ID:Oj > fY060氏:柊かがみ法律事務所──著作権の相続問題

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 秋葉原に居を構える柊かがみ法律事務所。  その日は日曜日であり、かがみは住居スペースでくつろいでいた。  ピンポーン。  住居側のインターホンが鳴り響いた。 「はーい」  かがみが、ドアを開けると、 「やふー、かがみん。ちょっと休ませてぇ~」  五十代になっても相変わらずの親友泉こなたの姿があった。  買い込んだグッズや本が詰まった紙袋を両手いっぱいに握っている。 「はいはい」  こなたは、づかづかと部屋に入るとソファーの上に寝転がった。  まるで、自分の家であるかのようなくつろぎぶりだ。 「かがみは今日は彼氏とデートじゃないんだ?」 「彼氏いうな」  かがみとしては、五十代にもなって結婚を前提としない交際をだらだらと続けていること自体が恥ずかしいので、あまり言われたくないのだが、それを承知でわざと突っ込んでくるのがこなたである。 「いいじゃん。気持ちを若く持つのはいいことだよ」 「あんたみたいに、五十代にもなって子供っぽいとかは言われたくないわね」  かがみが、飲み物と菓子を出してきた。  だらだらと雑談が続く。  そして、 「ところで、かがみにちょっと相談があるんだけど。私、法律のこととかよく分かんないから」 「相談料いただくわよ」 「かがみんのケチ。彼氏の悪いとこがうつったんじゃないの?」 「あの男ほどがめつくはないわよ。ただ、ボランティアで仕事はしないことにしてるの」  生活の糧を得るための仕事でボランティアしまくってたら、そのうち破産者として官報に名を連ねることになりかねない。  もともと情に流されやすい性格であるから、その点は若いころから自分に言い聞かせてきたところでもある。  それに、必要以上に金にがっつくつもりはないが、仕事に対する正当な評価と対価ということには拘りがある。なんだかんだいっても、かがみは弁護士という仕事にプライドをもっているのだ。 「む~」 「そんな顔しても、駄目よ」 「ちっ。分かったよ。あとで払うから」 「よろしい」 「死んだお父さんの小説なんだけどさ」  こなたの父そうじろうは、天寿をまっとうして数ヶ月前に亡くなっていた。 「出版社からの印税が私のところに来るんだよね。自分でも稼いでるから正直いっていらないし、お父さんから相続するのは、家と土地とグッズとかだけで充分なんだよ。お父さんの銀行の貯金も相続税払った残りを全部寄付しちゃおうかなぁと思っているし」  趣味には執着しても、金そのものには執着しないこなたらしい言い分だった。 「だから、お父さんの小説も、ネットに載せるのもコピーするのも改変するのも金儲けするのもなんでも勝手にやってくれぇ~ってやつ……ええっとなんだっけ……?」 「クリエイティブコモンズ」  専門家のかがみが、そう即答した。 「そうそう。それにしたいんだよね」 「やってやれないことはないけど、いろいろと手順は必要よ。まず、基本的なことから説明するけど……」 以下、かがみの解説 *****************  一般に(広義の)「著作権」といわれるものを、日本の著作権法では、二つに分けている(著作権法17条)。  著作者人格権→公表権、氏名表示権、同一性保持権(著作権法18条~20条)。  (狭義の)著作権→複製権その他の財産的権利(著作権法21条以下)。  著作者人格権は、一身専属権なので、譲渡も相続もできない(著作権法59条、民法896条)。  よって、著作者人格「権」は、著作者死亡時点で消滅する。  しかし、著作物を提供・提示する者は、死亡著作者の人格的「利益」を保護する義務を負う(著作権法60条)。  著作者の遺族は、著作権法60条の義務を守らせるための差止請求権等を有する(著作権法116条)。  つまり、「遺族は、死亡著作者の著作者人格権は相続しないけれども、その人格的利益を守るための差止請求権等はもっている」という何だか無駄に複雑な状況になっている。  で、クリエイティブコモンズのライセンスの種類の中には、著作者人格権に関わるライセンス(氏名表示権や同一性保持権にかかわる条件を設定するもの)もあるため、遺族がその部分を勝手に設定していいものかどうかという点が問題になる。  著作権法の文言からすれば、死亡著作者の人格的「利益」を保護するための遺族の権利には、その人格的利益を勝手に放棄する権利は含まれない。  よって、遺族が死亡著作者の著作物につき、「著作者名表示を要しない」とか「改変は自由」とかいった条件を定めるクリエイティブコモンズのライセンスを勝手に設定することはできない(遺言状にその旨記載されていれば、また話は別だが)。  無理やり設定したとしても、それは著作権法116条による差止請求権等の不行使を宣言するものにすぎず、もはや存在しない著作者人格「権」や勝手に放棄できない死亡著作者の人格的「利益」に関する条件の設定ではないということになる。  逆に、遺族が「著作者名表示を要する」とか「改変は不可」といった条件を定めるライセンスを勝手に設定した場合は、それは著作権法116条による差止請求権等を行使するぞという宣言として受け取るべきだろう。あくまで、もはや存在しない著作者人格「権」に基づく条件設定ではない。  財産的権利としての(狭義の)著作権の一つとして、複製権がある(著作権法21条)。  複製権者は、他者に出版権を設定する権利を有する(著作権法79条)。  出版権者は、出版権の目的である著作物を複製する権利を専有する(著作権法80条)。  よって、出版権を設定した場合は、複製権者自身の複製権行使は制限される(著作権法80条)。  財産的権利としての(狭義の)著作権は、譲渡も相続も可能(著作権法61条、民法896条)。  よって、複製権は、譲渡・相続可能。  したがって、複製権に付随する「出版権を設定する権利」も、譲渡・相続可能。  また、死亡著作者が出版社と締結していた出版権設定契約に基づく債権債務は、相続人に相続される(民法896条)。  で、出版権設定契約の内容としては、著作権使用料(いわゆる印税)の支払いに関する規定、有効期間の規定(これが著作権法83条にいう出版権の存続期間になる)、期間満了の一定期間前までに通知がない限り同一期間(または別に定める期間)の有効期間が設定されたものとして契約が自動更新される旨の規定をおくのが、一般的である。  よって、相続を受けた遺族は、この契約に基づく印税を支払いを受ける権利を承継するとともに、出版社に出版権を独占させる義務及び複製権者自身の複製権行使制限の義務(著作権法80条)も承継する。  つまり、この契約の有効期間中は、「複製は自由」という条件のクリエイティブコモンズのライセンス設定は、契約違反となるため、できないということになる。  したがって、更新しませんという通知を予めしておいて出版権設定契約の有効期間が切れるまで待つか、出版社と交渉して出版権設定契約を合意解除するか、いずれかの処置が必要になる。 ***************** 以上、解説終わり。 「……というわけよ。分かった?」 「分かりません」 「即答かよ」 「その辺の難しいことは、かがみが何とかしてよ」 「報酬もらうわよ」 「分かったよ」 「じゃあ、まず、出版社とおじさんの間で結ばれた契約書を全部探してきて。有効期間を確認しなきゃならないから」 「うーん、どこにあったかな……? お父さんってその辺適当だったし」 「おまえもだろ?」 「まあね」  ラノベ作家であるこなたも、出版社とはその手の契約書をかわしているのだが、どこに仕舞ったか忘れてるものも多かった。 「トラブルがあったときにまず大事なのは、契約書よ。ちゃんとしときなさいよね」 「かがみ様のお言葉は、肝に銘じておきます」  その発祥から何十年もたった今では、クリエイティブコモンズのライセンスの種類も増えている。日本の著作権法にあわせた、相続した著作権にも設定できるクリエイティブコモンズのライセンスも存在していた。そのせいで、発祥当初の意図に反して、複雑になっている部分もあるが。  かがみとこなたで詳細を詰めた結果、ライセンスは以下のとおりにすることになった。  「複製・頒布・公衆送信自由、商用利用可(著作権使用料はとらない)、著作者名表示義務付け、改変可(ただし、差止請求権等を留保)、以上の条件は複製物・改変物・二次著作物にも継承。ただし、著作者名表示義務付けと改変にかかる条件は、著作者本人による設定ではなく、遺族による著作権法第百十六条に基づく諸権利行使を留保する宣言である」  後日、二人で出版社をまわって、交渉を行なった。  出版社にとっては、印税を払わなくてよくなる分だけ儲けは増えるが、出版権を独占できなくなるため他社も同じ小説の本を勝手に販売できるようになり競争が生じる可能性もあるという点で、判断に迷う部分があった。また、ネット上での配信も自由になるため、本が売れなくなる可能性もある。  出版権設定契約の合意解除に応じてくれた出版社と、最後まで応じてくれなかった出版社とに分かれたのは、当然だろう。  合意解除に応じなかった出版社に対しては、出版権設定契約の更新はしない旨の通知書を内容証明郵便で送付する。あとは、契約の有効期間が経過するまで待つだけだ。  出版権については公的な登録制度(著作権法88条)があるので、契約を解除した件については、消滅の登録手続も忘れずにしておく。  ここまで強気な交渉・行動が可能だったのは、こなた自身がラノベ作家として売れっ子であり出版社に対して立場が強いことと、かがみが著作権分野では日本でも五本の指には入る敏腕弁護士であることがあった。二人がかりで来られたら、出版社としては抵抗しようがない。  その後。  出版社側の対応は、豪華装丁版といった形で付加価値をつけて売るパターンと、費用が安価ですむ文庫にして大量に売りさばく薄利多売パターンに分かれた。  他社で出版している小説を自分のとこでも出版するという事例はなかった。他社の縄張りは侵害しないという暗黙の了解が、業界にはあるのかもしれない。ただ、これも今後絶版本とかが出てくれば、他社が絶版した小説を自分のところで改めて出してみるということは起こりうるだろう。  ネット上でいち早く対応したのは、やはりというべきか、青空文庫だった。  著作権法上の著作権保護期間満了前の文芸作品のネット無料掲載はまだまだ珍しいため、ネット上での反応もかなりあった。  こなたのブログにコメントが寄せられたり、2ちゃんねるの文芸版で話題になったりと、その反応の意外な大きさにこなた自身も驚いたぐらいだった。 終わり *注意事項  「その発祥から何十年もたった今では、クリエイティブコモンズのライセンスの種類も増えている」という設定はフィクションです。よって、設定したライセンスの内容も架空のものですのでご了承ください。  解説部分は、私の解釈ですので細かい部分で間違っている可能性があります。基本的な法理論と条文の文言に基づく解釈をしてるつもりなので、大きく外れてはないと思いますが。  出版権設定契約の内容については、社団法人日本書籍出版協会が配布している「出版契約書雛型」によってます。  著作者死亡後の著作者人格権の無駄に複雑な状況は、以下のaとbの整合を無理やりとった結果と思われます。  a日本も加盟している「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」第六条の二(2)   →著作者人格権は「著作者の死後においても、少なくとも財産的権利が消滅するまで存続し、保護が要求される国の法令により資格を与えられる人又は団体によつて行使される」としている。  b法理論上の問題   ・死んだ人間は権利主体たりえない。   ・一身専属権は相続できない。   ・よって、一身専属権は、原権利者が死亡すれば、権利主体が不在になる。   ・権利主体不在の権利は観念不能。   ・よって、一身専属権は、原権利者が死亡すれば、消滅するしかない。   ・著作者人格権は一身専属権である。   ・よって、著作者人格権は、原権利者が死亡すれば、消滅するしかない。

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