいくつなんだろうな?  みゆきさんが眼鏡なしで登校してきた。割れてしまったとのこと。  そんなわけで今日取ったノート貸したりしていた。  そうこうしてるうちにトイレ行くことになったのだが、よく見えないせいか彼女はふらふらと男子トイレに入りそうになり慌てて静止した。  こなたになったばかりの頃は私も習慣で入りそうになったっけ。  そんなみゆきさんは体育祭でリレーに抜擢された。  最初は障害物競走になるはずだったんだが、私が、 「みゆきさんは体の凹凸激しいから障害物はダメだよ~、いろいろくぐるし」  と言ったためである。 「お前それ中年オヤジのセクハラかよ……」  と、かがみに呆れられた。まあ、オヤジではないが中身は男だしな。  そんな私は100メートル走に抜擢。 「どうしたらこなちゃんみたいに早く走れるの?」  とのつかさの問いにこう答える。 「こういうのはイメージが大事なのだよイメージが」  号砲で駆け出すとき、頭にとあるゲームの画面を思い浮かべる。  まずは手を痙攣させるように力技でボタンを連打、それからコインでこすり、終盤は定規ではじくようにしてその振動で……。 「ごーるっ♪ こんな感じ?」 「マジか」  ふっふっふ、連射している信号を出す回路があらかじめコントローラーについてても珍しくない世代の君らにはわかるまい……って、わかるのかよかがみ。  バレンタインがやってきた。  本来の私としては無縁だったし、女の子になった今では貰えるわけがないし、中身が男ということであげる相手を作る気にもなれないということで現実世界ではやっぱり無縁のはずだった。  だが。 「おはよーこなちゃん、はいこれ」  つかさから義理チョコを貰った。  欧米では男女問わず好きな人や友達にお菓子やカードを渡すということで、女の私に義理チョコらしい。  しかしこの凝りよう……。 「つかさ~、義理でも男子にはあげない方がいいよ~、絶対勘違いされるから~」  体が女子でも中身が男子である私が言うんだから間違いない。  不覚にもときめいてしまったじゃないか。  で、かがみもチョコくれた。ぶっきらぼうな態度で顔赤くしながら渡すのが堪らん。  本来の私がこんな態度で渡されたら絶対勘違いしてしまう。  そんな私だが、ネットの世界ではチョコをあげる予定がある。  ゲーム内でキャラとして、である。  女の子として生活する反動なのか、ネット上のゲームでキャラを作成するとき性別は迷わず男を選択していた。おまけに結婚もしていたりする。 「はぁ……男が女にチョコあげるのか……? というか女が女にあげてるようなもんでしょ? それ」  と、かがみに突っ込まれる。 「大丈夫、相手、中身は男だから……あれ?」  相手は男が女キャラ操作してて、私が操作する男キャラからチョコ貰うわけで、それ操作する私は女の子なんだけどその中身は男で……??? 「あー……まぁ、こういうのは各個人が楽しめればそれでいいのよネ!!」 「そうだネ!!」  二重に性別を偽った上にチョコの受け渡しは逆転してるわけで、混乱避けるためにも今後は自重しよう。  従兄弟のゆたかという女の子が私達と同じ高校に合格し、実家からだと遠いということで我が家から通うことになった。  そんなわけで一緒に暮らすのだが……。  父親がトイレのドア開けたままで用たしていため彼女は引越し早々にショック受けていた。  私は中身が男ということもあってお構いなしでいたため、感覚が麻痺していた模様。これからは気をつけねば。  それにしても女ってのは脅威の生物だ。  今もかがみは、携帯電話(こんな小さな物体にPC並みの性能があり無線で電話できるなんて信じられんが、この分野ではいちいち驚いてたらキリないので深く考えず受け入れることにした)に出たとたんに……。 「あ、はいもしもし○○ですけど、あっいやいや、つい、家電のクセで……うん、うん――」  つい、たった今まであんなに激しく私に怒りをぶつけてたのに、どうして女ってこう素早く切り替えられるんだろう?  誕生日を祝われた。 「このくらいになると年とっても別に嬉しくないわよね」  と、かがみは言うが……。 「いやー、私はすごーく嬉しいけどね~」 「へ~何で?」 「だってこれで美少女ゲーとか堂々とできるじゃん」  コレまではさ、ちょっと後ろめたさがあったわけよ。私がこなたになったばかりの頃、彼女は年齢満たしてなかったわけだし。 「狐……えーと……犬……リス……」 「急になに言ってるんだ?」 「いや、皆を動物に例えたらどうなるかなーって」  友達同士で集まったとき、ふと思いつきで出した例え話。  そしてかがみはウサちゃんだと言ったら激しく照れていた。うーむ、可愛い。  で、みゆきさんは羊かなと言われたが、あえて反論させていただく。 「いやー、みゆきさんは……なんと言っても牛でしょっ! このへんが」 「あんたの発想はどうしてそう中年のおじさんみたいなんだ」  かがみの突っ込みが入る。  おじさんではないが、まあ、中身は男だしな。  あ、雨か。傘用意してねーな。 「もう男子みたいに濡れるの気にしないでそのまま帰ろうかなー」  私のぼやきにかがみの妹、つかさが答える。 「あはは、男の子って何で濡れるの気にならないんだろうね」 「ブラとか透ける心配ないからじゃん?」 「一理あるだろうけどあまり大声で堂々というな恥らいもてよ」  私の返答にかがみが気まずそうに突っ込む。  ふーむ、こういうのは女同士でも気を遣わねばならんのか。 「あんたの家族はホント仲良いよね」  かがみにそう言われたので、ふと思いつきで父親に聞いてみた。 「私が男子でも今と同じように接してた?」  しばしの間を置いてから「当たり前じゃないか」と返してきた。 「……はいはい、よーくわかったヨ」  よかったね、私が体だけでも女で。 「修正してやるっ!!」  頭への衝撃で覚醒する。 「泉ー、居眠りすなー」 「体罰が禁止のご時勢で、先生、けっこう普通になぐりますよね。別にいいですけど」  自分で言うのもなんだけど、殴られなきゃわからん奴っているし。  本来の私の時代ならこれは妥当なケース、別におかしなことではない。この時代の人間が過剰反応してるとしか思えない。 「せやな。けど誰も彼もやなくて殴る相手はえらんどるよ、いろんな意味で」  どんな意味ですか……。  ゆたかがポテトチップの袋開けられず四苦八苦してるな。  というわけで私が開けようとしたわけだが……。 「ギザギザのトコロから破って開けちゃおっか?」 「ちょっ、まっ、ちゃんとあけるから、ちょっとまって!!」  しかし、どんなに力入れても、ひっくり返してもダメ。  男として力技で負けるわけには……あれ? 今は女なんだっけ。でも年長者としてはやはり負けるわけにはいかない~~~!!  ゆたかのクラスメイトで重度のオタクである女の子、ひよりと意気投合する。  実際に妹がいる人は妹萌えしにくい、アニメの予告編における次回タイトルで即バレ、PCの調子の悪さをどう表現するか、連載続いてる漫画における絵柄の変化、コスプレは素材がよくないと楽しめない、朝起きたら最初に何をするか? 袴もいい、といった具合に。  だが最後の袴で決定的な溝があった。 「眼鏡と袴は女の子に限る」  というのが私の主張、それに対しひよりは、 「私的には男の子もありなんですが」  私の中身が男であることが、この違いを生んだのだろうか?  さて、かがみんとこは世界史の宿題出ただろうな。しかし、何も言ってないのに見せないと宣言された。  毎回たかられちゃかなわんとの事。行動パターン読まれてるなー。 「いやいや考えてご覧よかがみ。毎回宿題を理由にしてかがみに会いたいがために隣のクラスまで足げく女の子が通ってくる。って想像すると、ほらっ、すっごい萌えシチュエーションじゃない?」 「オタクのその発想力には時々色んな意味で関心するわ。それ男子の発想じゃないのか?」  見抜かれたか!? とも思ったが、呆れられるだけで気持ち悪がられたり怪しまれたりはしないな。  中身が男子なんじゃなく、そういうキャラとして認知されてるようだ。  部屋を片付けていると、こなたが子供の頃に使っていたと思われるクレヨンが出土した。  本来の私としてもさまざまな意味で懐かしくて、童心に返り絵を描いてみた。  しかし、絵心がなく散々な出来。そのことに呆れていたらかがみが来訪。  笑われるだろうから隠し、話を逸らす。 「そういえばさー、子供の頃からずっと気になってるんだけど」 「ん?」  男の子と女の子が向かい合って絵を描いているイラストが入ったクレヨンのパッケージを指差す。 「この女の子はどーして怒ってんのかな?」  目つきが怖かったのだ、この子。 「あんたはほんと、どーでもいいコトだけはよく考えるな……」  どうでもよくなんかない! 本来の私が子供の頃からこの会社のクレヨンのパッケージはこの絵だったんだ、これって地味にすごい事だ。  と、言いそうになったのを堪える。本来の自分を隠すってのも結構大変だ。  たまには、ということで夕食をカップ麺で済ますことになった。  ゆたかは焼きそばを選択。流しに湯を捨てに行き、ベコンという定番の音が鳴り響いた。  デザイン同様、あの音の発生も変わらないんだな。  などと感心していたら……。  ぼとぉっ 「は、半分くらいになっちゃった……」  定番の悲劇も変わらないか。この時代になっても克服できてなかったとは。  などと考えながら私のカップを開けると、なんかスープの具合が変。でろーんとしている。  ふとスープの袋を見ると『お召し上がりの直前にお入れください』との注意書き。  そりゃあ普通の料理でも調味料とか入れるタイミングってものがあるけどさ、さしすせそってヤツ。でもそういう面倒から開放するのがインスタントってやつじゃないのかね?  実際、本来の私の時代なら既にスープはカップの中にぶちまけられてて、無造作に湯を注ぐだけで済んでたのにさ。 「まあ、そういう時もあるよな」  などと慰めてくれた父親のカップの中では、具、またはスパイスか何かが入った子袋が浮いていた。  最近のカップ麺ってヤツァ――  弁当を忘れた。  今日は寒いから購買で肉まん買ってきたわけだが。 「ほら、かがみ、おっぱいおっぱい」 「ぶっ、そういうコトでかい声でゆーなっ」  貧乳の女の子にしかできないギャグであり、二つ買ったことでついやってしまった。今では反省している。  なんなんだ、このやるせなさ、自己嫌悪、敗北感。  他人の体であり本来の私は男のはずなのに。  もう精神は乙女のソレに侵食されてしまったのか、それとも男だからこそ抱く感情なのか。  格闘ゲームが再ブームになったという。  本来の私がはまっていたコナミの『イー・アル・カンフー』。  アレを凄くしたようなストリートファイターというゲームをゲーセンで見た記憶があるのだが、アレは更に進化を続け格闘ゲームという1ジャンルを築いて今に至るらしい。  これまたアニメビデオでも見てるかのように綺麗な画像が動く。これがリアルタイムに作られている画像なのだから恐れ入る。  ふと、ある可能性に気づき押入れを発掘してみた。こなたならアレを持っていたのではないか、と。  その予想は的中した。押入れの中で、本来の私にとっては未来に発売されることになるオーパーツ、スーパーファミコンが数々のカセットと共に埃を被っていた。  引っ張り出し、埃を掃除してコレに移植されたストリートファイターⅡをやってみる。  さきほどゲーセンで見た最新作と比べれば見劣りするものの、『イー・アル・カンフー』に馴染んだ私にとってはやはり脅威の画像である。  そのとき、父親が画面を覗き込んできた。 「お、バイソンか。当時M・タイソン格好よかったんだよなー」  との発言に、激しく同意を返そうとしてある事を思い出し静止。 「M・タイソンって誰?」  と、すっとぼける。  こなたの年代なら知らない筈だからな。  海行ったときのティモテやキャンプで遭難したときの死兆星のようなネタは今後自重しよう。  カラオケ行ったときも、あまりにもラインナップが充実してるんで嬉しくて特撮とか歌いまくったが、アレもまずかろう。  さすがに何度もやると怪しまれる。  それにしてもこのゲームは国際色豊かで、アマゾンは電気うなぎという連想で野生児が自家発電したり、インドの僧侶がヨガという連想で手足を伸ばして攻撃していた。  ベラボーマンみたいで笑ったのだが、この時代だと偏見だの差別だのと言われそうだ。  実際、新聞の投書欄なんかで時折そういうふうにヒステリックな主張を見ることがある。  昔の漫画の復刻版でも差別表現があるとかで台詞を改変されたりその話だけカットされたりしていた。  子供の頃読んで胸躍らせたちびくろサンボに至っては絶版になる始末。  この時代は、ネットで発言の機会が増えている反面けっこう窮屈なところもあるようだ。  父親やゆたかとクイズ番組を見ていると、この時代から見て昔の小学生の体育授業の映像が流れた。  女子はブルマを履いている。  私がこなたになってしまった当初、体育の授業であのブルマを履く羽目になるのかと戦々恐々としていたが、男子同様に短パンだったことに安堵すると共に拍子抜けしたものだ。  などと感慨にふけっていたらこんな問題が出た。 『最近、日本の小学校で見なくなった物に「ブルマ」がありますが、意外なところでニーズがあり売れているそうです。そのニーズとは何でしょーか!!』 「えー、いや、何となくわかるけどさぁ~」  わかってしまっていた。この時代について知るべくネットをさまよって情報をかき集めるうちに、知らなくてもいいことを色々と。  本来の自分の時代でも世も末だと感じることが多々あったが、アレについて知ったときはもう、そういうのを通り越したものを感じた次第である。 「それをゴールデンのお茶の間に流してもいいのかなぁ」  と、父親が言う。  ですよねー。  というか、父と娘とでこういうことで分かり合うってのもどうかと思うが。 『正解は、より小さな幼稚園児くらいの子供がアンダースコートやオーバーパンツとして運動の時に使う、でした~っ』  ゆたかが首をかしげるのを尻目に、父と娘とでうなだれあう。 「うーん、私達って……めちゃくちゃ汚れてますネ」 「結構取り返しつかないトコまで来てるかもな」  といった具合に、父と娘とで深いとこまで分かりあった。  中身である本来の私から見ればこのおっさんは他人のはずなのだが、とてもそうは思えない。  一体これはどういうことなのだろう?  PCにてゲームやってるときにゆい姉さんがやってきた。 「いやーしかし、か弱い年下キャラもいいけど、やっぱりお姉さんキャラもたまりませんなーっ」  色々とね、憧れとか幼少期の体験とか思い出しちゃうわけですよ。 「や~、……お姉さんお姉さん言うけど……そういうゲームやる人にとっちゃそのキャラの方が年下なことが多いんじゃないの?」 「私達、心はいつも少年少女なんですよ姉さん!!」  まして、本来の私はかろうじて少年と言えなくもないわけだしな。  などと感慨にふけりながら続ける。 「まー、姉さんが言うようなこともたまに思ったりしますけどねー」 「ふむふむ?」 「いやー、例えば、気付いたら遊んでた頃は年上だったゲーキャラと同い年になって不思議な感じしたり、前から憧れていたキャラより年上になって複雑な気分になったり」  おまけに、本来の私の時代に接していた作品が今でも連載続いていたり、リメイクされたりで、時代を超えて接した私が抱く感情の複雑さといったら――  などと言い出しそうになって慌てて別の話に変える。 「キャラは漫画の中でいろいろ成長とか活躍してるのにリアルの私は何やってんだろうなーとか思ったり……」  言ってて自分で傷付いた。アムロより年上だし、ブライトさんに追いつきそうだし。 「まあ飲もうか」  などと姉さんに慰められる。  本来の私は、この時代だったら実際にこうやって飲みに行くような、こなたのような年齢の子供がいてもおかしくないおっさんになってるはずなんだよな。  なのにどうして私は女子高生やってるんだろう。  体育の授業でバレーボールをやる。  かがみのチームと対戦することになり大いに盛り上がった。  そのとき、かがみが打ったスパイクをつかさが受け損ね、顔を強く打って泣き出した。  そんなに痛かったか? とも思ったが、つかさはどうやら成績や運動神経で負けてるってことで姉のかがみにコンプレックスを抱いていて、それがついに爆発したらしい。  いたたまれない雰囲気、どうにかせねば。 「だって、涙が出ちゃう。女の子だもん」  封印していた世代超越ネタだが、止むを得まい。  くねくねと身をよじる。男だったら気持ち悪いが、この姿なら問題なかろう。 「何よそれ」 「え゛~!? 知らないの? これって日本人の常識じゃん?」 「そう思うのはお前だけだ」  そうか、世代を超えた名作だと思ったが通じないか。  でもまあ、紆余曲折あったがつかさも立ち直ったからいいさ。はっはっは。  とまあ、こんな調子でゆる~い日々を謳歌していたある朝。 「朝起きたら男の子になっていました」  というか戻っていました。  いつだったか皆の前でつかさが犬のしつけや芸の話を出し、ある単語を口走ってその場を凍りつかせたわけだが、その単語の対象がここで元気に……って。 「……夢オチかよっ!?」  あれから、受験やらなにやらで忙しくなりあの夢のことも忘れてきた頃、疎遠になっていた幼馴染の女の子と大学で再会した。  見違えるくらいに綺麗になっていて、しばらくはあいつだと気付かなかったくらいだ。  作家としてデビューしようと四苦八苦してる頃、資料として多数保有していたあるものについてあいつから苦言を呈され、なかば冗談のつもりで言ったプロポーズまがいの台詞がすんなりと受理され結婚、娘も生まれた。  あいつは娘の成長を待たずして逝ってしまったが、そこそこ幸せな人生だったと思う。  娘の性格は、オレの趣味の影響で相当にオレに似ている。正確には、年齢や性別ゆえの違いが加わった結果、あの時のオレ、筋金入りのオタクだったオレに似ている。  それでもまあ、あいつが望んだ『普通』とはちょっと違うが、とてもいい子に育っている。  抱っこした感じもどんどんあいつに似てきて――  そこである事実に気づき、愕然とした。  なんとなく思い浮かんだ名であり、妻となったあいつの名と韻を踏むからと即決した名前、こなた。  改めて見てみると、今オレの腕の中でうっとおしそうにもがき蹴りを繰り出した娘は、外見といい性格といい歩んでいる人生といい、あの夢の中でオレがなっていた女の子、『こなた』にそっくりになっていた。  改めてあの夢の記憶と娘との記憶を照らし合わせると、まったく同じ内容だった。  たとえばクリスマスイブ。  娘からのプレゼントは、夢の中でオレがバイトして父親に贈ったものとまったく同じだった。  それ以前の問題として、今のオレは夢の中の『こなたの父親』そのものだった。  それに、娘が友人のかがみちゃんとつかさちゃんを連れてきた時、ふたりが初対面とは思えなかった。  そもそも、彼女らの家が神社で巫女さんであるということをなぜ知っていたのか? 娘からいろいろ話を聞いていたが、その点は聞いた記憶がなかった。 「お父さんは生まれ変わったらなりたいものとかある?」  との娘の問い。やはり夢の中でこう質問した記憶がある。  あの記憶の中で父親はこう答えていたな。 「んー、可愛い女の子とかかなっ」 「お、おん……っ!? ネットでもたまに見かけるけど……なんで?」  娘はやはり、あのときのオレと同じ返答をしてきた。 「食事にしろレジャーにしろレディースデーっていって割引されるだろう。なんか女の子ばっかズルくない?」 「お父さん基本的に大らかなのに妙なトコで女々しいね……」  そうだな、オレは女の子になってた時期があることだしな。  少しの沈黙の後、娘は続けた。 「まあそう言われると確かにありがたくはあるかも。普通に利用できるから特に何とも思ってなかったなぁ」  そうそう、女の子らしく振舞おうとしてこう付け加えてたっけ。 「はーあ、こなたはずるいよな―。中身はオレと同じオヤジなのに女の子の恩恵受けられて」  というか、中身はオヤジと同じオレなんだよな、今。  さてはて、これは一体どういうことなんだろう? 娘は性格が似てきた結果、時と空間と性別を超えてあの頃のオレとシンクロした、なんて事があるんだろうか。  あれからも改めて娘を観察してみると、まるっきりあの夢の通りだった。  ならばそろそろ、あの質問をした……いや、する頃になるのか。 「お母さんって背小さいし幼馴染だし、なんかギャルゲーキャラみたいじゃん? お父さんがベタ惚れなのはわかるんだけど、お母さんは何で結婚したんだろ?」  やはり来たか。  この問いにどう答えるかをオレは考え続けていた。そして……。 「『お前が振り向いてくれないからオレはギャルゲ好きになったんだ』と言ったら割とすんなり……」  と、夢の中の父親と同じ答えをした。  今、そしてこれからもしばらくの間、娘の中身はあの頃のオレになっていることだろう。  元の時代、元の体に戻ったオレは『こなた』としての経験を夢として受け止め、その後の人生にそれなりに影響を与え、今に至っている。  今オレの目の前にいる娘と、もし、あの夢と異なる接し方をして、娘……あの時のオレに異なる体験をさせたとしたら、過去、そして今は変わってしまうかもしれない。  変えることが出来るかもしれない。  その可能性を考えた上で、オレはあの夢を辿ることを決断した。 「でも何で急にかなたの事を?」  こなた、貴様は『んー、私、お母さんの事よく知らないし……』という。 「んー、私、お母さんの事よく知らないし……」  やっぱりだ。あの時のオレ……今のお前は、母親に限らず誰のことも知らなかったんだ。  友達のことも、自分自身のことも、日記やメールやアルバムなどの資料を通して断片的に覚えただけ。  父親の名が本来の自分と同じであることにすら気づかない有様だったもんな。  これから、ちょくちょくかなたとの思い出を話しておこう。  今のこなた……かなたと結婚する前の時代に戻るオレにどんな知識を与えたとしても、あいつを救うことは無理だ。  かなたを蝕んでいた病魔の対処法は、今に至るも見つかっていないのだから。  だからせめて―― 「かなたは若くして逝っちまったけど、幸せだったよって最期は笑ってたよ」  あいつにこのルートを辿らせてやるのが、せめてもの救いになると思う。そのためにも、な。 「こなたはこなたのやりたいようにやればいいさっ。オレもむりやりかなたを連れまわして思い出たくさん作ったものさー」 「じゃあ私も彼氏とか作って思い出作りしようかなー」 「それは絶対ダメっっ!」  夢の記憶において、色恋沙汰はなかったからな。  逆にこういうやり取りの記憶があり、その記憶の通りになっている。タイムパラドックスは回避せねば。  ……いや、娘をもつ父親としては、当たり前の反応であろう。  そうだよな? かなた。  完 ――追加エピソード――  あれからも女子高生としての日常が続く。  昼食で好物のチョココロネを齧る。  菓子パンで昼食を済ますってのもどうかと思うが好きなものはしょうがない。  しかし……食べづらい。  つかさが言うところの頭を齧り続けある一点を超えると、チョコがはみ出した。  時代と共に消費者の嗜好が変わり流動性の高いものに替わったのだろうか?  はたまた、地球温暖化って奴で、気温が高くて溶けてる? 体がこの時代になじんでるため体感温度は普通に感じるんだろうか?  いやいや、そんなことあるはずがない、何かの間違いだ。 そう思いながらはみ出たチョコを舐め取り改めて頭に齧りつくとまたはみ出した。  こりゃ本当に温暖化か!? と焦ったとき、みゆきさんからアドバイスを受けた。  細いほうをちぎってチョコつけて食べるとか。非常にまだるっこしい。  そのまだるっこしさを考えたとき衝撃を受けた。  考えてみると、男だった頃に比べ口を大きく開けることができないため、それがチョコのはみ出しに繋がった可能性がある。  ふと思いつきでシュークリームの食べかたを聞いてみると、分割してクリームすくって食べるというこれまたまだるっこしい食べ方。  男だった頃は一口で全てほおばっていたからそんな小細工は不要だったのだが。  女として暮らしていく以上は、このやり方に合わせないと駄目なんだろうか?  などと考えていたら、つかさは白いご飯にでもなんにでもマヨネーズかけて食べるという恐ろしい食生活を語り始めた。  美味しんぼにおけるカツオじゃあるまいし。  この子だけなのか? この時代ならこれが普通なのか? こなたリフレイン  テスト明けで気晴らしに行った映画の後で、勇気を出してケーキバイキングに行こうと提案。男だった頃から甘党なのだが、こういう店は行くの難しかったのだ。 (ケーキ)バイキング。それは女の欲望番外地。  男だった頃の感覚でつい取り過ぎてしまったかと思ったが、かがみはより多く取っていた。  実際食べ始めると際限なく甘みを味わうことができ、こうして甘いものは別腹というのを身をもって体験していた。  しかし、まだまだこの体に慣れていないため加減がわからず、お代わりで大量に取ってしまった後で満腹感が急に襲ってきた。  それから先は拷問だった。やはり今後は自重しよう。  かがみとつかさがお泊りに来たとき、ふたりはアルバムを見始めて、写真の母親を娘であり私であるこなたと勘違いしていた。  無理もないか。私自身、こなたとして生活するためアルバム見たとき混乱したくらいだ。  それにしても綺麗な人だ。父親を見ているといつも思うのだが、この人はあの父親のどこがよかったのだろう?  といった話から、私の好みのタイプについて聞かれた。  困る。私の中身は男で、ホモではないんだし。  こなたの日記やメールでもそれらしい記述はなかった。  特に無いとごまかすもかがみに食い下がられ、誰でもよかったのかも、と更にごまかした。 「見るに見かねてお父さんと、とか」  って、それは本来の私に予想されうる展開だろ。  同情婚ならあるかな、と、自虐的なことを考えていたものである。  こなたのお母様、重ね重ね、貶めるようなこと言ってすみません。  自分を偽る生活ってのは、接する相手に不誠実だな。でも、どうしたものか。  正直に話して信じてもらえるとは思えない。また何かの漫画に影響されたのかと片付けられるのがオチだろう。  第一、私……オレが侵入した結果、追い出されてしまったこなたはどうなったのだろう?  そんなことを考えながらも、ゆる~い日常は続くのだった。

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