ID:ZT2Mmiw0氏:青い髪の天使が見守る父娘

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あるところに一組の父娘(おやこ)がおりました。  父は妻を早くに亡くしていました。  父はとても悲しみました。それこそ死んでしまおうかと考えてしまうほどに。  しかし、そうはしませんでした。  なぜなら、妻が残した宝を守るため、妻が残した命を育てるため、死ぬわけにはいかなかったのです。  これはそんな父娘の物語。                                       青い髪の天使が見守る父娘 「お父さ~ん、早く早く。」 「こら、走っちゃだめだぞ。」  妻が亡くなってから5年後、父娘は石川県の寺にある妻の墓に墓参りに来ていた。娘は少々はしゃいでいるようだった。娘からすれば、墓参りというより遠出のお出かけといった感じのようだ。埼玉県から来たのだから当然といえば当然かもしれない。その娘は死んだ妻によく似ていた。違う所といえば、髪型と左目下の泣き黒子の有無くらいだろうか。きっと妻のように可愛く育つだろう。…容姿が。父は妻の墓の前に立つと花を添え、目を瞑り、手を合わせた。すると、横ではしゃいでいた娘も慌て父と同じように手を合わせた。 (久しぶりだな。俺も娘も元気にやってるよ。心配いらないぜ。でも・・・)  父は目を開けて目の前の妻の墓を見た。そして、思い出していた。妻が死んだ日のことを。最後に妻はなんと言っただろうか。 “幸せだったよ”  そうだ。妻はそう言って笑って死んだっけ。それを思い出す度に考えてしまう。あの言葉は本当だったのだろうか、と。今となってはその真偽を確かめるすべはないのだが。 「お父さん、どうしたの?」  いつの間にやら目を開けていた娘が父の顔を覗き込んでいた。 「なんでもないよ。」  そう言うと父は娘の頭に手を置き、撫でていた。 「ふ~ん。」  娘はまだ少し納得ができなかったのか、首を少し傾けた。そこへ、 「あ、おじいちゃん!」  花と水の入った入れ物を持った男性が現れた。娘はおじいちゃんと呼ぶその男性の元に駆け寄った。男性は花を持ち替えて娘の頭を撫でていた。そして、墓の前まで歩いて来た。 「お義父さん、どちらに行かれてたんですか?」 「ん?ああ、ちょっとここの住職さんと話しにな。」  そう言うと男性は墓に水を掻けて花を墓に添えた。しかし、花を添えた墓はすでに花が置いてある墓ではなく、その隣の墓だった。男性は墓の前で目を瞑り、手を合わせた。 「久しぶりだな、かなた、それにこなた。元気にやってるか?って、死んでるのに元気もないか。俺たちは元気にやってるよ。今日はその報告に来たんだ。」  そう言うと男性、泉そうじろうは目を開けるのだった。 「カエルさ~ん。」  娘は近くの水場で遊んでいた。その様子を父と祖父は石椅子に座って見ていた。二人の間には少々重い空気が流れていた。 「あれから10年か・・・。」 「5年ですよ、お義父さん。」 「5年も10年もそう変わらんさ。」 「いや、5年も違ったら小学生も高校生になっちゃいますよ。」 「・・・うまいこと言うね。」 「元ネタありますけどね。」 「・・・」 「・・・」 「まさか墓石でドミノ倒ししよう、なんてこと考えてないですよね?」 「い、いくら俺でもそんな罰当たりなことせんよ。」 「そうですよね。」 「・・・」 「・・・」 ((まずい、話題が見つかんない・・・))  二人はその場の空気を変えようとしているようだが、なかなかうまくいかなかった。 「こなたは」 「?」  そうじろうは不意に出た娘の名前にピクッと反応した。 「こなたはあの時、幸せだったよって言ってくれました。でも、時々考えるんです。あの言葉は本当だったのだろうか、と。」  そう言うと男はその時のことを思い出していた。妻が、こなたが死んでいった日のことを。 「こなた!しっかりしろ、こなた!!」  こなたは入院していた。理由はこなたの母、かなたと同じであった。医者曰く、遺伝性のものだったらしい。その時、同時に聞かされていた。もうそんなに長くないことを。そして、その日が・・・。 「こなた!!」 「もぉ、そんなに大声だしちゃだめだよ。ここ病院だよ?」  こなたはベッドの上で弱々しくそう答えた。こなたの周りにはその男の他に父・そうじろう、そして医者がいた。こなたには心電図が取り付けられていた。その心電図は脈が弱いことを示していた。 「頼むこなた、死なないでくれ!」 「大丈夫だよ、後のことはゆい姉さんやかがみたちに頼んであるから心配いらないよ・・・」  こなたは笑いながら答えた。しかし、口元は笑っていたが目は笑っていなかった。 「違う!そうじゃない!俺はこなたに、」 「お父さん。」 「な、なんだ?」 「私、先にお母さんのところに行ってくるね。お母さん、一人じゃ寂しいだろうから、話し相手になってあげないと・・・」 「な、なに言ってんだ、こなた。約束しただろ、俺より先に死なないって。お、俺はお前を約束を破るような娘に育てた覚えはない、ぞ・・・」  そうじろうの涙腺はもう、崩壊寸前になっていた。 「ごめんねお父さん、親不幸な娘で・・・。あ、そうだ。」  そう言うとこなたはそばにあった自分のバックを取り、その中からなにかを探していた。取り出したのは小さな箱だった。そうじろうはその箱に見覚えがあった。 「こなた、それは・・・」  少し驚いたような声を出したそうじろうをよそに、こなたはその箱を男に差し出した。その箱は指輪が入っているような箱であった。男は箱を受け取り、開けてみた。その中にはやはり指輪が入っていた。それも安物の指輪ではなく、そこそこ高そうな指輪であった。 「それ、お父さんがお母さんにあげた結婚指輪なんだ。」 「え!?」  男は驚いてそうじろうの方を見た。そうじろうは頷くように首を縦に振った。 「私の18歳の誕生日に貰ったんだよ。あ、正確には誕生日の次の日か、バイト先でお祝いしてもらって帰った時には日付変わってたから。」 「そ、そうか・・・」 「それでさ、その指輪、お父さんがお母さんにプロポーズした時にあげたらしいんだけど、サイズ間違えてお母さんの薬指に入んなかったんだって。笑っちゃうよね。」  こなたはもう笑っていなかった。口元ですら笑っていなかった。 「元々はお父さんがずっと持っておくつもりだったらしいけど、お母さんとの思い出が全然ない私のために譲ってくれたんだ。お母さんが大切にしていたその指輪を。」  男はその指輪を見た。そんなに大切な指輪をなぜ自分に手渡したのだろうか、と考えてながら。 「それでね、私も同じことしようかな、と思ったんだ。」 「え?」 「娘も私と同じで母親との思い出がないから、せめて母親が大切にしていた物を挙げたいな、と思ったの。それが私の娘への精一杯の愛情・・・」 「こなた・・・」 「あ、自分の大切な物を渡すのって、死亡フラグ立っちゃったかな?それを言ったら“後のことを頼んである”とか“お母さんの所に行く”とかって言うのも死亡フラグかな?なんか私、死亡フラグ立てまくっちゃて」 「やめてくれ!」  男はこなたの言葉を遮るように大声を出した。指輪の箱を持っていない手はこなたのシーツを力一杯に握っていた。 「俺は、俺は・・・」 「・・・」  こなたはその握られている拳にそっと手を置いた。それによって、握られていた拳の力が緩まった。 「こな、た・・・」 「私は、お父さんに育ててもらって、かがみやつかさやみゆきさん、みさきちに峰岸さん、ゆい姉さんにゆーちゃん、みなみちゃん、ひよりん、パティ、他にもいろんな人に出会えた。すごく楽しかった。そして、君に出会って恋をした。」 「・・・」 「私は何も後悔してないよ。好きな人と一緒に居られたんだから。だから、そんな悲しそうな顔しないで。」 「こな・・・」 「私は・・・幸せだったよ。」  そう言うとこなたはニコリッと笑った。その笑顔は今まで見てきた中で一番かわいく見えた。そしてこなたはそのまま目を閉じた。 “ピーーーーーーーーーーーーーー”  そんな無情な音が病室に響いた。 「!! こなた!?」 「こなた!!」  男とそうじろうはこなたの名を呼んだ。男が動いた拍子に男に置かれていたこなたの手がベッドの下に落ちた。医師はすぐに心肺蘇生を開始した。しかし、 「ご臨終です。」  こなたはすでに息を引き取った後だった。 「こな・・・わぁぁぁぁぁあああああぁぁあああああ」  男はその場に倒れこみ、こなたに泣き付いた。 “ガタン!!”  そうじろうもまた倒れ込むように椅子に座った。手で隠した顔からは涙があふれ、病室の床を濡らしていた。 「こなたは幸せだったよって言ってくれました。でも、ときどき考えるんです。こなたは僕と出会わなければ死ぬことはなかったんじゃないかって。」 「・・・」 「僕は本当にこなたを幸せにできたのだろうか、こなたは幸せになってくれたのだろうかと・・・」  そう言うと男はうつむいたのであった。 「君はこなたと出会って、こなたと過ごして不幸だったかね?」 「そんなことはありません!!」  男は顔を上げ、かみつくように言った。 「こなたと過ごした時間も思い出もすべて僕の宝です!少なくとも、僕はこなたと出会って不幸だったなんて思いません!!」  そう、真剣に言う男に対して、そうじろうはフッと笑った。 「だったら、こなたも一緒なんじゃないかね?」 「え?」 「君がこなたと共に過ごした時間が幸せだったと言うのであれば、こなたが君と過ごした時間もまた、幸せだったはずだ。夫婦というものは楽しいことも悲しいことも一緒に得ていくものだからね。」 「・・・」 「君は幸せだった。そしてこなたも幸せだと言っていた。あいつは口は悪いが嘘を言うようなやつじゃない。まぁ、約束は破ったがな。」 「こなたは、本当に、幸せに、」  男は震えていた。 「ああ、きっとなれたさ。」  男は再び下を向いた。しかし、うつむいているわけではなかった。その目には大粒の涙があふれていた。そうじろうはそんな男の肩をポンッと叩いていた。 「あり゛がどう・・・ござ・・・いま・・・ず・・・」  男は今までの悩みを洗い流すように涙を流していた。  そうじろうは空を見上げた。その目は遠くを見つめていた。まるで何かを思い出しているように見えた。 「おじいちゃ~ん。」  娘が祖父に向かって跳び付いてきた。 「おぉおぉ、元気だな。」 「えへへ。」  その娘、こなたと同じあほ毛の付いたショートカットの娘は祖父に頭をなでられて笑っていた。ちなみに、泣き黒子は受け継がれなかったようだ。その首にはペンダントにしたかなたの、かなたとこなたの指輪が付けられていた。ペンダントといっても、チェーンを指輪に通しただけであるが。 「あれ?お父さん、泣いてるの?」  娘は父が泣いていることに気が付いた。 「いや、なんでもないよ。ちょっと目にゴミが入っただけだ。」  父はそう言いながら、涙を指で拭き取った。 「ふ~ん・・・。あ、そうだ!ねぇねぇ、おじいちゃん、今日はおじいちゃんの家に行くんだよね!!」 「ああ、おじいちゃんが昔住んでいた家にな。」 「わぁ、楽しみ!ねぇねぇ、早く行こうよ!!」 「おいおい、そんなに引っ張らないでくれ。」  娘は祖父を引っ張って歩きだした。父も立ち上がり、その後に着いていった。しかし、数歩歩いたところで立ち止まり、墓の方に振り向いた。 「こなた、俺たちは元気にやってるよ。心配いらないぜ。でも、もし俺たちを思ってくれているのなら、おまえに愛を注いでくれた父を、おまえが命を賭けて産んでくれた娘を、そして、おまえが愛してくれた男を見守っていてくれ。」  そうつぶやくと、男は墓に背を向け、歩きだした。 (わかってる。ちゃんと見守ってるよ。)  男はそんな声が聞こえたような気がして立ち止まった。そんな男の横を白い羽が後ろからフワリッと落ちてくるのが見えた。振り返り見上げてみると、そこには、青く長い髪をした小さな天使が一人、いや、二人が笑ってこちらを見ていた。男が驚いて目を擦り、再び見上げてみると、そこには誰もおらず、青い空が広がっているだけだった。 「・・・」  男は呆然としていたが、不意にクスリッと笑った。 「お父さ~ん、早く早く!!」  そんな娘の声が聞こえ、男は振り向いた。 「ああ、今行くよ。」  そう言うと再び歩きだすのであった。 (ありがとな、こなた。)  ~おわり~

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