ID:USObuDU0氏:必死になった結果がコレだよ

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「チェリー、行くよ……チェリー?」  みなみがリードを強めに引っ張るが、チェリーは全く動こうとしない。  わふぅ、と眠たげにひと鳴きしたかと思うと、その眼を閉じてしまう。 「チェリーちゃん、眠たいのかなぁ?」 「ごめんね、ゆたか。チェリーが私の言うことをきかないせいで」 「ううん。気にしなくていいよ、みなみちゃん」 「でも、この調子だと帰るのが遅くなって……」 「今日はお泊りだから大丈夫だよ。それに、私が原因かもしれないし」  いつもなら散歩の途中で休憩はしないのだが、今日はゆたかも一緒なので休み休み歩いていた。  散歩コースの折り返し地点でも長い休憩をとったところ、そこからチェリーは動こうとしなくなった。  私の歩調に合わせるのが疲れたんじゃないだろうか、なんてゆたかは考える。 「チェリーちゃんが起きるまで、もうちょっと休憩していこうよ」 「……うん。ありがとう、ゆたか」  チェリーも30分ほど休憩すればまた歩き始めるだろう。  そう考えた2人は、もう少し休憩をとることにした。  近くの自動販売機で飲み物を買ってきて、おしゃべりを始める。  1時間経ち、2時間経ち……チェリーは一向に起きようとしない。  2人とも別にこれといった用事は控えてないので、その点に関しては何の問題も無い。  ただ、これほど長い時間同じ場所で話し続けていると、さすがに話題も尽きてくる。  徐々に口数が減っていき、それに併せてみなみの表情も沈んでいく。 「……本当にごめん、ゆたか。こんな事になるなんて」 「謝らなくていいよ、みなみちゃん!」  ゆたかは何とか場を明るくしようと、できるだけ時間が稼げそうな話題を必死で探した。  そして、つい先日こなたが話してくれた、とある話を思い出した。 「あっ、そうだ!ねえ、みなみちゃん。これは、こなたお姉ちゃんがしてくれた話なんだけどさ――」  ☆ 「かがみ、ちょっと相談があるんだけど」 「あんたがそんな浮かない顔するなんて珍しいわね。それで、相談って?」 「まずは、この記事を見てくれたまへ」 「また学校にそんな本を持ってきて……ま、いいけどね」  かがみはこなたが示した記事に目をとおす。  どうやら何かのアニメ番組についての連動企画に関する記事のようだ。 「なになに……『君もアイドルに!あの小神あきらとユニットを組む大チャンス!』か。これがどうかしたの?」 「景品のところを見てよ」 「『当選者は1名。尚、残念賞として応募者の中から抽選で1,000名に番組特製Quoカードをプレゼント』……?」  かがみは何となく話が見え始めた。  このカード、絵柄はこなたの好きな絵師の書き下ろしのようだ。  これを見てこなたがする事といったら、ひとつしかないだろう。 「その残念賞がどうしても欲しくてさ、いつものように必死で応募しちゃったんだよね」 「ま、あんたならそうするでしょうね。それでまさか、当選しちゃった、とか言わないでしょうね」 「それが、そのまさかなんだよ」 「あんた、それ……マジで言ってんの?何かのネタとかじゃなくて?」  かがみの問いかけに、こなたは黙って頷く。 「えーっと……おめでとう、って言うべきかしら?」 「言わないべきだろうね。だって、望んでないもん」 「嫌なら辞退したらいいじゃない?」 「その記事は前号でさ、昨日発売の最新号には当選者の名前と応募写真がもう載ってるんだよ。辞退できると思う?」 「できなくはないでしょ?」 「あのねぇ、かがみ。本気の人達を敵に回すと怖いんだよ?今どきはネットの力もなかなか侮れないしさ」 「そうかもしれないけどさ……そもそも自業自得でしょうが。悪い話でもないんだし、いっそのことデビューしちゃえば?」 「そうはいかないんだよ」 「悲壮な顔しちゃって。あんたらしくないわよ?もしかしたら、貴重ないい体験になるかもしれないじゃないの」  とにかく元気出しなさいよ、などと言いながらかがみはこなたの背中をバシンと叩く。  こなたはケホッと軽くむせ、依然として全く元気の無い表情で話を続ける。 「それがさ、みんな――しちゃって――のは――なんだよ」 「は?何をぼそぼそ言ってんのよ」 「だからさ、みんな――しちゃって――のは――なんだよ」 「聞き取りづらいわね。もっとはっきり言ったらどうなの?」  いつものこなたらしくない、イジイジした態度にいらだちを見せるかがみ。  そんなかがみの様子にこなたは大きく溜息をつき、投げやりなカンジで言った。 「みんなの名前も勝手に使って応募しちゃって、当選したのはみゆきさんなんだよ」  ☆ 「――と、ざっとこういう訳なのよ。どうする、みゆき?ボッコボコにするなら手伝ってもいいけど?」 「い、いえ、暴力に訴える気はありませんので」 「ああ、そうなんだ。まあ、どっちにしろ私の名前を使った件で鉄拳制裁はするつもりだからいいけどね」 「でもさ、本当にどうするの、ゆきちゃん?」  柊家。現在、泉こなたの犯した罪についての裁判が開かれている。  とは言え柊かがみ裁判官によって既に極刑は確定済みなので、単なる説明と謝罪の場に過ぎないのだが。 「みゆきさん、本当にごめん!私がレアアイテムに目が眩んだばっかりに!」 「泉さん、もう謝罪は結構です。それより、泉さんの方から詳細をお聞かせ願いたいのですが」  事ここに至っても、みゆきは柔和な表情のままだ。  まさに聖人君子。  こなたにしてみれば、逆にそれが嵐の前の静けさのようで妙に怖かったりもするが。 「うん。だいたいはかがみの説明どおりで、小神あきらとデュエットデビューって企画にみゆきさんが当選しちゃったんだ」 「泉さんが私の名前も使って応募したため、でしたよね?」 「うん。今回の応募規約に1人1通ってのがあってさ、複数応募がバレたら即失格だったんだよね」 「だからって、勝手に人の名前を使っていい理由にはならんぞ?」 「でも、私もまさか当選するとは思ってなかったんだよ。ちゃんと落選するようにいろいろと細工も施したし」 「細工って、何をやったの、こなちゃん?」 「えっと、応募者プロフィールの特技の欄に『邪気眼』って書いたりとか、芸能界に入ってしたい事の欄に『寿司食い放題』って書いたりとか」 「なあ、まさかとは思うけど、そのプロフィールってのは公表されたりしないよな?」  じろりと睨むかがみの視線を避けるように、こなたはあらぬ方を向く。 「……マジかよ。最低だな、あんた」 「いや、まさか当選するとは思ってなかったし、審査員の目を引いたほうが残念賞もらえる確率あがるかなー、なんて思って……その、ごめんね?」 「かがみさん」 「ん?」 「お恥ずかしながら、時には拳で教育が必要、という結論に私も至ったのですが……泉さんの命、是非とも私に譲っていただけませんでしょうか?」 「え、ええ。いいわよ」 「わぁ、ゆきちゃんのオーラすご~い。まるで闇のようだね」 「みみみみ、みゆきさん、本当にごめんっ!今回の事は全部私が悪いと思ってるし、すごく反省してるからっ!だからッ!!」 「泉さん、世の中には謝って済むことと、済まない事があります」 「う、うん」 「そしてこれは、謝って済まない方。ただ、それだけの事なんです」 「ご、ごめん……ごめんなさいぃ!みゆきさぁん!ゆる、許して!許してよ!!何でもするから!何度でも謝るから!本当にごめ――」  床も突き抜けんばかりに土下座するこなたの肩に、ぽん、とみゆきが手を置く。  こなたが顔をあげると、みゆきはやはりいつもと変わらない表情で笑っていた。  「もうお忘れですか、泉さん?私は、もう謝罪は結構です、と最初に言いましたよね?もはや謝る事になんの意味もありません」 「う、うああ、ああああ。ゆ、ゆる、ゆゆゆ、許して、みゆきさん」 「残念です……本当に、残念です」 「たす、助けっ!かがみっ!つかさぁ!」 「自業自得よ」 「こなちゃん、私も怒ってるんだよ~?」  断末魔の叫びをあげる隙さえ無かったとかなんとか。  ☆ 「へぇ。じゃあ、企画自体無かったことにして欲しいって言われたの?」 「はい。ユニットを組むのは事務所の意向だったらしいんですが、小神あきらさん本人が突然にそれを固辞したそうなんです」 「よかったね、ゆきちゃん」 「はい。いろいろと心配していただきありがとうございました、かがみさん、つかささん」 「これでこの騒動も一件落着ってとこね」  こなたが新しいトラウマを胸に刻んだ日から3日後。  かがみとつかさは喫茶店でみゆきの話を聞いていた。   「それじゃあ、こなたとも早いうちに仲直りをしなきゃね」 「そうですね。ところで、話は変わるのですが……お2人はお寿司は好きでしょうか?」 「ええ、好きな方よ。貝はダメだけどね」 「わたしも好きだよ。でも、何で?」 「それがですね、事務所の方から迷惑料としてこのようなお食事券が贈られてきたのですが……」 「回転寿司の食事券か。ずいぶん中途半端な謝礼ね」 「こなちゃんが『お寿司食べ放題』って書いたからかな?」 「残念ながら私は生魚が苦手ですので、もしよろしければお2人に使っていただこうかと。お譲りいたしますので」 「ええっ!?いいの?」 「はい。お2人にはいろいろと相談にものっていただきましたし、特にかがみさんには借りがあります。そのお礼といっては何ですが」 「みゆきに貸しなんてあったっけ?」 「はい。とるに足らない些細な事ですので説明は省きますけど」 (たぶん、こなちゃんをボロボロにする権利を譲った事だろうな……)  今回のことで、ゆきちゃんのイメージがだいぶかわっちゃったなぁ……つかさはそう思ったが口には出さない。  藪をつついて蛇を出したくはないから。  つかさがみゆきのオーラに怯える傍らで、かがみは嬉々として食事券を受け取る。 「ありがと。本当に嬉しいわ、みゆき」 「そこまで感謝していただけると、私も嬉しいです。やはり、友人というのはこうでなくてはいけませんよね」 「大げさねえ、みゆきは」  ゆきちゃんを裏切るような真似は絶対にしないでおこう、そう誓いながらつかさは紅茶をすするのであった。  ☆  それからさらに3日後。  こなたがみゆきと無事に仲直りをし、こなたの包帯も8割方とれてきた頃のこと。  かがみとつかさは泉家に遊びに来ていた。 「かがみ、なんか血色悪いよ?」 「別にいつもと変わらないわよ」 「そーかなー?今日はつっこみの回数が少ないし、キレも悪い気がするんだけどな」 「芸人じゃあるまいし、つっこんでばかりいる方がおかしいっての」  いまいち覇気の無いかがみを見つめ、こなたは首をかしげる。  芸人以上に突っ込んでこそのかがみなのに……とか呟きながら。   「あっ!……お姉ちゃん、もしかしてお昼ごはん食べて来なかったの?」 「えぇ?つかさ、それってどういうこと?」 「あ、うん。今日の晩なんだけど、家族でお寿司を食べに行く予定なんだよ」 「ああー、なるほど。わかりやすいねぇ、かがみ様は」 「くっ……つかさ、余計なことを……」  こなたはニヨニヨ顔でかがみに擦り寄り、かがみは拳を握り締める。 「晩ご飯のために絶食するとか、今どき漫画でもそんなシチュないよ?」 「言っとくけど、完治してないからって手加減するとは思うなよ?」 「むふふー。お腹が空いたかがみなんて、顔が濡れたアンパンマンみたいなもんだよ?」 「ほーう。それは本気でヤっていいという事ですか、こなたさん?」 「甘い甘い。チョコのように甘いねぇ、かがみん。みゆきさんという強敵【とも】と闘った私は、かがみ程度に恐怖など感じないよー?」  こなたの挑発。効果はばつぐんだ。  かがみはこなたを掴もうとするが、それを予想していたこなたはひらりと身をかわして逃げる。  かがみはそれを追うために立ち上がろうとして―― 「お姉ちゃんっ!?」 「かがみっ!?」  倒れた。空腹のあまり。  かがみは薄れゆく意識の中で、神に、仏に、あらゆるものに祈りを捧げた。  どうか、どうか今日の晩は無事にお寿司を食べさせて下さいと。  ☆ 「いやぁ、一時はどうなることかと思ったよー……って、人の話聞いてる?かがみ?」 「え?も、もちろんちゃんと聞いてるわよ?」 「お姉ちゃん、さっきからボーっとしてるけど、やっぱり具合が悪いの?」 「だ、大丈夫よ。ちょっと、その、突然の事だったから、ね?」  かがみは倒れたと思ったら、すぐに復活した……のだが、何というか挙動不審になった。  それもそのはず、今のかがみはかがみであってかがみで無い。  倒れゆくかがみの祈りによって召喚された、泉かなたによって体を動かされている。  かなたが家族を想う気持ちと、かがみがお寿司を想う気持ちが、よくわからないけど、こう、なんかいいカンジに同調したっぽいのだ!    もちろん、かなたは人の身体を無断借用する気にはなれなかったので、いちおうかがみに断りをいれた。  お寿司を食べる元気を取り戻すまでの間、少しだけ身体を貸してください、と。  今度こなたの枕元にたって、かがみちゃんにケーキバイキングを奢るように言いつけますから、と。  かがみはふたつ返事でおっけーした。  もちろん、無二の親友であるこなたのために。  まあ、本当は6:4でケーキのためだけど。 「こ、こなた、ちょっといいかしら?」 「なに?」 「こっちに来て、ここへ座ってほしいの」 「別にいいけど……?」  かがみに憑依したかなたは考えた、自分は死んでしまった人間であるから正体は明かさないようにしよう。  正体を明かしても混乱を招くだけだし、いつまでも憑依できる訳ではないから結局また辛いお別れをしなければならなくなる。  同時にこう考えた。これは千載一遇の大チャンスだ、と。  今なら愛する娘の体をぎゅーっと抱きしめたり、ナデナデしたり、すりすりしたり、やりたい放題なんでもできる。  で、結果としてこうなる。 「こなたぁ!」 「うわあっ!?ちょ、かがみ!何やって!ちょっと待っ、あっ!そこは触っちゃダメっ!んっ、んあっ、かがみっ!?」 「こなたこなたこなたこなたこなたこなたーっ!!」 「うにゃああああああああ!!つかさ、見てないで助けてよ!」 「だ、大丈夫だよ、こなちゃん!私、何も見てないからっ!」  かがみの体を借りて親子のスキンシップ大爆発。もちろん、性的な含みはございませんとも。  ☆ 「ほ、本当にお母さんなの?変な冗談とかじゃなくて?」 「そうよ、こなた。本当に久しぶりね……といっても、あなたは覚えてないでしょうけど」 「かがみはどこへ行ったの?」 「どこにも行ってないわ。ちょっと眠ってるだけ。その間、私が身体を借してもらっているの」  結局、わりとあっさりバレた。  まあ、バレたものは仕方がないよね。 「でも、よく中身がかがみちゃんじゃないってわかったわね」 「んー……なんかいつものかがみと触り方が――じゃなくって、全体的な雰囲気が違うなーって思ってさ」 「すごいね、こなちゃん。私でもわからなかったのに」 「まあ、かがみは私の嫁だからね」 「ええっ!?……こ、こなたが……かがみちゃんと結婚してただなんて……そんな……まだ高校も卒業してないのに……」 「ち、違っ!今のはちょっとしたネタだよ!ジョークみたいなもんだよ、お母さん!」 「あ、あら、そうなの?」 「そうだよ。お父さんも同じ様なこと言ってたりするでしょ?主に2次元の女の子を相手にさ」 「ああ、そう言えばそうね」 「でしょ?まあ、嫁にしたいくらいその人のことが大好きだ、っていう比喩的な表現のひとつだよ」 「つまり、かがみちゃんはこなたにとってとても大事なお友達、って意味だったのかしら?」 「そうそう」 「じゃあ、つかさちゃんやみゆきちゃんもこなたのお嫁さんなの?」 「え?……ま、まあ、そうなっちゃうのかなぁ……その2人も、その、親友みたいなもんだし」  こなたは少し照れながらそう答える。  かなたinかがみは優しく微笑んで、こなたをぎゅっと抱きしめる。 「ちょ、お母さん?」 「嬉しいわ。そこまで大事に思える友達がこなたにもちゃんとできたのね」 「は、恥ずかしいよ。つかさだって見てるのに」 「大丈夫だよ、こなちゃん。私、何も見てないから」  ☆  その抱擁はただひたすらに優しくて、こなたは母のぬくもりというものをその身で実感していた。  何故だかわからないけど、とても懐かしい感じがして、優しい気持ちに満たされていく。  しかし、その気持ちはすぐに哀しさや切なさに押し流されていく。  このぬくもりが、奇跡でも無ければもう2度と得られないものであることだとわかっているから。  相反する2つの気持ちの洪水に、こなたの心はぐしゃぐしゃになってしまう。  たまらず、こなたは顔を押し付けるようにかがみの体にぎゅっとしがみつく。  今だけは母に甘えたいから。  つかさが気をきかせて部屋から出て行ってくれたため、こなたは遠慮なくかなたに甘える。  かなたはそんなこなたの頭を優しく撫でた。 「かがみちゃんといい、つかさちゃんといい、本当にいいお友達を持ったわね、こなた」 「……うん」 「お母さん、とっても安心したわ。これならこなたも寂しい想いをしなくて済むもの」 「……うん」 「泣かないで、こなた」 「……無理、だよ」 「こなたが泣くと、お母さんまで泣きたくなっちゃう。泣いたまま別れるのは嫌なの」 「そんなの……そんなの勝手だよ!わがままだよ!」  こなたはよりいっそう力を込めてその体にしがみつく。  「私はまだ、お母さんの前で泣き足りてないんだ!それだけじゃない!悪いことして叱られたり、良いことして誉められたり……まだいろいろ足りてないんだよ!」 「こなた……」 「もっと一緒にいてよ!もっといろんな私を見てよ!もっといろんなお母さんを見せてよ!なんで!なんで死んじゃったんだよぉ!!私は、私はお母さんと一緒にッ!!」 「ごめんね、こなた。本当に……ごめんなさい……」  かなたは最後まで泣かなかった。泣くわけにはいかなかった。  こなたに甘えるようなことはしたくなかったから。  本当に辛いのは遺された方だと、こなたの方だとわかっていたから。    こなたに言わせれば、これもわがままなのだろう。  むしろ一緒に泣いてほしかったのかもしれない。  しかし、このわがままだけは何があっても貫きとおさなければならない。  こなたの母親であるために。こなたを守る存在であり続けるために。  ☆ 「落ち着いたかしら、こなた?」 「うん。ありがとう、お母さん」 「そう、良かった。名残惜しいけど、そろそろお別れの時間よ。かがみちゃんに身体を返してあげなくちゃ」 「ねえ、お母さん。さっき私が泣きながら言ったことなんだけどさ、その、全部忘れてくれると嬉しいんだけどな」 「うふふ。それはできない相談だわ。こなたと過ごした貴重な時間だもの、1秒だって忘れたくないもの」 「で、でも……私、お母さんにあんな酷い言い方しちゃって……」 「気にしなくていいのよ。私達は家族なんだから」  どちらからともなく最後の抱擁を交わす。 「お母さん。私、お母さんのことが大好きかも」 「ありがとう、こなた。私もこなたのことが大好きよ。その想いだけは、誰にも負けない自信があるわ」 「私だってそうだよ」 「それじゃあね、こなた……私はいつも傍で見守っているから」 「うん。わかってるヨ」  かなたとこなたはお互いに笑顔を見せ、さよなら、と挨拶した。  そして、かなたは天を仰いで目を閉じ、その身体を持ち主であるかがみに―― 「あ、忘れてた」 「ふぇ?」 「ごめんね、こなた。そう君にどうしても言っておきたい事というか、やりたい事があるの」 「あ、うん」 「かがみちゃんには悪いけど、身体を返すのはもうちょっと待ってもらわなきゃいけないわ」  そう言ってかなたは急ぎ足で部屋を出て行った。  愛の言葉でもかわしにいったんだろうか、なんてこなたが邪推してた頃かなぁ……そうじろうが死にそうになってたのは。  結局、そうじろうが『俺の嫁』と豪語していたキャラクターに関するグッズは数分のうちに全て粉微塵になったそうな。  恐るべきは、かなたの嫉妬か、かがみの腕力か。  その日からしばらく、そうじろうはかがみを見ると小さく悲鳴をあげてしまうようになったという。  ☆ 「――っていう事があったんだって。えっと……なんかおもしろいよね、こういうのって。ええっと……みなみちゃんはどう思う?」 (ごめん、ゆたか……話しが変に長くて、ゆたかが私に何を伝えたいのかわからない……)  何とか話をふくらませようと必死に感想を求めるゆたか。それに応えられないみなみ。  答えがもらえなくてさらに必死になるゆたか。そしてやっぱり応えられないみなみ。  負のスパイラル、ここに完成。  そんな飼い主達の苦悩をよそに、チェリーは気持ちよさそうに寝ていた。
※このSSは以下のお題をいただいてつくられています  ・色んな人に憑依するかなた  ・小神あきらとデュエットデビュー企画に応募して当たる  ・みゆきのイメチェン  ・これだけは誰にも負けない  ・かがみ、いざ回転寿司へ  ・みゆきが邪気眼  ・みなみとゆたかとチェリーで散歩 「チェリー、行くよ……チェリー?」  みなみがリードを強めに引っ張るが、チェリーは全く動こうとしない。  わふぅ、と眠たげにひと鳴きしたかと思うと、その眼を閉じてしまう。 「チェリーちゃん、眠たいのかなぁ?」 「ごめんね、ゆたか。チェリーが私の言うことをきかないせいで」 「ううん。気にしなくていいよ、みなみちゃん」 「でも、この調子だと帰るのが遅くなって……」 「今日はお泊りだから大丈夫だよ。それに、私が原因かもしれないし」  いつもなら散歩の途中で休憩はしないのだが、今日はゆたかも一緒なので休み休み歩いていた。  散歩コースの折り返し地点でも長い休憩をとったところ、そこからチェリーは動こうとしなくなった。  私の歩調に合わせるのが疲れたんじゃないだろうか、なんてゆたかは考える。 「チェリーちゃんが起きるまで、もうちょっと休憩していこうよ」 「……うん。ありがとう、ゆたか」  チェリーも30分ほど休憩すればまた歩き始めるだろう。  そう考えた2人は、もう少し休憩をとることにした。  近くの自動販売機で飲み物を買ってきて、おしゃべりを始める。  1時間経ち、2時間経ち……チェリーは一向に起きようとしない。  2人とも別にこれといった用事は控えてないので、その点に関しては何の問題も無い。  ただ、これほど長い時間同じ場所で話し続けていると、さすがに話題も尽きてくる。  徐々に口数が減っていき、それに併せてみなみの表情も沈んでいく。 「……本当にごめん、ゆたか。こんな事になるなんて」 「謝らなくていいよ、みなみちゃん!」  ゆたかは何とか場を明るくしようと、できるだけ時間が稼げそうな話題を必死で探した。  そして、つい先日こなたが話してくれた、とある話を思い出した。 「あっ、そうだ!ねえ、みなみちゃん。これは、こなたお姉ちゃんがしてくれた話なんだけどさ――」  ☆ 「かがみ、ちょっと相談があるんだけど」 「あんたがそんな浮かない顔するなんて珍しいわね。それで、相談って?」 「まずは、この記事を見てくれたまへ」 「また学校にそんな本を持ってきて……ま、いいけどね」  かがみはこなたが示した記事に目をとおす。  どうやら何かのアニメ番組についての連動企画に関する記事のようだ。 「なになに……『君もアイドルに!あの小神あきらとユニットを組む大チャンス!』か。これがどうかしたの?」 「景品のところを見てよ」 「『当選者は1名。尚、残念賞として応募者の中から抽選で1,000名に番組特製Quoカードをプレゼント』……?」  かがみは何となく話が見え始めた。  このカード、絵柄はこなたの好きな絵師の書き下ろしのようだ。  これを見てこなたがする事といったら、ひとつしかないだろう。 「その残念賞がどうしても欲しくてさ、いつものように必死で応募しちゃったんだよね」 「ま、あんたならそうするでしょうね。それでまさか、当選しちゃった、とか言わないでしょうね」 「それが、そのまさかなんだよ」 「あんた、それ……マジで言ってんの?何かのネタとかじゃなくて?」  かがみの問いかけに、こなたは黙って頷く。 「えーっと……おめでとう、って言うべきかしら?」 「言わないべきだろうね。だって、望んでないもん」 「嫌なら辞退したらいいじゃない?」 「その記事は前号でさ、昨日発売の最新号には当選者の名前と応募写真がもう載ってるんだよ。辞退できると思う?」 「できなくはないでしょ?」 「あのねぇ、かがみ。本気の人達を敵に回すと怖いんだよ?今どきはネットの力もなかなか侮れないしさ」 「そうかもしれないけどさ……そもそも自業自得でしょうが。悪い話でもないんだし、いっそのことデビューしちゃえば?」 「そうはいかないんだよ」 「悲壮な顔しちゃって。あんたらしくないわよ?もしかしたら、貴重ないい体験になるかもしれないじゃないの」  とにかく元気出しなさいよ、などと言いながらかがみはこなたの背中をバシンと叩く。  こなたはケホッと軽くむせ、依然として全く元気の無い表情で話を続ける。 「それがさ、みんな――しちゃって――のは――なんだよ」 「は?何をぼそぼそ言ってんのよ」 「だからさ、みんな――しちゃって――のは――なんだよ」 「聞き取りづらいわね。もっとはっきり言ったらどうなの?」  いつものこなたらしくない、イジイジした態度にいらだちを見せるかがみ。  そんなかがみの様子にこなたは大きく溜息をつき、投げやりなカンジで言った。 「みんなの名前も勝手に使って応募しちゃって、当選したのはみゆきさんなんだよ」  ☆ 「――と、ざっとこういう訳なのよ。どうする、みゆき?ボッコボコにするなら手伝ってもいいけど?」 「い、いえ、暴力に訴える気はありませんので」 「ああ、そうなんだ。まあ、どっちにしろ私の名前を使った件で鉄拳制裁はするつもりだからいいけどね」 「でもさ、本当にどうするの、ゆきちゃん?」  柊家。現在、泉こなたの犯した罪についての裁判が開かれている。  とは言え柊かがみ裁判官によって既に極刑は確定済みなので、単なる説明と謝罪の場に過ぎないのだが。 「みゆきさん、本当にごめん!私がレアアイテムに目が眩んだばっかりに!」 「泉さん、もう謝罪は結構です。それより、泉さんの方から詳細をお聞かせ願いたいのですが」  事ここに至っても、みゆきは柔和な表情のままだ。  まさに聖人君子。  こなたにしてみれば、逆にそれが嵐の前の静けさのようで妙に怖かったりもするが。 「うん。だいたいはかがみの説明どおりで、小神あきらとデュエットデビューって企画にみゆきさんが当選しちゃったんだ」 「泉さんが私の名前も使って応募したため、でしたよね?」 「うん。今回の応募規約に1人1通ってのがあってさ、複数応募がバレたら即失格だったんだよね」 「だからって、勝手に人の名前を使っていい理由にはならんぞ?」 「でも、私もまさか当選するとは思ってなかったんだよ。ちゃんと落選するようにいろいろと細工も施したし」 「細工って、何をやったの、こなちゃん?」 「えっと、応募者プロフィールの特技の欄に『邪気眼』って書いたりとか、芸能界に入ってしたい事の欄に『寿司食い放題』って書いたりとか」 「なあ、まさかとは思うけど、そのプロフィールってのは公表されたりしないよな?」  じろりと睨むかがみの視線を避けるように、こなたはあらぬ方を向く。 「……マジかよ。最低だな、あんた」 「いや、まさか当選するとは思ってなかったし、審査員の目を引いたほうが残念賞もらえる確率あがるかなー、なんて思って……その、ごめんね?」 「かがみさん」 「ん?」 「お恥ずかしながら、時には拳で教育が必要、という結論に私も至ったのですが……泉さんの命、是非とも私に譲っていただけませんでしょうか?」 「え、ええ。いいわよ」 「わぁ、ゆきちゃんのオーラすご~い。まるで闇のようだね」 「みみみみ、みゆきさん、本当にごめんっ!今回の事は全部私が悪いと思ってるし、すごく反省してるからっ!だからッ!!」 「泉さん、世の中には謝って済むことと、済まない事があります」 「う、うん」 「そしてこれは、謝って済まない方。ただ、それだけの事なんです」 「ご、ごめん……ごめんなさいぃ!みゆきさぁん!ゆる、許して!許してよ!!何でもするから!何度でも謝るから!本当にごめ――」  床も突き抜けんばかりに土下座するこなたの肩に、ぽん、とみゆきが手を置く。  こなたが顔をあげると、みゆきはやはりいつもと変わらない表情で笑っていた。  「もうお忘れですか、泉さん?私は、もう謝罪は結構です、と最初に言いましたよね?もはや謝る事になんの意味もありません」 「う、うああ、ああああ。ゆ、ゆる、ゆゆゆ、許して、みゆきさん」 「残念です……本当に、残念です」 「たす、助けっ!かがみっ!つかさぁ!」 「自業自得よ」 「こなちゃん、私も怒ってるんだよ~?」  断末魔の叫びをあげる隙さえ無かったとかなんとか。  ☆ 「へぇ。じゃあ、企画自体無かったことにして欲しいって言われたの?」 「はい。ユニットを組むのは事務所の意向だったらしいんですが、小神あきらさん本人が突然にそれを固辞したそうなんです」 「よかったね、ゆきちゃん」 「はい。いろいろと心配していただきありがとうございました、かがみさん、つかささん」 「これでこの騒動も一件落着ってとこね」  こなたが新しいトラウマを胸に刻んだ日から3日後。  かがみとつかさは喫茶店でみゆきの話を聞いていた。   「それじゃあ、こなたとも早いうちに仲直りをしなきゃね」 「そうですね。ところで、話は変わるのですが……お2人はお寿司は好きでしょうか?」 「ええ、好きな方よ。貝はダメだけどね」 「わたしも好きだよ。でも、何で?」 「それがですね、事務所の方から迷惑料としてこのようなお食事券が贈られてきたのですが……」 「回転寿司の食事券か。ずいぶん中途半端な謝礼ね」 「こなちゃんが『お寿司食べ放題』って書いたからかな?」 「残念ながら私は生魚が苦手ですので、もしよろしければお2人に使っていただこうかと。お譲りいたしますので」 「ええっ!?いいの?」 「はい。お2人にはいろいろと相談にものっていただきましたし、特にかがみさんには借りがあります。そのお礼といっては何ですが」 「みゆきに貸しなんてあったっけ?」 「はい。とるに足らない些細な事ですので説明は省きますけど」 (たぶん、こなちゃんをボロボロにする権利を譲った事だろうな……)  今回のことで、ゆきちゃんのイメージがだいぶかわっちゃったなぁ……つかさはそう思ったが口には出さない。  藪をつついて蛇を出したくはないから。  つかさがみゆきのオーラに怯える傍らで、かがみは嬉々として食事券を受け取る。 「ありがと。本当に嬉しいわ、みゆき」 「そこまで感謝していただけると、私も嬉しいです。やはり、友人というのはこうでなくてはいけませんよね」 「大げさねえ、みゆきは」  ゆきちゃんを裏切るような真似は絶対にしないでおこう、そう誓いながらつかさは紅茶をすするのであった。  ☆  それからさらに3日後。  こなたがみゆきと無事に仲直りをし、こなたの包帯も8割方とれてきた頃のこと。  かがみとつかさは泉家に遊びに来ていた。 「かがみ、なんか血色悪いよ?」 「別にいつもと変わらないわよ」 「そーかなー?今日はつっこみの回数が少ないし、キレも悪い気がするんだけどな」 「芸人じゃあるまいし、つっこんでばかりいる方がおかしいっての」  いまいち覇気の無いかがみを見つめ、こなたは首をかしげる。  芸人以上に突っ込んでこそのかがみなのに……とか呟きながら。   「あっ!……お姉ちゃん、もしかしてお昼ごはん食べて来なかったの?」 「えぇ?つかさ、それってどういうこと?」 「あ、うん。今日の晩なんだけど、家族でお寿司を食べに行く予定なんだよ」 「ああー、なるほど。わかりやすいねぇ、かがみ様は」 「くっ……つかさ、余計なことを……」  こなたはニヨニヨ顔でかがみに擦り寄り、かがみは拳を握り締める。 「晩ご飯のために絶食するとか、今どき漫画でもそんなシチュないよ?」 「言っとくけど、完治してないからって手加減するとは思うなよ?」 「むふふー。お腹が空いたかがみなんて、顔が濡れたアンパンマンみたいなもんだよ?」 「ほーう。それは本気でヤっていいという事ですか、こなたさん?」 「甘い甘い。チョコのように甘いねぇ、かがみん。みゆきさんという強敵【とも】と闘った私は、かがみ程度に恐怖など感じないよー?」  こなたの挑発。効果はばつぐんだ。  かがみはこなたを掴もうとするが、それを予想していたこなたはひらりと身をかわして逃げる。  かがみはそれを追うために立ち上がろうとして―― 「お姉ちゃんっ!?」 「かがみっ!?」  倒れた。空腹のあまり。  かがみは薄れゆく意識の中で、神に、仏に、あらゆるものに祈りを捧げた。  どうか、どうか今日の晩は無事にお寿司を食べさせて下さいと。  ☆ 「いやぁ、一時はどうなることかと思ったよー……って、人の話聞いてる?かがみ?」 「え?も、もちろんちゃんと聞いてるわよ?」 「お姉ちゃん、さっきからボーっとしてるけど、やっぱり具合が悪いの?」 「だ、大丈夫よ。ちょっと、その、突然の事だったから、ね?」  かがみは倒れたと思ったら、すぐに復活した……のだが、何というか挙動不審になった。  それもそのはず、今のかがみはかがみであってかがみで無い。  倒れゆくかがみの祈りによって召喚された、泉かなたによって体を動かされている。  かなたが家族を想う気持ちと、かがみがお寿司を想う気持ちが、よくわからないけど、こう、なんかいいカンジに同調したっぽいのだ!    もちろん、かなたは人の身体を無断借用する気にはなれなかったので、いちおうかがみに断りをいれた。  お寿司を食べる元気を取り戻すまでの間、少しだけ身体を貸してください、と。  今度こなたの枕元にたって、かがみちゃんにケーキバイキングを奢るように言いつけますから、と。  かがみはふたつ返事でおっけーした。  もちろん、無二の親友であるこなたのために。  まあ、本当は6:4でケーキのためだけど。 「こ、こなた、ちょっといいかしら?」 「なに?」 「こっちに来て、ここへ座ってほしいの」 「別にいいけど……?」  かがみに憑依したかなたは考えた、自分は死んでしまった人間であるから正体は明かさないようにしよう。  正体を明かしても混乱を招くだけだし、いつまでも憑依できる訳ではないから結局また辛いお別れをしなければならなくなる。  同時にこう考えた。これは千載一遇の大チャンスだ、と。  今なら愛する娘の体をぎゅーっと抱きしめたり、ナデナデしたり、すりすりしたり、やりたい放題なんでもできる。  で、結果としてこうなる。 「こなたぁ!」 「うわあっ!?ちょ、かがみ!何やって!ちょっと待っ、あっ!そこは触っちゃダメっ!んっ、んあっ、かがみっ!?」 「こなたこなたこなたこなたこなたこなたーっ!!」 「うにゃああああああああ!!つかさ、見てないで助けてよ!」 「だ、大丈夫だよ、こなちゃん!私、何も見てないからっ!」  かがみの体を借りて親子のスキンシップ大爆発。もちろん、性的な含みはございませんとも。  ☆ 「ほ、本当にお母さんなの?変な冗談とかじゃなくて?」 「そうよ、こなた。本当に久しぶりね……といっても、あなたは覚えてないでしょうけど」 「かがみはどこへ行ったの?」 「どこにも行ってないわ。ちょっと眠ってるだけ。その間、私が身体を借してもらっているの」  結局、わりとあっさりバレた。  まあ、バレたものは仕方がないよね。 「でも、よく中身がかがみちゃんじゃないってわかったわね」 「んー……なんかいつものかがみと触り方が――じゃなくって、全体的な雰囲気が違うなーって思ってさ」 「すごいね、こなちゃん。私でもわからなかったのに」 「まあ、かがみは私の嫁だからね」 「ええっ!?……こ、こなたが……かがみちゃんと結婚してただなんて……そんな……まだ高校も卒業してないのに……」 「ち、違っ!今のはちょっとしたネタだよ!ジョークみたいなもんだよ、お母さん!」 「あ、あら、そうなの?」 「そうだよ。お父さんも同じ様なこと言ってたりするでしょ?主に2次元の女の子を相手にさ」 「ああ、そう言えばそうね」 「でしょ?まあ、嫁にしたいくらいその人のことが大好きだ、っていう比喩的な表現のひとつだよ」 「つまり、かがみちゃんはこなたにとってとても大事なお友達、って意味だったのかしら?」 「そうそう」 「じゃあ、つかさちゃんやみゆきちゃんもこなたのお嫁さんなの?」 「え?……ま、まあ、そうなっちゃうのかなぁ……その2人も、その、親友みたいなもんだし」  こなたは少し照れながらそう答える。  かなたinかがみは優しく微笑んで、こなたをぎゅっと抱きしめる。 「ちょ、お母さん?」 「嬉しいわ。そこまで大事に思える友達がこなたにもちゃんとできたのね」 「は、恥ずかしいよ。つかさだって見てるのに」 「大丈夫だよ、こなちゃん。私、何も見てないから」  ☆  その抱擁はただひたすらに優しくて、こなたは母のぬくもりというものをその身で実感していた。  何故だかわからないけど、とても懐かしい感じがして、優しい気持ちに満たされていく。  しかし、その気持ちはすぐに哀しさや切なさに押し流されていく。  このぬくもりが、奇跡でも無ければもう2度と得られないものであることだとわかっているから。  相反する2つの気持ちの洪水に、こなたの心はぐしゃぐしゃになってしまう。  たまらず、こなたは顔を押し付けるようにかがみの体にぎゅっとしがみつく。  今だけは母に甘えたいから。  つかさが気をきかせて部屋から出て行ってくれたため、こなたは遠慮なくかなたに甘える。  かなたはそんなこなたの頭を優しく撫でた。 「かがみちゃんといい、つかさちゃんといい、本当にいいお友達を持ったわね、こなた」 「……うん」 「お母さん、とっても安心したわ。これならこなたも寂しい想いをしなくて済むもの」 「……うん」 「泣かないで、こなた」 「……無理、だよ」 「こなたが泣くと、お母さんまで泣きたくなっちゃう。泣いたまま別れるのは嫌なの」 「そんなの……そんなの勝手だよ!わがままだよ!」  こなたはよりいっそう力を込めてその体にしがみつく。  「私はまだ、お母さんの前で泣き足りてないんだ!それだけじゃない!悪いことして叱られたり、良いことして誉められたり……まだいろいろ足りてないんだよ!」 「こなた……」 「もっと一緒にいてよ!もっといろんな私を見てよ!もっといろんなお母さんを見せてよ!なんで!なんで死んじゃったんだよぉ!!私は、私はお母さんと一緒にッ!!」 「ごめんね、こなた。本当に……ごめんなさい……」  かなたは最後まで泣かなかった。泣くわけにはいかなかった。  こなたに甘えるようなことはしたくなかったから。  本当に辛いのは遺された方だと、こなたの方だとわかっていたから。    こなたに言わせれば、これもわがままなのだろう。  むしろ一緒に泣いてほしかったのかもしれない。  しかし、このわがままだけは何があっても貫きとおさなければならない。  こなたの母親であるために。こなたを守る存在であり続けるために。  ☆ 「落ち着いたかしら、こなた?」 「うん。ありがとう、お母さん」 「そう、良かった。名残惜しいけど、そろそろお別れの時間よ。かがみちゃんに身体を返してあげなくちゃ」 「ねえ、お母さん。さっき私が泣きながら言ったことなんだけどさ、その、全部忘れてくれると嬉しいんだけどな」 「うふふ。それはできない相談だわ。こなたと過ごした貴重な時間だもの、1秒だって忘れたくないもの」 「で、でも……私、お母さんにあんな酷い言い方しちゃって……」 「気にしなくていいのよ。私達は家族なんだから」  どちらからともなく最後の抱擁を交わす。 「お母さん。私、お母さんのことが大好きかも」 「ありがとう、こなた。私もこなたのことが大好きよ。その想いだけは、誰にも負けない自信があるわ」 「私だってそうだよ」 「それじゃあね、こなた……私はいつも傍で見守っているから」 「うん。わかってるヨ」  かなたとこなたはお互いに笑顔を見せ、さよなら、と挨拶した。  そして、かなたは天を仰いで目を閉じ、その身体を持ち主であるかがみに―― 「あ、忘れてた」 「ふぇ?」 「ごめんね、こなた。そう君にどうしても言っておきたい事というか、やりたい事があるの」 「あ、うん」 「かがみちゃんには悪いけど、身体を返すのはもうちょっと待ってもらわなきゃいけないわ」  そう言ってかなたは急ぎ足で部屋を出て行った。  愛の言葉でもかわしにいったんだろうか、なんてこなたが邪推してた頃かなぁ……そうじろうが死にそうになってたのは。  結局、そうじろうが『俺の嫁』と豪語していたキャラクターに関するグッズは数分のうちに全て粉微塵になったそうな。  恐るべきは、かなたの嫉妬か、かがみの腕力か。  その日からしばらく、そうじろうはかがみを見ると小さく悲鳴をあげてしまうようになったという。  ☆ 「――っていう事があったんだって。えっと……なんかおもしろいよね、こういうのって。ええっと……みなみちゃんはどう思う?」 (ごめん、ゆたか……話しが変に長くて、ゆたかが私に何を伝えたいのかわからない……)  何とか話をふくらませようと必死に感想を求めるゆたか。それに応えられないみなみ。  答えがもらえなくてさらに必死になるゆたか。そしてやっぱり応えられないみなみ。  負のスパイラル、ここに完成。  そんな飼い主達の苦悩をよそに、チェリーは気持ちよさそうに寝ていた。

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